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学生たちとあめあめキラキラ、七夕星
掲示板
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質問卓
最終発言2017/07/04 11:48:37 -
相談卓
最終発言2017/07/04 22:32:17 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/07/05 18:30:49
オープニング
●送り梅雨
梅の実が熟しまた潰れる頃、訪れる雨の季節。
そんな梅雨が明けに近づいた紫峰翁大學ではぽろぽろとあめが降るという事件が起こった。
カフェテリアで課題を広げていたアーサー・エイドリアンはその気配を感じて席を立とうとした。
──ばん!
ノートの上に勢いよく手を着いたのは同級生かつ、ライバルの学生ヒーロー組織アシスト・シーンのリーダー、灰墨 こころである。
「人はなぜ落ちてしまうのか──、それは、這い上がるためなのよ」
「……また、課題落としたのか」
「まだ違います」
こころは神妙な面持ちでアーサーのペンケースを掴んだ。
「わたし、考えたのよ。なぜ、いつもH.O.P.E.のエージェントに勝つことができないのか」
「ペンケース返せ」
「アーサー、あなたバイトでH.O.P.E.の依頼を受けることもあるんでしょう?」
「そりゃ、授業や他のバイトの合間で依頼料が良ければ」
「ならば、あなただってH.O.P.E.のエージェントと言える! だったら、わたしたちが負けた理由は学生だからじゃない。小学生や幼稚園生のエージェントだているのだし」
「積んだ経験が違うってだけだろ……」
「そう! たまたま経験が違う、そんなエージェントたちが集まっただけ。だから、わたしは思ったの。経験で勝てないなら──
我々学生ヒーローの持つ正義への熱い心で勝つしかないと」
「前期試験の前に何──」
そこで、アーサーはこころの背後、大学の上空に広がるそれに気付いた。
見渡す限りの空が銀色に輝いている。
それは、梅雨の時期によく発生を報告される従魔タゲレオ……の亜種の姿であった。
タゲレオ自体は銀のプレート型で複数の個体がぴっちりと空を覆い映った生物のライヴスを少しずつ奪う従魔なのだが、ここ紫峰翁大學に現れたタゲレオは亜種らしく、少々形が歪で個体同士がぴったりとくっつくことは無かった。それゆえに鏡面に対象の姿をうまく映すことができず、ライヴスの吸収もあまりうまくいっていないようであった。
以前大量発生した時はライヴスを込めたロケットランチャーで破壊したらしいのだが、今回、それができない理由がある。
ちょうどよく、空からソレが零れ落ちた。
「……まあ、アレが無くならないとお前ら試験どころじゃないもんな」
アーサーは、硬い音を立ててテーブルに落ちて来た澄んだ赤色の飴玉を頬張った。
紫峰翁大學の上空にはこれを生み出す操縦不能のドローンが浮いている。
元々は梅雨の果てない雑草取りに嫌気が差したA.S.が作り出した除草マシーンだったのだが。
「塩の結晶を撒くなんて恐ろしいことをしようとするからだ」
「違うわ! 『さっぱりキラキラくん』が排出する結晶は塩を元にしているけどAGWを使って雑草だけに効き、数日で効果と共に溶けて消える除草剤の予定だったのよ!」
しかし、それは失敗し、あろうことか制作途中に塩と砂糖を間違えたというミスも重なってドローンは暴走、大量の飴玉もしくは氷菓子を排出するロボットへと変化を遂げた。
……それだけならばいつもの失敗なのだが、運悪く湧いて出たタゲレオによって事態は悪化した。
上空で飴玉を大量排出するキラキラくん、現在、飴玉の重みで動けないタゲレオ、大量の飴玉が一気に学園内に降り注いだ被害を警戒してタゲレオの退治をできない学園側、遅れた課題の罰として団体責任で奉仕作業をしていたはずが現在それ以上の罰を受けそうになっているアシスト・シーン……。
状況は芳しくなかった。
だが、そんなことは関係ないとばかりにアーサーは言った。
「甘さが足りな──あっ! やめろ!!」
グシャっと布製のペンケースを握りしめたこころは言った。
「七夕祭りの花火大会参加券!」
「──そうだな、灰墨。完璧な人間なんて一人もいないんだ。互いに支えあって生きていくのが人生ゲームだ!」
「ヒーロー集結よ!」
●射的ゲーム
オペレーターは大学を通しての依頼書を読み上げた。
「今回の依頼は、学生リンカーたちとの射的ゲームになります。
対象は紫峰翁大學上空に大量発生している従魔タゲレオ。一体のサイズは名刺程度ですが、形が様々です。
これをより多く撃ち落とした方が勝ちとなります。
ただし、広範囲を破壊する武器・スキルの使用は禁止です。
さらに、現在、なぜかタゲレオの上に大量の飴玉が山積しており、広範囲で一気に壊した場合、地上に施設に影響が出ると思われるので気を付けてください」
紫峰翁大學の学生たちによると、従魔タゲレオは強度があるという。そこで、ある程度間隔を空けて少しずつ破壊すれば、山積する飴玉を地上の施設に影響のない量を少しずつ地上に落とすことが可能であるという。
「上空の飴玉が危険の無い量になった時には公平に全員に放送で通知するそうなので、その後、一気にタゲレオを破壊して欲しいそうです」
●紫峰翁大學事務局より提供のあった学生データ
「毎度お世話になっております。
こちらで回復致しますので、共鳴済の能力者の学生については重傷レベルまではお仕置きしてくださって結構です。
灰墨こころに関しては多少の怪我は認めますが、非リンカーの為、手加減をお願い致します。
また、いつもうちの学生たちの面倒を見て頂き、ありがとうございます。
以下が当校の学生ヒーロー組織の概要です」
〇アシスト・シーン(A.S.)assist scene
リーダー:灰墨 こころ(az0086))
灰墨が申請して作った、大学の支援を受ける最新鋭の設備を持った組織。各学部の秀才も多く在籍する。
リンカーもリンカー以外も在籍し、AGWの研究なども行っている。
勉学を実践できることが楽しくて意外にも単位を落としたりレポートの締め切りに追われる学生も多いが、課外活動として評価されているので留年まで追い詰められる生徒はまれである。
〇ヒーロー組織:C.E.R.(クリムゾン・イーグル・レンジャー)crimson eagle ranger
リーダー:アーサー・エイドリアン(az0089)
部室のひとつを使って、アーサーが個人的に組織した同好会扱いの組織。A.S.を真似て作り、リンカーのみが在籍する。
アーサーが計画性のある性格をしているため、本業である学業に無理のない範囲でシフトを作り活動をしている。
資金を稼ぐ為に依頼を請け負うこともある。
※紫峰翁大學(しほうおうだいがく)
茨城県つくば市にある日本で二番目に広大な連続した敷地を持つ大学
日本有数の難関大学で広大な敷地内は居住区どころか商業施設も内包しており、周辺は『紫峰翁学園都市』の二つ名で呼ばれている。
ただし、設備や道路の増設を重ねた為に迷路のようになっており人知れぬ研究施設があったり迷子になったりする。
解説
目的:大学に被害を出さずに従魔タゲレオを倒す
(学生リンカーとの勝負の勝敗は成功度に含めない)
●ステージ:紫峰翁大學カフェテリア周辺
校舎はそれぞれ四階建て
□カフェテリア(1F)□
□ □
校 中庭 校
舎 舎
□ □
●キラキラくん
飴玉を吐き出しながら上空を飛ぶドローン型ロボット。
タゲレオをすべて破壊するとA.S.によりコントロールが可能になる。
飴玉は大きさは違うがほぼ市販ののどあめの平均サイズ・重さ。
僅かにライヴスを含み、数日で溶けて消える。
●タイムスケジュール
午後:射的ゲーム(従魔退治)→夕方:学生リンカーたちによる七夕会(笹・短冊あります)→夜:ささやかな花火大会
※七夕・花火大会はエージェントの参加OKです
●登場
・A.S.およびC.E.R.(参加人数???)
灰墨こころはカフェテリアのオープンテラスで、中庭内を走り回る四人のジャックポットに対して指示を出す。
アーサーは三人のメンバーと共にエージェントたちの前を走って、仲間と共に銃でタゲレオを壊す。
・従魔タゲレオα:物防:ミーレス級D程度、回避力:0、使用武器・スキル:射程18以上、数??
タゲレオの亜種。一体は名刺サイズだが、大量に集まり大学の上空を覆っている。
ちょっと形が歪で他の個体と並んでもきちんと噛み合わない。しばらくライヴスを摂取してないのでかなり弱っている。
※タゲレオ自体の特性:銀のプレート型従魔。映った生物のライヴスを少しずつ奪う。
スキルも効くが、今回の方法がより効率的に駆除できる。
ライヴスが多くある場所に沸きやすい、梅雨時期によく発生するのでは?という噂がある。
リプレイ
●空からアメ漏り
今年の梅雨は蒸し暑い。風の無い今日はまるで湯の中を歩くようだ。
汗を流しながら大学の構内を歩いていくと、ふっと日が翳る。
「お? タグレオまた出たのかー。夏の風物詩って感じするな」
重苦しい空と対照的に、カラッとした口調で呑気に空を見上げる虎噛 千颯(aa0123)。隣を歩いていた白虎丸(aa0123hero001)が相棒を諫める。
「何を呑気な事を言っているでござるか。今は大変な状況でござろう」
見上げた先には日差しを遮るタゲレオの集団が銀傘のように空を覆っている。
銀板の合間から光を反射して糸のように落ちて来た小さな破片たちを、羽跡久院 小恋路(aa4907)は翳した掌で受け取った。美しい、赤く澄んだ結晶。尖った棘のような形のそれがいくつか転がる。
見当をつけてひとつ摘まんで頬張ると、それは予想通り舌の上で溶ける甘いキャンディーであった。
「ふふっ、なんだか面白そうねレチュア♪」
優しく鎖を引き、首輪を着けた魔銃 レチュア(aa4989)の唇へ欠片と乗せる小恋路。すると、レチュアはぱあっと顔を輝かせた。
「美味しいのだ!」
小恋路は、目をきらきらとさせた愛しのペット、レチュアの姿に顔をほころばせる。
甘い一口を楽しみながら、レチュアは張り切っていた。
「お姉様にいいところ見せるのだ!」
彼女の背後で青色の半透明の魔獣 レチュア(aa4989hero001)が頷く。
「お、居た居た」
事前に学園側に連絡を取って詳細を確認していた千颯は、すぐに大荷物と共に待機する学生たちに気付いた。
「来たわね! 今日こそは我らが正義の力を示してあげる」
右手を腰に当て、もう片手で赤い傘持った灰墨こころがエージェント達を出迎える。
こころの前に元気な少女が躍り出た。
「テール・プロミーズ学園代表、ウィリディスでーす!」
明るい表情を囲う緑の髪が跳ねる。月鏡 由利菜(aa0873)の英雄、ウィリディス(aa0873hero002)だ。
「今日はリーヴスラシルさんと一緒じゃないんですね」
どこか残念そうなアーサー・エイドリアンに由利菜が答えるより早く、ウィリディスが答えた。
「先生はちょっと考え事しててね~、今日は代わりにあたしが来たよ」
「まあウィリディスさんでも手加減はしませんけどね」
志賀谷 京子(aa0150)とアリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)が抱えた気泡緩衝材を下ろす。次いで他のエージェントたちも持ち寄った緩衝材をどさどさと置いた。
「お喋りもいいけど、落下する飴玉対策に先に保護しちゃいましょ? 壊れちゃ困るのそちらでしょ」
そんな京子たちをこころが制する。
「お気遣いありがとう。でも、この広い場所を全部覆うのは大変な量が必要だし、わざわざ来て頂いたのに緩衝材まで提供して貰うのは心苦しいわ。そういうのは大学で用意したから、申し訳ないけど養生だけ手伝ってもらっていいしら」
「構いませんよ。元々お手伝いはするつもりですから」
両手に緩衝材を抱えた辺是 落児(aa0281)と、抱えた緩衝材を幻想蝶へと仕舞う構築の魔女(aa0281hero001)。
そして、ファリン(aa3137)も緩衝材を広げ始めたダイ・ゾン(aa3137hero002)に待ったをかける。
ぞろぞろと大勢の男女──おそらくA.S.の学生たちが大量の緩衝材やらマットやら板などを運び込んで来た。
「こんなことまでお手伝いさせてすみませんー」
「代わりに、コレが済んだらA.S.の七夕会にご招待するわね」
こころが発した七夕会、の単語にペタペタと窓ガラスに緩衝材を貼っていた匂坂 紙姫(aa3593hero001)がテンションを上げる。
「お祭りっ!」
「メインはそっちじゃないですから」
キース=ロロッカ(aa3593)はパートナーの様子に苦笑しながら、紙姫に言われるがままプレゼントボックスを設置していた。
「これでよし、ですね。ファリン、そちらを手伝いましょうか」
設置を終えたキースは、割れやすいタイルなどに丁寧に緩衝材を張る友人に声をかける。
「ありがとうございます。おじ様は植木鉢を屋内へお願い致しますわ」
一足早くファリンの下へ駆け寄った紙姫が浮き上がった緩衝材を抑える。
「我らが正義、替天行道。この場合の正義ってなァ、学生を無事進級させる事じゃねェかな」
「あら、留年すれば、他人より一年長く勉強できるメリットもございますわ」
鉢を移動させながらそんなことを呟くダイ・ゾンへファリンがサラリと答え、作業をしていたA.S.の学生たちが胸を抑えて小さく蹲る。
「──お、お気遣いありがとうと言っておくわね」
クリティカルヒット。ダメージを隠して答えたこころの声は僅かに震えていた。
身体能力の高いリンカーたちの作業によって作業はだいぶ早く終わった。
軽く汗を拭うと、千颯がにっと笑った。
「んじゃまぁ、糞餓鬼共には社会の厳しさを教えてやんぜ~、遠慮しねぇでかかって来いよ」
「クソガ……オジサンには負けないので!」
胸を張りながらもカフェテリアへと後退するこころ。俄然ヤル気を出す学生たち。ため息をつく白虎丸。
「大人気なさすぎでござる……」
「ガチ装備じゃないだけ全然良心的じゃん!!」
「普段と変わってないでござるよ……」
畳んだ赤い傘をパンと勢いよく差して、こころはヘッドセット型通信機をオンにした。
「ガチで結構、我々学生ヒーローの持つ正義への熱い心で今日は勝つ!」
それがゲーム開始の合図であった。
●開戦
ファリンと共鳴し白い兎の獣人態に変化したダイ・ゾンは校舎屋上のドアを開け、ぐっと近くなったタグレオたちを一瞥した。
「出て来な」
《鷹の目》によるライヴスの鷹が舞い上がる。
「飴は中庭に落とす。タゲレオ中央を狙えば、たとえ中央がすり鉢状になってようが一気に落ちてこねェだろ──と思うんだがなァ」
『板状に密集する性質から、穴が開けばそこを塞ごうとするかもしれませんわね』
旋回した鷹がタゲレオの上空を飛ぶ。
「予想の範囲内かねェ」
タゲレオの上に山積した飴玉はすり鉢状とまでは行かなかったが、中央に向かって僅かに歪んではいた。
それより、量だ。
かなりの量がタゲレオの上に山積し、太陽の光をギラギラと反射していた。
「こりゃあ、適当に破壊してたら大惨事だなァ」
ライヴス通信機「雫」を取り出す。
『動画は撮りますの?』
「飴玉の様子が撮れたら最高だったんだが鷹の目じゃ難しいしな」
ダイ・ゾンの連絡を受けたキースの横で、紙姫の頭にコツンと飴玉が落ちる。
「これが例の飴玉ですね」
弾んだ飴玉を掴み取ったキース。紙姫がじゅるりと涎を垂らさんばかりにそれを見つめる。
「おいしそ~だよ!」
「食い意地張りすぎでは……」
共鳴したキースはダイ・ゾンの情報を元にアタリを付ける。
「あの辺でしょうか」
キースの《トリオ》によって三ヶ所、重さで歪んだ銀板が砕けた。多めの飴玉が崩れるように落ち、いくつかがプレゼントボックスの中で跳ねた。
カフェテリアの前、タグレオの真下中央に陣取ったのは京子とアリッサ、落児と構築の魔女だ。
「京子さんにアリッサさん、今日はよろしくお願いしますね」
「魔女どの、こちらこそよろしく」
構築の魔女へアリッサが応え、京子が笑みを浮かべた。
「共闘は久しぶりだけどさ、腕が鈍ってないとこ見せたげるよ」
「……ロ…ロ、……」
落児の言葉に構築の魔女は笑って頷いた。
「ふふっ、お二人と一緒だと心躍りますね」
二組のエージェントたちは互いに背中を預ける。
ライヴスの蝶が散った後に立つのは二人のジャックポット。数多の激戦を共にした信頼する対なる戦友。
「……私達の本領を見せてさしあげましょう」
「1+1が2じゃ収まらないってこと教えてあげなきゃね」
構築の魔女、京子の、シンクロ・バレットたちの銃口が火を噴いた。
ダイ・ゾンからの連絡で見当をつけた銀板の中央へ、二人の《トリオ》が等間隔に穴を開ける。
「出来た隙間に従魔が寄ってきてくれればいいのですが……」
少し飴玉が減ったくらいでは従魔たちはまだ身動きが取れないらしい。
構築の魔女の37mmAGC「メルカバ」と京子の3.7mmAGC「アルパカ」が次の獲物を狙う。
中庭で弓を構えようとした由利菜は、目の前に現れたアーサーに気付いた。
「……私達は、あくまでも従魔による被害を極力出さないことを優先して行動させて頂きます」
「ウィリディスさんはバトルメディックなんですね」
聖女の姿を見て、少し残念そうな顔をしたアーサーは由利菜の脇を通り過ぎた。
「リディス……A.S.やC.E.R.の方々は、何をしでかすか分かりません。注意して下さい」
『あらあら……関連する報告書を幾つか見させて頂きましたけれど、A.S.やC.E.R.は正義への憧れが強い方々の集まりなのですねぇ』
「今回は直接戦うことも無いとは思うのですが」
英傑と認められた人間しか扱えない洋弓ガーンデーヴァ。そこから放たれた矢が銀板を射貫くと煌めきが糸のように落下していく。
──ガツッ。
「さぁ、好きなだけ頑張って頂戴♪」
小恋路がGVW『ワールドクリエーター』を地面に突き立てると、周囲に能力を高めるドロップゾーンに似た空間が広がった。
「やっぱり、お姉さん射的は苦手だけど……閉じ込めるのなら得意わよ♪」
女王を連想するドレスの裾を揺らして、ゆったりと小恋路が振り返る。
「うん、レチュア頑張るのだ!」
彼女と鎖で繋がった首輪を弄りながら、共鳴したレチュアが張り切って魔導銃50AEをぶっ放す。
バリン、弾けたタゲレオと輝きながら落ちる飴玉。
「銃の扱いなら任せるのだ! 一位はもらっちゃうのだ!」
小恋路の檻の中で力を得て、早撃ちのように次々へと目標を狙うレチュア。
LSR-M110でタゲレオを狙っていた小恋路は《インタラプトシールド》で透明な棺状の盾、「あなたの美しさは変わらない」を召喚し、レチュアが撃ち落とした飴玉を受け止める。更に【SW(盾)】リフレックスも使い、落ちた飴玉をタゲレオに反射しようと試みたが、残念ながらそれは飴玉自身が弾けて微細な輝きに変わっただけだった。
そして、千颯はというと《ライヴスフィールド》を展開した。
対象はタゲレオと学生リンカーたちだ。
「なっ!?」
タゲレオを狙って攻撃していた学生リンカーが声を上げる。
「ヤル気か!」
「あっ、バカ! そいつは」
喧嘩っ早いA.S.のジャックポットが銃弾を放つが、千颯はそれを難なく避ける。彼を止めようとしたもう一人の学生リンカーは千颯の実力を知っているのだろう。先走った仲間の腕を掴んで逃げようとした。
「うへへへー! 学校側からの許可は出てんだ! 楽しい楽しいお仕置きターイム!」
嬉々として豪炎槍「イフリート」を素振りする千颯。
「社会の厳しさを教えてあげないとなー」
『千颯……お前ただ学徒を殴りたいだけでござろう……大の大人が嘆かわしいでござる……』
「違いますー! 今回の件だって元はといえばガキ共の不祥事だろ? 学生だからって許される事と許されねぇ事があるって身をもって教えてるだけなんだぜ! 俺ちゃん、やさしー!」
追跡する千颯に共鳴した白虎丸が淡々と問う。
『で、本音は? でござる』
「なんか生意気だからぶん殴りたい?」
『……千颯、後で話があるでござる』
「後でな!」
「げっ、来た!」
ガツーン! 追いついた千颯の一撃で学生たちが景気よく吹っ飛んだ。
「次、行きます」
発砲、反動の後、京子と構築の魔女の砲弾は消えた。
タイミングを合わせた《テレポートショット》。
建物に近い場所に現われた砲弾はタゲレオを斜めに撃ち抜いた。建物から中庭中央への斜めのスロープ……薄い銀板ではあったが、砲弾の勢いもあってザッと勢いよく飴玉が中庭へ吹き出した。
「まずいな」
メンバーに命令を出していたアーサーが眉をひそめる。チラリと振り返れば、こころも渋面で頷いた。
「このままじゃ、計画より先に勝敗がつく──その前に」
アーサーが指を動かすと、C.E.R.、そして、A.S.のリンカーたちが動いた。
●集中攻撃
屋上でタゲレオを狙っていたダイ・ゾンが気配を察知して振り返る。
「あんまりおふざけが過ぎりゃ、お前さんがたの単位もさっぱりキラキラだぜ。真面目にやるこったな」
「うっ!」
ダイ・ゾンの《縫止》と、メンタルへのダメージで動きが鈍る学生リンカー。
それ幸いにとダイ・ゾンは脱兎のごとく屋上を逃げ、校舎の壁を伝って窓の中へ飛び込もうと──。
「ん?」
窓際でさっと人影が動いた。
「スポーツマンシップって大事だよね」
自分たちに攻撃を仕掛けた学生リンカーに笑いかける京子。
思わず縮こまったジャックポットたちの目の前で、彼女は銃口を空へと向けた。
「──え」
美しい姿勢で放たれた一撃は銀板へと吸い込まれた。
「どう効率的に飴玉を落としていくか、それを考えないと。
みんなも早く派手にやりたいでしょう?」
その姿勢に思わず見惚れた学生リンカーたちは、頬を紅潮させて先輩ジャックポットに教えを乞う。
それを微笑ましく見守っていた構築の魔女だったが、さっと一撃を放つ。
「見えるならば、私達の手が届かない場所はありませんよ?」
正確な狙いで頭上ぎりぎりを掠めた弾丸に、C.E.R.のシャドウルーカーはしおしおと撤退した。
学生リンカーたちの攻撃を避けるキース。共鳴した紙姫が叫ぶ。
『飴玉集めの邪魔はダメだよ!』
「だから、それが目的じゃないって……!」
彼らにとっては戦闘というほどではないそれを軽くあしらっていると、ライヴス通信機が鳴った。
自分の一撃を難なく避けた由利菜にアーサーが感嘆する。
「さすが、月鏡さん」
「目的が違うのでは」
抗議しようとした由利菜だったが、共鳴したウィリディスの台詞に言葉が止まる。
『名誉目当てに我が眼前を這いずり回る蛆虫共が正義を語る? ……笑わせるわねぇ』
ゾクリ。
嫌な感覚が背筋を走る。
──え……!? リディスがこんな口調で話すなんて初めて……。
アーサーの攻撃を避けて距離を取りながら、由利菜は混乱する。
──この話し方は聞き覚えがあります。だけどあの愚神は、既にこの世からいないはずなのに……!
脳裏に過るは親友を奪った因縁の敵──彼女の目が見開かれる。手に持ったガーンデーヴァが、一瞬、曇ったように見えた。
『ユリナ!』
ウィリディスの警告。隙を狙ったアーサーの一撃をギリギリで躱す由利菜。慌ててガーンデーヴァに変化がないことを確認した後、雷神槍「ユピテル」へと持ち替える。
「轟け、トニトルス!」
由利菜の一撃を剣で受けたアーサーだったが、競り負けて背中から路面を滑る。
『飴玉が減ったわ、範囲攻撃の制限を解除します!』
拡声器を持ったこころが叫ぶ。
エージェントたちが空を見上げるのと同時に、ガラリと各校舎の窓が開いた。
「さあ、A.S.よ、Commence fire!」
こころの号令で学生リンカーたちが一斉にタゲレオへ銃口を合わせた。
「勝っ──」
「行きます!」
誇らしげにこころが勝利宣言しようとしたその時、キースの声が響いた。察知したエージェントたちは即座に目を覆う。
破裂する閃光弾《フラッシュバン》。
光に目を眩ませた学生たちに代わり、エージェントが武器を構える。
「─―最後は派手に行こうか」
オートマチック「グラセウールIS000」に持ち替えた京子の指が冷たい引き金を引く。
ほぼ同時に構築の魔女の大量のライヴスを集積した弾丸《アハトアハト》が銀板に炸裂し、京子の《バレットストーム》による脅威の弾丸がすべてのタゲレオを打ち砕いた。
砕けた銀の光が輝く雲のように空に広がり、直後に眩い初夏の太陽の光と数の減った半透明の結晶の雨がその場に降り注いだ。
「えっへん! レチュアいっぱい倒したよ! ほめてーなのだー♪」
レチュアは子犬のように小恋路の下へ駆けていく。
「よく頑張ったわねぇ、偉いわレチュア♪」
ぎゅっと胸に抱き締めて、よしよしと力いっぱい可愛がる小恋路。
「えへへーお姉様~♪」
幸せそうに眼を細めるレチュア。
「ゾーエ・ヒュエトス! ……正しき道を追求するリンカーなのは、皆同じですから」
「すみません、ありがとうございます」
学生たちも回復する由利菜に、悪びれず頭を下げ礼を述べるアーサー。
ガシャン! A.S.の操作で元凶のキラキラくんが不時着する。
「暴走の原因は従魔に電波が遮られたからとかでしょうか?」
興味深げにそれを見る構築の魔女に、ラボコートを着たA.S.の学生が頷いて長々と語り始める。
「とりあえず、差しあたっての脅威は排除されたんですかね」
共鳴を解いたキースが手を振ると、校舎の窓の一つからダイ・ゾンとファリンが手を振り返した。
「こころさんが、きっついお説教を受ける以外は、きっとね」
飴玉を頬張り、程よい甘さに破顔する紙姫。
「さて、こころちゃん、物事には責任が発生する事位は十分承知だよな?」
太陽の下、ずらりと石畳に並んで正座する学生リンカーたちと、その前に立つ千颯。
「今回は学園で対応出来る範囲だったから良かったけど、これが学園で対応出来ない範囲。ましては今回の件で誰かが傷ついたら君たちはどう責任を取るのかな?」
一番前で説教を受けるこころの頬がぷくっと膨らむ。それを見た千颯は、しゃがんで目線を合わせると厳しい顔でこころに問う。
「学生だからって何でも許さる訳じゃない、君は子どもを危険に晒してもいいのか?」
「だって……」
いくつもの戦場を潜ったリンカーであり親でもある千颯の持つ迫力に、こころは目を反らした。
「千颯……それは言い過ぎなのでは……」
「白虎ちゃんは黙ってて、こういうのはちゃんとしないと駄目なんだぜ。ちゃんと大人が叱らないと」
「それでも余り厳しい事を言っては、このあとの七夕が楽しめないでござるよ?」
「それはそれ、これはこれ。確り反省すればその後はちゃんとやるべき事がわかるってもんだ! な?」
逡巡してから、顔を真っ赤にしたこころは「ごめんなさい!」と叫んだ。
●七夕祭
飴玉を片付け終え、中庭の中央に笹を立てる頃には陽も沈み始めていた。
人間形態のファリンは紙姫と共に持参した浴衣に着替えてキースを囲んでいた。上品な牡丹柄のファリンとパステルカラーの紫陽花柄の浴衣を着た紙姫は男物の浴衣を抱えている。
「華奢な人間にこういう浴衣は似合わないと思うんですよ」
「せっかくのお祭りですのよ! 楽しまなくてどうするというのですか」
ファリンに無理矢理着せられそうになり、しぶしぶと自分で着替えることを了承するキース。
彼が着替えている間にファリンたちは学生の作った屋台へお邪魔する。
「わたくしたちも参加してもよろしいでしょうか? フルーツを持ってきましたの。こころ様もどうぞ」
「私も紅茶を持って来たので、ぜひ」
フルーツ持参のファリンと紙姫、紅茶を持って来た由利菜とウィリディス、料理好きのこころや学生たちとフルーツ飴作りが始まった。
「あたし、苺もいいと思うよー」
いつもの溌剌さで学生たちに混じるウィリディス。それを見て、学生たちが彼女の変化に気付かなかったことにほっと胸を撫で下ろす由利菜。
──リディスを構成する魂には、負の側面も含まれるのかもしれません。……それでも私は……彼女を信じたい。
「ユリナ、はい!」
突然口にブドウ飴を放り込まれてきょとんとする由利菜。
「綿あめと焼きそばしか用意してなかったけど、楽しいわね」
ニコニコと飴を溶かすこころ。
「あんま~い♪」
リンゴ飴を作った紙姫は満足そうにそれを齧る。
「このために飴玉を回収したんですね……」
着替えたキースが呆れたように空になったプレゼントボックスを覗いた。
「似合いますわ」
「ありがとうございます……どうせなら、皆で色々見て周りませんか?」
「良かったら、短冊、書いて行ってね!」
短冊を押し付けて、こころが笑った。
「京子さんとアリッサさんはもうお願い決めましたか?」
『今年も一年、楽しい日々でありますように』と書いた短冊を見せる構築の魔女へ、京子とアリッサが並んで短冊を持つ。
『また一年間、楽しいことをたくさん見つけられますように』
『京子がもう少し大人になりますように』
苦笑する構築の魔女にしれっと肩をすくめてみせるアリッサ。
相棒の短冊は見ないふりをした京子は自分と構築の魔女の短冊を見比べた。
「──あ、お揃いみたい」
「あら、ほんとお揃いみたいね」
それから、思い出したように構築の魔女はもう一枚の短冊を取り出した。
「ちなみにこれが落児の分ね」
「……ロー……?」
そこには、落児の字を真似て『友人を作る』と書かれていた。
吹き出す京子。
「……ロ……!?」
「ちょ、ちょっとツボに来ちゃった……」
唖然としたアリッサだったが、すぐにふたりが敬意を払うこのミステリアスな青年に願った。
「──辺是さんも強く生きてください」
筆を手に唸る白虎丸。
「やはり今年も、千颯がまめに働きますように……でござるか」
「俺ちゃんは白虎ちゃんときぼうさちゃんの公認コラボあたりを」
真面目に短冊の文面を考える白虎丸と、揶揄う千颯。
『こころさんと一緒にいれますように』
一方で、へたくそな字で書かれた短冊を見たレチュアは少し考え、『だいすきなお姉様とずっと一緒にいれますように』と書いた短冊を吊るした。
「おかえりなさい♪」
戻ったレチュアをぎゅっと抱きしめる小恋路。それから、さっき学生から貰ったキラキラくんの飴玉をひとつ、レチュアの口へ放り込む。
「あまいの!」
嬉しそうにレチュアも小恋路へ飴玉を差し出すと、彼女もそれを頬張って微笑んだ。
「七夕ってあれでしょ。七夕乞巧節」
「わたくしの実家では、裁縫の上達を願う日でしたわ。日本ではどうなのでしょう」
古い中国文化での価値観を持つファリンとダイ・ゾン。特に家柄の良いファリンは七夕を裁縫技芸の上達を願う伝統習俗として行っていたので、願い事に悩んでいた。
「日本では何を願ってもいいんですよ」
笹のあちこちから覗く進級・就職の短冊を見ながらキースが教える。
「では」
『皆さまが健康であられますように』と書いた短冊をファリンが吊るせば、並んで『紙姫のおやつを食べる量がもう少し減りますように』『キース君がもう少しおやつを沢山買ってきてくれますように』と書かれた短冊が揺れた。
「たーまやー!」
千颯と学生たちによって家庭用の打ち上げ花火や連発花火に次々と火が点けられた。
「ユリナ、手持ち花火配ってるよ!」
ウィリディスに手を引かれる由利菜。
「きゃー!」
持参した花火セット「動」のねずみ花火に追い回される紙姫。
「何してんですかねあの子……?」
手持ち花火を持ちながら英雄を目で追うキースと、新しい手持ち花火を吟味するファリン。
同じく持参の花火セット「静」から線香花火を取り出した構築の魔女は繊細な美しさを楽しむ。
「大輪のもいいですが静かなのもいいものですね」
「細やかな輝きも美しいもの」
「どちらもあるからこそ、より美しく感じるのでしょう」
京子とアリッサもひそやかに弾ける細い光を眺める。
仲良く身を寄せ合って、それを眺める小恋路とレチュア。
「明日二日酔いになりませんように……ってな」
酒を手に入れたダイ・ゾンは短冊を吊るすと、花火と浴衣女子たちを肴に飲み始めた。