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HOT&ICEフェアatスイートパーク

高庭ぺん銀

形態
ショートEX
難易度
易しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2017/07/16 20:06

掲示板

オープニング

●夏のフェア開催中
 スイートパーク。古今東西のスイーツを楽しむことができる屋内型テーマパークである。
「オリジナルのパフェ作りはいかがですか~? 限定の具材もお試しくださ~い!」
「夏限定、お好きな具材でフローズンドリンクが作れますよ!」
「こちらは屋台エリア! 夏と言えばカレー! 甘口も辛口もご用意してま~す」
「金芽堂から出張しております。当店自慢の水ようかんとクリームあんみつ。ぜひ一度ご賞味くださいませ」
 盛んな呼び込みの声が聞こえるだろうか。スイーツ好きたちの歓喜の声が聞こえるだろうか。
 今日だけは過酷な任務を忘れて、スイーツに溺れてみようではないか。恋人と、友人と、家族と、そして大事な相棒と――。
 どんなスイーツだってお任せ! スイーツが苦手な方は屋台メシでお出迎えします! 『スイートパーク』にいらっしゃいませ!

●館内説明
 只今「HOT&ICEフェア」を開催中。冷たいスイーツと辛いフードに力を入れている。

1パフェエリア
 目玉はオリジナルパフェ作り。調理スペースで好きな具材を入れたパフェを製作できます。具材はカット済なので、お子様にもオススメです。容器は小さめなので数種類作って食べ比べもできます! 定番のいちご、チョコバナナ、フルーツのパフェを注文することもできます。こちらはスタッフがお作りしますので、料理に自信がない方も安心です。

・具材例:いちご、バナナ、桃、栗、パイン、マンゴー、白玉、あんこ、ミニシュー、ウエハース……その他いろいろ!
・クリーム&ソース例:生クリーム、チョコクリーム、イチゴクリーム、抹茶クリーム、チョコソース、キャラメルソース、黒蜜、きなこ……その他いろいろ!
・アイス例:バニラ、チョコ、ストロベリー、ミント、チョコチップ、抹茶など常時30種類以上!
・おすすめ具材(いずれも夏季限定):クラッシュゼリー(オレンジ、レモン、いちご)、角切り寒天ゼリー(牛乳、抹茶ミルク、りんご、ぶどう)、甘夏ジュレソース、、レモン風味生クリーム、フローズンヨーグルト、スイカアイス、ココナッツアイス、ライチアイス、グァバアイス

調理例:
『和の夏パフェ・翡翠』
(下から)コーンフレーク+生クリーム+あんこ+白玉&抹茶寒天ゼリー+バニラアイス&ほうじ茶アイス+生クリーム&ウエハース&黒蜜
『洋の夏パフェ・Sun』
(下から)クラッシュレモンゼリー+レモン生クリーム+オレンジ&白桃+フローズンヨーグルト&マンゴー&ブルーベリー&ミント
『フルーツポンチ』
 寒天ゼリー(牛乳、りんご、ぶどう)+シロップ+桃+パイン+みかん+洋なし


2クレープエリア
 クレープはスタッフがお焼きします。ご希望があればスタッフが好きな具材を包みますが、自分で材料を包むのも楽しいのでオススメ。調理台とカット済みの具材があります。アイスクレープ、おかずクレープの具材も充実。

・具材例:パフェエリアを参照
・おかず具材例:レタス、トマト、きゅうり、ハム、ウインナー、鳥の照り焼き、ゆで卵、ツナ……その他いろいろ!
・おすすめ具材(いずれも夏季限定):タンドリーチキン、サーモンマリネ、スイートチリソース、デスソース


3ケーキエリア
 一口サイズのケーキをビュッフェ形式で食べ放題!
ケーキ例:苺のショートケーキ、チーズケーキ(スフレ、ベイクド、レア)、チョコレートケーキ、ティラミス、抹茶ムース、紅茶シフォン、さつまいものケーキ、アップルパイ、かぼちゃタルト、マスカットのタルト、モンブラン……その他いろいろ!

※バースデーなどのお祝いケーキは事前か入場時に要予約。サプライズ演出も協力いたします。


4チョコフォンデュコーナー
 大きなチョコレートファウンテンをご用意! 立食形式でお召し上がりください。

☆フローズンドリンク(夏季限定)
 凍らせた果物&牛乳やジュースをミキサーにかけ、フローズンドリンクが作れます。
調理例:
ベリー×3(いちご+ラズベリー+ブルーベリー+牛乳)
南国気分♪(バナナ+マンゴー+パインジュース)
ソルティドッグ(グレープフルーツ+グレープフルーツジュース+塩少々)※ノンアルコール


5屋台エリア
 デパートの物産展のような雰囲気で、様々なスイーツを味わえます。人気店からの出張もあり。
 団子、マカロン、クッキー、チョコレート、シュークリーム、ワッフルなど多数出店。たこやき、やきそば、お好み焼き、ポテト、唐揚げ、焼き鳥などの屋台飯も。

※HOT&ICEフェアに合わせて、カレー、麻婆豆腐丼、豚キムチ焼きそば、冷やし中華、シューアイス、冷凍みかん、水ようかんなども登場。


☆カップルシートについて☆
店内に数か所、カップルシートをご用意しております。ショッキングピンクのハート型の背もたれで注目されること間違いなし。ちょっと狭めのシートで、恋人や気になるあの子と密着できちゃいます。記念撮影の際はお気軽にスタッフをお呼びください。自撮り棒の貸し出しもあります。

解説

スイーツ食べ放題のテーマパークで楽しく過ごしてください。(通貨は消費しません)

【注意】
・全館食べ放題形式となりますので、メニューはすべてパーク内で召し上がってください。
・飲食物の持ち込みはご遠慮ください。
・実在のお店の名前はマスタリングの対象となります。

【メニューについて】
・パフェ、クレープなどの具材については、例の中にないものを登場させてもOKです。
・ケーキ、屋台の出店についても同様です。
・各エリアにドリンクのショップもありますので、飲み物の登場はご自由にどうぞ(酒類は販売していません)。
・誕生日、記念日などをお祝いしたい方は、ケーキエリアでホールケーキやメッセージつきのチョコなどを用意することができます。(事前に予約済という設定で、ケーキの具材を指定する、相手に似せたマジパン人形を載せるなどの演出も可能です)

【席について】
・椅子とテーブルを並べたフードコート風のゾーンがパークの中心にあり、それを取り囲むように各エリアがあります。また、ケーキエリアには専用の席があります。(出入り自由)
・パフェ、クレープ、出店エリアの隅にも簡易なベンチがあります。
・屋外にもベンチや、シートを広げられる芝生がありますが、スイーツを取りに行きづらいため人気はあまりありません。庭は西洋風の可愛らしいものになっています。

【NPC】
まこと&亮次
 雰囲気は姪と叔父。甘いものも辛いものも適度に好き。お昼は屋台エリアでお肉料理を。15時ごろにケーキエリアへ。亮次がまことの誕生日ケーキを予約済。ダックスフンドのマジパン人形がのったイチゴのショートケーキ。ホールケーキという意味で「でかいやつ」と注文したら、予想外に巨大なケーキが登場して困惑。通りかかった方は、よければ食べるのに協力してあげてください。

リプレイ

●出発の前に
「はい、時間は3時ごろです。よろしくお願いします!」
 不知火あけび(aa4519hero001)はスイートパークとの通話を終え、日暮仙寿(aa4519)の元へ向かった。
「許可とれたよ。うまくいくと良いね、仙寿さま」
「そうだな。あいつらも一緒だから、心強い」
 彼らが計画しているのは、友人へのサプライズ。このとき仙寿はまだ知らなかった。自分にも嬉しい驚きが待ってることに。

 スイートパークの夏のフェアは、テレビなどやポスターなどで盛んに広告されていた。
――いきたいのーっ
 離戸 薫(aa0416)の3人の妹たちが口々に言う。しかし今日は下の妹たちが体調を崩している。
「うーん、来週のお休みはまだやってるよね? ……今日は母さん休みだし……」
 彼の脳裏に浮かんだのは、親友の中城 凱(aa0406)の顔。
「……ねぇ、母さん。凱達と遊びに行っても良い?」
 電話をすると、凱は二つ返事でOKしてくれた。
『で? 妹達のため下見、か』
 妹達がこんな風に騒ぐのは珍しいことではない。凱も良く知っているのだ。
『確か、学年は1つ違いだけど早生まれと遅生まれだから今5歳と3歳だっけ? 小さくても女なんだよな』
 スピーカーフォンにしているらしく、礼野 智美(aa0406hero001)の声も聞こえた。
『小さい子3人だと、俺達もいた方が良いだろうしな。確か来週はご両親土日出勤だって言ってたよな、薫』
 彼女はそう言って、協力を申し出てくれた。
「いつも、ほんと助かってます。小さい子が行って大丈夫なのかも気になるし」
 待ち合わせは11時。凱と智美は、パークへと向かいながら話す。
「しかしスイーツフェアだぞ? 甘いの駄目なお前には致命的だと思うが」
「薫が行くなら行く。幸い辛いものもあるみたいだし」
「はいはい」
 智美は呟く。
「まったく中坊の癖して青春は兎も角、初恋で薔薇に走ってどうする」
「……あのなぁっ!!」
「ほら、大声出さない」
 大人びた調子で言う智美を軽くにらむ。彼女はどこ吹く風だ。
(何でこう弄るんだ、智美は……秘密を護ってくれてるのには感謝するが)
 気を取り直してパークにあるエリアについて話しながら進む。目的地にはすでに、薫と美森 あやか(aa0416hero001)がいた。凱に気づくと、薫は穏やかな笑みを浮かべて手を振る。来てよかった。単純かもしれないが、早くもそんな気持ちを抱いていた。

●スイーツ王国、開園
「此処に来るのも二度目……ね」
 カノン(aa4924hero001)が言う。
「今回はどんな素敵なことが待っているのかしら」
「素敵なこと……リリィにとっては……その……」
 もじもじするリリィ(aa4924)。カノンは優しい瞳で促す。
「カノンねーさまとご一緒していることが、既に素敵ですの……っ!」
「リリィはいつも嬉しいことを言ってくれるのね」
 カノンは微笑む。自分の言葉で彼女が喜んでくれたーーリリィにとっては、そのことが夢のように嬉しかった。

「ここに来るのは春ぶりだね。今回も楽しもう♪」
「せっかくの食べ放題ですもの。いっぱい食べましょうね♪」
 大門寺 杏奈(aa4314)とレミ=ウィンズ(aa4314hero002)が微笑み合う。同行するのは宮津 茉理(aa5020)、そして水無月 未來(aa5020hero001)だ。杏奈の左手は茉理とつながれ、右腕にはレミが抱き着いている。杏奈はスマホのビデオ通話を依雅 志錬(aa4364)へとつなぐ。
「シレン、席は見つかった?」
『うん。ちょうどいい の――あった』
 志錬の隣にはS(aa4364hero002)が座り、こちらに手を振っている。フードコート風の中央エリアで、全員が座れるテーブル席を発見したようだ。
「ありがとう。わたしたちは、これからパフェエリアに行くよ」
「アンナ、ここからはわたくしが撮影いたしますわ!」
 レミが申し出た。杏奈が礼を言うと、レミはふふんと胸を張る。
「お任せくださいませ! わたくし、アンナを可愛く撮影することにかけては、誰にも負けない自信がございます!」
 チャットツールで話すつもりだった志錬としては、予想外で、嬉しい提案だった。蛇のワイルドブラッドである志錬。種の特徴を色濃く残している彼女には食事回数に厳しい制限がある。杏奈たちが館内を回っている間は、少し離れた場所から『一緒に』スイーツ巡りを楽しむのだ。
「いっぱい、楽しもう……先輩、依雅さん」
「ま、よろしくな! 邪魔はしないからさ!」
 茉理にとって志錬は仲良くなり始めの友人といったところ。少しでも距離を縮められれば、嬉しいのだが。

 カップルたちの醸し出す甘い空気と、お菓子の甘い香り。天野 一羽(aa3515)は素朴な疑問を抱いた。
(……連れてきたのがラレンティアでよかったのかな?)
「ぼんやりしてどうしたんだ?腹が減って動けないのか?」
 勝手に結論づけると、一羽を抱き上げようとするラレンティア(aa3515hero002)。
「違うから!」
 必死に抵抗したおかげでお姫様抱っこは免れたが、ラレンティアに腕をホールドされてしまった。
「行くぞ。たくさん食ってでかくなれ」
 そう。すこし刺激の強い部分もあるが、ラレンティアが一羽に抱いているのはあくまで母性だ。
(だから、そんな目で見ないで~!)
 美人のおねえさまとぴったりくっついて歩く、可愛らしい男子。一羽は「どんな関係?」という好奇の視線、あるいは男子諸君からの羨望の視線を感じるのだった。

●手作りパフェで涼しくなぁれ
 リリィとカノンはお互いのためにパフェを作り、交換することにした。
「甘くなく、でも華やか。そして大人な雰囲気と美しさ……」
 リリィは緊張気味にパフェグラスを差し出す。
「リリィは……カノンねーさまをこんな風に見立ててみましたの」
 リリィがカノンへと贈ったのは、コーヒーゼリーパフェ。
 コーヒーゼリーの上にマスカルポーネクリームとココアパウダー。優しい白と透明な黒のコントラストだ。生クリームとココアパウダーを重ね、再びコーヒーゼリー、そしてバニラアイスとココアパウダー。てっぺんにはマスカルポーネクリームとココアパウダーのフィールドをつくり、ブルーベリー・クランベリー・ラズベリーの花を咲かせる。
「あたしはね、リリィの甘くて優しいイメージと可愛らしさ。そんな雰囲気が出ていると良いのだけれど……」
 憧れのカノンからの褒め言葉。リリィの頬が桃色に染まっていく。小さな手で両手を包み込み、上目遣いでカノンの様子をうかがう。柔和に細められたカノンの眼がこちらを見ていた。
「さ、召し上がれ?」
「は、はい!いただきます……!」
 カノがリリィをイメージして作ったのは、プリンパフェ。
 いちばん下に敷き詰めたのは、苦いカラメルではなくキャラメルソース。コーンフレーク、バニラアイス、またコーンフレークと重ねていき、キャラメルソースをとろーり。ここでプリンの登場だ。バニラアイス、生クリーム、チョコクランチ、そしてシロップ漬けの桃やパイン。ピンク色が愛らしいチェリーも忘れずに。
「 ん……甘くて、とっても美味しいですの……!」
「リリィのパフェも上手に出来ているわね。私はこの味、大好きよ」
「こ……光栄ですの!」
 大好き。その言葉で、リリィの心はふわりふわりと舞い上がってしまった。

 ナイチンゲール(aa4840)はミニグラスにゼリーの層を重ねる。底からミルクティー、ストレートティー。その上にはオレンジゼリー。チョコマーブルの生クリームを慎重に絞ったら、チョコとオレンジとミントの葉をトッピングする。
「まめまめしいことだな」
「自分の好きなものを詰め込めるって楽しいよ? 墓場鳥もやればよかったのに」
 言葉では文句を言うが、機嫌は良さそうだ。スタッフに任せた墓場鳥(aa4840hero001)のパフェは『洋の夏パフェ・Sun』。様々な黄色のグラデーションが美しい一品だ。さわやかな酸味とフローズンヨーグルトの冷たさが好評らしい。
「日本にいると何食べてもおいしいよね……」
 頬を緩めるナイチンゲール。運よく隅の席に座れたのも手伝っているのだろう。
(本当に体型を気にしているのか?)
 それにしても、幸せそうだ。いつもこれくらい――とはいかないまでも、もう少し能天気な顔をしていても良いものだが。
「次はどこに行くんだ? 私はこの手のものには疎い」
 たまには、雛鳥のように彼女の後に続くのも悪くないだろう。

「オリジナルパフェは絶対やりたがるだろうなぁ」
 薫とあやかは妹たちの姿を思い浮かべる。
「……好きな苺と桃詰め込み過ぎて、クリームが入らないって泣き出しそうな気も……」
 あやかが苦笑する。
「……苺クリームとアイスがあるから、苺好きな上の妹については心配ない気もするけど、下の2人は……やりそうかも……」
 下見を兼ね、4人で思い思いのパフェを作っている最中だ。
(……あ、白桃もあるんだ……舌が冷たさになれると困るからウェハース……)
 真剣な表情で思考を巡らせる、薫。
(桃味のアイスもあるし……あんまり冷たさになれても困るから、お団子とかも入れても良いかな……前掛けか着替えいるだろうな……)
「薫さん、二人用のパフェになってますわよ」
「あ、しまった」
 あやかはくすくすと笑う。一生懸命なお兄ちゃんを微笑ましく思っているのだろう。
「あやかさんのパフェはきれいですね」
「そうでしょうか? ありがとうございます」
 ブドウやスイカ、メロンに苺。フルーツをバランスよく使い、彩りよく仕上げている。
(……極力甘くならないように……)
 凱が心がけたのはその一点。甘いものは苦手だ。フローズンヨーグルトを多めに使い、レモンのクラッシュゼリーと甘夏ジュレソースと層を作っていく。仕上げはミント。それから――。店員に尋ねてみる。
「後甘くない具材ってなんかありますか?」
「苦みを聞かせたレモンピールのはちみつ漬けや、さっぱりした塩レモンアイスはいかがですか?」
「どうも。カップが小さめで良かった……」
 完成させた凱は、智美のパフェを見た。
「お前、それアイス盛りになってないか?」
「いや、つい……」
 西瓜にココナッツ、ライチにグァバ、マンゴスチン。他ではあまり目にしない風味のアイスを食べようとした結果、こうなってしまったのだ。パステルカラーの盛り合わせは可愛らしく、あやかには好評だったが。
「俺もちょっと気になる」
「だろ?」
 せっかくなので、一口ずつ掬って味見させてもらう。
「……そのものの方が良い気が」
 真顔で言う凱に智美が頷いた。
「ま、お前ならそうだろ」
 渋い顔で視線を交わす彼らを他所に、薫とあやかは幸せそうにパフェを頬張っていた。かと、思いきや。
「薫さん、お願いすれば紙エプロンも借りられるそうですよ」
「お借りしましょうか。荷物は少ない方がいいですからね」
 ただし、自分の使命は忘れていないらしい。妹たちは幸せ者だ。凱と智美は思っていた。

 パフェエリアではたくさんの具材と、普段より拡張したアイスコーナーが茉理を待っていた。
「アイスが、自由に使える……?」
「違うからな? パフェを作るんだからな? アイスの盛り合わせを作るわけじゃないからな!?」
 未來がツッコミを入れるも、帰って来たのは絵にかいたような生返事。
「聞いてねーし……」
 茉理の眼と心は、アイスに釘付けであった。
「下はレモンゼリー、レモンクリーム絞って、桃とマンゴーとソーダアイス~っと」
 未來は鼻歌交じりに、好みのパフェを完成させる。カメラ係を務めるレミが未來の作品を映すと、Sが感嘆の声を上げた。
『青と黄色、綺麗ですね~』
「だろだろ? なぁ、茉理はどうなっ……」
 未來、レミ、画面の向こうの二人。皆が言葉を失った。口火を切ったのは志錬だ。
『……アイス、タワー?』
 アイスの盛り合わせどころではない。完全に塔である。
「アイスだけでパフェを作ろうと思って」
「そりゃこうなるだろ!」
『でも、色いっぱい。……並べ方、綺麗』
 志錬が言うと、茉理は照れ臭そうにした。
「よし、上手くできた♪」
「アンナったら今やパフェ作りのプロですわね♪」
「えへへ……」
 杏奈は夏のフルーツをたっぷり乗せたパフェを完成させていた。
「茉理ちゃんの分もあるんだけど……」
「食べる」
 即答する茉理。彼女のために作られたのは、期間限定のアイスを使ったトロピカルなパフェ。涼しげなゼリーやクリームを間に挟み、ココナッツアイス、ライチアイス、グァバアイスを主役に据えている。
「さすが先輩……! 美味しそう……♪」
「それじゃあ、いただきます」
『アンナ、美味しい顔――してる』
「うん、とってもおいしい! 先に食べちゃってごめんね、シレン」
『見てるだけ、でも……美味しいの、おすそわけ……もらってる』
 志錬がいうと茉理が頷く。
「そうだね。……先輩って本当に美味しそうにたべるから」
『マツリも……』
「ぷっ……だよな!」
 未來は思わず噴き出した。少女たちの笑い声は一際華やかに、パフェエリアを彩っていた。

●クレープエリアで一休み?
「クレープなんて、昔お祭りの夜店で食べたぐらいかなー。たまには食べてみようかな。」
 そんな気持ちでやって来た一羽。予想以上に豊富な具材に目移りしてしまう。
「見慣れぬ物ばかりだな。食えるのか?」
 ラレンティアはすんすんと鼻を鳴らす。
「……肉の匂いがする」
 すると近くにいた店員がにこやかに話しかけてきた。
「おかずクレープもオススメなんですよ。お包みしましょうか?」
「なんだ、何を入れるか選べばいいのか? なら、これと……」
 ウインナー、鳥の照り焼き、タンドリーチキン、そしてハム。期待を裏切らないラインナップが山積みされていく。
「ソースはどれになさいますか?」
「そんなものはいらん。一羽は?」
「んー、夏だしバニラアイスと、チョコレートソース、フレークも入れて……。少し酸っぱいのも欲しいから、イチゴも入れてもらおうかな」
 綺麗に巻かれたクレープをラレンティアが受け取る。
「先に席を取っておいてやる。まだ欲しいものがあるなら取ってくればいい」
「そう? ありがとう。じゃあ、行ってこようかな」

 未來はひとり具材とにらめっこしていた。
「んー……甘いものは後でいくらでも食べれるしな」
 杏奈と茉理とレミがそばにいないのは、未來がおかずクレープの具を見繕っているからだ。
「というかあんな甘いものばかりで飽きないのかアイツら……」
 キャベツとハム、スライスしたゆでたまご。サンドイッチ感覚で軽く食べることにする。
「あら、ミライ様のクレープも美味しそうですわね! わたくしはマツリ様おすすめのアイスクレープですの」
 レミはバニラアイスにチョコソースとナッツのトッピング。茉理は期待を裏切らないチョコアイスとバナナアイスのクレープ。杏奈はいちごとカスタードクリーム、クラッカーを淹れたミルフィーユ風クレープだった。
『クレープは……スイーツ? ご飯?』
『どっちも楽しめるってことでいいんじゃないかな? エミヤ姉はどっちが好き?』
『んと……甘いのも、ご飯も……どっちも美味しい』
『そっか! さっきは言い忘れてたけど、エミヤ姉も美味しそうに食べるよねぇ』
 志錬とSはそんなことを話していたとか。

「クレープも食べたがるかな? あ、おかずもあるけど」
「絶対、甘いの食べたがるでしょうね」
 薫の言葉にあやかが首を振る。美しい黒髪がさらさら揺れた。
「うん、僕もそう思う」
 彼らが真剣に話し合うのを、凱と智美が見守っている。
「俺はどれにするかな。凱は決まったか?」
「だいたいはな。もう甘いのは嫌だ」
「……まったく、健気なことだな」
 凱は店員に声をかけ、見本を見せてもらうことにした。タンドリーチキンとキャベツの千切りが綺麗に巻かれ、あっという間に皿に置かれる。
「意外とできそうかもな」
 凱はレタスと湯で海老のクレープを自分で巻いてみる。慎重に皮を持ち上げて、くるり、くるり。
「……あ、皮が破けた」
 少し穴が開いた程度だ。少し手が汚れるかもしれないが、食べるには問題ない。しかし、幼い子供にとってはどうだろうか?
「自分で包むのも楽しいけど……3人だと絶対失敗しそう」
「確かに。薫の妹たちには難しいかもな」
 自分用のみかんクレープを綺麗に巻いた智美だが、指先には細心の注意を払ったようだ。しかし、やりたいという要望を無下にするのもかわいそうだ。
「そうだ」
 薫が考え付いた作戦はこうだ。妹たちには作業台の方に立ってもらい、目隠しをする。その間にお店の人に作ってもらうのだ。
「それなら喜んでくれそうですね」
 あやかが頷く。4人は席へと移動し、次の予定を話し合いながら試食することにした。

「大人の女性には、ソルティドッグが人気ですよ!」
 再び一羽。店員にオススメを聞いてフローズンドリンクを作り、ラレンティアの姿を探す。
「おい、こっちだこっち」
 一羽が振り返ると、ラレンティアが手を振っていた。
「あ、そこにいたんだ」
 彼女の方へ近づいていくと、なぜか視線が集まるのを感じた。
「……ん? いや、ここって……ちょっとぉ!? カップルシートじゃん!?」
 堂々と着席したまま、ラレンティアは得意げに言う。
「ここだけ妙に空いていたぞ。ちょうどよかったな」
 移動しようにも空席が見当たらない。結局、しびれを切らしたラレンティアに引っ張り込まれてしまった。彼女は、空腹だったのである。
「うう、すごい見られてる……」
「どうした。顔が赤いぞ」
「だ、だって……密着度合いがすごい……」
 蚊の鳴くような声で訴えるが、ラレンティアからは生返事が返ってくるのみ。
「そうか? ん、うまいな」
 一口、また一口。無言で頬張り続けるラレンティア。手づかみでかぶりつけるのが良かったようで、クレープを気に入ったらしい。
「ラレンティア、すご……。これで一日分のカロリー摂りきっちゃうんじゃないの?」
「食える時に食う。生き抜くための常識だろう」
「いやいや。それ、どこの世界の常識なの?ていうか、よく太らないよね」
 一羽は普段の彼女を思い出してみる。一言で言えば、フリーランニングというものに近い。屋根だろうがガードレールの上だろうが、彼女は構わず駆け回る。都会の街中に『獣道』ができるなんて、一羽には理解できない感覚だが。
「あれだけ動けば、消費カロリーも多いのかも」
 おそらく、凄まじくでかい。程よい甘さのクレープを頬張りつつ、そんなことを考えていると。
「……うん? 顔に何かついてるぞ? どれ」
 ちゅ。リップ音が至近距離で聞こえた。ラレンティアが、頬についたクリームを舐めとったのだ。しかし、一羽の感覚としては完全にキスである。
「あ、ああ……」
 真っ赤になる一羽。頭も沸騰してしまって、うまく動かない。
「ほら、まだついてるぞ」
 追い打ち。指についたチョコソースを追って、再び無意識のキスが落とされた。

●次はどこいく?
「流れるチョコ……こ、今度は大丈夫……」
「アンナ、足が真っ直ぐに向かっておりますわよ!?」
 またしてもチョコの滝へ突入しかける杏奈。しかしこれも成長だろうか、今回はレミの声で我に返ることができた。
『アンナ……? 何――してた?』
「な、何でもないよシレン」
『そ――?』
「それより、フローズンドリンクを試してみませんこと? 前回はありませんでしたものね」
 掲示してあったレシピから杏奈は『ベリー×3』、レミは『南国気分♪』を選んだ。
「おぉー! でけぇ! 凄いな!? 流石に家庭用とは違うな!」
 大きなチョコレートフォウンテンに未來は目を輝かせている。イチゴやバナナといった定番や、キウィ、オレンジ。ウエハースにラスクにマシュマロ。夢中になって手を伸ばす。
「茉理、大発見だ! ポテチとチョコってめっちゃ合う!」
「……ん、それは、もう。一周回って定番……」
「何だと!? じゃ、蒸し野菜にチャレンジだ!」
 相棒を他所に、茉理はひたすら一口アイスにチョコを絡めていた。

「……いやー、さすがに食べすぎた。チョコ味はしばらく封印だな」
 ぐったりとした声で未來が言う。
「ゾンビみたい……」
「しょっぱいものをくれええ゛え゛」
 茉理がツッコむと、低い声で唸る未來。ふざける余裕があるくらいには、まだまだ元気だ。
「あっ、みなさーん! こっちですよー!」
 テーブルのそばに立ったSが、大きく手を振る。
「お疲れさまですー! 飲み物、どれがいいですか?」
 持ってきたばかりの飲み物を進めると、未來が答える。
「お、悪ぃな。あたしはコーラにするぜ!」
 杏奈は、志錬へと声をかける。
「お待たせ。シレンは何食べたいの?」
「どれもおもしろい――けど」
 志錬が指さしたのは、かき氷。こんもりとつもった雪のような氷に、とろりとしたソースをたっぷりかけるのだ。フルーツのトッピングは勿論、オプションで練乳もかけられる。
「了解だよ♪ せっかく食べられる日なんだし、いっぱい食べようね……!」
 杏奈は、そう言って志錬に抱きつく。志錬もいつになく機嫌がよさそうで、杏奈をぎゅっと抱き返している。レミとSは顔を見合わせて、くすりと微笑んだ。
「屋台エリアはわたくしたちにお任せを! すぐに買ってきますわ♪」
「私もお供しますよ! あとあと、『アイスのせタワーパンケーキ』も気になるので寄っていいですか?」
「まぁ、なんて心くすぐる響き! 参りましょう、ソル様!」
 茉理は未來の姿がないことに気づいた。
「あれ、未來は?」
「おーい、茉理ー」
 かと思えば少々遠い位置から声がかかる。
「辛ウマ☆マーボー丼と夏野菜カレーもらってくる!」
「了解」
 茉理は、杏奈の髪に顔を埋めて甘える志錬の隣に腰を下ろした。

●召しませ、夏フード!
「甘味ばかりと聞いていたが、ここなら満足できそうだ」
「僕はさっぱりしたものがいいな。あ、ミニ冷やし中華とか美味しそう!」
 水ようかんやかき氷などにも興味を示す一羽に、ラレンティアは首を傾げる。
「つまりほとんど水なんだろう? 食う意味があるのか?」
「涼し気な感じで良いと思うけどなぁ。あ、ラレンティアは串焼きとかいいんじゃない?」
 シンプルな肉料理と聞いて、ラレンティアの目が輝く。一羽の手をがっちりつかむと、彼を引きずりながら匂いを追い始めるのだった。
「このチリソースドッグ、癖になるぅ~」
 あまりの美味しさにぷるぷる震えるまこと。まるで子犬のようであけびは思わず笑う。
「まこと、もっと一杯食べなよ!」
「うん! ダイエットは明日からだね」
 順調にフラグを立てるまことだが、今日の所は不問にしようと仙寿は思った。
「牛串焼も美味そうだぞ。ほら、亮次にも追加だ」
「ん、悪ぃな。仙寿もどんどん食って肉つけろよ」
「お、言ったな? これでもけっこう鍛えてるんだぞ」
「はは、見りゃわかる」
 亮次は仙寿の肩をばしばし叩いて笑う。酒の類はここにはないから、単純に楽しいのだろう。
「何か、ホットドッグにかぶりつく、まことを見てると……仮面事件を思い出すな」
「う、私の黒歴史!」
 イギリスで出会った欲望を開放する従魔。憑かれた仙寿はあけびにケーキをおごった。彼女に優しくすることが、心からの『願望』だったから。レモン風味の唐揚げを頬張り、そっとあけびを見た。赤い貴婦人――まことの母はこう言った。
(今以上に彼女を気にかけてあげましょ……か)

 凱は屋台エリアを一人で歩いていた。薫・あやか・智美はケーキやチョコフォンデュを取りに行きたいと言ったため、しばらく別行動だ。甘いものはもう一口たりとも入らないが、腹は減っている。エリアを漂う食べ物の香りが、凱を元気づけた。
「すいません、この冷麺ひとつ」
(キムチ大盛り厚切りチャーシュー……つっかもう角煮のレベルだよな、これ)
 飲み物は冷凍した緑茶のペットボトルだ。
「凱、おまたせ」
 薫はチーズケーキやチョココーティングされた果物を皿に乗せ、やって来た。
 3人の前にあるケーキから目をそらし、麺をすする凱。彼の気持ちを察した薫は、申し訳なさそうに眉を下げた。
「……ごめん、凱は甘いの苦手だったよね」
「気にすんなって! 遠慮せずに、自分の食いたいもん食えよ」
「うん。ありがとう」
 笑みを浮かべた薫に、凱が目に見えてほっとした表情を浮かべる。智美はそんな相棒の様子を見てそっと微笑んだ。
「あやかは何のケーキにしたんだ?」
「桃のタルトです。みずみずしくて美味しいですよ」
「へー、俺も後で取りに行くかな?」
「智ちゃんのガトーショコラも美味しそうですね。食べ終わったら、一緒に行きましょう?」
 仲睦まじく語る親友同士。
「まだ食えるのか? すごいな」
 信じられないという顔をする凱に3人は思わず笑った。
「それより、下見はどうだ?」
 凱が尋ねる。
「種類豊富だけど、3人が小さいからね……」
「あんまり食べ過ぎるとまた『ぽんぽんいたいのぉ』になりそうですし」
 薫とあやかが困っていると、智美が提案した。
「当日はあっちの芝生にシート敷いて、最初に選んだのだけ食べさせたらどうだ?」
「あ、そうか。ありがと」
 妹たちのエスコートは上手くいきそうな予感だ。
「問題があるとすれば、俺の食事だけかもな」
 凱が苦笑する。それでも来週の楽しい予定に、心躍らせずにはいられないのだった。

「お待たせいたしました」
 屋台飯を買いそろえて、レミたちが帰って来た。
「そ・れ・と」
 レミが合図をすると、店員がホールのショートケーキを運んできた。
「わっ、な、何!?」
「ふふっ、今回はわたくしの番ですのよ♪」
 トッピングは粉糖をかけたイチゴにメロン、チョコレートやマカロンで飾り付けられた豪華版。中央には金色の月が描かれた丸いネームプレートが置かれている。
「これからもお供いたしますわ、アンナ」
「うん。……改めて、よろしくね」
 未來がパチパチと拍手をすると、他のみんなも真似する。レミと杏奈は照れたように彼女らを見た。
「じゃ、さっそく頂こうぜ!」
「そうですわね。マツリ様やシレン様もご一緒にアンナを愛でましょう♪」
「当然……♪」
「うん……」
 嬉しそうに頷く茉理と志錬。
「そ、それは……嬉しい、けど」
 そして頬を染める杏奈。
「それでは早速……あーん♪」
「あーん」
 けれど、スイーツの誘惑には逆らえない。レミに差し出されるまま、ケーキを一口。
「マツリ様も是非アンナに一口を! さあさあ、どうぞ♪」
「あーん……って茉理ちゃんまで!?」
 条件反射的に口を開けたものの、間髪入れずフォークを差し出す茉理に少し驚いた。彼女が食べていたのはクリームあんみつだ。
「ふふ、いっぱいお食べなさい♪」
「先輩、美味しい?」
「んっ……美味しいっ♪」
「んもうっ! 杏奈ったら可愛い過ぎますわ!」
 ぎゅうぎゅうと杏奈を抱き締めるレミ。
「ふふっ、杏奈の頬ってすべすべで気持ち良いですわ。でも……」
 レミの顔が正面に迫る。
「ちょっぴり冷えてるんじゃありませんこと? わたくしが温めて差し上げます!」
 暖かな両手で頬を包み込まれる。
「れ、レミ……みんなの前で」
「あら、そうでしたわね。今日はみんなでアンナを愛でるのでしたわ♪」
「そ、そういう問題……?」
「そういう問題。ね、先輩……もう一口いる?」
 黒蜜をたっぷりとかけた白玉とアイスが、杏奈の口の中で溶け合う。芸術的と言っていい美味しさだ。
「和風のデザートとアイスも……いいものだよね」
 同じようにクリームあんみつを口に含んだ茉理は上機嫌だ。
「アンナ……」
 志錬はマンゴー味のかき氷を杏奈へと差し出す。
「ありがと、志錬。……あ、一瞬で溶けた」
「ふわふわで、甘い……。美味しい、ね……」
 志錬はかき氷を茉理にも差し出す。
「マツリ、食べる……?」
「あーん……ん、美味しい。もう一個……頼んできちゃおう、かな?」
 結局、氷菓の誘惑に乗ってイチゴ味を買いに行く。志錬と交換できたから結果オーライだ。
「あ、そうだ」
 茉理は幻想蝶から何かを取り出した。
「はい、これ……依雅さんの、分……」
「私――に?」
「先輩が作ってくれたんだ。食べれる時に、いっぱい、楽しまなきゃ……!」
「ありがと、マツリ。アンナも」
「シレンが喜んでくれるなら、お安い御用だよ♪」
 志錬は美しく盛られたパフェをじっと見た。
「ちょっと、勿体ない、けど……」
「うん。アイスが美味しいうちに、ね?」
 志錬が名残惜しそうにスプーンを埋めると、茉理が頷く。
「もっきゅ、もっきゅ」
「なーんか小動物みたいだなー」
 未來がそんな感想を漏らす。志錬は杏奈にナプキンで口元を拭ってもらい、リラックスした表情を浮かべている。そこへSが駆けこんできた。
「茉理さん、すごいの見つけちゃったですよ! アイスの天ぷらです!」
 茉理はがたり、と椅子を鳴らす。
「うわー……健康に悪そー……」
 半眼になる未來だが、茉理は幸せそうに頬張っている。
「アイス食べてれば、私は健康だから……」
「んな訳あるか!」
 茉理は特に気しない様子で杏奈に抱き着いた。
「じゃ……冷えるのはよくないし、あったまることにする……」
「ふふ、茉理ちゃんたら♪」
「ほら、依雅さんも」
「ではわたくしも♪」
 4人でぎゅーっと抱き着く少女たち。左に茉理、右に志錬、後ろからはレミ。杏奈は少し窮屈そうだが、その分嬉しそうだ。
「あはは! あったかそうでいいですね」
 Sが無邪気に笑う。
「まったく、見てる方が暑いっての……」
 呆れたように言う未來だが、表情は楽し気なのだった。

●寿ぎの調べ
 ナイチンゲールと墓場鳥は照り焼き+レタス+マヨネーズという組み合わせのおかずクレープを揃って食べる。屋台エリアで買い込んだフライドポテトはケチャップをディップして頂いた。
「ごちそうさま」
 さっぱりとしたグレープフルーツジュースを飲み干し、満足げにナイチンゲールが言う。
「さ、次はケーキエリアに行かなくちゃ」
「まだ食べるのか」
「それもあるけど……そろそろ仙寿さん達と合流する時間だよ」
「……そうだったな」

 まことは、仙寿とあけびに連れられ庭へとやって来た。そよそよと風が吹き、7月の初めにしては涼しく感じる。
「亮次さん、ケーキは俺に任せとけって。どうしたんだろう?」
「さぁな。それにしても洒落た庭だな」
「なんだか映画みたいだよね」
 景色を楽しむ3人に声がかかる。
「待たせたな、お前ら」
「お誕生日おめでとうございます、赤須様、日暮様!」
 亮次が持っていたのは、犬の人形が乗ったホールのショートケーキ。店員が運んできたのは、苺の乗った特大レアチーズケーキ。
「まことのケーキ可愛い!」
「これ……!」
「亮次さんが予約してくれたんだって」
 あけびが言うと、亮次は「ま、たまにはな」と笑った。店員はガゼポのテーブルにケーキを置くと、一礼して去って行く。
「俺の分も予約してたのか?」
 あけびからの誕生日プレセント。敷き詰められた苺に思わず笑みが零れる。
「まことも仙寿様も誕生日おめでとー!」
「誕生日おめでとう。一日違いだったのか」
「だね! 仙寿くんもおめでと!」
 二人からまことへの誕生日プレゼントは『迅狼』という名の刀だった。
「手に入れた時まことを思い出したんだ」
「柄頭の狼の顔、愛嬌があって可愛くない?」
「すごく可愛い! よろしくね、狼さん!」
 まことは感激した様子で、鞘に収まった刀をぎゅっと抱き締める。
「H.O.P.E.で取ったデータによると、私たち、刀にも適性があるんだって。この子を使ってあげられるかな?」
「刀の使い方なら俺達が教えるから言ってくれ」
 亮次は西洋風の庭園を横切る、ふたりの女性に気づいた。
「お、こっちだぜ!」
「あ、あの、お疲れ様です……」
 ナイチンゲールが小さな声で言う。手にした皿にはティラミス、おいもケーキ、ベリータルトが乗っている。
「わ、偶然ですね!」
「偶然ではない、今回はな」
 驚くまことに、墓場鳥が口角を上げて答えた。

 仙寿、ナイチンゲール、墓場鳥。3名がヴァイオリンを構える。曲は『パッヘルベルのカノン』。主旋律を仙寿が担当し、ナイチンゲールたちがそれを支える。仙寿の演奏はメインでありながら、控えめな響きをも持っていた。なぜならば。

――命の導に
祈りを調べに
実りを尊び
千鳥と歓び

 ナイチンゲールがフルートのパートを重ねる。使うのは、その声。仙寿が口の端を上げ彼女をちらりと見た。
 まことは、心を奪われた様子で演奏に聞き入っている。

――ふたり 旅の辻にて
隣(ちかき)を識り咲う
衒うことなく
縁(えにし) 実に奇しき糸
天竺の如く密に
重なり交わる

――今日は記念日 赤頭巾の

 「あっ」と声を出しそうになり、まことは慌てて口を抑える。

――明日も記念日 暁待つ士の

 仙寿がその言葉にピクリと反応する。しかし演奏は乱れない。

――幾星霜経ても移ろわず色褪せず
今日は記念日 赤須まことの
明日は記念日 日暮仙寿の
愛と義を以って衷心よりこの妙を
寿ごう

 演奏が止まり、最後の音を優しい風が攫って行く。時間にして数十秒、まことはようやくカノン進行のゆりかごから戻ってこられたようだ。にわかにはっと息を吸い、大きく拍手する。
「……ありがとう!」
 言葉と共に何故か溢れてくる涙。それが喜びと演奏の素晴らしさによるものだと、皆わかってくれたのだろう。自己評価の低いところがあるナイチンゲールも、誇らしげに微笑んでいた。
「綺麗な歌声だった。演奏もな」
「うん! 私、すっごく嬉しかったですよ!」
 が、仙寿が称賛の言葉を口にし、まことも畳みかけたとたん、あわあわと後ずさる。
「おいおい、演奏してる俺にまでサプライズ仕掛けてきた度胸はどこいったんだよ」
「……ご、ごめんなさい。つい調子に」
「責めてないっつーの。祝ってくれてありがとな」
「……はい! まことさん、それに仙寿さんも。お誕生日おめでとうございます……」
 仙寿は頷くと、墓場鳥へと向き直る。
「墓場鳥も演奏OKしてくれてありがとう」
「貴公らの思いに応えたまでだ。これは予想外に張り切ってくれたようだが」
 墓場鳥の視線を受け、ナイチンゲールは顔を赤らめる。羞恥でうるんだ瞳で睨まれても、まるで怖くない。
「三人共、凄く絵になってたよ! 私も弾いてみたいなぁ……」
「仙寿くんに習ったら? あけびちゃんって姿勢が綺麗だから、ヴァイオリン構えたら格好良いだろうなぁ」
「本当? こんな感じかな?」
 エアヴァイオリンを構えてハミングするあけびに、まことが手拍子を送る。
「背、反らしすぎだ」
「え、もっとこうかな?」
 背中越しに見つめてくるあけび。仙寿の脳裏に浮かんだのは、後ろから抱き締めるように彼女の姿勢を矯正する自分。小さく首を振って幻影を振り払った。
「貴公が切り分けるのか?」
「ま、こういうのは苦手じゃねぇんだ」
 そのころ亮次は、猟師生活で培った調理スキルを発揮していた。
「自分は苺の方を切ろう。それにしても大きいな」
「『ホールケーキ』って呼び方知らなくてよ。でかいやつ頼むって言ったら、予想外にでかかったんだよなー」
「能力者と英雄なら何とかなりますって!」
 あけびが笑う。
「そういや、そっちのケーキはあけびの趣味か?」
 亮次が問う。仙寿が「いや」と首を振った。
「……実は、苺が好きなんだよ」
「仙寿さま、言ってよかったの?」
 あけびがぱちぱち目を瞬く。
「ま、こいつらなら馬鹿にしねぇと思うし」
 仙寿の予想は当たっていたようで、誰もおかしな顔をするものはいなかった。
「日本の苺は甘くておいしいですよね……! 初めて食べたとき、感動しました」
「美味ぇよな! 練乳かけて食うのもいいし」
 ナイチンゲールは甘味の魔法か、普段より表情が緩んでいる。
「おいもケーキなんてあったんですね! 美味しそう!」
 きらきらと輝くあけびの笑顔に気後れするナイチンゲールに、天啓が下りてきた。これもきっとお菓子の魔法だ。
「よかったら一口、食べますか?」
「いいんですか? ではお言葉に甘えて」
 墓場鳥はまことにレアチーズケーキを取り分けてやる。
「母君を大切に」
 まことが首を傾げても、それ以上は語らない墓場鳥。その顔には、まことの母と少し似たいたずら者の微笑が浮かんでいた。
「まこと達も墓場鳥達も、これからもよろしく頼む」
「こ、こちらこそ……」
「よろしくね、仙寿くん!」
 照れたように笑うナイチンゲールに、満面の笑みでピースするまこと。保護者のような英雄たちも仙寿を見て頷いた。

●君と話したいこと
 庭の方角から微かに音楽が聞こえてきた。リリィはふと、春に来たときのことを思い出す。あのときの桜はもう散ってしまっているだろうが、ならばどんな景色となっているだろう。
「カノンねーさま……もしよければ……またお庭に行ってみませんか?」
 おずおずと問うてみると、カノンの表情が華やいだ。
「あら、良いわね……今の時期ならまた、違った色を魅せてくれるわ」
「お庭は変わらないのに……色は変わる……何だか不思議ですの」
「まるで人同士の関係みたい、ね」
 春の想い出をなぞるかのように、屋台エリアで菓子を買い揃えて。
「こちらのマカロンをいただけるかしら」
 選んだのは、どこか桜を思わせる白とピンクのマーブル模様だ。
「リリィも、好きなものを選んでいいのよ?」
「はい……あ!」
 リリィと目が合ったのは、動物をかたどったシュークリーム。
「可愛らしいわね」
「ウサギさんに、くまさんに、ひよこさんに、猫さんもいますの……!」
「みんな一緒に連れて行ってあげましょうか? 楽しいピクニックになりそうね」

「なぁ、少し歩かねぇか?」
 仲間たちと別れ、仙寿はあけびとふたりきりとなった。あけびはお祝いの成功について元気よく語っていたが、仙寿が何か言いたげなのを察すると会話のペースを落としていった。
「……俺、あけびの師匠に嫉妬してた」
 共鳴の姿に影響するほどの強い思いを、あけびに抱かせる奴。――そして、自分を打ち負かした奴。
「ようやく言う決意ができた。俺はお前と――対等な相棒になりたい」
 あけびは思わず呟いた。
「仙寿さまは主君で、剣は……」
「今はまだ、お前が上。それに……忍であることに誇りを持ってて、前向きに侍目指してて。俺は心でも負けてるって思ってた」
「だから最近、すごく頑張ってたの?」
「お前に追い付きたかったからな」
「……私も、仙寿様に置いて行かれるんじゃないかって不安だった。何だか私達、追いかけっこしてるみたいだね」
 相手と並び立ててない、共に歩めていないと焦っている。一人抱えていたと思っていた悩みは、お互い様だったのだ。
「お互いに話せてないことがまだ沢山あると思う。少しずつでも話していけたらと思ってる」
 仙寿は足を止め、あけびの眼をまっすぐに見た。
「相棒、なんだからな」
 思えば、面と向かってそう言われたのは初めてだった。あけびの胸に、暖かな感情が生まれる。今の彼にならあけびの『不安』を話せる日もくるかもしれない。
「俺はいつかお前を認めさせる。そしたらさ、俺のこと呼び捨てしろよ」
 嗚呼、なんて眩しいのだろう。まだ暮れるには早い日が、仙寿の髪をきらきらと照らしていた。

 リリィとカノンは人気(ひとけ)がなくなった頃を見はからい、庭へ出た。ここまで皿を運ぶのは少し手間だし、冷房の効いた室内のほうが快適だろう。けれど――。大きな木陰。青々とした葉の一枚一枚。そこに宿る生命力。そして、光の織物のような木漏れ日。夏なのだから、夏らしい暑さを楽しむもまた一興だ。
「美味しいスウィーツ。大好きなカノンねーさま」
 リリィは呟く。
「……また……こんな甘い時間を過ごせたら……リリィは幸せですの」
 小さな能力者が向けてくれる、くすぐったい感情。それはカノンの中で『幸せ』に育っていた。
「そう、ね。あたしもまた、リリィと一緒に此処へ来たいわ」
 お揃いの思いを抱いて、本当の姉妹のように二人は微笑み合う。
「ね、リリィ。また一緒に写メを撮りましょうか」
 カノンの言葉に、リリィは大げさなくらいに驚く。
「どうかした、リリィ?」
「……カノンねーさまは魔法使いみたいですの。いつだって、リリィの願いを叶えてくれるから……」
 カノンが自らシャッターを押してくれた写真には、前回よりも距離の縮まった二人の姿が収まっていた。

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • エージェント
    中城 凱aa0406
    人間|14才|男性|命中
  • エージェント
    礼野 智美aa0406hero001
    英雄|14才|男性|ドレ
  • 癒やし系男子
    離戸 薫aa0416
    人間|13才|男性|防御
  • 保母さん
    美森 あやかaa0416hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • 解れた絆を断ち切る者
    炉威aa0996
    人間|18才|男性|攻撃
  • 白く染まる世界の中に
    エレナaa0996hero002
    英雄|11才|女性|ジャ
  • 夢魔の花婿
    天野 一羽aa3515
    人間|16才|男性|防御
  • リア充
    ラレンティアaa3515hero002
    英雄|24才|女性|シャド
  • 暗闇引き裂く閃光
    大門寺 杏奈aa4314
    機械|18才|女性|防御
  • 闇を裂く光輝
    レミ=ウィンズaa4314hero002
    英雄|16才|女性|ブレ
  • もっきゅ、もっきゅ
    依雅 志錬aa4364
    獣人|13才|女性|命中
  • 先生LOVE!
    aa4364hero002
    英雄|11才|女性|ジャ
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • 明日に希望を
    ナイチンゲールaa4840
    機械|20才|女性|攻撃
  • 【能】となる者
    墓場鳥aa4840hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • Lily
    リリィaa4924
    獣人|11才|女性|攻撃
  • Rose
    カノンaa4924hero001
    英雄|21才|女性|カオ
  • 分かち合う幸せ
    宮津 茉理aa5020
    機械|17才|女性|防御
  • エージェント
    水無月 未來aa5020hero001
    英雄|16才|女性|カオ
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