本部

おとうさんのパンツ

高庭ぺん銀

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/06/25 19:46

掲示板

オープニング

「お父さんのパンツと私の服、いっしょに洗わないでよ!」
 望月 杏子(きょうこ)にもそんなセリフを言う時代があった。むしろ、つい最近まではそうだった。彼女は高校3年生への進級を境に心を入れ替え、父との距離を縮めることを決めた。
「お父さん、一緒にお買い物行こ!」
 その一言で父は飛び上がるほど喜んでくれた。思えば約3年の間、なんてくだらない主張をしていたのだろう。父はどれだけ傷ついたのだろう。杏子は後悔した。



「お父さんはここで待ってて。ちょっとだけ一人で買いたいものがあるの」
 お昼過ぎのフードコート。クリームソーダを急いで飲み終えた杏子は言う。
「一人で? 迷子にならない?」
「子供扱いしないで! ついてきたら絶交だからね!」
 しまった。またやってしまった。
「と、とにかく行ってくるから! ここデザートとかも美味しいらしいし、すぐ戻るから待ってて」
 心なしかしょんぼりとコーヒーを飲む父を残し、向かうは紳士服売り場。父の日のプレゼントを探す。
「うーん、どれが良いかなぁ。無難なのはネクタイとか?」
 慣れない売り場に戸惑っていると、父の日のための特設コーナーを見つけた。
「あ、プレゼントコーナーだ。オススメは……ぱ、パンツ!? それはちょっと恥ずかしいなぁ……」
 店を移動しようか考えていたその時。
「な、何?!」
 悲鳴だ。
「杏子ちゃん、危ない!」
 父の声がした。それもずいぶん近い。次の瞬間、杏子は何かに拘束されてしまった。肩の下から足首まで、全身を布のようなものできつく巻かれたのだ。動かせるのは首だけ。バランスを崩した体はそのまま地面に倒れこむ。と思いきや、何かの力に引っ張られて服が山盛りに入ったワゴンへと頭から飛び込んだ。
「いてて……大丈夫?」
「お父さん?」
 衝撃こそあったが、服がクッションになってくれたせいで頭は痛まない。
「平気だよ」
「よかった……」
 ずりずりと床に座り込む。
 父もまた、杏子と同じように大きな布でぐるぐる巻きになっている。自由を奪われた体を必死に動かし、彼女を守ってくれたらしい。
「もう、ついてこないでって言ったじゃん」
 思わず素直じゃない言葉が口をつく。しかし以前のような厳しい口調にはならなかった。
「ごめんね。つい心配で。もうお姉さんなんだもんね」
「ううん、いいよ。……ありがと、お父さん」
 暖かな空気を引き裂いたのは、再度の悲鳴。もしも杏子の頭がまともなら、あれは――。
「パンツ?」
 トランクス型のパンツが大人の背丈程の大きさに巨大化している。お化けパンツだ。パンツは若いカップルの頭上へ舞い上がったかと思うと、二人を右足と左足が入るべき穴へ通す。そして、急激に縮んだ。双子の簀巻き(すまき)の完成である。
「まさか、私たちも?」
 試しに、身をよじり父から体を離そうとしてみたが叶わなかった。自分と父も巨大パンツによって拘束されていたからだ。縮んだ生地のせいで、父と肩をくっつけ合っているのが気恥ずかしい。
『お父さんのパンツと私の服、いっしょに洗わないでよ!』
 思い出すのはかつて自分の言葉。
「もしかして、罰が当たったのかな?」
 きょとんとする父の顔を間近に見ながら、杏子は「なんでもない」と力ない笑みを浮かべた。

解説

【場所】
シャンゴリラBLACK
 東京近郊にあるショッピングモール。2階建て。シャンゴリラTOKYOに比べて都心から遠く、敷地は広め。キャッチフレーズは「荷物持ちだけじゃ勿体ない!」であり、男性をはじめとする「誰かの付き添いで来た客」にも楽しんでもらうことを目指している。映画館、書店、スポーツ用品点、楽器店、ユニークな雑貨屋など趣味関係の店に力を入れており、男性向けのファッション店も比較的多い。フードコートだけでなく、落ち着いた時間と本格的な珈琲・紅茶を楽しめる喫茶店などもある。

【敵】
一階
・スーツ売り場周辺
ネクタイ従魔(ミーレス級)×20
 見た目は普通のネクタイ。移動時は蛇のように地や壁を這う。戦闘の際は鞭のように体を叩きつけて、相手にダメージを与える。また、首に巻きついて締め付けてきたり、手足に巻き付いて自由を奪ったりする。お互いに連携可能。

二階
・紳士服売り場周辺
パンツ従魔(ミーレス級)×20
 人間の背丈ほどもある大きなパンツ。トランクス型。人間を2人同時に捕まえることができる。人間を捕まえている個体(到着時点で5体)は攻撃と移動ができないが、人間と密着しているため討伐の際は注意が必要。

【PL情報】
従魔たちは捕まえている人間からじわじわとライヴスを奪う。
従魔だけに攻撃を当てれば、捕まっている人間はダメージを受けない。従魔のダメージ蓄積具合は目視で確認可能(段々とボロボロになる)。

【注意】
皆さんは「H.O.P.E.の要請により現場に急行。全員が同時にシャンゴリラへと到着した」とします。移動はH.O.P.E.所有の車(運転はNPCの職員)。道中で作戦会議を終わらせて構いません。

リプレイ

●マイクロバス、理想郷行き
 車内にて、青霧 カナエ(aa3350hero001)は現場へと連絡をしていた。
「ダメですね。繋がりません」
 エージェントたちが到着するまでに、せめて誘導の放送を流せればと思ったのだが。
「各売り場に一番近い出入口から入ってはどうだろうか。ここと、ここだな」
 一方、奈義 小菊(aa3350)は館内の案内図を示しながら提案していた。シャンゴリラには東西南北4つの入り口があるようだ。1階のスーツ売り場に近い南と、2階の紳士服売り場に近い北の入り口に別れて店内へと入ることにした。
「パンツとネクタイの従魔って何。どういうことなの。道具に怨念でも宿ったの……?」
 紀伊 龍華(aa5198)は戸惑いを隠しきれない。聞いてた従魔と違う、なんて言っても仕方ないが。
「でも、面白そうです。あれらが一人でに動いてるなんて想像するだけで吹き出すです」
 英雄のノア ノット ハウンド(aa5198hero001)の表情は、彼とは対照的に明るい。
「……あのね。事態は一刻も争うんだから、真面目にやってよ? 本当。みんな助けないといけないんだから」
「わかってるです~。ちゃんと働いて一般人を守るですよ~」
 答えたノアはやはり楽し気で、龍華はため息を吐いた。
「しかし何故このラインナップなのデショー?」
 ヨーロッパからやってきた金髪少女、シェルリア(aa5139)は首を傾げる。
「んー、父の日だから、かなぁ?」
 イオ(aa5139hero001)どこまで本気かわからない声で返事をした。従魔は人間のライヴスを狙うことが多いため、人の集まるところに現れたのは不思議ではない。あえて抽象的に答えたのは、ひとえに彼の性格ゆえである。
「パパンの! それは大事デス、早く終わらせてショッピング再開してもらわねば、デス!」
「燃えてるね、シェルリ。今日は共鳴の主導権、君で行ってみようか?」
 須河 真里亞(aa3167)は、敵の依代であるトランクスという単語がぴんと来なかったらしい。手元の携帯で検索している。
「あれー? このパンツ、トシナリのと違うね」
 エージェントたちが一斉に振り返った。
「は ?い、いやぁ?! 誤解を招く様な事言うなヨー! いつ俺がパンツ見せたんだ!」
「フツーにお風呂場に脱ぎ捨ててるけど。協力者さん、ちょっと気を使ってほしいわねって言ってたよ」
 すぐに誤解が解けたのは良いものの、愛宕 敏成(aa3167hero001)の脳裏には新たな疑問が浮かぶ。
「……待て! その前に関係者が俺の部屋に自由に出入りする状況何とかしろよ!」
「で、何で違うの?」
「……一度で良いから俺の話をまともに聞いて……あー、男のパンツは俺みたいなブリーフとああ言うトランクスの二種類有るんだよ」
 話が迷走する中、彼らの力関係だけは明瞭となっていた。
「ん、最近流行りのファッションは、生きているんだ、ね……」
「明らかに従魔だろう?」
 エミル・ハイドレンジア(aa0425)の発言に、ギール・ガングリフ(aa0425hero001)が律儀にツッコむ。
「身につける従魔、これは流行」
「流行らないだろうな」
重ねて入る鋭いツッコミ。
「……そっかー……」
 表情ながら、どこか残念そうにエミルは言った。
「……ん、早く終わらせて、デートの続き……あと、プレゼント」
 ユフォアリーヤ(aa0452hero001)は呟く。シートと体の隙間で尻尾がゆらゆらと揺れる。
「どうした、リーヤ?」
「……ひ・み・つ♪」
 彼女の言葉を聞き逃した麻生 遊夜(aa0452)は問い返すが、意味深な笑顔ではぐらかされてしまったのだった。

●突撃、シャンゴリラBLACK!
 シャンゴリラの駐車場は逃げ出した人々でごった返していた。けが人は転んで足を擦りむいたものや、人とぶつかってしまい打撲したものくらい。命の心配はない。エージェントたちは、従魔の掃討と逃げ遅れた客の救出を優先することに決めた。
 南口からはシェルリア、龍華、そしてニウェウス・アーラ(aa1428)が突入する。全員が共鳴済みだ。店の方向から悲鳴があがる。数は少ないようだが、従魔に捕らわれた客がいるようだ。
「ねぇ、ストゥル」
(なんだい)
「這いまわる、ネクタイって……」
(うん。予想以上に、キモいね)
 息の合った様子でぼやく、ニウェウスとストゥルトゥス(aa1428hero001)。
「まずは救出、だね。協力……してほしいんだけど」
 捕まっているのは、店員が1名、客が3名。ニウェウスが1匹の従魔と対峙し、注意をひきつける。その間に龍華とシェルリアが被害者ごと従魔を範囲内へと誘い込んだ。
「今デス!」
ニウェウスが『幻影蝶』を発動する。従魔だけにダメージを与えたおかげで、締め付けがゆるくなった。
「捕まえた……!」
 龍華が手首に巻き付く従魔をむしり取る。
「成功デース」
 シェルリアも嬉しそうに叫ぶと、従魔に星の書の魔法を食らわせた。龍華は盾を構え直すと、解放された客を背にかばって逃がすことに成功した。



 残りのメンバーは北入り口から突入。エミルが先頭を駆けていき、伊邪那美(aa0127hero001)と共鳴した御神 恭也(aa0127)は一旦別行動をとる。
「誰もワタシを、止められない。ひゃっはー……」
 その後ろを真里亞が追いかけ、モスケールを装着した遊夜が殿を務める。
(……広いねぇ)
「うむ、被害が広がる前に押さえんとな」
 そこへ割り込んだのは、ぴんぽんぱんぽーん、とおなじみのメロディ。鳴らしたのはインフォメーションセンターへと向かった小菊だ。従業員を連れて行くのは危険なため、自ら放送をするように頼まれたのだ。
「H.O.P.E.です。ただいま1階のスーツ売り場と、2階の紳士服売り場にて従魔の対応に当たっています。身動きが取れる方はお近くの玄関より避難をお願い致します。2階のお客様はエージェントの指示に従い……」
 遊夜も拡声器を使用し、補佐的に声を掛ける。
「繰り返す。危険なのはスーツ売り場と紳士服売り場。動くのが難しいなら無理はしなくていい。売り場から離れてバックスペースや階段踊り場に待機してくれ。すぐに俺たちが保護に向かう!」
 怯えて泣いている子供が一人でも少なければ良いのだが。祈りつつ、身の内の相棒に声をかけた。
「デカいパンツらしいが、衣服に紛れられると厄介だな」
(……ん、見つけやすい……でも、油断禁物)
 エミルがエスカレーターを駆け上がると、赤ん坊を抱いた夫婦と対面した。
「ん、北フロアはまだ安全……食い止めてるうちに、避難、脱出ー……」
 敏成が真里亞の体を操り、護衛役を申し出る。
「こっちにも女性が一名だ! 誘導を頼む」
 後方からの遊夜の声に答える。
「了解だ!」
 真里亞は彼らに付き添い、北入り口へと引き返していった。
「こちら御神。作戦を開始する」
 バックヤードにいる恭也が仲間たちに告げる。彼が目を付けたのは防煙用のエアカーテンだった。
「従魔であっても基本は布だからな、質量も軽い以上は風の影響を受けると思う」
 最大出力で起動し、敵の移動を阻害するのだ。
「……こちら2階ー、パンツの動き……鈍ってる、感じ……」
 エミルに続いて、龍華からも連絡が入る。
「あの……ネクタイには効果薄いみたいで、変わらず壁や地面を這ってます……!」
「後のことは私たちにお任せあれデース!」
「わっ、シェルリアさん……!?」
 続いて恭也は真里亞の提案を実行する。防火シャッターを閉め、一部の扉を開け放って、避難経路を作るのだ。こちらは難なく完了。逃げ方がわかりやすくなった上、手近な店舗に逃げ込んだ者たちも、ひとまずの安全を得ることができただろう。

●パンツの暴走
 恭也はスタッフ用の出入り口から売り場に出た。店の前の廊下まで来ると、ひらひらと風に煽られるせいで動きづらそうな従魔と対峙した。
「……不謹慎だが、傍目から見ると間抜けな現状だな」
(まるで現代版の一反木綿だね~)
 「ばあ!」と古典的なおばけのような動きで迫って来る敵。大きな的を豪快に斬り捨てる。紳士服売り場の目の前では遊夜が、飛び上がった従魔を撃ち抜いた。彼にとってもイージーモードの的に違いない。
「残念だが、お前が食らうのこっちだ」
(……ん、いっぱい食べて……ね?)
 エミルはパンツに捕まった親子を救出中だ。
「ん、勢い余って、バッサリいっちゃいそう……。クワバラクワバラ……」
 幸い、物騒な呟きは彼らの耳に届かなかった。
「ん、ゴムきつきつ……もっと伸びろー……」
 ゴムの隙間に手を差し入れ、助けようとしてくれるエミルを見て、親子は少し安心するが。――小さな手が宙空で握られる。否。
「ん、その人を離すのだ……。さもなければ、スッパリだ、よ……」
 炎剣「スヴァローグ」を握り、淡々と脅し文句を吐く。親子の口からそっくりの悲鳴が迸る。
「ん、コトバ通じない? んじゃー問答無用……」
 エミルは親子を支えて立たせると、逆方向に向かって体を傾けるように指示した。
「えーいさー、ほいさー……」
 3人がかり――主に共鳴中であるエミルの力だが――で布を引っ張り、わずかにできた隙間に剣を当てる。ちょうど縫い目あたりだ。未だ布の性質を残す従魔は黒い焦げを作り、締め付ける力が弱まった。
「きゃっ」
「痛っ」
 親子がしりもちをつく。真っ二つになったパンツは、従魔から解放されてただのぼろきれとなっていた。
「リンカー二人で捕まったら……お互い、逆方向に走れば……ワンチャン?」
(いくら雑魚でも、AGWなしでは厳しいだろう)
 二人をシャッターの向こう側へ逃がし、エミルは向かってきたパンツに炎纏う一閃を食らわせた。
「ん、その柄は、ダサダサのダサ……。てんちゅー☆」
 たい焼き柄のパンツは依代も残さず燃え尽きた。
「一階は一階で子供には見せたくない状況なんだろうが、二階は二階で襲って来る相手が……」
 恭也は呆れながらも、2体のパンツを相手取っていた。
(ねえ……無いとは思うけど、あれって新品だよね? まさか、使用済みって事は無いよね?)
 伊邪那美の心配は別の所にあるらしい。恭也は短く答える。
「使用済みの下着を従魔する変態は居ないだろ」
(兎に角、アレに捕えられる事は無いようにね)
「了解した」
 言うが早いか、向かってきたパンツを避けるために飛びのく。獲物を逃したはずのパンツは一気に収縮すると2人分の人影を掻き抱いた。――父親と娘をかたどったマネキンだ。
(やった! 動きを封じた!)
 先に狙ったのはフリーのパンツ。十文字に切り裂けば、2度とは動けぬ襤褸へと変わる。
「次」
 マネキンもろともヘヴィアタックを食らわせ、二体目撃破。さらに3体同時にやって来たパンツが恭也の視界を360度覆い隠す。
「甘い」
 怒涛乱舞。目にもとまらぬ5連撃によって、パンツが千々に裂かれた。

●ネクタイの反乱
「皆さん、目を覆ってください!」
 遅れてやってきた小菊が、周囲へと声をかける。『フラッシュバン』の光が売り場を満たした。
「やりマーシタか?」
 腕を目から除けて、ぎゅっと閉じた目を開く。奇襲に備え構えていた9-SPの銃弾が従魔を弾き飛ばした。
「動きが鈍らない。視覚を頼りに動いているわけではなさそうですね」
 ライブスに反応してからみつく蛇。そう理解して良さそうだ。
「従魔たちはここで食い止めましょう」
 ノアと共鳴することで女の子の姿となってしまった龍華が頷いた。
「どうにかして、従魔の動きを鈍くできればいいんだけど……」
 龍華の耳に届いたのは、悪魔の囁き――もといノアのアドバイスだった。
「本当にやるの、ノア?」
(ぐずぐず悩んでる場合ですか! せーの!)
 龍華は顔を赤くしながら、仁王立ちした。胸には上質そうだが、やたらと派手な柄のネクタイが結ばれている。
「……だ、だっさい柄だなぁどれもこれも! 触りごこちも全然よくない! しかもズルズル這ってるせいで汚れまみれだし、そんなので恥ずかしくないの? もう一度絹からやり直して作り直してもらったら? 俺のネクタイを見習いなよ、ばーか!」
 派手なネクタイをつまんでぴらぴらとアピールするが、実は売り場から拝借したものである。その結果は――。
「……ノアー!」
「あはは、失敗ですか~」
 従魔は特に変わった反応は見せず、龍華へと向かってきた。それにしてもノアは全く悔しそうにしていない。作戦の空振りよりも龍華の面白い姿が見られたことの方が重要らしい。
 ニウェウスは拒絶の風をまとい、店に被害がいかないように戦い始めた。
(うーん。的がちっこい上にうねうねしてて、当て難いなぁ)
「ん……一工夫、欲しい」
 何かを思いついたらしい龍華は、男子トイレへと駆けこんだ。
(あはは、人がいなくて良かったですね!)
「笑わないでよ! この作戦ならいけるかもしれないんだから!」

●殲滅作戦!
 再び1階。残すは人質を簀巻きにしたパンツ従魔のみだ。遊夜は憔悴した様子の女性2名に話しかける。
「すまんね、待たせた……すぐ助けるからな」
 同じ女性の方が安心感が強いと考えリーヤの姿になり、シルバーナイフを持つ。
「……ん、怪我はない?」
「ええ、大丈夫」
「ん、傷つけないから、安心して」
 身体の線に沿うよう、従魔を撫でるように切り裂いていく。いつもは精密な射撃に利用する技術を、手元での作業に応用したのだ
「……ん?」
 リーヤと遊夜は手元が急に暗くなったことに気づく。従魔の奇襲だ。しかし振り返ったその顔は不敵な笑みを刻んでいた。
(攻撃手段はない、とでも思ったか?)
 彼らが武器を換装したことに、従魔どころか誰も気づくことはできなかった。
「……ん、暗器はロマン……だよ?」
 妖しき狼女の瞳が血の色に輝く。放たれたのは赤い光線。ビーム用コンタクトレンズにより、また一匹、従魔が命を散らした。
「よし、切れたぞ。動けるか?」
 助けたカップルをかばいながら、真里亞が避難口へと誘導する。
「ありがとうございます! 皆さんも気を付けて!」
 片手をあげ戦場へと向き直った真里亞を、ボーダーのパンツが包み込む。しかし次の瞬間、布には亀裂が走っていた。包まれる直前、胸前に剣を引き寄せておいたのだ。
「っと、終わったみたいだな」
 共鳴を解くと、真里亞が従魔から解放されたパンツを拾い上げた。
「ちょっと! これじゃ貰っても使えないよ! パイナップル柄、可愛かったのに!」
 ただの布切れとなったパンツには悪いが、プレゼントされなかったことにほっとする敏成だった。
(今は非常時だから良いが、店内は走らぬようにするのだぞ)
「ん、つまり……、今は店内を、自由に走り回れるチャンス……。ピンチはチャンス……っ」
 遊夜はモスケール、エミルは高い移動力を生かしてフロア全体の見回りを行う。恭也と真里亞は店の責任者への報告と、被害者たちの安否確認を兼ね、先に入口へと戻ることにした。



「早めに終わらせマショー! 行くデスよー!」
 シェルリアがネクタイの攻撃を交わす。右、左、ルーティン化する動きのせいで、雑念が浮かぶ。
「私はパパン知りマセンが、世には反抗期というものがあるらしいデス?」
 彼女は、唐突に閃いた。
「もしやこれはセルウス達がパパンと子供達の仲を取り持とうとしているのでは……!」
(……え?)
 この発想には、さすがのイオも面食らった。しぶとく回避する従魔は、一瞬のスキをついて攻勢に転じた。気づけば回避のために息を切らすのはシェルリアの方だった。
「オーマイガッ!」
 ついに利き腕に巻き付いた従魔。
「負けないデスよー!」
 綱引きのように引っ張り合うと、締め付ける力が強まる。痛い。
「ああああイオ! イオ!!」
 パニックになって腕を振り回すシェルリに、「しってた」と笑うイオ。
(しょうがないなぁ、ほらほら変わって)
 彼女の姿が微笑みをたたえた美少年へと転じる。当然だが、巻き付いたネクタイはそのままだ。
「あははダメでしょ、僕みたいな外見の子がネクタイで拘束されるとかさぁ」
(デース!)
 元気よく相槌を打ったが、シェルリアはよくわかっていない。
(ふと思った。ここならさ、スプレー糊とかあるんじゃね?)
「あー。それを……吹き付ける?」
(そうそう。動きが鈍るかも)
「べたべたに、なるだけでも……違う、といいな」
 ニウェウスたちが脳内会議をしていると、可愛らしい声がした。
「お待たせしました!」
 現れたのは長いホースを小脇に抱えた龍華だ。商品を駄目にしないよう、店に背を向けて水を散布する。廊下をさまよっていた蛇たちの動きが目に見えて重くなった。
「……うわっ、冷た!」
 跳ねた水のせいで自分まで濡れてしまいまったが、出した成果は大きかった。
「やった!けど、この体でこれはやばいんじゃ…」
 ぺったりと肌に張り付いて透ける服。とんでもなく恥ずかしい。ノアは愉快すぎるアクシデントに大笑いしていた。
(体が重くなったみたいだネ。ここはプランBで行こう!)
 ストゥルトゥスが宣言する。メギンギョルズ装備すると、あえて従魔が絡みつくに任せる。
「おおっと、マスターに従魔が絡みついたぞぉ! RECのチャーンス☆」
「ちょ、RECって……うひぁああ!?」
 腕を這う蛇は、ニウェウスのウェストや胸元へと移動しようとしている。
「む、これはちょっとイケナイ絡みつき方だ! 大丈夫かマスタァ~」
「ストゥル……この状況、楽しんでない?」
「うん、かなり☆」
 ニウェウスは従魔を引っ掴んで剥ぎ取ると、結び始める。一回結んでさらに蝶結び。も一つ掴んで固結び。
「マスター?」
 ニウェウスは不気味なくらい真顔だった。さらには従魔を二匹むんずと掴み、結んで繋げる。
 水が垂れることも構わず、あやつなぎ。そして、地面にポイ。お互いの身を顧みずに引っ張り合うネクタイたち。布が限界を迎える方がきっと早い。そして、もっと言うならば――小菊、龍華、シェルリアにボロボロにされる方がもっと早い。
「蛇みたいな動きするんだねぇ」
 シェルリア――イオもまた、ネクタイ蛇の頭を尾を結んで自由を奪う作戦に出ていた。動きを止めた後は、星の書で木っ端みじんに撃破する。
(結び方が、段々とエゲつなくなってませんかねぇ……)
 無言で追加された一重つなぎに、二重つなぎ。床でネクタイたちが不格好なダンスを踊っていた。
(あ、聞いてないヤツだコレー)
 小菊はカートやハンガーに隠れる従魔を引っ張り出し、ニウェウスとシェルリアに投げる。床を這うネクタイが結び手たちの足を狙わないよう、威嚇射撃も忘れない。そして分業制の討伐はクライマックスを迎える。
「……おわった」
 達成感すら感じつつ、ニウェウスは言った。リフレクトミラーの力を得た、終焉之書絶零断章が絶対零度の魔法を放つ。濡れたネクタイは瞬時に凍り付き、巣食う従魔は果てた。ニウェウスはスッキリした顔で無残に飛び散る布だったものを見ていた。
(マスターのSい一面、イタダキマシタァ)
 ちなみにストゥルトゥスの少々失礼な言葉は、しっかりと彼女の耳に届いていたようだ。

●いざショッピングへ!
「怪物(モンストル)は全滅デース! 皆さんもう安心ですヨー!」
 シェルリアがぐっと親指を立てる。彼女に付き添われて、店員が館内放送をかけに向かう。
「あ、そこ気を付けてくださいね!」
 店員が足を止めると、フロアが水浸しになっていた。
「もー、キリがないよ」
 龍華は手の甲で額の汗を拭う。手にはモップ。先ほど撒いた水の後始末をしている。
「自分でやったことの始末は、自分でつけないとですよね~!」
 ノアはといえば他のメンバーが手伝いを申し出てくれたのを勝手に断った挙句、自分は手伝わず楽しそうに眺めている。
「ありがとうございました。しばらく客足は遠のくでしょうが、被害が出なかったのが一番です」
 いかにも人のよさそうなシャンゴリラの支配人は、深々と頭を下げる。
「客へのフォローならば、この後すぐに行えばいいのではないか?」
 小菊は玄関前でのタイムセールを提案した。
「父の日を前にそのぐらいの用意、既にあるのでは?」
「客さばきなど僕らも手伝いますので……」
 恭也は小菊と共に片付けとセールの準備、伊邪那美は怪我人の手当てを手伝っていた。彼女が話しかけた少女は無傷だったが、パンツに捕まった精神的ダメージを愚痴っていた。
「ほうほう、年頃になったら別々に洗って貰いたいと」
 そして伊邪那美は余計な知識を身に着けるのだった。
「ねえ、恭也 今日からボクの服と恭也の服は別々に……」
「別々にするのは良いが、自分の分は自分で洗えよ」
 ちょっと年頃の女の子ぶってみただけだったのに。伊邪那美は言葉を詰まらせた。
「えっと……ヤダな~恭也、ボクがそんな下らない事を言う訳がないでしょ?」
「はぁ……」
 すっかり平和を取り戻したシャンゴリラ。
「よろしければゆっくりしていってください。父の日のプレゼント探しはお済みですか?」
 にこやかに支配人は言う。小菊は不愛想に辞去の挨拶をする。カナエは贈り物探しに乗り気なようで、ため息が出た。
「さて、この後はどうしようか」
イオが広いホールを見回す。
「決まってマース! ショッピングモールをエンジョイするデスよ!」
 シェルリアは浴衣売り場に興味を惹かれたらしく、イオを引っ張って行った。
「ストゥル」
「ナンデスカ」
 ストゥルトゥスは妙な寒気を感じ、硬い動きでニウェウスを見た。ピンと伸びた白い指が差すのは喫茶店。
「今日……ストゥルの驕りね」
「イエスサー。奢らせて頂きますッ」
「今日の分、全部……だよ」
「アヒィ」
 きらりと光る鋭い瞳。とりあえず「スペシャルラグジュアリーパフェ」なる食べ物を頼んでみることにした。
 持ち前の過保護を発揮して早く帰りたがるギールの小言を、エミルはのらりくらりとかわしていた。
「ん、もうちょっと、あと少しー」
(ん、ギールは父じゃないけど、父みたいなもの……。良い物探そう……)
 プレゼント用に、従魔パンツを残しておけば良かった。などと半ば本気で考えていたのは秘密である。
 遊夜とリーヤはステーキで腹ごしらえをする。そのあとはファッション店を軽く巡り、映画を楽しむことにした。
「ん、先座って待ってて」
 手洗いにでもいくような調子でリーヤは離籍する。目星をつけていたプレゼント用のパンツを購入するためだ。
「ただいま」
 ふさりふさりと尻尾が揺れる。
「お、ご機嫌だな」
「……ん!」
 遊夜が頭を撫でると満足げな返事が返って来た。
 パパへのプレゼントは映画が終わるまでお預けだ。スクリーンでは夏休みの子ども向け映画が予告を始めていた。
「奴は礼どころか、プレゼントを受け取ったかどうかの連絡すらよこさん」
 父の日なんて、小菊には不快な思い出しかない。それなのに。
「そういえば、小菊のお父様にお会いしたことがありませんね。この機会に訪問しましょうか?」
 カナエは言う。父なんて大嫌いなのに。口にすれば新たな従魔でも現れそうな気がするからだ。
「奴は研究室から出てこないだろうよ」
「でも、せっかくですから。何かプレゼントを買いましょう
 しわが寄っていたのだろう。にこりとわらって眉間をつついてくる英雄。調子が狂う。
「……なら、この蛍光ペン5色セットを送りつけてやる。……適当に使って捨てたらいい」
「小菊の気持ちは無駄にはならないし、きっと伝わると思いますよ」
「うるさい、黙れ!」
 英雄が店員に頼んだラッピング。綺麗な包装紙と丁寧に巻かれたリボンのせいで、ぞんざいに扱うことができなくなってしまった

「ほら、こっちの方がオシャレじゃない?」
 真里亞も敏成にプレゼントをするらしい。
「断る! ブリーフは褌の正当なる後継者! 下着だか短パンだか分からない外見で見せたがりさんの欲望に奉仕するトランクスは資本主義の悪辣さ……」
「あ、これも可愛い!」
 黒と黄色のストライプやら、キャラクターの顔がでかでかと入ったものやら。派手すぎて穿けたものではないと敏成は首を振る。
「これなら目のやり場に困んないし!」
「だから何で部屋入る前提なんだ!」
 真里亞は懲りずにピンク地にイチゴ柄が入ったトランクスを敏成の眼前に突き付けたのだった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • カフカスの『知』
    ニウェウス・アーラaa1428
  • エージェント
    シェルリアaa5139
  • 閉じたゆりかごの破壊者
    紀伊 龍華aa5198

重体一覧

参加者

  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 死を否定する者
    エミル・ハイドレンジアaa0425
    人間|10才|女性|攻撃
  • 殿軍の雄
    ギール・ガングリフaa0425hero001
    英雄|48才|男性|ドレ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • カフカスの『知』
    ニウェウス・アーラaa1428
    人間|16才|女性|攻撃
  • ストゥえもん
    ストゥルトゥスaa1428hero001
    英雄|20才|女性|ソフィ
  • 憧れの先輩
    須河 真里亞aa3167
    獣人|16才|女性|攻撃
  • 月の軌跡を探求せし者
    愛宕 敏成aa3167hero001
    英雄|47才|男性|ブレ
  • 心頭滅却、人生平穏無事
    奈義 小菊aa3350
    人間|13才|女性|命中
  • 共に見つけてゆく
    青霧 カナエaa3350hero001
    英雄|25才|男性|ジャ
  • エージェント
    シェルリアaa5139
    人間|19才|女性|命中
  • 享楽の檻を滅ぼす者
    イオaa5139hero001
    英雄|13才|男性|カオ
  • 閉じたゆりかごの破壊者
    紀伊 龍華aa5198
    人間|20才|男性|防御
  • 一つの漂着点を見た者
    ノア ノット ハウンドaa5198hero001
    英雄|15才|女性|ブレ
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