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広告塔の少女~君の必殺技はこれだ~
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最終発言2017/05/30 01:12:45 -
これが私の全力全壊!
最終発言2017/06/01 02:01:54
オープニング
● デバックもやるのか、遙華よ。
そこは遙華の執務室、電気もつけず机の上の光を頼りに遙華はひたすらにコントローラーをガチャガチャこねくり回していた。
「あああああああ」
画面に映し出されているのは二人の人間。どちらも派手な見た目であるが、拳で殴りあっているようだ。
つまりは格ゲー。格闘ゲームのデバック作業を遙華は手伝っていたのだが。
遙華は本来こういう操作の難しいゲームは苦手だ。
反射神経が圧倒的にないためである。
なので普通の難易度でもラスボスに勝てないと言った事態が発生する。
かといってこれをクリアするためにコンボ練習をするのもめんどくさい。
「ああああああ、ああああああああ!」
遙華のコントローラー捌きは激しさを増していく。
単にイライラがこもっただけの行為なのでキャラの動きがよくなることはない、むしろ画面上のキャラクターは動きを鈍くしていく。
そしてHPバーはみるみる削られていく。
「ああああ! ああああああうわああああああああ!」
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャ!
直後響く軽快な音声。
KO!! という言葉。
「もおおおおおお、うああああああああ!」
直後金切り声をあげてコントローラーを上空に投げ捨てる遙華。
その直後部屋の電気がつき、いつの間にそこにいたのだろうか。
ロクトが空舞うコントローラーをキャッチしていた。
「ワイヤレスコントローラーになった弊害ね、みんなコントローラーを大切にしない」
そう穏やかにロクトは告げてコントローラーをテーブルへ下ろすと遙華の隣に立つ。
「勝てない! 勝てないわロクト!」
ロクトは珍しくイライラする遙華に慈愛の視線を向けてしゃがみこんだ。
そして諭すようにロクトは遙華へ語りかける。
「慣れないデバック作業なんて受けるから、悪いのよ」
「だって!!」
事業所を見てきたらなんだか大変そうだったから思わずちょっと手伝うと言ってしまったのだ。
「それよりやるべきことがあるでしょう?」
ロクトは告げる。そして手元の資料を手繰り寄せて遙華に見せた。
「リンカーの動きを参考にした、必殺技モーションの開発か……」
遙華は汗をぬぐって椅子に腰かけ直した。
「ああ。興奮して文字が頭に入ってこない」
「アドレナリンを強制的に分解する薬もあるわよ」
「怖いからやめておくわ」
そして資料に一通り目を通してからゲーム機の電源を切る。
「このゲームまだ必殺技モーション搭載してなかったのね」
「一度全部没になっているからね」
「役者も悪かったんじゃない? ある程度実戦経験のあるリンカーでないと……」
「そうね、私も同感。だからあなたが頼られているのよ、遙華、あなたからH.O.P.E.の方に口添えして、リンカーを連れてきてくださいって」
「ああ、なるほど」
遙華は頷くと、とりあえずその資料にハンコを押した。そして受話器を取る。
その後、夜遅くに電話をかけてしまったことを謝罪するはめになったのは言うまでもないだろう。
● 募集要項。
今回のミッションは『リンカーズバトラー』という、家庭用ゲーム機向けの格闘ゲームのモーションをキャプチャーする仕事です。
皆さんの動きを元に必殺技が作られるので、派手なコンボを期待しています。
内容としては、人質君一号という人形がいるので、この人形に技を叩き込むだけ。
その中でも皆さん全員で手分けして下記の要素を満たす必殺技やコンボを考えてみてください。
一連のモーションの中に、スキルを組み込んでいただいて構いません、また実戦では出来なさそうな動きでもゲームの中ならありです。
必殺技中は敵の動きは止まりますし、かわされることもないので。
なので派手さを重視して演出してみてください。
1近距離系
一番オーソドックスな型。的に近距離攻撃を放つ。演出として武器が大きくなったり、強そうになったりしてもOK。
蹴りや拳や投げをからめた連撃系。や超威力の一撃を放つかんじでもOK、相手と密着している状態で放てる必殺技をお願いします。
2武器連携系
複数種類の攻撃手段を織り交ぜた必殺技をください。槍と大剣を使っての攻撃だったり、近接攻撃をしてから距離を使っての遠距離攻撃だったり。
クールでスタイリッシュな連続技を見せてください。
3遠距離系
銃や魔法での必殺技をください。発動位置が敵から遠いのですが。そこから一気に接近して至近距離から打ち抜いたりするのもありです。
この時もし必要であれば衣装が変わったりステージが変わったりという演出をしてもかまいません。
全体的にド派手でファンタジックであるとよいです。
4飛行系
必殺技発動時だけ空を飛ぶ演出が入ります。
飛行しているが故の身軽さや素早さ、距離などを生かして圧倒的絶望的なコンボ、もしくは一撃をみまってください。
この時、飛んでどこか遠くの空に行ったり、地球圏外に行ってしまっても構いません。ゲームなので背景はいくらでもなんとでもなるのです。
空中であることを生かしていただきたいので少し難しいかもしれません。
5協力系
自分の分身や、仲のいいキャラクターを召喚して協力攻撃を仕掛けます。
息の合ったコンビネーションで敵を翻弄してください。
掛け合いのセリフなどあるとお面白いかもしれません。
幅広く可能ですし、相手方との打ち合わせが必要かもしれません、ちょっと難易度高いかもです。
また、一連通してセリフなどついていると助かります。
文字数が足りるのであれば一人何種類でもやっていただいて構いません。
解説
目標 必殺技撮影。
● ただしトラぶるグロリア社
と、まぁ。ここまで普通のお仕事の依頼ですが、遙華の依頼がこんな大人しく終わるとは思えません。
そうトラブルが起こります。
と言っても今回はそこまで重大じゃありません。
アルスマギカが人質君に乗り移って反撃してきますし、逃げます。
遊んでほしいようですね。もはや慣れっこで、遙華とロクトは近所の子供を観るようなまなざしを向けています。
必殺技を叩き込むと空気を読んでコントロールを返却するようなので。
動き回る人質君、反撃してくる人質君の動きを協力して止めてから必殺技を放ってください。
逃げた人質君の数は空気を読んで試したい必殺技数と同数です。
人質君は格闘で反撃してきますが動きが緩慢としているので普段前衛をやられている方には退屈な相手となるでしょう。後衛の皆さまはちょっと怖いかもしれません。
ちなみに一発で確実に生命力を1削ります。
囲まれてふるぼっこにされると、ゴリゴリ体力が削れるので、注意しましょう。
● 追加で、もし必要であればの要素。
今回、やることが多くないので、文字数余ってもったいないなぁって人は、遙華やロクトやアルスマギカとお話ししていただいても構いません。
話しかけていただければ適当に反してくれるでしょう。
リプレイ
第一章
「遙華ちゃん、お誘いありがとう♪ 夜中に携帯鳴ったのはびっくりしたけど」
『世良 杏奈(aa3447)』はそう遙華の頭を撫でながら微笑んだ『ルナ(aa3447hero001)』は苦笑いしながら遙華に歩み寄り耳打ちする。
「杏奈は起きてたんだけどね。暗い部屋でホラーゲームやってたみたいよ」
「それは…………旦那は一発で倒れそうな話ね」
時はお昼ご飯を済ませた午後。六月だというのに熱くなりつつあるこの頃、こんなに天気がよくとも、もはや昼時にも眠気は来ない。
「それにしてもゲームに出られるなんて夢みたいね!」
しゃっきりと杏奈はつぶやいて、遙華の手を取る。そして気合ひとつ壁に並べられた人質君たちを見渡した。
「ゲームか、アナログ派とはいえまったくやらないわけじゃないぞ」
『彩咲 姫乃(aa0941)』はコントローラーを持つ仕草をする。
「ららら?」
ロクトが『メルト(aa0941hero001)』を眺めながらerisuの真似をした。
それを触れない方がよさそうだと見送って、姫乃は気を取り直し、告げる。
「リンカーになって戦い方が明確になってからは反射神経とかがすさまじく成長期だからな。格ゲーとかも多分大丈夫だろう」
必須コンボとかの研究はしない感覚派ゲーマーである姫乃は遙華のコンボ練習めんどいという気持ちは理解できる、意外と二人は気が合うのかもしれなかった。
「必殺技……ね」
対してアンニューイにつぶやくのは『水瀬 雨月(aa0801)』である。
「どうしたの雨月、物憂げね?」
これは元から。そう『アムブロシア(aa0801hero001)』言いかけたが、めんどくさかったのでやめた。幻想蝶の中で居眠りを決め込む。
「わざわざ名前を叫んでいたら普通は隙だらけなんでしょうけど、ゲームに現実の価値観を持ち込むのは無粋ね」
「まぁそう思うのも無理はないわね、ただゲームなんてご都合主義だし。戦闘中に時間が止まるのもざらだし。演出重視じゃないと飽きられちゃうから」
「演出ね……。まぁリンカーは個性的な人も結構いるから、派手派手しさには困らないでしょう」
そうあたりを見渡す雨月。視線の先には『卸 蘿蔔(aa0405)』と『蔵李・澄香(aa0010)』がいる。二人は既に共鳴済みで、ひらっひらのふりっふりのきらっきらである。必殺技の演出用衣装だそうだ。
「……私も個性的の範疇に入るのかしら。うーん……」
「動的な方面で無く、静的な方面では個性的だと思うわ」
遙華がフォローにならぬ単なる感想を雨月にぶつけた。
そんな、アイドルのような、魔法少女のような女の子たちはというと、仕事前のおしゃべりに興じている。
「せっかくですし苦手な人でも楽しめる、初心者救済用のキャラに使ってほしいですねぇ」
そうつぶやく蘿蔔は、手元の紙に色鉛筆でお絵かきしている。さらさらと書くわりに上手で魔法でも見ているみたいだ。
そんな彼女にレオンハルトは言葉を返す。
『レオンハルト(aa0405hero001)』
――……遙華に使ってほしい?
「モチのロンです。でもそれを言ったらレオンにもですよ」
「あ、いや。俺は横で見てる方が好きだから……」
「あら、可愛らしいキャラクターですね。これが卸さんのイメージするキャラクターですか?」
そう通りがかった『構築の魔女(aa0281hero001)』が問いかけた。
「シロは同人活動をしてますからねぇ。どこかの不良シスターと共に」
そう澄香は構築の魔女に挨拶しつつ『クラリス・ミカ(aa0010hero001)』をみた。
クラリスは涼しい顔しながらタブレットを触っている。
ちなみに『辺是 落児(aa0281)』の姿が無いが、すでに構築の魔女と共鳴済みである。
「はい、必殺技を使うキャラは可愛らしい外見とスピード&射撃型で……」
「私はあまりゲームをしないのでよくわかりませんが、可愛いキャラクターが動いているとみている方も楽しいのでしょうね」
「はい、それに楽しんでもいただきたいので」
「通常難易度のストーリーモード等は比較的楽にクリアできるような、キャラクターが、いいなって、思います」
ちらりちらりと遙華に視線を送る蘿蔔。
「こういうのもリンカーと皆さんの架け橋になるのでしょうか? あ、そうだ。西大寺さん」
そう手招きされて、遙華と雨月は輪に加わる。
「必殺技モーションの撮影を行なったリンカーを隠しキャラとしてゲームに組み込むのはいかがかしら」
「うーん、そうなると別モーションの作成とか、いろいろ手間はかかるけど、ダウンロードコンテンツとしては面白そうね」
割と要望がすんなり通って沸き立つ一行。
そんな一同に微笑みを返しつつ遙華は澄香の隣に座った。そう言えば挨拶をしていないことに気が付いたのだ。
「ゲーム作成のお仕事だね。ぜ、前回は体調がダメだったけど、今日は大丈夫だよ!?」
澄香は気合一発拳を握る、対してクラリスはいつものようにクールに言葉をかけた。
「以前のお仕事……ソングオブサマナーのその後は如何でしたか?」
「ああ、あれはかなり売れてるわよ、今度アーケード版創るって話になったわ。まぁもともとそっちを狙っていたんだけど。またお仕事頼むかも。よろしくね」
そんな雑談を見守りながら『八朔 カゲリ(aa0098)』は感情のこもらない視線を
『ナラカ(aa0098hero001)』に向ける。
「おい。最近多くないか」
「ん? 何かな? 突然」
そう声をかけたナラカはノリノリで、準備ができ次第澄香のところに乗り込もうとしている様子。仲がいいのはよいことだが、こうお遊びのような任務ばかり持ってこられるとカゲリも困ってしまうのだ。
「いや…………」
どう言葉にしようかカゲリが迷っているとその時である。突如、関節を軋ませ起動する。人質君達。
「あ! アルスマギカ!」
そう遙華が気付いたときには遅く、一目散に駆け出す人質君達、目指すは出口。
「逃がすかって!」
その内の一体に飛び乗る姫乃。ガッと頭に飛び掛って頭を太ももで挟み込んだ後回転を加えて投げる。
大きな音を立て壁に激突した人質君は、きゅいーんという音を立てて大人しくなった。
「えっと……無力化して問題ないよな?」
やってしまった後に聞かれても、そう苦笑いを浮かべる遙華。
「おお、すごいね。姫乃ちゃん」
そう澄香が拍手を送った。
「ああ、ちょっとサブミッションの練習中でな」
サブミッションという言葉に首をひねる澄香だったが、それに構わず姫乃は遙華に告げる。
「そこの西大寺とロクトは生暖かい目を向けてないでロープ持ってきてくれない?」
こうして、モーションキャプチャー兼アルスマギカ確保の任務が始まる。
第二章
姫乃は廊下を全速力で駆けていた、ガションガションと重たい音をたて逃げる人質君を背後から追跡する。
「意外としっかり走るな……」
そうつぶやく姫乃はスピードファイター、鉄塊が逃げ切れるはずがなく、人跳躍で加速するとあっという間に最後尾についた。
「ワイヤーアクションで飛行系って発想は――、ありか?」
直後姫乃はサイドステップ。人質君の死角に潜り込み出方を見た。
ウイーンと機械音を鳴らしながら、人質君の顔が姫乃を映す、次の瞬間である。
「ほら、捕まえてみな」
踏込み、腰をひねって勢いをため。そして、ストレートブロウにて人質君を巻き上げた。
「でないと――」
ごぱっと激しい音がなる、そして打ち上げられたその人質君をかく乱中に仕込んでおいたワイヤーで絡めとり。
そのまま変則サブミッション。空中で碌に身動きできない相手を蜘蛛のように絡めとる
「駄目だな、もう逃げられない」
ギリギリと張り詰める姫乃の糸。その糸は各部位を締め上げるも。小指の糸だけを緩める姫乃。
直後、上空に仕込んでいたアステリオスがゆらっと落ちる。姫乃の背後で。人質君の首が飛んだ。
「あーーーー!」
遙華の叫び声がこだまする。
「あ! 悪い西大寺、けど手加減できそうにないかな」
「うう、良いわよ、修理くらい簡単に……」
そう動かなくなってしまった人質君を聖母のように抱き留める遙華。
「あなたも、バーサーカーにやられてしまったのね」
「人聞きが悪い!!」
姫乃が絶句する。
「いいわ、やって、遠慮せずやってちょうだい!」
「泣きながら言わないでくれ!」
戸惑う姫乃
「これは演技よ、大丈夫、大丈夫」
どう見ても演技に見えないが、悶着につきあっている暇はないのでお言葉に甘える姫乃である。
「じゃー、次は武器連携系も」
直後姫乃は逃げ惑う人質君にアステリオスをぶん投げ、それをワイヤーで絡めとる。
「有象無象をなぎ払う!」
それから間合いが広くなった大斧を疾風怒濤の勢いででぶん回すと周囲を薙ぎ払う一撃の完成である。
「サイクロンリッパー!」
その一撃で足を狩られバタバタとすっころぶ人質君たち。
「おお、姫乃ちゃんかっこいいね」
対してその後方に控えていた澄香。
彼女の今日の装備は移動力特化なため、姫乃の後をついていくだけではなく。天井や壁を足場にしてぴょんぴょん飛び回ることも可能である。
そんな澄香に向かって、起き上がった人質君が走り寄ってきた。
澄香であれば突破も簡単と思ったのだろう。だがそれが運のつき。
「よいせっ!」
澄香は人質君の動きを観察、力のベクトルを止めるのではなく、いなし、円運動に変え。重心を手触りで把握。回転するように力を送り込むと。
人質君はいつの間にか澄香に組み伏せられていた。
――澄香ちゃんが合気道を!?
「雑誌に載ってたのを真似てみた」
――…………。
本で読んだだけでマスターするなんて、天才と呼ばれる所業である。
ただし、言えば調子に乗りそうなので黙っておこうと胸にしまうクラリスであった。
「動きが単調だな」
――さすがは、ろぼっと? と言ったところだろうか。
その脇を駆け抜けて人質君を抑えに走るカゲリ。
その腰の刃に手を当てて。踏み込む勢いと共に抜刀。
レーギャルンから焔刃を放つと同時にさらに加速して、一足のもとに接近した。
爆炎が舞いあがり、壁に叩きつけられる人質君。
そんなロボットへ振り下ろされるのは無情なる刃。
カゲリは、人質君を抜身の双剣で斬りつけた。
「まだ、動くのか」
だがそれで終わりではない。
業火を纏った刃の次に待っていたのは、双銃による賛歌。
ゼロ距離で銃弾の嵐をみまう。マズルフラッシュが彼の顔を照らした。
「カゲリさんもすごい!」
澄香がカゲリに駆け寄った。
「これでいいのか?」
「派手さが足りないわね」
尋ねるカゲリに、答えを返すのは遙華。
「派手さか……それが実戦で何の役に立つのかは疑問だが」
カゲリにとって必殺技と呼べるのは、刃への滅焔付与やリンクコントロールでの自力の底上げである。
あとはレーギャルンへの納刀や銃への切り替えといったスタイルチェンジか。
「まぁ、良いわ。それじゃ私たちはあっちに行くから、お願いね」
そう、そよそよと手を振って走り去る遙華の背中にため息をつくカゲリ。
――覚者が気乗りせぬなら私にやらせてくれ。
そんなカゲリにそんな提案をナラカはぶつける。
「……好きにしろよ。と言うか、元よりお前がやりたかっただけだろう」
――まあ、否定はせぬよ
まさかこの時の事態があんな事件に繋がろうとはカゲリは知るよしもなかった。
炎がカゲリを纏う、次いでその炎を払って現れたのは強大な力をその身に纏わせた神鳥の権化である。
* *
『染井 桜花(aa0386)』は曲がり角の向こう、人質君の目の前に躍り出た。
「……まずは小手調べ」
先ず放たれたのは絶技・枝折。相手の腕や脚、四肢の間接を外し砕く技。
「……その枝を砕き」
次いで相手の後頭部を掴み、顔面を地面に叩きつける。絶技・兜割りへ続き。
――……兜を砕き
叩き付け後、掴んだまま顔面を地面につけて。
「……そして擦り下ろす」
そのまま走り顔面や体を擦り下ろす絶技・紅葉卸。
最後にピクリとも動かなくなった人質君を床に横たえ。桜花は一瞥。
そして足を振り上げた。
――……そして咲くのは紅い華。
「これぞ……連携絶技・四技の重ね」
『ファルファース(aa0386hero001)』の言葉に、謳うようにセリフを重ね桜花は人質君の頭を踏み抜いた。
その一連の連撃を必殺技として登録するようだ。
そんな調子でリンカーたちのお仕事は順調である。
「それで逃げられるとお思いですか?」
そう告げ、窓を突き破り屋外に躍り出たのは構築の魔女。
地面に四足で着地すると、装備されたメルカバを素早く連射した。
その弾丸は的確に人畜君の動きを止める。
「今ですね」
直後、構築の魔女はメルカバをパージ。
その手に握られていたのは二丁の拳銃。
次の構築の魔女の動きは早かった。
的確な位置取り、死角と逃走路の計算。
相手の動きを総べて潰すような動きで人質君に最接近。
それはさながら、消えた死神がふと姿を現したように見えただろう。
直後構築の魔女は背後から人質君を蹴り上げ、双銃による銃撃を浴びせつける。さらに落下してきた敵を蹴り飛ばし。双銃を腰に戻した
「これで……、果てなさい」
最後に構築の魔女が取り出したのはMRL、放つ弾幕の向こうに人質君は消えた。
「狙撃手にとって己の肉体はもっとも信頼する道具の一つ……御理解いただけたかしら?」
そう爆発を背に髪を抑える構築の魔女、しかし彼女の活躍は終わらない。
構築の魔女の視界に入った。人質君。
それを足止めするために弾丸を放った。
「ありがとうございます!」
そう蘿蔔は告げると、速度を零にした人質君に告げる。
「では行きましょうか。あざとく、可愛く、らぶりーに」
(あくどく、抜け目なく、一方的にだろうこれ)
そうレオンハルトは思ったのだが、言わない。絶対言わない。
そして蘿蔔を謎の光が包む。
フリフリでリボンマシマシのファンシースタイルである。
そしていつの間にかその背後にはステージーが展開されており、蘿蔔はふわりを宙を舞いながらそのステージに飛び乗った。
「今日は私のライブの為に集まってくれてありがとー!!」
そう叫ぶと、どこからともなく沸き立つ歓声。
ハートのエフェクトを巻き上げながら蘿蔔は声に手を振った。
そんな蘿蔔に、視線を奪われるアルスマギカ。
恋しちゃったわけではない、何を始める気なのだ? という視線である。
そして蘿蔔は動く、ステージをふわりふわりと舞うようなダンス、だが発される弾丸はらぶらぶ・ズッキュンのものであり。
つまり当たるとやばい。
「私の愛、受け取って!!」
懸命にそれを避ける人質君だったが。最後に放たれたハート形のレーザーは避けることができなかった。
ピンク色に染まる空間と人質君。
最後に蘿蔔はふわりふわりと飛んで近寄って人質君のそばに着地。
その時にしりもちをついてしまっても許される、だってアイドルだから。
「またやっちゃいました、えへへ」
実装されれば、蘿蔔のこの表情はきっと採用されるのだろう、それくらいにこびこびの笑顔であった。
「ちなみに、この着地をミスしないバージョンもあります」
そう立ち上がりながら告げる蘿蔔。
――へぇ、どんなのなんだ?
人質君をわざと立たせて蘿蔔はある程度距離を取る。再度ステージから飛び立って着地のシーンから始める蘿蔔。
「こんな感じです」
次いで鮮やかに着地した後、攻撃対象である人質君のもとへ急接近。
「………絶対、逃がさないから」
低い声耳元でささやく蘿蔔。ゼロ距離射撃で心臓部分を打ち抜き。フィニッシュである。
――怖いわ!
そう戦慄するレオンハルトであった。
第三章
『晴海 嘉久也(aa0780)』は大剣を引きずってあるいていた。だが目標を確認すると即座に加速。
「神炎解放……参る」
自らの炎のオーラを使って巨大な腕を具現化する大技である。
対象を烈火のような一撃で殴ってから、握りつつ。燃え盛るオーラは徐々に徐々に収束していく。
対象は圧縮を解かれた瞬間に大爆発を起こすというものだ。
グラップ・ブラスト、と名付けられた技である。
「爆散!」
業火がグロリア社の廊下をなめる。
その炎に巻き込まれた敵へと晴海は悠々と近づいた。
そして構えたのは 多連装ロケットランチャー、そしてそのまま晴海は加速した。
そして人質君に接敵すると炎のオーラで作った巨大な腕を具現化させる。
その腕に装備した巨大剣を振り下ろして対象を両断し、返す刃で水平に切り捨てた。
「黄泉路の路銀にお釣は要らぬ、最後まで……耐えて見せよ」
轟々と燃えたつ炎の向こうから晴海が現れる。
見るに雄々しき一撃、半分が特殊な技術による再現だったとしても、他者を畏怖させる一撃としては十分だろう。
だがそれに負けず劣らず凶悪な技を構成しているのがあちら、
「凍てつけ身も心も全て……そして爆ぜなさい何もかも」
そう小さくつぶやいたのは雨月。その手の魔本から冷気をぶつけると、人質君の動きが止まった。
指の先すら動かなくなっていく感覚。その恐怖を焼き払うように。
雨月は指を鳴らした、直後ブルームフレアの炎が全てを焼き尽くす。
「あら……まだ息があるのね? 終わっていた方が楽だったでしょうに」
そう爆炎の向こうで逃げ惑う人質君たち。そんな人質君たちを見ていると雨月に歩み寄ってくる個体がいるではないか。
おそらくは立ち向かうことを選択した個体なのだろう。
「随分迂闊ね。近づけば有利だとでも?」
そんな一体に雨月は歩み寄り。足を払った。
そしてその手から発されたのは雷撃の槍。
「雷に貫かれるのではなく焼かれる痛み、味わった事はあるかしら」
だがそれは囮、本命は背後から近寄る人質君。
「ルナティック・フォール」
だがそんな雨月を救ったのは虹色の光を纏いながら隕石の如く体当たりしてきたルナだった。
「大丈夫?」
「ええ、私は平気」
ルナの言葉に雨月は微笑みを返す。
――今の水瀬さんを見てたら私もやりたくなっちゃった、変わって頂戴?
そう囁く杏奈の声は、心なしか黒く染まっていて。
(どうするつもりなのかしら)
雨月はそのお手並みを拝見することにした。
「サディスティック・パニッシュメント」
前に躍り出た杏奈。帽子をてで抑えつつ人質君たち上空に作り出したのは巨大なハイヒール。
それを落として更にグリグリと踏みつけるという、ドMさん大歓喜な技を披露する。
「悪いコにはおしおきよ?」
そう杏奈は甘く囁いた。
次いで、起き上がろうとする人質君を連続で切りつける杏奈。
ブラッドナイフという近距離技である。
「なるほど、そう言うノリね」
雨月は頷くと、今度はネクロノミコンを展開。魔法を触手状で撃ちだした。
「ようこそ楽しい楽しい夢の世界へ」
からめ捕られていく人質君たち。
その表面をジュルジュルと撫でる触手は正気度が減りそうなほどおぞましい。
「気が狂うほど楽しいでしょう? 遠慮はいらないわ。ゆっくり堪能して頂戴……あはははは!」
「それいい!」
雨月の演技に興奮した杏奈、その手に握ったナイフの先端からティンダロスの猟犬を召喚。
猟犬は相手に飛び掛かる。
気が付けが二人の魔女の周囲には屍の山が築かれていた。
「もう壊れちゃったのね。何だか呆気ないわ……」
* *
思わぬ二人のコンビネーションが見られたところで、今度は魔法少女と魔女の競演を見てみよう。
二人は庭園に逃げ込んだ人質君たちを追っていた。はずだった。
しかし構築の魔女の隣には澄香の姿はない。
「魔女と魔法少女の饗宴楽しんでいただけるかしら?」
そう目の前の人質君たちに告げ、構築の魔女は周囲に仮想端末を展開する。
素早く動くしなやかな指先。構築の魔女が全ての事象を再構築すると。
不敵に笑う魔女の周囲を、砕けた情報端末の欠片が彩る。
その陰から飛び去ったのはエンジェルスビットだった。
そのビットは円を描き、空に紋章を浮かび上がらせる、するとその中央から現れたのは魔法少女。
「魔法少女クラリスミカ、お呼びとあらば即参上!」
「お願いします」
「任せて!」
次いで澄香は英雄絵巻を展開し周囲のエンジェルスビットが分割された絵巻と合体。
それはまるでガトリングガンのようにも見える。
そんな少女の隣に魔女が躍り出る、その腕にはメルカバが装備されていた。
重装備で身を固める二人の女性。
そして二人は。人質君に狙いを定める。
マズルフラッシュが二人の顔を彩った。
一斉射撃、その場に縫いとめられた人質君だったが。
その隣に構築の魔女が瞬時に移動。
メルカバの砲身で敵を打ち上げた。
「魔女様。僭越ながらここからはわたくしが」
直後、構築の魔女の頭上を走る魔法少女。
しかしその姿は光に包まれると、シスターへと代わる。
「えぇ、ミカちゃん、お願いするわ」
構築の魔女は視線を伏せた。
その耳に届くのは重たい薬莢を装填する音。
「パイルセット、炸薬術式起動。ファイア」
その人質君を上から抑えるようにバンカーを当て、そして。
クラリスは人質君を地面に叩きつけた。
直後光と共にクラリスが着地。煙の向こうから現れたのはピンク色の魔法少女であった。
その周囲をミニスミカと、構築の魔女のコスプレをしたミニスミカが回っている。
そして二人はハイタッチを決めた。
第四章
――復讐するは我にあり。
重く静かに『オウカ(aa2154hero001)』の声が室内に響く。
「さ、ゆらりと行こウ」
そうおぼつかぬ足取り、しかし隙のない構えで敵に接近するのは『大宮 光太郎(aa2154)』だった。
その手は妖刀『華樂紅』にかけられている。
そんな光太郎に。屈強な男性キャラクターが殴り掛かった。
「甘イ」
その時風がふわりと男をなぜる、三度の風圧。ただ痛みもなく。その体には三本の傷が刻まれている。
いつの間に抜いたのか、目にもつかない早業だった。
「我等が復讐心、その身を以て思い知ったかナ?」
そう刃から血を払う『亡霊陰陽師侍』の目の前に次なる敵が乱入する。見た限りでは忍びの者。
であればあの技がいいだろう。そう光太郎はにやりと笑った。
「俺達を、キミに見せてあげるヨ」
直後亡霊陰陽師侍は共鳴を解除。オウカは雷斬を手に、その場から消える。
「さぁ、猫さん!お願いしますにゃ!:
光太郎は黒猫『オビィンニク』で忍びへ攻撃を仕掛ける。
敵の周囲が炎で包まれた。
その業火の向こう側から姿を現したのはオウカ
「フフッ、ワタシを忘れて貰っては困りますよ…………?」
その後オウカが人質君の背後に現れ背中を斬りつけ、その後共鳴する。
「さぁ、ラストスパート!」
雪村と妖刀の二刀流で、すり抜けざまに斬撃、切り上げ。反転。袈裟切りにし。足をすくい上げる。青白いエフェクト、血のような赤いエフェクトが交差して。
最後にすべてを切り裂くように十字の斬撃を放つ。
「これが…………俺達ダ」
そんな華麗に必殺技を放つ自分のアバターを見て目を輝かせる光太郎。
そんな光太郎の様子を見て遙華はフフンと胸を張った。
本日はキャプチャーされたキャラクターが実装されたのでそのチェックと、モーションの修正追加を行う日である。
それ故にリンカーたちはゲーム機が大量に並んだ部屋に案内されていた。
「うーんもうちょっと動きをシャープに」
「コマンドむずい」
そんな風にぼやきつつテストプレイをこなしてくれているリンカーたち。
自分が画面の中で踊っているとだけあって楽しそうである。
「あああ! にしても敵が強すぎる! 難易度を下げられないのかしら」
そう遙華が投げたコントローラーをキャッチする雨月。
癇癪を起す遙華の頭をそっと雨月は包みこんだ。
「だめよ、そんなにむしゃくしゃしてたら。昔あった、キー〇ードク〇ッシャーみたいにネタにされるわよ」
そして徐々に落ち着きを取り戻す遙華の隣で、投げ捨てたコントローラを手にしたのは澄香。澄香もゲームにはなじみがないが、楽しそうなので興味はあった。
「カゲリさん使っていい?」
そう隣に座るカゲリとナラカを見て問いかける澄香。
無言で頷く二人、そしてゲームが始まった。案外するするとステージをクリアしていく澄香。
ただ運が悪かった。
「うわ、隠しボスだって」
「低確率で出てくるようになってるわ」
目の前に現れたのは邪英化したナラカである。
ここに共鳴状態カゲリと、邪英化状態ナラカ……夢の戦いが再現された。
「よし! 倒しちゃうぞ」
「ああ、よろしく頼むよ、澄香」
そう微笑をたたえたナラカは自分を叩きのめすことを促す。
だがそうはならなかった。
先ず、ナラカは開始位置カウントで滑るように移動。
カゲリの首を掴み持ち上げ、浄化の焔で焼き尽くした。
「え?」
しかし体力はまだ残っている、反撃に出る澄香だが、素早く距離を取られてしまい。
追撃の旋風。画面半分を浄化する炎がカゲリめがけ吹き上げる。
「ええ!」
さらにスタンしているカゲリの上空を取ったナラカ。
その炎の翼をはためかせ。カゲリの首を掴むと遥か天空より、ライヴスショットで地に撃ち放つ。
「ちょ、これ……」
「いやいや、これで終りではないよ」
ナラカが微笑んだ。
直後ステージが変更される。黄金に燃える浄化の焔の世界へと。
制限時間が切れると同時に敵体力ゲージが尽きる程度のスリップダメージを強制するクソステージである。
「まけた! っていうかこれは何回やっても勝てる気がしないよ!」
コントローラーを投げ捨てる澄香であった。
「うむ、どうだ覚者よ、我が強さを理解できたかな?」
「所詮ゲームの話だろ?」
そうカゲリは小さくため息をつく。
「さぁ、最後に桜花のモーションを実装したわ、見てちょうだい」
アップデートが済んだゲーム機のコントローラーをモーションの主である桜花に渡す。
さっそく自分のキャラを選択。コマンドを打ち込んだ。
「……これは終の舞 ……貴方への手向け」
大鎌を軽々と回し、その斬撃を相手に浴びせる桜花。
「……地に咲くは紅い華」
さらに対象を蹴り上げて。
「……華は天に昇るども」
それに追いすがり斬撃をみまう。
「……散華し散りゆく紅い華」
さらに蹴りつけ、敵を地面に叩きつけ。
「……花弁は真紅の雨と共に降り落ちる。……故に、天に残るは黒い華」
そして叩きつけられたキャラクターに桜花は謳うように告げた。
「……おやすみ。……永遠に」
エピローグ
そうこうしている間にもう夕ご飯時である。ゲームをしていると時間が早く過ぎる、モーション撮影部屋とゲーム部屋を行ったり来たりしているとなおさらだろう。
「うへー、疲れた……でも楽しかったにゃ!」
光太郎はそうのびながらコントローラーを置いた。さすがに休憩である。
「……光太郎様、陰陽術は?」
「……あ」
唖然とするオウカと光太郎であった。
ただそれに対して少女たちはまだ元気いっぱいなようである。
「遙華お久しぶりですね」
「あ、蘿蔔。この間はあまり話せなくて残念だったわ」
「私もです。それにしても……いつもあんな時間までお仕事してるのです? 体大丈夫ですか?」
「ああ、ごめんなさい、私は大丈夫だけど、蘿蔔は寝ていたわよね?」
その言葉には代わりにレオンハルトが答えた。
「ああ、こっちは気にしなくていいよ。電話来た時も蘿蔔ゲームしてたから、ね?」
「あなたも夜更かし屋さんじゃない、体大丈夫? 学校は?」
「大丈夫ですよ~」
そう、ふにゃふにゃとした口調で告げながら、蘿蔔は縛り上げられて人質君に歩み寄る。
中身はアルスマギカで、接触するのは何回目だろうか、もう軽く友達の域である。
そんなアルスマギカに蘿蔔は語りかけた。
「この前歌っていた、ベラウバ・ヒューバの言語なんですけど、教えていただいていいですか?」
「ヨイヨイ」
人質君が腕をカショカショ動かしながら告げる。
「あ、あのじゃあ……先生って読んだ方がいいですか?」
「センセイ、ウレシイ」
「あれ? こんなに片言でしたっけ?」
クラリスが尋ねた。
「遙華と接続すると揚々としゃべるようになるのだけどね」
ロクトが答える。
「よっし! 引きこもる時間は終わりだ! 体を動かすぞ!」
そんな二人の会話を遮って立ち上がった澄香。
「アルマギちゃん。グロリア社のマスコット(?)として、きぼうさに負けてられないよ?」
そう澄香は人質君の手を取り、なおかつ手早く人を集めていく。澄香、蘿蔔、構築の魔女、ナラカで即席ユニットの完成だ。
「うーむ、今まで芸というものに深くかかわってこなかったがなぁ、まさかこんなところで」
少したじろぐナラカ。
「アイドルデビューだ!」
「そ、そうかあいどるでびゅうか」
澄香の言葉にたじたじと言葉を返すナラカである。
しかしひとたびマイクを握れば音感はとれており、しかも体も動く、すこし訓練すればすぐにものになるだろう。
逸材だ。クラリスの目の色が変わる。
アイドルたちはグロリア社のスタジオを借りてゲームの主題歌のカバーや、挿入歌を作成していく。
予約特典にするらしい。
演奏も構築の魔女にレオンハルトにクラリスと豪勢である。
「よく働くわね。ちょっとは休んでもいいのよ?」
そう曲の合間にタオルや飲み物を渡していく遙華。そんな遙華に澄香は告げる。
「遙華、色々と今まで頼んで来たけど、私たちが何を目指しているのか、近いうちに話すよ」
その言葉の意味が解るのはもう少し先の話。