本部

最速を目指せ!

鳴海

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/06/07 20:32

掲示板

オープニング

● その愚神は速度を求める。
 日本国内某所、鳥が巣を作るように大きな栗の木の上で。ドロップゾーンを作った愚神がいた。
 正体はわからない誰も見てない。ただ直径十メートルくらいの黒い卵のようなドロップゾーンが展開されていた。
 調査に乗り出したH.O.P.E.職員は不用意にもそのゾーンに触れてしまう。それが彼らの運のつき。
 直後調査員は空に浮かんでいた。ただし無重力。
 張り付いた空は雲を流さず、その広大な空を、一羽のハヤブサが飛行していた。
 キーンと耳を痛める鳴き声を発しつつ、そいつは調査員の周囲をグルグル回っていた。
「なんなんだ、この空間は……」
 調査員は呻く、あれはおそらく愚神なんだろう。
 それはわかる。
 だが、謎なのは奴がこちらを攻撃してこないことだった。
 調査員はその姿が目に入るなりAGWを抜いていたのに、奴はこちらに無関心。
 そんなに空を飛ぶのが楽しいのだろうか。
「ああ、たしかに」
 調査員は思う、両腕を広げて、天を仰ぎ、この青い空に抱かれて。
 思う。
 確かに空を思う存分に飛ぶのはとても気持ちがいいのかもしれない。
 その後調査員はドロップゾーンの外に出た。
 ゾーン内部、中心に存在するポールのような物体に手を振れるとここに戻ってこられたのだが、ここでさっそく調査員は異変を発見した。
「なんだこれは」
 大きくなっていた、卵のようなドロップゾーンの外殻?
 それが、僅かにだが膨らんでいる。
 まさか、あの鳥は内部からこの卵を温めているとで言うのだろうか。
 ここから生じる災いとはいったいなんだ。
 それを見てみたい気もするのだが、言い知れぬ不吉を感じて、調査員はいったん報告に戻ることにした。
「このドロップゾーンに対処するのであればグロリア社の力を借りる必要があるか」


● ドロップゾーンについて
 ドロップゾーンは外部から見ればたった半径十メートルの空間だが、内部は拡張されているようで、半径50KMにも及ぶ大きな円状の空間だ。見渡す限り空であり空間の中心には半径10Mの円柱が浮遊している。
 ちなみにこのゾーンの端部分はガラスのような材質になっており衝突すると痛い。
 ちなみに壊れた場合でも、すぐに修繕される。
 愚神がこの円周をグルグルすることでゾーンは徐々に広がるらしい。
 愚神がこのゾーンの円周を一周するごとに直径が1KM増える。100KMの直径になるとエネルギーが臨界点に到達し何かが起こる。
 このゾーンの拡大を防ぐ方法は二つ。
1 愚神を倒す。
2 愚神とは反対方向に回る。
 
 そしてここまでの状況をかんがみると、空を自由に移動できる手段が必要そうだ。
 よって、H.O.P.E.はグロリア社に協力を仰いだ。
 空を舞う翼をチャーターするためである。

● 天翔機三種。

 今回は天翔機を三種用意した。
 こちら今までの翼と名称が変わっているが、製品名が正式につけられただけなので今までの依頼のエネルギーウィングと同等のものであると認識してくれて構わない。
 天翔機は霊力をエネルギーとして出力する翼の総称だ。
 状況に合わせて選択し使用してほしい。
 また形状は装備者によって大きく変わる。指定がある場合はそう書いていただければ描写する。
 基本的にはオレンジ色の火焔が翼のように広がる。
 機能比較としてステータスを数値化した。
 一般的な戦闘機は全ての能力値が1であり、数値が増えれば倍倍になっていく。
 つまり加速度3であれば戦闘機の三倍の加速力を持つととらえてほしい。
 下記にステータスをまとめた。参考にしてほしい


天翔機『豪鬼』
 戦闘を想定し作られており、翼が自動で攻撃、防御の補助を行うように設定されている。
加速度2 最高速1 小回り1 耐久4 攻撃4


天翔機『浄土』
 どんな任務にも対応できるように作られており、安定性を重視している。きわめて平均的でどんな場面でも対応できるだろう。
 さらに機能の拡張性が高く。好きなステータスに合計で+2までしてよい

加速度4 最高速3 小回り2 耐久2 攻撃力1


天翔機『煉獄』
 もともとレーシング用に開発されていた翼であり。持続力と飛ぶことに秀でている。さらにこの気体だけエンジンに当たるパーツが二つ搭載されており。ターボを使うことができる。
 ターボは、そのラウンド中、加速度、最高速に+2の補正を得ることができる。
 ターボはシナリオに何度でも使えるが、一度使うと、エンジンを停止させて1ラウンド経過させるか。3ラウンド経過しなければ使えない。
加速度3 最高速4 小回り3 耐久1 攻撃力1

愚神『SKY』
 愚神のステータスの予想をこちらに記載する。偵察部隊が観測した限りなので、予想外にステータスが低い、高いことも考えられるので注意してほしい。

加速度3 最高速8 小回り3 耐久3 攻撃力1

《性能の説明》
加速度 速度の上がりやすさ。攻撃などを受け速度が落ちても高ければ再びすぐに速度を取り戻せる

最高速 その翼が出せる最高速度。加速し続けることができればそれだけの速度が出る

小回り 旋回能力、また、この数値が高ければ細かく動いても速度が落ちずらい

耐久 翼の耐久度、攻撃をうけてもどれだけ持つか。ただし翼自体それほど打たれ強いわけではない。

攻撃力 攻撃力に補正を得られる。翼自体に備わる霊力や武装が充実しているかどうか。

追記:名称について以前のものがいいなど要望があれば受付中

解説

目標 愚神『SKY』の撃破
デクリオ級愚神 愚神『SKY』

 特殊なドロップゾーンの拡張因子の一体。
 彼らが円運動することによって発生するエネルギーを霊力に転換、緩やかにゾーンを広げているようだ。
 ただ、ドロップゾーンの管理者は明らかになっていないので注意が必要。
 今回はドロップゾーンの拡大阻止のためにSKYよばれる個体を撃破してほしい。
 SKYについての情報を下記にまとめる。

 SKYは巨大な鳥類を模した愚神である、翼を広げれば五メートルの全長をもち。見た目はハヤブサに似ている。
 巨大なドロップゾーンを周回しており。シナリオスタート時は最高速度で飛び回っているようだ。
 使用するスキルとしては。
『サンダー』
 狙いを定めることのできない雷を四方に放ちます。命中精度が低いですが周囲を飽和させるように放つので接近戦を挑む場合は注意が必要です。 
 
『トルネード』
 周囲に四本の竜巻を発生させます。その場に停滞するので攻撃性能は低いですが、攻撃をそらしたり壁として使ったり、追いかけてくる敵を妨害するために使えるので、使用頻度は高いようです。

『ソニックブリッツ』
 急加速しながら風の壁を纏って突撃します。出が早い近接技でよけるのが難しい。さらに普通に加速するために使う場合もある。
 後方には壁を作りだせないので攻撃のチャンスではある。

リプレイ

プロローグ

「場所が宇宙でない分マシと言えばマシだが…………」
『赤城 龍哉(aa0090)』は考え込みながらその卵を見つめる。
 これがドロップゾーンだと言われると奇妙な感覚を覚えた。
「飛び回ることに意味があると思われる以上捨て置くわけにはいきませんわ」
 そう『ヴァルトラウテ(aa0090hero001)』は告げる、その卵から生まれる何かにおぞましい予感を感じながら。
「差し詰め卵を孵そうとする親鳥みたいなもんか」
 龍哉は思う。卵の殻が割れる時、何が出て来るか。
「まぁ、きっと碌でもないもんだよな、俺らからすれば」
「にしても、鳥愚神とは私に喧嘩売ってるとしか思えないね!」
 そんな神妙な面持ちの龍哉とは対照的に『雨宮 葵(aa4783)』は枝に手をかけ、軽々とよじ登る。
「鳥愚神VS鳥ワイルドブラッド! 敵に私たちの力を思い知らせてやるよー!」
 そう気合十分の葵であるが、そんな彼女を眺めつつ『燐(aa4783hero001)』は思う。
(…………どう見てもハヤブサの方がインコより強そう)
「……鳥もどき、ねぇ……そういえばSKYって何の略? 正直、空気、読めてない?」
 そう『楪 アルト(aa4349)』は『フィー(aa4205)』に問いかける。
 彼女はすでに『‐FORTISSIMODE-(aa4349hero001)』と共鳴済み。
 天翔機『煉獄』を電子操作パネルのように展開している。薄く半透明で無機質なパネルたちが浮かんでは消える。それに触れて飛行操作を行うようだ。
「ねぇ、フィー」
 そんなアルトだが恋人からの返事が返ってこないことに耐えかねて勢いよく振り向いた。
 見ればフィーは新しい装備の点検に夢中である。『ヒルフェ(aa4205hero001)』と共に何やら覗き込んでいる。
「さて、今回は新武器のテストも兼ねて、ですな」
「ドレッドノート?」
 ヒルフェが問いかける。
「ドレッドノート(戦艦)ですな」
「クラス詐欺もいいとこじゃねえかいい加減にしろ」
「まぁほら、先人に人間爆撃機の人も居るんで? まぁ多少は?」
「さながら人間戦闘機だな」
「あー、楽しそうね、あたしには分からないけどさ」
 戦闘機や戦艦は男の子のロマンである。
 ただ趣味にかまかけて放っておかれるのは許し難い、どうしてやろうか腕を組んで考えているアルト、それに気が付いたフィーはアルトを見つめた。
「さ、いきましょーかね」
「もう! フィー」
 アルトの想いに気が付いているくせに、少し笑うとその手を取って卵に近づくフィー。
 準備が整った全員は卵にふれ。そして見果てぬ青空の世界に飛ばされてきた。
 その瞬間顔を撫でたのはやや乾燥気味の風、その世界は太陽もないくせに明るく、上下に空が広がっているのだから、普通は笑えない。
 だが、そんな異常な状況下でも余裕を絶やさないのがリンカーたちの強いところである。
「いいねェ。空を自由に飛べるってのはよ」
『一ノ瀬 春翔(aa3715)』はそう言って笑った。
 共鳴中の『エディス・ホワイトクイーン(aa3715hero002)』彼女はサディスティックに微笑むと告げる。
――ただ邪魔なのは、この卵だけ。壊しちゃおう。
 そんな二人の言葉に同意したのは葵。
「いいよねー天翔機。空を舞えるとかロマン! かっこいい!」
――前は、宇宙だったけど……、空もいいもの。
 燐が頷く、その隣を漂うように通過したのは『志賀谷 京子(aa0150)』である。
「どうせなら、もっと派手な武器を使いたかったなあ」
 その言葉に『アリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)』が答えた。
――戦闘機の真似事でもするつもりでした?
「ドッグファイトならやっぱり機関銃じゃない?
――相手は鳥ですからねえ、いっそ弓でも、らしかったかもしれませんよ。
 それもそうか、そう京子はあっけらかんと思い直し、翼のエンジンを吹かせる。
「あ、あれが愚神みたいだね」
 そう遠くを飛行する、豆粒のように小さい愚神を指さす『ハーメル(aa0958)』。
 彼の速さへの情熱、と対抗心がくすぐられる。
「空も飛んでみたかったけどね」
 その言葉に『墓守(aa0958hero001)』は小さなため息をついた。
「ずいぶんとのんきだな」
『月影 飛翔(aa0224)』は周囲のリンカーたちを見渡してそう告げた。
 その背にからは蒼い粒子が噴出し、天翔機が大きい上2翼と小さい下2翼の4翼を形成している。
「この翼も扱い慣れてきたな」
――色々な場所を飛びましたから。
 『ルビナス フローリア(aa0224hero001)』はそう静かに答える。
「生身大気圏突入に比べれば、高速ドッグファイトくらい何とでもなる」
 直後愚神が高く鳴く声が聞こえた。全員が武装を展開、次いで翼に力をため込んで、はじかれるように愚神を目指して飛んだ。

第一章 

 『内藤恵美(aa5065)』はドロップゾーンに投げ出されるや否や鷹匠が鷹を腕を止まらせるポーズから、鳥をけしかける動きで『コノハ(aa5065hero001)』と共鳴。
 天翔機を大きく広げて飛行する。
 そして愚神に向かうメンバーとは別に、愚神の進行方向逆に回り始めた。これでドロップゾーンの拡大を抑えるつもりなのだ。
「アタックポイントで会いましょう」
 続いて『イリス・レイバルド(aa0124)』はそう告げ加速。
 あの速度の愚神を追いぬくのは不可能、であれば攻撃を加えられるのは逆回り班と追いすがる班が交差する地点。そこでどれだけ相手にダメージを与えらえるかがこの作戦の肝である。
――というわけでバルムンク親衛隊は風の流れを読む補助を頼むよ
 『アイリス(aa0124hero001)』が告げると、バルムンク達は、はーいとお行儀よく声を上げてイリスのサポートを始める。

「やることはいつもと変わらないからね」
――ぶつかっても体勢の立て直しがしやすいようにか。
「元々の加速度の高さもあるし……張り付いたら逃がさない」
――では高速で飛行する相手の足をどう止めるかが問題となるね。
「そこは反対周りから真正面からぶつかりに行くよ」
――まぁ、そういう戦い方が身についてるから仕方ないかな。
「風の波に乗るためには重要なことだからね」
波に乗り、風を掴むことくらい、イリスにとって朝飯前である。
 それくらい空に適応しているという自信は人類として何かが外れている気がするが、それは今更かもしれない。
 そんな逆回りグループと別れてから、唐突にアリッサが告げた。
――中心の目印なのでしょうか。
 中央の柱が気になるらしい。
――中央の柱には当たらないように注意しないといけませんね。
「こうもあからさまな柱は壊したくなるけど」
 不穏なことを真顔で言う京子。
――……やめておきましょう。
 冗談であってほしいと思いながらアリッサはそう告げた。
 だがそんな言葉を遮るように愚神が高く鳴いた。それは猛禽の特有の威嚇の声、だがその巨体は現実の鳥とは比較にならないほど大きい。
 そんな愚神へ最初に迫るのはアルトである。
「フィーあとでな! あたしは一足先に行かせてもらうぜぇ!!」
 アルトは愚神を追って加速。飛行時には翼と一緒に常にライブススラスターを使用して補助飛行する。
 ただ、速度が圧倒的に足りない、それを補うために翼のターボ機能を使う。
「いっけええ!」
 翼大きく広がった、大量の熱を振りまいて、パネルの色が虹色に変わる。強く輝きを放って加速、そして一気に愚神へ迫る。
「意外と短いな……」
 耳元で聞こえていた唸りが弱まっていく、ターボ機能は一瞬しか力を発揮しない、再度使用するためにはクールダウンが必要だ。だからアルトは天翔機の動力を落した。
 そして。
「まだまだ!」
 次いで火を噴いたのはジェットブーツ。その勢いを保ったまま、翼に代わりジェットブーツにて飛行する。
 これによって翼を休ませれば、ブーツが使用不可になるころにはもう一度ターボで飛べる。 
 加速に継ぐ加速。矢のような速度でアルトは愚神へと接近した。距離はみるみる縮まり、ほぼ真横からのアタックが決まろうとしている。
 その異常な速さに愚神も驚いたのだろう、あわてた様子で翼を強くはためかせる。ただ、それだけでは追いつかれると判断したのか周囲に竜巻を発生させて、アルトをやり過ごそうとした。 
「思ったより密度が……」
 アルトは頭を押さえられる、竜巻に突っ込まないように急上昇。なおかつガトリングで牽制した。
「くそ、とっぱできねぇ」 
 そう歯噛みするアルトの背後から迫るリンカーたち。だがその射程に真っ先に愚神を捉えたのは京子。
 京子はショートカット、していた、外周を回る愚神は必然的に一番長い距離を飛行しなければいけない。
 であれば相手の速度から数秒先の相手位置を予測、直線的に移動することによって先回りをすることは可能だ。
 そうして奪った最良のポジション愚神の左斜め後ろを取ると。
 異常な速度下のはずなのに、正確に狙いをつけた。
「あの速度には翼の最高速度を強化しても追いつけないよ」
――であれば、最高速度を奪えばよいだけの話ですわ。
 アリッサの高らかな宣言に頷く代わりに、京子は弾丸を装填。ボルトアクションを流れるように決めて、ラグも無く引き金を絞る。
 その小さな弾丸はは竜巻をすり抜けて翼に突き刺さる。愚神の体制が少し崩れた。
「よっと」
 さらに、その攻撃に合わせて上空から雷撃が飛んだ。
 逆回りしてきたハーメルである。
 彼をはじめとした逆回転組は愚神から大きく離れた上空を飛んでいた。
「お姉ちゃん……」
――いや、まだその時ではないよ。
 そう静かにつぶやくアイリス、その言葉を信じて頷き、イリスはもう一周回るために加速した。
「まだまだ行くよ!!」
 そんな支援を受けつつ、京子とアルトは背後から翼に攻撃を加える。それも内側に向いている側の羽を偏執的に穿つ。
「ふつーの構造なら先端側のほうが脆いはずだよね?」
――ですね。
 二人の目的は。先端近くの前端部、鳥なら骨が通ってるところを狙い思い通りに動かせる範囲を少しずつ狭めること。
片側だけ有効な翼面積が減少し、左右でバランスが崩れればそうそう最高速での真っ当な機動なんてできなくなる。
 飛行とは本来、繊細な作業なのだ。なので少しでも狂いが生じればその影響は大きく速度、安定感に影響する。
――ですが……そもそもそんな物理法則に従って飛んでるんですか、アレ?
「鳥を模してるならきっと意味はある! ま、試すだけ試してみようよ」
 だが、実際にその攻撃は徐々にではあるが効果を上げているようだ。
 だがまだ足りない、このままであれば振り切られるのも時間の問題。
 だからこそリンカーは別の手をうっている。
 斜め前から行く手を遮るように躍り出たフィー。
 おニューの武器を従えてすこし気分良さ気だが、仕事はきっちりする。
「さぁ、もう少し近づいてくだせぇ」
 直後、愚神の口から吐き出される雷を身を縮めて回避。
 距離が遠すぎることから威嚇であることを見切った回避だった。 
「回ってねーといけねーなんて、飛んだハンデでやがりますね」
 そう告げつつフィーは『担ぎ型射出式対戦車刺突爆雷 』を構え、前方に発射。
 その反作用でフィーは後方、つまり愚神の進行方向へ吹き飛んだ。これで速度は稼げた。
 肝心の爆雷は愚神の翼に命中、しかし愚神は速度をわずかに落しただけでさらに進み続けた。
「猛禽の爪はするどいぞ」
 次いで反撃とばかりに、口を開こうとした愚神だが、上空から恵美が直情から襲いかかる、分身し、その分身と本体がそれこそ獲物に爪たてる鷹のように襲いかかったのだ。
 そのせいで雷撃はあらぬ方向に放たれてしまった。
「で? ここからどうしろと?」
 フィーはにやりと笑ってアルトを観る、そのアルトは不自然なほど静かだった、当たり前だろう翼格納されていてないのだ。
 また翼を休ませている。だがジェットブーツを使う様子もない。
 そしてやっとため込んだ加速度が落ちようとした瞬間光が舞った。
 直後背中に装着されたのはなんとLQC。
「……ぃいっけえええええぇぇぇぇぇえええええ!!」
 直後発射される超威力の攻撃兵器。その反作用は本来リンカー自信を傷つけるほどに強大。だがこの場合は反作用をいくらか速度に上乗せできる。
 それに加え翼全力のターボ加速、そしてジェットブーツによる加速姿勢制御。
 三つのブースターから発せられる運動エネルギーはすさまじい物で、速度の落ちた愚神を追いぬいた。
 そしてアルトはフィーの手を取ってくるりとターン。
 二人で銃口を愚神に向ける。
 へパイトス。アルトに至ってはウェポンディプロイでガトリング砲を二丁持ちにして乱れ撃ち。
「全部狙い撃ってんだよ!!」
「全部持っていきやがってくだせぇ」
 全武装での総攻撃。愚神の前方を爆炎が覆った。
 だが愚神は加速前方に風の壁を作りだし、速度低下、および被弾を最小限に抑えた。
 そのままアルトとフィーへ突っ込んで、二人を乱気流で下方へ叩き落とす。
「くそっ」
「まぁ、これで倒れたら苦労はねーですな」
 二人は体制を立て直す、だが速度は大きく削れた。そしてその速度低下が命取りである。
「よう」
 龍哉の接近を許してしまった。その顔面に黒潮を叩きつける。それも、ものすごい威力で叩きつけられたそれは。硬いくちばしにぶつかって、火花が散らせる、愚神の脳を揺さぶって、後ろに吹き飛ばそうっとする。
「おおおお!」
 だが、その威力を全て受け斬るまいと愚神は体ひねる。
 威力をそらすように下へ。
 上下の移動もそれなりにできるらしい。愚神の器用さに驚いた龍哉だが京子の弾丸はそれを逃さない。
「こんな高速な相手を狙うのは初めてだね。
――多少速度が早い程度で、我らの弾丸が躱せるものですか。
 弾丸が突き刺さる、翼があらぬ方向へ曲がる、その直後上空から襲ったのは飛翔。
「初撃は急降下ダイブで行く」
――空中戦は、基本上を取った方が有利ですからね。
 全速力からの落下攻撃に衝撃が愚神を揺らした。
 さらに張り付いたまま連撃、それを叩き落とそうと、愚神はロールしながら全方に風を放った。
 だがそのせいで、リンカーたちを近づけないための対策を怠った。
 春翔が下から浮上ラッキーストライカーを愚神の腹部に叩きつける。
「ちっ」
 だが手ごたえが軽いことに舌打ちする春翔。
 愚神は空中でその巨体を回転させる勢いを逃がす。それも勢いに変えてまだまだ空を飛ぼうと羽ばたく。
 この愚神は速度を完全に殺さないための手段を良く知っていた。
 速度を守るためにあえて攻撃に身をさらしたのだ。
――もっと積極的に行かなくていいの?
 エディスは走り去ってしまった愚神を眺めて告げる。
「ああ……このメンツなら火力は大丈夫だろう」
 春翔は空気を切るように反転した。
一見天使の羽のようなな美しいフォルムの翼が、刃を研ぐようなシャランという音を鋭利に空に響かせ。加速、愚神を追う。
「このままでは、逃げられるか。なら!」
 飛翔は愚神から見て斜め前方に駆け抜けていた。重力加速度を利用して加速したのだ。そしてその加速度を利用して浮上。
 ローヨーヨーと呼ばれるテクニックで、さらに愚神へと追いすがる。
「何か仕掛けるなら手伝うぜ」
 春翔が告げると、飛翔は頷き迫る竜巻に突っ込んだ。
 だがその竜巻は春翔の作り出した。
 盾によってそれ、飛翔は最低限の速度低下でそれを潜り抜けた。
 回転して、突き進む飛翔。
――加速タイミングを計測。スイングバイを実行します。
 ルビナスの声に耳を澄ませる飛翔。
――ターボ再使用までカウントダウン…………3・2・1。
「「スパイラル!」」
 直後、バレルロールSKYの周囲に張り付くように旋回。
「マニューバでの牽制から一気に懐に飛び込むぞ」
 キリングワイヤーを張り巡らせ翼に絡める飛翔。
 敵に食らいついた。そう思ったのもつかの間、春翔はとある変化に気が付く。
「空間が大きくなってねぇか?」
 春翔はいったん空中で止まり、当たりを見渡す。
「く! 俺が逆に回る、その間に倒してくれ」
 その言葉に全員が頷き、体勢を立て直す。

第二章

 葵はその戦闘風景を空中で立ち止まり眺めていた。
 大きな空を感じると、なんだか自分の魂が何かに返るようなそんな印象を受けた。
 だが燐の声に我に返って武器を構える葵。
 敵が来る、おそらくあと数秒で到着する。
 それを頭で理解すると葵は笑った。
「よし、準備はできた……」
 スカバードに納刀そして妖刀の性能を最大まで引き上げる。
 だが待ち伏せ戦法など何度も体感している愚神である、そんな葵を迎撃するために、その口から雷撃を吐いた。
 雷撃が葵の髪を焼いた、雷撃が翼に突き刺さり姿勢が崩れる、だが翼が無くても葵は鳥。空の流儀は本能に刻み込まれている。
「正面から突っ込んでぶっ倒すのもかっこいいでしょ!」
――ん。たまには、堂々といくのも悪くない。
 直後葵は加速、真っ直ぐ、攻撃を恐れず愚神めがけて突撃する。
 敵は挑発に乗るように加速。空気の鎧で身を固め、葵を真っ向から粉砕するようだ。
 だがそんな脅しにも似た更衣葵にとって意味がない。もう決心してしまっているから。何があってもスピード落とさず、ただ真っすぐに突き進む、そんな決心。
「突っ……込め!」
 ぶつかる瞬間に抜刀、その刃は空気の鎧を解き、その血肉をえぐろうとする。僅かに力と力が拮抗した。だが。
 その身は軽々と吹き飛ばされる。
 軽い体ではやはり愚神を止めることは無理だったのだろう。
 だが、それでも葵は笑っていた。それは当然。
 本当の目的はその黄金の輝きを隠すこと。
「いけ!!」
 SKYの目の前に盾が召喚された。それは春翔のささやかな贈り物。それを間に噛ませるように真正面からぶつかったのはイリス。
 ライヴスシールドを展開し、アイリスの妖精の力を纏った空気は鋼鉄の殻のようにイリスを覆っている。
 それはさながら黄金の流星。輝き尾を引き想像を絶する速度で愚神にぶつかったイリスは、愚神の巨体を、小さな体で抑え込もうと、翼を震わせる。
「あああああああああ!」
 守護の領域ジャンヌが悲鳴を上げる。
 エイジスに亀裂が入った。ティタンにまでも衝撃が加わる。
――まだだ、私たちの全力はまだ見せていない。
 突如周囲に音が響く。
 エイジスが衝撃を音に変える。甲高い音が周囲に響いた。それは妖精の歌にも似た美しい音階。
 それに導かれるように現れたのは四つの影。イリスの後方から迫る影はハーメルと恵美を模していた。
 ジェミニストライクが直撃する。
 さらに下方からは打ち上げるように爆雷を放つフィー。
 ふたりは傷ついた翼を合わせることで浮遊していた。
 アルトがフィーの胴に手を回し、四枚の翼でバランスを取っていたのだ。
「おら!」
 龍哉は黒潮のワイヤーを巻き取って愚神と接触。その大きな羽毛を強く握り、これでもかとブレイブザンバーを叩きつける。
――翼を封じて飛行能力を封じられるなら話は早いのですが……」
「見てくれは鳥っぽいが翼で飛ぶクチじゃねぇよな、こいつ」
 そう黒潮を引き、魚ではなく鳥を釣ろうと試みる龍哉。
「くそ、まだ体力あるのかよ!!」
 龍哉の叫びに呼応するように、愚神の前方に躍り出て頭を押さえたのは春翔。
――此処から先は通行止めです!
 エディスが告げる。
 その隙に飛翔は反転ターボ加速による一閃を放つ。
「コイツで落ちろ!」
 翼が切り裂かれた、赤い鮮血が大きく広がり、それが重力に引かれて落ちると、次いで襲いかかったのはハーメルである。
 切り裂かれたのは左の翼。では右の翼を。その霊力で縛る。
「いまなら!」
 先ほどの衝突で額を切ったイリス。血に染まる左顔面をぬぐいつつ、翼を小刻みに揺らして体勢制御、急ターンそして急加速。
 一度愚神から離れて、再度急接近。
「これで!」
 その時、イリスには風の流れがはっきり見えたという。さらにその翼は繊細に風を受け微細に操れるように調整済み。その風を受けきるだけの余力はある。
――ああ、イリスついにたどり着いたようだね。
「むしろ遅かったくらいだよ、お姉ちゃん。もうこれとは一年以上の付き合いだ!」
 イリスは翼の角度を微細に変える。
 空気抵抗をわざと増やすように翼を盾。
 空気の抜け道を作り出す、もはや塊のように吹き付ける風圧を下方へ逃がすように変更。
 そうするとどうだ、どうなる。わかりやすい。
 上昇するのだ。空気に押し上げられるように体が急上昇する。
 イリスはそれを狙って愚神の下方に滑り込んでいる。 
 イリスの軽い体は巨大な翼の影響で吹き上げられるように上へ。
 そして、その盾が愚神の肋骨を確実に砕いた。
――ははは、臆した君の負けだ。この子は臆さず君の一挙手一投足を観察していた。
 速度の乗った質量は単純に破壊力がすごい。
 敵からすれば黄金の弾丸のようなもの。
――交通事故だね。
「交通事故だよ」
 耳元で、ごぱっと愚神が何かを吐く声が聞こえた。
 落ちるSKYの体、力なく垂れ下がる翼。ついに速度が零となったのだ。 
 それを見てイリスはつぶやく。
「落ちろ」
――はははっ 清々しいほどに敵への殺意で満ちているね。
 だが愚神もこのままでは終われない、全力前回とばかりに飛んでいる最中には使えなかった荒業を放つ。
 それは風と雷撃を同時に開放するという切り札。
 その威力は今までのSKYの攻撃を見ても到底想像しえない威力を秘めている。だが。
 恐れず降下する葵、飛翔、龍哉。
――守るなんて、つまらないよ。
「これも仕事だ。チームワークだ」
――えー、壊したかったな……。
 切なげにつぶやくエディスをなだめて、春翔はフラグメンツエスカッション使用。
「俺らが気ィ張るのはココ……ってな」
 雷撃は召喚された武具に誘導され、風を遮る。これで抜け道としては十分だろう。
「逃がす気はないし、やられる気もない! 正面衝突で負ける気もない!」
 重力に引かれて落ちる複製品。それをかいくぐって葵は走る。
使ったら煉獄のターボ機能で一気に距離を縮めて疾風怒濤を叩き込む。
「私を忘れて貰っちゃ困るなー!」
 鳥類にしては大きすぎる羽毛がちぎれて舞った。
 さらに飛翔の一撃と。そして。
 トドメの一撃は龍哉。
 その翼が強大なる力を龍哉に授け、自前で蓄えていた霊力も合わせて解放。
 その両手に、刃に宿るのは、地獄を思わせるような炎と威力。
 その一撃は敵を跡形も残さない神罰。
 まさに鬼神と呼ぶにふさわしい刃が。重力加速度を振り切って。最速でその血と肉と骨を打ち破る。
「これで終りだ!!」
 あとに残ったのは風。
 見れば愚神は光の粒へと分解されながら。空が。
 上にある空も、下にある空も、全ての空が。
 ひび割れ砕けて消えていく。
「これで終りか……」
――最後はあっけのないものですね。
 そのヴァルトラウテの言葉に頷き、龍哉は全力で翼を吹かせる。
 ただ普遍的に漂う柱へ、龍哉は突っ込んだ。

エピローグ
 卵が砕けるとリンカーたちは草原に投げ出された。上空十数メートルというところだろう。
――今回もいい飛行だったねイリス。
 そうアイリスは落下速度を楽しみつつもイリスに告げた。
「正式な名前がついたってことは……正式な飛行装備も遠くないのかな?」
――イリスは空を飛びたいだけだろうに。
「うん、そうだよ? だから戦闘用でなくすためにも愚神の類は根こそぎ滅ぼさなきゃね」
 そうイリスは地面すれすれで翼を羽ばたかせ勢いを殺す。
 同じようにリンカーたちは勢いを殺した。
 落ちても怪我はしないがあまりいい気分はしない。
 だから習得したての飛行技術でアルトはフィーへと翼を向ける。
「ダイジョブか~って。また無理して」
 フィーの傷つき具合を見てアルトは溜息をついた。
「今日は軽い方ですがね」
 まったく、そうつぶやいてアルトは腰に手をあててそっぽを向く。
「にしても……」
 そんなアルトのご機嫌取りはまたあとで、そうフィーは仲間たちに向き直る。
 まだ解けていない謎があった。
「ああ、俺達も気になってたところだ」
 龍哉が頷く。全員の顔がこちらを向いたところでフィーは言葉を発した。
「まずこのドロップゾーンの主は?」
「今倒した奴が本当にゾーンルーラーだったか判らないって事だったよな」
「ええ、何か仕掛けを狙っていたのなら他に本命が居たとしてもおかしくはありませんわ」 
 フィーの言葉を察して龍哉とヴァルトラウテは噛みしめるように言葉を告げた。
 単純に考えればこのドロップゾーンの主はSKYと識別された個体のはず。もしくはこの卵の中身自身。
「ですがね、思うんですよ。『卵』という性質を取る事から愚神を文字通り”産む”愚神が居るんじゃねーですかね?」
「おい、あれ……」
 その時である。砕け散ったはずの破片が寄り集まって再び卵を作った。
 それを見て飛翔は溜息をつく。
「ドロップゾーンは消えないか」
――やはり本命は別と言うことですね。
「であれば、まだ敵が残ってるって話だな」
――翼の損耗が激しいですわ。今日はもう戦えないと思った方がいいですわ。
 ヴァルトラウテが告げた。
「次の拡張因子でやがりますか?」
 これでSKYがドロップゾーンの主でなかったことが証明された。
 であれば次の拡張因子が生み出される可能性は高い。
「近いうちにここに戻ってくることになりそうだな」
 そう恵美はつぶやいてアフリカオオコノハズクの相棒に視線を向ける。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
  • 生命の意味を知る者
    一ノ瀬 春翔aa3715

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 『星』を追う者
    月影 飛翔aa0224
    人間|20才|男性|攻撃
  • 『星』を追う者
    ルビナス フローリアaa0224hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 神月の智将
    ハーメルaa0958
    人間|16才|男性|防御
  • 一人の為の英雄
    墓守aa0958hero001
    英雄|19才|女性|シャド
  • 生命の意味を知る者
    一ノ瀬 春翔aa3715
    人間|25才|男性|攻撃
  • 希望の意義を守る者
    エディス・ホワイトクイーンaa3715hero002
    英雄|25才|女性|カオ
  • Dirty
    フィーaa4205
    人間|20才|女性|攻撃
  • ボランティア亡霊
    ヒルフェaa4205hero001
    英雄|14才|?|ドレ
  • 残照と安らぎの鎮魂歌
    楪 アルトaa4349
    機械|18才|女性|命中
  • 反抗する音色
    ‐FORTISSIMODE-aa4349hero001
    英雄|99才|?|カオ
  • 心に翼宿し
    雨宮 葵aa4783
    獣人|16才|女性|攻撃
  • 広い空へと羽ばたいて
    aa4783hero001
    英雄|16才|女性|ドレ
  • エージェント
    内藤恵美aa5065
    獣人|18才|女性|攻撃
  • エージェント
    コノハaa5065hero001
    英雄|18才|女性|シャド
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