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H.O.P.E.パネル展開催

霜村 雪菜

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/05/31 23:03

掲示板

オープニング

●地域との良好な関係
 人々に有用な施設の設立にすら文句がつけられたりつけられなかったりする昨今。地元との有効な関係を築き相互理解を深めるのは重要なことである。
「というわけで、小規模ですがパネル展示をやる事になりました。すでに何回かやっているんですが、今度やる場所は初めてのところです」
 集まったエージェント達に、スタッフが説明を始める。
 大きな都市には、こういった催しをするための場所が多い。H.O.P.E.の活動内容、実際に働くエージェント達について、その他リンカーにも英雄にも馴染みの薄い人々が疑問に思うようなことについて、わかりやすくパネルにして展示するのだ。準備には時間がかかるが当日の労力はそれほどでもなく、一度設営してしまえば終了までそのままにしておけるというのが便利だし、別な機会に再利用することもできるのが魅力だ。
「前回、前々回は同じ展示をしていたんですが、また新しいものを作ろうということになりました。そこで、皆さんには展示物の作成をお願いいたします」
 英雄とリンカー二人一組で上限模造紙二枚分ほど、文字だけでも写真やイラストを入れても可だ。
「でもあまりびっしり字が詰まっていたら、見に来る人も読みにくいでしょうけどね。内容は、これまでこなしてきた依頼について、機密に触れない程度に書いてくださればいいです。こういう従魔を倒しましたとか、こういう印象に残る出来事がありました、とか」
 エージェント達の受ける依頼は、戦闘ばかりではない。支部のイベントや地域と連携した活動、訓練なども含めれば多岐に渡る。題材には困らなさそうだ。
「それから、問題ないのであれば英雄との暮らしなども興味を引きそうですね。英雄と契約するというのがどういうことか、興味を持つ人もけっこういるらしいです」
 なるほど、こればかりはリンカーにならないとわからないことだ。
「パネル展示は、いろいろな人が来ます。H.O.P.E.に興味を持つ人、まだ所属していないけれどある程度情報が欲しいと思っている人、あるいは、H.O.P.E.にあまりいい感情を持っていない人も来るかもしれません。誰に対してもきちんと受け止めてもらえるよう、できるだけ客観的な書き方をするのがポイントですね。それから、当日のパネル展では説明や質疑応答、案内などもお願いしたいと思いますので、よろしくお願いします」

解説

●目的
H.O.P.E.のパネル展示をするため、展示物を作成します。 英雄とリンカー二人一組で上限模造紙二枚分ほど、文字だけでも写真やイラストを入れても可。ただし、文字ばかりびっしり埋まっていると見に来る人が読みにくいと感じる可能性があります。内容は、これまでこなしてきた依頼について、機密に触れない程度に書く。こういう従魔を倒しました、こういう印象に残る出来事がありました、等。差し支えなければ、英雄との暮らしについて書いてもよし。

●補足
パネル展示は、いろいろな人が来ます。H.O.P.E.に興味を持つ人、まだ所属していないけれどある程度情報が欲しいと思っている人、あるいは、H.O.P.E.にあまりいい感情を持っていない人も来るかもしれません。誰に対してもきちんと受け止めてもらえるよう、できるだけ客観的な書き方をするのがポイントです。尚、当日のパネル展では説明や質疑応答、案内などもお願いします。

リプレイ

●アイディアそれぞれ
「H.O.P.E.について、知りたいならスマホで検索すれば色々わかると思うのよぉ?」
「パネル展示する意味……か」
 まほらま(aa2289hero001)の言葉はもっともだ。GーYA(aa2289)はうーむと考え込む。
「こういう展示ものってあんまり人が来ないイメージがあるんだよね。たまたまソコにあったから暇つぶしにでもってくらいでさ」
 案内の係はいても、好きなときに好きなところからふらっと見ていけるのがパネル展のいいところだ。そして、好きなところで切り上げていける。お手軽なので敷居は低いが、下手をすると見る人に何の印象も抱かせずに終わってしまう可能性もある。やはり、展示物のインパクトとわかりやすさがキモだろう。
「こういうのはどうだろう?」
 GーYAは、さらさらと紙に文字を走らせた。
 ――エージェントは見た! 異界の門の向こう側の世界!――
「却下ねぇ、公表されてる情報以外は機密情報でしょう」
 カウンターでだめ出しされた。世間の混乱を防ぐため、公開情報の線引きは厳重である。
「じゃあ……」
 ――“香港協定”古龍幇構成員のエージェント登録――
「協定にまつわる裏話はNG、何が機密に触れるかわからないし件の構成員の許可もいるでしょ」
 故に、第二案も却下された。多くの人が関わるので、なかなかH.O.P.E.関連の情報は取り扱いがデリケートだ。なので、こういう企画の時は悩みどころである。当たり障りがなく、一般の人でも興味を持ってくれそうな題材と言えば……。
「こんなところかな」
 ――イラスト使って絵本風に自分の体験を大まかに書く――
 もちろん、機密はぼかしつつぱっと見てわかるようにする。
「採用! このくらい平凡なのがいいのよぉ。絵ならぱっと見で子供にもわかるだろうしぃ」
「決めた」
 というわけで、無事にアイディアが決まったのであった。奇をてらわない素直さが一番だ。
「こういうのも必要か。まぁそうだよな」
 赤城 龍哉(aa0090)とヴァルトラウテ(aa0090hero001)は、以前解決した賽銭泥棒捕縛の依頼を事例として紹介することに決めた。
「同じ人の形をしていて尚、相手に己と明らかに違う、しかも理解が及ばぬ何かがあった場合、人は恐れを抱くのですわ」
「見えない闇の先に恐怖を感じるのと似たようなもんか」
 ヴァルは本来そういうのに頓着しない。戦乙女はそんな事を気にしないのだ。しかし、アメコミ経由でそういう事態が起こり得る事を認識したらしい。
「ま、こういうのが無くても化け物ってのはいるもんなんだがなぁ」
 例えば、武芸の達人なんか正にそうだ。巷間では熊殺しの異名を取った格闘家の伝説もあるし、とある達人は相手にぶつかっただけで吹っ飛ばす奥義の使い手だったという。
いずれにせよ、抜きん出た存在というのが畏怖と恐怖の対象になりやすいというのは歴史が示してきた事実だ。龍哉が賽銭泥棒事件を取り上げようと思ったのは、賽銭泥棒という、より現実的で身近な出来事をヴィランが行うとどうなるかを例示することで、一般人にもその存在をわかりやすく考えてもらえると思ったからだ。
そのヴィランの風変わりな能力に関する簡単な説明と、エージェントが取ったその能力への対処法と、実際の捕り物の大まかな動向を図解を交えて出来るだけ分かりやすく纏めていく。
「犯人を追い詰めるために、事前準備はかなり念入りにやったな」
「H.O.P.E.で調査・確認可能な情報の収集、神社関係者への協力要請もそうですわね」
「後は大勢の人出がある場所での捕り物って事で、如何に迅速に犯人を捕縛するかが肝だった」
「あの時の状況で武器を振り回したのでは、私達が逮捕されてしまいますものね」
 今はよき思い出(?)である。
 餅 望月(aa0843)と百薬(aa0843hero001)は、特定の出来事ではなく「だいたいこんな感じだよ」というコンセプトにしていくことにした。
「二人で分担して絵を描こうか」
「ワタシは美味しいご飯を食べる絵を描くね」
「うん、そういうのも大事だよね」
 エージェントといっても、それは生活の一部に他ならない。戦いもするが暮らしもするのである。人生いろいろ。リンカーもいろいろ。英雄だっていろいろ。
 大きな模造紙の上に二コマ漫画的に出来上がる、小学生の絵日記のようなイラスト達。ひとを守って槍を持って怪物と戦う絵。皿に乗ったまんが肉のようなものを食べる絵、横に「おいしい」と書いてある。これはこれで心和む展示だ。
「あ、明日にはもう始まるんですか!? 第一従者は日程の都合で来られないのに……」
 月鏡 由利菜(aa0873)は戸惑っている。ちなみに第一従者というのは、英雄のリーヴスラシルのことだ。
「ユリナ、限られた時間と素材で何とかしよっ。親友のあたしを頼って!」
 ウィリディス(aa0873hero002)が元気よく声を上げる。今回の展示参加者の中で唯一の第二英雄だ。
 幸い写真がたくさんあったので、展示に使えそうなものを豊富に選ぶことができた。日常の生活とエージェントとしての活動、両方がよくわかるように写真を貼っていき、説明書きも添える。もっと詳しい事を知りたい人には、当日質疑応答も受け付ける予定だ。
 氷鏡 六花(aa4969)とアルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)は、先日終わったばかりの任務について展示することにした。戦闘がメインだったので、写真と相まって迫力のある内容になる。説明は口頭でしたほうがいいと考えたので、メインは写真だ。見やすいように、ふんだんに使う。
 もちろん、あまり血生臭くならない様に写真は適宜選定。こんな敵と戦っているのか、という事が実感を持って知って貰えたらというコンセプトだ。また、“寒さを厭わぬこと、雪を愛でること”が六花とアルヴィナの誓約なので、広大な雪原等の雪景色の写真から、凍土の美しさも知って貰いたいところである。
 キース=ロロッカ(aa3593)と匂坂 紙姫(aa3593hero001)は、体験型パネル展を目指しイメージプロジェクターを持参することにした。
「大事なのは等身大のボク達を知ってもらうことです」
「頑張ろうねっ!」
 実演の他、模造紙の1枚目はリンカーの身体能力や英雄という存在、AGWの記載、2枚目は日常生活の時間配分を円グラフにしたものを作成する。多角的な展示内容になりそうだ。
 かくして、それぞれの個性を生かした様々な展示物が、着々とできあがりつつあった。

●当日
 H.O.P.E.パネル展は、とある施設の小ホールで行われた。扉を開放すると通路から展示がよく見えて、入り口が広いこともあり入りやすい雰囲気だ。さらに、扉脇に置いた案内板の横でペンギンドライヴ着用の六花がお客さんの呼び込みをしているのも効果抜群だった。小さな子供が特に食いついて、同行していた保護者も流れでホールに入ってくれるのだ。
 GーYAの展示は、まず上段の「1リンカーになりました」のタイトル部分が目を惹く。「なりました」の上に大きなばつがついて、「なってしまったよ!?」と訂正されているのでインパクトがあるのだ。
 読みやすい大きさと色使いの文字で、記事が続いている。
『お互いを認識して誓約をしリンカーになる人が殆どだと思います。
ですが俺はその認識もなくリンカーになってしまいました。
病院で目覚めたら、英雄がいました。
最初は受け入れられなくて無視したりもしましたが。
幻想蝶や英雄の霊力にふれていくうちに受け入れられました』
 記事の内容に則したイラストも絵本風に添えられていて、それも見る人の心にするりと内容が入っていく要因になっている。
 その次は、「2エージェントになりました」だ。
『身寄りのない俺が生きていく選択肢の一つとして勧められた。
H.O.P.E.に入ったら武器を持って戦うのかと思っていたら違いました。
事務的に色々聞かれた後は職員の人が最適な今後の選択肢を教えてくれます。
ちゃんと自分で決められます、強制とかありません。
今リンカーが人々を守るヒーローとして見てもらえるのはH.O.P.E.会長はじめ先人が苦労して整えてくれたからだとも知りました』
 素朴で素直な、あえて飾り気なく書かれた文章に、お客さんは真剣な表情で魅入っていた。
 最後が、「3戦う決意をしました」で、何かと闘っているイラストが大きく描かれた傍に、短い文章が書かれている。
『共鳴すれば宇宙や水の中でも簡単には死なないスーパーマンになれる。
その力を俺は守る為に使おうと決めた、英雄と一緒に』
 本当に、短い言葉だ。素っ気ないほど。
 けれどだからこそ、真っ直ぐに響く。
 パネルの傍で案内役に徹していたGーYAとまほらまは、お客さんの反応を時折眺めていた。その表情から好意的に受け止めてもらえているとわかり、ほっとする気持ちだった。自分の思っていることや体験した事を形にして見てもらうというのは、なかなか緊張するものだ。
「よかったわねぇ」
 きぼうさ擬人化コスプレをしているまほらまは、うんうんと頷いた。
「そうだね」
 頑張った甲斐があったと、GーYAも微笑む。
「他の人のもちょっと見てこようか?」
「そうねぇ。案内も兼ねて」
 スタッフでもかなり自由が利くのがこういう催しのいいところだ。他のエージェントがどんな展示を作ったか、準備段階では見られなかったので興味がある。二人はお客さんの様子を確認しつつ場所を移動した。
 アクリルケースにAGWを入れてパネルの前に展示してあるのは、龍哉達のコーナーだ。直接触ると危ないので、配慮したのだろう。火之迦具鎚と獅子王が物々しく飾られている。ブレイブザンバーというレガトゥス級愚神ヴァルリアに仲間と共に止めを刺す際に振るわれた実物は、依頼で使うので龍哉が現場にいるときだけ実物展示、あとは写真で代用するという旨の注意書きが添えられていた。獅子王は全長が何と一六〇センチもあり、刀身が黄金色に煌く豪奢な太刀だ。革紐が巻きつけられた握りと黒漆塗りの鞘を持ち、鍔は獅子を模っている、美しくも整然とした印象だ。火之迦具鎚はさらに大きく、全長一八〇センチ程の両手持ちの戦槌。火を司る神の加護を宿すという光り輝く美しい戦鎚で、振るう度に火の粉を散らしてキラキラと輝くという。その迫力に、まずお客さんは釘付けになっていた。
 展示の方はというと、依頼で解決した賽銭泥棒事件の記事の他は、二人で分担して私生活についてを模造紙に書き込んだらしい。身近な事例として依頼記事を熱心に読み込む人の姿が多かった。そして龍哉の修行、ヴァルの趣味についての記事も内容がそれぞれおもしろく興味を惹いたようで、読みながら連れとあれこれ感想を交わし合う人の姿が見られた。
 もちろん、GーYAとまほらまも隅々まで読み込んだ。
 その間に、龍哉はザンバーを用いての剣舞まで披露していた。かなりスペースは取っていたが、大きく迫力ある動きのためそれでも狭く見えるほどだ。見事な動きに、見ていた人が歓声と拍手を送る。
 ヴァルの方は、その間に簡単な案内の仕事をしたりして会場を回していた。望月と百薬の展示で、「何か悪い奴と戦ってみんなを守ったりしています。『何かのお肉を美味しくいただきます』」と書かれていたところに、「どういうことなのか」と質問を受けたところだった。
「どういうことなのか、詳しく説明していただいてもよろしいですか?」
 近くにいた望月に訊くと、彼女は苦笑した。そうせざるを得なかっただろう。
「ええと、まず従魔という敵がいて……」
 けっこう事例としては多いので知る人ぞ知ることなのだが、従魔が食材になるような生き物だった場合は倒したあとに調理したりもするのだと望月は説明する。聞いていたお客さんは仰天していた。無理もない。
「あとは、書ききれなかったけど、H.O.P.E.の事務員の皆さんや、何より各地の皆さんの理解とご協力で成り立っているよ」
「地域の特産品をわけてもらったりね」
「結局そこか」
 そんなボケツッコミに、お客さん達は笑う。温かい笑いだった。
「愚神は退治できても、愚神の壊した建造物や怪我人のフォローはとてもできないしね。世界と美味しいご飯のために一緒に頑張ろう」
 それは、展示記事にも書いたことだった。エージェント以外のスタッフの皆さん、そして世の中の多くの人々の存在を無視しては成り立たないのだと、望月も百薬も実感していた。恐らく、誰もが同じだろう。
「みんなの写実的で見事な描写力や立体造詣には感心する。さすが、みんな歴戦のツワモノだね」
 百薬と一緒に他の展示も見て回りながら、望月は目を丸くしていた。自分の知らない依頼や、他のエージェントの戦い方やものの考え方に触れるのは興味深い。
「リンカーって大変なことばかりでもないよね。いつも遊んでくれてありがとう」
「ほんとにね。こちらこそ」
 ウィリディスは気さくに答えた。
 ここは由利菜とウィリディスのコーナーだ。ウィリディスと由利菜の通うテール・プロミーズ学園エージェント科の日常風景、筆記系の授業風景が、写真で模造紙の上に掲示されている。
「テール・プロミーズは英雄の学生入学や教師の登用にも積極的です。第一従者もこのエージェント科で教鞭を振るい、実技も教えています」
 由利菜が解説している。
 続いて、学園の屋上で由利菜がリディスと一緒にお弁当を食べる写真。
「ユリナや先生はすごく料理上手なんだ。あたしは苦手だから羨ましいよ」
「お弁当を用意する余裕がない時は、学食やファミレスで食べることもありますね」
 その辺りは、エージェントでない学生と何ら変わりないのだ。
 由利菜は、学園近くのファミレス『ベルカナ』でアルバイトをしている。家族客の席に注文された料理を置く由利菜の写真が、ちょっとしたどよめきを生んだ。
「た、確かにファミレスの制服としては大胆ですよね……ですが、お客様からの人気も高いですから」
「あたしも、ベルカナでユリナと一緒に働きたいな」
 赤面した由利菜はこほんと咳払いし、次の展示内容の説明に移った。今度はエージェントとしての活動についてだ。
 写真は、ラシルとの共鳴『姫騎士』の姿。愚神に襲われピンチの一般人を守り、敵と対峙する場面だ。
「リンカーとしての力は、守るべき人々の為に使います」
 神々しくも美しい凛とした美女の姿は、まさに女神だった。
 その次の写真はリディスとの共鳴『聖女』。ケアレインで負傷した仲間を癒やす場面だ。
「まだ癒しの力はヒャクヤクちゃんに及ばないけど、仲間を助けるのは当たり前だよ」
 先ほどの『姫騎士』とは異なる風情の美少女が、慈愛に満ちた表情で怪我人を診ている様は、見る人の心に染み入る。
 由利菜達の説明と臨場感溢れる写真が相まって、とても印象的な展示内容だ。他に由利菜も自分の武器を展示していた。
 レーヴァテイン、グングニル、ヒールリング、レーギャルン。
「第一線を退いたとは言え、私にとって今でも愛着のある剣です」
 由利菜は、大切そうにレーヴァンテインを見つめた。
 グングニルは、ウィリディスにとって思い出のある武器だ。
「愛着のある槍は色々だけど…一番はやっぱりユリナと先生が最初にあたしへ用意してくれたこれかな」
「リングはリディス、レーギャルンは私が去年グロリア社ラボに提案した補助装備ですね」
 ほうほうと感心しつつ聞き入るお客さん達。スタッフのエージェント達も、手の空いた者はいつの間にかやってきて見学していた。
 と、会場の一角からなにやらざわざわと人の声が聞こえてきた。
「あ、キースさんのところで実演をやるみたいです」
 GーYAの言葉で、エージェント一同もぞろぞろと人の波についていく。
「ボク達リンカーは、非共鳴時でも身体能力が向上しています。例えば50mを5秒台で走れますし、ジャンプも高く飛べます……とは言ってもイメージし辛いですよね。どうです? どなたか垂直跳びで競いますか?」
 キースは見物人に水を向け、一緒に垂直跳びをすることで身体能力説明の具体例としていた。なかなかわかりやすい。模造紙に書いたデータを引用しつつ、専門用語は極力使わずに説明している。おかげで、非リンカーの人々にも情報がよく伝わったようだ。
 紙姫は、英雄についての説明を担当した。
「あたし達英雄はご飯を食べなくてもお水を飲まなくても大丈夫だけど、食べるのが大好きな人も多いよっ! ……あ、ちょっと触ってみる?」
 一番近くにいた子供と触れ合い体験。微笑ましい一幕に場が和む。
 そして、AGWの実演をするため二人はキースと紙姫はした。おおっというどよめきが上がる。それが収まるのを待って、説明が始まった。
「AGWというのは対愚神、ヴィラン用武器防具です。今日はイメージプロジェクターというアイテムを実際に使用してみましょう」
 イメージプロジェクターは、服装擬態のためのアイテムだ。所有者があらかじめ指定した服装の幻影を纏う特殊装置で、性別が限定される高性能装備や装備の組み合わせで不審者になる場合も安心の一品。けっこう汎用性が高く、意外な優れものだ。
 共鳴したキースの上にイメージプロジェクターから投影された服装が映し出され、本当に着用しているようにしか見えないことに驚きの声が上がる。どういう場合に使うかという簡単な実例を挙げて見てから、共鳴を解いて実演終了となった。拍手も起きて、反響はよかったようだ。
「ここからは『リンカーとして』ではないあたし達の一日を説明するよっ!」
「まず能力者のボクから。リンカーは兼務の人も多くて、ボクは現役法学生です」
 有名大学の学生証を見せて反応を見る。これまでで一番どよどよしたのは致し方ないだろう。何しろ、見学している人達の世界に最も身近なものだ。それが一段落するのを待って、キースは淡々と話を再開した。
「一日のスケジュールは講義と勉強が主ですね。留年しないよう配慮してますが、レポートの提出がぎりぎりになる事はままあります」
 苦笑すると、それに応えるように温かい笑いが起きた。
「あたしはその間お留守番や本を読んでる事が多いです。あたし達、書庫の管理もしているんですっ!」
 得意気に説明する紙姫の横で円グラフの横に「お菓子タイム」と書いていくキース。
「嘘です。この子大抵お菓子食べてるだけです」
「あっ! キース君のおばか!」
 どっと笑いが起きた。仲良しをアピールし、発表タイムは終了となり、質疑応答を受けることにする。
「どうですか? 意外と普通の生活をしているでしょう?」
「良ければ、みんなとももっと仲良しさんになりたいなっ!」
 質問のある人ーという呼びかけをすると、ちらほらと手が上がった。今の発表に基づいた質問から、ぜんぜん関係のないことまでいろいろと訊かれたが、二人はかわるがわるにこやかに応答していった。
 さて、六花とアルヴィナの展示も、迫力ある写真とそれにまつわる丁寧な解説で人気を呼んでいた。
 巨竜ヴァルリアが無数の従魔を引き連れ広大なロシアの雪原を進軍する写真。狼頭の愚神ネウロイが長大なライフルを手にしエージェント達と戦闘する写真。シベリア・ドロップゾーンの遠景写真。ヴァヌシュカの城砦の遠景写真。ロシア軍と共闘するエージェント達の写真。ロシアの人々を護り戦うエージェント達の写真等々。もちろん機密に引っかかるようなものは避けてあるが、貴重な出来事の記録なのでギャラリーはなかなか減らない。
 アルヴィナは羽衣一枚のいつもの格好で、穏やかながらよく通る澄んだ声で淑やかに展示写真の説明や解説、または質問への応答をしている。お客さんの様子をよく観察し、独り善がりの独演会にはならぬよう気をつけているので、聞き手を飽きさせずにいい雰囲気を保っている。臨機応変に話す内容を変え、目の前にのお客さんが興味ありそうな部分について詳しく話していた。
 先ほどキース達の共鳴実演があったためか、お客さんの中からちらほらと「共鳴が見たい」という声が聞こえ始めた。
「ん……どうしようか?」
「いいんじゃないかしら」
 六花達の共鳴は周囲に粉雪の様なライヴスが輝き舞い、氷雪の妖精が顕現するかの如く美麗だ。そんな姿を見て、悪い気持ちになる人はあまりいないだろう。
 事実、顕現した美しい姿を目の当たりにして、お客さんからは歓声と拍手が起きた。
 六花はその姿で、展示してあった終焉之書絶零断章と竜殻格甲「零竜」を手に取って、実際に装備するとどうなるのか、どんな風に使うのかを解説する。AGWが放つ凍気は少し間違えると危険なので、細心の注意を払う。それでも、なるべく可能な限り間近で見てもらうようにして、好評を博した。
「なかなかうまくいったな」
「そうですね」
 少し離れたところから龍哉とヴァルは、その光景を目を細めて見守っていた。
「少しでも身近に感じてもらえればいいですね」
「仲良くなれたらいいなっ!」
 キースと紙姫も、快い疲労感に微笑む。
 GーYAとまほらまは、みんなの展示を一通り見て回ってきた。
「とても有意義だったね」
「そうねぇ」
 自分には気づけないことや、共感できることがたくさんあったとわかってとても楽しい。
「これからもがんばろうね」
「うん!」
「早くもっと経験を積みたいな」
「一つずつ、着実にやっていくことですね」
 望月、百薬、ウリディス、由利菜も、満ち足りた笑顔だった。
 展示は、そろそろ終わりの時間を迎える。だが明日からまた、新しい日々が始まるのだ。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 天秤を司る者
    キース=ロロッカaa3593
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 花の守護者
    ウィリディスaa0873hero002
    英雄|18才|女性|バト
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 天秤を司る者
    キース=ロロッカaa3593
    人間|21才|男性|回避
  • ありのままで
    匂坂 紙姫aa3593hero001
    英雄|13才|女性|ジャ
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
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