本部

夜にひっ跳ぶ小悪党

影絵 企我

形態
ショート
難易度
不明
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/05/26 16:36

掲示板

オープニング

●暴走軽トラック
 夜の街を、一台の軽トラックがすさまじい勢いで走っていく。荷台には十人もの男女が乗り込み、真ん中には麻袋が三つ積まれている。その中にあるのは、金だ。
「上手く行ったなぁ、カルロ」
 軽トラックを転がすのは、筋肉モリモリマッチョマンの変態チックな笑みを浮かべた男、モンテ。首から下げたネックレスの先についているのは、どんな宝石よりも不可思議な輝きを放つ、幻想蝶だ。ちょいワル英雄と契約して、半人前のゴロから一人前のヴィランへとランクアップを果たしたこの男達は、徒党を組んでATMを襲ったのである。数の暴力でATMをぶち壊し、中の現金を持ち出した彼らは、只管夜の街を疾駆しているのである。
「上々だねぇ。モンテ」
 助手席に乗るのは、出っ歯がめっちゃ目立つ痩せぎすの男、カルロ。彼もまた幻想蝶をネックレスのように首から下げている。英雄の力を借りて得た魔法の力。十人の部下たちの力も合わせれば、盗みを成功させるには十分だった。
『おい! 俺にもちゃんとうまい酒飲ませろよ!』
『私にはアクセサリーを買うお金を頂戴ね?』
 英雄達が幻想蝶から次々に声を発する。
「わかってるよ。君達。ちゃんとご褒美はあげるさ。ねえモンテ」
「当然だ。この成功はお前達のおかげだからな! はっはっは……」

 親方達が調子に乗って笑う声が外にも聞こえてくる。荷台に乗った青年は、溜め息交じりに月を見上げる。
「……はぁ。いい気になっちゃって、まあ」
「まあ上手く行ったんだから。当然だろ。何か心配な事でもあんのか?」
 隣の少年が眉間に皺を寄せる。成功に浮かれる心に水を差してきたのだから当然だ。青年は小さく頷き、とつとつと語り始める。
「知ってるかい? ……『無貌の侍』って」
「あ? なんだそりゃ」
「顔の無い仮面を被って、大太刀を背負った侍が、最近この辺りに現れるらしいんだ。次々にリンカーを襲って、大けがさせてはいなくなるらしい」
「ふわっとした噂だな。何なんだよそれ」
 少年は気にした風も無い。呆れたように首を傾げるだけだ。青年は恐怖が伝わらないのかと、ことさら不気味な声を作って、脅かすような口調で続けた。
「俺達とタメ張ってたヴィランズあっただろ。アレが潰れたのも……この『無貌の侍』のせいらしいぞ」
「……で?」
 ざっくりとした切り返し。青年は拍子抜けしてずっこけてしまう。
「……で? って……怖くないのかよ、お前」
「怖いもんかよ。そんなよくわからない噂。言っても、こっちは12人いるんだぞ。そんな奴が来たって何とかなるさ」
「はぁ……呑気だな。お前」
「どっちがだよ。そんなわけわからん存在より、エージェントが追跡してるかもしれないって心配した方がいいんじゃないのか?」
 それを言われると返す言葉も無い。青年は黙り込むしかなかった。

●波止場の戦い
 青年の言った事は現実にならなかったが、少年の言った事は晴れて現実となってしまった。正面突破でATMを破壊する堂々たる犯行。それを世間が見逃すはずもない。ヴィランズ『モンテカルロ』の手並みは良かったが、HOPEエージェントの動きは迅速だった。夜の影が浮かび上がったかのように、何処からともなく次々と現れトラックを追走し始める。
 気付いたモンテは必死に逃げるが、その動きはエージェント達にしっかりとコントロールされていた。いつの間にやらトラックは波止場に迷い込み、逃げ場など無くなってしまっていた。
「まずいんじゃないの、モンテ」
「ああ。まずいな、カルロ」
 トラックを囲い込み、投降を呼びかけるエージェント達。その数六組。エージェントを轢き飛ばそうとしても無駄なこと。完全に逃げ道を絶たれてしまった。青ざめていた二人だったが、ここまで窮地に追い込まれたネズミは、逆に開き直るというものだ。
「やるしかないな。カルロ。腕ずくで突破だ」
「やるしかないね。モンテ。皆もいるから、何とかなるよね」
 二人は共鳴する。ドアを開いて飛び出すと、武器を構えて一気にエージェントへと突っ込んでいく。
「行くぞ! 目にもの見せてやれ!」
 エージェントも間抜けではない。すぐさま武器を取って迎え撃った。

――しかし、彼らは気づいていなかった。この夜の街に蠢く無貌の怪物は、確かに存在するのだという事に――

解説

メイン ヴィランの捕縛(やや易しい)
サブ 一人も残体力50%を切らない(やや易しい)
EX 乱入エネミーの撃退(普通)

エネミー
●モンテ
 ・ステータス
  シャドウルーカー(回避30/20)
 ・スキル
  潜伏、縫止、零距離回避

●カルロ
 ・ステータス
  ソフィスビショップ(回避35/15)
 ・スキル
  高速詠唱、起死回生

●モンテ&カルロの部下×10
 ・ステータス
  枯れ木も草の賑わい。壁。
 ・スキル
  偏に風の前の塵に同じ。

●unknown
 ―PL情報―
  攻撃に+補正のかかるスキルを使用した場合に出現。
  生命点が一定数削れると撤退。また、仲間を呼ぶような行為を受けると撤退する。
 脅威度
  ケントゥリオ相当
 ステータス
  近接物理型、防御偏重型
 性向
  Lvの高いPCを率先して狙う

フィールド
●港
 ・埠頭
  戦闘開始地点。幅が狭い。海に落ちないよう注意
 ・倉庫
  ピンチになったヴィランが逃げ込む。暗く狭い。長得物は不利。
●夜
 ・無街灯
  ただただ暗い。命中、回避一割減。プレイングで対処可能。

Tips
 ・モンテ&カルロの部下の攻撃はプレイング次第で完全に避けたり受けたりできる。格好良さの演出に使ってください。
 ・モンテ&カルロはバックアタックをよく狙ってくる。注意。回避に下方修正をかけます。
 ・乱入エネミーはPL情報のため、出現を封じる場合はプレイングで”らしい”リアクションを。お前ら相手に本気を出す必要はない、など。
 ・エージェント達は、既に作戦概略の説明を受けている。「ヴィランを捕まえろ、以上」と。


簡易地図
□□□□■■■■
□☆□□□□□□
◇□◇◇◇◇◇◇
◇□◇◇◇◇◇◇
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(一区画5×5sq)
□……屋外
■……倉庫
◇……海
☆……開始地点

リプレイ

●夜にひっ跳べなかった小悪党
「この一撃! 見切れるものなら見切ってみなさい!」
 トラックを飛び出した瞬間、鬼灯 佐千子(aa2526)のぶち込んだ閃光弾が炸裂する。目の眩む光を前に、ヴィランズは纏めて怯み瞼を閉ざす。
 辺りは再び暗くなったと思った頃には、既にエージェント達が彼らを取り囲んでいる。見た所は全員女。だが真正面に陣取る御童 紗希(aa0339)などは、まるで武人のような闘気を放っている。
 何かがおかしい。カルロは心のどこかで思ったが、この囲いを突破しない事には全員纏めて御縄だ。声を震わせながら、どうにか部下を鼓舞する。
「い、行くよぉみんな。俺達は女子供にだって、よ、容赦はしないのさ。ねぇモンテ!」
「ああ。その通りだ。この筋肉で、ねじ伏せるぞカルロ!」
 十二人のヴィラン達は、周りで一番小さいイリス・レイバルド(aa0124)に向かって突っ込んでいく。しかし少女の存在は大いなる罠であった。何故なら、この場で一番の手練れは、彼女に他ならないのだから。
「なんで外見で判断して油断するんだろうね」
『ヴィランだからさ』
 アイリス(aa0124hero001)は軽口を叩きながらイリスに力を与える。ダイヤモンドから放たれた光の結界は、ヴィラン達の振るうへなちょこAGWの攻撃を呑み込み、壮麗な交響曲を奏で始めた。まさに触れられざる光輝、ヴィランを怯ませるには十分である。
「な、なんだこいつ! 攻撃が効かない!」
「当然。この黄金、闇夜に紛れた程度で出し抜けると思うなよ」
 盾を構え、イリスは幼い少女とは思えぬ重厚な一歩を踏み出した。広がる黄金の翼が、見る間に輝きを増していく。アイリスはくすりと笑い、朗々と言い放った。
『さて。乗り物のライトもあることだし……闇は全て払ってしまおうか』
 黄金の太陽が、闇を押し退けていく。幼き先達の姿を見ていた大門寺 杏奈(aa4314)は、相方のレミ=ウィンズ(aa4314hero002)に掛け合う。
「わたし達も行くよ、レミ!」
『(ええ。イリス様がたに負けてはいられませんわ。人様に迷惑をかけるなど……例え同じリンカーであろうが許してはおけませんもの!)』
 杏奈は高々と右手を空へ掲げる。白銀の翼が広がり、彼女はアルテミスのような神々しさをヴィランに見せつけた。
「翼よ、誇り高き加護の力を!」
 白銀の月が闇を切り裂く。イリスの壮麗な光と杏奈の神秘的な光が、夜更けの港に黄昏の世界を現出する。まともに光を浴びたヴィランズは、おたおたと足踏みして後ろへ退いた。
「眩しい! 眩しい!」
『(アンナの光があれば、こんな暗い場所などイチコロですわ♪)』
「イリスさんのパワーもすごいけど! とにかく、私の近くに影など作らせないわ! いくら数が多くたって、そんなんじゃ私を崩す事なんて出来ないわよ?」
「い、いやだ! おらもう嫌だ!」
 ヴィランズの一人がトラックの運転席へと飛び込む。仲間を置いて逃げ出そうという算段だ。だがしかし、肝心のエンジンキーが抜かれている。はっとして窓から顔を出すと、キャビンの上に頬杖ついて佐千子がじっと彼を見下ろしていた。
「ごめんなさいね。あんまり無防備なものだから、つい」
 その手の中で鍵が弄ばれている。ヴィランは口をわなわな震わせ何も言えなくなってしまった。佐千子はそんな彼の頭にドラグノフの台尻を叩きつけ、容赦なく気を失わせる。
「……全く。小物もいいところね」
『まさかこれほどの人員が集まるとは思わないだろう。私にも予想が付かなかった。……これに懲りて二度と悪事など起こさなければいいが』
「これに懲りなかったらある意味見直すわよ……」
 リタ(aa2526hero001)の言葉に呆れ気味で応えつつ、窓から身を乗り出す形で伸びている男に手錠をかける。身を翻すと、彼女はガンライトを取り付けた銃を構え、素早く引き金を引いた。一人の取り出した銃が弾け飛び、そのまま海へと滑って落ちる。
「ひっ……」
「ヴィランズ『モンテカルロ』、窃盗及び器物損壊の現行犯で逮捕します。覚悟なさい」
 一方、そんな様子を遠巻きに眺めていた水瀬 雨月(aa0801)は、蜘蛛の子のように逃げ惑いそのまま叩きのめされているヴィランをどこか哀れむような眼で見つめていた。
「(……巡り合わせが悪いとか、そんなレベルじゃないわね……)」
『(むぅ……)』
 アムブロシア(aa0801hero001)に至ってはこの仕事にやる気を見いだせないのか、雨月に力だけ貸して居眠りを決め込んでいる。――どんな仕事の時も基本的に寝ているのだが。
「(まあ、ご愁傷様と言っておくべきかしら)」
 雨月が使う魔導書を選んでいると、隣に氷鏡 六花(aa4969)がやってきた。イリスと杏奈が放つ光を浴びて、彼女の纏う羽衣と氷の翼はオーロラのように輝いている。
「その魔導書、六花と御揃いなのね!」
「え?」
 六花が指差したのはヴァルリアの遺産、終焉之書絶零断章。凍れる世界を現出する魔導書だ。普段使いの武器ではないが、たまたま持ってきていたのである。
「……そうね。どうせなら同じ武器の方が効率もいいかしら」
 雨月はぽつりと呟き、終焉之書を手に取った。彼女の背にも氷の翼が浮かび上がり、またオーロラのように輝く。
「さて……力を持って舞い上がってしまった人には……」
「ひやっとするお仕置きよ!」
 二人は一斉に凍気を放つ。イリスと杏奈の壁二枚に押されてすっかり及び腰のヴィランズは、二人の放った魔法を纏めて喰らってしまった。
「あああああっ! 凍える、凍える!」
 下っ端達はバタバタ腕を振り回して悶える。その足元はすっかり凍り付いていた。二人の放った同時攻撃が一網打尽にしてしまったのだ。派手で分かりやすい反応に、カイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)は呆れて肩を竦めた。
『お前ら、リアクション芸人にでもなっといた方が幸せだったんじゃないか?』
「うるさいうるさい! これでも喰らえ!」
 氷の魔法をどうにか免れた下っ端が背後から襲い掛かる。しかし彼が見切れぬ筈もない。振り返りもせずに躱すと、脚を突き出し下っ端を引っかけ転ばせる。
『おいおい。俺らに敵うとでも? “馬鹿にしてんなよオラァ!”』
 カイはライヴスを込めて威圧する。氷漬けで動けない下っ端も、今まさに転がされた下っ端も、ゴスロリ風味の少女――表に出ているのは野郎なのだが――の叫びに恐怖し縮こまってしまった。
「ひぃぃ……ごめんなさい」

「ちょっとちょっと。まずいよモンテ。もう僕らしか残ってないよ」
「……全く情けない奴らだ。全員女じゃないか。ビビッてる場合じゃないぞ。なあカルロ」
 最早まともに戦えるのはモンテとカルロしかいない。こうなっては得意の連携も意味なしだ。イリスと杏奈が隠れるための影さえその光で塗りつぶしているのだから。カルロは苦虫噛み潰したような顔で、悔しげに呟く。
「くぅ……こんな……貧相な身体つきのガキのくせに……!」
「んだとコラァ!」
 コンマ一秒と経たず御童 紗希(aa0339)がキレた。いきなり表に飛び出し、カルロへの敵意を剥き出しにする。
「野郎ぶっ殺してやる! 行っちゃってカイ!」
『お、おう。……そ、その言葉が文字通り命取りだったな! さっさとお縄につきやがれ!』
 神斬を肩に担ぐと、一気に間合いを詰めて袈裟懸けに斬りつける。武器を差し出し守ろうとするが、紗希の怒りも乗った一気呵成の一撃に堪えられるわけも無い。武器は折れてカルロも地面に叩きつけられた。
「いだーい!」
「その言葉が無かったら、少しは手加減してあげたかもしれないけどね……!」
 トラックの荷台から身を乗り出し、佐千子も容赦無くトリガーを引き続ける。雨霰と飛び散る銃弾が、次々カルロの全身にぶち当たった
「ぎゃああああっ!」
「全く、女の子を怒らせちゃだめよ?」
 将来安泰の杏奈は、にこにこと余裕の笑みを見せつつパラディオンシールドをカルロの頭に叩きつけた。鈍い音が響き、カルロはとうとう目を回す。
「あぃ……もぅしませんん……」
 相棒の身に起きた惨劇を見つめる事しか出来ず、モンテは滂沱の悔し涙を流す。
「なんてこったカルロ! ……しかし、俺は、俺は負けん! 筋肉式縫止!」
 モンテは全身の筋肉を脈打たせ、ライヴスで出来た針を投げつける。イリスは盾を掲げてその針を纏めて受け止めると、右手に握るルミナスを振り上げた。
「うるさいシャドウルーカーだな。黙ってやっとけばいいのに」
 彼女の放つ光が刃となり、モンテを薙ぎ払う。しかししぶとい。吹っ飛んでもモンテはむくりと起き上がった。
「筋肉を鍛えていなければ即死だった」
『そこまで本気出してないけどねぇ』
 アイリスの呆れ声は無視して、モンテは再び動き出そうとする。だがそんな彼の前に雨月が立ちはだかった。既に魔法を撃てる準備は整っている。
「これ以上何もさせないわよ。大人しくしておきなさい」
「その答えはノーだ! 筋肉式潜伏!」
「どういう事よ……?」
 僅かな影を見つけて隠れようとしたモンテだったが、先回りして現れた影の触手に頬を引っぱたかれる。モンテは仰け反り、頬に出来た切り傷を見てぼそぼそと呟く。
「オゥフッ! こいつはヘビーな状況だ……死を覚悟する必要があるか……」
「無いってば……そろそろ大人しくしてよ」
 六花は右手の先に魔方陣を張った。これでいつでもモンテを氷漬けに出来る。
「くっ。ならば見せてやろう。これが必殺の筋肉式アクロバット!」
 モンテは跳び上がり、その肉体を光の下に誇示する。アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)はそのむさ苦しさにうんざりして溜め息をついた。
『(あぁ、呆れて物も言えないわ。大人しくさせてあげるのが彼の為よ、六花)』
「(うん……)全く! そんなの無いからね!」
 モンテの放った一撃をさらりと躱す。翻った羽衣がふわりと舞った。擦れ違いざま、六花はモンテの足をべったりと掴む。瞬間その足は凍りつき、バランスを崩したモンテはそのまま地面に倒れ込んでしまった。
「こんな……こんな筈じゃ……もっと、もっと、初めて戦いますとかいう奴が来るもんじゃないのか……?」
「私はヴィランと戦うの、初めてよ……?」
 杏奈はさらりと言ってのける。無事に戦いも終わって満足していた。
「そういう事じゃない……」
「まぁ、大人しく捕まりなさいよ。これに懲りたらもう二度と悪い事なんてしないことね」
 佐千子は倒れたモンテを後ろ手にして手錠を嵌める。モンテは小さく頷くしかなかった。
『とりあえず、これで一件落着か……?』
 手錠で拘束され路上に転がされたヴィランズを見渡し、カイは首を傾げる。掠り傷一つ無い完勝だ。紗希は今宵もコンプレックスを刺激される羽目に遭ったが、戦いが終われば忘れているだろう。

『……いや待て。何かが近づいている!』

 誰もが安堵しかけたその時、一つの影が空から降ってきた。リタの叫びに合わせ、六組はそれぞれ夜空を見上げる。
「素晴らしき剣技だ。……強き者よ。我が前にその力を示せ」
 エージェント達の眼前に一人の者が降り立つ。6尺6寸、筋骨隆々の体躯は黒を金糸で彩る和装の上からでもはっきりとわかる。その顔を覆う狐面には、一切の模様が刻まれていなかった。

●闖入者
「(カイ、どうしたの?)」
『(こいつ変だぞ、人間……なのか?)』
 カイはふと大剣を構え直す。立ち昇る気迫は人並みならぬ強者の雰囲気を漂わせていた。横に転がる雑魚とは明らかに違う。佐千子もドラグノフの銃口をピタリとその面に向けて定める。
「こいつらの仲間……という訳じゃなさそうね」
『肯定だ。敵対ヴィランズの横槍というわけでも無さそうだ』
「なら、試してみるのが早いわね……行くわよ、アムブロシア」
『(……仕方ない)』
 雨月は英雄を叩き起こし、その身の周囲に大量の蝶を呼び寄せる。ひらひらと羽ばたく蝶はまとめて闖入者に襲いかかり、ライヴスの鱗粉を撒き散らす。光を受けて輝きながら、鱗粉は闖入者のその身へと染み込んでいく。
かに見えたが。
「破砕!」
 それは丹田へ力を込めた、海さえ慄す叫びで何もかもを掻き消してしまった。背負う大太刀を抜き放ち、静かに脇へ構える。
「私に小細工は通用しない。我が求めるは力。ただ純粋なる力だ」
『はぁん。やっぱ人間じゃなかったか……』
 カイは大剣を八相に構え、ニヤリと不敵な笑みを浮かべてみせる。
『聞いたことあるぜ! お前が最近噂のナントカの侍って奴か。ダークヒーロー気取って、見境無くリンカーを襲ってるらしいな!』
 無言のまま、敵はカイへ躙り寄る。カイも一寸単位で間合いを切りながら、更に挑発を繰り出す。
『笑わせる……何とか言ってみろ、ナントカ!』
 不意に侍の肩が沈む。カイはその刹那に動いた。大剣にライヴスを込め、神斬の重みを高めて一気呵成に押し潰そうとする。
「……見える」
 だが、ほぼ同時に侍も飛び出した。深く踏み込み、一気に刃を振るう。

 弾ける甲高い金属音。

 刃を交わした二人の勢いは、完全に拮抗していた。
『……くそっ』
 スカートを振り乱し、カイは回し蹴りを見舞う。その一撃にも侍は反応し、同じ一撃を返してくる。カイは表情を歪めた。
「(カイ……この敵)」
『ああ、みんな気を付けろ。こいつ隙がまるでねぇ』
 カイは一気に飛び退いて間合いを取る。入れ替わるように、盾を構えたイリスと杏奈が前進する。
『……少なくとも人間の類では無さそうだ』
「だったら本気で行くよ。杏奈ちゃん、ヴィランの人を巻き込まないように警戒してて!」
「はい! バックアップします!」
『イリス様方はその敵に集中してくださいませ!』
 イリスは頷くと、背に負った翼を広げる。夜風に光の羽毛がそよぎ、その波に合わせてアイリスの透き通った歌声が周囲に響いた。その身から発揮されるライヴスに、侍はすかさず反応した。
「……その闘気。強いな、貴様」
 侍は刀を構えて突っ込んできた。イリスはティタンの重さを活かし、その一撃を盾で真正面から受け切る。
「はっ!」
 盾を構えたまま一気に深く踏み込む。広い盾に侍は視界を覆い隠された。やむなく侍は後ろに跳ね上がる。しかしそれこそが彼女達の狙いだ。
『イリス、そこだ』
「煌翼刃・螺旋槍!」
 全身を捻り、ライヴスを込めた一突きを繰り出す。自由の利かない空中ならば躱せない。しかし侍もまた刃にライヴスを纏わせ、全身を躍らせ強引にその一突きを弾く。
「何……?」
『今のはライヴスリッパーか』
 地面に降り立ち、侍は刀を中段に構えてエージェントを見据える。盾を構えたまま、杏奈は侍に向かって尋ねた。
「あなた、一体何者なの?」
 杏奈の言葉に応え、侍は大上段に刀を構えた。
「我が名は騒速。武の頂を目指す者なり!」

●その名はソハヤ
 侍は一気に飛び出す。時同じくして、杏奈を包み込む白銀の光が黄金へと変わる。強敵を前に、杏奈の身体に流れる光の因子が最大限に活性化していた。
「来なさい! 私が必ず止めて見せるわ!」
「破ァッ!」
 振り下ろされる一撃。しかし、フォートレスフィールドを纏う彼女の盾には傷一つ付かなかった。レミは挑発的に言い放つ。
『そんな一撃、通させませんわ』
「成程。その堅守ぶりは素晴らしい。我が目指す頂の険しさを教えてくれる!」
 互いに攻撃を掻き消し合う戦いが続く。それを遠くから眺め、佐千子は狙撃銃を構える。
「頂、頂って……随分とバトルジャンキーな奴みたいね」
『(だがそれに相応しい実力はある。サキ達やイリス達のような実力者の一撃をあれほど的確に捌くのだ。正面から奴を打ち破るのは厳しいと言っていい)』
「かといって、搦め手もアイツにはあまり効かなさそう……となったら」
 銃床を肩に押し付け、狙いを定める。
『(横合いから力で叩く)』
 リタの言葉に応じて佐千子は引き金を引く。ライヴスに満ちた弾丸は、トラックや道路にぶつかって跳ね回り、イリスへ斬りかかろうとしたソハヤの肩口に直撃した。
「……ぬぅっ」
 ソハヤはその場でふらつき膝をつく。その隙を見逃しはしない。
『(六花。今がチャンスよ!)』
「うん! 愚神従魔なら容赦はしない。……さぁ、喰らって!」
 放たれる雹の魔弾。雨月も黙って追撃を叩き込む。頭を振るソハヤの側面から直撃し、その身体は氷に包まれた。すかさず六花は次の一撃の準備を進め、ソハヤの様子を見つめる。
 六花の目で見たものを寄せ集め、アルヴィナは静かに分析する。
『(杏奈やイリスにあれの攻撃は通らない……攻撃力自体はそこまで強くないのかしら。ただ、瞬時に似たような攻撃を合わせられるあの対応力は――)』
 雄叫びと共にソハヤは自らを包む氷を叩き割る。全身から湯気を立たせながら、ソハヤはぐるりとエージェントを見渡す。
「踊る弾丸に魔力の弾丸か。良い物を見た」
 言うなり、ソハヤはいきなり大太刀を背に負う鞘へと納め、踵を返して駆け出した。あからさまな撤退の構えである。
「逃がさない!」
 六花は再び雹弾を放つ。しかしソハヤは身を転じ、懐から寸鉄を取り出し投げつけた。雹と鉄は闇の中で衝突し、粉々に砕け散る。アルヴィナは真砂のように光が散る様を見つめながら、心の中で呟いた。
『(本当に厄介みたいね)』
『てめぇ! 逃げんなコラァ!』
 カイは得物を背負い、全力疾走で敵を追いかける。しかし、風のように駆ける愚神は見る見るうちに闇の中へと融けてしまった。
「いずれまた手合わせ願おう。その時は……貴様達の武を上回ってみせる」
 ソハヤの宣戦が、夜闇の向こうから響き渡る。徐々に足を緩め、カイは倉庫街の真ん中でぴたりと足を止めた。いつの間にかカイ達は闇に取り囲まれ、イリス達の光は遠く彼方に見える。
『くそ……次に会ったら、タダじゃおかねぇ』
「(……)」
 忌々しげに吐き捨てるカイ。しかし紗希は、うっすらと輝きを放つ瞳の奥で不安な思いを掻き消せずにいた。

●戦勝祈る刃
 数珠繋ぎにされたヴィランズ『モンテカルロ』は、エージェント達に半ば引きずられるようにしながらH.O.P.Eの護送車へと押し込まれていく。レミはそんな様子を興味深そうに見つめていた。
『なるほど。ヴィランを捕まえる時はあのように……ひとまず、こちらはこれで解決という事になりますのね』
「うん。……ただ、さっきの愚神は気になるかな」
『ソハヤ、でしたわね』
 杏奈は頷く。カイやイリスの攻撃を捌き切った巧みな刀術。搦め手を跳ね除ける闘気は厄介極まりない。当のイリスもうなだれている。
「まさか受け止められるなんて……」
『私達も奴の攻撃は一切通さなかったし、おあいこというところか。守りを固めながら殴りかかって来るなんて、困った奴だな』
 一方、攻撃を止められたもう一人の戦士は、車にもたれ掛かって顔を顰めていた。
『今思い返しても腹が立つな、ちくしょう……』
「愚神が出たんだっけ」
 おぼろげな記憶を頼りに紗希はカイに尋ねる。海を睨んだままカイは頷き、むくれたようにぼそぼそと呟く。
『そうだよ。……あいつ、俺の攻撃を引き出しやがった。技の出端を押さえられるなんて剣士としちゃまだまだと言われるようなもんだ。だからなおさら腹が立ちやがる』
「……なら、次は目にもの見せてやらないとね」
『ああ。次こそはあの仮面を叩き割ってやる』

「……ん。最後に、雹弾を撃った時、あの愚神が投げた物……何だったか、分かります?」
「あの一瞬ではね……状況を鑑みるに大体の予想はつくのだけれど、これと決めつけるのは厳しいわね」
 六花は雨月に尋ねる。雨月は顎に手を当てその一瞬を思い起こすが、確信にまでは至れない。
「一応スマートフォンのカメラは回し続けてたわ。少し暗いけど……これで何かわからない?」
 護送車を見送り戻ってきた佐千子が、二人の前にスマートフォンを差し出す。その映像は丁度愚神が寸鉄を投げつけた場面で止められている。少しずつ巻き戻していくと、彼は手の内で一発の弾丸を作り出し、それを雹弾に向かって投擲している様子がはっきりと見えた。アルヴィナは確信して呟く。
『……銀の魔弾ね』
「でしょうね。……これは憶測だけれど、御童さん方の一気呵成を止めたのは一気呵成、イリスさん方のライヴスリッパーを止めたのはライヴスリッパーなんじゃないかしら」
『それが一番スムーズな理解だろう。奴は我々の技に即応する能力を持っていると考えられる。一度は受けた銀の魔弾を二度目に防いだのは、銀の魔弾に奴が適応したという事だ』
 リタは腕組みして頷く。彼女は平然としているが、隣の佐千子は気が気でない。
「リタ。それってもしかして、私達の使ったダンシングバレットも……」
『技は盗まれた可能性が高い。次からも奴に通るかどうかはわからん』
「面倒な奴が出たわね……」
 佐千子は肩を落とす。少なくともライヴスリッパーと一気呵成は覚えていたという事だ。都市伝説扱いになる程度にはリンカーと戦い、一つ一つをものにしてきたのだろう。これからもまたちょっかいを掛けられるかもしれないと思うと、気が重い。
『まぁ、情報も何もないところからそこまで情報を引き出せたんだ。今回は一応良しとしておこう』
 アイリスはクールに微笑む。イリスもその背後に寄り添い小さく頷いた。
「言われた任務自体は解決しましたからね……ものの数分で終わりましたけど」
「ええ。戦いの最中にちょっかいを掛けられたりはしなくて良かったです」
『けどこれからもそう上手くいくってわけじゃねえからな。いつでも奴が突っ込んできてもいいように警戒はしていかねえと』
 紗希の隣で、いつになくカイは冷静だった。本気らしい。杏奈とレミも表情を引き締める。
「ですね。一々任務を荒らされていたら堪りませんから」
『わたくし達の前に出てくださる分には、わたくし達が盾になればそれで済むのですけれどね……』
「少しずつ情報を集めて共有していくしかないでしょうね」
「……ん、頑張りましょう」
 六花と雨月が言うと、六組は改めて頷き合った。



 夜風が吹き流れていく。鉄塔の頂に立つ顔無き狐面を被った侍は、瞑想するように、只管に押し黙って風の音を聞き続けていた。

 The Sword of “SOHAYA” continued…

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
  • 暗闇引き裂く閃光
    大門寺 杏奈aa4314

重体一覧

参加者

  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 語り得ぬ闇の使い手
    水瀬 雨月aa0801
    人間|18才|女性|生命
  • 難局を覆す者
    アムブロシアaa0801hero001
    英雄|34才|?|ソフィ
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526
    機械|21才|女性|防御
  • 危険物取扱責任者
    リタaa2526hero001
    英雄|22才|女性|ジャ
  • 暗闇引き裂く閃光
    大門寺 杏奈aa4314
    機械|18才|女性|防御
  • 闇を裂く光輝
    レミ=ウィンズaa4314hero002
    英雄|16才|女性|ブレ
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
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