本部

これは最後の

落花生

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
7人 / 4~10人
英雄
6人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/05/23 17:16

掲示板

オープニング

 二十年前までは、考えもしなかった。

 まさか――友人と不健康トークで盛り上がれるなんて。

●少し前
「医者に体脂肪減らせとか血圧下げろって、耳にタコができるほど言われてな……」
「三十年前なんて、タバコを減らせとすら言われなかったのにな……」
 世知辛い世の中に……いいや、歳をとったものだとHOPEの職員とリンカーはそろってため息をついた。六十歳という節目の年を迎えたが、まだまだ「老いた」と言われたくない微妙な年頃だった。一昔前ならば六十歳といえば老人だったが。現代では働いている六十歳も大勢いる。
「嫁さんにサプリメントをもらったんだが……お前も飲んでみるか?」
 体脂肪に効くらしいぜ、と小瓶に入ったサプリメントを職員はリンカーに渡す。
「いいや。……俺は、あんまり長くないらしい。昔よりも口やかましくなった医者が言うにはなんだけどな」
 古きを知るリンカー……マサはサプリメントを職員へと返した。

●現在
「ニュースにしろ! ニュースに!!」
 HOPEの支部のテレビが映し出したのは、ここからほど近い銀行に強盗が入ったというニュースだった。
「もう警察が呼ばれてますね。犯人のなかにリンカーがいたら、ウチから派遣ってことにもなりそうですけど」
「なんでも現場に何人かエージェントがいて、巻き込まれているらしいぞ」
 銀行強盗も運がないな、と職員たちはため息をついた。
「もう一人いるはずだ……人質のなかに元HOPE所属のエージェントが。さっき、銀行によってから帰ると言っていたんだ」
 一番年嵩の職員が、テレビを睨みつけながら呟く。
「それなら、なおさらラッキーじゃないですか」
「……いいや、彼は医者から余命宣告を受けてる。共鳴も戦闘も、もちろん医者から止められている。正直、次に無茶をやったらどうなるか分からないらしい」
 年かさの職員の言葉に、重い空気が流れ始める。
 だが、希望はあった。
「大丈夫です。現役のエージェントも巻き込まれているって話だし、穏便に解決できるかも……」
 そのとき、ドアが乱暴に開かれた。
「大変です。現在発生している強盗事件に巻き込まれたリンカーたちなんですが……全員がパートナーと分断されています!」

●銀行の内部
「くそっ。警察が来るのが早すぎるぞ!」
「お前がもたもたしているからだろうが!! まだ、手はあるんだから落ち着け」
 人質が一か所に集められているなかで、犯人たちは仲間割れを始めていた。どうやら、逃走の足として使う予定だった車が警察に止められたらしい。犯人たちにとっては背水の陣というやつであるが――どちらかというと追い詰めたネズミがのほうが近いかもしれない。マサの経験こういう犯人たちのほうが、何をやらかすか分からないぶん厄介だ。
「犯人は二十人。全員がリンカーで武装済み。これは現役時代でも、厄介だな」
『共鳴はしませんよ』
 マサの隣にいる英雄が、念の為に釘を刺す。
 見たところ、他にもHOPEのエージェントや英雄たちは人質にまぎれてはいる。だが、問題なのは、彼らのパートナーが全員外にいることである。この場で英雄と共鳴できるのは、マサだけだ。
「死にかけの爺の命と元気な人質の命。どちらが重いかは、分かってるだろ?」
 その時であった。
「ダメもとで、逃げ出すしかないだろ。おい、そこの餓鬼を人質にしろ!!」
 犯人の一人が、人質の少女に手を伸ばす。
 それを見たマサは叫ぶ。
「共鳴しろ!!」
『くっ……』
 マサの怒鳴り声を聞きながら、英雄ネネは彼と一つになる。

 ――現場で死にたいなんて思うな、馬鹿!

 内心、そんな悪態をつきながら。

解説

銀行(14:00)……現在犯人グループに占拠されている。支店のために広さはあまりなく、天井も低い。遮蔽物なども基本的にはないが、窓や扉には防火シャッターが下りている状態。奥には従業員が使用していたスペースがあるが、犯人・人質はそちらのスペースにはおらず、手前の接客用のスペースにいる。屋外では警察が銀行を取り囲んでいる。(※PLの英雄あるいはリンカーどちらかが内部で人質になっており、外部のパートナーと接触できない状態)

人質……窓から離れた接客スペースの隅に集められている。PLを除き、人質の数は五人。そのうち、一名が五歳の少女であり、銀行強盗に抱き抱えられている状態。

銀行強盗犯……二十人出現。全員がリンカーであり、銃器や手榴弾、ナイフで武装している。腕に覚えがある人間たちだが、徒党を組むのはこれが初めて。
混乱の犯罪――序盤に使用。銃器を乱射し、敵を一気に殲滅しようとする。しかし、人質にも被害がでる可能性あり。
窮地の犯罪――仲間を囮にし、他の犯人たちが背後から攻撃する。
絶望の犯罪――人質あるいはマサのライブスを吸収し、自分たちの攻撃力を上げる。
(PL情報)
 屋外に十人の仲間がおり、犯人たちが追い詰められると銀行内に全員が侵入してくる。

マサ……医者に戦闘を止められている元エージェント。少女を直接人質にとった犯人と主に戦闘を行う。健康上の理由で、長く戦うことはできない。武器は日本刀で、前衛を得意としていた。元気に見えるが色々と無理をしているため、ライブスの吸収には体が耐え切れない。なお、共鳴中は英雄の意識が出てくることはない。

リプレイ

●銀行外部 一
 とある昼下がりの銀行。
 普段であれば銀行を利用する人々が自動ドアをくぐって受付やATMを利用するはずだが、今日に限って銀行の出入り口は防火シャッターで閉ざされていた。そして、銀行の周囲をぐるりと警察のパトカーが囲んでいる。
「まずいな……」
 ソーニャ・デグチャレフ(aa4829)は、小さく呟いた。どうみても、銀行は絵にかいたような非常事態中であった。
「奴はなりがなりだからな……」
 銀行内部にいるはずのラストシルバーバタリオン(aa4829hero002)のことを思い、ソーニャはため息をついた。生きた戦車と言うべき容姿のパートナーは、ソーニャの代わりに銀行で手続きを行いにいったのである。よく使う支店であるから銀行員はラストシルバーバタリオンの奇抜な格好に慣れているだろうが、強盗犯たちから見れば歩く凶器でしかない。
『もしや、そっちもパートナーと分断された口だろうか?』
 野次馬のなかにいた神戸正孝(aa4797hero001)が、ソーニャに声をかける。
「えっ、まさか君たちもなのかな? うわー……全員、ついてないなー」
 話を立ち聞きしていたらしい雨宮 葵(aa4783)が、ため息をつく。彼女のパートナーである燐(aa4783hero001)ならば下手なことはしないであろうが、面倒なことに巻き込まれてしまったものである。
「燐、今日厄日? いや、私が厄日?」
 今日の占いの運勢は何位だっけ、と思わず葵は現実逃避した。
『征四郎は……いや。もし何かあったとしても……それは覚悟の上だろうが』
『不吉なことを言うな』
 オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)とガルー・A・A(aa0076hero001)は、真剣な顔をしてスピーカーフォンにした携帯を睨みつける。そこから聞こえてくるのは、銀行内部の様子である。機転を利かせた木霊・C・リュカ(aa0068)が、携帯を繋げてくれていたのである。
『まさか、スマートフォン二台持ちが功をそうするとはな……』
『ああ、リュカが現代っ子で助かったぜ』
 オリヴィエの言葉に頷くガルー。
 その隣では、御神 恭也(aa0127)がわずかに眉をひそめていた。
「こんな事になるなら、ついて行くべきだったか……」
『銀行強盗は予想がつかないからしょうがないだろ……犯人は苛立ってきてるんだな?』
 ガルーは、電話の向こうの紫 征四郎(aa0076)に確認を取る。征四郎の安全を考えるのならば、できるかぎり早く電話を切るべきだ。だが、万が一のために犯人たちの情報はできるかぎり欲しかった。
「犯人が女の子を人質にとりました。あっ、人質のおじいさんが……」
 電話が、ぷつりと切れた。

●銀行内部 一
「やぁ、つくづくお兄さん達も災難体質だと思わない?」
 リュカは、軽い冗談をいうように征四郎に話しかけた。
 緊張感のない言葉であったが、征四郎の緊張感を和らげようとしてくれているのは伝わってくる。犯人たちに最初にスマートフォンを渡し、別のスマートフォンを征四郎に渡して外部に連絡を取らせる手腕といい、こんなとき征四郎はリュカが頼りになる大人なのだと実感する。
「リュカ、征四郎は大丈夫……」
 怯える子供のフリはしているが、それは本心ではないと征四郎に伝える。人質のなかには、征四郎より小さな子供がいるのだからしっかりしなくては。
『あわわ……。恭也も居ないしどうしよう』
 伊邪那美(aa0127hero001)は、きょろきょろと周りを見渡す。怯える姿の伊邪那美はごく普通の子供に見え、それを不審がる人間など誰もいなかった。だが、伊邪那美はあることに気が付く。
「あの人数で、こんな支店銀行でしくじるだなんて、相当な愚図がのろまよね。もうちょっとやりようってもんがあるのにねえ」
 からかうような口調で鎌霧 紅音(aa5161)は、くくくと笑った。その言葉を聞いた伊邪那美は、顔を青くした。
『確か、犯人や人質が冷静さを無くした状況が一番最悪な事態を招くって言って気が……』
 犯人たちの銀行強盗は、誰が見たって失敗している。
 つまり、いつでも最悪な事態は起こりうるのである。
 こんな時にいないなんて恭也の馬鹿!! と伊邪那美は心の中で相棒に向かって悪態をつく。侵入のために頑張ってくれているとは思うが、それとこれとは別である。
『状況は最悪だな』
 ラストシルバーバタリオンも伊邪那美と同じ考えに至ったらしい。見た目からして英雄然としたラストシルバーバタリオンは、できるかぎり動かないようにしていた。下手に自分が動いて、犯人たちを刺激してしまうことを恐れたのである。
「おや、なにかが始まるようですかねぇ?」
 まるで楽しいショーが始まると言わんばかりの紅音の言葉とほぼ同時に、犯人が少女の腕を無理やり掴んだ。
「共鳴しろ!!」
 聞きなれない老人の声が響く。
 どうやら、英雄と分断されずにいた幸運なリンカーが一人いたらしい。
「神戸が戻ってこれたとしても、多勢に無勢か……ん?」
 守屋 昭二(aa4797)が、人質をとった犯人と戦うリンカーの動きを見ていぶかしむ。どうにも様子が変である。
「……息があがっている。何よりライブスの流れがおかしい。剣で戦う立ち振る舞いの理想の動きはわかるが、庇うような動きを感じる。――このままでは、持たない」
『助太刀するんだな?』
 ラストシルバーバタリオンが、昭二に尋ねる。
「はい、あのままではあのリンカーが殺されるでしょうから」
 昭二は、刀を袋から出す。
 ライブスを帯びていないごく普通の刀であるが、助太刀ぐらいはできるであろう。
『なら、我々も協力しよう。共鳴しなければただの鈍器だが、ないよりはましなものを持っているからな』
 ラストシルバーバタリオンも従者の杖を取り出した。
 二人は、武器を握って立ち上がる。
「おぬしもリンカーか? 待て、多勢に無勢だ。オレも実は英雄と分断されていて英雄は外にいるが、最悪、非共鳴でも戦う覚悟はしてる。一人よりはマシだろう……」
『我々も助太刀に入る。火に油を注ぐ結果になるかもしれないが、何もしないよりもましだな』
 昭二とラストシルバーバタリオンが、マサの隣に並び立つ。
 共鳴していない英雄と人間が一名ずつ増えただけである。
 状況は最悪だ。
『……(めんどくさいなぁ……)』
 燐は、立ち上がってしまった二人の背中を見てため息を吐く。このまま一般人として潜みつつ、警察の突入を待つつもりだっただが黙っていられない事態になってしまった。
「子供を人質、とか……。どう考えてもあの三人じゃ……無理だし……」
 どうみても何かしらの健康上の理由がありそうなリンカーと共鳴していない昭二。多少は、普通の人間よりは丈夫そうに見えるラストシルバーバタリオだけでは犯人たちとまともに戦うことはできないだろう。それどころか、人質を危険にさらしかねない。
 早く来なさいよ、と心の中で燐は葵に呼びかけた。
『銀行強盗さん。人質なら、私がなります……』
 昭二たちが戦闘の意思表明をしたことで緊張感が走っていた銀行内に燐の声が響く。
『泣き叫んで暴れそうな小さな子より、私の方が扱いやすいと思います。……私は、両親も死んでいるので、私が犠牲になるべき、です』
 燐のパートナーの葵ならば、どんなことがあっても銀行に忍び込んでくるはずである。どのときまでは、燐は人質の安全を守らなければならない。そう決心して、燐は怯える少女の振りを続けた。

●銀行外部 二
 どうやって内部に侵入するか。
 外に残されてしまった面々は、それぞれにその方法を話し合った。どうやら銀行内は、緊迫した状態になっているらしい。だが、共鳴できない状態のパートナーたちではどうするころもできないだろう。
『こういう時こそプリプリの出番だろ。正面から魔法少女の恰好をして入って、犯人達の視線を奪え』
 オリヴィエが、名案だと呟く。
『今はプリプリの衣装を持ってないし、正面入り口は防火シャッターでふさがってるだろ!!』
 それに正面からは言ったら狙撃されてハチの巣になる、と当然ながらガルーはその案を拒否する。オリヴィエは、プリプリの衣装を処分する好期を失った。
「トイレや給湯室等の換気目的の窓から侵入が、妥当なところだろうな」
 恭也が、銀行の見取り図を見ながら呟く。
「うん、そういう場所だったら防火シャッターもついてなさそうだね」
 私はその案に賛成だよ、と葵は頷いた。
『できるだけ、急いだほうが良いな。……守屋のほうが、やばいかもしれない』
 銀行内部で騒ぎがあったとすれば、昭二は黙ってはいないだろう。だが、共鳴できない状態での戦闘は非常に危険だ。正孝は、それを危ぶんでいる。
「小官の部下も何かしらの行動を起こしているだろうな。合流の準備ぐらいのことだとは思うが……」
 ソーニャも己の部下に思いをはせた。
 まさか、彼が従者の杖を棍棒代わりに振り回しているとは思わずに。

●銀行内部 二
「随分と警察の行動が早いですね。もしかして、貴方方の中に裏切り者がいるのでは?」
 外が何やら騒がしくなってきた。
 征四郎は、ガルーたちが何かをやったと信じて犯人に話しかける。
 まともに戦えるのがマサ一人と言うこともあって、犯人たちは征四郎たちを見くびっている。昭二とラストシルバーバタリオンがマサの援護をしてくれているが、残念ながら共鳴していない二人の力では焼け石に水である。
「たしかに、この速さは異常ですよね。これだけの人質をとっているんだから、普通だったらもっと慎重に動くものなのに。まるで……確実に逮捕できるという確信があるみたいですねぇ」
 悪魔のように紅音は囁く。
「ここで主犯格を差し出したら、罪が軽くなるのかもねぇ」
 助かるには今しかない、という言葉は犯人たちには甘く響いたであろう。
 くくく、と紅音は笑う。
『恭也……早く来てよね』
 伊邪那美は祈るように呟いた。
 マサの疲労は目に見えて増しているし、昭二とラストシルバーバタリオンたちはまともに戦えていない。自分にできることと言えば、祈ることぐらいだ。
「共鳴していないリンカーは足手まといだ。下がっていろ!!」
 マサが、息を切らしながら叫ぶ。
「病人が無理をしないでください。先ほどから呼吸が乱れている……あなたは本当に戦える状態なのでしょうか?」
 昭二の言葉に、マサは苦虫を噛んだような顔をした。
 図星だったのだろう。
「病人のあなたに死んでほしくはない。少し、休んでください」
『おそらく、我々の上官が合流の手立てを考えてくれているはずだ』
 ラストシルバーバタリオンもマサを止めにはいった。
「いいや、駄目だ。最後まで戦い抜いてやる。ここが、俺の死に場所だ!!」
 マサが叫んだその時、白い煙があたりに立ちこめた。
「けほ、思ったより煙が酷いな」
 白い煙を発生させたのは、葵は空になった消火器を捨てるともう一本も消火器もあたりにばら撒き始める。
「人質になっていた人! 皆、無事!?」
 征四郎は、その声を聴いてはっとした。
 助けがやってきたのだ。
 おそらくは、ガルーも一緒に来たであろう。
 ならば勇気を振りしぼって――無茶ができる。
 征四郎はリュカの懐から飛び出して、燐を捕まえていた犯人の足元にタックルを繰り出す。小さな女の子の不意打ちは、強盗犯を驚かせた。燐の体が宙に放り出されて、葵と視線が合う。
『ん。遅い』
「結構頑張ったんだけど! 褒めてよ!」
 まったく、と葵が呟く間に二人は共鳴を果たす。
 今回は共鳴までが苦労したせいであろうか、久々の感覚に感じられた。
「このガキなにしやがる!」
 燐を放り出した犯人が、征四郎の頭を踏みつけようとする。
 だが、オリヴィエの声がそれを止めた。
『跪け、手を上げろ。牢屋か地獄か、行き先は決めさせてやる』
 リュカと共鳴を果たしたオリヴィエは、犯人に武器を突きつける。
「オリヴィエ! それに、ガルーも!!」
『無茶しすぎだ、馬鹿!』
 共鳴もしてないのに、と悪態をつきつつガルーは征四郎と共鳴を果たす。
『恭也、エアーダクトとか通って埃まみれになっても来てくれるって信じてたよ』
「……なぜ、妙に具体的なんだ。窓が開いたから、エアーダクトは通っていないぞ」
 伊邪那美と恭也は共鳴し、犯人の一人に向かってストレートブロウを使用する。吹き飛んだ犯人を見た、恭也は呟いた。
「……この規模の銀行を襲うには、人数が多すぎる気がする」
『なら、もう強盗は居ない?』
 もう事件に巻き込まれるのはこりごりだよ、と伊邪那美は呟く。
「意外に逆かもしれん」
 警戒だけは怠るな、と恭也は言った。
「苦戦しているようだな」
『非共鳴状態にしては、なかなか持ったほうだと思うのだがな』
 ラストシルバーバタリオンの戦車じみた肉体に、ソーニャが搭乗する。共鳴を果たした二人は、そろってにやりと微笑んだ。
「放て!」
 ソーニャの言葉と共に、ライヴスショットが放たれる。シャッターがその一撃によって破壊されて、人質を逃がすための出入り口ができた。
「私たちが守るから、人質の人たちはあそこから逃げて」
 葵が声を張り上げて、人質たちの避難を誘導する。犯人たちが集まってくるが、それに立ちふさがったのはラストシルバーバタリオンであった。
「小官たちを落せるものなら落してみるのだな」
「ばかばか撃ち合って、切った張ったするのが得意なのが多いから楽よねぇ」
 英雄と共鳴を果たした紅音は、相も変わらず笑っていた。
「経験豊富な先輩方がいるんだから、しくじったら目も当てられないわね」
 そう呟きながら、紅音はマサを見やる。
 別に紅音は、マサが死んでも構わない。
 たっぷりと敵と戦ってもらい、敵と消耗していただきたい。
「それを望んでいるようだしねぇ」
 だが、紅音とは逆のことを考える者もいた。
『予想通り、無茶をしてくれているようだな』
 正孝は、あきれたように昭二と共鳴する。
 何かあったら真っ先に行動しているに違いないとは思っていたが、共鳴もなしでここまで犯人たちと戦おうとしいたとは予想外であった。
「しかたがないでしょう……自分よりも無理をしている人間を見てしまっているのですから」
 昭二の言葉を聞きながら、正孝は息の上がったマサを見やる。
 たしかに、彼はもう戦えそうになかった。
『休んでろ、おっさん』
 オリヴィエはフラッシュバンを使用し、犯人たちの視界を奪う。
 その隙に、征四郎はケアレイを使用しマサの体力を回復させた。
「ここからは征四郎たちが戦うのです。あなたは英雄と『2人で』避難誘導をお願いします」
 マサは納得しきれていないようであったが、葵も「お願いだよ」とストレートブロウ放ちながら叫ぶ。
「犯人たちの数が多いから、私たちは戦うことで精一杯なんだよ。誰かが、人質を安全に外に連れ出さないと」
 葵の言葉は、もっともであった。
『……とっさの判断にしては……合格ね』
「ヤッター。燐に褒められた!」
『……ん。……ご褒美は修行三割増し』
 ご褒美なのに増えちゃうの! と葵は一瞬涙目になる。
「どうやら、悠長に遊んでいる暇はなくなったみたいだねぇ」
 紅音は、犯人たちの後ろに回り不意打ちの一撃をくらわす。
 動ける犯人たちの数もぐっと減って、もうすぐ決着が付きそうである。紅音の楽しい時間も、終わりを告げようとしていた。
『はー、もう終わりだよね。だよね?』
 人質になるって嫌な体験だったよ、と伊邪那美は恭也に尋ねた。
「油断はするな」
 恭也は、あたりを警戒する。
 違和感を感じる、と恭也は小さく呟いた。
「計画の詰めの甘さときたら、ふふーふ。所詮三流だね。これで帰ってお肉が食べられるね」
 リュカの楽しげな声に、オリヴィエはため息をつく。
『いっそ、内と外からプリプリで犯人たちの意識を奪ってくれればよかったものを』
「うーん。さすがのお兄さんでも、それは死んじゃうよ」
 勝ちが見えてきた中で、葵は呟く。
「なんだか、様子がおかしいような……」
 葵の呟きと共に、新たな足音が聞こえてきた。
 それは、屋外からやってくるように思われた。

●銀行外部 三
「無事だったか!」
 銀行の外で、知り合いのHOPEの職員がマサに声をかけた。
「……死に損ねたよ」
 どこか悔しそうなマサの声に「また、彼は繰り返すかもしれない」と職員は思った。白い病院や自宅ではなく、現場で死ぬためにマサはまた自ら危険に飛び込むかもしれないと。
「下がってください。下がってください!!」
 警察の一人が、職員とマサに離れるように言う。
「今内部から連絡が入りました。犯人たちの仲間が銀行内部に侵入してきたようです!!」
 中にいるリンカーたちならば――人質もいない状態ならば、彼らは負けたりはしないであろう。非常線が張られた向こう側にマサは視線を向ける。もうすぐ死ぬはずの男の目は、恐ろしいまで戦場に焦がれていた。

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 心に翼宿し
    雨宮 葵aa4783
    獣人|16才|女性|攻撃
  • 広い空へと羽ばたいて
    aa4783hero001
    英雄|16才|女性|ドレ
  • エージェント
    守屋 昭二aa4797
    人間|78才|男性|攻撃
  • エージェント
    神戸正孝aa4797hero001
    英雄|42才|男性|ドレ
  • 我らが守るべき誓い
    ソーニャ・デグチャレフaa4829
    獣人|13才|女性|攻撃
  • 我らが守るべき誓い
    ラストシルバーバタリオンaa4829hero002
    英雄|27才|?|ブレ
  • エージェント
    鎌霧 紅音aa5161
    人間|24才|女性|攻撃



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