本部

それは勇気か蛮勇か

蘇芳 防斗

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
寸志
相談期間
5日
完成日
2015/10/17 19:47

掲示板

オープニング

 その騒動は何処のH.O.P.E.支部でもどちらかと言えば良く見掛ける、日常の出来事だった。
「なぁ姉ちゃん聞いているのかよ! 変な魔術師っぽい奴らに村が襲われて、俺の事逃がしてくれた皆が捕まって危ないんだよ!」
 ただちょっと違うのは、その騒動と言うか依頼を持ち込んだのがまだ年端もいかない身形がやや薄汚れた少年、と言う事。まくしたてるその少年を前に、果たして応対するH.O.P.E.の受付に従事しているだろう女性はと言えば。
「ちゃんと聞いてますよ。まぁ話から察するにセラエノに属するヴィランの仕業なんでしょうかねぇ、とは言えちゃんとした確証が取れないとですねー」
 名前こそ知らないがたまにここへ来ていた事に、多少でも言葉を交わしていた覚えもあるから屈んでその少年と目線を合わせ、諭す様にそう応じるものんびりとしたその調子に彼。
「そんな事言ってるから行き遅れるんだよっ。もういい……それなら俺一人で今度は皆を助けに行く!」
「ちょっと待ちなさいと言うかどさくさ紛れに言ってはいけない事を……!」
 苛立ちも露わに、ますます息を巻いて彼女へ半ば叫んではそう毒づき踵を返し……だが冗談半分で言ったそれが実は的を射ていから、受付の女性は少年を止めようと拳を振り上げ……。

「……とまぁ、その必殺の一撃を難なく躱され今に至るわけですが」
(それは気にする所じゃないと思うんだが)
 それから暫く……ここに至るまでの経緯を彼女から尋ねてもいないのに至極丁寧に聞かされ、君は内心でだけ溜息を漏らす。
「ともかく、それからすぐにプリセンサーの探査によって少年の話の裏が取れました。場所はフィンランドの片隅にある山間の小さな村、そこを襲い住む人達を捕えた魔術師っぽいヴィラン達が何らかの儀式を行うようです。尤も、準備に手間取っているみたいで今から駆け付けてもその阻止や捕まっている人達の救出を行う時間は十分にあります。以上、件の山村近くにいる方は取り急ぎ現状へ向かい捕まっている人達の救出に当たって下さい」
 もそれは周りにいる皆も同じで、また彼女もそんな皆の反応を見透かすからすぐに話を戻し、そう本題を切り出せば少年が生まれ育ったその山村が今置かれている状況を要点だけ抜いて説明し、そして改めて主とすべき目的を目前にいる能力者の皆へ話す。
「目的はその山村に住む人達の救出及び少年の確保。山村を襲撃したヴィラン達の捕縛は二の次とします。協力して頂ける方には細部の情報を転送しますので、迅速な対応を宜しくお願いします」
 そこまでを話して頭を垂れ、そしてまた顔をあげれば彼女は最後にポツリ漏らすのだった。
「責任感が強いから、ああして捕まった皆の代わりに助けを求めに来て、僅かな時間も惜しんで皆を助けようと村へ戻ってしまい……だからリンカーの皆さん、彼に教えてあげて下さい」

 勇気と蛮勇の、その違いを。

解説

●目的
山村に住む住民達と、少年の救出
 ヴィラン達の捕縛は当依頼の成功度に影響しません

●状況等
フィンランドの片隅、自然の中にある長閑で小さな山村が舞台です
その中央にある寄合所に5つの家族、17人が押し込められています
戦闘を回避しながら全員を連れて村から脱出するのはちょっと難しいでしょう

家屋の間隔は広く、山村内は開けていて遮蔽物等は特にありません
家屋の近くで戦わない限り皆さんが家屋を破壊する事はありませんが、ヴィラン達はそれを気にしないので広いスペースへ上手く誘い出す等して戦って下さい

●魔術師風のヴィラン×4
ヴィランズ『セラエノ』に属していると思われる魔術師風のヴィランです

但し見た目が魔術師風なだけで軽装ではなく、儀礼用の剣や銃に防具等もしっかり着込んでいます
攻撃手段こそ多彩ですが、攻撃力はお世辞にも高くありません
また山村内で何らかの儀式を行う為の準備を行っており、それぞれ別個に動いている事から上手く立ち回れば(あくまでも捕縛と言う意味で)各個撃破も可能でしょう

状況が不利と見れば逃げ出す魔術師もいるかも知れません

●その他
少年の所在は不明ですが道中、気にしながら移動していれば山村に到着する前に見付かります
少年の素性や山村に関する情報等と言った皆さんからの質問には、少年が皆さんの事を『信頼に足る、ちゃんとした人間』と判断すれば、大概の事には答えてくれます
やんちゃな盛りですが、皆さんがしっかりしていれば言う事は聞いてくれるでしょう

リプレイ

●それは勇気か蛮勇か
 フィンランド某所。
「その子と村人さんを早く助けなくちゃ、宇宙警備隊出動だ!」
『分かっているみらい。人々の平和な暮らしを護るのも俺達の使命だ、秩序と平和の証のこのブレスにかけて!』
 長閑な自然だけが広がる風景、至って平和な街道を進みながら清涼な空気を吸い込んで後に揃い握り拳を固めては、宇宙 みらい(aa0900)と、カトリ・S・ゴルデンバード(aa0900hero001)の二人はやはり声も揃え高らかにそう発するものだから、一行と交錯した農民の装いした老父は何事か驚くが、暫し後に二人がエージェントである事をその外見から判断して合点がいくから静かに皆へ頭を垂れすれ違い。
「うーん、熱いですね」
『……どちらかと言うと似てるな、君も』
「そうですか?」
 その老父へ首肯を返しながら、ハーメル(aa0958)は一行の先を進む彼らを見ては屈託なく笑うもそんな彼の言葉に、墓守(aa0958hero001)は静かに且つ端的な言葉を返せばハーメルが首を傾げ応じるなら、それ以上は何も言わず僅かに肩を落として。
 ともかく、長閑な風景だけが広がるそんな街道を黙々と歩くものだから気付かず自然に一行の気が緩むのはしょうがなく。
「住民を守るのも大事ですが、それよりも先ずは少年を探さないと……」
 だから次いで、駒ヶ峰 真一郎(aa1389)がそう声を響かせると彼の英雄である、リーゼロッテ アルトマイヤー(aa1389hero001)もただ首肯だけして皆を見回すなら改めて、先ず当初の目的である少年を見付けるべく、それぞれが周囲へ視線を彷徨わせる。
 特に深そうな森や大きな街や村もあるわけではなく、年端のいかない年頃の少年が単身で街道以外の道を進む事も考え難い事から一行、とにかく街道を突き進む事暫く。
「所で今更なんだけど全員固まって行動するのって、不自然じゃないかな?」
「話を聞く限り、道中に敵が伏せている可能性はほぼ0じゃろう。なら皆で先ずは少年を見付け、山村の近くで散開する方が良い。連絡の手段とて、限られておるし大っぴらには出来ぬからのぅ」
「あ、それもそっか」
 ふっと皆で揃い歩く事を疑問に思ったから率直に口にした、高橋 蜜柑(aa0630)だったがそれは即時、カグヤ・アトラクア(aa0535)が艶やかな黒髪をなびかせながら的確な解を持って応じるからすぐにそれは氷解する。
 出立前、受付のお姉さんから必要数の無線機こそ持たされたが本来なら事前に申請が必要ではあったが、そもそれ以前にどちらかと言えば今回の依頼は隠密での行動が重視されるだろう事を考慮すれば納得するもの。
『まさか、木の上に上ってないでござるよな?』
「ないとは言えないけど、どうかなぁ」
『……あれ、じゃないかな?』
「どうやら、その様だね」
 と、二人がそんな話を終えた丁度その頃、ジョアッキーノ ソールズベリー(aa0630hero001)の素直な疑問に蜜柑が首を捻るも二人が視線を投げた一本の樹が懐で立ち上がる小さな影が見えたなら、クー・ナンナ(aa0535hero001)もそちらを指し示してポツリ言うと頷く真一郎に皆は急ぎ駆け出すのだった。

「あなた……えーと、ともかくちょっと待ってー!」
「何だよ姉ちゃんたち。俺急いでるんだ!」
「姉ちゃん……」
『あははっ、また間違われた!』
 それからすぐ少年に追いついた一行の中、狼谷・優牙(aa0131)が少年の名前を聞かなかった事に今更気付きながらもその歩を止めようと慌て呼び掛ければ、つっけんどんに返って来た彼の言葉に優牙はその場で固まり、その彼の傍らにいた英雄、プレシア・レイニーフォード(aa0131hero001)は何時もの事と言う様に楽しげにあははと笑う。
「僕達はH.O.P.E.から依頼されて君の住んでいた山村の住民達を、君が無茶をする前に助ける様に派遣された『リンカー』で、僕はハーメルと言います。所で名前は何て言うんだろう?」
「あっ、あの……ハインって言います!」
 そんな二人の様子に首を傾げ、ともかく彼は歩を止めたなら次いで彼へ声を掛けたのはハーメル。一行の素性も明らかにするなら次いで返って来たハインと言った少年は一行へ好奇の光を湛えた朱の瞳を注ぎ、先までとは全く違う何処か緊張した声音で彼へ応じる。
(根は素直な子ですね。それと……リンカーへの憧れもある様な?)
 その瞳が忙しなく皆を見つめる中、そう考えたのはハーメルだけではなく。
「村人さん達を助けたいって気持ちは僕たちも同じだよ、だから詳しい話を教えてくれないかな……あっ、僕は宇宙みらい。よろしくね」
「よろしくお願いしますっ」
 何はともあれ、会話の取っ掛かりは作れたから次いでみらいが言葉を続ければ次いで手を差し出すと、伸ばされた彼女のその手に両手でハインも握り返すも。
『責任を感じていたようだし、気持ちは分かるが無茶だな……』
「でも、それでも……」
「うん、その気持ちよく分かるよ。身近な人達を助けたいその気持ち」
『……そうだな』
 先までの熱さは何処へやら、カトリが今は落ち着いた声音で何処か諭す様にハインへ呼び掛けると項垂れる彼は口ごもりながらそれでもと肩を震わせるなら、その様子にみらいも頷き静かにそう言葉を紡げば肩で僅かに嘆息だけ漏らしながら、しかしリンカーである彼女の意も理解するからこそそれだけ呟いて彼女の頭に大きな掌を置いては少年を見て一つだけ頷くも。
「けれど、やっぱり連れてはいけないかなぁ」
「無茶言ってるのは分かるけど……お願いします!」
 とは言え全体の方針がおよそ決まっている以上、それは今更返せる筈もないからショックから立ち直った優牙が同じ位の目線の彼へ尚も諭すが、ハインとて一歩も引かず話は平行線。
「ジョーさんパス、待つことの大切さ説いて」
『いやいや、待つのはこちらでござる』
 次いで声を発したのは蜜柑だったが、果たして丸投げされた英雄はと言えば彼女の方へ向き直れば果たして食い下がると、意図したわけではなくとも場の空気を和らげてハインも僅かとはいえ、そんな二人のやり取りに笑みを零し。
「その気持ちは良く分かるし、村人さん達の事も気になってるだろうけど、ここは支部に戻って僕達の報告を待っててくれないかな」
『少年、キミは危機を知らせる事で立派に自分の勤めを果たした。後は俺達の出番だ……人にはそれぞれの使命がある、分かってはくれないか?』
 だからと尚も、みらいにカトリは優しい口調で少年を説得するなら暫くの間を置いて後、彼は静かに頷いた。

●救出、開始
 それから一行はハインから山村に関する情報を知る限りだけ聞き、彼と別れた。
 道中に危険はなく、とは言え最寄りの支部までの道はお世辞にも近くないので近隣にあった村で待っている様にと告げて。
「何班かに別れて行動……はいいけど、どう分かれるか。いっそのこと、じゃんけんで別ける?」
 それから暫く、山村へ近付くからこそ当初の打ち合わせ通りに一行は散開して行動しようとするも、その具体的な案までは出されていなかったから蜜柑が発した疑問は尤も。
「まぁ好き好きで良いじゃろ。それぞれの力量とすべき事を考慮してのぅ」
 それに対し、果たしてカグヤはと言えば飄々とそう応じるなら頷いて皆は自らの意志を歩きながら、それぞれに告げれば程無くして三班に別れる。
「それでは、何かあれば無線機で」
「皆、気を付けてねっ」
 そう言って真一郎とリーゼロッテ、みらいとカトリらが村人達の救出に赴くべく街道をそのまま直進すれば。
「えぇ、そっちもね」
「じゃあ僕達も二組に……」
 残る4組は山村を襲ったセラエノと思しきヴィランの捕縛に動くべく散開しようと更に二班に別れようとして。
「ちと思う所があっての、済まぬがわらわらは単独で行動させて貰うのじゃ」
「えっ、カグヤさん……」
 しかしそんな折、果たして音頭を取ったカグヤはと言えばそれだけ告げると単身街道を外れ、山村の右手側にある木立の中へ駆け出せばクー、残る皆に駆ける主をそれぞれ一瞥だけしてカグヤの後を慌て追い駆けるなら残された三組六人。
『……どうしよっか?』
「カグヤさんなら多分、大丈夫でしょう。一先ず三組で行動して相手の力量を図りましょう。それに応じてまたどう動くか考える事にしますか?」
 プレシアが紡いだ疑問にはハーメルがすぐに応じればとりあえずでも指針を示せば、それに誰も異論は挟まなければ六人はカグヤとは逆、山村の左手側になる木立の方へと静かに駆け出した。

 それから時間が流れ、三組六人。
「これで油断して来てくれると良いんだけど……」
『あはは、ピクニックみたいだねー♪』
「って、遊びじゃないよ」
 のんびりと、何処か楽しげな会話を弾ませていたのは優牙にプレシアの二人。
 何処をどう見ても隙だらけなのは何処かに潜んでいるヴィランを油断させる為の演技で、そして囮。
「誰だ……!」
(わっ、ほんとに来た……!)
 とは言え間もなく二人の存在に気付いた一人のヴィランだろう、話に聞いた通り魔術師然としたローブで身をすっぽりと覆う、彼女らから見れば大男が現れたから内心でだけでも驚く彼……まぁそもそも、乗ってくれなければ話にならない訳で。
「ちっ、ガキか。ここは今立て込んでいるんだ、遊ぶんなら向こうで遊ぶんだな」
 ともかく、二人を明らかに子供と判断したから現れたヴィランは手を振りその場から追い払う様に言葉を吐くなら、優牙は果たしてにっこりと笑い。
「……悪いけど、そう言う訳にはいかないんだよね」
「あん?」
「行くよっ、プレシア!」
『はーいっ!』
 そしてそう言葉を返すと、疑問符を浮かべる間の抜けたヴィランを傍目に果たして二人は共鳴を成すから慌て大男はローブの奥に隠していた長剣を抜き放つも、それより早く優牙のオートマチックが銃爪を引き絞り、銃口から放たれた弾丸が即時に敵の肩を穿つ。
「こいつら、リンカーか……!」
「あまり邪魔しないで下さいねっ。素直に無力化されてくれれば痛くはしませんからっ」
 その衝撃に表情を顰めながら、それでも辛うじて長剣を取り落さなければ歯噛みしながらも体勢を立て直せば早くも降伏を勧告する彼の提案は無視して魔術師風の男は地を蹴り彼へ肉薄しようとするも。
「背中がお留守だよ!」
 それより僅かだけ早くその背後から躍り出たのは木立の陰に潜んでいた蜜柑、拳を掲げて容赦なくがら空きのその背へ痛打を見舞うなら地へ叩き付けられるヴィランへ彼女。
「とどめだ!」
『とどめはダメでござるよ!』
「そうだった!」
 追撃、と地へ伏せる男へ固めた拳を力いっぱい振り降ろそうとしてしかしジョーの静止も聞くから寸で、蜜柑は籠めた力を何とか緩めその背を叩くとそれきりヴィランは動かなくなった。
「……うーん、やっぱり最低でも二人で一組がいいですね」
 それから場に出て来たのはハーメルと墓守、男に息がある事を確認しながら自身の出番こそなかったが間違いなくそう判断する。
 大よそ個々で対処は出来そうなレベルの敵ではあったが、とは言えトラブルがあった際の事を考えれば出来る限り単独で当たりたくはなく、だから彼は山村のある方へ顔を向けた。

(ふむ……傍目から見る限り、何をしようとしているのか全く分からぬの)
 それから僅かだけ時間は遡り、カグヤはと言えばクーと共鳴して後に魔術師らしく見えるローブや装飾品を纏い、いち早く一人のヴィランを捕捉しては暫しその行動を木陰から注視していたが……内心で呟いた通り、呪文を唱える訳でも地に魔法陣を描く訳でもなく只静かに、地の一点を見つめていた。
(もう、終わったんじゃないの……?)
 果たしてその光景にやはり内心で呟き返すクーの言葉に思案して彼女、既にやるべき事は成されたとも判断出来るからそれ以上の観察はやめ、目前の魔術師風の男に接触を試みる。
「進歩状況の確認にきました」
 遠目からなら多少の違いには気付き辛く、木陰からフードを目深にかぶり直しては平然と姿を現したカグヤはそう、男のヴィランへ声を掛ければ。
「おう、なんだ……って誰だ!」
「ふむ、惜しいの。もう少し早く気付いておれば」
「があっ!」
 のろりと頭を上げたその男は彼女を見て、しかしすぐ違和感に気付くから脇に忍ばせるホルスターから銃を取り出そうとするも、それよりもカグヤがマビノギオンを開き魔法の剣を男目掛け射出する方が早ければ男は利き腕を貫かれ銃を取り落とし。
「ほれ、大人しく地に寝てろ」
 その間にも彼女は男へ肉薄すれば直後に紡いだ声の調子とは裏腹の、畳んだ水晶の扇で強かに首筋を打ち据えるなら否応なく地に伏せるヴィラン。
「貴様……」
 だがそれでも気は確かに、体勢を立て直そうとする彼のしかし首元に細かな刃が生えた鞭が突きつけられるかrそれ以上に動ける筈はなく。
「問おう。主らはセラエノか?」
「……だとしたらどうする」
 男が観念した事を理解してカグヤは一人得心して頷くと次いで一つ、問いを響かせるなら返って来たその答えに彼女、男の首筋を小さな刃で切り裂いて……暫しの間を置いて後に何度かの首肯を見て満足したなら肉眼と義眼の二つの瞳でセラエノのヴィランを凝視しながらに開口する。
「わらわはカグヤ・アトラクアじゃ。いずれすべての技術を奪い取ってやるから覚悟しろと上に伝えてくれろ」
「なん、だと」
「言った通りじゃ。まぁ言わば、宣戦布告と言う奴かのぅ」

「何か言いたげの様じゃな」
『うん……それはそうだよね分かってるよね?』
 その宣戦布告の後、これ以上の害を加えない代わりにこの村から去れと告げて彼女は男の逃げっぷりを見送ってから寄合所があるだろう方へ駆け、しかし心の内がざわめくのを感じるからカグヤは胡乱げな瞳湛えるクーの表情を容易に思い浮かべながらそう尋ねると、返って来たその言葉へは。
「気にせんぞ。依頼自体、捕縛の必要はない故に裏切りではないしわらわにはわらわの目指す道があるのでな」
 我が道を往く。そう告げては今回の依頼に対しても反してはいないと返して……それ以上は何も言わず、クーもまた何も言わなければカグヤは一人ごちるのだった。
「とは言えさて、皆に迷惑もかけた故に早く合流せねばな」


 そんな彼らの一方、真っ先に村人達が捕えられている寄合所に向かった二組はと言えば。
「村人達が捕まっている寄合所は、あれですね……他の場所に隔離されている人ももしかすると」
「っと、それは大丈夫かな? 話の通りに数は丁度いるし皆、一先ず大きな怪我とかもしていないみたい」
 寄合所の近く、木立の中へ姿を隠していては状況を伺っていて……瞳を眇め、寄合所の窓からその内部の様子を見て真一郎がそんな可能性も懸念するも、樹上から双眼鏡で彼と同じく寄合所の様子を伺っていたみらいが静かに地へ降り立つなりそう応じるなら二人。
「……今なら近くにヴィランはいない様です、行きましょう」
 村人達の無事と、周囲の安全も確認したから何処か緊張した声音でみらいへ声を掛けたのは普段がぶっきらぼうであるからただ会話の為の努力をしているだけで、それは口にする筈もなく木陰からリーゼロッテと共鳴を果たした真一郎は飛び出して。
『分かりました。真一郎様がそう決めたのなら』
 己が内に響く彼女の言葉に一つだけ頷くなら、みらいとカトリ。
『ならばやるぞ、みらい!』
「うん、カトリ兄ちゃん……共鳴合体ブレイブリンク!」
 二人とは逆、弾ける様に飛び出して後に揃いのブレスレットを交差させては声を掛け合えば発した言葉の通りに共鳴を果たせば直後、みらいはその身に宇宙服の様な衣装を纏い小学生相応の小柄な体躯を高校生位までのものに変貌させる。
「周囲の警戒は任せて下さい。二人は……」
 その光景を目の当たり、傍目に見ても分からない程の微苦笑を浮かべながら真一郎は二人、いや今はみらいへ言葉を投げるもそれは途中で扉に掛けられている錠を大剣で壊した彼女によって遮られたから、発した言葉の通り寄合所を背にして警戒を厳にサーベルを抜き放ち。
「おっ、お主らは?」
「宇宙警備隊です! 皆さんっ、今から急いで逃げますよ!」
 そんな彼の様子を知ってか知らずか、ともかく動き出した以上は迅速に事を成さなければならないからみらいはみらいで飛んできた問いへ簡潔に応じれば皆へ、この場からの避難を促すなら続々と立ち上がる村人達だったが。
「ち、連絡が取れないと思ったらこんな事に……!」
 寄合所に閉じ込められていた村人達が全員立ち上がるより僅かだけ早く、みらいの背から響いた声に彼女は緋に染まる髪をなびかせ振り返ると、真一郎と対峙する様に二人のヴィランがそこにいて。
「はっ、刻んでやるぜぇ!」
「ならこちらも、実力行使しかないな……」
「H.O.P.E.のエージェントだろうと、同数なら」
 果たして巨大な斧を両手で持つ大柄な男が響かせる愉しげな咆哮に、しかし真一郎は今までの雰囲気を一変させて冷たく鋭くそう応じるも更に続く、最初に舌打ちしたフードから覗く風貌は優男と言った感のあるヴィランは先の男とは逆にそう静かに呟く。
 確かにエージェント二人の力量は優れたものではあるが、しかしだからこそ実力の見えない相手に油断を持って戦いに臨む訳にはいかない。ましてや後背に村人達も背負う以上。
『他の仲間もこちらに向かっている。だから大丈夫だ、みらい。仲間を信じろ!』
「分かってるよ、カトリお兄ちゃん!」
 それを理解するから、じりと二人のヴィランとの間合いを気にするみらいへ果たしてカトリが檄を飛ばすなら、応と力強く声を発したそれを切っ掛けに斧持つ大男が地を蹴り飛翔して。
「これ以上の悪さはさせませんよー」
 だがその大振りな一撃を逃さなかったのは寸ででその場に駆け付けた優牙。その男の足を狙いオートマチックの銃爪を立て続け引き絞るなら、放たれた数発の銃弾がその手や足を貫きみらいの頭部目掛け振るわれる筈だった斧の軌道を僅かでも逸らし次いで、その横合いから飛び出すハーメルが瞬く間に大男との距離を詰めると風をも斬る刀剣の峰で強かに男のこめかみを殴り、意識を混濁させれば二人へ向き直り詫びる。
「遅くなりました!」
「まだ皆、大丈夫よね!」
「大丈夫! でももう少し遅くても問題なかったのに!」
 そんな律儀な彼に続き蜜柑もその場へ駆けつけ無事を確認するも、しかし何処か不満げな声をあげるみらいだったが。
「今なら一気にいけるよ。急いで捕まえよう」
「くっ、誤算もいい所だ……!」
 形勢は変わったと、次に響かせた優牙の言葉に皆はそれぞれの得物を手に残る一人のヴィランへ揃い向き直れば歯噛みする優男はしかし、溜息を漏らすなりすぐに平静さを取り戻す。
「とにかくこうなった以上、君達に付き合う義理はないしここで捕まる理由もない」
「まぁ、そう言うな……!」
 そして呟いた言葉が消えるより早く、そうはさせじと動いたのは真一郎。雷光一閃。
「ほう。迅い、のぅ」
 その動作に一切の無駄はなく、自身の距離に優男を捉えれば間もなく振るった瞬速の白刃はしかし躱され、なおかつ何時の間にかその場に紛れていたカグヤがマビノギオンから放った光剣すらも避ける……果たしてそれは偶然の幸運か、それとも。
「遠慮すると言っている。それとも、私がこれをここで使ってもいいと?」
「汚い!」
「非常時だからな。形振りは構わんさ」
 だがそれを考えさせる暇を一行に与えず、優男のヴィランは果たしてローブの懐から小型でもガトリングガンを早く取出し、寄合所の方へ六連の銃口を向けては言えば叫ぶ蜜柑の非難に、しかしヴィランの表情は涼しげなもの。
「それはフェイクで」
 だがその僅かな間、ハーメルは気付く……それはローブで巧妙に隠していたとは言え良く見ればガトリングガンにそもそも弾丸が供給されていない事に。そもそも、捕まった村人達は何らかの利用価値があって今もまだ生きているなら追い詰められたとは言えそれでも冷静でいる彼の行動には違和感しかない。
「遅い!」
 だがそれが最後まで紡がれるより優男のヴィランが行動の方が早かった。
 ハーメルの言葉を掻き消すなり空いたもう片手で煙幕の手榴弾を掴み口でそのピンを引き抜けば寄合所の入口へとそれを放り、一切の迷いすら見せず一行を背に踵を返すのだった。

●感謝の言葉は
 こうして山村の住民を捕え何事か目論んでいた皆目見当がつかないままではあったがヴィランの魔の手から、エージェント達は無事にその命の一つも損なう事なく救い出す事が出来た。
「何か縛り方間違えた気がしないでもないけど……いいよね?」
 捕まえたセラエノのヴィランを何処をどうしてか本人も分からず、しかししっかりと亀甲縛りで固め地に転がして優牙は首を傾げる……本当に、どうしてそうなった。
『ご婦人、大丈夫でござったか?』
 だが村人達を安心させる様に声を掛けて回る蜜柑にジョーへ対し、彼が気遣う婦人に他の村人達も皆、笑顔を浮かべている風景を見ればただそれだけでも十分に一行の勝利と誰もが言うだろう。
「……良く分かりませんね。これだけでは」
「それっぽい雰囲気を醸し出してはいるが、一見だけでは出鱈目にしか見えぬ。全く、何をするつもりだったのか……」
 しかし、疑問も一つ。
 セラエノのヴィラン達が果たして何をしようとしていたのか……その事自体は謎のままで、残された幾つかの痕跡こそ見付けても何かが敷設されていたりする訳でもないから真一郎にカグヤはその痕跡を見つめながら首を捻るだけしか出来ず、寄合所へ戻るとそこで待っていたのはハイン。
「あの……村を、皆を助けてくれてありがとう!」
「皆無事で良かったけど、でもハイン君はもうあんな無茶しないでね?」
『何かあれば俺達、宇宙警備隊を何時でも呼んでくれ。望むなら俺達がまたキミの力になろう』
 一行が漸く揃ったのを確認して彼は頭を下げて皆へ感謝を告げるなら、果たしてそう応じるみらいにカトリだったが。
「えっ、私達も宇宙警備隊だったの?!」
「そんな訳なかろうて」
『……そうだな』
 その二人の言葉に初めて聞いたと驚く優牙へ、カグヤと墓守が静かに突っ込めば村には皆の村人の笑い声が久し振りに響くのだった。

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ショタっぱい
    狼谷・優牙aa0131
    人間|10才|男性|攻撃
  • 元気なモデル見習い
    プレシア・レイニーフォードaa0131hero001
    英雄|10才|男性|ジャ
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • エージェント
    高橋 蜜柑aa0630
    人間|18才|女性|攻撃
  • エージェント
    ジョアッキーノ ソールズベリーaa0630hero001
    英雄|18才|男性|ブレ
  • エージェント
    宇宙 みらいaa0900
    人間|12才|男性|攻撃
  • エージェント
    カトリ・S・ゴルデンバードaa0900hero001
    英雄|21才|男性|ブレ
  • 神月の智将
    ハーメルaa0958
    人間|16才|男性|防御
  • 一人の為の英雄
    墓守aa0958hero001
    英雄|19才|女性|シャド
  • エージェント
    駒ヶ峰 真一郎aa1389
    人間|20才|男性|回避
  • エージェント
    リーゼロッテ アルトマイヤーaa1389hero001
    英雄|15才|女性|ブレ
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