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エイプリルフールIFシナリオ

【AP】さらば愛しきさらば

電気石八生

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~10人
英雄
6人 / 0~10人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2017/04/11 22:44

掲示板

オープニング

 この【AP】シナリオは「IFシナリオ」です。
 IF世界を舞台としており、リンクブレイブの世界観とは関係ありません。
 シナリオの内容は世界観に一切影響を与えませんのでご注意ください。

●危機
 今。
 地球になにかが迫っていた。
 しかしながら、なにかがなにかは知れず、ゆえになにかをなにかだと断定することはできず。
 ただ、腕利きのプリセンサーたちが口をそろえて「厄災」だの「祟り」だの言うばかり。
 ゆえにHOPEはなにかの正体を探ることを放棄。なにかがなにか知れる前に闇へと葬り去ることを決定したのだった。

●宇宙へ……
「はいみんな注目ぅ~」
 礼元堂深澪(az0016)が両手を叩いてエージェントを呼ぶ。
 通常であれば鳴り響く音は「ぱんぱん」だろうが、「ぱいぃぃんぱいぃぃん」。やけに響く。
 それもそのはず、ここは地上4000メートル、中南米のヴィラン組織に監視の目を飛ばす空中要塞――HOPEインカ支部の格納庫だから。
「え~、みんなちゃんとぴちぴちの水着着たね?」
 集まったエージェントたちを見渡し、深澪がファッションチェック。そしてパレオは没収。非ぴちぴちは、支部に蓄えられていた旧タイプなスク水(ワンサイズ小さい)に強制お着替えだ。
「じゃ、新型ゲル状万能防具・改、装着どうぞ~」
 もしかすれば憶えている奇特な御仁もいらっしゃるやもしれない。
 某県某所の海水浴場で行われたことになっている、運用試験という名のローションプロレスを。
 つまりは、エージェントの目の前に置かれた巨大なブリキのたらいに、そのローションがたぷたぷしているわけです。
「この“改”はねぇ、宇宙戦闘用に調整されたすごいヤツなんだよぉ。暑いのも寒いのも細菌も放射線も通さない。……空気もね」
 え、それって窒息して死ぬんじゃね?
 いやそれよりなんでぴちぴちの水着着せられてんの?
「バカやろぉ~!」
 ざわつき始めたエージェントの右横っ腹(肝臓)に、深澪の左フックが次々突き立っていく。ついでに、ほのかなグリーンアップルの香りがつけられた防具という名のローションもだばー。
「今この母なる地球になんか迫ってるんだよ!? なんかをなんとかしないと、災いとか祟りとかごいすーことになるとかならね~とかっ!」
 どっちなんだよ。ツッコもうとしたエージェントの背中の下のほう(腎臓)に、深澪の三角跳びからの膝蹴りがめり込んだ。
 まことに遺憾ながら、ローションのおかげでまったくダメージはなかった。
「あと15分でなんかが成層圏に突入しちゃう。それまでにみんながなんとかしないと、万来不動産プレゼンツのオペレーター班慰安旅行が延期になっちゃうんだよぉぉぉぉぉ!!」
 深澪が指をぱきぃ、と鳴らすと、どこからともなくオペレーターのお嬢さんたちが登場。インカ支部が誇る、攻撃もエージェントの緊急射出もお任せなマスドライバーへエージェントたちを追い立てた。鉄の意志――なにがなんでも慰安旅行を守るやで!――をもって、無慈悲に淡々と。
 かくして砲弾代わりにセットされるエージェントたち。先頭はともかく、次弾からのエージェントは上の仲間に踏まれて大変。
「……みんなのこと、ボク忘れないよ多分」
 深澪がマスドライバーの発射スイッチを雑に連打した。
 音も万感も置き去り、エージェントたちは宇宙へと飛んでいく。
 地球の未来は、彼らに託されたのだ――!

解説

●依頼
 地球に迫る“なにか”を、手段問わず止めてください。

●約束事
・みなさんが生きて還ることはできません。個性を生かして逝っちゃってください(死ぬのはこのシナリオ内のみです)。
・みなさんはぴちぴち水着でぬるぬるしています。
・この依頼で生命力が減少することはありません。

●死亡条件
・迎撃予定ポイント到着からおよそ3分でみなさんはもれなく窒息します。
・衛星軌道で衛星に轢かれて命を散らすことができます。
・力尽きて成層圏で燃え尽きることも可です。
・フラグを立てておくと、死ぬとき(まわりが)盛り上がります。
・その他、死にかた自由。

●なにか
・正体は、毒条院麗佳(feat.宮様)という自称ヴィランです(前知識は必要ありませんが、気になる方はhttp://www.wtrpg0.com/scenario/replay/1272などをご参照ください)。
・平均的な羆をふたまわり上回る、銀甲冑の残念女子です。
・プラス方向にもマイナス方向にもエキサイトしやすい性格です。
・「恋愛」を超憎んでいます。
・目的はバレンタインデーを壊滅させること(間に合わなかったことには気づいていません)。
・最後は壮絶に自爆して果てます。

●麗佳の能力
・殲滅パンチ=近接単体物理攻撃(ビンタ)です。「気絶」のBSが付与されています。
・壊滅キック=呪いの光線を足の小指から放つ遠距離単体魔法攻撃です。「翻弄」のBSが付与されています。
・呪いソング=呪いの言葉を垂れ流して「狼狽」のBSを与える範囲魔法攻撃です。
・絶縁ガード=目と耳をふさいで丸まることで肉体的、精神的な防御力をアップします。ただしガード中はなにも見えず、なにも聞こえません。
・殲滅ビッグバン=自爆攻撃です。地球が割れる勢いです。

注:BSをくらうと、あなたのキャラクターはトラウマを呼び起こされます(内容指定がない場合、設定を元にした悪夢が見えます)。

リプレイ

●黒星スタート
 秒速11・2km。
 俗に第二宇宙速度と呼ばれる、地球の重力を振り切るスピードで、エージェントたちは大気を突き抜けた。
 ただ、彼らを撃ち出したマスドライバーはもともとが地上での緊急出動用に造られた試作品。構造が似ているのでそう呼ばれているだけの代物だ。
 電磁力で加速された彼らは、弾道を安定させるために超高速で横回転させられており……ようするに、めっちゃぐるぐるしてるんだった。

「にゃああああああ! この体を一条の閃光と化して、なんだかなにかを滅してやるにゃんーっ!! 忍ビームのヴァリエイション、見せてやるにゃぁあああああん!!」
 先頭をぐるぐる飛ぶミーニャ シュヴァルツ(aa4916)が、忍ビームより先に「ヴァ」の発音へのただならぬこだわりを見せつけつつ、虚空に拡散ビームを放つ。
『その下唇を噛む“ヴァリエイション”へのこだわりはいかに!?』
 内の契約英雄、風魔・影丸(aa4916hero002)が疑問を口にしたが……プレイングに記載されていないので、その謎が解けることはないんである。
 空気抵抗を減らすため、直立不動の姿勢でぐるぐる中のストゥルトゥス(aa1428hero001)の内、ニウェウス・アーラ(aa1428)がむぅ、と唸った。
「えー、なーにー?」
 ストゥルトゥスの返事に、ニウェウスはまた、むぅ。
『いきなり、そっちが表に出てる、この展開って……』
 ストゥルトゥスはちょっと考えてから。
「マスター・若頭。オレ鉄砲玉の務め、きっちり果たしてタマぁ獲ってくるッスよ! 華麗に散ってお星様になっちゃうヨ!?」
『そしたら自動で若頭もお星様なんだけどーっ★』
 鹿島 和馬(aa3414)はぐるぐるしながら、ニヤリ。
「さーて。今日も地球のピンチを救いに行きますかー!」
『和馬氏、今日はやけにやる気だね?』
 和馬の内で白覆面に隠された顔を傾げる俺氏(aa3414hero001)。
 和馬はふと遠い目を青い星に落とし。
「彼女がさ、サラダ作って待っててくれてんだ。なんかでっかいパインとか買ってきててさぁ! パインのサラダかな!? 食ったことないけど楽しみだな!」
 俺氏は胸中でつぶやいた。……和馬氏、それ古すぎて他の人にリアクションとってもらえないよ?
 ――とうとう、この日が来たのか。
 アイリーン・ラムトン(aa4944)は思いを噛み締めた。
「迫ってくるなにかがどんなものかはわからないけど……ワーム、おまえの力のすべてを解き放つ。そうして世界を救った後は、私を殺すなりなんなりすればいい」
 対する契約英雄、ラムトンワーム(aa4944hero001)は彼女の内からのんびりと。
『そんなぴちぴちのスクール水着とやらで言われても……しかもぬるぬるしてるし』
「わ、ワームのほうがぬるぬるしていそうじゃないか」
 アイリーンの反論を聞き流し、ラムトンワームは思考する。
 この世界はどうにも“ふざけている”。現実とズレた、シュールな平行世界とでもいうような。もっともそれをこの子に知らせるわけにはいかないが。
 ともあれ、ここは世界ではなく、終わりでもないのだろう。
 そして。一行の最後を飛ぶバルトロメイ(aa1695hero001)は遺憾だった。
 バストサイズF70……男子にはちょっと理解しづらいだろう共鳴体の見事な胸が今、遠心力で大変なことになっているからだ。しかし。
 ――これはこれで好都合!
 この仕事が終わったら、契約主であるセレティア(aa1695)を危険なエージェント業から引退させ、安全に儲けられるグラビアアイドルへ転身させる。そのためにも、水着を提供してくれたスポンサーへこの体のスペックを見せつけるのだ!

 それぞれが思いやらフラグやらを抱えつつ、暗黒の宇宙に無事到着。
“なにか”と出遭う。

●ポジショニング!
「盛るケダモノぶっ潰せーですわっ! 愛などいらぬっ! 恋などさせぬっ! チョコなど絶対喰わせるものぞっ! 非愛の恋・断・姫ーですわーっ!! 呪呪呪呪祝呪」
 音が伝わらないはずの宇宙空間に轟く呪いの声(一部祝いあり)。
 それは塊だった。
 白銀の甲冑まといし、凄絶なまでに太ましきオバサ――女子だ。
 秒速100キロ超でぶっとばしてきた折りたたみ自転車を急ブレーキ! ドリフトをかまして宇宙のただ中に停まった。
「……あれ、なんか見覚えあんだけど?」
『奇遇だね、俺氏もだよ』
 この中で唯一、“なにか”との遭遇経験がある和馬、そして俺氏がげんなりと言い合った。
 去年のバレンタインの時期、チョコの原料たるカカオの殲滅を企み、アフリカを目ざしたヴィラン……それがあの“なにか”、毒条院麗佳(ぶすじょういん れいか)だった。
「宇宙はチャリでぶっとばしやすくて助かりますわー」
 澄んだメゾソプラノボイスで麗佳が語れば、
『ちと息苦しいのがなんじゃがのぅ』
 内の契約英雄、宮様もまた艶やかなアルトボイスで応える。
 見かけはアレだがそろって声の仕事ができそうな感じ。
 いや、そんなことはどうでもいい。
「ひとつ聞きたいんだが……まさかチャリで木星まで行ったのか?」
 バルトロメイの問いに麗佳は即答した。
「HOPEとかいう親切な方々にチャリごと打ち上げてもらったんですわ!」
『ますどらいばとかいうたか。ありゃ便利じゃのう』
 バルトロメイは頭を抱えた。“なにか”がヴィランであると判明した瞬間、地球への帰還手段としてその宇宙船を奪取することを企んだのだ。
 ――死ぬのか!? ティアの体ごと、俺は!?
「我が前方に障害は在らずっ! 直進貫通型忍ビームにゃんーっ!」
 ビーム用コンタクトレンズを着用したミーニャの両眼が赤く輝き、白銀の甲冑の額を貫いた。
「なにしやがるですわ! ぬるぴち猫娘っ!?」
「うにゃー! ミーは猫じゃにゃーっ!! てか、せっかく当たったんだから死ねにゃん!!」
『主、それはあまりに露骨かと』
 じたじたするミーニャを、影丸が冷静にたしなめた。主を諫めるもまた、側に仕える唯一の家臣たる忍の役目なのだ。
 一方、宇宙なのにぷすぷす煙を吹く額の穴を指で塞ぎつつ、麗佳は「ふふふ」。
『木星で鍛えた気合と根性がさっそく役に立ったのう』
 宮様の言葉に、ラムトンワームが肩をすくめて。
『どちらも精神論だけどね。木星に自転車で突っ込んで還ってくるような奴に言ってもしかたないかな』
 アイリーンは応えず、ドラゴンスレイヤーの柄をきつく握りしめたまま麗佳をにらみつけていた。
「――あれが、世界を滅ぼす敵」
 独り思い詰めるアイリーンに、ラムトンワームはまた肩をすくめてみせるのだった。
『あれが滅ぼせる世界なんてたかが知れているよ。思い詰めるのはいいけど、目を曇らせるのは感心しないね』
 契約主の耳に届いていないことを知りながら、それでも彼女は言葉を紡いだ。
「ごきげんよろしう! あたくし毒条院麗佳と申しますわ! バレンタインとかいうチョコレート会社の陰謀をぶっ潰すため、木星で修行して還ってキマシタワー!!」
 高笑う麗佳に『あの、バレンタインデー、終わってるんだけど……』とツッコむニウェウスだったが、向こうの圧がすごすぎてまったく届かない。
『でも、頭に穴が空いても大丈夫なんて』
 おののくニウェウスに、ストゥルトゥスはニヤリと口の端を吊り上げてみせる。
「こうなったらもう、殺るしかねーdeathよ。へこむより前向きに逝っちゃいましょ?」
『ところどころ不吉――』
 ニウェウスの言葉をぶった切り、共鳴体が前へにるぽんと跳び出した。
「あ、ボクね、実は基地に恋人がいたりいなかったりするんすヨ」
『え、いつの間にって……いない、よね?』
「戻ったらプロポーズしようと、花束も用意してあったりなかったり」
『買ったのお花じゃなくて携帯ゲーム機だったんじゃ』
「細けーこたーいーんだよぉぉぉぉお! ボクたち星になって結婚するんだぁー!!」
『どうして私と結婚!? 基地にいる恋人はあああああぁぁぁぁぁ』
 ニウェウスの悲鳴のドップラーな尾を引きずりながら、ストゥルトゥスはチャリを律儀に折りたたんでいる麗佳へぶっこんでいく。
「俺にだってあの青い地球で待っててくれるあの子とパインのサラダが!」
『和馬氏? それ多分、食べられないと思うよ……』
 勢い込んでにるにる宇宙を平泳ぎする和馬の内で、俺氏はそっと白頭巾の目の穴をぬぐった。
『あ、それより和馬氏。気をつけないと物理的に死ぬ前に、社会的に死ぬよ?』
「おおっと、ぴちぴちすぎる水着からぬるぬるをまとった俺のスタリオン(牡馬)が!」
 スタリオンポジションを修正しにかかった和馬に、ミーニャがすばらしい発音で「セクショォハラスメンツにゃー!」。ついでに忍ビーム。
 ビームはローションでぷるんとすべってどこかへ飛んでいったが、当たった勢いで和馬のハンドポジションがずれ、あわや完全解放に……。
「ちょまっ! はみだしちまったら関係者各位からHOPEにクレームかふぁぼが!」
『いいね! しちゃう人がいるんだね』
 顔はとにかくしたり声で言う俺氏に、ミーニャと麗佳が同時にツッコんだ。
『おお……あれはまさしくMASURAO!』
「セクショォハラスメンツはディストゥロィにゃーっ!!」
 なぜか感銘を受ける影丸と、当然のごとくに憤るミーニャ。
『ぽろりで妾を誘惑しようとは! もちろん一ぽろでガチ惚れ必至じゃよ!』
「破廉恥下劣ゆるすまじ!! ……もったいぶるんじゃねーですわ馬ヤロウ!!」
 宮様と麗佳は欲望だだ漏らし。
「タマぁ獲ったるーって、ねぇねぇ、あのクマのタマ、どこだと思うマスター?」
『せ、セクハラ――ストゥルがすっごくうれしそう!?』
 ストゥルトゥスとニウェスがどーんと3者にぶっこんだ。
 かくしてぬるぬる絡み合う4組に、バルトロメイは青ざめる。
 この様子はHOPEの監視衛星が東京海上支部にライブ中継している。そして彼とセレティアのスポンサーもまた、これを見ているだろう。
 まずい。スポンサーの目が猫娘ミーニャやうっかり和馬、イケイケ・ストゥルトゥスへ移ってしまうかもしれない!
 ――なんのために俺は戦場で知略を巡らせてきた!? その知略でいくつの困難を乗り越えてきた!? 考えろ、考えろ、考えろ!
 この場に必要なのは、彼の恵体がついはみ出してしまうアクシデントだ。
 しかし。体をぴっちり覆い尽くすスイムスーツでは、アクシデントの起きようがない。
 ――このF70を、揺らすか? いや、それだけでは、いつ「ハロー」しちまうかわからん鹿島には勝てん! かわいい枠はすでにシュヴァルツに押さえられた。ボケ枠にもストゥルトゥスがいる。
 こうなれば。女は苦手だが、演りきってみせる。うかつで隙だらけで不幸な事故に恵まれた、恵体天然プリンセスを! そして還るんだ、あの地球の芸能界へ!!
「最期の時だ。おまえの力と私の命で世界を救いに行こう。……長いようで短いつきあいだったな、ワーム」
 悲壮の覚悟を決め、麗佳へ向かうアイリーン。
 その内でラムトンワームは皮肉な笑みを閃かせた。
『この世界はあんたが思ってるようなところじゃない。まあ、もうすぐわかるさ。それまではせいぜい、道化を演じてみるといいよ』
 アイリーンが大剣を振りかざし、麗佳へ向かおうとしたが。
「なんだ? 力が、解放できない。それどころか英雄の力が使えない……!?」
 ライヴスの手応えがない。無重力ゆえに剣は振れるが、その度に体がバランスを失い、うまく動くことができない。
「どういうことだワーム!?」
『すまないね。あなたに最後の日は見せてやれないよ。それよりも気づかないか? この世界があなたの決意を拒んでることに』
 哀れむようなラムトンワームの言葉を振り払いたくて、アイリーンは大きくかぶりを振った。
「ふざけるな! 世界が終わる日は今日だ! 貴様はその日のために私と誓約を交わしたのではないのか!?」
『残念ながら見解のちがいってやつだね。だから私たちの誓約は破られない。ちがうかい?』
 アイリーンは絶句する。ラムトンワームの行為は誓約違反のはず。なのにどうして、絆が断ち切られない?

●策謀
「こんなところで戯れてる場合じゃねーですわ! バレンタインもしくは地球に思い知らせてやらねう゛ぁ!」
 まとわりついてくるエージェントたちを腹のひと振りで押し退け、麗佳は地球へ目を向けた。
『ほう、主につられて巻き舌に』
「ミーの“ヴァ”リエーションはインフィニティにゃあっ!」
 影丸の言葉にエキサイトしたミーニャが、和馬を蹴ろうとしかけてやめ(ワイルドホース怖いにゃ……)、四苦八苦しながら近づいてきていたアイリーンを踏み台にして跳ぶ。
「我が弾幕突破口は有らず! 範囲拡散型忍ビームにゃん!!」
 きゅりきゅりと回転しながら、ビームをシャワーのようにばらまく。
『威力と射程を犠牲にした命中特化型の忍ビーム……よけられるかな?』
「よけらんねぇってニンジャ! 当たってるからビーム!」
「身内に撃たれて星になる……それはそれであり!」
「おまえらにぽろりはさせん! ぽろるのは俺だぁーっ!!」
 ビームをぷるぷる弾きながら和馬、ストゥルトゥス、バルトロメイがぬるぬる絡み合うが、さておき結果発表。
「ふぅ。危ねーとこでしたわ」
『これが木星式の気合と根性じゃああああ!』
 水玉コラみたいになった甲冑の外と内とで、麗佳と宮様がサムズアップを交わす。
『あの人、倒せそうな気がしないんだけど……』
「マスター奇遇だね! ボクもだよ!」
 元気に言い返すストゥルトゥス。そして彼女は絶望するニウェウスに。
「というわけで特攻しかなし! ドカンと咲いちゃうぞー、オー!!」
『ストゥルもうちょっと考えて! せめて3秒くら』
 加速するストゥルトゥスだったが。
「殲滅パンチですわー!」
 ぼるん。ローションまみれのほっぺたに、麗佳のつっぱりが押しつけられた。
 絶対防御を越えて、気絶のBSとトラウマがストゥルトゥスへ襲いかかる!
「あああ足の小指にッ! タンスの角はッ! やめ、ろおおおおおおッ!!」
『それ、そんな深刻なトラウマじゃないよね!?』
 左足を抱えてごろもだするストゥルトゥスを背にかばい、和馬がとっておきのいい声で告げた。
「みんな下がれ! 俺は毒条院とは1回戦ってる! 任せろ!」
『和馬氏、スタリオンポジションに注意だよ?』
「おっと、鎮まれ俺の暴れ馬」
 俺氏の警告に、ぴちパンをぐいっと引き上げた和馬。その顎を、「生殺しにしてんじゃねーですわー!」という魂の叫びとヤクザキックが打ち抜いた。
 翻弄された和馬が、トラウマの悪夢を見る。
「ドアの外に置いてある昼飯……お母さんのメモが……俺、46歳の、春」
 それは和馬が引きニート時代、幾度となく見てきた想像の未来。
『お母さんのメモはリアルガチだよね? 早くお部屋から出――』
「言うな! それは言うな!」
「くらえ忍ビーム! シノッッ、ビィィィィインムッッ!!」
『そこはネイティブではないのだな』
 影丸のツッコミはともあれ。超でっかいロボットのパイロットが叫ぶ技名風味のイントネーションで、ミーニャがビームを放った。
「その技はもう見ましたわ!」
 もれなく喰らいながら、麗佳がミーニャに肉薄し。
「殲滅パンチですわー!」
「にゃん! 当たったらひとたまりもないにゃん! けど、当たらぶっ、なければぱっ、どうとぅっ、いうことはまっ、ないんだにゃびっ」
『主、まことに遺憾ながら、ここは地上ではなきゆえ……』
 麗佳の連続ビンタを跳びかわそうとしたミーニャの足は、虚空をすかすか空振りし、掌を押しつけられまくった。そして。
「うにゃー! ミーはユーをヒーとハーでやっちゃいなYO♪」
『主のトラウマが……読めぬ!』
 麗佳の謎防御力とBS攻撃に悶えるエージェントたち。
 その間を、這うようにしてアイリーンが進む。
「私はもう、貴様を信じたりしない。私独りでも、絶対に地球を、人を、助けてみせる! ラムトン家の名に賭けてそう誓ったんだ!」
 ラムトンワームは息をつき、アイリーンにやさしく語った。
『私を恨んで、無力を噛み締めて死んでいくといい。きっといい予行練習になるよ』
 いつか私が消える――別れのときのね。と、ラムトンワームは胸中でつぶやいた。
 力を解放した後、ラムトンワームは主を殺すとラムトン家では伝えられている。しかし真実はちがう。力を解放すればラムトンワームは力尽きて死ぬのだ。
 そのとき、アイリーンが悲しみに沈んでしまわないように。それまでの時間を、普通に楽しく過ごしてくれるように。彼女は嘘を重ねて主を弄するのだ。
『……気に食わん死相じゃ』
「恋愛憎んで人を憎まずがあたくしたちのポリシー。壊滅キック手加減派ですわー!」
 防御もままならないまま、アイリーンは脛をこつんと蹴られてトラウマへ沈む。
 嘘の中で幻(み)せてくれたあなたのやさしさに感謝するよ。ラムトンワームの感謝は果たして、麗佳に届いたのかどうか。
 と、そこへ。
 満を持して、バルトロメイ来たる。
『麗佳、巨乳じゃ! 巨乳が来やるぞ!』
「ガッデム!! 寄せてねー巨乳ですわよ!? 呪呪呪呪呪呪祝!」
 ――ぬるぬるしてさえいれば死なん! あとはあいつを使って見せ場を作る!
 宇宙空間で唐突にコケたバルトロメイの手から手編み風マフラーが伸び出し、麗佳の腕に巻きついた。
「いや~ん! メイったらうっかりさん~!」
 心の中で割腹しつつ、彼はマフラーを力いっぱい引き、麗佳に組みついた。
「離れろですわ悪魔っ!」
「お姉様とくっついてるとメイ超安心~」
 ぬるぬると麗佳に抱きつきながら、ヌアザの銀腕“Lucifer”をその腹に押しつけ、ビームを連射。が、甲冑についたローションがビームをすべらせ、ダメージを与えられない。
 ――これでいい。ここからが本番だ!
『このままでは妾たち、この百合巨乳の毒牙に――!!』
「守り抜いてきた我らが操、石油王にしか渡すまじ!!」
 もがく麗佳。その動きで、密着したバルトロメイのスイムスーツの肩紐がずれ、そして。
「お姉様ったら~! セキニン取ってもらっちゃうんだからねっ!」
 肩紐が外れて締め付けから解き放たれたF70が、慣性に乗ってぷるんぷるん。
 ――これが俺の最善手だ!
 脱ぎにくいスイムスーツでぽろり感を出しつつ、実際は見せずにセレティアの純潔を守る。それこそが、たったひとつの冴えた策謀だ!

●不忍
「(麗)きょきょきょ巨乳壊滅ぅぅぅぅ!!」
「(馬)俺氏やばい! 俺のスタリオンがスタンダップコメディを――」
「(ス)タンス、トリプルアタック!? ボクの小指を踏み台に――」
 大騒ぎの中、ミーニャが両眼から血涙しながら唇を噛み締める。
「ミーは忍! 忍ぶ者! だけどあえてこう名乗るにゃん! ミーは不忍(しのばず)! 不忍が刃で見せる最期のココロ、刮目するといいにゃん!!」
『主、僕(やつがれ)はもうなにも言わぬ。心のままに刃を振るわれよ!』
 影丸のゴーサインが、ミーニャの理性の枷をぶっちぎらせた。だって、15歳なのに102センチだから。バストサイズじゃなく、身長が。
『あの、誰か、止め――ストゥル!?』
「まさか親指まで……いっそひと思いに殺れやぁあああああああ」
 ニウェウスの声は、執拗なタンスの角トラウマにやられ続けるストゥルトゥスには届かないんだった。
「我が身我が魂(イノチ)、一条の閃光となりて! ――もえろミーのライヴスッ! アァァァルティメットォォォオ! シノッッビィィィム・マキシマァァァアムッ!!」
 ミーニャが命を燃やし尽くして消滅することを引き換えに、ビッグバン級の威力を成す終末玉砕型アルティメット忍ビームが発動した!
 ――女豹のポーズ、決めたかったにゃん。
 宇宙に散ったミーニャの意志をまとい、和馬が地球へ落下していく麗佳へ跳ぶ。
「俺が替わりに決めてやるぜ……パインのサラダ食ってからな!」
『だからそれは』
「女豹のポーズを決めるのは俺だぁーっ!!」
 俺氏の言葉を押し退け、麗佳と絡まったバルトロメイが、地球の重力を利して女豹のポーズをとったその瞬間。衛星軌道をなぞってきたライヴス式お天気衛星に轢かれ、そのままどこかへ流れていった。
 その後ライブ放送中の天気図をその美乳で覆い、省庁にもっとやれの声が届くのだが――ついに彼がそれを知ることはなかった。
 自由となった麗佳はさらに墜ちていく。
「行かせるか! たかが銀甲冑、俺が押し出してやるっ!」
 大気圏に突入した麗佳の下に回り、和馬がライヴスをフルスロットル。なんとか押し返そうとあがくが、木星還りの重さは伊達じゃない。
「……馬と鹿だけにいい思いはさせないよ?」
 トラウマから回復したストゥルトゥスが、和馬の横にいた。
 ふたりの体からあふれるライヴスが共振。光の膜を形成し、麗佳を押し包んでいく。
 和馬は思わずつぶやいた。
「大きな星が点いたり消えたり……」
『作品変わっちゃったね?』
 Zなセリフへ俺氏がツッコみ。
「母さんデス」
『それ、私にはわかんないから……』
 ストゥルトゥスのVなボケにニウェウスが頭を抱え。
 そして。
「なんとしてでもバレンタインデーぶっ潰せですわ! 殲滅ビッグバ」
『待て麗佳、殲滅じゃとパンチと混ざる。それはいかん』
「え? じゃあ、撲滅! 撲滅ビッグバン!!」
 余韻も溜めもなく、麗佳の体が爆散し。
 ――パインサラダ、期待してるZE。
 ――ボクの墓前には、エビフライを供えてネ★
 和馬とストゥルトゥスの思いがきらめきとなって地球に降りそそいだ。

●嘘
「あ、流れ星だぁ」
 海辺の温泉宿の露天風呂で、慰安旅行中の礼元堂深澪は他のオペレーターたちといっしょに記念撮影。

 そんな光景を虚空から見下ろし、今も眠り続けるアイリーンの内でラムトンワームはため息をついた。
『嘘つきがさらわれた嘘の世界。嘘の死を経て真実の生へ還る。……嘘の世界でつく私の嘘は、あなたを還すための嘘だった。真実の世界でつく私の嘘は、あなたを守る嘘だけど』
 ラムトンワームは命の回線を断ち切る。
『もしもこちらが真実であちらが嘘なんだとしたら、私は嘘を守るために嘘をつくよ』
 消失。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • カフカスの『知』
    ニウェウス・アーラaa1428
    人間|16才|女性|攻撃
  • ストゥえもん
    ストゥルトゥスaa1428hero001
    英雄|20才|女性|ソフィ
  • 黒の歴史を紡ぐ者
    セレティアaa1695
    人間|11才|女性|攻撃
  • 過保護な英雄
    バルトロメイaa1695hero001
    英雄|32才|男性|ドレ
  • グロリア社名誉社員
    防人 正護aa2336
    人間|20才|男性|回避
  • 家を護る狐
    古賀 菖蒲(旧姓:サキモリaa2336hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 初心者彼氏
    鹿島 和馬aa3414
    獣人|22才|男性|回避
  • 巡らす純白の策士
    俺氏aa3414hero001
    英雄|22才|男性|シャド
  • おもてなし少女
    ミーニャ シュヴァルツaa4916
    獣人|10才|女性|攻撃
  • 主の守護
    風魔・影丸aa4916hero002
    英雄|25才|男性|シャド
  • エージェント
    アイリーン・ラムトンaa4944
    人間|16才|女性|生命
  • エージェント
    ラムトンワームaa4944hero001
    英雄|24才|女性|バト
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