本部
掲示板
-
【相談卓】
最終発言2017/03/22 12:17:31 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/03/19 16:56:56
オープニング
●花と岸
四国の地に、二体の愚神が足を踏み入れた。
それは、濡れ鴉の様な長い髪。
それは、喪服の様に黒い着物。
それは、黒い『蝶』を纏っていた。
(命は絶対)
(一時の間)
2体の愚神は正座したまま神門を見上げる、と同時に口を動かし言葉を紡ぐ。
「『女王の命より、花の名を冠する姉妹。彼岸、参りました』」
「蓮……いや、別の個体か」
鏡に写したか様に細部まで『同じ姿』の『彼岸』と名を名乗った双子の少女を、興味深そうに神門は視線を向けた。
「『混沌、この地に現れる能力者を倒させてもえらば、そちらの件は全力で受けて差し上げますわ。能力者が作りしモノ、邪魔ですわよね? との事』」
「花の名を冠する姉妹の力、我の為に働いてもらうぞ」
絹のように白く、枯れ枝の様に細い手を伸ばす『彼岸』に、神門は古い紙で包装した掌より小さなモノを小さな掌に乗せた。
「『感謝します。ヒトは、ヒトを思う力が強い、と聞く。ならば、死んだ者と会い、思う力が高まったままゾンビにしたら、ライヴスは通常より多く奪える、そう思う』」
『彼岸』は包みをゆっくりと開け、包まれていたソレを口し飲み込んだ。
「汝らの活躍に期待しよう」
「『では、準備を、進めましょう』」
と、神門に返答しながら『彼岸』は恭しく頭を下げた。
●逢わせる者
香川県高松市にある第84番南面山千光院屋島寺。
お遍路の1つで、巡ってる者やただ単に観光する人達でそれなりに人が居ることが多い。
早朝を除いてはーー……
屋島寺の奥にひっそりとある鳥居。
その先には、ひっそりと稲荷があり周りは森に囲まれている。
早朝だからなのか、朝霧が寺を覆い外から見ると幻想的だ。
「それを飲めば、皆さんがお会いしたかった方に会えます」
頭からすっぽりと黒い布を被った少女は言った。
会いたい、その強い思いで集まった4人の男女は杯に入った液体を見る。
「だって、何も、言えなかったから……会いたいよぉ」
と、呟く小学生位の少女は目尻から大粒の涙が零れ頬を伝う。
少女は目を閉じ、ぐいっと杯に入った液体を飲み干す。
花の様な甘い香り、蜂蜜に似た優しい甘みが喉を通りすぎ、口の中に残るのは柑橘系の爽やかな味。
少女はゆっくりと目を開けると、先程まで森の中に居たハズなのに今は河原に立っていた。
「あぁ! お父さん!」
少女の記憶にある父が、死んだあの日から変わらぬ姿で現れた。
(この強さ、良い糧となりましょう)
会いたい人に会えた人々。
だが、その身を蝕む存在を知らずに一時の夢。否、幻を見ている。
●行方不明者
「お集まりいただき、ありがとうございます。早速ですが今回の依頼をお話しします」
ティリア・マーティスが集まったエージェント達を見回した。
「先日、香川県の警察より行方不明者の調査を依頼されました。数日前から少しずつではありますが、捜索届けが20件近く出されております。現在、四国ではゾンビによる被害もあり、そういった関係でHOPEに依頼が来たのです」
トリス・ファタ・モルガナが端末を操作し、エージェント達の端末へ資料を送信した。
「私達も可能な範囲でお手伝いをします」
解説
【はじめに】
こちらは時鳥MSのシナリオ『【屍国】彼岸の此方』と相互に影響を及ぼし得ますが、処理上は独立したシナリオとしてプレイングを取り扱います。
他のシナリオ参加者との連携は無効となりますのでご注意ください。
【目標】
行方不明者の捜索、安全の確保
【場所】
香川県内
【PL情報】
(PCは知り得ない情報です)
OPの『●花と岸』『●逢わせる者』
調査が進めば『●逢わせる者』の部分をPCは知る事が出来ます。
●愚神
花の名を冠する姉妹の『彼岸』
髪と着物は黒く、右が赤、左は青の彼岸花を髪に付けている。
デグリオ級。
黒い揚羽蝶を操っています。
詳しいことは現在分かっていません。
●NPC
ティリア:言ってくだされば、皆さんのお手伝いをしてくれます。
リプレイ
●依頼
『警察からの依頼ですか……そうなると愚神の類は関係ないのでしょうか?』
と、辺是 落児(aa0281)の隣で構築の魔女(aa0281hero001)が呟いた。
「捜査は警察の方がプロだとは思うが……」
説明を聞き終えた迫間 央(aa1445)は黒曜石の様な瞳を細めた。
『ゾンビ騒ぎで人手が足りないのもあるのでしょうけれど……初動捜査で愚神関与の可能性が見えたのかもしれないわね』
央の疑問にマイヤ サーア(aa1445hero001)が琥珀の様な瞳で見つめながら答える。
「ゾンビ関係でしょうか?」
『四国の香川県だ。少なからず関係はありそうだな』
セレティア(aa1695)が愛らしく首を傾げると、バルトロメイ(aa1695hero001)は顎に手を添えながら答える。
「数日前から20件近くねぇ……それぞれどういった動機あって行方不明になってるか知らないけど、普通ならあまり長引くと餓死衰弱とかありそうだね」
『それ以前にゾンビ被害があるわ、そちらの方がもっとも危惧するべきことよ』
端末の情報を覗く繰耶 一(aa2162)にヴラド・アルハーティ(aa2162hero002)は、四国地方で起きているゾンビ被害に巻き込まれていないかを心配する。
「ふぅん。なーんかキナ臭いねぇ……どうしたのジーヤ」
「調査は早くした方が良いでしょ? ティリアさんには本部で皆さんの情報を纏めて定期連絡をお願いします」
まほらま(aa2289hero001)が呟くと、GーYA(aa2289)は立ち上がりティリア・マーティスの元へと足を向けた。
「わかりましたわ」
ティリアは快く受け、トリスがその場に居る全員と連絡先を交換した。
「私達は県警捜査本部へ行って参ります」
と、言って央達は会議室から出た。
「今回はよろしくお願いしますね」
ティリアに手を差し出しながら構築の魔女は微笑んだ。
「はい、構築の魔女様。よろしくお願い致しますわ」
椅子から立ち上がり、ぎゅっと手を握り締めながらティリアは微笑み返す。
「とりあえず聞き込みと……旅行客の名簿洗い出しからだな」
一は行方不明者の住所と、地元の観光関連をスマホで調べ終えると立ち上がる。
『大なり小なり救える者は救うわよ』
と、ヴラドは力強く言う。
「マキャベリ的な意味でな」
一が思想家の名を口にしながら聞き込み調査へと向かった。
「行方不明になった人達の共通点……」
黒鳶 颯佐(aa4496)は貰った資料を睨む。
『四国の事件聞いてから、何だかざわざわするんですよね、何ででしょう……?』
新爲(aa4496hero002)は胸元をぎゅっと握りしめる。
『行方不明……神隠しの様なものですか……。四国で今起こっている事と関係が無いとは思えません』
行方不明者一覧を眺めながら新爲はゾンビに関する事件の資料を取り出す。
『となると八十八箇所……香川は……』
小さく呟きながら新爲はゆっくりと瞳を閉じ思考する。
『……うん、涅槃道場ですね、確か。であれば23か寺ですか』
と、言いながら頷く新爲。
香川県の23ヵ寺を『隠岐の国』もしくは『涅槃の道場』とも呼ばれている。
涅槃とは梵語で吹き消す意味があり、様々な苦を絶ち、一切の煩悩を絶ち、悟りの境地をいう。
『集団で失踪しているのか……個人の失踪が連続してるのか……』
構築の魔女は行方不明者の住所を地図に書き込む。
『八十八ヶ所に関係はしているだろうな』
『でも、23ヵ寺もあるのです』
バルトロメイの言葉に新爲が答える。
『それなりに人が集まれそうな付近の札所を中心に候補を絞ってみるべきでしょうか?』
と、構築の魔女が提案をする。
「地道だが……やはり、行方不明者の家族や友人に聞き込みするのが早いと思う」
資料だけでは限界があると感じた颯佐は立ち上がった。
●調査
「ウワサ、ですか」
央が県警から引き継ぎを行っていると、担当していた若い警察官が言った。
「ええ、でもサギとか危ない団体とかそういう類いもしくは眉唾物でしょう」
と、若い警察官は乾いた笑い声を出しながら言った。
「その、ウワサとはどんな内容ですか?」
「えっ! うーん、昔よくあった話だけですが……『死んだ人と会わせてくれる霊媒師がいる』ってウワサです」
央の問いに驚きつつも若い警察官は律儀に答える。
「ありがとうございます。それでは後は私達お任せください」
「はい、無事に調査が終えるよう」
県警を去る央の背中に向かって若い警察官は敬礼した。
「『死んだ人と会わせてくれる霊媒師がいる』……どうやって会わせるのでしょう」
資料を手にして会議室に戻った央はウワサを口にする。
「どうなのでしょう? 確かに四国には霊場はありますが、イタコやシャーマンが居る感じではありませんわ」
その話を聞いてティリアは首を傾げた。
『考えても仕方がないわよ。ウワサの詳細もネットや、若い学生に主婦から聞けば何か出るかもしれないわよ?』
と、呆れた様子でマイヤは言った。
「それもそうですね。ティリアさん、調査用に車の手配にバックアップを地元県警に手配をしていただけないでしょうか?」
「はい、了解しましたわ」
央は軽く首を振り、隣で情報を纏めているティリアに言うと笑顔で返事が返ってきた。
『すみませんー』
ヴラドが一軒家の門に付けられているインターホンを押す。
「えっと、どなたですか?」
女性の戸惑った声色がインターホンから響く。
『HOPEのエージェントで行方不明になった娘の話を聞きに来たのよ』
「え、あ、はい!」
ヴラドの話を聞いて女性は慌てた様子でインターホンのマイクを切り、ドタドタと廊下を走り玄関のカギを開けた。
「何か分かったのですか!?」
勢いよくドアを開けながら女性は声を上げた。
『いいえ、まだ調査中よ。早く見付けるためにも協力をお願いね』
「そう、ですか……早とちりしてしまってごめんなさい」
ヴラドが落ち着いた声色で答えると、女性は力なく玄関に座り込んでしまった。
「お姉さん、そこだと寒いって」
一は女性をひょいと抱え、ふかふかなマットが敷かれている廊下に座らせた。
『娘が2日前から居ないのね。中学生なら友達の家とかに家出したり、やんちゃ盛りな年頃よね』
「そう、なのですが……家出する様な子でもなく、友達の家に電話して確認もしました。実家にも連絡しまたが、何処にも居なくて……」
隣に座りながらヴラドが問うと、女性は小さく息を吐きながら答えた。
「そういう子供に限って、反抗して勝手にいなくなるもんだよ」
と、一は吐き捨てる様に言いながら否定する。
『それもあるかもしれないけど、四国は不穏な事件が起きているのだから心配するわよ』
ヴラドが肩を竦ませながら言う。
『それに、この家庭は父親が病で死んでるそうよ』
「あぁ、そういやさっきウワサに関する連絡があったよね」
ヴラドの話を聞きながら一は、ティリアから調査に参加しているエージェント達に連絡があった内容を思い出す。
「そういえば、お父さんに会えるとかどうとか言ってたような?」
と、女性は呟いた。
「うーん」
ゾンビ事件が発生した場所をマッピングしながら、発覚した時期から最近の情報を元にセレティアは地図に印を付ける。
『HOPEが目をつけてない寺、まだ事件が起こっていない寺……流石に八十八ヵ所あるから絞り切れないな』
眉間に指を添えながらバルトロメイは唸る。
「関係あるかと思ったのですが……ハズレ、でしょうか」
と、言いながらセレティアはトリスの差し入れで貰った卵ボーロを口に入れた。
『んー、ニッタも涅槃の道場は気になります』
「どうしてですか?」
『何か胸がざわつくのです』
セレティアの問いに、新爲は自分の胸元に手を当てながら首を傾げた。
「そうか、さっきトリスが話してくれたウワサか」
颯佐は県警の資料、行方不明者の所在と家族構成を纏める。
「『死んだ人と会わせる』……もし、身内で死んだ人が居ればですね!」
『どこの家も死んだ人はいるだろう?』
セレティアが資料の山に手を伸ばすのを見ながら、バルトロメイは首を傾げた。
『あながち間違ってはいないですよ。先ほど、ヴラドちゃんから大きな情報を得ました』
トリスが和三盆を机の上に置きながら言う。
「大当たり」
と、言いながら一が会議室のドアを開けた。
『屋島寺よ』
ヴラドは地図の香川県高松市のちょっと飛び出てる左上部分を指す。
●儀式
GーYAは薄暗い空を見上げた。
薄っすらと朝霧が立ち込める中、不思議な事に人の気配がしない。
「俺が持ってたらまずいだろ?」
『泣き虫だからこれくらいは必要よねぇ』
と、ポケットという全てのポケットにハンカチを入れ終えたまほらまは、GーYAが差し出した幻想蝶を受け取る。
少し離れた位置にはエージェント達が朝霧に紛れて隠れている。
「いってきます」
香川県にあるお遍路の1つ『第84番南面山千光院屋島寺』に向かってGーYAは足を運ぶ。
屋島寺に入った瞬間、少し霧が濃くなった気がしたがそのまま奥へと足を進める。
そして、大きな狸の形をした狛犬が見えてきた、が。
(違う、か)
確かに鳥居はあるものの、規模は小さくて人影はない。
ふと、背後に気配を感じて振り向く。
そこには20歳位の青年が寺の奥へと歩いていくのが視界に入った。
(もしかして……)
GーYAは駆け出し、ぽんと青年の肩に手を置いた。
「わぁっ!」
「あの、ウワサを聞いて来た方ですか?」
驚く青年をGーYAは見上げた。
「う、うん……もしかして、君も?」
「はい」
少し間を置いて青年は問うと、GーYAはこくりと頷いた。
「場所が分からなくて迷っていたんです」
「あぁ、あの場所は旅行好きな人とかじゃないと行かないからね」
GーYAの言葉に青年は頷きながら言う。
「一緒に行きましょう」
「はい」
青年に寺を案内されながら目的の場所に到着した。
森の中にぽつんと連なる赤い鳥居。
入口からは先が見えず、正にこの世とあの世の境目という感じだ。
朝霧も出ていたからなのだろうか、ひんやりとした空気が頬を撫で露で濡れた地面を踏むたびに水が飛ぶ音が響いた。
「……いらっしゃい」
黒い布をすっぽりと頭から被った少女は、少女と女性の間位の声色で言う。
「時間、そう……今日は3人だけなのですね」
と、呟くと少女は透明な杯を3個、懐から取り出す。
(材質は?)
GーYAは杯を受け取ると、指先で弾いたり裏と表を見比べたりした。
「……何か?」
「あ、いえ。透明な杯なんて珍しいなぁと思っただけです」
少女の静かな声色に込められた圧力に気付いたGーYAは、透明な杯を両手で持ち微笑んだ。
「さぁ、あの世へようこそ……先ずは、清めていただくために蜂蜜酒を飲んで頂きます。大丈夫、酒と付いていますがお酒ではありません」
少女は黒い徳利を手にし、透明な杯に琥珀色の液体を注ぎ込む。
「さぁ、想う人を思いながら飲みなさい」
と、少女は静かに言った。
「俺だって叶うなら……会って謝りたいよ」
と、呟くGーYA。
「……謝るより、俺は感謝の言葉を言いたいな」
隣で青年は今にも泣きそうな表情で杯に口を付けた
「俺甘いの苦手なんだよな」
GーYAは杯の蜂蜜酒を一気にあおり、飲んだフリをしてハンカチで口元を拭う動作をしながら染み込ませた。
「って、こんな怪しいモノを!」
と、他の人の杯を取り上げながらGーYAは声を上げた。
●救出
『鳥居……神域との境界ですか……』
囮として先に行った仲間を待ちながら新爲は連なる赤い鳥居を見上げた。
『逢わせる者と呼称される存在がただの人であればいいのですが』
と、呟きながら構築の魔女は眉をひそめた。
(杞憂であれば良いのですが……)
央は潜伏と天叢雲剣を使い気配を消している。
『ドロップゾーンは無かった。いや、もしかしたら見えない可能性も……考えすぎか』
バルトロメイが寺の外から見た時には、ドロップゾーンの外観が見えるだろうと思い確認はしたが何も無かった。
『動きそうよ』
様子を見ていたヴラドは、GーYAの行動を見て朝露で濡れた地面を蹴って駆け出した。
「目覚めなよ」
一が素早く青年に向かって駆け寄り、頬を殴り飛ばす。
「!?」
青年は頬に走った痛みで起き上がり、不機嫌そうな一を見上げた。
「ほら、さっさと避難だよ」
一は青年の首根っこを掴み、ぽいっと他の仲間に放り投げた。
『変なものを飲んじゃった子もそうでない子も、みんなぁ~元気ぃ~!? 死んだ人に会えるなんて、あるわけないし。自分の記憶を利用されてるだけってこと早く気づきなさい~? 理解できた子は早くお寺から出てきなさいな~~!』
手をパンパンを叩きながらヴラドは、虚ろな眼差しの2名の一般人に明るい声色で言った、が。
「今、会っているのです」
少女がそう言うと、無数の黒い揚羽蝶がエージェント達を囲むように現れた。
「……ッ!」
ぐらり、と落児の視界が揺れる。
一瞬だけ見た光景、それは赤い彼岸花が咲き乱れる川辺に鏡に映したかのようにそっくりな双子が居た。
「大丈夫?」
構築の魔女が素早く落児を支える。
「その気持ちは理解できますが……止めさせていただきますね」
会いたかった人に会っているであろう青年を構築の魔女は気絶させ、救出に専念する仲間に渡す。
「お前は愚神か?」
と、金髪に筋肉質の美女姿になっているバルトロメイは問う。
「クサイ……」
「話を反らすなっ!」
少女は口元を押さえるが、返答になってない言葉を聞いてバルトロメイは声を上げた。
「白百合、クサイ……あの愚姉と会ってたようですね」
「やはり、花の名を冠する愚神の姉妹だったか」
と、彼岸は一歩後ろに退くと、バルトロメイがヌアザの銀碗で拳を振り下ろそうとする、が。
「バルトロメイさん! 鳥居の入口にゾンビが出て他のエージェントが対応しているそうです。同じ愚神がいるそうです!」
と、慌てた様子で央が仲間に知らせる。
「くっ……俺は、コイツを相手にする!」
ギリィと口を噛み締めながらバルトロメイは少女から視線を反らさない。
「名乗らないのは失礼にあたりましたね。私は彼岸と申します」
彼岸は髪に付けている赤い彼岸花の髪飾りを指した。
「う、うん……?」
『さ、もう大丈夫よ。素敵な夢は見れたかしら?』
ヴラドは、最後の一般人である10歳位の少年を新爲のクリアレイで幻から目覚めさせてもらった。
「うん……たいせつなともだちにあえたよ」
眼尻から溢れる涙を必死に拭いながら少年は頷いた。
『そう、もう一度お別れが出来たのね。お友達のこと、忘れないで笑顔でいるだけ嬉しいと思わよ』
「そう、かな?」
『そうよ。お友達もそれを望んでいるわよ』
少年の頭を優しく撫でながらヴラドは屈んで視線を合わせた。
「うん!」
『良い返事ね。優しいお兄さんお姉さんの言う事聞いて、ついていってね?』
力強く頷く少年にヴラドは満足気に微笑むと、その小さな手を取って仲間の元へと連れて行った。
『なんともない?』
まほらまは少年の肩に手を置きながら優しく声を掛ける。
「あなた達キライ、だから話す理由はないです」
バルトロメイの攻撃を黒い揚羽蝶で受けながら彼岸は言う。
『……そこの赤い狐花の子。彼岸と此岸の境界を侵しておいて、無事で済むと思わないでくださいね』
新爲が彼岸を睨む。
『お前には話す理由はなくても、俺にはその話を聞く理由があるんだ!』
猛獣の如く吠えるバルトロメイは彼岸を捕まえようと手を伸ばす。
「どうか、お帰りください」
彼岸は黒い布をバルトロメイに向けて投げた。
『帰れないからいるんだ!』
布を払いのけながらバルトロメイが大声で言った瞬間。
彼岸が無数の黒い揚羽蝶がバルトロメイに向かって真っ直ぐに飛ばす。
『この……程度で……怯むワケ……ないだろ!』
攻撃が収まった頃を見計らってバルトロメイは地面を蹴り、彼岸に向かって駆け出そうとする、が。
「どう? 愚神が苦しむような攻撃をされかえす気持ちは」
ここはロシアのドロップゾーン内部ではない、ましてやドロップゾーン内部でもないのにバルトロメイの体力は奪われる一方だ。
『そんなの……お前を倒せば良いだけの事だ!』
と、叫びながらバルトロメイは、暴れ狂う獣の如くドラゴンスレイヤーを彼岸に向けて振り下ろす。
(時間……そう、帰りましょう)
彼岸が踵を返した瞬間。
背後からマイヤが天叢雲剣で彼岸の胸を貫いた。
傷口から血が出る変わりに、黒い揚羽蝶の群れが視界を黒く染め上げる程の量が空へと舞い上がった。
その黒い揚羽蝶たちは病蝶か、吉兆か、凶兆なのかは分からないままだ。
「捕まえました!」
と、無邪気な声を上げるセレティアの手には黒い揚羽蝶が一匹。
『そんなモン捕まえて飼うのか?』
「違います! あの彼岸という名の愚神の何かが分かるかもしれません!」
バルトロメイが黒い揚羽蝶を凝視しながら、セレティアはこの蝶をどうするかを説明する。
そして、同時に鳥居の前でゾンビとの戦闘終了の知らせが入った。
●宣告
(境界に居た者同士、貴女の事は忘れないでいましょう)
と、彼岸の声が新爲の耳に直接響いた。
『縁は繋いだ、切らせませんよ。……またいずれ』
舞い上がる黒い揚羽蝶を見上げながら新爲は呟いた。
そして、セレティアの指示により他の一般人を捜索し二日前に捜索願いを出されていた一般人4名が発見された。
『対応している病院への搬送手続きは済んでおります』
構築の魔女は車内で一般人にライヴスを送りながら声を上げる。
『絶対に助けるよ!』
マイヤも一般人にライヴスを送りながら声を掛ける。
『病院に着くまでは、ただゾンビ化の進行を遅らせるだけです』
トリスはライブスを送る処置を助手席から見る事しかできない。
「そうなのか?」
颯佐はライヴスを送りながら首を小さく傾げた。
『ええ、奪われていくライヴスを皆さんがライヴスを送る事は……ウィルスの進行を足止めするだけで、治療薬を投与しなければ完治しないのです』
と、説明するトリスは何もできない自分自身に苛立ちを覚え、誰にも聞こえない位の小さなため息を吐いた。
エージェント達が予め手を回してた甲斐もあり、病院への搬送から手続きはスムーズに行われた。
そして、県警の手を借りて寺内を捜索したが他に感染者らしき人物も見つからなかった。
後日、GーYAが持って帰ったハンカチに染み込ませた蜂蜜酒からは何も反応は無かったものの、微かにライヴスが残っていた事が判明。
セレティアが持って帰った『黒い揚羽蝶』に関しては本物で普通の蝶であったが、1つ違う部分があるとしたら鱗粉が無い事だけだ。
人は現世には居ない想い人を求める事もある。
それは、『後悔』なのかもしれない。
それは、『孤独』なのかもしれない。
それは、『魂の片割れ』だからなのかもしれない。