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誘導開始!
最終発言2017/02/20 21:08:19 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/02/20 21:06:02
オープニング
●ウーニジェと白銀の森
ペルミから更に遠く西側。ウドムルト共和国とキーロフ州の州境に位置する「ウーニジェ」。
人口約5万人ほどの小さな街だ。中心部には目抜き通りが走り、雪にも負けぬ頑丈なビルが立ち並んでいる。
だが今は人の声の一つもせず、ただただ静寂が街中に鎮座している。
この街に人はいない。
全ての者が避難を終えていた。
脅威に対抗するために。
街は危険の真っただ中へと身を投じるからだ。
南側に位置する「白銀の森」もまた、無言のままそこにある。
雪に彩られた木々が鬱蒼と生え、人工的な大きな貯水池には白い氷が張っていた。
極寒の冷気に曝されて氷は厚く厚く、池の水を奥深くへと隠蔽する。
人が乗ったところで割れることのない氷は冷たく白く貯水池を覆いつくしていた。
ザッザッ
雪原を駆ける足音が微かだが聞こえる。
銀色の鎧を纏い盾と槍を携え、黒い馬のような影に跨った、従魔――ルタ。
音もなくただ目的へと突き進む。
その後ろを僅かな音だけで駆ける白い体毛を靡かせる大柄な狼の群れ。
小隊は風のように冷気を切り裂き、雪原をただ前へ前へと向かっていく。
そして……ウーニジェの街が見え始めた頃。
従魔達はその速い足を止めた。
ただ静寂を守る街を見据える。
ルタが槍を掲げ横へと薙いだ。
と、同時に白い狼たちは一斉に散る。
そう、密やかに。
絶零を統べる総督、ヴァルリアの為に。
抗う者どもを探りだそうと。
●作戦
「皆さんが行うのはレガトゥス級愚神『ヴァルリア』の誘導になります」
ウーニジェと白銀の森までを含めた地図を広げながら、集まったエージェント達に作戦の概要を口にするオペレーター。
秘匿名「ユラン」、今回の作戦に当たり、エージェント達に課せられた使命は二つ。
ヴァルリアの誘導と、ヴァルリアの一定箇所での足止めである。
そして、今こちらに集まっているエージェント達が集中的に行うのが、ヴァルリアを一定箇所に誘導すること、だ。
「まず、ヴァルリア周辺の従魔はロシア軍が対応してくれますので、皆さんはヴァルリアの誘導に専念してください。ただし――」
一度、言葉を切る。
「防御力が極めて高いことから、生半可な攻撃では注意を引き付けることは難しいと思われます」
先の戦況でヴァルリアの情報を得る為、8人のエージェントがヴァルリアへと挑んだ。
攻撃に打って出たものの、すぐには気が付かれず、という事態が発生していたのだ。
「その上で誘導箇所の候補は二つ。ウーニジェの街そのものか白銀の森の中です」
広げられた地図の上を指示棒を移動させながら指し示し二つの位置を確認する。
「えぇ、ウーニジェの住人は既に全員避難済みです。森に関しても問題はありません」
受ける質問に答えながらオペレーターは補足した。
「どの場所へ誘導するかは皆さんにお任せ致します」
森よりも高いビルか、鬱蒼と茂る深く広い森の中か、もしくは……、それはエージェント達に委ねられる。
街に森にもそれぞれ利点があり、地形としては入り組んでいる為、大柄なヴァルリアに対し接近するには十分だろう、ということだ。
「そして、遅滞防御によって、敵との距離はまだ存在しますが、ルタ一体とフロストウルフが数体、ウーニジェに近づいているという情報が入っています」
斥候として放たれた、ということらしい。
既に住人が脱出していることによる異変を愚神側が察知したのか。
はたまた近くを通る為の偵察か。
ルタとフロストウルフが周辺をうろついているようだった。
ケントゥリオ級従魔ルタは機動力が高く、鎧を纏い槍や盾を持ちえ、黒いもやの騎乗生物に跨っている。
その刃から滲む病は体を重く蝕む。
騎乗生物の脚を切り落としてもルタの動きに支障がないことは先の報告から判明しており、中々厄介な相手だ。
そして、フロストウルフ。
白い体毛が体を覆う大柄な狼型ミーレス級従魔。情報は少ないが、狼型であり優れた嗅覚など狼としての野性味も失っていない。
素早さも高く、複数で来ていることから遠吠えで仲間を呼ぶ可能性もある。
「ヴァルリアの周辺に関しては先程も話した通りロシア軍が対応してくれますが……既に周辺へ散っている従魔に関しては皆さんに気を付けてもらう他ありません」
眉間に皺を寄せながらオペレーターは告げる。
つまり、ヴァルリア誘導の際にウーニジェ付近に放たれた従魔が邪魔に入るであろう、ということだ。
「この作戦の最初の要はこの誘導がうまくいくかどうか、です。大変かとは思いますが、皆さん、どうぞよろしく願いします。そして、誘導とはいえ、相手はレガトゥス級です。どうかお気をつけて」
オペレーターが頭を下げた。
●決行へと
吹き荒れる風。冷たく突き刺さる空気。
猛進する軍。
その中心には強大な絶大たる脅威。山のような陸竜。ヴァルリア。
先の戦いで8名のエージェント達が挑んだものの与えられたのは僅かな傷のみ。
ましてや、一撃目はまるで蚊に刺されたかのようにヴァルリアはエージェント達の攻撃に気が付くこともなかった。
僅かな接近戦で3名もの重体者が出され、その脅威の絶大さを物語る。
そのヴァルリアをこれから罠にかける為、おびき寄せなければならない。
緊迫する空気。
遠くに見えるヴァルリアにエージェント達は息を呑む。
どうするべきか、それは決めた。
皆と共に。
多くの知恵を集め打ち出した戦略を、胸に秘める。
――荒れ狂う中へ今。
解説
●グランドシナリオについて
このシナリオは「【絶零】戻る先は明日」とシナリオの舞台を共有しています。
両シナリオで共通、連携する作戦の相談や質問などは「【絶零】作戦会議室」をご利用ください。
●目的
一定箇所へのヴァルリアの誘導
●場所
・誘導開始時
ウーニジェから少し外れた雪原
凹凸や木など遮るものは少なく、ヴァルリアの周り渦巻く極低温の霧で視界は悪い。
暴風と冷気が体を突き刺す。
・誘導候補
「ウーニジェ」
ウドムルト共和国とキーロフ州の州境に位置する人口約5万人ほどの小さな街。
都市部にはビルが立ち並んでいる。
ビルは森の木々よりも高い。
「白銀の森」
鬱蒼と茂る深い広い森。私有地。
中には元々農業用として建設された大きな貯水池が存在する。
貯水池の氷は人が乗っても平気なほど厚い。
●敵
・ヴァルリア
レガトゥス級愚神
山のように巨大な陸竜の姿をしている。
水晶に似た硬質な素材で構成された体を持ち、体全体が分厚い外殻で覆われ、防御力はきわめて高い。
周囲には極低温の霧《ダイヤモンドミスト》が広がっており、接近するにつれ激しく気温が低下していく。
・ルタ×1
ケントゥリオ級従魔
人型で、同じように黒いもやの騎乗生物にまたがり、槍や盾などで武装している。
雪原でも自由自在に高い機動力を保ったまま行動できる。
武器には常に病をまとっており一定確率で減退が付与される。
ウーニジェの付近を散ってうろついている。
・フロストウルフ×数体
ミーレス級従魔
白い体毛のやや大柄な狼型従魔。ミーレス級としてはやや強力。
たいへん素早い従魔であり、優れた嗅覚など狼としての野性味も失っていないため、偵察や斥候として活用されている。
より詳しいデータに関しては【絶零】特設ページ、「敵戦力」を参照のこと
※このシナリオの結果は同日に公開されている電気石八生MSのイベントシナリオの状況に影響を与えます。
リプレイ
●始まる前の
「うッス、大仕事だ……気張るで!」
「応、やったるか!」
雪上車ウラル12の運転席に座りながら齶田 米衛門(aa1482)とスノー ヴェイツ(aa1482hero001)は一緒に気合を入れた。
ウーニジェの街から目標地点までは約6キロ程。
運転席の二人の他、ラウル12には10組の共鳴を終えたエージェントが乗っている。
「ロシア、遂に来ちゃったわね」
世良 杏奈(aa3447)が前方の白い雪だらけの景色を眺めながら呟いた。
この向こうに巨大な影が現れる。
「作戦、上手く行く様に頑張らなきゃ!」
相棒であるルナ(aa3447hero001)の言葉を思い出しながら、杏奈は小さく頷いた。そう、上手くいくように、願って。
「零に還すか……否定しよう。なあ、禮」
まだ遠く姿見えぬ《アブソリュート・ゼロ》を掲げる愚神を思い海神 藍(aa2518)は自身の中に宿る英雄にに問いかける。
英雄の名は禮(aa2518hero001)。改める前の名は零。
(ええ。かつて災いを零に還す歌を詠った黒人魚は……今日も、優しい世界を守りましょう)
禮は彼の中で頷く。
そう、本来の彼女の頭上にいつも輝く「多くのものを護った証で誇り」に誓って。
ヴァルリアの周り蠢く従魔共はロシア軍が足止めをしていた。
しかし、陸竜はそのことを構う気もないのか、緩慢な、だが確かな足取りで前進している。
ただ、何かを目指して。
守りなど不要だとでも言うかのように。
「目標視認……聞いていた通り水晶のような……いや、氷か?」
藍が双眼鏡で見るだけでも重さを感じるようなその塊を捉える。
(不感症のレディに甲斐性見せなきゃぁなぁ)
ガルー・A・A(aa0076hero001)が紫 征四郎(aa0076)の中から双眼鏡越しに極低温の霧の中浮かぶ愚神ヴァルリアの影を見て零した。
「50組全員で帰る為にも、負けられないです!」
敵の姿を目にして改めて征四郎は強い気持ちを口にする。
ラウル12の定員数では一気に対ヴァルリアを志望したエージェントを運んでくることは出来なかった。
今は、残りの数名を待つ僅かな時間。
凛道(aa0068hero002)は征四郎とは逆に双眼鏡でウーニジェの街の方を眺めていた。
誰もいない街には明りを灯す手筈をしている。雪が降り強風吹き荒れる薄暗い天気の中では流石に肉眼で確認することは出来ない。が、双眼鏡を通して微かに灯りを確認する。
凛道の目を借りながら木霊・C・リュカ(aa0068)もその光景を眺めていた。
(やぁ、長い旅路になりそうだ)
街への距離にリュカはそう思った。
「でかい、というよりもう山が動いている感じだな」
徐々に近づきぐんぐんと大きくなる敵の影に月影 飛翔(aa0224)が見上げながら呟いた。
(……ん、おっきいねぇ)
飛翔の呟きを耳にし麻生 遊夜(aa0452)と共鳴しているユフォアリーヤ(aa0452hero001)も改めてその大きさを見つめた。本来の姿であれば尻尾が揺れているところだろう。
今回は遠距離が主体の為、主導権は遊夜に譲り渡している。
(こんな大きな愚神初めて見ました……!)
「強さもそれだけ強大だろうな……心してかかろう」
セラフィナ(aa0032hero001)も同じようにその大きさに驚きを示していた。真壁 久朗(aa0032)はセラフィナの声に一つ頷き身を引き締める。
(あれだけでかいと鈍くもなるのか……気を向けさせるなら視界範囲内にぶつけるべきか)
(セオリーとしての接近も迂闊にできませんし)
飛翔とルビナス フローリア(aa0224hero001)が互いに心の中でヴァルリアの対策を思考する。
(熱に反応しているのなら、そういう感覚器付近なら敏感か? 生物的には鼻先か眼の辺りだと思うが)
(戦闘記録を見ると、物理的な熱だけでなく、命の燃焼というかライヴスの輝きにも反応している気もします)
(なら、いつも通りだ。俺たちの折れない意志も誘導に使えるかもしれないな)
ルビナスと話すことで飛翔は高ぶる気持ちと不安を落ち着けた。
遠く、しかし既にその脅威から放たれる威圧は彼らの肌に突き刺さっている。
(遂に私達もレガトゥス級と対峙する時が来た……覚悟はいいか、我が主)
「勿論です……ラシルや私達が一緒なら、ヴァルリアだって怖くありません」
リーヴスラシル(aa0873hero001)が威圧を受けて月鏡 由利菜(aa0873)に覚悟を問いかける。
こく、と頷く由利菜。
後数十秒後にはあの絶対零度のような冷気と巨大な塊との戦いが始まる。
「なるほど凍える竜ということであれば、鮮度は申し分無い」
それぞれがヴァルリア自体の大きさや作戦へと想いを馳せる中、オーロックス(aa0798hero001)と共鳴をしている鶏冠井 玉子(aa0798)が違う観点からヴァルリアを評する。
美食家にして調理師である玉子は迫りくる愚神を食材として見ていた。
その身体の大半は硬質な素材故に食べるには適していないだろうが、ゴーレムの類ではなく竜種と呼べる個体であるのならば、必ずや肉に相当する部位があるはず、と。
例え肉に相当する部分が無くとも眼球や心臓でも構わない。
(これだけの大物から得られる希少部位、味わってみたくないと言えば嘘になる)
そう考えると胸が躍る。
本来の目的を見失うことはないが、食に生きる者とすれば目の前の大物は垂涎極まりない狩りの対象だった。
もちろん、英雄のオーロックスも狩りのターゲットとして好むものは巨大な敵であり、玉子と意志は同じ。
そこへエンジン音が皆の耳へと届く。
ラウル12が雪飛沫を上げ止まった。
●作戦開始
――荒れ狂う中へ身を投じる。
(また、ですね)
雪道 イザード(aa1641hero001)が眼前へと徐々に姿を濃くし始める巨敵に不知火 轍(aa1641)の中で『接見』での死闘を思い出す。
「……分かってた事だろ、やるぞ」
轍はイザードに応えるかのように言葉を発すると自身の全身をライヴスで覆う。
潜伏し、誰よりも早くヴァルリアへ近付けるように。
地を蹴った。
「デカい作戦になったねえ……」
全長200cm、アシンメトリーの菱形をした多重構造の盾、シチート「モコシ」を構え目の前に聳える山のような愚神を見上げる百目木 亮(aa1195)。
(正念場じゃ、行くぞ、亮よ)
彼の中のブラックウィンド 黎焔(aa1195hero001)が奮起を促す。その声に量は頷いた。
「ああ、爺さん。繋げていく為にな」
そう、ウーニジェの街で待つ【雷導班】へと次の一手を繋げなくてはならない。
亮の役目は盾。
シチート「モコシ」には対魔特殊装甲も施してある。
準備は出来ている。
後は、あの巨体がこちらに気が付くだけ。
「さて、新参の愚神を出迎えてあげよう」
蒼炎槍「ノルディックオーデン」をその手に握り両口角を釣り上げる餅 望月(aa0843)。
(あ、でもレガトゥス級ってずるくない?)
(だいじょうぶだいじょうぶ♪)
心の中で百薬(aa0843hero001)に対し望月が零すとお気楽な答えが返ってきた。
だがそんな百薬の反応に望月はヴァルリアから一方的に感じている圧力が和らぐ気がした。
(向こうはこちらに気づいてもいないかも、なんとか気を引こう)
気を引き締める望月。
「誘導の手段は少しでも多い方がいいですから……!」
と、もしかしたらリンクレートに反応を示すかもしれない、と由利菜はリンクコントロールを限度いっぱいまで使い自身のリンクレートを引き上げた。
行動も出来うる限りリンクレートに良い影響が出るよう意識する。
それぞれがそれぞれの意志で大きすぎる相手を狙い大きく散る。
「しかし、でっかいねえ」
(―京子は恐れないのですね)
志賀谷 京子(aa0150)の呟きにアリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)が中から問いかけた。
「いや、怖いよ。怖いからさ、確実に倒せるように邪魔を排除しなきゃね」
(ええ。それがわたしたちの役割ですから)
小さく笑いながら京子は素直に胸の内を吐露する。
彼女達の役目は対ヴァルリア誘導に動く仲間たちの周囲を警戒し、単騎で護衛に当たること。
フロストウルフとルタ、そのロシア軍が逃した従魔が誘導中に邪魔に入らないようにする、その為に今、此処にいる。
自身が近づくことがないと分かっていても、やはりその威圧感は常に京子の体に纏わりついていた。
「よっし、少しでも情報繋げないとだね!」
御代 つくし(aa0657)は極獄宝典『アルスマギカ・リ・チューン』のおかげかそれとも普段の本人からしてテンションが高いのか、拳を握って気合を入れる。
(多少は無理をしに行きましょうか。待つ人を悲しませない程度に、ですが)
彼女とは逆にメグル(aa0657hero001)は冷静に中からつくしに声を掛けた。
小隊【鴉】の小鉄(aa0213)、佐倉 樹(aa0340)、つくしは三人纏まって移動していく。攻撃点を合わせる為だ。
「寒い……とにかく寒い……」
射程距離まで全力で移動しながらも樹があまりの寒さにぶつぶつと零す。
(帰ったラ炬燵デぬくぬクスるたメニも、ミンナでがんばロー)
共鳴相手のシルミルテ(aa0340hero001)が樹を中から励ました。
「さてこれほどのでかぶつ……気が昂るでござるな」
既に見上げる程に近づいたヴァルリアに小鉄は周囲を浮遊する赤白く輝くオーブ魔宝「アヴェステルゲート」をちらりと見遣る。
その瞳は共鳴している麦秋(aa0213hero002)と同じ紫色だ。中に闘志が燃えている。
射程距離までは、あと少し。
ヴァルリアに今最も近づいていたのは轍だった。
前の戦いでのことを思い返し、まずはヴァルリアの牙と鼻っ柱を目で確認する。
牙が数本ばかり折れ飛んでいたせいで僅かに隙間が出来ているように見える。
鼻先は削れているのか何なのか、特に血のようなものも見当たらないが、前回最後に見た時と変わらぬ外見。
轍はライヴス通信機でラウル12に待つスノーへと通信を入れる。
ザザザッ
ノイズが走る。
やはり通信には多少障害がでるようだった。
だが、情報を伝えるのは十分。
僅かな口の隙間の位置をスノーへと伝えた。
その情報を雑音交じりの音声から拾い上げたスノーは初手に向かう面子にそれぞれ通信でその旨を伝える。
やはりノイズが混じり途切れるがスノーは何回も繰り返しながら伝達を行った。
轍からの情報が流れ、まだエージェント達に気が付く気配もなく変わらぬ歩調で進むヴァルリアに対し、初撃の準備を進める。
合図を元に数名が一斉に攻撃を加える為に。
征四郎と凛道は二人並びタイミングを伺ってヴァルリアに近づく。
飛翔は全長131cmのフリーガーファウストG3を肩に担いだ。
「やれやれ、スリル満点だな」
遊夜は【鴉】の部隊と連絡が届く位置で火炎放射器、イグニスを構える。
(触覚に期待出来んのならば視覚や聴覚で挑発するしかあるまい、夏場の蚊の如く!)
にやり、と遊夜は笑った。
そして――、一斉攻撃の瞬間。
小鉄、樹、つくしの三人が同時にブレームフレアを唱える。
杏奈も【鴉】とは離れた場所からブルームフレアを唱えた。
久朗と遊夜のイグニスが炎を吹き、望月のスナイパーライフルから弾丸が放たれる。
凛道の周りには足元と尾先に炎が纏わりつく黒猫が複数匹召喚され、黒猫の眼光の先から火花が散った。
全ての標準は牙が折れ鼻が欠けている顔面。
炸裂する炎、熱、炎。
更にはアックスチャージャーを使い攻撃力を高めた烈風派が加わる。
玉子が自身の最大火力を込め、愛用の円形包丁シャムシール「バドル」を振りかぶったのだ。
目も眩む閃光と衝撃。
そこへ征四郎の全力全霊の一撃が顔側面へと叩き込まれた。
凛道が踏み台の役目を果たし助走を付けたまま征四郎を投げたのだ。
140cm程の細長く長大な刀身が頭の甲殻にギッ、と音を立てて当たった。
刃は固過ぎる甲殻に跳ね返される。
目を狙っては見たもののブルームフレアの熱量でよく見定めることは出来なかった。
傷は付けられたのか?
だが、それを確認する前に征四郎はその大きな頭部に吹き飛ばされた。
大量の炎と熱に浮かされ、ヴァルリアは全てを振り払うように大きく頭を振ったのだ。
大きな咆哮。
その中には怒りが含まれていた。
そしてヴァルリアの動きが止まる。
虫けらにも等しい小さき人を見下ろして。
――零の内に蠢く熱……存在を、禁ずる。
そうヴァルリアの声が聞こえた。
ドロップゾーンの出現と共に。
征四郎の体は思うように動かなくなっていた。
冷たすぎて既に四肢の感覚は失われている。
だが冷気の刃はどんどんと自分の体を蝕んでいることは分かっていた。
クリアプラスを掛けることが出来れば。
だが、うまく体は動いてはくれない。
急に後方へと引っ張られる。
轍が地面に叩きつけられる前の征四郎を凄竹のつりざおで釣り上げた。
つりざおを上手く操り落下の勢いを殺しながら出来るだけ近くに引き寄せる。
ヴァルリアの半径10メートルから引き離し、すぐに征四郎の元に駆け寄る轍。
猶予は10秒だろうか、20秒だろうか。
ドロップゾーンはすぐに消え、ヴァルリアは力を溜めているように動かない。
轍は征四郎に持っていた防寒具をかけ、水筒から暖かい飲み物を飲ます。
そしてすぐさま抱えるようにしてヴァルリアから距離を取っていく。
10秒は経過しただろうか。
まだ、動く気配はない。
つまり、衝撃冷波の全方位攻撃への溜め。
「デカいのが来るぞ!」
亮が叫び、全員が全力でヴァルリアから距離を取る。
空気が、雪が、地面が、うねった。
寒波が凄まじい威力となって一面を襲う。
逃げ切れたのは、小鉄と久朗のみ。
突き刺す横殴りの寒波は樹がベルトに括り付けていた動画用ハンディカメラをも破壊する威力。
由利菜は逃げ切れないと察すると盾であるシチート「モコシ」を構えライヴスシールドを張る。
「月の盾よ、安穏を……セレニティ・セレネ!」
最初の重い衝撃を由利菜は防ぐことに成功した。
この一撃だけで大きく体力は削られる。
10mの極低温の霧の中へ身を委ねた征四郎と凛道は一度ラウル12へと避難した。
まだ、先はとてつもなく長い。
衝撃波で蹴散らせ切れなかったと悟ったヴァルリアは重たい足を上げ地響きと共に前進を再開した。
踏みつぶすつもりだろうか。
一番近くにいる玉子へと向かう。
「どうやら熱を冷ます方向に動くと思っていいのかな。あたし達の熱いハートによってくるかも」
(ライヴスを燃やすのね)
望月が受けた一撃から立ち直るように首を振りながら、ヴァルリアの様子を伺い零す。百薬が心の中でその言葉に応えた。
ただ、望月の役目は回復である。青白い火焔を巻き起こす刺突槍を握りながらも、すぐにそれを使うわけではない。
望月は辺りを見回す。
一番近い由利菜はライヴスシールドで攻撃を受けていない。
望月と由利菜は顔を合わせ頷きあい、傷を受けた仲間の回復へと向かう。
衝撃波の影響で通信機は一時的にザーザーと雑音が混じり過ぎよく聞こえない。
轍が通信障害を受け伝令として走り出す。
久朗は周りの味方へケアレインを掛けた。治癒の力を帯びたライヴスが降り注ぎ数名の体力が回復する。
一方、小鉄がオートマッピングシートに視線を落とす。
実はウーニジェの街から起動させており、街からここまでは既にマッピング済みだ。
ヴァルリアの向いている方角をそれで確認するが多少ずれていることを知る。
通信機はまだザーザーとよく聞き取れない。
聞こえる範囲に声を掛け、身振り手振りで街の方角を示す小鉄。
杏奈がそれを察し、街への軌道に立つ。
そこから極獄宝典『アルスマギカ・リ・チューン』を広げ空いた射線でしっかりと狙いながらヴァルリアの目へとサンダーランスを放った。
雷の槍が真っ直ぐに対象へと向かう。
だが、雷の熱に気が付いたのか僅かにヴァルリアが動きを見せた。
目の上の甲殻の当たり雷は四散する。
だが、そのおかげでヴァルリアの向きは街の方へと向いた。
●街の近くにて
ヴァルリアとの対峙が始まった頃。
ウーニジェの街近く。
「あのデカブツは、他の皆に任せるしか手はないか」
雪原で目立たない様に白の防寒具を着こみ、冷気対策としてゴーグルを着けている御神 恭也(aa0127)。
「……竜って言うよりも動く山だね」
とは、共鳴している英雄、伊邪那美(aa0127hero001)談。
こちらは対従魔班。
ウーニジェの街の近くに斥候として放たれたルタとフロストウルフだが、一掃するにしてもまずは敵の姿を捉えなければならない。
恭也は濤(aa3404hero001)と共鳴した呉 琳(aa3404)と共に街入り口付近に燃料を撒く。
火を付けて誘き寄せようというのだ。
ただ、ルタはともかくフロストウルフは狼に近い従魔。逆に炎は避ける可能性もある。
琳は恭也に燃料投下を任せると近くに香水を撒き始めた。
狼に近いならば匂いに敏感であり居場所を嗅ぎ当てられる可能性を考え、それを潰そうとしたのだ。
設置したラジカセで音を流し、更に居場所の特定を困難にさせる措置を取る。
「繋ぐぜ……待ってろよ……」
琳は【雷導班】としてウーニジェの街に残る仲間を思い小さく呟く。
(行くぞ……)
足が止まってしまったせいか、琳へ濤が声を掛けた。
彼らはまた香水を撒き始める。
一方で鵜鬱鷹 武之(aa3506)がバックパック型のレーダーユニット「モスケール」を使い、周囲100メートルを監視していた。
また、ライヴスで鷹を作り出し、周囲を上空から確認。
両方の情報を照らし合わせながら敵の配置を調べていく。
その隣で出てくる情報を通信機でラウル12のスノーや、近隣のエージェント達に伝えている天野 雛(aa4776)。
(分かってるとは思うけど、この仕事……)
途中で、共鳴をしている英雄のイーグレット(aa4776hero001)が雛に話しかける。
(無茶はしません。ですが、創造の20年に報いる為にも全力です!)
心の中で返しながら頷いて見せる雛。
少しでも早く従魔を一掃できれば、ヴァルリア誘導班の助けになるはず。
雛から通信を受けるスノーと米衛門。各班の状況を随時整理していた。
「野菜の卸価格と旬の時期計算だと思えば行けるもんスな」
「お前だけだと思うぜ」
米衛門の呟きにスノーがすぐさまツッコミを入れる。
随時ヴァルリアの位置と目的までを測り情報流しながら、整理、通信、負傷者や疲弊者の補助、運転を熟す二人。
まだまだ、作戦終了までは時間がかかりそうだった。
そして従魔班は武之が効率よくフロストウルフ数体の位置を把握していく。
雛と共に一番近い個体へと向かう武之。
数名も武之からの情報でフロストウルフ討伐へと動いた。
そしてもう一方、雪原を疾走するペンギン。
いや、スペシャルズ・ペンギンドライヴを全身に着用した氷鏡 六花(aa4969)。
アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)と共鳴をしているが、ペンギンの着ぐるみに覆い隠され全身に激しい凍気を纏い凛とした雪の精霊のような姿は見ることは出来ない。
武之のモスケールが察知できない範囲を散策している。
散開したフロストウルフをこのペンギン姿でおびき出し集め、仲間の元に連れ出し一網打尽にしてもらおう、という作戦だった。
ユーガ・アストレア(aa4363)が武之から得た情報でフロストウルフ一体を発見した。
「巨悪を倒すお手伝い! 正義はここにありっ!」
(ご主人様の御心のままに)
ユーガの口上にカルカ(aa4363hero001)は心の中で頷く。
全長約182cmの20mmガトリング砲「ヘパイストス」を構え、圧巻の火力を解き放つ。
「戦闘は火力! そして火力は正義っ!」
接近を許さず弾幕攻撃を張り、最大火力で叩きのめす。
何体いるのか、正確な数は分かっていないフロストウルフ一体に手こずっているわけにはいかないのだ。
火力の濛々たる煙の後からは、倒れたフロストウルフが一体。
まず初手の成功に口端を釣り上げユーガは満足げに笑った。
「はぁ……なんだってこんなに頑張らないといけないんだろうか……ここまで頑張るなら誰か養って欲しいよ」
雛のロシア軍の最新式アサルトライフルAK-13の弾丸がフロストウルフ一体を沈めた横で、武之がため息交じりに零す。
(武之がんばるんだよー! かっこいいんだよー!)
「はいはい……はぁ……寒いし、敵はいるし……最悪だよ」
心の中からザフル・アル・ルゥルゥ(aa3506hero001)が元気いっぱいに励ましてくる。余計にうんざりした顔をして武之はまたため息を逃がした。
モスケールには少しは減ったもののまだまだ敵の反応が見て取れる。
まだ、駆除は始まったばかりだが、武之は正直もう帰りたかった。
●持久戦への布石
最初の総攻撃は十分ヴァルリアの意識をエージェントに向けるには効果的だったようだ。
しかし、ヴァルリアのその後動きは大きなダメージを負っているようには決して見えない。
「大きさから全身が武器とも言えるだろうが、効果があればいいが」
飛翔はフリーガーファウストG3で機械や道具を破壊するのに適した衝撃を与える一撃粉砕を放つ。
魔法の方が効果はあるだろうが、気を惹くだけならこちらの方が見えやすそうという判断もある。
既に二回続けて同じ個所へと放った。
トップギアでライヴスを集積して身構え一撃粉砕を当てた場所へ一気に集中的に弾丸を繰り出した。
多少のダメージは与えられただろうか?
飛翔に向き直り一度動きを止めるヴァルリア。
口から光線《ブリザード・ロアー》を吐こうとする。
その口内に向かって遊夜がフリーガーファウストG3をガガガッと打ち込む。
射程ギリギリを保っている為、標準は甘いが顔への攻撃にヴァルリアは庇うような仕草を見せ、ブリザード・ロアーの標準がずれた。
遊夜はブリザード・ロアーを左右に薙がれないようにも警戒している。
「流石レガトゥス級ってところか。おっかないねえ」
ずれたとは言え放たれた攻撃の威力に亮が零す。
それぞれが何回も誘導の為に射程ギリギリから攻撃を放っていく。
一発撃ったら全力移動で街の方へ引くヒット&ランを意識して、じわじわと行く先をリードする。
しかし、巨体故かヴァルリアの歩みは遅く、ましてや攻撃の一手を溜める為に足を止め、中々街への距離は縮まらない。
初めから久朗は誘導距離や周囲の悪環境からかなりの持久戦と覚悟していたがその予想は的中しているようだ。
だが、その為にラウル12は米衛門が補給基地として運転し付かず離れず並走している。
疲弊すれば休息もとれるよう車内温度は出来るだけ温く保つようにしていた。
戦線復帰の回転を上げる為、久朗は賢者の欠片を幾つもラウル12に置いてきている。
既に冷気に充てられ数名が一度ラウル12に避難を試みた。
「寒い時は温かくさねばやる気ねぐなるッスから」
「あったけぇもんは活力になっからな」
新型MM水筒に自前の醤油ベース出汁を入れてきてた米衛門は自衛隊四型飯盒に出汁と鍋の具材を入れコンロにかける。
即席の鍋で体の中から温めようということだ。
鍋料理だけは料理人並の腕前を発揮できる米衛門。彼の鍋は美味しく活力が沸いてくる。
温まればまた戦線へと。
その繰り返しだが、大きな助けとなるのは確かだろう。
戦場の熱気で、方向を間違わせないように、と轍は全ての動きを観ていた。
ヴァルリアに不自然な点を見つけられないか。
マーカーを刺すなら顔以外が好ましい、と轍は思う。
ライヴスの鷹を作り出し、ヴァルリアの上へと飛ばす。
(竜であるのに羽が無いんだ、背はしっかり見とこう)
そう、判断した。
また、例の衝撃波が放たれれば鷹など一瞬にして吹き飛ばされる。その前に。
陸竜、と称されるだけあり、ヴァルリアの背にはそれらしきものはない。
千切れてない、というわけではなく分厚い外殻に覆われている。
「爆ぜよ篝火。無明の夜海に道示せ」
また藍がブレームフレアを放った。
熱量に一番反応するのは最初の頃にRPG-07Lで焼夷弾を撃ち確認してある。
(今日のわたしはローレライ。”滅び”を滅びに導きましょう)
街へと導く最中、禮が過去の人魚だったころを思い出し。ドイツの海の怪物に例える。
そう、街へと誘われる敵はセイレーンに誘惑される船人のようだと。
一方で樹はライヴスゴーグル使用しライヴスの厚い薄いや攻撃を当てた際のライヴスの動きの観察に徹していた。
小鉄やつくしがスキルで攻撃する際は通信でタイミングを合わせて重複攻撃を狙いる。
その合間。
ヴァルリアの周りは非常に強力なライヴスが展開している。
ライヴスゴーグルも衝撃波を受けると暫く動作がおかしくなってしまっていた。
だが、それでも強く重ねられた攻撃で僅かに装甲を傷つけることが出来れば、破片と一緒にライヴスが放出されることが分かった。ただ、それが何を意味するかまでは分からない。
小鉄と同じようにオートマッピングを使い方角や位置、ルートを見失わないようにする征四郎とリュカ。
誘導をしながらもヴァルリアのルートがずれたならば二人タイミングを合わせ同時に攻撃を叩き込む。
全長210cm程度の長大な和弓、雷上動から何度も口内を狙い放つ征四郎。
凛道はレプリケイショットで魔導銃50AEを増やし一斉に魔法の弾丸を放つ。
正直に言えば何度も眼前を光が小さなエネルギーの塊が飛び交うのはヴァルリアとてうっとおしくて仕方がない。
――静止、せよ。
全力で走り回る人間たちを見下ろしてヴァルリアは声を発した。
そして止まる。
オオオオオオオオオ。
咆哮。
またブリザード・ロアーが放たれる手前。
顔面へと熱量を込めた攻撃であれば逸らすことが可能だ。
だが、今回はそうはしない。
【鴉】の作戦を受け、他の者は今は手を休め範囲外へと遁走する。
アサルトユニットを装備し、戦域を広く駆けまわっていた久朗。
何度も繰り返さる攻撃の中、口を開こうとするヴァルリアに彼は、今度の一撃に反撃するため、――動いた。
つくしを垂直に上空へと投げる。
そしてつくしがブレームフレアを開かれた口の中に目掛けて、放った。
小鉄と樹がつくしに息を合わせほぼ同時のタイミングで同じようにブレームフレアを放つ。
今度の集中砲火は口の、中。
過密な炎が炸裂する。
そして、光線は軌道コントロールを失い天へと向かって放たれる。
シュウシュウとヴァルリアの口から煙が漏れている。
内部が弱点の可能性を、試していた。
小さな攻撃だったから駄目だったのかもしれない、と。三つ分の火力を込めた。
数秒の沈黙の後、ヴァルリアの体はドロップゾーンに包まれる。
熱に炙られた体を冷やす為に。
久朗は何が起きても絶対につくしから目を逸らさずにいた。
そして、落下してくる彼女を受け止める。
すぐに全員がその場を全速で離脱する。
まだ、判明していない、攻撃方法があるかもしれないからだ。
油断はできない。
ドロップゾーンが解ける。
――静止、せよ。
低い唸り。
先程の声よりも怒気を孕んでいるように聞こえる。
牙が僅かに欠けはしたものの苦しむという素振りもない。
口内さえも膨大な防御力を誇るというのか。
ヴァルリアはつくしの方へと向いている。
顔が弱点だとは言い難いが、少なからず攻撃を反らせるポイントではあるようだ。
その時、ラウル12のバックドアから手筒花火が炸裂した。
小鉄と米衛門が用意したものだ。
スキルや武器以外でも熱量であれば反応を示し誘導に使えるかもしれない、と持ち込んだものだ。
熱に反応を示したのかラウル12に向かい動きを見せる。
踏み潰しその熱を消そうと。
だが、ラウル12の機動力の前ではヴァルリアの巨体さ故の動きの遅さは敵ではない。
誘導は遅い足並みではあるが着実に進みつつあった。
●VS従魔
ヴァルリア班が苦心し、また各検証も含めながら誘導を行っている最中。
従魔班にも動きがあった。
ルタを優先し、武之からの情報を解析し策敵していた桜小路 國光(aa4046)がルタ一体の姿を捉えることに成功したのだ。
「新種の病原菌は速攻で構造解析しなくちゃね」
とちゃっかふぁいあーくん1号と共に守るべき誓いで接敵率を上げていたのだ。
やはり熱とライヴスの発散は大きな効果があったのか。
発見の一方をすぐさま仲間に伝える。
「前回、突然変異した奴がいたらしいね……奴もそれになりえるかもしれない」
(どっちにしても司令塔らしきは速やかに潰すのが重要なのです)
國光の呟きに共鳴している英雄メテオバイザー(aa4046hero001)が助言を発する。
双神剣「カストル&ポリュデウケス」に持ち替えこちらに迫りくるルタに応戦する構えを見せた。
馬のような生き物がすごい速さで駆けてくる。
國光よりもずっと早い。
彼がルタとエンカウントしている頃、一番近い恭也は援護に入るべくその場に全力で向かっていた。
多少距離があるものの、ルタを優先的に撃破したい、と黒鉄・霊(aa1397hero001)と共鳴をしている五郎丸 孤五郎(aa1397)も全力で移動を開始する。
琳も後方支援の為、國光の元に向かうことにする。
一方で、武之、ユーガ、雛、六花は今だ残るフロストウルフの一掃を続けていた。
六花が数体のフロストウルフを連れ、武之達の元に現れる。
武之が面倒くさそうな顔をしたが、それどころではない。
ユーガが20mmガトリング砲「ヘパイストス」を構える。
雛もAK-13を構えトリオを使い目にも留まらぬ早撃ち乱射を繰り出す。
ウィザードセンスで六花は自身の魔法戦闘に関する能力を高めた。拒絶の風で回避能力を高めるのも忘れない。
先端には透き通った花の様な大きな氷の結晶が極光の如く輝き、杖自体は半透明の氷がそのまま杖になった《氷雪の杖》振りかざす。
白雪の如き氷の欠片が舞った。
六花は氷雪を司る英雄と契約したペンギンの獣人の誇りに懸けて雪原での戦闘では負けない覚悟を持つ。
不浄なライヴスを含んだ風や霧を巻き起こし、広範囲のフロストウルフを攻撃する。
三人の連続技でフロストウルフ数はすぐに減った。
逃がさないように守るべき誓いを再度掛け、ルタと対峙する國光。
戦う、と言うよりは他の味方が来るまで、足止めし機動力を削ぐのが彼の狙いだった。
だが、一撃がやはり重い。
このままどれだけ耐えられるだろうか。
双剣を鎧の間を狙って薙ぐ。
その時、全長230cmの大剣、ドラゴンスレイヤーがルタの鎧を薙いだ。
恭也の一撃。
駆けつけると共に國光が攻撃を受ける隙を狙って横槍を放ったのだ。
鎧の隙間から黒い渦がざわりと漏れ出る。
恭也に向かい大きく持っている斧を振り下ろすルタ。
その肌を先、刃から病が恭也の体の中へと侵食する。
体が、ずんっ、と重くなった。
國光が気を引き付けるように双剣を振るう。
そこへ二つの大剣を携えたロボットがすごい勢いで姿を現す。
背部に装着する推進器、ライブスラスターを噴射してきた孤五郎だった。
零距離で鎧の向こうへと赤色の剣エクリクシスを突き刺す。
そして更に敵味方の位置を即座に把握し、攻撃に適したベストポジション、かつ雪の多く積もった影。そこから隠れて琳が全長82cmの魔銃「フライクーゲル」で狙撃する。
四対一。
捉えた。
ルタと4人が交戦を繰り広げている最中。
武之のモスケールは従魔が1か所に向かうような動きを捉えていた。
六花が連れてきたフロストウルフ数体を屠った直後だったが、遠吠えのような鳴き声も遠くに聞こえる。
何か、従魔同士で連絡を取り合っているのか。
もしくは囲まれたルタが救援を呼んだのか。
集まる前に。
情報を共有し、フロストウルフを別れて排除しに向かう。
彼らがフロストウルフの援護を断ち切っていたおかげで、ルタと対峙する4人はその一体へと集中することが出来た。
だが、ルタの斧の威力は重く、そして病は一度かかれば深く体を蝕んでくる。
全身がもやのような物で出来ているというなら何処かに核がありそうだ、と戦いながら探す孤五郎だったがそのようなものは見当たらない。
ただただ黒いもやが割れた鎧の隙間から顔を覗かせている。
だがしかし、一撃ごとにその量は減っているように見えた。
3人に囲まれるように繰り出される攻撃。
当方からの体勢を崩すような琳の射撃。
来ない救援。
ルタにとっては窮地だがそれ故に斧の鋭さはより強くなる。
「――くっ!」
ルタの粘り強さにダメージが蓄積した國光がライヴスヒールで自身の傷を癒す。
孤五郎がライブスラスターで垂直に飛び上空からの攻撃を繰り出す。しかし、ライブスラスターは出力が大きく調整は難しい。
攻撃を交わすルタ。
だが、馬を操るその手元にふらつきを見る。
確実に体力は削れていた。
「そこだっ」
「いくぞ……!」
恭也が琳が続けざまに攻撃を加えていく。
琳の威嚇射撃でルタの斧は地面へと突き刺さった。
そして――ライヴスを武器に集中させ、防御を捨てた猛攻を孤五郎が放つ。
エクリクシスがルタの体を深々と貫通した。
「爆発しろ」
剣に込められた魔力が一瞬で爆発エフェクトを巻き起こす。
それは敵が倒れた証。
爆風が去るとそこにはルタが着けていた傷だらけの鎧と斧のみが残っていた。
多少の時間はかかったが従魔の群れの先導役と思われるルタの撃破に成功。
雛が連絡を受けてルタと戦っていた4人の元に現れる。
「あの、これ良かったら使ってくださいっ!」
傷の多い孤五郎に気休めかもしれないけれど、とおどおどしながら雛はヒールアンプと霊符を渡した。
フロストウルフの数も劇的に減ったが後、1、2体ぐらいはいるかもしれない。
それに、徐々に近づきつつあるヴァルリアのこともある。
回復しておくに越したことはなかった。
そこに武之から通信が入る。多分ルタを倒した直後だろう、一匹ヴァルリア方面へ向かう動きを見せたフロストウルフの存在を伝えられる。
「従魔は一体たりとも逃がさない! 此処で仕留める!!」
國光が声を大きくして言い切った。
京子が付いているとはいえ、出来うる限り従魔をヴァルリアの元に戻らせるわけには行かない。
すぐに動いた。
僅かに残る残党を狩る為に。
一方でヴァルリア班に近づく従魔の露払いとして辺りをずっと神経を尖らせ監視している京子。
イメージプロジェクターを光学迷彩に使い視認しにくいようにしている為、ヴァルリアが京子に気が付くことはない。
今のところは心配していたルタの接近もない。
先程の通信で街付近をうろついてたとされるルタの討伐に成功したことは彼女の耳にも届いていた。
ほんの一息つく。
フロストウルフがもしかしたらこちらに向かっている可能性もある旨は聞いていた為、本当にほんの少しだが。
しかし怖い中神経を尖らせているだけでも疲れるものだ。
いつ来るか、と構えていれば余計につらいものがある。
長期戦の中明らかに疲れを見せる仲間の背を京子は見つめる。
そんな彼らの背を従魔ごときに襲わせるわけには行かない。
自分の役目を改めて京子は思った。
そこに二体のフロストウルフが駆けてくるのが京子の目に飛び込んできた。
つまり、自分の出番だ、と。
全長120cm程度の洋弓、月弓「アルテミス」を構える。
狙いはフロストウルフの足、だ。
機動力を削ぎ確実に仕留める。
「わたしたちの射程内を無事に抜けられるとは思わないことです。怪物に挑む勇士たちは傷つけさせませんよ」
アリッサが言った。
引き付けて矢を、――放った。
矢がフロストウルフの足を貫通し一体が倒れる。
驚きを見せる素振りを見せたもう一体にも続けざまに同じように銀の矢を打ち込んだ。
倒れるフロストウルフ。
追撃で京子は止めを刺した。
これで、ヴァルリア班への邪魔をすべて排除できただろうか。
まだ、京子達の緊迫した精神との戦いは終わってはいない。
●次へと繋ぐ
既に摩耗は極限まで達していた。
使用できるスキルはほぼ、ない。
持ち寄った賢者の欠片やヒールアンプなどの回復アイテムも底をつきかけていた。
だが、街までの距離は、あと少し。
肉眼でも街に灯る明かりを見て取れる。
例えラウル12での休息を得ても疲労困憊。
しかし、ラウル12の補給地点と征四郎、亮、望月、久朗、と四人のバトルメディックの適切な回復のおかげで現時点での脱落者は居ない。
長期戦では的確に動いていても不意にダメージを食らうこともある。
疲れが判断を鈍らせる。
寒さが、体力を奪う。
ここに来るまでに久朗やつくし、【鴉】のメンバーは未判明スキルの解明を試みていた。
報告書の『口を使う』『射程が短い』『予備動作が無い』事から近距離の相手に行使するものと見当をつけ前情報に無い動作を注視したりしていた。
しかし、ヴァルリアは単調であり変わらぬ攻撃を繰り返すのみで、何も変わったことは起きなかったのだ。
未判明スキルなど、本当にあるのだろうか。
そう疑いたくなる程に。
つくしはその情報も纏め、また、口内を含め大きなダメージを与えられたような箇所はなく、ただ頭部を庇うような仕草をしていたこと、頭部がやはり怪しいのではないか、その旨を通信機が正常に起動している合間に笹山平介(aa0342)へと伝える。
頭部に蓄積されたダメージが、得られた情報が、次を担う仲間への一縷の助けになればいい。
つくしの他にも遊夜や藍など出来うる限りが【雷導班】へと情報伝達を行う術を試す。
多くの仲間に、次への気持ちを託すため。
「でかい、まさに山だな……」
やっと近くでヴァルリアを見ることになった孤五郎は呟いた。数名を街入り口に残し、残りはヴァルリア班の援護に回るべく全力で駆けている最中。
「問題ありません、私はもっと大きな相手とも戦って仕留めたことがあります」
黒鉄が斜め上のことを口にする。
援護と言っても何が出来るだろうか。
もう終局だ。
だが、携帯品に残る回復アイテムを回すことも出来るだろう。國光はそう考える。
あと少しの距離でもまだ、バトンは渡し終えていないのだから。
遠距離からのスキル攻撃もなくなり円形包丁のみの装備で時折近づくしかない玉子は一番ダメージが蓄積していた。
漁も狩りも獲物を追い詰めるのに必要なのは、ただただ根気と忍耐。
じっくり仕留めにかかる腹積もりだったが、やはりレガトゥス級は桁違いなのか。
また雪原がうねる。
寒波と化した衝撃波が襲ってくる。
自身の移動力では溜めを察知したところで衝撃波の範囲外まで抜けることが出来ないのは既に分かっていた。
「ここまでか……」
小さな呟き。
しかし、狩りはまだ終わってはいない。
街で待つ、仲間がいる。
自分が倒れてもきっと、この巨体を仕留めてくれるだろう。と。
その時は目玉くらい残っていると良い。玉子はそう思った。
そして踏ん張る力を無くした彼の体が衝撃波に煽られて、舞う。
意識は冷たい冷気の彼方へと消えていた。
後続の班へ情報を伝える為1人は必ず残すべきと考えていた征四郎もまた終局は凛道をカバーリングしていた為に他よりも凍傷の傷が多い。
最後まで。
自分の背に凛道を匿う。
辛くても苦しくても。
次の誰かの為にも。
自分の中にガルーが共にいる。
一人で戦っているわけではないから。
だから、最後まで。
「私達は、この程度の恐れで足は止めません!」
あと少しで繋げるから。
絞り出すようにしかし、凛とした声。
征四郎は半ば気合で立っているようなものだった。目の端に映る街の灯りは暖かいようにも思う。
衝撃波を量の脚で堪える。征四郎は立ったまま意識を失っていた。
守るという意思の、表れのように。
終盤、あと少し、そんな最中。
二人の重体者が出てしまった。
「こんなに頑張ってるんだから扶養というご褒美が欲しいもんだよ!」
(もうだいじょーぶなんだよ! ルゥたちがまもってあげるんだよー!)
と、その二人を体力が余っている従魔班だった武之が回収していく。その叫んでいる言葉に緊張感はないが、本人は切実だ。
残り数十メートル。
街の入り口は見えている。
「次の人達に繋げる為に、今ここで頑張らなきゃ……!」
杏奈が激励を飛ばす。
従魔班数名はまだ余力があるとは言ってもやはり限界は近い。
このまま他所を向かず、真っ直ぐと進んでくれたなら。
そう考えざるを得ない。
その時、街の入り口が明るくなった。
「あぁ、暖かい。ボクの正義の熱さ程じゃないけどね」
と、ユーガが呟いている。
琳やユーガ、恭也が燃料を撒きそして炎を燃え上がらせたのだ。
熱量での誘導を出来ればと。
そして、ユーガは150m程先から20mmガトリング砲「ヘパイストス」をズガガガガガと凄まじい音と共に放つ。
こちらに気が付け、とばかりに。
ヴァルリアの目が入り口で燃え盛る赤い炎へと向けられた。
すぐにユーガ達はその場を全力で逃げ出す。
「正義も時には転進が必要だよね! 今正義が勝てなくても、この後に味方が勝ってくれるはずだから、ライトニングなんとかに後は任せた!」
そうユーガはいいながら。
琳は賢木 守凪(aa2548)に事前の炎の件も斥候の排除が完了したことも伝えていた。
この炎が消えた時、ヴァルリアが街へと踏み入ったのだと、これで守凪には分かるだろう。
ヴァルリアが、動いた。
――すべては、静止する。
――プラスは滅びへ至る。
些細な熱さえも、ヴァルリアは消し去りたかった。
既に幾度となく顔面へと浴びせられた不要な熱に、苛立ちは頂点に達している。
そして、その巨体を揺らし、ヴァルリアは街へと身を疾走した。
早い、とは言い難い。
しかし大きな体が動き周りに纏わりついた冷気が激しく唸る。
その後姿を見て長時間の戦いが次へと繋がったことを確信する。
「あとは、マーカー部隊に任せるしかないか」
飛翔が呟くそれに小鉄が頷いた。
「あとは街の面々に託すでござる」
街の灯りが誘うように揺れている。
長い旅路は終わり、次の一手は託された。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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