本部

【絶零】連動シナリオ

【絶零】氷城偵察

雪虫

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 7~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/02/25 21:40

掲示板

オープニング

●氷雪城塞
「まずは、これを見て欲しい」
 モニターに映し出されたのは雪と氷で出来た山……否、雪と氷の堆積で出来た堂々たる城だった。降る雪に覆われ輪郭はやや曖昧だが、城壁、兵舎、監視塔……おとぎ話にでも出てきそうな荘厳なる城塞が、モニターの液晶越しだが現実に存在していた。
「これは先日、サンクトペテルブルグ支部を強襲した従魔を辿って発見した、ドロップゾーンだ。ウルノヴォに展開されたため仮にウルノヴォ城塞と呼ぶが、トリブヌス級愚神ヴァヌシュカもここにいると考えられる。先日のヴァシレフスキー作戦の際、手薄になった本支部を強襲出来たのもこのためだろう」
 オペレーターはモニターを切り替え周辺地図を差し示した。ドロップゾーン、ウルノヴォ城塞の位置はモスクワ西部、サンクトペテルブルグ支部の目と鼻の先に位置している。無視すれば先日のように奇襲を受ける恐れがある。また、作戦そのものを横から妨害される可能性も……
「今まで発見出来ず申し訳ない限りだが、とにかく、このドロップゾーンは早急に破壊する必要がある。だが、内部がどのようになっているかも分からないまま侵入するのは極めて危険だ。そこで今回は偵察任務を行ってもらう。と言っても、偵察を直に行うのは君達ではない」
 そしてオペレーターは机の上に小さな物をことりと置いた。それはラジコンカーだった。白いペンキで塗りたくられた軽量のラジコンカー。その側面側面にカメラのレンズが光っている。
「こいつをゾーン内に走らせ映像を収集する。こいつ単独で実行出来ればいいのだが、バッテリーに限りがあるためドロップゾーンにある程度近付いてから作動させる必要がある。君達にはこいつの設置を行ってもらいたい。と言っても上手くいくかは正直賭けだが、君達を直接ゾーン内に入らせる訳にはいかないんだ。前回のヴァヌシュカとの戦闘で、ヴァヌシュカの能力が強化されている可能性があると推測された。それがドロップゾーンによるものか、はたまた件のレガトゥス級によるものかは分からないが、いずれにしろ下手にゾーン内に侵入し交戦すれば全滅する恐れも出てくる。
 だが、ラジコンカーならエージェントと違って回収する必要はない。戦力をいたずらに削ぐような真似も避けたい。ドロップゾーンには決して入らず、ラジコンカーを侵入させる。万一敵に発見された際は無事にここまで帰ってくる。それが今回の君達の任務だ」
 言った後、オペレーターは思い出したようにカリカリと頭を掻いた。
「ああそうだ、悪いがこのラジコンカーを使えるのは五個までだ。急なものであまり数は作れなかったし、細工・消音・雪上での走行対策と多少金も掛かるんでな……常用は出来ないと思ってくれ」

●立ち塞がる者
 雪上車「ウラル12」を後にしてエージェント達は歩き出した。万一敵に見つかれば破壊される恐れがある。故に雪上車はここに置き、徒歩でドロップゾーンに接近する事にした。
 進む程に氷雪の城はその姿を確かにしてきた。広大で荘厳である一方、妙な忌まわしさを覚えるのはやはりこれがドロップゾーンだからだろう。もう少し近付いて、それからラジコンカーを走らせよう、そう思いドロップゾーンにさらに一歩足を進める……そこで、城塞のすぐ前に、細身だが長身の影がある事に気が付いた。継ぎの入った山羊の頭部、首から伸びる長い鎖、肉体は長身痩躯の男性だが、人間ではない証拠にその色は雪よりなお白く、妙に肥大化した左腕の先には手甲から伸びる巨大な爪……
 トリブヌス級愚神、ヴァヌシュカ。
「……ふむ、ここに人間共を招いた覚えはない、のだが……」
 低く、くぐもった、歯切れの悪い声がエージェント達の耳を打った。猛烈な寒波が突如吹き荒れ、ウルノヴォ城塞の姿を更なる白の向こうに隠す。
 長身痩躯の愚神は、まるで覇気のない様子でエージェント達に近付いてきた。だがそれはあくまで一面。今は血気に欠けているが、一度興が乗ってしまえば獰猛が牙を剥く。気を抜けば一瞬で生命を無に帰する程。
 ヴァヌシュカはふう、と面倒そうに息を吐いた。その溜息に呼応するように竜が城塞から姿を現す。計三匹の竜型従魔を上空に従えながら、愚神は血のように赤い瞳をエージェント達に静かに向ける。
「悪いが、今日はお帰り願おうか。生憎客人を迎えるだけの準備は整っていないのでな」

●報告書(PC情報)
 ヴァヌシュカ
 2m近い痩身の愚神。冷気を操り、左腕の鉤爪と右腕に巻いた分銅付きの鎖を駆使して攻撃する。鎖は最長12sqに及ぶ。物攻・物防・命中・生命が極めて高く、一撃二撃受けただけで戦闘不能になる危険性もある。
 物攻S 物防A 魔攻? 魔防B 命中A 回避D 移動? 抵抗B INTB 生命A
・ホワイトアウト
 パッシブ。冷気を操る能力により周囲に猛烈な寒波をもたらす。寒波による【劣化(命中)】【劣化(回避)】【劣化(移動)】、稀に奇襲による【狼狽】付与
・オーバーフリーズ
 パッシブ。冷気を纏わせた肉体は氷のように硬く、拳や武器は触れた対象をも瞬時に凍らせ、凍結による【劣化(命中)】【劣化(回避)】【劣化(移動)】、稀に【劣化(物防)】付与。劣化度合はホワイトアウトより上
・ダウンレッド
 アクティブ。鎖を放って標的を拘束したり、引き寄せたりしつつ鉤爪で対象を切り裂く
・チェーンジルバ
 アクティブ。鎖を縦横無尽に振り回し、当たった相手にオーバーフリーズによる凍結効果とダメージ付与。振り回す規模が大きい程隙が生まれる

 レドズメイ
 ヴァヌシュカと共に支部を強襲した竜型従魔。全長8m程。地上から10sq地点を飛ぶ。かなりの高速で移動
・フローズンミサイル
 氷柱のミサイルを発射する。稀に冷凍効果による【拘束】付与。使用限度3回
・急降下爪撃
 空から急降下して鉤爪による攻撃を行う。物攻に上昇補正が掛かるが上空に戻るのに一ターンかかる

●ラジコンカー(PC情報)
 カメラのレンズが五面に付けられた白いラジコンカー。軽量のため雪でもスムーズに走行可能。消音対策あり、コンパクトサイズで一度走り出せば見つかる可能性は極めて低いが、バッテリーに限度があるため走行距離は限られる。操縦は支部職員が行い、バッテリーが切れると共に自動分解する。一個設置するのに一ターン消費する(一人で五個全て展開すればその一人が五ターン消費し、一人一個ずつで展開すれば各々一ターン消費)。五個全部ゾーン内に侵入させる事が望ましい。

●ウラル12(PC情報)
 積載力約1トン。乗員は運転席2名+10名。最大時速50km/h。大型トラック程度の大きさで、小回りが利くタイプ。エンジンの一部にライヴスを利用したハイブリッドタイプで、一般人でも運転できるが、能力者が操縦するとより大きな馬力が出る。偽装用に白く塗りたくられており、白いビニールシートも貸し出される。

解説

●目標
 敵に気付かれないようラジコンカーをウルノヴォ城塞内部に侵入させた後、撤退する

●場所
 ウルノヴォ城塞前雪原
・ヴァヌシュカの能力により猛烈な寒波に見舞われている。リプレイ開始時のヴァヌシュカとの距離は25sq。ウルノヴォ城塞との距離は40sq。あちこちに隠れられる程の大きさの雪溜まり(破壊可能)あり
・上空にレドズメイ×3が飛んでいる
・ウラル12の位置と距離はPC側で決定可能/ウラル12に残留する人員を出す事は可能。ウラル12が敵に発見された場合破壊される恐れがある

●PL情報
 ヴァヌシュカについて
・今回はやや血気に欠ける感じだが、逆を言えばエージェントや戦いにあまり集中していない分その他の異変に気付きやすい状態である
・ラジコンカー及びウラル12を見つけた場合自分で壊しに赴くか、レドズメイに破壊命令を出す
・戦いに集中すればその他の事項に意識が向く可能性は低くなるが、その分獰猛性が増す
・一定ダメージを受けるか、PC達と一定距離離れた場合撤退する

 レドズメイについて
・ウルノヴォ城塞に戻りライヴスを補給する事でフローズンミサイルの使用回数を回復させる
・目が悪く15sq以上先はよく見えない
・残存していた場合、PCを見失わない限り追ってくる
・数は三匹以上は増えない

●その他
・使用可能物品は装備・携帯品、支部職員との通信用通信機、OPに明示されている物品のみ
・PC情報は「PCが使える情報」、PL情報は「PLのみが知っている情報/PCが使うにはPC情報への落とし込みが必要な情報」
・本シナリオの成功度がウルノヴォ城塞の情報公開度に反映する

リプレイ

●車中にて
「みてみて! 鴉の真壁さんに小鉄さん、佐倉さんに齶田さんだよ!」
 ウラル12に揺られ、エージェント名鑑を捲りながら六道 夜宵(aa4897)ははしゃいでいた。「目力が凄い」と他人からよく言われる瞳の先には、
「此度の主役はこの小さい機械でござるな、頼りにしてるでござるよ」
「こんなので本当にお城の中が分かるんだ……最近の技術ってのは凄いのねぇ」
とラジコンカーをまじまじ見つめる小鉄(aa0213)と稲穂(aa0213hero001)の姿がある。
「緑髪の彼もいるな」
 若杉 英斗(aa4897hero001)は虎噛 千颯(aa0123)の横顔を眺め呟いた。その言葉の真意が何処にあったか定かでないが、夜宵は記憶を頼りに名鑑の中のページを探す。
「あぁ、虎噛さんね。HOPEエージェントの超大型新人! 私も、2017年版に載れるといいな!」
「超大型? また太ったのか?」
 英斗の言葉に、振り返った夜宵の瞳がギラリと険呑な光を放った。ただでさえ強い目力がより一層迫力を増す。
「愚神の前に、アンタをミンチにするわよ?」
「……」
 英斗が凄い目力から必死で視線を逸らしていると、ガタンと車が大きく揺れ、雪原の真っ只中で止まった。ドロップゾーンまではまだかなりの距離があるが、ウラルを発見され破壊されては事である。小鉄が白いビニールシートでウラル全体を覆った後、さらに雪や氷を乗せて隠蔽を強化する。その間に灰堂 焦一郎(aa0212)は目を慣らすため白原野を静かに見据えた。
 夜宵は英斗と共鳴すると、仲間達の後を追って雪にブーツを踏み入れた。進む程に寒波が強まり冷気の針が肌を刺し、同時に氷雪の城がその姿を確かにしてくる。
 もう少し近付いて、それからラジコンカーを走らせよう、そう思いドロップゾーンにさらに一歩足を進める……そこで、城塞のすぐ前に、細身だが長身の影がある事に気が付いた。報告書にあったその姿。継ぎの入った山羊の頭部を夜宵は指差し声を上げる。
「あれ知ってる! トリブヌス級だ」
『夜宵、身を隠せ。すぐにイメージプロジェクターで雪原に紛れるような白色を纏え』
 英斗の指示に夜宵は保護色の幻影をまとい言われた通り雪に伏せた。焦一郎も身を隠しながら仲間達に声を飛ばす。
「恐るべき敵です。皆様、ご注意を」
《不足はない。灰堂、備えよ》
 ストレイド(aa0212hero001)の無機質な機械音声に、焦一郎は白布を用意し銃と発砲炎の偽装を始めた。小鉄はライヴス通信機の動作を確認しながら何処か楽しげに覆面を動かす。
「ともあれ、強敵相手の戦は不謹慎ではござるが、楽しみでござる」
「はいはい、お仕事を優先してね? ……ほんとよ?」
 言って稲穂は小鉄の顔をちらりと見上げ、それから盛大に息を吐いた。少年のようにキラキラと光る瞳の前に、出来る事など溜息をつく事だけだった。

「出やがったか、ヴァヌシュカ……」
「寒いからといって熱くなり過ぎるでないぞ、亮よ」
 百目木 亮(aa1195)の呟きをブラックウィンド 黎焔(aa1195hero001)が諫めた。温厚な好々爺といった黎焔の瞳が秘めた稲妻を垣間見せる。
 見れば愚神は雪原に立っているだけで、そこから動く気配はない。まさかこちらが何もせず帰るのを待っているのか、それとも……
 いずれにせよ、勿論このまま帰る予定は微塵もなく。虎噛 千颯(aa0123)は白虎丸(aa0123hero001)と共鳴し愚神目掛けて駆け出した。途中で「雫」の通信が入り抑揚に乏しい声が響く。
「配置に付きました。皆様、ご武運を」
《システム・偽装モード。索敵開始》
 焦一郎は通信機越しに仲間達へ告げた後、ストレイドの声に従い雪溜まりから身を起こした。スカディコートの迷彩機能で潜伏し、スナイパーゴーグル・ノクトビジョンを併用し敵の位置を把握しつつ戦闘開始まで待機する。
 焦一郎に「了解」と返し千颯は足を更に動かす。近付く程に寒波が強まる。愚神はまだ動かない。
「んー、ここが一つの分水嶺かねー。ちょっとは気合を入れないとだな」
『強敵でござるが、皆の力を合わせればきっと成し遂げられるでござる』
 白虎丸の言葉に軽く笑み、千颯は雪を大きく蹴って愚神の前に姿を曝した。まずは注意を引くためと、豪炎槍「イフリート」の灼熱をかざし声を張る。
「まずは一番槍! イフリートの熱量を舐めるなよ!」
『伊達に魔槍の名は冠っていないでござる!』
 赤き猛虎の幻影ごと千颯は魔槍を叩き下ろした。山羊の頭部が少々歪んだ気がしたが、ヴァヌシュカは微動だにせずそのまま攻撃を受け止めた。熱量の向こうにある意図を探ろうとするように。間髪入れず千颯の背後から小鉄が苦無を投げ飛ばし、紛れるように月鏡 由利菜(aa0873)がグングニルを供に姿を現す。
「ごきげんよう、ヴァヌシュカ。月鏡由利菜と申します」
『紳士なら、来客には相応の持て成しをするものだ』
 凛とした声でリーヴスラシル(aa0873hero001)が皮肉を飛ばし、同時に由利菜が白き神槍を突き入れた。この愚神の攻撃の高さと特殊能力は聞いている。防寒用にシャルールペイントの保温を活用しているとは言え、不用意な接近は危険。退いた由利菜と入れ替わり、亮が薄い笑みと共にインドラの槍の狙いを定める。
「よお、スグルト以来か。イカしたモン被ってんじゃねえか。ちょいと野暮用があって来たんで今すぐにでも入りてえんだが、それは無理な相談かねえ」
 そして放たれた雷槍は轟音と共に愚神を焼いた。仲間の連携を追いながら真壁 久朗(aa0032)は思案する。
 今まではこちらが迎撃する側だったが今回は逆だ。撤退を視野に入れている分、皆重体にならないよう多少は慎重になるだろうし、『時間稼ぎの為の戦闘』である事は前回でこちらの考えの一手先を読んで来たヴァヌシュカにもいずれ感付かれる。
 だが、そうは思っても自分に出来る事は限られている。前回相対している事と、カバーに徹する自分の行動は単純で読まれやすいだろう。
(「だとしても、俺にはそれしか出来ない」)
(『頑張りましょうクロさん、みんなで一緒に帰るために!』)
 響くセラフィナ(aa0032hero001)の励ましに久朗は表情を和らげた。仲間を護る盾として、久朗は再びヴァヌシュカの正面へ立つ。
「根競べといこうか」

●疾走
 夜宵はラジコンカー三台を幻想蝶に格納し、無月(aa1531)とは別のルートからドロップゾーンに向かっていた。仲間達が愚神の注意を引き付けている隙に、敵の眼を盗んでラジコンカーを設置する事が自分の役目。
『多少大回りになってもいいから、上空の竜型従魔にみつからないように移動するんだ』
「わかった。……英斗って、なんか場慣れしてる感じするよね」
 イメージプロジェクターで身を隠し、這うように雪溜まりを移動しながら夜宵は相棒に問い掛けた。英斗は少し思いを馳せ、それからふうと息を吐く。
『……俺にもよくわからんが、こういった修羅場は何度か経験しているのかもしれないな』

 無月は上空を確認しつつ白原野を進んでいた。潜伏を使用しているとは言え、旋回するレドズメイに見破られない保証はない。仲間が敵を相手取っているこの間が動くチャンス。城塞は城壁に囲まれており、侵入口は一つだけ開いた城門のみ。故にラジコンカーを離して設置する必要はない、操作はこちらにまかせろと職員からは言われたが、それでも、潜伏の時間や仲間が持ち堪えられる時間に猶予が十分ある訳ではない。
『まあ、ボク達にふさわしい役割だよね』
 急ぐ無月を鼓舞するようにジェネッサ・ルディス(aa1531hero001)が話し掛けた。無月は闇より人々を守る為に戦ってきた忍者一族の末裔であり、ジェネッサは罪なき人々を守るため戦っていたエージェントである。「影を歩む者」たる自分達に、確かにこれ程相応しい任務もない。
「だが、このラジコンカーの設置こそが任務の本命だ。絶対に失敗は許されないな」
『だね、ボク達と皆の力で必ずやり遂げよう』
 無月は頷き一層脚に力を込めた。肌を突き刺す寒さごと蹴散らさんと言わんばかりに。

●抗戦
 佐倉 樹(aa0340)は離れた位置から愚神の様子を注視していた。計7組のリンカー達に囲まれながら、ヴァヌシュカの意識は何処か遠くを彷徨っていた。刃を向けられる事よりも、敵の言動の裏の意図が気になってでもいるような……
 興が乗らない、気がそぞろ、そんな様子のヴァヌシュカを、樹はふっと鼻で笑った。口の端を持ち上げて、シルミルテ(aa0340hero001)と共に親密なる宿敵を呼ぶ。
「くろー』
 愉悦を込めて樹は久朗の名を呼んだ――それが合図。経験上久朗も、他の【鴉】の仲間も「これ」を避けてくれるはず。前衛組を巻き込まないよう一応は気を付けつつも、しかし遠慮も容赦もなくサンダーランスを走らせた。雷は飛び退いた仲間の先で愚神の肉体だけを打ち、樹は愉悦に笑んだままシルミルテと声を重ねる。
「ねぇキミは『遊ンでくれルノ?』
 意識を設置班から逸らし、同時に敵に衝撃を――なんていうのは建前だ。
 私や『ワタシが』見てみたかったアナタはそんなつまらなさそうなアナタじゃない。
 キミはどんなトリブヌス級?
 激しいキミを見せてみて!
 そんな本音を口には出さず、樹はただ笑んでいた。うわの空だった愚神の瞳が衝撃にわずかに眩み、そこに小鉄が放り投げた浦島のつりざおの先が迫る。
 被り物を狙って放たれた釣り針を、しかし愚神はすんでで避けた。被り物が嫌そうに歪んだのは多分気のせいではないだろう。
 久朗はふむと思案した。前回吹き飛ばした筈の、しかし今愚神の頭にあるのは寸分違わぬ被り物。ライヴスで出来たものか、はたまた自身で修繕したのか、それは分からないが、戦いにおいて邪魔であろうソレを律儀に被っている訳とは?
 なんにせよ得られる情報は欲しいと、久朗は愚神目掛けてキリングワイヤーを振り抜いた。援護するべく齶田 米衛門(aa1482)がA.R.E.S-SG550で愚神を狙撃し、ワイヤーが被り物の角部分を切り落とす。ヴァヌシュカの目が落ちた角を向いたと同時に、千颯が、亮が、由利菜が、三方から己が獲物を振りかざす。
「戦闘中によそ見とは釣れないねぇ~」
「あの時より俺の叩きがいが増したか、それともお前さんの力の方が上か、試させてくれよ、ヴァヌシュカ」
「神の槍よ、仇なす敵を貫け!」
 イフリート、フラメア、グングニル、三種の槍は全く同時に愚神の腹を傷付けながら、しかし穿つ事は叶わなかった。刃を受けつつ頭上を仰ぎ、愚神はぽつりと声を落とす。
「俺の注意を引いておきたいのか?」
 ヴァヌシュカが述べたと同時に上空の竜がそれぞれ向きを変えようとした……瞬間、同時に何か小さなものが竜達の翼を撃ち抜いた。最適なタイミングでトリオを射った狙撃手は、発砲炎隠匿用の白布の位置を修正する。
 焦一郎は光のない、何処を見ているか定かでない黒の瞳で空を見据えた。寒波は未だ激しいが、LSR-M110、オプティカルサイト、それ以外の装備も焦一郎のただでさえ高い命中力を支えている。レドズメイの注意が一気に逸れたのを確認し、ストレイドはオペレーターよろしく焦一郎へ指示を出す。
《敵影感知。距離・速度補正完了》
「第二射は逆方向へ転移させます、準備を」
《了解。弾頭転移・充填開始》
 仲間が愚神を引き付けるなら、従魔を攪乱するのが自分の役目。飛行能力の減退と、射撃方向から狙撃地点を割り出されぬよう、焦一郎は翼を狙ってテレポートショットを撃ち放つ。

●攻戦
 千颯は「ヴォトカはドコへいった?」の瓶を開け一気に喉に流し込んだ。強烈なアルコールが灼熱のごとく喉を焼き、同時にまとわりつく寒さを一瞬だけだが吹き飛ばす。
「だから、よそ見するなって言ってんだろうが!」
 いっそ強気に笑みを浮かべ、上空へ意識を飛ばす愚神へ千颯は槍で斬り込んだ。そして一歩退いたに合わせ、樹が童話「ワンダーランド」をぱらりとめくる。
 もし被り物を剥ぐことができるなら
 あの仮面を剥ぐよい練習になることだろう。
 想像ににんまり笑みながら、樹は愚神の頭部を狙う。
「ブルーム『フレア!』
 樹の放った目くらましに紛れ込み、小鉄は愚神の背面から疾風怒濤を叩き入れた。米衛門は敵を観察しながら情報を整理する。
 “周囲の確認”をする愚神はどこか“意識散漫”であると見受ける。
 挑発に乗って来そうもない。何に対して興味を持つのか。
 “無謀”か“浅はかさ”か“感情”か。
『でもまあ、大体勘で行くんだろ?』
 スノー ヴェイツ(aa1482hero001)の一言に「そうッスな!」と返事を飛ばし、米衛門は銃の狙いを定めた。注意を引き付けるだけの決定打に欠けるなら、
「撃ち殴るのみッスよ」
 若干伸びた髪をなびかせ、米衛門はA.R.E.S-SG550の引き金を引いた。先に掛けたトップギアで威力を増した弾丸に愚神の身体が僅かに揺らぎ、すかさず由利菜が、亮が己が得物で斬り上げる。
 その隙に、久朗は切り落とした角を拾いに背を向けた。物がどうあれ愚神の物なら調べる価値は十分にある――
「――調子に乗るなよ」
 地を這うような声と共に、ヴァヌシュカは鎖を放ち久朗の身体を絡め取った。そのまま自分の方へ引き込もうと力を込めるが、させまいと久朗は全体重をかけ両足で雪を踏みしめる。
 頑健な肉体が冷気の効果を半減させる。それでも自分を引き摺る力が弱まってくれる訳ではないが、数瞬でいい。その数瞬で小鉄が巨斧「シュナイデン」で、米衛門がホイールアックスで同時に鎖に飛び掛かる。
「お主の鎖、今こそ頂くでござるよ!」
 小鉄の声と共に米衛門も斧を振り下ろし、息の合った一撃粉砕は愚神の鎖を断ち切った。分銅と一部の鎖が久朗から雪の上に落ち、残った鎖を引きながら愚神は三人の姿を睨む。 
 鎖が再生する兆候はなく、樹はとりあえずとワンダーランドのトランプ兵を差し向けた。亮、千颯、由利菜も未だろくに動こうとしない愚神に一撃を叩き入れ、それぞれ一歩後ろに下がる。一瞬の間が空いたその時、愚神が突然笑い出した。
「ふっ、くく、はははは!」
 寒波が一層強まった、ような気がした。寒波が引き込む雪の向こうに姿を徐々に溶かしつつ、愚神がようやくリンカー達に意識と殺気の全てを向ける。
「失礼した。確かに来客には、それ相応の持て成しをせねばなるまいな」
 風を切る音に亮がはっと視線を上げ、巨大な氷柱がミサイルのように飛来するのに気が付いた。「上だ!」と咄嗟に声を掛け、気付いたリンカー達が着弾先より退避する。視線を戻した先にヴァヌシュカの姿はなかった。
「ど、何処に行ったでござるか!」
 小鉄が思わず声を上げた、その時、寒波を越える冷たい殺気が小鉄の背を貫いた。寒波からの奇襲を小鉄は紙一重で躱し、愚神は舌を打って再び吹雪に身を隠す。
 ヴァヌシュカの姿を探そうと全員が辺りに視線を向け、それを遮るようにレドズメイが飛び掛かった。急降下からの爪撃に、レドズメイを注視していた亮がすんでの所でそれを避け、同時にフラメアの一撃を入れ雪の中の塵へと変える。
「やれやれ、竜もいるたぁ骨が折れるねえ」
「そうだな、そうでなくては困る」
 すぐ近くで聞こえた声に、亮はすぐさまフラメアを防御に構えた。ヴァヌシュカは槍ごと亮の身体に鉤爪を叩き下ろし、愚神を発見した焦一郎が自分の方へ注意を引こうと赤い瞳へ狙いを定める。
 だが、二度目のフローズンミサイルが仲間の周囲に降り注ぎ、愚神は再び舞い上がった白の向こうへ姿を消した。樹は久朗の姿を探した。親密なる宿敵を。同時にこれ以上もない信頼を置いている――
 そんな樹のすぐ前で、愚神は鉤爪を横に構えた。「遊んでくれ」と請うた少女の、首から上を剥ぎ取る前に、
「十分に、楽しんだか?」

 樹の前には飛盾「陰陽玉」を展開した久朗がいた。前にいたはずの愚神は別の所に移動していた。ゾーンから駆け付け女郎蜘蛛を放った無月は顔を上げ、異変に退避したヴァヌシュカを黒い瞳で静かに見据える。
「……久しぶりだな。ヴァヌシュカさん、だったな。私の事を覚えているか? これ以上仲間に手を出させる訳にはいかん」
「そうもいかん。持て成せと、遊んでくれと、その大切な仲間とやらに要望を受けたのでな」
 そして腕を掲げた愚神を、再度注意を逸らすべく焦一郎が狙い撃った。機動力の低下を求め、由利菜も着弾と同時に愚神の足へと槍を打つ。無月が現れたという事は、彼女の担当していたラジコンカー二台の設置が完了したという事。攻勢に出て敵の気性を激しくし、ラジコンカーやウラルへの注意力を下げなければ。
「噂通り、気性の落差が激しいですね……っ!」
『戦いへ集中する程獰猛になり……逆に興が削がれると急にやる気をなくす性格か』
 一歩距離を取ったと同時に、ライヴス通信機から雑音が入っている事に気が付いた。愚神を見失わないよう注意しながら雑音に耳を傾ける。
「こちら支部。六道からの連絡だ。設置完了。合流に向かっているとの事」
 どうやらヴァヌシュカの奇襲のせいですれ違ったようである。設置が完了したのであれば留まる理由はもはやない。米衛門はウラルに移動するため仲間の位置を確認したが、呼吸の合う久朗も小鉄もやや離れた場所にいた。
 気付かれずに移動するには隙を作る必要がある。そのためには息の合う仲間の協力が必要だ。そう思い、動こうとした米衛門の死角に長身痩躯の影が迫る。
「先程鎖を切られた礼だ」
 横殴りに衝撃を受け米衛門は派手に雪へと飛んだ。しかし九死に一生でダメージはなく、「敵にぶっ飛ばしてもらう」も視野に入れていた米衛門には好都合。
(「前回の戦闘でバレる可能性が高いから、極力しないつもりだったッスがねえ……」)
 それでもしばらくの間は動かず、気配が去ったと同時に姿勢を低めて走り出した。大剣を背に負っているとはいえ見つかる危険性は存在するが、後ろからは攻防の、上空からは狙撃される竜の哭き声だけが聞こえる。
 従魔の対応に戻りながら焦一郎は思案した。身を隠し、攪乱のためテレポートショットを織り交ぜているとは言え、ここまで自分に気がつかないのは視力があまり良くないのか、それとも勘が鈍いのか。
 いずれにしろ、と焦一郎は銃口の位置を調整した。高い命中力で放たれた弾が竜の身体を虚空へ掻き消す。

「久朗ちゃん、亮さん最初は任せたぜ、オレちゃんは重傷で使用するわ」
『少しでも長く持ち堪える為でござる』
 白虎丸の声と共に、千颯はクリアプラスを上乗せしケアレインを降り注がせた。ダメージの大きい亮の姿がさらに千颯の意識を研ぎ、治癒のライヴスは通常より高い効果を発揮する。
 完治した久朗が米衛門をフォローするべく愚神の前へ立ち回り、その斜め後ろから樹がブルームフレアを炸裂させた。合わせて小鉄が後退しながら牽制のための苦無を放ち、由利菜が一旦距離を取ってライヴスシールドを発動させる。
「獲物を狙う動作は俊敏ですが……護身が疎かですね!」
『私達が命をかけるべき場はここではない。さらばだ』 
 リーヴスラシルの宣告と共に、ライヴスリッパーを加えて由利菜は愚神へ突撃した。ライヴスを乱す攻撃を、しかし愚神はそのまま受け止め、輝かしい鎧と冠を頂く姫騎士の姿を冷たく見下ろす。
「淑女なら、もう少し優雅な退場をしてはどうだ?」
 振り抜かれた鉤爪をライヴスシールドが無効化し、由利菜は体勢を立て直すべく雪原へと一歩退いた。その背を狙ってレドズメイが降下する――
「みんな、やっちゃって!」
 レドズメイの不意打ちを、夜宵の放った七人の小人がその身体ごと打ち砕いた。焦一郎の狙撃は竜を攪乱するだけではなく、生命力を削ぐのにも十分役目を果たしていた。
「お待たせしました、さあみんなで帰りましょう」
 吹き荒ぶ寒波に負けないように夜宵は仲間に語り掛け、由利菜も退路を開くべく改めて武器を握り締める。

 久朗からのエマージェンシーケアを受けながら、亮は二つ目の賢者の欠片を音を立てて噛み砕いた。これであと一撃ぐらいは耐えられそうだが、確かに以前よりヴァヌシュカの攻撃力が増している。
 再びフラメアを構えた亮の稲妻模様の入った瞳に、右腕を大きく後ろへ引く愚神の姿が映り込んだ。「来るぞ!」という亮の声に久朗と千颯は飛盾「陰陽玉」を構え、望み通りと言わんばかりに愚神の鎖が盾を打つ。
「む……」
 鎖を右腕に巻き付けながら愚神は訝し気な声を上げた。千颯のリフレックスの効果でダメージが反射されたのもあるし、鎖から受ける手応えが違う。鎖を断ち切られた事により重量が変わり、ダメージ・操作性に不都合が生じたようだ。
 だが、それでも脅威に変わりなく。痺れる腕を軽く振り、千颯は苦笑混じりに呟く。
「こいつはかなり骨が折れそうだ」 
「久郎さんや虎噛さん達バトルメディックにかかる負担は大きい……」
『……いざとなれば私達も代わりに盾となる。無理はするなよ』
 千颯のダメージと呟きに由利菜とリーヴスラシルが述べた。可憐な姫騎士の労わりに千颯は一層苦笑を深め、自分を奮い立たせようと再度愚神の姿を見据える。
「回復スキルが何処まで役にたつかなって状況だな……でも、もう少しだけ踏ん張ろうか」

●撤退戦
「特殊大型車両免許持っといてえがったッス」
 米衛門はウラルに飛び乗りエンジンを叩き起こした。現在の仲間達の位置は80m程後方にある。ここで待っているべきか、それとも迎えに行くべきか……
「米殿、行けそうでござるか?」
 そこに、同じく後退してきた小鉄が現れウラルに乗った。米衛門が迎えに行くか待つかを問うと、小鉄は何故か楽しそうに幻想蝶の中身を教える。

 ヴァヌシュカは千切れた鎖を力強く振り抜いた。千颯が、久朗が、由利菜が、仲間達を守るために各々の盾を掲げる。
「マリス・ディフレクト!」
 アイギスの盾に防御のライヴスをまとわせて、由利菜は華奢な両脚で愚神の攻撃を受け止めた。それなりのダメージを負いつつもリーヴスラシルが内から鼓舞する。
『流石に衝撃が大きいが……まだやれる!』
『無理は禁物でござる、危なくなったら俺たちを盾にするでござる』
 白虎丸の声を聞いてか否か、愚神が笑った、気配がした。逃すまいと言うかのように再び鎖を振り上げる。
「麗しい友情と言うヤツか……ならばあの世まで共にすればいいだろう」
 そしてまたもや眼前の敵を打ち据える……そこに、計16発のロケット弾が轟音と共に飛来した。爆風が雪を巻いたと同時に、走ってきたウラル上から小鉄が楽し気に声を張る。
「こういった得物は初めてでござるが、ばかすか撃つのは楽しいでござるな」
 言って小鉄はカチューシャMRL……16連装マルチプル・ロケット・ランチャーを次から次へと撃ち込んだ。敵に当てるより視界妨害・撤退支援を重点に。合わせて樹が横殴りにゴーストウィンドを愚神へぶつけ、その隙にアサルトユニット等も駆使してリンカー達はウラルへ走る。
 殿を努める千颯と亮もウラルに乗ろうとした――所で、久朗が未だ盾を構え立っている事に気が付いた。その目と鼻の先には雪煙と爆炎に巻かれながら、赤く光る瞳で久朗を見据える愚神の姿。
『これ以上はまずいでござる! 撤退でござる』
「俺は大丈夫だ、先に乗れ!」
 白虎丸の言葉に久朗は鋭くそう返した。千颯も亮も決して少なくないダメージを負っている。二人を信じていない訳でも、白虎丸の判断と配慮を無下にする訳でもないが、今ここで背を向けて、愚神が仲間達を襲わないと確実に言い切れようか。結果はその時が来るまでは誰にも分からない。まして愚神の瞳は語っている。ここにいる敵全てを逃がすつもりは毛頭ないと。
 故に、なるべく最後まで盾として立ち塞がる。
 誰も取り残していく事がないように。
 愚神は左腕の先にある鉤爪を高く振り上げた。この男に対して千切れた鎖は効果がない事は理解した。ならばもっと確実に、白の底に沈めるために―― 
「小鉄さん、頼むッス!」
 鉤爪が宙を切る、直前、米衛門の言葉と共に久朗は宙へと釣り上げられた。ん? と思う暇もなく、釣られた魚よろしくウラルの上に落とされる。
『もうちょっと丁寧にならない?』
「非常時でござる故、ご勘弁願うでござる!」
 稲穂と小鉄の声に顔を上げると、どうやら浦島のつりざおで回収されたようである。焦一郎がカチューシャを展開し新たな雪煙を派手に打ち上げ、千颯と亮は仲間を追って自力でウラルに乗車する。
「安全運転より撤退運転! 舌噛まないよう気をつけるッス!」
 言って米衛門はアクセル全開に踏み込んだ。スピードが出ずとも足がハマる危険性がある為小まめなハンドル切りはしない。
 と、吹雪が一層強くなり、急な冷気に温度差が生じフロントガラスにヒビが入った。見ればヴァヌシュカが雪原の中を全速力で追ってきている――
「前が見えねえッス!」
 米衛門は豪快にフロントガラスを叩き割った。ヒビ入りでは前が見えない為これが最善の策である。
 亮はRPG-07Lを出現させ、焦一郎も今一度狙撃銃の狙いを定めた。レドズメイが残っていればそちらに向けていた所だが、従魔が新たに追加された様子はない。そして駆ける愚神を放置する理由もない。
 未だ速度を上げ切らないウラルを全力で追いながら、被り物の下でヴァヌシュカは顔を歪めていた。全力で駆けながら鎖を放つのは難しい。だがこのまま逃すのも、と腕を振ろうとした直前、焦一郎の弾丸がヴァヌシュカの腿を撃ち、亮の放ったロケット弾が愚神の頭部で爆発する。
「ぐっ!」
 それでも、と放った鎖は、しかし逃げ去る車に届く事なく千切れた先を雪へと落とした。愚神の移動力を量るため、どの程度の速度で追い掛けてくるかを観察している小鉄へと、樹は楽し気に声を掛ける。
「小鉄さん」

 魔銃「らぶらぶ・ズッキュン」。なんともコミカルな名前を持つ桃色のこの銃は、装備した者の魅力を引き出し撃ち抜いた者を魅了する事が出来るとか。
 ヴァヌシュカの移動速度がある程度読めたであろうタイミングで樹は小鉄に声をかけ、是の反応があったのでこの魔銃に持ち替えた。魅了目当て……とは言ってもなったら面白いな程度だが、先程の意趣返しもある。悪戯っ子のように口の端を吊り上げながら、樹は魔銃を撃ち放った。
 
「今回の戦いで、貴方や竜型従魔の能力はあらかた調べさせてもらった。本番は次回以降、としよう」
 膝をつき、遠く離れる愚神に向けて無月は声を張り上げた。訝し気な顔の夜宵に言葉の意味を説明する。
「敵に偽の目的を話す事でこちらの真の狙いを悟られないようにするのが目的だ。引き返されて、目的を果たさない内にラジコンカーを壊されてはたまらないからな」
「ハッタリもボク達の武器だから、ね」
 無月とジェネッサの説明に夜宵は「なるほど」と頷いた。その横でもう一人の忍者、小鉄はパージされたカチューシャの残骸をいそいそ幻想蝶へ仕舞い込む。

 樹は今回の戦いで得た情報を確認していた。戦闘開始前にベルトに固定した動画用ハンディカメラと、カメラを妨害しない位置に取り付けていたオートマッピングシート。被り物や角を得られなかったのは残念だが、寒波の範囲や愚神の移動力についてぐらいは分かるだろう。支部に提出する前にと、樹はウラルに揺られながら映像に視線を落とす。
 その最中一度だけ、樹は久朗をちらりと見つめた。仲間達の負ったダメージは残ったスキルで十分回復出来たようで、久朗は足を投げ出すように今は体を休めている。樹にとって親密なる宿敵にして、「アレが居るなら死ぬことは無い」と信頼を寄せている相手。 
 例えソレが過信であろうとも
 その信頼こそが我らの命だ。
 そしてその信頼のもとに、自分達は今後も戦い続けていくのだろう。
 
 あ、という呟きに、シルミルテは顔を上げた。ほとんど無表情のまま樹が淡々と疑問を零す。
「そう言えば、結局魅了効果ってどうなったのかな。遠すぎて分からなかったな」
「そうネー」

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
  • 単眼の狙撃手
    灰堂 焦一郎aa0212
  • 忍ばないNINJA
    小鉄aa0213
  • 我が身仲間の為に『有る』
    齶田 米衛門aa1482

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 単眼の狙撃手
    灰堂 焦一郎aa0212
    機械|27才|男性|命中
  • 不射の射
    ストレイドaa0212hero001
    英雄|32才|?|ジャ
  • 忍ばないNINJA
    小鉄aa0213
    機械|24才|男性|回避
  • サポートお姉さん
    稲穂aa0213hero001
    英雄|14才|女性|ドレ
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • HOPE情報部所属
    百目木 亮aa1195
    機械|50才|男性|防御
  • 生命の護り手
    ブラックウィンド 黎焔aa1195hero001
    英雄|81才|男性|バト
  • 我が身仲間の為に『有る』
    齶田 米衛門aa1482
    機械|21才|男性|防御
  • 飴のお姉さん
    スノー ヴェイツaa1482hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 夜を切り裂く月光
    無月aa1531
    人間|22才|女性|回避
  • 反抗する音色
    ジェネッサ・ルディスaa1531hero001
    英雄|25才|女性|シャド
  • スク水☆JK
    六道 夜宵aa4897
    人間|17才|女性|生命
  • エージェント
    若杉 英斗aa4897hero001
    英雄|25才|男性|ブレ
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