本部

WD~元凶を焼き払う~

鳴海

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
4日
完成日
2017/02/15 15:14

掲示板

オープニング

● ペインキャンセラーをめぐる事件。
 最近日本で子供たちを中心に流行っている薬物があった。
 それこそが『ペインキャンセラー』
 摂取すれば痛覚がなくなり、それどころか疲労も感じなくなる、そのことから溢れる全能感に、子供たちは瞬く間に虜になった。
 その調査に乗り出したのがH.O.P.E.。
 リンカーたちは早速工場や敵のアジト等を暴きだし。国内組織を壊滅させた。
 よって次の段階は原産地の特定と、『畑』の償却。
 それには深く、とある少女が関わっていた。
 その少女の死と共にプロローグを終わろう。

● クリスティアの手記
 クリスティアが永眠した。その肌は木のように干からびて、瞳はガラスのように無機質。
 美しいとは言えない最後を迎えた彼女の死に。
 なぜと、問いかける者は多いだろう。
 それは全てその身に魔を宿した結果だ。
 魔を宿せば人としての死などありえない。
 人として死ねないなら、その死は、一生ははたして幸福と言えただろうか。
 わからないだろう、少なくともすぐに答えが出るものではないだろう。
 だから、その迷いを抱きながらでいい。進んでみてほしい。

 最後に彼女が隠していた手記が発見された。
 その文章のほとんどは他愛のない日記のようなものだったが。
 唯一有益な情報があったとすれば、彼女の友人の行動パターン、そして麻薬密売組織から入手した各種資料。
 そこから、原産地の特定に成功したことだろうか。

● 南米の奥地
 これから皆さんに向かっていただくのは、広大な南アメリカの未開拓地。
 山が背にあり、川に遮られる、木材にもなりずらい奇妙な形の気がうっそうと生い茂る森。
 その奥地に『ペインキャンセラー』の畑がある。
 ペインキャンセラーの原材料は穀物型の従魔。その機能を高めるために様々な化合物を混ぜた結果がこの薬だ。
 なので厳密に言うと違法性はない。
 しかし小型の従魔を直接体内に取り込むことには問題がありすぎるのでH.O.P.E.は速やかにこの原産地である『畑』の焼却を命じた。
 ただ、ここで二つ問題が出てくる。
1 畑の大きさ
2 接近方法
3 敵増援について

1 畑の大きさについて。
 1500ヘクタール、つまり1500000平方メートル。一辺1225メートル程度の敷地が、植物従魔の畑である。
 この一面の効率の良い破壊方法を考えなければならない。
 場所が場所なだけに大型兵器を持ち込むことができない上に。
 霊力を伴った攻撃でないと効き目がない。
 何かいい案が無いか募集したい。

2 接近方法について。
 今回は三経路のどれかを選択し、その道のりを行ってもらう。
 それぞれの経路にメリットデメリットがあるのでそれをふまえ、自分にあったものを選択してほしい。
 また一辺1225メートル程度の敷地の端四隅にはアバラ小屋が立っている。資料によれば常に4から8人のリンカーが常駐しているらしく、全員荒事に慣れている様子。
 彼らをどう始末するかという問題も、この経路選択に絡んでくるだろう。

・陸路
 けわしい山を登る。一番手薄で。一番音もなく敵基地を襲撃できる。
 だが森の中には従魔が住みついていたり、亜熱帯の力強い植物が行く手を阻むため、体力をかなり削られると思われる。
 ただ、従魔など寄せ付けない踏破力があれば話は別か。


・空路
 ヘリで降下する。ただし外に見張りがいた場合、あっさり見つかるので注意。
 ヘリ自体の音もすごいのでばれないわけがないだろう。
 気づかれるとミサイルを撃ち込まれる可能性がある。
 メリットをあげるとすれば、現地までは無妨害、そして体力を使わずに最短で到着できることだろう。

・川路
 川をさかのぼる。川の音にエンジン音が紛れるので、スピードを出さなければ、音で気が付かれる可能性は低い。 
 しかし川べりには見張りが張り付いているはずなので、それをどうするかが肝。
 暗がりとはいえ50SQ以上接近すると確定でばれるだろう。
 安全なのは100SQ以上先からの狙撃だろうか。
 不安定なボートという足場で、それほどの遠距離から見張りを屠れる人間がどれくらいいるだろうか。


3 増援について
 敵組織の人間に警報装置を鳴らされると物の数分で増援が駆けつける。
 一回の増援で、四人程度のヴィランが追加されるため。
 増援を呼ばれないためにはどうするか。
 増援を呼ばれたらどうするか。
 それを考えなければならない。
 また、敵は空路か川路のどちらかで来るようだ。

解説

目標 『畑』の焼却

●考えるべきこと
・畑を効率的に償却する方法はないか
・敵はどうするか
・侵入経路はどうするか
・増援はどうするか。

●敵ヴィランについて。
能力的にはかなり差はあるようだ。さらにクラスについてもばらつきがある。
ただ、戦闘データからスキルは固定の様で。
・カオティックブレイドの場合。ストームエッジ。
・ジャックポットの場合、ロングショット。
・シャドウルーカーの場合、毒刃。
・バトルメディックの場合、ケアレイン。
・ブレイブナイトの場合、守るべき誓い。
 
 この五種類の敵だけが出現するらしい。

リプレイ

プロローグ

 海を渡る長き渡航。その船の中でリンカーたちは何を思うのか。
 少なくとも真っ白な少女はのんきに居眠りをしている。その髪の毛をクシャリと姫騎士が撫でる。
「…………気に食わんな。麻薬利権に絡む者達も、かのヴィラン組織の名も」
『リーヴスラシル(aa0873hero001)』は怪訝そうに眉をひそめる。被害者の顔を思い浮かべると胸が痛んだ。
「ええ…………繋がりはまだ不明ですけれど」
 寝ぼけた表情のerisuから手をどけ『月鏡 由利菜(aa0873)』は窓の外の海を見た。
 これよりリンカーはペインキャンセラーの原材料、それが栽培されている場所へと向かう。
「前回は痛い思いはしたけど、見合った収穫はあったわねぇ」
『榊原・沙耶(aa1188)』は腹部に手を当てて苦笑いを浮かべる。
「あんな無茶をして、今回は大人しくしていなさいよ」
『小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)』はそう告げそっぽを向いた。
 一行を運ぶ船は遠回りのルートでアメリカへ進む。
 かれこれ三日目の海の上。
 目的の場所まで直接飛行機で行くことができなかったためギリギリの地点まで船で移動することになったのだ。
「能力者用の毒、あるいは能力者に覚醒させる為の薬…………興味深いわねぇ」
 ペインキャンセラー。それを服用した沙耶は前回霊力の暴走によって重体に追い込まれている。
 あの時の全能感と痛みを忘れた超常的感覚を今でも覚えている、その正体が従魔で無ければ拒否できただろうか。
 そう思い詰める沙耶の手を沙羅が取った。
「もし完成すれば、人類にとっての至宝にも毒にもなる。莫大な利益が産まれるのは間違いないわねぇ」
 だがそのために子供が犠牲となり、社会を蝕むのであればそれは悪である。
 そんな結末は許せない、そう集まったのが今回のメンバーだった。
「厳密に言えばこれは「違法薬物」ですので焼却します」
『晴海 嘉久也(aa0780)』は頷き告げた、彼の相棒である『エスティア ヘレスティス(aa0780hero001)』は船の揺れにやられたのかぐったりしているのだが。
 あまり乗り心地のいい船とは言えない船ののため、体力的にも三半規管的にもやられてしまっているのだろう。
 陸地が見たい。
 そう船旅に慣れないメンバーのほとんどが思っていた。
「麻薬取締法とか大麻取締法とかに引っかからなくてもここで作られているのは薬事法違反の違法薬物……の原料なんでこれ以上の拡散を防ぐべく焼き尽くします」
 だがそんな中でも調子を崩さない晴海。
「幻想蝶……ガソリン臭くならないでしょうか」
 エスティアはそう呻いた。
「たぶん、大丈夫だろうけど」 
 そう晴海はガソリンと拘束具のチェックをしている。
 なるべく大量のガソリンを持ち込む必要があるため、全員で分配して持ち込もうと、そう言う話になった。
 春香はそんな晴海の提案を飲んで幻想蝶にガソリンタンクをしまっていく。
「erisuには内緒にしてね」
 きっと嫌がるだろうか。そう指をたててしーっと囁いた。
 荷物の最終確認が済めばあとは到着を待つだけだ。
 リンカーたちは前回もちこんだ資料の確認をするために時間を割く。
 地図、気象条件。風向き、敵の配置、そして敵への対処法が数パターン。
「ハッパやらクスリの原料ってのは、山奥で栽培するのが相場なんだろうが…………」
『ベルフ(aa0919hero001)』はテーブルに資料を投げつけてこめかみを抑える。
「あんな所だと出荷するのも大変だろうね」
『九字原 昂(aa0919)』はコーヒーを差し出した。
「まぁ元締めが捕まった事はもう取引先にもバレているでしょうし、それでも生産する畑の場所を変えないというのは、何か引っ掛かるわよねぇ」
 沙耶は告げる。
「私達の対応が迅速だったと言っても、ねぇ」
「仕組まれていると?」
 昂はそう首をかしげる。
「可能性はね、それにアメリカってところも気になるし……」
「アルター社……」
 沙羅がポツリとつぶやくと、場の空気が凍りつくのがわかった。
「イツもイツも…………何故、子供が……」
 だがその空気より、より底冷えがして危うげな雰囲気を纏っている人物がいる。『鬼子母神 焔織(aa2439)』である。
「ペイン、キャンセラー…………」
『鬼灯 佐千子(aa2526)』も共に精神を集中させている、そのトリガーを絞る指がどんな時でも鈍らないように。そしてイメージの中でトリガーを引く。 
 それを何度も繰り返す。
 そんな思いつめた二人に『青色鬼 蓮日(aa2439hero001)』が問いかけた。
「……七五三、って何でめでたいか知っとるか?」
 焔織は首を振った。
「昔はその歳まで子供が生きられなかったのだ」
 その言葉に『煤原 燃衣(aa2271)』は視線をあげた。
「生とは喰らうに他ならん、弱肉強食、これ真理也」
 蓮日の言葉に焔織が問いかけを返す。
「何だか、ヒョウヒョウとしてマスね?」
「いーんや、ブチ切れとるさ。殴り殺してやりたい程度にはな!」
「……奇遇でスね、同じでス」
「…………、放っておくわけにはいかない。そう言いたいようだな」
『リタ(aa2526hero001)』はその場にいる全員に問いかけた。
「はい、絶対に」
 燃衣は答える。
 その焔織の肩を叩いて燃衣は言う。
「…………許せません、ね」
「そんな悲劇は。必ず、終わらせてやる……ッ」
「…………今回も付き合ってもらうわよ」
  佐千子が告げるとリタも頷いた。
「問題ない」
「……行くぞ。その怒りは練って純度を上げておけ」
『ネイ=カースド(aa2271hero001)』が静かに告げた。
 そんな一行を眺めて『志賀谷 京子(aa0150)』は告げた。
「起きてしまった過去は変えられないけど、これからの被害は止められる……責任重大だね、アリッサ」
「ええ。しかしあまりに練られた計画ですね……」
『アリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)』がそう反応した。
「そうだね、裏にはきっとまだ隠れている者がいるはず。厄介ごとの種は根本から絶たないと、ね」
 京子の言葉に『天城 稜(aa0314)』が同意する。
「けど。麻薬に偽装した様な従魔やそれを利用したヴィランが居るなんて…………こういうのはDEAとかのお仕事じゃないのかな?」
「H.O.P.E.は全権代理のようなところがありますからね」
『リリア フォーゲル(aa0314hero001)』がそう注釈する。
「まぁ、要は便利屋だよね。まぁいいか。That others may live!の精神で頑張りますか!」
 クリスティアへの黙とうを済ませた『餅 望月(aa0843)』が言う。
『百薬(aa0843hero001)』も一緒に腕を突き上げた。
「潜入ミッションだね、しーっと忍び足ね」

第一章 無月夜

 今日はおあつらえ向きに月のない晩だった。
 けれどそれでも星が眩しく、都会ではなかなか見られない光景に目を奪われるものも多い。
 これから全員で川を上る。そう船からボートを担ぎ出して山の山頂をリンカーたちは見つめた。
「鷹を放ちます」
 昂が告げると霊力で鷹を編んだ。
「見つからない?」
 望月が心配そうに尋ねるが、稜が言う。
「資料にあった情報だと、敵のルーカ―は鷹の目を使えるほどのレベルじゃないみたいだよ」
「うーん、でも全部信頼するのはなぁ」
「空には鳥もないし、先に鷹が放たれている可能性はないと思うわ」
 佐千子が告げる、その言葉に頷いて昂は鷹を空に放つ。
 そんな昂にリーヴスラシルが問いかけた。
――敵は見えるだろうか。
「もう少し確認の時間をください」
 同時にボートのエンジンを吹かせる燃衣と焔織。
 ボートはふたつ、五人ずつのり姿勢を低くして川をさかのぼる。
――見張りが一人とは限らない。交代の可能性も視野に入れる。
「小屋は見えますか?」
 由利菜が問いかけた、彼女はその顔にアマゾンシャドウの迷彩を施している。
 暗闇では存外、人の顔は目立つのだ。これがあるのとないのとでは全是違う。
 そう言うことで、リンカー全員が迷彩加工を施されている。
「ドカーンってやるのは得意なんだけどな」
 春香は告げる。
 その隣をALBで並走する京子は呆れたように告げた。
「元気だね、船酔いしなかったの?」
「うん、大丈夫だった」
 京子はその言葉を聞き届けると闇に溶けるような色合いのマントを纏い、ボートから少し距離を取る、姿勢低く川面すれすれを総べるように進む。
 アルパカはいつでも放てるように抱えながらだ。
「見つけました」 
 そんな京子の耳に昂の声が届く。
「二時の方向に二人……」
「一人は私が」
 京子が射撃体勢に入るのと同時に沙耶はボートを陸につける、奇襲部隊を下ろすとボートはやや後退した。
「同時に倒しましょう」
 昂と稜が森の中を走る。稜は簡易サブレッサーをつけた銃を手に持って闇にまぎれて接近。
 綿とペットボトルで作成された簡易的なものだったが、音が拡散するのを極限まで防いでくれる。
 ちなみにそのサブレッサーは京子にも渡されている。
「ステンバーイ…………ステンバーイ」
 稜は暗闇で機会を待つ、相手がこちらに背を向けた時、稜は告げた。
「OK、GO!」
 その合図で昂がまず動く。素早く首に腕をからめて口元は抑える。
 振り向いたもう一人のヴィランへ稜が走り。射撃。
 呻く兵士、その直後京子の銃弾がヴィランの両手足をえぐった。
「作戦成功だね」
 そう稜はイメージプロジェクターの電源を切る。
 周囲に同化するために風景をキャプチャーし投射していたのだ。これではこの闇で気が付けるわけがない。
 そして稜はすぐさま警報装置、および通信機を奪う。
「割と素人だなぁ」
 京子は告げた。
――なにがですの?
 アリッサは問いかける。
「ただ突っ立ってるだけじゃ、見張りにならないってこと。警戒心がまるでないよ」
 そのまま一行は上陸、敵拠点を叩くために分散した。

   *   *
 
 リンカーたちは双班に分かれた。
 借りにそれをA班。B班としよう。
 A班の行動は迅速だった。目標地点が近いこともあり手早く小屋の包囲を済ませる。
――小屋は4棟、私達の班が叩くのはうち2棟。増援を呼ばれると厄介だ、余力は残しておきたい。
 リーヴスラシルはそう告げた、由利菜はA班の面々を振り返る。
 アバラ小屋からは光が漏れており、誰かいることは確認できた。
「ただ、中にいるのは一人みたいですね」
 晴海は壁に耳をつけて音を確認する。
「では、簡単ですね」
 由利菜が告げると、焔織は頷き扉の横に張り付いた。
 そして京子は狙撃できる位置につく。
 そして由利菜は石を遠くに投げた、屋内に響くようなはっきりした音。
「なんだ?」
 男が徐々に扉に近づいてくる。
 そして扉を開けた直後、焔織がその腕を取り。
 晴海は腹部に拳を叩き込んで。
 由利菜が素早く警報スイッチを腰から抜き取った。
 そして三人がかりで屋内に押し込めて首に手刀を叩き込む。
「ここまではうまく行ってるね」
 京子が小屋に歩み寄ってくる、問題は次の小屋の強襲である。
「私が小屋ごと壊そうか?」
 春香が外を警戒しながら告げる。
「ナゼ、あなたは意気揚々ト、破壊活動を楽しめるのですか?」
 自分たちに近い物を感じつつ焔織は春香に問いかけた。


第二章 裏側

 そしてB班の狩の現場を見てみよう。
「おい、ダニーどこにいる戻ってこい」
 B班の面々が小屋に近づいたとき、中から声が聞こえた。 
 最初は独り言かとも持ったがすぐに無線機に向かって話しかけているのだとわかった。
 これは難しい状況だ、そうリンカーたちが角をつつき合わせて話をしていると……
 無線機を口に当てた男が扉を開け姿を見せた。
「「あ」」
 同じトーンで同じような言葉を口にする燃衣とヴィラン。一瞬頭からすべての情報が抜き出て真っ白になる。
 だがそんな中最速で動いたのは昂である、ヴィランが銃へと右腕を伸ばすより早く、空いていた左腕を掴み警報装置を取り落させる。
「…………ボクの拳は。当たると痛いですよ、それなりに」
 直後燃衣がその胸に手を当てにやりと笑った《貫通連拳》である。
 瞬間に三度放たれる拳、そのあまりの威力に意識を飛ばしたヴィランを部屋の中に引きずり込んで、全員が小屋の中に入った。
「ちょうどいいですね」
 室内でさっそく周辺地図や機材の書類を発見した昂は、収穫期や農薬の場所をメモに取っていく。
 A班との定時連絡の時に伝えるためだ。
「土壌を汚染して今後は畑としてつかなくしましょう、自然破壊は心苦しいですが」
 そう昂は告げる。
「次奇襲するとしたらどうする?」
 佐千子が尋ねる。
「ボクにいい考えがあります」
 燃衣が告げた、ヴィランの制服を脱がしていく。
「そうだ、その前に回復を」
 稜がそう祈るように両手を組むと周囲に光が満ちた。
 ケアレインである。
「慣れない夜の強行軍で疲れてるでしょう?」
「助かります」
 燃衣が微笑む、そして全員を見渡して告げた。
「では、さっさと攻略してしまいましょう」
 二つ目の小屋、情報によれば二人のヴィランが詰めているはずだ。
 相手が警報装置を押すために要する時間は一瞬。少しでも連携を誤れば増援を呼ばれてしまうだろう。
 だから打ち合わせは念入りに下。そして全員は配置についたところで燃衣は屋内に侵入する。
 それは堂々と、真正面からである。
「……お疲れ。本隊からの臨時だ」
 そう燃衣は普段より声を荒っぽくして中のヴィラン二人に告げる。
「ごくろうさまです」
 そう恭しく頭を下げるヴィランたち。
 燃衣の変装には気が付いていないようだ。
 そう、燃衣は先ほどのヴィランから衣服を引っぺがし自分で纏っていたのだ。
 統率のとれていない部隊であれば、仲間の顔など覚えていないだろう、その予感が的中し、二人のヴィランたちは疑うそぶりも見せない。
「何でも…………《商売仇》が電波を傍受してるらしい。皆を集めてくれ。警報装置の点検をしたいからな」
 ちなみにあばら家には小さな窓が備わっている、薄汚れたガラスだが、その向こうに敵を捕らえられる位置を探して佐千子は待機していたのだが。
 冷や汗が止まらない。ばれませんように、そんないのりをじっとこめて状況を見守る。
「ところでその腕は?」
 燃衣がナックルを隠すために巻いた包帯を指さして隊員は告げた。
「ああ、ここまでくる間に戦闘があってな、手を切った」
「それはそれは、こちらで治療しましょうか」
「いや、いい」
 その直後である、大気中の稜の耳に届いたのはA班からの通信。
 目標への攻撃の合図。
 あちらも攻撃を開始したのだ。
 ということは。
 これで音を気にする必要はなくなった。
「プランA了承、行動開始」
 稜の号令を受けて佐千子は草むらから躍り出た。
 その重火力をいかんなく発揮するため、両足を地面にしっかりつけて足を曲げる。
「吹き飛ばす!!」
 直後カチューシャによる小屋への爆撃、さらにミサイルポッドフルオープン。
 フリーガーの雨で建物ごとヴィランを吹き飛ばしにかかる。
 完全なる奇襲。
 たとえ共鳴していたとしても、この爆炎の中心に立たされては前後不覚に陥るだろう。
 そこで後詰の望月と昂である。
 二人は立ち上がる炎を切り裂いて前に出た。
 望月はその手の槍でヴィランを吹き飛ばし、昂はハングドマンで敵を釣り上げる。
 燃衣は警報装置を弄びながら離れた場所でそれを見ていた。
「いや、死ぬかと思いました」
 間一髪であばら家から抜け出した燃衣は近くでことを見守っていたのだが、日が体に映ったのだろう、煤だらけだった。
 燃衣は焦げた薄汚い制服を脱ぎ捨てる。
「お疲れ様」
 そんな燃衣の隣に望月が座り、そして傷を癒していく。
「じゃあ。万が一のためにミサイル抑えてくるね」
 望月はそう告げると、百薬が声を上げた。
――ワタシが飛んで行ってドカーンってやっつけてもいいのに。
「百薬だと威力がないからね、敵の兵器を使わせてもらいましょ」
「ありがとうございます、そちらはお任せしますね」
 そう告げるとインカムでA班と通信を取った。
「さて鬼子母神さん、首尾はどうです?」


   *    *

 A班も同時に攻撃を仕掛けていた。
 建物にまず突入したのは由利菜。
「そこまでです」
 とっさに警報装置を鳴らそうとした二人のヴィランは、姫騎士の殺気に押されて半歩後ずさる。
 その位置は狙撃するにあまりに適切で。
「パーフェクトだね」
 その手を狙って京子がトリオを放った。
 鮮血と共にその手から警報装置が零れ落ち。
 直後焔織が由利菜の影から躍り出る。そ飛んで天井を蹴り壁を駆け抜け後ろに下がっていた敵の背後に着地。
「連携ハ取らせませぬ」
 その勢いを回転力に利用。回し蹴りでヴィランを吹き飛ばすとあばら屋の壁などぶち抜いて、敵は外に吹き飛んだ。
 そして目の前のヴィランに由利菜が切りかかる。
――ようやく前線に出られたか。接近戦は任せて貰おう。
「熾天の羽よ、悪魔に魅入られし者達に裁きと救済を!」
 目にも留まらぬ剣劇にヴィランは後ずさることしかできない、武器を弾き飛ばされ足を突き刺され、転倒、その切っ先が喉元に突きつけられる。
 外では焔織が大立ち回りをしていた。
 全力の機動は残像すら生む。その攻撃にはガードも追いつかない。
 完全に混乱した敵の顎めがけ拳を叩き込むと、ヴィランは白目をむいてその場に倒れた。
「フム、結局クラスがなんだか解ラズじまいでしたね」
 圧倒的な戦力差を実感し、自分も強くなったものだと感慨深げにうなずいた。
 振り返ると沙耶が悠々と室内に入ってきてPCからデータを、ファイルからは使えそうな書面を抜き出している。
「私は耕運機を探してきます」
 そう晴海は納屋の方へ駆けて行った。
「サァ、ここからが本番デス」
 焔織が怪しく笑った。由利菜の視線も鋭く冷める。
「あなた達の組織について聞かせて頂きましょうか」
――姫も私も機嫌が悪い。敗者は愚痴を言わず答えろ。
 リーヴスラシルの低い重たい声にヴィランたちはちじみ上がる。
 そして燃衣のインカムの向こうから悲鳴が聞こえた。
「ああ、やってますね。ボクもやりますが」
 そう告げ燃衣はヴィランに向き直る。
 二人とも意識を失っていたが、川から水を汲んできて、その水を叩きつけるように駆けると二人とも目を覚ました。
――少し《お話し》をしようか。知っている事を答えろ。
 ネイは告げる。
――……答えんか?
 その言葉通りヴィランたちは口をつぐんで何の反応も見せない。
――ウーム困った。じゃあ其処のお前、代わりに答えろ。あぁ、お前は《用済み》……だな?
「な! 用済みってなんだよ。まさか」
 ヴィラン、仮にこちらをAとしよう。ヴィランAが戸惑いの表情を浮かべる。
――……そっちのお前、何か話すことはないのか? 役に立てば礼に生かしてやるかもしれない。
「おい! 絶対喋るなよ」
 ヴィランAが声を張り上げる。
「俺達は雇われただけで……」
――それでも知っていることがあるだろう?
「なにも知らん、雇い主の連絡先がそこにあるからそっちに聞いてくれ」
「お前! 組織に消されるぞ」
 口論を始めるヴィランたち。
――フム、やっと喋ったか。ならそっちのお前が今度は用済みだな? もう少し有用な情報を聞きたいが……な……?
「俺は何も話さん、話さんぞ」
「たとえば、これだけの従魔、手に余ったならどうするつもりだったんですか?」
「それは……」
――いや、いい、お前にきく必要はなかったな。そっちの口の軽いヴィランにきくとしよう。
「わかった待ってくれ、話す! 話すから!」

   *   *

 同じような尋問をA班でも続けていた。
「それは、あいつが瑠音って女が始末をつけるから、その時は呼べって言われてただけで」
 そう焔織に対してヴィランは告げた。ちなみにその焔織の背後で春香が目を光らせている、やりすぎないようにというお目付け役らしい。
「瑠音……」
 沙耶が眉をひそめた。
――まさか、こんなことにまで手を伸ばしてるなんて。
「ではもっと訊きたいことができました」
 由利菜が告げる。
「子供を食い物にする貴方がたは……許せませヌ……シカし……前回のヨウな事は、慎まネバ、ならナイ」
 焔織は告げた。
「……ダカら。貴方にコレから施すのハ…………《治療》でス」
――どうせお前等も薬、飲んでんだろ?
 蓮日が告げると。沙耶はパニッシュメントをヴィランにかけた。すると。
「ああ。いたい、痛い」
 案の定痛みが戻ってくる。
 焔織はタオルを噛ませ、さらには頭を天井に向いたまま固定、その眼前にナイフをちらつかせる。
「待って! それ!」
 春香は止めに入るが、実際にはつねるだけ。だが痛みを忘れていた彼らにとっては強すぎる刺激だった。
「ん! ああああああ!」
――ほーれどうした!そんなんじゃ今後生きるのに困るぞッ!
 その拷問の結果はたいていのことは話してくれたが、確かに下っ端だったのだろう、重要そうな情報はあまり得られなかった。
 ただ一つ焔織の頭を怒りで真っ白にさせた情報がある。それは。
「俺達取引をしてただけだ、薬で頭空っぽになった餓鬼どもを出荷する」

「出荷先は知らねぇ。けどよ」

「なかなかいい金額だったもんで、つい、つい」

第三章 ハーヴェスト

 一連の事情聴取ののちリンカーたちは収穫祭を始めた。
 焔織は畑の端っこで空を見上げている。哨戒の任務だ。
 その背後では景気よく動き回る耕運機の音が聞こえてくる。 
――れっつこんばいーん。
 百薬が楽しそうに告げるのと、耕運機のエンジンが目覚めるのとは同時だった。
「どこでそんな言葉を覚えてくるの?」
――えへへ。
 笑ってごまかす百薬であった。
 ちなみにここに運び込まれた収穫期は予備を含めると三台、フル稼働させればあっという間に作業は終わりそうだった。
 望月はチョコレートをかじりながら、見事なハンドルさばきを見せる。
「薬剤と収穫用機材は、何処かなー? こいつは動くかな?」
 稜は沙耶と一緒に農薬を調べていた。あらかじめ除草効果のある主な農薬を調べておいて、必要であれば薬品を合成して使うための知識も仕入れてある。
 結果、農薬散布用の農業機が見つかったのでそれを使うことにする。
「一応。定時連絡をごまかしてるとはいえ、早く終わらせるに越したことはないからね」
 稜は告げてマスクをかけた。収穫の終わった畑にじゃんじゃん農薬をまいていく。
「一応借り残しは無いみたいだね」
 望月は告げる、ライブスゴーグルをあげて、蒸し暑い耕運機の中から出る。
 月を見あげながら望月は百薬に告げた。
「これでトカゲの尻尾じゃなくて半身ぐらい切り取れてたらいいね」
――また食べるの?
「人聞きの悪いこと言わないの、美味しくなさそうなのは食べないよ」
 何せそのまま摂取すると、濃度にもよるが重体確定の代物である。
「もちろんペインキャンセラーもダメよ」
――私じゃなくて、いつも食べたがるのは望月でしょ?
 そんな言葉は聞き流し、望月は空を見上げる
「夜に畑にいると、ミステリーサークルを作りたくなるね」
――畑の作物が全収穫されているのは十分ミステリーだけどね。
 そしてすべての作物の収穫が完了した。ひとところに集められたペインキャンセラーの原材料。
 それに晴海は上からガソリンをかけていく。
 ちゃぱちゃぱと涼しげな音を鳴らすが、あたりは異臭に包まれる。
 春香はそれにとりあえずウエポンズレインなどみまってみる。
「やっぱり燃やさないとだね」
 この作業のためだけにリンカーは多数のイグニスを装備してきていた。
 京子、燃衣、佐千子は側面から山になった従魔の作物を燃やしていく。
 その炎は雲が赤く染まるほどに天高く上った。
――念を入れて燃やすように。
 リタが告げる。
「わかってますよ」
 燃衣が答えた。
 それに由利菜と晴海がアルスマギカで風を送る、リーヴスラシルは由利菜の性格に変化が現れないように制御で大忙しだった。
 仕上げとばかりに晴海がカチューシャMRLを放ち、沙耶がパニッシュメントですべてを散らした。
「サンプルと資料を西大寺さんに渡してどうなるかね」
 沙羅は告げる。
「それにしても、マガツヒが暗躍しているのかと思っていたら原産地がアメリカねぇ。
どうしても、アルター社の影がちらつくわねぇ」
「でもアルター社とのつながりは見当たらなかったんでしょ?」
 春香は沙羅に問いかける
「むしろ不自然なくらいにね」


エピローグ

 直後空に聞こえたのは空を裂く飛行物体の音。
 エンジン音からH.O.P.E.が手配している機体だとわかる。
「沙羅さん、こっちに来てよかったの?」
 春香が問いかける。
「まどろみじゃなくて?」
 沙羅はその言葉の意味を察してそう告げた。
「まどろみも当然許せない。でも、過去より未來よ。前途ある若者達の未来を食い潰すような薬は、絶対に根絶させる」
「うん、そうだね」
「あんな手記見せられて、何もしない訳にはいかないわぁ。薬は、人を治す為だけにあるべきだわ!」
 そう熱く語る沙羅の頭を佐千子がくしゃくしゃと撫でた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
  • 惑いの蒼
    天城 稜aa0314
  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
  • 紅蓮の兵長
    煤原 燃衣aa2271

重体一覧

参加者

  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 惑いの蒼
    天城 稜aa0314
    人間|20才|男性|防御
  • 癒やしの翠
    リリア フォーゲルaa0314hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • リベレーター
    晴海 嘉久也aa0780
    機械|25才|男性|命中
  • リベレーター
    エスティア ヘレスティスaa0780hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
    機械|27才|?|生命
  • 今、流行のアイドル
    小鳥遊・沙羅aa1188hero001
    英雄|15才|女性|バト
  • 紅蓮の兵長
    煤原 燃衣aa2271
    人間|20才|男性|命中
  • エクス・マキナ
    ネイ=カースドaa2271hero001
    英雄|22才|女性|ドレ
  • 我ら、煉獄の炎として
    鬼子母 焔織aa2439
    人間|18才|男性|命中
  • 流血の慈母
    青色鬼 蓮日aa2439hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526
    機械|21才|女性|防御
  • 危険物取扱責任者
    リタaa2526hero001
    英雄|22才|女性|ジャ
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