本部

師匠と爺

落花生

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
9人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/02/17 15:03

掲示板

オープニング

●いつかのこと
「師匠って、呼んでいいですか?」
 数年前、道場に唯一通っていた少女が突然ヤマのことをそう呼び出した。
「今はまってる少年漫画の子弟関係が、すっごくかっこよくて。ヤマ叔父さんのことをそう呼びたくなったんです」
「アホか。そんなもん読むなら、教科書でも読み込んでおけ。おまえ、もうすぐ中間テストだろうが」
 子供も大人も通うものがいない、さび付いた道場であった。
 いや、もう道場の看板すら掲げていない。少女にヤマが剣を教えるのも、少女が自分の親戚であるという理由から。その少女も、あと数年もすれば進学のために田舎から巣立っていくことだろう。
「そうだ。師匠」
「師匠って呼ぶな」
「私、師匠と同じリンカーになったんですよ」
 だから、私は剣の道に生きます。
 少女―アキラは笑った。

●廃村の中で
「あのくそじじい」
 HOPEの職員は、雪が積もる山を歩いていた。
 一人のリンカーが、辞職願を置いて行った。それは別に良い。人生の選択をする時期がやってきたというだけである。ヤマという名のリンカーも英雄と死に別れ、余生は故郷の村で過ごすと言って辞職願を支部に送りつけてきた。
 郵便で。
「送りつけるなら、書類の記入漏れぐらいはちゃんと確認しろ!!」
 ヤマが送り付けてきた辞職願には、記入漏れがあった。このままでは書類を受理できない。そのため、職員は真冬に山登りをする羽目になっているのである。
「あのじじいの故郷って、廃村だったのかよ。あー、たしかあの爺さんも身寄りがいないんだっけか」
 五年ほど前に唯一に親戚だった弟夫婦がなくなって、その忘れ形見の法律上の後見人になったから都会に出てきたという話を職員は聞いたことがあった。村が完全な廃村となったのは、その三年後だから故郷の暮らしに限界を感じていたことも理由なのかもしれないが。
「なにせ、携帯も通じないもんなここ……」
 辺境の村。
 こんな寂しい場所に一人で余生を過ごすのかと思うと――まるで偏屈な老人が故郷と心中しようとしているようにも思えてしまった。
「師匠」
 鈴のような声が聞こえた。
 顔を上げると村の入り口に、二十歳ぐらいの若い女が立っていた。今年は積雪量が少ない。それでも都会よりははるかに深く積もった雪の上を、足袋だけで歩く女。まるで、初夏のような薄い袴姿。
「師匠」
 女は、笑う。
 その姿には、見覚えがあった。
「アキラちゃん?」
 偏屈な爺の姪。
 孫ほど歳の離れた、唯一の家族。
 一年前に死んでしまった、女。
「逃げろ!!」
 気が付いたとき、職員は爺に蹴とばされていた。

●頑固者
「あれは、アキラちゃんの体に取りついた従魔だったんですか!?」
「声が大きい」
 愚神と対峙した職員は、ヤマに助けられて山小屋にいた。英雄を失ったリンカーではあったが、最近まで一線で活躍していたこともあって動きは鈍っていなかった。なにより、職員には愚神の動きが鈍かったように感じられた。
「あれは廃村に迷い込んだ愚神だ。雪で村が閉ざされてしまっているから、今は動物からも人間からもライブスを吸えない。だが――」
 もうすぐ、雪が解ける。
 閉ざされた村は開かれて、アキラの姿を盗んだ従魔は下界に降りてくる。
「私は、アキラをこの村で殺す」
「今のあんたじゃ無理だ。今、従魔からあんたが逃げることができているのは――あんたに地の利があって、従魔が他のライブスを吸えないからだ。あと少ししたら、雪が解ける。そうなれば、あんたは負ける。でも、あんたが動かないんだろうな」
 職員は、立ち上がる。
「俺が応援を呼んでくるまで、死ぬなよ。クソ爺!」

●待っていたのは春ではなく
「師匠」
 生前のように、女は笑う。
 ヤマは、隣に立つ彼女の頭をいつのまにか撫でていた。戦いの中で、ヤマは家族を失った。英雄も失った。もうこれ以上は失えないなと思いながら故郷に戻った時、そこには冬に閉じ込められた愚神がいた。愚神はヤマに、自分の力を使えば姪は生き返ると言った。
 ヤマは、愚神の手口をよく知っていた。
 知ったうえで、その甘言に乗ってやったのだ。
 たとえ、愚神であろうともヤマ一人のライブスを糧にしているうちは廃村を出ていくことなどできない。この村は、冬は雪という分厚い壁に囲まれているのだから。
 だから、春になったら――。
 春になったら、若者を呼ぼう。
 この老いぼれた妄執を断ち切ってくれるような、若者を。

解説

・愚神、従魔の撃破。

・廃村(昼)――雪深い山に囲まれた村。雪は解け始めており、足元が悪い。民家は十棟あるが、雪の重みで屋根がつぶれてしまっている。遮蔽物は家ぐらいしかないのため、見晴らしはかなり良い。なお、村の周囲にはハンター用の山小屋がいくつか点在している。

・アキラ(従魔)―― 一年前に死んだ女性の死体を使用している。村に入ると襲ってくる。元リンカーであったせいか身体能力が高く、二本の刀を自在に操る。「師匠」としか喋らない。
一の太刀……正面に自分の残像を作りだし、自分は敵の背後に回っている技。
二の太刀……二つの剣を交差させ、防御の姿勢を作る。
三の太刀……自身に刀を突き立てて、分裂をする。分裂後の個体は、元の個体と同じ身体能力を持つ

・手下(従魔)――愚神がヤマに秘密裏に作っていた従魔。多数出現。村の住民の死体を利用しており、持っているものは包丁や鉈といった刃物程度である。攻撃力は低いが、アキラやヤマ(愚神)の壁になったり、アキラたちにあえて切られることによって相手のライブスを回復させる。

ヤマ(七十歳)――村に入る手前でPLと合流する。元リンカーだが、英雄を亡くしている一般人。身体能力はかなり高く、地理にも詳しい。

以下、PL情報
ヤマ(愚神)――かなりヤマの意識が強い、愚神。アキラが追い詰められたり自分の正体を指摘されると愚神としての正体を現す。従魔となったアキラを外には出せないことを理解しており、アキラと共に滅ぼされることを望む。二刀流で攻撃はしてくるものの致命傷は、できるかぎり避けるように動く。アキラが撃破された場合は愚神の意識が強くなり、技の威力が増し、攻撃に遠慮がなくなる。なお、アキラと同じ技を使うが、三の太刀のみ「自分に刀を突き立てて、アキラの攻撃力を上げる」に変わっている。

リプレイ

 ●雪の壁は分厚く
 これでも今年は、雪が少ないほうだというのか――。
 雪深い山を歩きながら、リンカーたちはそれぞれに思った。
「英雄を失ってもイキイキしたリンカーがいたとはねぇ。それもいい年した爺さんだ、実に興味深い」
 飛龍アリサ(aa4226)は実に楽しそうに「くっくっく」と笑っていた。彼女にとって今回の事件は『英雄を失い、老いてもなお生きのいいリンカーの男をタダで調べられる』と振り仮名がふってあるような依頼だったからである。
 その相棒の黄泉(aa4226hero001)も『訴えられない程度にお願いしますぅ』と言って止める気は全くなかった。
「おまえたちが、今回派遣されたやつらか」
 村に入る前に、ヤマがリンカーたちに話しかける。話に間違いがなければ、彼の姪の死体と自分たちは戦うことになるのである。
「初めまして。突然で失礼だとは思いますが、アキラさんはどうしてお亡くなりに?」
 質問をした新城 霰(aa4954)自身も、この質問が無遠慮だということはわかっていた。だが、聞かなければいざというときに困る可能性がある。
「リンカーとしては、普通の死因だ。実力以上の相手に挑んだだけだ」
『廃村になった原因を教えて下さい』
 都呂々 鴇(aa4954hero001)も質問をする。
「そっちはもっと簡単だ。過疎化だよ。こんな雪深い村に、若者なんていつきやしねぇ」
 鴇は白い息を吐く。
 雪ばかりの村では、冬こそ若者の労働力が頼りだっただろう。だが、その若者たちもいなくなれば、年寄りすらも外にでていくしかなくなるのである。
「寒いね、Alice……そういう季節なのかな」
 息を吹きかけて、アリス(aa1651)はかじかんだ手を温める。そして、ちらりと隣のAlice(aa1651hero001)を見た。彼女の横顔からは、いつもどおり何も感じることができなかった。
『さぁ……何にせよ、早く終わらせて帰ろう。寒いのは嫌いだよ。アキラさん……に憑いてる愚神? 殺していいんだよね? その場合アキラさん……も死ぬけど』
 Aliceの言葉に、覚悟はしていたとヤマは返す。
『弟子の姿をした従魔を殺されるなんて気分イイはずないですよね。間に割って入ってこないか心配です』
 鴇は声を潜めて、霰に話しかける。「そうかもね、鴇ちゃん。ヤマさんも警戒しておいたほうがいいと思うわ」と霰もうなずいた。
「倒すしか無いのは……分かる、けど。本当に、いいんですか……?」
 ニウェウス・アーラ(aa1428)は、死という言葉に若干の戸惑いを覚えていた。そんなニウェウスに戀(aa1428hero002)は穏やかに声をかける。
『ますたぁ。ヤマさんは覚悟を決めてる。その意志、汲んであげましょぉ?』
「……うん」
 やはり乗り気にはなれないニウェウスは、しぶしぶ返事を返した。
「……ん。ヤマさん……愚神と二人っきりで……よく無事でしたね……良かったの」
 氷鏡 六花(aa4969)は、そんな問いかけをした。
 アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)は、目を細めていた。たとえ歴戦のリンカーであったとしても、今のヤマは英雄を失った一般人である。そんな男が、愚神から逃げ切れるはずがないと思っていたからであった。
「ここは俺にとっての庭だ。方法なんていくらでもある」
『そうですか』
 アルヴィナは、とりあえずは納得したふりをすることにした。
 いまここで追及したとしても、何も出てこないような気がしたからである。

●死者
「師匠」
 人気のない村に、死んだはずの女が立っていた。
 まだうら若い女の姿に、守屋 昭二(aa4797)は奥歯をかみしめた。彼は孫の危機のために神戸正孝(aa4797hero001)と契約した。今回の一件には、並々ならぬ思いがあったのである。
「神戸、今回は俺にやらせてくれ」
 怒りにより焦りを取り除くために、昭二は息を吐く。
『……オレぁ何かあれば、あんたの意識を奪って前に出させてもらうけどな』
 下手をうつなよ、と正孝は囁いた。
「無双英信流の守屋だ! その二刀流どれほどの物か見せてもらおう!」
 昭二が飛び出し、アキラの日本の刀を自分の刃で受けた。
「たとえ二刀流が相手でも! 力量が上の相手でも! 戦争は一対一じゃあありません!!」
 アイリーン・ラムトン(aa4944)も昭二に続いて飛び出す。
――役立たずのヘボエージェントと周りに思われれば猜疑心を集められるでしょうか……。
――本当に低レベルのヘボだし疑惑も何もないんじゃないの?
『アハハ』とラムトンワーム(aa4944hero001)は乾いた笑いをもらした。今回の敵は二刀流。アイリーンのいうとおり戦争は剣の数では決まらないが、相手は強い。単純な実力差で、押さえつけられそうになるかもしれない。
『剣同士を合わせさえすれば、内に切りこめるはずです』
 アイリーンが使うのは、実用一辺倒のドイツ剣術である。
「いけますかね」
 アイリーンが隙をうかがっていると、アキラの姿が消えた。
「まさか、これは……一の太刀!」
「アイリーン君!」
 後ろから切られたアイリーンを援護するために、昭二は前へと出た。アイリーンは肩で息をしながらも、倒れることは決してなかった。
「ラムトンワームの無限の再生力……正体はケアレイです。捌き切れなくても、回復してしまえばいい! ラムトン家のアイリーン、まだいけます!!」

●師匠の道
「突破口を作るわ。私が薙ぎ払ったら突っ込んで!」
 ニウェウスのライヴスキャスターが突如現れた従魔を薙ぎ払いながら、アキラと交戦している仲間を助けようとする。だが、敵の数が多すぎてなかなかに道を作ることが難しい。
 その道を走りながら、ナイチンゲール(aa4840)は不安を抱きながらも武器を握る。
 ――刃を交えて分かることもあるって、どうすれば……。
「さて、俺たちは数だけは多い雑魚の相手か」
『油断すれば、手痛い目を見ますよ』
 クリストハルト クロフォード(aa4472hero002)の言葉に、逢見仙也(aa4472)は笑う。
「弱ければ雪解け前に倒せて良し、強いなら戦えそうで尚良し」
 蒼炎槍を握った仙也は「楽しもうぜ」と言いながら、従魔たちを蹴散らした。
「美空たちも敵を一掃するであります」
『ミ……ミサイルは強力すぎではないですか?』
『雪崩が怖いですぅ』とひばり(aa4136hero001)は口にする。
「姪っこさんと戦うことになるなんて悲しいのであります、ずるずる」
 ちーん、と美空(aa4136)は鼻をかむ。
 天涯孤独の彼女には、家族に対する強いあこがれがあった。全自動里子マシーンとして知り合った男女と家族関係を結ぼうとするのも、その証左である。そんな美空であるからこそ、今回の事件には涙を流してしまうのであろう。
『気持ちはわかりましたが、使えるのはあと一回ですぅ。敵の数もぜんぜん減ってませんよ』
「わかってます」
 そもそもカチューシャMRL事態が「個体」を狙うための武器ではなく「面」を制圧するための武器なのである。
「連携を乱せたら、十分なのです」
「なかなかのアシストだな」
 アリサが、銃を構える。
「楽しいだろう?」
『はい。戦う相手がいること。それに勝る喜びなどありませんよね』
 黄泉は弾んだ声で答えた。
 彼女は戦闘が楽しくてたまらない。戦う相手が、目の前にいることが真の喜びなのである。
「こんな場所に、よくHOPEの人が来たね。携帯も繋がらないのに」
 ブルームフレアを使用しながら、アリスは呟く。
『なんでも、退職届に記入漏れがあったらしいよ』
「……へぇ。……最近まで第一線にいた、そんな人間が記入漏れね。まぁ、その記入漏れは態とだとして……真意は何かな」
 昔、愚神の誘惑に負けて恋人を従魔にしてしまった男がいた。彼のように、ヤマにもなにか真意があって行動しているのではないかとアリスは勘ぐってしまう。
『ならば、聞いてみる?』
 Aliceの言葉に、アリスは頷く。
 すでに従魔のほとんどは、炎にのまれている。
「ヤマ――書類の不備でHOPEの職員やわたしたちを呼び出したんじゃないよね?」
 あなたこそがすべての原因ではないの、とアリスは尋ねた。
「ああ、そうだ。俺が愚神で、そっちのあいつは……今はもう弟子でもなんでもない。ただの従魔だ」
 ヤマの言葉に、全員の動きが一瞬だけ止まった。
「戦え。おまえらの仕事は、そういうもんだろうが」
 日本刀を抜くヤマの姿に、アリサは喜びを見出した。
「お前さんはあの爺さんと性格がそっくりだな。ひょっとして性格までコピーする能力があるのかい?」
『愚神ちゃんと従魔ちゃんの師弟関係が素敵なのですぅ♪ ぶち壊すのが楽しそうで心が躍るのですぅ♪』
 黄泉の言葉を合図にするように、ライヴスブローが放たれる。
「まだ、甘いな若い世代」
 ヤマの一の太刀が、アリサに向かって放たれる。
「従魔と同じ技だぞ!」
『主従関係だったのですよね。ならば、二人が同じ技を使えるのは当然なのでしょう』
 クリストハルトの指摘は考えてみれば、あたりまえのことだった。弟子の技を師匠が使えないはずがないのである。咄嗟に、仙也はターゲットドロウを使用する。
「逢見さん、大丈夫ですか?」
 美空が近寄ってこようとするが、仙也はそれを止めた。
「まだ、大丈夫だ」
 まだ、回復が必要なほどの傷ではなかったからである。それに美空には、対アキラ戦のサポートに徹してもらわなければならない。
 美空は、一瞬だけ迷った。
 だが、次の瞬間には彼女は冷静に決断を下す。
「美空の役目はあっちなのですね」
『お手伝いをするのですぅ』
 美空とひばりは、そろってあるべき場所へと向かう。
 自分の能力が十分に発揮できる、戦場へと。
「だが、なんで……この程度なんだ?」
 仙也が受けた刃は皮膚一枚を切る程度の、浅い傷しか残さなかった。
「そう、貴方が大元だったの。……不思議ね、そこまで本人の意思が強いだなんて。単純に聞きたい事が一つ。愚神に身を売り、今こうしている理由は?」
 ヤマが、アキラの援護に回るかもしれない。そのことを恐れて、ニウェウスは師と弟子の間に立つ。
「そんなもんを聞くようになったらお仕舞だぞ、若いの。聞いて、同情でもしたら――おまえはそれを切れるのか?」
 ニウェウスは一瞬、苦虫を噛み殺したような顔をした。だが、同時にヤマの心情も彼女には見えていた。
「……妄念。そう、それを断てという事ね。でも、あの子と共に滅ぶのを望むなら。彼女の最後を、ちゃんとその眼で見届けなさい」
『テンション、上がっちゃいそうだわ♪』
 戀が笑う。
 ナイチンゲールは、ただ握りしめていただけの武器を使うために構えた。
「借り物の剣で悪いんだけど。それは今のアキラも同じだから……」
 ――大目に見てよ。
 ナイチンゲールは、ヤマの目の前に飛び出す。
「……参る」
 刀と剣を打ちつけ合う。
 最近まで一線で活躍していたリンカーだからなのか、愚神に取りつかれているからなのか。ヤマの剣は、とても重かった。踏ん張っている足が、いつの間にか後方へとすべるほどに。
 ナイチンゲールは、その一撃一撃を目に――心に焼きつけようとする。剣は満足に扱えるようになったが、ヤマと剣を合わせるのは初めてだ。人の師匠であった剣を受けるのは、どこか嬉しい。だが、これが最後なのかもしれないと思うと悲しい。
「ねえヤマさん。六花のパパとママね……愚神に、殺されたの」
 六花がぽつりと語る。
「死体も残らなくて……お墓は、作ったけど。ちゃんと埋めて、オソーシキ、してあげられなかったの。ヤマさんは……良いの? アキラさん、ちゃんと、お墓に入れてあげなくて……。従魔に、アキラさんの体、使わせて……ほんとに、これで良いの?」
 フロストウルフの攻撃を受けてもなお、ヤマは答えない。
「大事なモノに分裂させたり、暴れさせるとか、化け物ごっこがお望みかい? 愚神と取引するくらいに大事なら、ガワだけでも酷使させんなよなー」
 疲労が見えてきたナイチンゲールを休ませるために、仙也がヤマとの間に割って入る。ついでに、六花も下がらせようとした。彼女の使っている武器は遠距離での攻撃が売りになる武器に思われたからだ。だが、今の六花は敵に近づきすぎている。
『心も此処のように閉じ切っていないと良いですね』
「俺としては、敵の強さの方が重要だけどな」
 楽しんでいるんだから後味が悪いのはごめんだ、と仙也は呟く。
「六花も……もしパパとママが、もう一度、六花の頭、撫でてくれるなら……生きていた時みたいに、笑ったり、してくれるなら……ほんとは従魔が憑いているだけで、偽者だったとしても……嬉しい……って、思う……かも」
 幼い六花の言葉に、誰もが顔をそむける。
「ヤマさんも……寂しかった……よね。大事な人が、いなくなるのって……悲しいもんね。
六花も……独りになってからね、パパとママと一緒に、あの時、死んじゃえば良かったのに……って、何度も、思ったの」
 六花は、わずかに涙ぐんでいた。
 つらい気持ちを押し殺し、なんとか老人を説得しようと心を砕いていた。
「でも……アキラさんも、きっと、六花じゃなくて、ヤマさんに、お墓、作って貰った方が……喜ぶと思うの。ねえヤマさん……お願い、アキラさんのために……その体に憑いてる愚神、追い出して。六花たちが、愚神、やっつけてあげるから……一緒に、アキラさんのお墓、作ってあげよ……?」
 アルヴィナは、ヤマの様子をよくよく観察していた。
 彼は、自分が庇護していた若者を従魔にしてでも蘇らせた。その行いは責められるべきものであろうが、逆に彼にはそこまでの決心があったということである。
『並みの言葉では、説得は難しいかもしれませんね』
 たとえ六花の言葉であっても、彼の覚悟を動かすのは難しいのではないかと思われた。
「この村の人たちの死体を使って従魔を作ったのも、愚神なんだよね?」
 アリスは、敵からわずかに視線をずらした。
『あなたの考えは間違っていないと思うよ』
 アリスは、Aliceの言葉を静かに聞く。
「……了解」
 アリスは武器を、アルスマギカへと持ち替える。
「もうすぐ雪が融ける。この寒さも、ようやく終わる」
 アリスの言葉を聞いたヤマは首を振った。
「まだだ。まだ、春はこねぇよ。桜を咲かせないとな」
 ヤマは、刃を自分自身に突き立てた。
 少し離れた場所にいるアキラの攻撃力が上がった気配がした。そこまでして、姪の死の責任をとろうとする老人の姿にニウェウスは目を伏せた。
「……もう、いいの。あの子と共に、おやすみなさい」
 ニウェウスは、ヤマに向かって武器を向ける。
「あっちの従魔の攻撃力あがったみたいだね。未知の世界が深まるねぇ。これだから愚神を弄ぶのは止められないのさ」
 ツインセイバーを持ったアリサは、楽しそうであった。
『可愛い愚神ちゃん♪ ボクの相手をしてくれないと肉を削ぎ落して焼肉にしちゃうのですぅ♪』
 ライヴスブローが、ヤマの体にたたきこまれる。
 それでも黄泉たちの言葉に、ヤマは笑った。
「若者っていうのは、そうでなくちゃな。年寄りを倒して進め。死ぬ順番が入れ替わるほど、悲しいもんはないさ」
 この老人は死を望んでいるのである、誰もがそう感じた。
「やっぱりヤマさんを死なせたくない。たとえ怨まれたって、でも……愚神は許さない!!」
 ナイチンゲールが叫んだ。
「全てを殺し、奪い、弄んで穢した。愚神め、その罪を身に刻め!!」
 進む彼女の背中を見て、クリストハルトは尋ねた。
『私たちはどうしましょうか?』
「オレたちは戦いに来てるんだ。だから、終わらせないとな。爺さんは幸せそうな、俺らにとっては碌でもない夢を」

●弟子の道
『師匠に切先突きつけてどうすんだよ。恨みでもあんのか?』
 二の太刀を見た霰は、とっさに距離を取る。さすがは元リンカーだけあって、アキラはなかなかに手ごわい相手であった。しかも、彼女は自分の刃を自分に刺して、分身を作り出すという離れ技までやってみせたのである。
「さっきから師匠って言ってるよね」
『師匠としかいってないな』
 おかしい、と鴇もようやく気が付いた。
『自我ないってことは、こっちが従魔か!』
 二人がヤマの方を見たとき、彼は自分の肉体に刃を食い込ませていた。自害にも見えるが、アキラの攻撃力が目に見えて上がっていることが霰たちにはわかった。
『ちょ、アキラの攻撃力上げてんじゃねーよ! ……っとにあんた、あきれるほど弟子つうか親馬鹿だな。この馬鹿野郎がっ……!』
 分身のアキラはこっちで受け持つ、と鴇は仲間たちに向かって叫ぶ。
『まだ、他の従魔の残ってるぜ』
 鴇は村人に扮した従魔にジェミニストライクを使用しながら、偽物のアキラに一気に近づく。
「足元を狙ってよ。増えたに獲物と言っても、相手は本物と同じ身体能力。油断は禁物なのよね」
『十分にわかってる!』
 鴇は偽物のアキラの懐に入り、絶対に避けられない距離で武器を振り上げた。

「瀧落ぃ!!」
 昭二は本物のアキラの一の太刀を回避し、そのまま攻撃に移る。
 同じ日本刀を使って戦っているせいなのだろうか。まるで、この二人だけが道場で稽古をつけているかのような風景を見せていた。
『攻撃力が上がってるっていうのは本当みたいだな。打ち込むのも、なかなか恐ろしい状況だぞ』
「だが、打ち込まなければとどかない」
 昭二は、剣を構えなおす。
 この剣が届かなければ、相手を倒すことはできない。
 至極単純な理由から、昭二は大きく剣を振るった。だが、昭二の剣は二本のアキラの剣に阻まれる。
「二刀流の刀の数には負けるども……こちらは一人ではない!!」
 アイリーンは、アキラの背後にいた。
「これが、アイリーン流の一の太刀です」
『後ろに回るスピードがないから、最初から後ろにいる。ただ、それだけのことですよね』
 ラムトンワームの言う通りだ。
 アイリーンだけでは、アキラを倒すことは難しいだろう。
 傷だらけになろうと、その傷を癒して立ち上がろうとも、何度だって踏みにじられてしまう。それでも、今のアイリーンには怖くない。
 アキラが、アイリーンを切るために大きく剣を振り上げた。
「英信流の惣捲!!」
 昭二の怒声のような声が響き渡る。
 全身全霊をかけた連続の刀さばきで、アキラの体に傷を残していく。
 最後に切り落としの攻撃を加える。
 ――倒れろ。
 強く、念じた。
 ――倒れろ。
『まだ動けるよな』
 正孝の言葉にも答えることができない。
 くるり、とアキラが昭二の方に向きなおろうとする。
 だが、次の瞬間にアキラは倒れていた。
「角突きちゃん、どうでしたか?」
 美空の言葉に、ひばりは『従魔は倒れたようです』と答えた。

●老人の道
 若い元気のよい奴から死んでいく、
 やつらはいつだって「自分にしかできない」と勘違いして、激突していく。
 ――馬鹿め。
 ――残される年寄りの気持ちなんて、考えたことなんだろうよ。若者たち。

「ねぇ……これで良かったの、かな」
『ヤマさんはぁ、この結末を望んだの。なら、これで良かったのよ』
「……うん」
 ニウェウスの晴れない気持ちを弁解しているかのように、空はどんよりと曇っていた。もしかしたら、雪が降ってくるかもしれない。そんなふうに思える、雲であった。
「いいや、もう雪は降らない。この気温なら、雨になる」
 ヤマが、生まれ育った村の空を見上げながら呟く。彼は、死ななかった。生を望んだとも、また違う。正確にいうのならば、彼と戦った若者が彼の生を願ったのである。

――H.O.P.E.の手口は知ってるよね。貴方の死を望んでいない人もいる。それは貴方にはなんの価値もないことかも知れないけど……だけど。

 そのナイチンゲールの言葉のせいで、ヤマはまだ生きている。
「やっぱり……雪はもう解けるのね」
 とアリスはつぶやいた。
「……ここは、きっと桜が綺麗なんだろうね。いいね、夏を待たずに暖かくなる感じがするよ」
『そうだね』
 Aliceもアリスと同じように、村の木を見つめていた。
 桜が綺麗と聞いた六花は、その表情を明るくさせた。今は雪しかない村も、春には桜がいっぱいになる。そうなったら、きっと墓の中にいるアキラはその花を楽しむことができるだろう。
『きっと、喜ぶわね。冬も雪も綺麗で、桜まで綺麗だなんて』
 六花と共にアキラの墓を作っていたアルヴィナも、まだ芽すら出ない桜の枝に目を細める。人気のない村だが、その分自然は豊かだ。きっと春は、冬が厳しいぶん暖かい。そうであってほしい、とただ願う。
「家族で、お花見ができるんですね」
『お花見ですか、いいですよね』
 美空とひばりは、そろって笑う。
 まだまだ寒いのに、心の中にだけは春があった。
『おーい』と鴇が仲間を呼ぶ。
 まだ共鳴と解かない鴇は、武器を構えていた。
 だが、戦う気は全くないらしくどこか陽気な表情をうかべる。
『なあ、オレを弟子にしちゃくれねーか? まだ死ぬには早いぜ、師匠』
 鴇の後ろに何故かナイチンゲールも並び立ち、
「師匠って呼んで、いいですか」
 と言った。
 ヤマは、そんな若者たちを見ても日本刀を抜くことはしなかった。
「まずは、師匠より長生きしろ。すべての修行はそこからだ!」
 と叫びかえした。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • カフカスの『知』
    ニウェウス・アーラaa1428
    人間|16才|女性|攻撃
  • 花弁の様な『剣』
    aa1428hero002
    英雄|22才|女性|カオ
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • 譲れぬ意志
    美空aa4136
    人間|10才|女性|防御
  • 反抗する音色
    ひばりaa4136hero001
    英雄|10才|女性|バト
  • 愚者への反逆
    飛龍 アリサaa4226
    人間|26才|女性|命中
  • 解れた絆を断ち切る者
    黄泉aa4226hero001
    英雄|22才|女性|ブレ
  • 悪食?
    逢見仙也aa4472
    人間|18才|男性|攻撃
  • エージェント
    クリストハルト クロフォードaa4472hero002
    英雄|21才|男性|シャド
  • エージェント
    守屋 昭二aa4797
    人間|78才|男性|攻撃
  • エージェント
    神戸正孝aa4797hero001
    英雄|42才|男性|ドレ
  • 明日に希望を
    ナイチンゲールaa4840
    機械|20才|女性|攻撃



  • エージェント
    アイリーン・ラムトンaa4944
    人間|16才|女性|生命
  • エージェント
    ラムトンワームaa4944hero001
    英雄|24才|女性|バト
  • 闇に光の道標を
    新城 霰aa4954
    獣人|26才|女性|回避
  • エージェント
    都呂々 鴇aa4954hero001
    英雄|16才|男性|シャド
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
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