本部

桜の下の異物討伐

真名木風由

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/10/19 15:53

掲示板

オープニング

 『あなた』達は、もう1度資料を読み返した。
 現場で読み返すことがないよう内容を改めて記憶に刻むよう。

 ニュージーランドの大都市にあるという公園は、桜が見頃らしい。
 ……南半球で生きる者にとってそれは当然のことだが、ニュージーランドで10月は春である。
 この公園は植物園も有しており、桜が植えられているエリアもあるとのことで、現地の人々の目を楽しませるものとなっている。
 桜が植えられているエリアでこの1週間で2回人が襲われ、死んだ。
 手口は残忍なものであったが、凶器も見つからず、犯人不明であり、捜査当局も愚神・従魔の可能性も視野に入れ始めた矢先、3回目の被害が発生した。
 襲われたのは老夫婦だったそうだが、夫が犠牲になっている間に妻が逃げ、生還者としての証言からH.O.P.E.へ案件が回ってきたという。
 犯人は、従魔を従える愚神だった。

 ショックの色が濃い老婦人(夫の犠牲で生き延びた奥さんだ)に会うことは出来なかったが、老婦人の心境を思えば、彼らのしたことは許せるものではない。
 穏やかに緩やかに終を共にすることを確信して疑っていなかっただろうに。
 老婦人のような人を増やしてはならない。
 ……桜が散るように、彼らも散ればいい。

解説

●目的
・敵の全撃破

●現場情報
・広大な公園の桜が咲くエリア

時間帯はお昼前後。
事件の影響で現地の人々の足は遠退いていますが、情報が伝わり切っていない観光客などが足を運んでいます。
敷地が広い為、戦闘時は周囲に一般人はいないものとしますが、愚神・従魔が逃走、或いは場所移動した場合はこの限りではありません。

●資料記載情報
・被害状況
事件回数3回。
1回目は現地大学生、2回目は管理事務所の職員、3回目が70代男性。
3回目では70代女性もその場にいましたが、夫である男性が犠牲になっている間に逃亡、生還。
この生還証言より、H.O.P.E.へ依頼が回ってきました。

・見解
桜が植えられているエリアに被害が集中している。特に桜が集中しており、眺めるのにちょうどいい場所が狙われている為、ある程度絞った索敵が可能と推察される。
管理事務所側から該当時間帯に該当エリア立ち入り禁止にする等の協力要請は可能。その場合でも立ち入り禁止エリアから敵が移動しない保障がない点は忘れてはならない。
遮蔽物が多い場所での戦闘が想定される為、自分達と同じように敵も活用してくる可能性に注意。

以下敵情報(容姿以外はPL情報)
デクリオ級愚神フローラ
儚げな印象の顔を持つ女性型愚神。上半身は人間、だが、その右腕は太刀そのもので下半身は白い毛皮に覆われている。
儚げな印象に反してパワータイプ。太刀と自身の重心を踏み込ませた重い一撃が特徴的。
3ラウンド、自身の皮膚を硬化させて防御力を上げる能力を持つ。

ミーレス級従魔ラフーレ
頭に花を抱く、幼女のような従魔。
3体いる。
能力は低いが、攻撃されると花が爆ぜ、周囲3mに異臭を撒き散らす。

●注意・補足事項
・家族がついている状況であり、負担になる為老婦人には会えません。
・来訪者には絶対、公園には出来るだけ被害を出さないようにしましょう。
・全てが順調に終わったら、見回りがてら桜を眺めてもいいかもしれませんね。

リプレイ

●任務の前に
「10月に桜なんて違和感しかないわね」
 カペラ(aa0157)は、春の装いのニュージーランドに軽く鼻を鳴らした。
 南半球の今の季節は春。南半球の者にとってはこれが常識なのだが、カペラの感性ではないようだ。
「桜は春に咲くものだと思っていたのですが、秋に見頃のものもあるのでしょうか?」
「違うよ、リオ。この国では、今は春なんだ」
「同じ世界なのに季節が逆になるんですか?」
「そう。それだけ遠いってことだよ」
 リオ・メイフィールド(aa0442hero001)も不思議な様子だったが、レヴィ・クロフォード(aa0442)がフォローを入れる。
 この世界に来たばかりのリオには、自分達の住んでいる場所と季節が異なる場所もあるということを知っておいて貰えば問題ないだろう。
「ほ、本当に春なのでござる? 桜も本当に咲いているのでござる?」
「さっき説明したでしょ」
「てっきりミナミハンキュとか意味不明な言動で拙者をからかっているとばかり」
 綱(aa0846hero001)の驚きに対し、稲葉 らいと(aa0846)は(まぁ、いいか)とそれ以上は言わなかった。
 リオもそうだが、綱にとっても今が春というのは驚くしかないのだろう。
 そのリオは何かに気づいたらしく、レヴィに質問した。
「ということは、これから夏に向かうんですか?」
「そうだよ。僕達の中ではこれからは冬に向かっていくのが常識でも、この国の人達は違うんだ」
 レヴィはその反転が面白いかのように教えると、リオが感嘆の声を上げる。
「こういう状況じゃなかったら、見事な桜だと聞いているし、花見酒と洒落込みたい所なんだけどね」
「また酒ですか」
「風情があっていいではありませんか。わたくしも花見酒には賛成ですわ」
 レヴィの発言にリオがあきれていると、Arianrhod=A(aa0583)が話に加わった。
 無事に解決することが出来れば、Jehanne=E(aa0583hero001)と花見をしたいらしい。
「わたくしの感覚では、やはり季節にそぐっていないものとなりますが」
「そうなんですか?」
 Jehanneが問うと、Arianrhodは自分の感覚ではやはり今は秋なのだと言った。
 それ故に、秋に咲いている桜に見える、と。
「花見は日本の文化だと思ってたけど。でも、公園に植えられてるってことは、花見OKなのかな」
 ぐろーばるすたんだーど。
 妙に納得しているのは、餅 望月(aa0843)。
「依頼とは言え、こんな外国に派遣されると思わなかったわ。早く片付けて帰りましょう」
 同意するカペラは、花見には興味がないらしい。
 彼女は任務を終えたら、すぐに次の任務へ興味を移したいようだ。
 アルデバラン(aa0157hero001)が言うには、「カペラは今日も生き急いでいる」ということで、彼としては時間は有限であっても焦る必要はないというもの。成果面も考えてのことだが、カペラは「焦ってなどいないわ」と効率的ではない動きこそ成果を齎さないと反論した。
「ところで、任務の準備をきちんとしておかないと成功しないだろうね。まず、管理事務所側に協力を求めてはどうかな」
「あたしも賛成。管理事務所の人に頼んで、桜が植えられているエリアを立ち入り禁止にしてもらった方がいいと思います」
 レヴィの意見に同意したのは、佐々井 柚香(aa0794)だ。
「実際に封鎖しきれるか分からないですし、直接避難を促した方がいいのではないでしょうか」
「私もそう思います。欲を言えば公園全体の封鎖が望ましいと思いますが、出来ないのであれば、エリア立ち入り禁止は現実的ではないのでは?」
 染井 義乃(aa0053)と中城 凱(aa0406)が封鎖し切れるとは思えない不安より、エリア内で発見次第避難勧告をした方がいいのではと意見を出す。
 すると、レヴィがこう言った。
「手は多い方に越したことはないよ。民間人の立ち入りそのものを制限した方が確実だと思う。それに、僕達はこの公園の情報を地図でしか知らないなら、土地勘がなく、民間人全てを見つけ出せる保障がない。それなら、管理事務所側に協力を得て制限をし、更に見つけた一般人へ避難を促した方が確実だよね?」
「慣れない土地なら、尚のこと見落としが発生し易いでしょうしね。二重三重に手を打った方がいいという意見に同意します」
 シュヴェルト(aa0053hero001)が義乃の様子を確認しながら、レヴィへ趣旨の理解を伝える。
 義乃は、シュヴェルトの目から見て、いつもと違うと思っている。
 その理由は、自分が好きな花を事実上利用されたからであるが、逸っても事態は好転しないと知っているシュヴェルトは、義乃を注意して見るつもりだ。
「考えようによっては、管理事務所が制限をしている中に入っている奴は普通ではない可能性があると疑える。先手を打ち易くなるかもな」
 凱と同じ意見だった礼野 智美(aa0406hero001)も事前準備として行った方がいいと賛成する。
「その時は、その場にいないエージェント全員に連絡してから声を掛けた方がいいだろうね。実際戦闘になったとしても、後手後手になると逃げられ易い」
「あ、そっか。繋がらないだけだと、場所分かり難いよね。あたし達、ここに詳しい訳じゃないし、地図見て場所確認している余裕があるかどうか分からないし」
 タヴィア(aa0794hero001)の言葉に望月が、ぽんと手を打った。
 地図は資料にあったし、通信手段も全員携帯電話またはスマホ所持を確認し、凱提案でホイッスルも準備しているが、実際にそのエリアを移動するのは自分達……大丈夫だろうと思うより、予め事態を想定して物事を決めておいた方がいい。
「こうして見ると、広い公園だね。桜が植えられている場所だけでもすごーい」
「分布差はあるみたいよね」
 百薬(aa0843hero001)の言葉に応じたらいとは、資料にあるエリア内の桜分布図を指し示す。
 見つけたら戦闘し易い場所に誘導出来ればベストだが、それが出来ない状況の時もあるだろう。
 エリア内をエージェントが分担して捜索……らいとが指摘した桜の分布図を元に、レヴィ提案の当たりをつけた捜索を行おうということになった。
 戦闘発生を考慮し、前衛と後衛が組む形と決め、エージェント達は任務解決の為に動き出す。

●エリア内に散って
 管理事務所側はエージェントからの要請に快く応じ、該当エリアへの封鎖処理を行ってくれた。
 愚神警戒の為、余裕を持った広さでの閉鎖に加え、公園の入り口でも案内に動いてくれるらしい。
 少なくとも新たに公園へ入るような一般人で桜のエリアに向かう者はいないだろうが、絶対安全とは言えない。
「エージェントの皆様がいるなら大丈夫、活躍を見たいなどと呑気なことを考えたり、本当にそうなのかと疑う人がいなければいいのですが」
 職員に言われて、エージェント達は改めて自分達だけの勧告だけにしなくて良かったと思った。
 第三者の立場の者、それも管理事務所の者から促した方が説得力が出る状況、それでも絶対と言い切れないなら、自分達だけで行った場合のリスクはそれを上回る。
 職員達の為にも、愚神達を見つけ出し、討伐しようとエージェント達は改めて決意した。

 遭遇戦も考慮し、共鳴状態での索敵がいいだろうということで、全員共鳴し、担当エリアに散っていく。

「ホイッスルとはよく考えたよね。これだけ静かなら、聞こえ易いと思う」
「いきなり戦闘になったら、電話連絡出来るかどうか分からないですから。それなら、二重三重に異常を伝える手段を持っておいた方がいいでしょう」
 望月がホイッスルを指し示すと、凱はこれならば音という形で異常が伝え易く、その場にいないエージェントと連絡を取り、繋がらないことで交戦状態を知ることが出来るだろうと言う。
 音がした方向だけで詳細を知るのは広さの問題もあって困難だろうが、何かあったと分かれば緊急の連絡を取ろうとする……そこでどの組が交戦状態か知れば、後は分担エリアに急行すれば、時間はかなり短縮出来る筈。
「管理事務所の協力があるとは言え、立ち入りが絶対ではないですし、人影がいたら注意しましょう。……手が太刀であるとのことですから、一目瞭然とは思……いえ、油断しない方がいいですね」
 そう言った凱は、智美から『ありえないことがありえない』と言われたことを暴露した。
「参考意見としては貴重だね」
 内の声で軌道修正をしたのだろうと気づき、望月は笑う。
「……こっちは、その分天使が死神になって頑張るってさ」
「天使が死神?」
「あたしはよく分からないけど、百薬は「ワタシは天使」って言ってるよ。ボケかどうか分からなくてツッコミ出来なくて」
「……なのに、死神なんですね」
 望月も百薬の内の呟きと共にそのことを暴露すると、凱はそういうものかと思ったが、望月にも分からないものらしいので発言しないでおく。
 まだ、人影はない。
 定時連絡だけは、忘れずに。

「帽子やフードで頭部を隠す子供がいたら、疑った方がいいわ。あと、成人女性、右腕を隠す仕草や足が隠れる服装は怪しむべき」
「判断つかない場合はどうしますの?」
「H.O.P.E.のエージェントと名乗った上で確認させて貰うだけよ。逃げたら、当たりと判断して回り込めばいいだけ」
 Arianrhodの問いもカペラは明瞭に答える。
 迅速に見つけ出して討伐、即帰還したい様子のカペラへアルデバランはその内でアドバイスを送った。
(『先程も言ったが、そんなに焦ることはない。君は思っている以上に疲れている筈だ』)
 カペラは疲れてなどいないと返すが、アルデバランはそう思っていないらしい。
(『少しは余暇を楽しむことも覚えるといい。何なら子守唄でも歌おうか?』)
「……は?」
 唐突な申し出に思わず声を上げ、足を止めるカペラ。
 Arianrhodがカペラを見ると、カペラは何でもないと告げて、索敵続行。
 その心の内では、アルデバランが涼しい声でこう言っていた。
(『ただの冗談だ』)
 共鳴したアルデバランとのやり取りで何かあったのかと思っていたArianrhodは、Jehanneへこう漏らした。
(案外面倒見のいい英雄さんと組んでるのでありんすね)
 Jehanneは『未来あるカペラさんの為にアルデバランさんが愛ある指導をしているのでしょう』と主張したようだが、その手の言葉の信者で暴走することもある彼女なので、真実は不明だ。

「……こんなに綺麗な桜の場所……楽しみに見に来ている人がいるのに……」
 柚香の声は複雑なものだった。
 最後の犠牲者は、夫が犠牲になっている間に逃げた、夫が命と引き換えに生かした……聞いているだけで心が痛んだ。
(『長年連れ添った相手を突然亡くすというのは、さぞや辛いだろうね。しかも、理不尽に奪われた。その無念は晴らしてやらないといけないね』)
 タヴィアは、多くの人達から楽しみを奪おうとするなど許せないと考える柚香へ遺族の痛みに触れた。
 桜を見てくると楽しそうに出て行った家族が、惨く殺されたら。自分が殺されている間に逃げろと言われたら。
 無念で仕方ないと簡単に言えるものではないが、これ以上の犠牲を防がねばと思う。
(必ずあたし達の手で解決しようね、お婆様)
 タヴィアが応じたのを確認した柚香は、周囲を見回す。
 綱と共鳴したらいとが担当エリア内の桜の分布図と現在の場所を一致させるように周囲を見回していた。
「今の所、異常はないわね」
「この周辺で最初の犠牲者が出ているみたいですから、油断は出来ないですけど、人影はないですね」
「お陰で綱がやたらビクビクしてるのよ」
 凱が漏らした「桜の木の下には死体が埋まっている」という言葉に反応したらしく、綱は『死体はその場に埋めていないでござろうな』と言っているらしい。
 言った本人は、智美とそうなる訳にはいかないという決意と該当エリアで戦う際の武器の射程について智美と打ち合わせていただけなのだが、思わぬ所に影響したようだ。 
「愚神との戦闘になれば大丈夫よ。気合入れていきましょ」
 心配する柚香へらいとがそう笑った、その時だ。
 ホイッスルが鳴った。

●異物を討伐せよ
 時間は少し前に遡る。
 義乃とレヴィも共鳴し、手分けして索敵していた。
(『こんな綺麗な場所で酷いことを仕出かすなんて許せませんね。ここがまた笑顔で利用出来る場所にしないと』)
 今の所人影なし、と漏らすリオは、敵を発見して逃さないようにするには迅速さも必要というレヴィの意見に賛成するかのようにレヴィと注意しているようだ。
 レヴィが見立てた通り、眺めるのにちょうどいい場所は桜が集中して植えられているが、同時に腰を落ち着かせるのに十分な広さがある。
 当たりをつけたこの場所は、他のエージェントが担当しているエリアと違い、まだ犠牲者が出ていないが、出ていないだけの話かもしれない。
(状況次第では、ダメージ覚悟で接近戦に持ち込む必要があるかもしれないけど、どうかな)
 レヴィの視線の先には、義乃がいる。
 義乃は特に資料を読み込んだらしく、事件の被害状況や目撃された敵の詳細に想いを馳せているように見えた。
(『綺麗な姿見、風景で相手を惑わし、隙を衝く。よくある手だ』)
 桜が共通点と推察する義乃の許せない気持ちを見越し、シュヴェルトはこのように言った後、戒めの言葉を紡ぐ。
(『義乃、少し落ち着け。怒りは自らの判断を惑わせる』)
 いつもと立場が逆だ、と言わんばかりのシュヴェルト。
 言いたいことは分かるが、義乃はそこまでまだ大人ではない。
「……待って」
 レヴィが義乃を制した。
 義乃が彼の視線の先へ目を向けると、資料に記載された容姿をした幼女がちまちま歩いていた。
 隠す素振りすらない様子……周囲にはまだこの従魔、識別名『ラフーレ』しかいないようだ。
「応援呼んで。多分、近い」
 レヴィがグレートボウを構える。
 頷いた義乃がホイッスルを吹くと同時にレヴィがグレートボウから矢を放った。

 ホイッスルの音を最初に聞いたのは、隣接し、かつ比較的近いエリアを索敵していた柚香とらいとだ。
 音の方角から義乃とレヴィと判断した柚香が連絡を入れてみたが反応はなく、それを受けてらいとが念の為全員に異常を伝える。
「急がないと! 状況が分からないなら、分からないなりに急行しないと!」
「だね。2人の担当エリア内で狙い易そうな場所から行ってみよう!」
 柚香とらいとが走り出す。
 走って間もなく、異臭が風に乗ってくる。
 生き物の死体が腐ったような臭いだが、少なくとも義乃とレヴィのものではない。
 となれば、従魔か愚神が原因だろう。
「この臭い……戦闘で悪影響が出るようなものじゃないでしょうけど……」
 柚香が、臭いの醜悪さに顔を歪めながら呟く。
 自分達がこの臭いの先をヒントにしているように、敵もこの臭いでやってくる。
 最悪……付着した臭いの原因が身を隠しても敵に居場所を知らせるだろう。
 2人は急行が必要と判断、速度を上げた。

 速度を上げた先、前衛を義乃、後衛をレヴィとして戦端が開かれていた。
「凄い臭い……」
「少し風に流れたから、察してくれたと思うけど、かなり凄いみたい。僕は離れてるから風に流れた分だけで済むけれど、彼女は接近する分きついらしい」
 到着後、状況を確認する柚香へ周囲3mといった所という見解を伝えるレヴィは、異臭の原因たるラフーレを優先して攻撃しているらしい。
 既に愚神、識別名『フローラ』も到着しており、義乃がフローラの攻撃をシルバーシールドで食い止めている。
「これ以上、桜を利用しての狩りなんか許さない。絶対に護ってみせる……!」
「血気盛んなお嬢さんですこと。わたくしが倒せると思いまして?」
「私はシュヴェルトを信じる!」
 戦闘直前、全ては義乃次第とシュヴェルトが言った。
 なら、意思で負けないと義乃は強く願う。
 食い止めている間に、レヴィの矢がラフーレを1体仕留め、もう1体相手に柚香がスナイパーライフルで撃ちに掛かる。
 愚神相手への温存が目的でもあるが、臭いのリスクを考えると、遠距離攻撃手段がある場合はラフーレから距離を取った方がいいという判断だ。
「間に合いましたね」
 残る1体へはらいとが対応に入る直前に凱と望月が到着した。
(いけるだろ、智美。『当然だ』)
 短い会話を交わし、らいとと共にラフーレへ立ち向かっていく。
「何これ、臭い! 戦闘に支障が出るとかはないけど、普通に臭い!!」
「臭いだけって言うとそれまでだけど、目印には使えるよね」
「速やかに倒した方がいいですよね」
 現在の負傷状況を確認する望月が嫌そうな顔をすると、先にその場にいたレヴィと柚香が彼らが気づいた本当に厄介な効果に触れる。
(『どこにいるか分かると、向こうも活用してきちゃうよね』)
 百薬が、ラフーレが実は面倒なのではと望月に漏らすのも頷ける。
 この臭いを嗅いだからと言って、行動の精度が落ちたり、魅了されるようなことも意識が失ってしまうようなことも全くないが、居場所の指針になりえる……後衛狙いが発生し易いのだ。
「近づかれなければ大丈夫よ」
 その言葉は通り過ぎ様に放たれた。
 遠いエリアを索敵していた為、到着が若干遅くなったカペラが義乃に加勢する形でフローラの側面へ回り込む。
 縫止狙いであるが、エージェントの数が増えてきたと判断した様子のフローラが太刀を薙ぎ払うように腕を振るう為、バックステップで間合いを一旦取る。
 直後、義乃も大きく間合いを取った。
「あら、さっきまでの威勢はどうなさったのです?」
 フローラが笑った瞬間、柚香の銀の魔弾が命中した。
 レヴィが先制攻撃したラフーレが倒れ、柚香へ加勢した為、柚香は彼にラフーレを任せ、フローラ攻撃の基点を考えたのだ。
 一時的にスナイパーライフルからロータスワンドへ持ち替えた辺りに、タヴィアからアドバイスはあったかもしれないが、柚香の徹底振りが見える。
(『ああいう相手は意外に優勢を確信している時は油断し易い……いいお手本だけど、2度は期待しては駄目だよ』)
 タヴィアのアドバイスに柚香が頷く間も戦闘は動いている。
「!?」
 凱の攻撃を避けるように後退したラフーレが傍へ来ると、フローラは異常に気づいた。
 だが、もう遅い。
 凱は攻撃を外したのではなく、智美の言を受けて『わざと外し』、その時を作った。。
 らいとが合図をしたと同時に、待ってましたとArianrhodが口の端を上げた。
(『私が命を賭した試練の炎……今こそ燃やし尽くす時!』)
 号を下すかのようなJehanneへ応じるかのようにブルームフレア発動。
「わっちらの炎、受けてみなんし!」
 ライヴスの炎が生き残っていたラフーレを仕留める。
 フローラも旗色が悪いと踏んだのか、身を翻す。
「逃げられると思ってるのかしら」
 逃走させまいとカペラが回り込み、側面にも凱と義乃が回り込んでいる。
 間合いを取らせるように太刀を振るおうとするが、レヴィのストライクがフローラの腕に刺さった。
 が、思った以上にダメージがない。
「守りを固める能力を持っているかもしれないね」
「永遠って訳でもないわよね」
 レヴィの言葉を聞いてそう言ったカペラがらいととタイミングを合わせ、縫止。
 どちらの能力が作用したかは分からないが、フローラの顔が歪んだ所を見ると、こちらの想定通りの効果が得られたようだ。
「あなた達如きに討たれる訳には参りませんわ!」
 それでも逃げようとするフローラの足元へレヴィの矢が、柚香の弾丸が突き刺さる。
(『場所的にも流れ的にもここで勝負を決めた方がいいです』)
 リオと同意する所であるレヴィは、劣勢を感じた様子のフローラの足止めを行えば皆が討つと確信していた。
 凱が隙を作るように竜角の槍を突き出すと、その着地点を狙って望月がグリムリーパーを振り翳す。
「儚げな印象……何もしなければ、美人だろうね?」
 わざと大振りすると、フローラは攻撃を回避する。
 波状の攻撃は当たらずともフローラを少しずつ、冷静な判断力を奪うという意味で追い詰めていく。
(『まだ気づいてないでござるな』……気づいたら困るでしょ)
 らいとが綱に応じながら、ブラッディランスを突き出す。
(『今は包囲優先。気づかれる前に完了させる必要がある』)
「気づいた時には手遅れでも油断するな。そうでしょう」
 アルデバランに応じるカペラがその先に待っていて、ハンズ・オブ・グローリーを構えている。
「な……!?」
 そこで、やっと気づいたようだ。
 わざと回避可能な攻撃を連続させることで少しずつエージェント達が逃げ場を奪っていったことに。
 レヴィと柚香の射撃攻撃が更に行動範囲を狭めていく。
 強行突破を目論もうとまだ攻撃をしていなかった義乃へ突進するフローラ。
 シルバーシールドで防戦に徹していた為に侮る気持ちもあっただろう。
 だが、ディフェンスブーストと鉄壁の構えで万全の防御体制を敷いていた義乃は攻撃出来なかったのではなく、時を待っていただけに過ぎない。
 直前でArianrhodの銀の魔弾が命中し、フローラが体勢を崩した。
(『決めろ』)
「たあああああっ!!!」
 シュヴェルトの声が響く中、義乃はライヴスを込めたシルフィードをフローラへ繰り出した。
「あなただけは絶対に許さない。散って!!」
 シルフィードが深く吸い込まれたフローラに、義乃の一喝は聞こえただろうか。
 最期の絶叫を上げ、桜の下の異物は倒れていく。
 犠牲者が最期に目にしたかもしれない桜は、今、何を思うだろうか。

●平穏の桜
「公園と来訪者に被害なく討伐出来たわね」
「開けた場所だったのが幸いしたのだろう」
 カペラは桜を見上げるのではなく、戦闘終了後の周囲を確認し、影響軽微と判断した。
 共鳴を解除し姿を見せているアルデバランがそう言い、レヴィの見立てが正しかったことに触れる。
 眺め易い場所ならば桜が集っていても人が落ち着けるスペースがある……狙うとすれば、そういう場所だろう、と。
 こうした見立てがあったからこそ、絞った索敵が出来、不意の遭遇なく、こちらのペースに持ち込めたのだろう。
「被害が出たら申し訳なかったですからね。ほっとしました」
「そうよね。桜だけの話じゃないけど、簡単に治るものじゃないし」
 凱の言葉にらいとが頷く。
「それは言えてるな。だからこそ美しいのだろう」
「本当に咲いているのが驚きでござるが」
 智美の隣で綱が桜を見上げる。
 けれど、この国の人達にとっては今が桜咲く春の季節……同じ世界でも場所ひとつで何もかも違うから、この世界はまだまだ分からないことが多い。
「私の好きな花を忌む花にさせない為にも努力しないとね」
 義乃が呟くと、シュヴェルトは少し沈黙した。
「せいぜい、その想いに潰されぬようにすることだ」
 そう言った後、事件現場を巡る義乃の隣を歩いていく。

「お花見の名所って訳じゃないんだね。屋台がないっ!」
「持ち込んで正解でしたわ」
 望月が桜の名所にあるような屋台がひとつもないと嘆いていると、Arianrhodがペットボトルを差し出した。
 Jehanneと桜を見ながら飲むつもりだったらしく、お裾分けしてくれるらしい。
「お酒じゃないのが残念だね。花見酒だと風情があるのに」
「貰っておいて何を言ってるんですか。……本当にすみません」
 レヴィを嗜めたリオがArianrhodへ頭を下げる。
 が、Arianrhodも最初に花見酒に賛成した通り、本当は酒が良かったらしいが、酒が呑めないエージェントに配慮したそうだ。
「機会があったら、花見酒を楽しみたいよね」
 なんて、レヴィが言うから、リオは呆れるばかり。
「でも、飲み物だけでも気分が出るよね」
「任務後ですから、気分だけでも十分ですよ」
 百薬の言葉にJehanneが微笑む。
「後でケバブ買おうかな。結構お店あるみたいだし」
 スマホ弄っていた望月の言葉にそれも悪くないと皆賛成した。

 賑やかに会話する6人へタヴィアが「楽しそうだねぇ」としみじみ呟いた。
 頷く柚香は桜を改めて見上げる。
「日本だと春の花だから、まさかこの時期に桜見物が出来るとは思わなかったね」
「季節が逆なんだろう? なら、この国でも秋の花ではないだろうね。この国は、春なんだから」
 タヴィアがそう言うと、「分かってるけど」と柚香が苦笑した。
「お婆様の所にも桜はあったの?」
「多分、わたしがいた所じゃ咲いていなかった気がするね」
 けど、とタヴィアが言葉を続けた。
「やはり自然に咲く花はいいもんだね」
 この桜が、また、訪れる誰かの心を癒してくれますように。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • エージェント
    レヴィ・クロフォードaa0442
  • 守護者の誉
    佐々井 柚香aa0794

重体一覧

参加者

  • エージェント
    染井 義乃aa0053
    人間|15才|女性|防御
  • エージェント
    シュヴェルトaa0053hero001
    英雄|20才|男性|ブレ
  • シャドウラン
    カペラaa0157
    人間|15才|女性|攻撃
  • シャドウラン
    アルデバランaa0157hero001
    英雄|35才|男性|シャド
  • エージェント
    中城 凱aa0406
    人間|14才|男性|命中
  • エージェント
    礼野 智美aa0406hero001
    英雄|14才|男性|ドレ
  • エージェント
    レヴィ・クロフォードaa0442
    人間|24才|男性|命中
  • うーまーいーぞー!!
    リオ・メイフィールドaa0442hero001
    英雄|14才|?|ジャ
  • フレイム・マスター
    Arianrhod=Aaa0583
    機械|22才|女性|防御
  • ブラッドアルティメイタム
    Jehanne=Eaa0583hero001
    英雄|19才|女性|ソフィ
  • 守護者の誉
    佐々井 柚香aa0794
    人間|13才|女性|攻撃
  • エージェント
    タヴィアaa0794hero001
    英雄|64才|女性|ソフィ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 戦慄のセクシーバニー
    稲葉 らいとaa0846
    人間|17才|女性|回避
  • 甘いのがお好き
    aa0846hero001
    英雄|10才|?|シャド
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