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最強の恵方巻きを作れ
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最終発言2017/01/30 13:06:54 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/01/28 20:08:19
オープニング
●具材が従魔って本当ですか?
皆さんは恵方巻きをご存じだろうか。その年によって決まっている方角に口を向けて、ぶっとい海苔巻を口に突っ込み。一気に食べられるとその年とても幸福になれるという。
縁起物のイベントなのだが。
こともあろうか、その具材を従魔にしたいと言ってきた奴がいた。
とある食品会社の重鎮なのだが、その会社のイベントで社員の度肝を抜いてやりたいとそんなことを言い始めた。
従魔を食べる。このリンカーの業界でもためらうものが多いそれを進んでやろうとするこの重鎮。なかなかに豪胆な気質である。
「具材にはきちんと意味があるんだが、意味まで考えていたらそもそも具材がそろわないだろう。よってそう言うのは関係ないものとする」
そう告げて君たちにその男は飛行機のフリーパスを授けた。
これより一週間君たちは全世界を食材求めて飛び回ることになる。
● 調達について
具材は世界各国に散っている、全十二種類だが、移動時間と保存の期間を考えると6~8種類の食材を入手するのが限界だろう。
また恵方巻きは50人分振る舞う約束になっている。人数にも気を使いながら探してほしい。
また食材入手にはいくつかの設定がある。
順に解説していこう。
1 入手難易度
食材は取りに赴いたとしても必ず手に入るとはいいがたい。
ましてや従魔が強ければ単体では狩れないリンカーも出てくるだろう。
段階は1から10で評価され
10で平均的なリンカー四人で討伐できる程度。
5 で平均的なリンカー一人で討伐できる程度。
1 だと、平均的なリンカーは遭遇した端から狩ることができるだろう。
2 希少度
その従魔の生息数である、生息数が狩りつくされてしまうと。
別のリンカーは入手できなくなってしまう、つまりは早い者勝ち。
これは純粋に数であらわされる。
3 量
その従魔一体の狩猟で何人分とれるかの目安。これを合計で50を目指す必要がある。
ただしこの数字を50にすればいいだけなので、たとえノリが三人分しか入手できていなかったとしても、合計五十人分の食材を集めれば全員分振る舞えるものとする。
● 食材について
1 日本 キング異世伊勢海老
入手難易度 5
希少度 20
量 10
巨大な伊勢海老。味は身の大きさの割に濃厚。たべても問題ないことが確認されている。
2 アメリカ スカーレットホーンホルスタイン
入手難易度 8
希少度 50
量 20
一般的な牛より一回り大きいホルスタイン。角が赤く鋭利なのが特徴。
生け捕りにして牛乳を得るもよし、やや臭みはあるが下ごしらえをきちんとすればステーキなどでもいける。
3 キューバ― 日照りモロコシーナ
入手難易度 1
希少度 100
量 2
そこら辺の荒野に自生しているトウモロコシだが、これがあることによって周りの作物が枯れているらしい。
葉っぱを飛ばして攻撃してくるがあまり強くない。
4 タイ 米海蛇
入手難易度 7
希少度 2
量 30
鱗が微細な米粒のようになっている、いわゆるタイ米、日本米と違ってぱらっとしているのが特徴。
従魔としては白い大蛇。体長五メートルほど。高圧の水を吐いて攻撃してくる。
5 日本 白波
入手難易度 3
希少度 50
量 2
米は米だが木になっている米。白い身が無数になっていて、風に揺れる様は美しい。
木の従魔で近づくと養分にしようと根を伸ばしてくる。切り倒さない限りどんどん実がなるらしい。
6 中国 大ノリ壁
入手難易度 7
希少度 18
量 8
見上げるほどのノリの壁。夜道をふさいでくるだけの従魔だが、その芳醇な香りで食欲をそそられ、空腹のまま家に帰れないという日もじさを味わわされる。
7 中国 太歳
入手難易度 10
希少度 1
量 10
不老不死になれると噂の肉だが、真偽は定かではない。
とりあえず美味。すごく美味。味わいはどちらかと豚肉の味わいだが、あまり脂っこくなく美味しい。
8フランス コカトリス
入手難易度 7(卵の場合3)
希少度 8(卵の場合13)
量 10(卵の場合4)
石化させてくる怪鳥、一メートルほどの鳥だが群を成して襲ってくる
鶏肉も美味だが、卵が大きく、味も濃厚
9 ヒマラヤ山麓 紫のきゅうり
入手難易度 5
希少度 17
量 4
きゅうりに手足が生えたような従魔、からめ捕って養分にしようとして来る。
味わいはきゅうり、水分がふんだんなきゅうり。千切りにして冷やし中華にでもどうぞ
10 アメリカ 椎茸ガイ
入手難易度 6
希少度 20
量 7
頭に椎茸が生えた男、本体は頭の椎茸、つまり従魔に規制されている。人間に生えた椎茸を食べるのはどうかと思うが、味は美味しい。
戦闘スタイルは格闘戦。稀にボクシングなど使える奴がいる。
11 フランス フライングふくべ
入手難易度 3
希少度 40
量 3
ふくべとはかんぴょうの原材料。
空をとぶふくべ、人間を見つけると頭めがけて高速で突撃してくる。
加工するとかんぴょうになる
12 ドイツ ドグマリオン
入手難易度 4
希少度 10
量 6
黒い蝙蝠のような見た目をした従魔、その薄い羽根が美味しいらしい。味は酸味が強く水につけると膨張する、触感がコリコリとしているが、この世界にもともとあった食材どれにも似通っていない。
解説
目標 恵方巻きの完成。
一週間以内に世界各地を回って恵方巻きを完成させるのが目標
また、一部の食材は一般的な物を使用しても良い、あまりいい顔はされないと思うが。
またチームになって一つの恵方巻きを作り上げてもいいものとする。
そして食材のトレードも可能とする。
食材を入手しても、それだけでは恵方巻きに使えない、下ごしらえや味付けが重要だが、このあたりはリンカーにまかせるらしい。
料理シーンも設ける予定。
リプレイ
プロローグ
場所は空港、H.O.P.E.専用に解放された待機室。そこで、別々の行先が書かれたチケットを握りしめリンカーが長期旅行に思いをはせていた。
「753プロの雪ノ下・正太郎を宜しくお願いします」
『雪ノ下・正太郎(aa0297)』は今回この企画に同行してもらえるリンカー、およびスタッフに礼儀正しく頭を下げた。
「そしてこちらが悪食丸です」
『悪食丸(aa0297hero001)』は紹介されるとぎこちなく頭を下げる。
「ちなみに悪食丸が正太郎の芸能活動のマネージャーです」
そんな正太郎をの背後を駆け抜けていく少女がいた。
「もっちー。と一緒にいくんだよっ!」
そう望月の懐へダイブしたのは『ミーニャ シュヴァルツ(aa4916)』彼女はひとしきりほおずりすると、満面の笑みを向ける
「よーし、いっぱいお手伝いするぞー! 頑張ってさがすんだよっ。戦闘は・・アーにゃんお願い! ミーも頑張るからさっ」
そんな光景を『アーニャ ヴァイス(aa4916hero001)』は微笑ましく眺めていた。
「さあて、美味しい恵方巻の為に材料集めだ!!」
『杏子(aa4344)』は『テトラ(aa4344hero001)』にパスポートを手渡した。
そのテトラの表情には戸惑いが滲んでいる
(従魔を食べるのか。味はどうなんだ?)
そう不安がるテトラの隣で、朗々と従魔食について語る少女がいた。
「愚神捕食委員会の称号は伊達じゃありません」
『酒又 織歌(aa4300)』である。
「余は伊達でも良いと思うのだが」
『ペンギン皇帝(aa4300hero001)』もテトラと肩を並べ不安げな声を漏らす。
そんな待機室の窓のはるか先を横切っていく白い機体。それは国内線だったがあれに乗るリンカーが立ち上がる。
「蛍丸君、行きましょう、飛行機の時間が迫ってるわ」
『橘 由香里(aa1855)』は『黒金 蛍丸(aa2951)』に手を差し伸べる。
ぼんやりと窓の向こうを眺める蛍丸はその声に体を震わせて由香里を見た。
「青いのーう」
そうおにぎりを食べている『飯綱比売命(aa1855hero001)』その隣に『子龍(aa2951hero002)』がたった。
「ふおおおおお」
なぜかテンションが高い子龍。
(『英雄は食事をしなくても大丈夫ですし』そう主殿に付きっきりで、冷蔵庫の中味も全て主殿の胃袋へきえてござった。不公平ではござらんか?)
なんとなく黒金家のピラミッドが露わとなったところで今回のミッションは開始される。
(その不公平を、今こそ正すでござる)
第一章
「鈴音。狩りに本当に美味しい物が食べれるのかしら?」
『朔夜(aa0175hero002)』は冷たい外気に負けずいつものフリフリ衣装に袖を通していた。
「えぇ、腕によりをかけて美味しい恵方巻を作ってあげるわ」
『御門 鈴音(aa0175)』はそんな朔夜を寒そうだなぁと一瞥すると、そう声をかけた。
「フフッ、燃えてきたわ。さぁ狩りの始まりよ!」
そう揚々と駆けていく朔夜を追う鈴音。
「それにしても山登りをすることになるとは思いませんでしたよ。しかも……」
正太郎は額を抑えて告げた。
「もう囲まれていますし」」
見れば、細ながーい紫の胴体に四肢のような触手、それで岩肌に張り付いてこちらを眺めるきゅうりたちに囲まれていた。
「朔夜! せめて共鳴して!」
「紫の胡瓜はあまり強くないようですが、協力して蹴散らしましょう」
そう織歌は告げて眼前の敵を見据える。
直後襲いくるきゅうりたち。その長い触手でからめ捕ろうとして来るが、鈴音の動きの方が早かった。
「朔夜!」
――あわてん坊ね。
触手を星天の腕輪で打ち落とす鈴音。
「足場が悪いです、走って」
織歌はそう全員を融合しつつ、従魔を食材として品定めし始める。
「いぼいぼがしっかりしているのを狙いましょう」
そうすり抜けざまにきゅうりの顔面を強打。絶命したきゅうりにふれて鮮度を確かめ織歌はそれを幻想蝶に保管していく。
正太郎は駆けながら背後を振り返る、すると見えたのは正太郎たちが昇ってきた道をふさぐように押し寄せるるきゅうりたち。
「恵方巻き、関西の廃れた風習が世界に飛び火したな」
正太郎はそう日本文化が歪曲進化したと頭を抱える。
――正ちゃん、あいつらと戦うのはまぁ……いいが。本当に食うのか? 従魔が食えるって俺は初めて知ったぜ。
悪食丸も同意の声を上げる。
そのまま一行は大きな横穴を見つけたためそこに身を隠す。
するとリンカーたちを追って洞窟の中へ入ってくるきゅうりたち、それを次々に迎撃していく三人。
その戦いは数十分に及んだ。洞窟内部に青臭さが充満したころ。
ついに敵の追撃は収まった。
「大体終わりですかね」
正太郎がため息をついて幻想蝶に武器を収めた。
「もう十分でしょうか」
とりあえず刈り取ったきゅうりたちを幻想蝶に収めながら鈴音が尋ねた。それに対して織歌は意気揚々と答える。
「まだまだ足りません、交換するかもしれませんし」
告げると織歌は揚々と山頂を目指して歩みを進めた。
「山登りって初めてなので少し楽しみです、さぁ先を急ぎましょう」
――余は素直に共鳴しておくぞ。
仕方ないとばかりにペンギン皇帝はその行いに同意した。
* *
時は少しずれ、場面も変わり中国深夜。
ミーニャとアーニャは角をつつき合わせて話し合っていた。
「気合い入れてさがすんだよっ。沢山集まれば、みんな喜んでくれるんだよねっ」
「どうしようかの? 作戦はあるのかの? 罠でも仕掛けるかえ?」
二人は中国首都圏市街に現れる妖怪めいた食材を捕獲するために張り込んでいた。
そんな折、二人の耳に届いたのは仲間からの通信。
「こらー、まてー」
「もっちー!」
その声を頼りにミーニャは夜の街を疾走する。
『餅 望月(aa0843)』は平たい化け物を追いこんでいた。
「意外と逃げ足が速い」
見上げるほどの巨躯、しかし香り香ばしいそれは、まさにのり。
妖怪ノリ壁に遭遇したのは望月で
伝承通りに行く手を阻まれるという遭遇の仕方だった。
さてどうするか、そう手をこまねいていた望月だったが『百薬(aa0843hero001)』のやっちゃえというコールで槍を突きつけるといともあっさり、ノリ壁は逃げ出したのだった。
「そっちに行ったよ!」
目の前に躍り出る杏子、その手の刃で大ノリ壁の端を切り落とした。
「浅かったようだね」
「やっと、追い詰めた。ノリおいてけ!」
望月が告げると百薬が呆れたように告げた。
――妖怪、おいてけみたいなの。
「何もして来ないのなら、簡単だね!」
ミーニャも到着すると、本格的に退路が断たれたノリ壁。
ただ、今回の任務相人ずし縄ではいかないようだった。
背後から迫る影、ブヨブヨした肉の塊、太歳である。
「まさか、食材の方から出向いてくれるなんて、探す手間が省けたね」
望月が告げると杏子は刀の柄を握り直す。
「ああ、だが状況がややこしくなったね」
そう緊張感をあらわにする杏子に向かって、アーニャは微笑みかけた。
「ふふー。おいしい恵方巻沢山つくって、みんな幸せになってくれると嬉しいんだよっ。もちろんここにいるみんなも、だよっ」
それを見て杏子は笑った。
「いい楽観だ。私達もそれを見習うとしよう」
太歳が襲いかかってきた。
「ワタシは平均より強いよ!」
望月はそう告げて太歳めがけ駆ける。
直後、ノリ壁が広がり、まるでドームのように展開される。
逆に退路を断たれたリンカーたち。そして太歳の反撃が望月を襲う。
「きゃっ」
望月は宙をまう。代わりに迫るのは杏子。その刃を叩きつけるも、柔らかそうに見える肌に刃は通らない。
腕力によって弾き飛ばされるも、突如ドームに穴が開いた。
「お待たせ!」
そう告げてタックルを太歳にかましたのは『ドゥアンラット・プラヤー(aa4424)』である。
「プラヤーさん」
望月は名前を呼んで彼女の隣に立つ。
「遅れてごめんね、ちょっと牛と戦ってた」
そう、プラヤーはここに来る前はアメリカで牛を戦っていたのだ。
なかなかに手ごわかった、長期にわたる、夜を明かす戦いが繰り広げられ、そしてやっとのことで打ち取ったのだ。
そして寝ないでここまで来た。
「四人もいればじゅうぶんだよね」
ミーニャはそう笑うと、四人はタイミングを合わせて敵に襲いかかった。
* *
ここで場面を日本に戻そう。
「キング異世伊勢海老」
由香里は茫然とそうつぶやいた。海を飛ぶように泳ぐ、人間ほどの大きさのエビ。
さらにそれを見つめながら飯綱比売命はつぶやいた。
「今は真冬じゃよな?」
「真冬ね」
「海老は当然、海中におるのじゃな?」
「みてのとおり、そうね」
「わらわは、このこたつから出る気はないぞ?」
ザパーンとしぶきが飯綱比売命にかかる、しかし平気。なぜならここにコタツがあるから。
「真冬の海辺にコタツ持って来てる図は間抜けだけど、同感ね」
「いやいやいや、そんなことを言っていては、いつまでも食材が手に入らぬでござる」
そう告げると、ぼんやりと海を見つめていた蛍丸の背を押した。
「仕方ない、やりましょう」
由香里は共鳴し、その手にイカヅチを束ねた。雷上動による射撃、それが見事に伊勢海老に突き刺さる、ただ動きを止めるに至らない。
――主殿、さっさと海に入るでござる!
そう子龍は蛍丸の背を押してから共鳴、バランスを立て直せない蛍丸は、そのまま海へ落ちる。
――御覚悟!
そう死んだ目の蛍丸は無抵抗に子龍の指示に従って泳ぎ、槍を海老に突き立てた。
そして長い激闘の饐えにその手の槍を突き立てて、蛍丸は獲物を天高くつきあげた。
「……」
――とったどー、でござる!!
その後海から上がった蛍丸。
「ご苦労じゃった」
飯綱比売命がきつねうどんをくれる。
その後すぐに手配されたバンの中に乗り込んで2人は次の目的地を目指す。
車に乗り込むと蛍丸は寒さと疲労からか、由香里の方に頭を預けて眠りについた。
「かっこよかったわよ」
そう由香里が塩でごわついた蛍丸の頭を撫でた。
「今はよく休むがよいでござる、主殿、次は米を取りにいくでござる」
日本縦断、車で十時間。
たどり着いたのは原っぱである。
その中心には大木、枝には白い実が大量になっている。
「さっさと収穫しましょう」
「待つがよい。あやつは根から養分を吸い取って己が力に変えるようじゃ」
「ええ、一気に倒さないと自己回復がやっかいね」
飯綱比売命はそのゆかりの発言に指を振る。
「チッチッチ。良いか? 奴が養分を吸えば、吸った分栄養が行き渡り飯がおいしく」
「貴女、木の根に養分吸われてくる?」
そんな白波に真正面から挑むのは蛍丸。
「恨みはありませんが、美味しいご飯のためです」
そんな蛍丸を威嚇し、蔦を地面に叩きつける白波。
――元気の良い木でござるな! だが、養分になるのは貴様の方でござる!
蔦を切り払いながら幹へと向かう蛍丸。その根が持ち上がった瞬間体さばきでかわして切り飛ばした。
「なかなか近づけません」
「こっちよ、白波」
由香里がベーコンを投げた、しかもスライスしてあるあれではなく、スライスする前の吊るされたあれ。するとそれに殺到する触手。
それを好機と一気に距離を詰める由香里と蛍丸。
二人の刃が交錯し。太い枝が切り飛ばされた。
二人はそれを回収してバンまで戻る。
「蛍丸君、大丈夫?」
「ええ、大丈夫です……」
確かに蛍丸に傷はない、だがその表情が必要以上に暗いことを由香里は見抜いていた。
――さ、今回のめいんでぃっしゅでござるよ? 飛行機にのるでござる。
そんな二人の空気を読まずか知らずか、意気揚々と告げる子龍。
「それって……」
――もちろん、ドイツ行きの飛行機でござる。ど・ぐ・ま・り・お・んとやらを刈りに行くでござる!
蛍丸の顔が青ざめた。
だが運命とは無情、それに抗うこともできずに。
十二時間後には二人は洞窟にいた。
かなり広い洞窟で天井は天井は真っ暗で見えないほど高い。
そこから人間大の蝙蝠が奇襲してくるのだ。気が気ではない。
――いや、主殿。何物も新鮮が一番でござろう、生け捕りに、生け捕りにしてくだされ。
そう峰うちを強要させられる蛍丸。ちなみに目は死んでいる。
「子龍さんが凄い活き活きとしている」
その光景を茫然と見守る由香里。
――食い物の恨みは実に恐ろしい。で、どうするのじゃ。
飯綱比売命はそう問いかける。
「蛍丸くんに任せましょう」
さすがに蝙蝠は食べたくない、そう思う由香里であった。
第二章
『フェルナンド・ガルシア(aa4836)』はメキシコ人のトウモロコシ農家であった。朝早くに起き、土とふれあい一日を終える。収穫の時は青臭いにおいをそこらじゅうにまきながら、立派に育ったトウモロコシを茎ごと刈り取る。
知っているだろうか、サトウキビでなくともトウモロコシの根は甘い。
それを知ったのは彼が初めてトウモロコシを自分で育て収穫した時だった。
「なつかしいな」
そんなトウモロコシにまつわる思い出を英雄に向けて語るフェルナンド。
荒れ野をバックパックを担いでひたすらに歩んでいく彼は、膨大な時間の中で暇を持て余している。
そんな彼の英雄は昔ながらのアステカのトウモロコシの女神だった、二人はトウモロコシ談義を続けながら道を行く。
リンカーとして登録して、自分が活躍する仕事など一生ないと思っていたがこのような任務にさっそく出会えたのは幸先がいいということなのかもしれない。
「いくぞシロネン! いまこそお前の全力を出す時だ!!」
そう日照りで乾いた道をフェルナンドはひた走る。
* *
「いや、太歳はたいへんだったよ、だっていきなり伸びるんだもん。御餅みたいにぐにゃーんって」
そうプラヤー後ろを振り向いてそう語った。
ここはタイの首都から数時間離れたジャングル地帯。ここでプラヤーは織歌、正太郎、鈴音の道先案内人をしていた。
彼女の出身はタイで土地勘があるためだ。
「ついたー、ここだよ」
そう告げるとプラヤーは川と海が合流する一帯で足を止めた。次いで背負っていた水瓶をおろしその中に手を突っ込む。
「暑いです」
少し遅れてやってきた鈴音。彼女はすでにグロッキーぎみ。
その隣でプラヤーは釣竿を取り出した。そしてその針の先に大きなカエルを突き刺す。
「きゃーーー」
鈴音が二つの意味で悲鳴を上げた。
正太郎は手を合わせ織歌は苦笑いしている。
「警戒はよろしく」
そうプラヤーは糸を垂らす。
「蛇と言えば、カエル?」
織歌は首をひねった。
「一番食いつきがいいよ? ただ従魔にきくかどうか」
その直後である、糸が強く引っ張られた、対抗して竿をひくプラヤー
「背中が見えましたね」
織歌は楽しげにそうつぶやく
「あの鱗が米であるか」
ペンギン皇帝が見守る中じりじりと岸まで近づいてくる米ウミヘビ。
「このままだと糸が切れる」
そのプラヤーの声にこたえるように正太郎と鈴音が前へ。
「仕留めます」
そう告げ鈴音はDanse Macabreでを頭に放った。それが突き刺さっても動きを止めない海蛇へライブスショットを放つ正太郎。
ツインセーバーを手に水の中に飛び込んだ。
* *
「コカトリス……」
「面妖な鶏でござるな」
そう双眼鏡を手に寝そべっていたのは蛍丸と子龍。
ここはフランス、とある大草原。その真ん中にコカトリスが群生しているのだが。
彼らの目的はコカトリス本体ではなく。その人の両腕に収まりそうな大きさの卵、それを狙って四人は機会をうかがっていた。
「こやつの卵は鶏と蛇、どっちの味なのかのう」
そうぽつりと飯綱比売命が告げた。その視線の先にはタイを経由してフランスまでやってきた鈴音がいる。彼女はコカトリスにつつかれながら走っていた。
「この本によると、両方の頭を同時に驚かすと隙が生まれるって」
由香里は告げ、飯綱比売命へと本を差し出す。
「その本、よもやだ○じょ○飯という名ではあるまいな?」
「…………まあ、欲しいのは卵だし他の人が戦っている間に卵を貰っていきましょう」
「きゃあああああああ」
直後草原にうら若き乙女の悲鳴がこだまする。
鈴音の悲鳴である。
プラヤーを含め、織歌も正太郎もコカトリスと戦っているから、こちらには来られない。
その視線の端を駆け抜ける影があった。
蛍丸たちである。
――あー! ずるいわ。
抗議する朔夜。
――卵を取ったら鶏肉狩りにも付き合うでござる。
そう子龍は告げ、走っていく。しかし卵が存外重いため、蛍丸はなかなかスピードを出せない。
――けど、予想通りなのよね。
その時である朔夜がそうつぶやいた。
直後鈴音がさっと地面に手を伸ばすと、その瞬間。
コカトリスを包むようにネットが展開される。
「石化に注意してください!」
そして鈴音は真紅の槍を振るって前に出た。
* *
フェルナンドは未開の土地を行く。すべては英雄の導きに従って。
山を駆け、谷を抜け、目指すはただトウモロコシのために。
「トウモロコシに関してのみの能力が……何のやくにたつか。だと?」
フェルナンドはそう自分の背を笑ったもの達の声を思い出す。
「見ていろ、我々はキチンとやれるというところを見せる」
そう岩場に手をかけ断崖を上る。
そして上りきった切り立った崖の山頂にはなんと。
トウモロコシの群生地帯が広がっていた。
一面のトウモロコシ。
「だが、ここからが……」
そう、ここからが本番。トウモロコシとはいえ、やすやすと刈らせてくれるはずがない。
フェルナンドはここで残りの時間すべてをトウモロコシ従魔との激闘で過ごすことになる。
それは彼が一皮むけるための、神が差し向けた試練だったのかもしれない。
それこそ、トウモロコシの神が、差し向けた試練。
第三章
そして全グループの食材狩りが終了した。
会場は日本に戻り、調理室、その背後では望月組の借りの様子が映し出されている。
例えばそれはヒマラヤ山麓でのきゅうり狩り。
「きゅうりが歩いてる!? こうやって見ると結構気味が悪いねえ。」
杏子がばっさばっさとそれをなぎ倒し。
タイでは海蛇を杏子が吊り上げた。
日本でも伊勢海老を狙うために杏子が竿を振るっている。
こうして集まったのが、全世界えりすぐりの従魔食材たち。
だが食材は集めるだけでは意味がない。
調理しなければ。
そう全員がエプロンを占める。
「あ、鈴音ちゃん」
望月がエプロン姿の鈴音に声をかけた。
「余ってる食材交換しようよ」
それには織歌も快く賛成した。
「餅さん、卵と加工した干瓢を差し上げますから、海苔を分けて頂けませんか?」
「うん、じゃあ、これをもらって、あとは……」
「たくさんとれたから大丈夫……」
「他にも食材が足りない方はシェアしましょう。そのほうがきっとおいしくできます」
そう織歌は全体に告げる、リンカー全員でより良いご飯を作りたい、そんな思いから視線を部屋にめぐらせた。
そしてその視線がフェルナンドの前で止まる。
みれば彼の調理台の前にはトウモロコシが山のように乗っていた。
ちなみにトラック一台分ほどとってきたらしい。
「俺は、焼きトウモロコシを作るから、食材はいいぜ。逆にトウモロコシを使えるならいくらでも持って行っていい」
なにせトラック一台分あるのだから。
「トウモロコシ、期待してますね」
そう織歌が告げるとペンギン皇帝がえっちらと歩み寄り織歌に耳打ちする
「あくまで自分の分はしっかり確保するのだな」
「……えへ」
そんな中正太郎はキッチンの準備に大忙しである。
悪食丸共々手洗いうがいは勿論、白いメッシュの防止で髪の毛混入を防ぎ、マスクも着用。完璧な衛生管理である。そしてビニールの手袋をはめて料理を開始した。
「ふふー。おいしい恵方巻沢山つくって、みんな幸せになってくれると嬉しいんだよっ。もちろんここにいるみんなも、だよっ」
そう笑顔を振りまくミーニャ。炊き上がった酢飯をパタパタとあおいでいた。
「全く……儂の契約者は何時もながら能天気じゃのぉ。恵方巻ごときで幸せになれる奴なぞおらんわい」
そう包丁片手にアーニャは告げた。だがその言葉に不服そうなミーニャ。
「あーいや、そう言うやつもいるって話じゃ! だから泣きそうな顔するでない!」
「じゃあ、始めようか」
そう望月は準備のできた蒸し器の蓋をあける。
そこにあらかじめ、塩で味付けした太歳を並べ蓋をした。
「素材を生かした味付けにしないとね」
そう杏子は告げて、卵を割る。その大きい卵は一つで大ボールを満たせるほどの量だったが。それを杏子は手際よくかき混ぜて行った。
「そういえば従魔を食べるのは事前にリンカー業界でもためらうとか言われてるね」
望月がきゅうりをきざみながら百薬に語りかけると。百薬は少し笑った。
「もはやそっちの方が誤報じゃないかな」
「うん、そんな気がするね」
均等な大きさに切れたそれに太さを合わせ、今度は杏子のしあげた出汁巻卵を切っていく。
「身体に問題なくて美味しいならそれでいいのよ」
「雪ノ下さん、醤油を取ってください」
そう鈴音は告げると正太郎から醤油を受け取り下味をつけるためのたれを作成する。
「御門さん、料理お上手ですね」
そんな正太郎の隣に朔夜が立った。その手にはホワイトボードが握られており。今日の恵方巻きのレシピが書かれている。
【三本分の量】
米 1.5合
酢 60ml
コカトリスもも肉2枚(約400g位)
★酒 大さじ1
★しょう油大さじ2
★生姜 小さじ1
☆味醂 大さじ1
☆砂糖大さじ1
☆醤油大さじ2
油 少々
紫のきゅうり 適量
卵焼き 適量
大ノリ壁 3枚
グリーンリーフ(レタス)2~3枚
「米海蛇の鱗はタイ米のような物らしいので、やや硬めに仕上がります」
しかし愚神捕食委員会として織歌も負けてはいられない。
ペンギン皇帝のエールを受け取り調理を進めていく。
「日本のお米より粘り気が少ない分、少し多めに合わせ酢を使って美味しい酢飯を作りましょう」
胡瓜は棒状の細切りに、そう支持され正太郎はきゅうりを手際よく切り分けていく。
「干しておいた干瓢を戻して味付けし、卵は出汁巻卵にして細長く切ります」
次いで幻想蝶から取り出したるは、グロテスクな色合いの鶏肉。
コカトリスの鶏肉である。
「さっきのたれで付け込んでおきました」
そう鈴音は告げるとフライパンの上にそれを乗せる。
次いで鈴音が取り出したのは、白い星マークの調味料を合わせたもの。
「これを混ぜて水分がなくなるまで煮て」
「海苔の上にご飯を敷きご飯の上にレタス、きゅうり、卵焼きと照り焼きチキンを乗せて巻いて完成よ!」
最後のセリフを朔夜に奪われる鈴音。
しかし、いつになくテンションが高い朔夜に頬をほころばせて、完成品を皿に綺麗に並べる。
「美味しそうなのが出来ましたね」
織歌はエプロンを外しながらペンギン皇帝に告げる。
「ふむ、見た目は悪くないな」
「では、早速――」
「待て、そなたが食べてどうする」
他の班も続々と完成させてくる。
たとえば蛍丸の班ではエプロンをつけた子龍が包丁を振るっている。
「できたでござる、このドグマリオン入り恵方巻き」
「食べませんよ!」
「食材を粗末にしてはいけないでござる」
「たべま……もがっ」
そう口に無理やり詰め込まれる蛍丸。そして口をふさがれてしまえば吐き戻すわけにもいかず、蝙蝠は体内へ。
そして燃え尽きた蛍丸に手を差し伸べたのはエプロン姿で髪を結った由香里であった。
「蛍丸君……」
その燃え尽きた少年の口にちゃんと作った恵方巻きを差し出すと、ゆっくりと蛍丸の口が動いてそれを咀嚼し始めた。
それを見て微笑む由香里。そして。
「いただきます」
「ん!?」
恵方巻きとは長い、その長い恵方巻きを食べきるという試練こそ幸運を呼び込む儀式。
だが今までそれを二人で一緒に行おうと考えた人間はいただろうか。
そう由香里は、蛍丸とは逆サイドの恵方巻きの端を加えて、そして食べ勧めたのだ。
そしてその顔が、目が、鼻が、唇が触れそうになった瞬間、由香里は恵方巻きをかみちぎりそっぽを向いた。
蛍丸は唖然と咀嚼を続ける。
「は……はひ」
そう脱力する蛍丸を見つめて由香里は笑う。
「やっと笑ってくれた。結構大変だったのよ? これやるの恥かしいし。でも、良かった」
そんな青春風景を一部ではホンワカしながらみまもり。一部は心の傷をえぐられ承知紳士と三者三様と言った体で見守る一行だったが。
ついに全員の恵方巻きが完成したようだった。
杏子は先ほどの具材を海苔とご飯で巻いて完成。
それを狙うテトラから守るという作業に入る。
余った時間は別の料理を作ることに費やすようだ。
太歳を使った生姜焼き。紫きゅうりは皮をおとしてもろキューに。米は卵などと合わせてチャーハンに。
日本酒まで用意して酒盛りする気満々である。
ただ完成していく恵方巻きの中で目を引いたのは望月の恵方巻きだった。
材料は杏子のものとほぼ一緒、だが米海蛇の米をライスペーパーにして春巻き風にしている。ノリを内側に、二重構造。
「完成だね」
そう望月が告げると、調理室を歓声が満たした。