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急募! CM出演者!
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【相談卓】CMを作ろう
最終発言2017/01/22 22:29:51 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/01/22 21:38:33
オープニング
●募集要項
・依頼主:メモリィ社
・内容:CM(TV、WEB用)への出演、及びプロデュース
・条件:特になし。未経験者OK。主役(チョコを贈る役)は女性を想定しているが、内容によっては男性も可。
・制限時間:WEB版は自由。TV版は15秒。
・商品:『ラブチョコ』……板チョコ。手作りチョコの材料としても使える。
以下は、フレーバーごとの大まかなテーマ。
1ミルク味
テーマは『初々しい恋』。アイドルっぽいCM、または学園モノなどを想定。告白シーンやチョコ作りのシーンなど、王道路線を希望。
2ビター味
テーマは『甘いだけじゃない恋』。切ない楽曲やセリフを推奨。ドラマ仕立てなら大人の恋愛や、片思い、三角関係などを想定。
3いちご味
テーマは『楽しいバレンタイン』。コミカルなシーン(ラブコメ)や、友チョコ、家族へのチョコなどを想定。アイドル路線も可。
4ブラッドオレンジ味(期間限定)
撮影済み。ホラー系アイドルユニット『Sweet Ghost』が出演。テーマは「君だけに見せる一面」。
・タイアップ曲:『SWEET V KISS』歌:Sweet Ghost(ロックテイストの最新曲)
(1番の歌詞を抜粋)
君からの告白 突然すぎて心臓止まるかと思った(待ってキャパシティーオーバー)
私からはキスを ちょっと仕返ししたっていいでしょ(だって「I love you,too.」)
きっとこれは呪い 君が私にくれた愛
痛く苦く熱い だけど甘くて溶けそうよ(そうよ)
こんなのってずるい 君も私ととろけてよ
強い恋の呪い 愛して、私のことずっと(ずっと)
ラブラブしたい 君を抱き締めちゃいたい!
優しくしたい たまにはいじめちゃいたい?
いっしょにいたい 君はどう過ごしたちゃいたい?
甘いキスがしたい まるでチョコレートみたい!
●貴方の心、下さい!
エージェントたちは、CMづくりの参考にするため撮影済みのCMを見ることになった。出演しているのは『Sweet Ghost』。魔女・化け猫・女吸血鬼――という設定――の3人組という異色のアイドルだ。WEB限定公開の60秒バージョンがこちらである。
――きっとこれは呪い 貴方が私にくれた愛
「ねぇ、君は僕のこと好き?」
新曲のBメロをBGMに、シルクハットとタキシード姿の男装の麗人がハスキーな声で問いかける。それはどこか怨嗟の混じったようなを響きを持ち、見る者を不安にさせた。彼女が吸血鬼のカミラだ。背景に広がるのは無人のライブハウスらしい。
――痛く苦く熱い だけど甘くて溶けそうよ
「驚いたかの? お主を見つめる視線、気づいていなかったようじゃな」
小柄な少女が落ち着き払った口調で言った。黒髪に黒い猫の耳。彼女もまたどことなく人間離れした雰囲気だ。数千年を生きる化け猫族の姫、玉尾である。衣装はステージの着物ドレスだ。
――こんなのってずるい 貴方も私にとろけてよ
「君が好きだよ。ね……これ、食べてくれる?」
ふわふわの金髪にエメラルドの瞳を持つ少女は、無表情に言った。こちらは新人魔女っ子のマリ。黒のミニワンピと大きなとんがり帽子はキュートな印象だが、彼女もまた不穏な空気を発している。
――強い恋の呪い 愛して、私のことずっと
次の瞬間アップになったのは、弧を描く真っ赤な唇。再び画面が切り替わり、マリの背後にカメラが回る。黒いパッケージの板チョコが濃いオレンジ色のリボンで包まれている。
「「「貴方の心、私たちに下さい!」」」」
先ほどまでとはうってかわって、明るい3人の声が重なる。画面は3分割され、それぞれが可愛らしい笑顔を浮かべていた。同時に曲がサビに入り、ピアノを使用したバンドサウンドが激しい旋律を奏でる。
――ラブラブしたい 君を抱き締めちゃいたい!
「ふふ、なんだか君って美味しそうだ」
画面には板チョコを食べるカミラと、チョコを持った誰かの手が映っている。告白相手と一緒に食べている設定なのだ。
――優しくしたい たまにはいじめちゃいたい?
玉尾は上目遣いで微笑むと、相手の手が持っていたチョコレートにかぶりついた。
「油断したな? 化け猫じゃからの。チョコレィトくらい食べられる」
――いっしょにいたい 君はどう過ごしたちゃいたい?
「黒魔術とチョコで君のハートを独り占め! なんてね」
マリがウインクして、チョコレートを一口かじる。
――甘いキスがしたい まるでチョコレートみたい
そして最後は全員集合。
「「「『ラブチョコ』ブラッドオレンジ味、限定発売! メモリィ社!」」」
●募集要項・追記
余力のある方、また上のCMに出演されない方などは、よければこちらの企画にもご参加ください。
商品:『ホット熱チョコ』(ほっとねつちょこ)……新発売のホットチョコレート。ホットの缶飲料。
キャッチフレーズ:君と温まりたい
内容:カメラに向かって告白する。制限時間15秒。架空の相手でも構わないし、個人名を出さなければ特定の誰かへの告白もOK。画面下に字幕が出るため、商品名や会社名は言っても言わなくてOK。
例:現在放送中のCMより、救命戦士タイガード=マックスver
「俺は、君だけのヒーローにはなれない。けれど、いつだって君に恥じないようなヒーローであり続ける! だからこれからも好きでいてくれ! ……君と温まりたい、ホット熱チョコ」
解説
【背景】
Sweet Ghostへの出演料が思いの外かさんでしまったメモリィ社が、コネのあったHOPE芸能課に依頼。突然の依頼で人が集まるか疑問だったため、一般にエージェントからも参加を募る。未経験者の出演も大いに歓迎とのこと。
【補足】
・リプレイは「話し合い→撮影→完成品」という流れになる予定です。
・何組かで協力してもOK。また、一つのフレーバーに対して複数のCMが存在してもOK。
・参加者は複数のCMに参加してもOK。また全員が出演しなくても構いません。
・WEB版のロングバージョンを切り取って15秒CMにすることも可能ですので、WEB版の作成を優先にお考え下さい。
・撮影スタッフやセットはこちらで用意できます。
・特に言及がなければSweet Ghostの『SWEET V KISS』がBGMとなります。(字数調整のために、歌詞はある程度省略します)
・上以外の曲を使う設定でも構いませんが、使用できる曲はオリジナルソングのみとなります。希望があればMSが書き下ろします。その場合入れて欲しい単語や大まかな内容を書いていただけると助かります。
【NPC】
・Sweet Ghostは今回の撮影に参加しませんが、CMの完成を楽しみにしているようです。
・タイガード=マックスは別の仕事で撮影所に来ています。男性役が足りなければ共鳴前の姿で参加します。
タイガード=マックス
人気ヒーロー。金髪碧眼にサングラス、アメコミヒーロー体型。HOPEエージェントとしては新人。
能力者:犀川 ジョージ(さいかわ ジョージ)
年齢は20歳すぎ。長身痩躯で日本人離れした顔立ち。フチなし眼鏡を着用。謙虚でお人よし。共鳴を解けば、変装なしで街を歩いてもバレないらしい。
英雄:ケント・ミラー
15歳くらいの少年。金髪碧眼。愛想無し。「金にならないことはお断り」と公言するが、ジョージと出会ってからはつい人助けをしてしまう。
リプレイ
●出演者集合!
「へえ、また面白そうな仕事を見つけてきたじゃない」
高野 香菜(aa4353hero001)は企画書に目を通しながら、梶木 千尋(aa4353)に言う。
「面白そうでしょう? あとは誰か適当な男の子が見つかると良いのだけど」
「あ、じゃあそれ僕やるよ。きっと上手くやれると思うんだ」
軽やかに答えると香菜は微笑む。その笑みを見てクオリティ面に不安を感じる者はいないだろう。千尋もその事実を否定する気はないが。
「……そうね、やれるんじゃない? わたしは急に憂鬱になってきたけど」
彼女らと同じ部屋に向かう千桜 姫癒(aa4767)もまた、千尋と似た種類の表情を浮かべていた。眼鏡の奥の瞳を物憂げに細めて、彼は言う。
「なぁ、和……? また勝手に引き受けてきて、CMなんて俺には無理だぞ」
日向 和輝(aa4767hero001)はポンポンと相棒の肩を叩いて、笑顔で言う。
「大丈夫だって、ひめちゃん美人だし。見せびらかしたいなーって」
「美人って言われるのは嬉しくない」
言っている間に部屋についてしまった。姫癒の反論は続く。
「お前が出れば良いじゃないか。イケメンなんだから」
「だーめ、姫癒が出るのを見たいんだって。あ……せっかくだし喫茶店を撮影場所にしないか?」
「これは何を言っても無駄か……」
姫癒は短く息を吐く。スタッフや他のエージェントと軽く打ち合わせをしてトンボ返りし、経営する喫茶店で撮影を行うことにした。
「ご自由にお召し上がりください、だって」
「なんで俺を見るんだよ」
日暮仙寿(aa4519)は籠に入ったいちご味のチョコをちらりと見る。
「そんなことより、内容はどうする?」
「仙寿様が出演するならビター味かな?」
不知火あけび(aa4519hero001)の返答に、仙寿は「そうなのか?」と首を捻る。
「……あ、私と仙寿様とお師匠様の姿で三角関係ネタとか出来そう?」
「絶対嫌だ」
「何で!? 見栄えすると思うのに!」
リンカーならではの発想は妙案に思われたが、片割れが反対では実行しようがない。
「日本製チョコは大正時代に発売された……」
何気なく資料を開いたあけびの思考回路がつながる。
「ヴァイオリンを弾く仙寿様……大正浪漫……!」
「……あけび?」
「じゃあ仙寿様はヴァイオリンが趣味の学生ね! 私が使用人で仙寿様に片想いするよ!」
一瞬、言葉を失くした仙寿だが、なんとか言い募る。
「待て、俺は苺が……!」
「えっ、コミカル出来るの?」
「お前といれば誰でもコミカル路線だろ!」
「酷い!」
Sweet Ghostのプロデューサーは不気味な笑みを浮かべて挨拶した。
「墓間田(はかまだ)です。普段はホラー風味のモノばかり作っていますので、今回は皆さんのお力を大いにお貸し頂ければと」
「はい! さっそく相談があるんですけど……」
元気に手を挙げてアリソン・ブラックフォード(aa4347)は墓間田と相談を始めた。
「皆はもう何をするか決まったの? ボクたちはいちご味を担当するつもりだよ」
残されたホワイト・ジョーカー(aa4347hero001)は珍しく真面目に役割をこなす。
「あ、僕もです!」
天宮城 颯太(aa4794)が答えた。
繰耶 一(aa2162)とヴラド・アルハーティ(aa2162hero002)は、片やしかめっ面、片やギラギラした笑みで、募集要項を覗き込む。
「ねえクルヤ~このミルク味のテーマとかよくな~い?」
一はふっと鼻から息を漏らした。
「中高生の心に胸打つ内容じゃないと意味がないだろ、まさか学生役でもやるつもりか?」
「やるに決まってるでしょ、アタシ自らがCMの主演になるわよ」
一はたくましい巨躯の上に載った相棒の顔を見上げた。自信とやる気に満ち満ちていた。
「……ウ、ウソだろ? コメディなの……?」
「ちなみに、アンタも出てもらうから」
一は絶句した。頭の中が真っ白になったとも言える。ヴラドの付き添いのつもりだったのに。
「これなら……従魔討伐に行ったほうがマシだった……」
「後悔したってしょうがないじゃなぁ~い? 楽しんだ者勝ちよ!」
軽々と引きずられていく一。後悔の念が段々と怒りに変わってきている気がしていた。
「あたしたちだけじゃ出演者が足りないわよね。どっかにいい男……」
「お疲れ様です! HOPEの皆さんに差し入れを持ってきました」
そのとき、入口に現れた男にヴラドの視線は釘付けとなった。少々頼りなさげではあるが、身長も190cm前後の美形だ。
「見つけたわぁ!」
ヴラドはジョージに駆け寄ると、キャストが足りず困っていることを訴えた。英雄のケントは苦言を呈したが、ジョージは快く協力を申し出た。
●ACTION!
「カット! チェック入りま~す」
「……繰耶さ~ん、カットですよ?」
カメラマンに恐る恐る言われて、繰耶はようやく掴んでいたものを放す。ヴラドが軽く咳き込みながら言う。
「ちょっとクルヤ、なんて顔してんのよォ~?」
「黙れ」
「やっだぁ、怖い~!」
ヴラドは全く怖がっていない様子でカメラマンの腕にすり寄る。カメラ越しに一の演技を追っていた彼は後に語る。「あれは到底演技とは思えない、本物の憎しみや怒りが籠った鬼女の如き表情だった……かもしれない」と。
「オッケー! 一発OKです!」
姫癒と和輝は『ラブチョコ』のCM撮りを終えると、近くの公園へやってきた。
「次は和の番だぞ、俺だけとか許さないからな」
本番こそきっちりこなしたが、やはり恥ずかしかったのだろう。姫癒は俯きがちに相棒を睨み付けた。和輝はスタッフに髪を整えられてから、ベンチに腰掛ける。カメラを通して見る相棒は何だか決まりすぎていて、まるで本物の俳優のようだと姫癒は思った。
「どうだった?」
撮影は姫癒のときとは違い、あっと言う間に終わった。思わず言葉が口を衝いて出る。
「こういう台詞、言い慣れてる?」
「えーと、格好よかったって解釈して良いのか?」
「……ポジティブだね」
首を傾げる相棒に、姫癒は親しみのこもった苦笑を返した。
(何を弾けば良いんだ?)
弓に指をかけたまま、仙寿は逡巡する。CMにこの演奏が使われないことは判っているのだが。
(『愛の挨拶』ならバレンタインっぽいか……?)
セットゆえに室内の様子は広い角度から見ることができる。あけびは数秒だけ絵になる景色を楽しんだ後、自らのスタート位置に着いた。
「台本通りの順番じゃないと、少し混乱するわね。残りは教室のカットだけかしら」
千尋が緊張を解くように息を吐いた。撮影の都合で、まずは千尋一人のシーン、そして香菜とのシーンと時系列に逆らって撮り進めてきたのだ。
「他の皆にも出演のお願いをしておいたよ」
香菜が言う。HOPEの仲間たちと『共演者』になる日が来ようとは。千尋は複雑な気持ちで頷いた。
●もう一息!
「お疲れ様でした~!」
アリソンが録音ブースから出て来た。
「よかったですよ。曲は相談通りアイドル路線のアレンジに仕上げます」
墓間田は彼女を労うと、次のあけびを呼ぶ。彼女たちはCMソングの歌唱を担当するのだ。
「本当にあけびの歌が使われるとはな……」
「これでも結構上手いんだよ? 大船に乗ったつもりでいてよ、仙寿様!」
あけびが去った後こっそり苺チョコを頂いた仙寿は、上機嫌な様子で彼女の帰りを待っていた。
「流石に緊張したな……」
こちらは声の別撮りを終えた姫癒。和輝がペットボトルを渡す。
「お疲れ! ほら、水」
出演者の多くは、彼と同じく心の声やナレーションを録音する必要がある。
「アイウエオアオ!」
ヴラドの張りのある声が響く。それはもう無駄に響く。
「さっさと行ってこい、耳ざわりだから」
一の隣では出番を待つ颯太が懸命に練習していた。
「ラブしょこ! ……ううん、難しいなぁ」
何度も同じところを噛みまくっている。メジェド(aa4794hero002)は、慈愛の視線――多分――でそれを見守っていた。
さて、ここからは実際に公開された作品を見て行こう。
●ミルク味 『気になる彼へ』
放課後の教室。女子高生の千尋は友人の女子たちと雑談している。ちらりと視線をやったのは、制服のブレザーが良く似合う美少年。
――痛く苦く熱い だけど甘くて溶けそうよ
『彼』は、男女混合のグループの中心にいた。
「――は――って思いません?」
「う~ん、僕は――だからなぁ」
颯太が投げかけた言葉に『彼』が答えると、仙寿がツッコミを入れるように小突く。周りには笑いが広がる。会話の内容が聞こえないのがもどかしい。
「やだー」
クラスでも人気の少女が上目遣いに『彼』を見る。ライバルだ――そう千尋は直感する。
「千尋? どうしたの、ボーっとして?」
友人のあけびが不思議そうに言った。
「えっ。その……」
「高野君のこと見てたんでしょ? 格好いいもんね!」
アリソンが千尋のわき腹を肘でつつく。千尋は慌てて「違う」を連呼するが、効果は薄い。
「ほんと、そんなんじゃないんだから。違うのよ」
突然わぁわぁと騒ぎ出した別グループの女子を、高野が不思議そうに見た。
――こんなのってずるい 君も私ととろけてよ
場面は千尋の自宅へ。
「駄目、ね」
不格好なチョコを口に運び、千尋はため息をつく。
机上に『ラブチョコ』ミルク味の赤いパッケージが無造作に転がっているのが、寂しい印象だ。料理本に、汚れたボール。黒こげのチョコに、丸めようとして丸まらなかったらしい崩れたチョコ。チョコの手作りに奮闘したことは容易に見て取れた。
ため息をついて立ち上がり、制服の上に着けていたエプロンを外す。そのまま登校しようと玄関に向かうが、戻ってきて何かをカバンに滑り込ませた。
――ラブラブしたい 君を抱き締めちゃいたい!
ふたたび学校。夕日に染まる廊下を、高野が一人歩いている。
「ねえ」
呼びかける声に振り向いた彼。その眼前に突き出されたのは「ラブチョコ」ミルク味。
「あげるわ」
言ったのは、クラスメイトの千尋だった。意図が読めず目を瞬かせる高野だが、受け取って言う。
「ありがと」
駆けていく細い背を見つめていた彼は、その姿が見えなくなってから手元のチョコに視線を移す。
――甘いキスがしたい まるでチョコレートみたい!
長い指で銀紙を剥いて、一口かじったところでテロップが映る。
「「優しい甘さは、恋に似ている。『ラブチョコ』ミルク味、メモリィ社」」
千尋と香菜が声を合わせて撮ったナレーションで、物語は幕を閉じた。
●ミルク味 『初めてのキ・モ・チ』
黒いセーラー服の乙女が走って来る。よく見ると、頬を染め息を弾ませる彼女はとてもマッチョで、制服はムチムチしている。しかし可愛らしい走り方や丁寧に編まれた銀色のおさげは、どことなくヒロインの風格を醸し出す。
「いや~ん遅刻遅刻!」
乙女ことヴラドは、勢いよく曲がり角へと突進する。
「きゃっ」
古式ゆかしい学生鞄が吹っ飛んだ次の瞬間。
「……痛ぇじゃねえかよこのクソアマぁ! ぶっ殺されてえんか!!」
なんという不運。彼女がぶつかったのはスケバンだった。鬼の形相で胸ぐらを掴んでくる。
(いや~~~ん! 大ピンチ~~~!!?)
「すみません、彼女あわてん坊でして……」
そこに颯爽と現れたのはブレザー姿の男。スケバンの手をそっと包んで外させると、ヴラドを背に庇った。
(別の学校の人かしら?)
トックン――。胸の音がうるさい。
(このトキメキは何かしら……? これが、恋……?)
ヴラドが呆けている間に、彼は頬骨をぶん殴られて病院送りに。
「待って!」
救急車は無慈悲に去りゆく。
(あの人が入院している病院を見つけて――届けたい、このスイートな恋心)
場面は切り替わり、赤いハート型のチョコを胸に病院に佇むヴラド。
(そして”ありがとう”を届けたい)
不安、期待、ときめき。様々な感情が溢れ出し、たまらずヴラドは廊下を駆けだす。
「酸いも冷める”スイ”ートなミルク味、メモリィ社から夜露死苦」
最後に一のドスの利いたナレーションが締めくくった。
●ビター味 『いつもの喫茶店で』
ドアベルが鳴る。ためらいなく隅の席に向かうのは、『あなた』がこの店の常連だからだ。
「いらっしゃいませ。いつもので良い?」
眼鏡を外した姫癒は男性とも女性とも見え、ミステリアスな魅力を放っていた。
(いつもと同じ席にいつもと同じ注文。それをそっと覗き見しているのに気付いているんだろうか……)
姫癒の独白。相手の心がわからず、じりじりと胸を焦がしているのは実は彼の方だった。
(今日は特別な日。決して告白はしないけど、これくらいなら良いかなって)
「いつもの珈琲と……こっちはいつも来てくれてるお礼」
ビターチョコが珈琲の隣に置かれた。カチャリ、とソーサーからティースプーンを持ち上げる音。
(ありがとうって微笑むのはいつもと変わらない笑顔で。――気付いているのかいないのか)
揺れる心を隠して、姫癒は完璧な微笑みを返す。だって。
(いや、気付くはずもないし気付かれてはいけない。これは心に秘めておくべき想いだから)
カメラアングルが切り替わる。カウンターの中に戻り、手際よく仕事を始める姫癒が正面から映し出された。柔らかな光が窓から差し込み、美しく主を照らす。しかし『あなた』がその光景を見ることは無い。落ち着いたこの店の雰囲気のお陰で、いつしか作業に没頭していたからだ。画面外からキーボードの音がリズミカルに聞こえる。
(こうして見ていれるだけで幸せなんだ)
姫癒は皿を拭く手が止まっているのにも気づかず、諦念と小さな幸せが宿った視線を特等席に送った。
「ありがとう、また来るの待ってるよ」
いつもと変わらぬ笑みを浮かべた姫癒が見送ってくれる。『あなた』はきっとまたここを訪れるだろう。そして姫癒の想いには決して気づくことは無いだろう。少なくとも姫癒はそう思っている。
●ビター味 『大正悲恋歌』
あけびの歌声に合わせ、クラシックギターが短調を奏でる。
――回り始めた車輪 まるで私の心
始まりは洋館でメイドを務める少女の視点から。音楽室でバイオリンを演奏するのは御曹司の仙寿。ドアの細い隙間から流麗な音が漏れ聞こえてきそうだ。
――ブレーキから手を放す 向こうに貴方が見えたから
「あっ」
目が合った。驚いて転ぶとそっけなく手を差し出された。
「聴いていくか?」
――坂を転げる車輪 哀しい未来へと
曲の演奏にバイオリンが合流する。次第に仲良くなるふたりを映して、何度も切り替わる画面。仙寿はコマ送りするごとに笑顔に近づいていく。あけびは終始、幸せそうに眼を閉じている。それは何かから眼を逸らす姿にも見えた。
――伸ばした手は届かない そんなの知っていた、最初から
「海外に留学するんだ」
「……そうですか」
彼女は笑う。幸せな思い出が伸ばした背を支える。
「お前も頑張れよ」
――友達の瞳のまま 私に語り掛けるのね
仙寿は少し俯く。そしてバイオリンを手に取る。仙寿の側からはあけびがいなくなっている。幾度コマを送っても彼女は現れない。仙寿が庭に目をやると、こちらを見ていたらしいあけびが長いスカートを翻しどこかへ走り去った。
――冷めた珈琲 読みかけの本
そのまま日は過ぎ、船に乗りこむ仙寿。その目の端に映ったのは、翻るスカート。
「あのっ!」
仙寿は振り返り、学生帽のつばを上げた。人の流れに逆らって下船する。
――宝箱の中 閉じ込めた一時(とき)
追いついたあけびが差し出したのは濃い煉瓦色のパッケージ。
「本当に……本当にありがとうございました!」
寂しそうな笑顔を残し、仙寿は去って行く。
――海風に紛れて 誰かが囁くの
あけびは港を出る船に背を向け、チョコを齧る。
――触れた貴方の手の平を 誓えなかった永遠を 塗り潰しなさいと……
か細い少女の声がナレーションする。
「ほろ苦い甘さは恋の味――『ラブチョコ』ビター味。メモリィ社」
●いちご味 『いじわるな先輩』
ある会社の会議室では新商品『ラブチョコ』の企画会議が行われていた。眼鏡をかけたスーツ姿の女は慣れない手つきで資料を配る。新入社員のようだ。
「ねぇ、アリソン」
「何ですか、ジョーカー先輩?」
彼女を呼び止めたのは、つかみどころのない雰囲気を持った青年。彼は突然アリソンの耳元に口を寄せる。
「実はボクね、君の事……」
――君からの告白 突然すぎてたちの悪い悪戯かと思った(trick or treat?)
ジョーカーの台詞は口パクだけとなり、同時に歌が始まる。『SWEET V KISS』のテクノポップ風アレンジだ。
――私からは悪戯 ちょっと仕返ししたっていいでしょ(だって「I love you,too.」)
アリソンは資料に大きなハートマークを落書きすると、ジョーカーに差し出す。彼は目を丸くしたが、すぐに意地悪な笑みを浮かべた。ここで場面が切り替わる。
――きっとこれは呪い(もしくはいたずら?) 君が私にくれた愛
ピンクのハートの壁紙が印象的な部屋。会社員アリソンの心の中を表しているらしい。そこに現れたのは共鳴したアリソン。シルクハットとマントを着けた姿は奇術師を思わせる。
――痛い?苦い?熱い? 甘けりゃなんとかなる!(なるなる)
彼女がピンク縁の鏡を覗き込むと、キスしそうなほど顔を近づけた会社員アリソンとジョーカーが。
――こんなのってあり?(ありあり?) 君は既にとろけてる!(どろどろ~)
頬を染めて目を閉じるアリソンだが、ジョーカーはデコピンを食らわせただけで去って行く。画面の中と外のアリソンが連動するように怒る。
――ヤバイ恋の悪戯 愛して、私のことずっと(ずっと)
アリソンは画面の外へ鏡を放り投げると、マイクを持って踊り始める。
――こちょこちょしたい 君の心くすぐったい!
右へ左へステップを踏んで、可愛らしく手を振る。
――優しくしたり たまにはいじめちゃいたい?
頬に手を当てて共鳴アリソンがウインクすると、場面はドラマパートへ。
――いっしょにいたい 君はどこか行ったりしない?
残業中のアリソンのスマホにメッセージが映し出される。
『日曜10時、駅前集合ね』
『何ですか、急に?』
『初デート。せいぜいオシャレしてきなよ?』
――甘い悪戯がしたい まるでチョコレートみたい!
頬を膨らませるアリソンだが、心の中では服や髪型のシュミレートを始めていて。
『デスクの引き出し』
メッセージに従って開けてみると、そこには『ラブチョコ』のイチゴ味が。
『頑張るのもいいけど、無理して体調崩したらお仕置きだよ』
アリソンは素直じゃない思いやりに、微笑みを浮かべるのだった。
●いちご味 『オカン(!?)』
小雪舞う2月。周囲がバレンタインムードに染まる中、見向きもせずに参考書片手に勉強に集中している少年。彼の名は颯太。2月と言えば受験も追い込みの時期だ。浮かれてなどいられない。
「あっ」
筆圧に耐えきれず折れた鉛筆の芯。颯太は眉を寄せる。溺れそうになるほど胸を満たすのは、苛立ちと焦燥感ばかり。どこか心細げなピアノ曲に紛れて小さく彼は呟いた。
「今日も寒いな……」
深夜の自室。「絶対合格!」の張り紙が存在を主張する。寝る間を惜しんで机に向かう彼は、やはり追い詰められた表情をしていた。
そのとき、そっとふすまを開けた者がいた。彼の母だ。素顔を隠す白いローブ。その上にはパンチパーマのカツラが載っている。エプロンからはみ出た美脚が艶めかしい。――誰が何と言おうと颯太の母親である。演じるは、世界最古のゆるキャラことメジェド様だ。
「ソウチャン、オヤショク、ヤデ!」
母は物凄い片言で言った。颯太は一顧だにせず、鉛筆を走らせる。母、もとい『オカン』は寂しそうに部屋から出ていった。
「んっ!」
颯太は椅子に座ったまま伸びをする。鉛筆が転がってカランと音を立てた。
「そうだ、夜食……」
夜食の盆にはそっとピンクのパッケージが添えられ、ハッピーバレンタインのカードが置かれていた。
「そっか……。そういえば今日、バレンタイン、だったっけ」
しみじみと呟いてチョコを齧ると、颯太の表情が少し和らいだ。
「よし! やるぞ!」
気合を入れ直し、机に向かう息子の姿をいつからかオカンが見守っていた。
「ソノ、イキヤデ」
BGMは母のぬくもりを表現ような優しい曲調へ。快調に問題集を解いていく颯太と、満足そうに見つめる母の背を写しながら、ナレーション。
「ココロ溶かす、メモリィ社ラブチョコ、いちご味」
画面が急に明るさを増す。昼間の屋外だ。BGMが止まり、制服の上に手編みらしいマフラーをつけた颯太が合否発表のボードを見上げる。
「あった……」
この作品は、WEB版のおまけとして15秒CMを撮り下ろしている。そちらもご覧頂こう。
PV版と同じ優しいBGMが流れる。
「ケント、チョコいくつ貰った?」
「2つだよ。喧嘩売ってんのか、モテ男?」
今日はバレンタイン。男子たちが貰ったチョコの数を競い合うのを横目に見て、颯太はため息を漏らした。
(ハァ……。今年も貰えないんだろうな……)
ふと机の中に手を伸ばすと『颯太君へ、渡したいものがあります。屋上で待ってます』と書かれたメッセージカードが。彼は全力でダッシュし、屋上に向かう。
息を切らせながら扉を開ける。サラサラのロングヘア―、セーラー服、美しいおみ足――次々と視点が切り替わる。BGMが止まった。
「ソウチャン、はっぴーばれんたいん、ヤデ」
メジェドが、チョコを差し出して立っていた。むしろチョコは胴体にくっついている。
「オカンやんけ!」
崩れ落ちる颯太。BGMと共に落ち着いたナレーションが語る。
「母からでも、一個は一個。メモリィ社『ラブチョコ』いちご味」
●ホット熱チョコ
冬の公園。男性の目線を模したカメラが、ベンチで隣り合うアリソンを捉える。
「ねぇ、いきなりだけど、私と恋人になってみない?」
アリソンは缶を差し出す。男性の手が受け取ると、彼女はぱっと花が咲くような笑顔を浮かべた。
「寒い……」
白い息を手に吐き掛ける和輝。カメラはその横顔を見つめる。
「なぁ、今俺の考えてる事わかる? えーわからない? 俺が寒いって事はお前も寒いって事だろ。だから大好きな……」
和輝はカメラをまっすぐ見つめ、甘く微笑む。
「……君と温まりたい」
●感想いかがでしょう?
「良い感じじゃないか?」
脚本と演出を担当した和輝が満足げに言った。
「相手が誰かわからないのも想像力が働くだろ? 秘めておきたいってとこから年上のお姉さんだったり、親友の恋人とか……ひめちゃんを女と勘違いした人は年上のお兄さんとか?」
「うるさい……」
姫癒は羞恥に染まる顔を画面から逸らした。
「お前の袴に編み上げブーツとか珈琲好きって……」
「大正浪漫好きで、つい! ブーツは機動性も考えてだけどね!」
あけびは照れ笑いを浮かべると、今一度タイムトラベルを楽しむべくCMを再生した。
「笑いこらえるの大変だったなぁ……」
颯太がくすくすと笑う。
「かめらあんぐる、ゼンゼン、なってないデス! モット、オシリ様、写すベキ!」
「ちょ、やめて……!」
「――演技とはいえ、香菜に恋してるとか見ててつらいわ」
複雑そうな千尋とは対照的に、香菜はご機嫌だ。
「いやー、面白かったなあ。もっと僕モテモテな設定でも良かったかも」
「もう……また勝手に受けてきたりしないでよ」
「どうしようかな?」
まるで懲りてない香菜はいたずらっぽく笑った。
「撮影スタッフの技量は良いが……お蔵入りレベルのクソクオリティだ、こんなの」
一はパソコンを閉じ、自身の出演作への苦情を漏らす。
「そんな卑下することないわ! アンタなかなかの熱演だったじゃない? ジョージちゃんも雰囲気バッチリだったしぃ~!」
「主役が問題アリなんだよ!」
それだけ言うと、一はがっくりと机に突っ伏した。
「僕のイかしたセリフ全部カットされてるねぇ、ショボーンだよ」
「全部NGだって!」
アリソンが屈託なく言うと、にやにやと笑いながらジョーカーが弁を振るう。
「いやはや、監督のセンスを疑うね。愛だの恋だの不特定多数に対してよくもまぁ、根も葉もないことを言えるもんだと感心するよ」 そんな相棒に慣れっこのアリソンは、うわの空で呟いた。
「いつか、本当に好きな人に言えたらいいんだけどねー……」
『オカン(!?)』編以外の5作品も15秒のダイジェスト版が作られ、全ての作品がテレビで放送された。彼らがHOPEの内外で噂の的になったのは言うまでもない。時には知り合いから、時には依頼で初めて会った者から、「CMの人」「『ラブチョコ』の人」と騒がれたのは無理もないことだった。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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