本部

食い逃げ犯は、私!

落花生

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
7人 / 0~10人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2017/02/02 21:38

掲示板

オープニング

●とある日曜日の昼間
「あー、正義さん。カレーのツケ、払ってきなよ」
「ツケって、なんや?」
 街を歩いていた正義は、急に声をかけられて首をかしげた。生まれてこの方、正義はツケで飲み食いなどしたことはない。
「さっき、うちの大盛りカレーを食べただろ。ほら、八百イェン!」
「小鳥ちゃんがうちのパフェを大盛りにして食べていったよ、ツケで。千二百イェン!」
 次々と店の人間が出てきて、正義は脱兎のごとく逃げ出した。
「なんや、なんや、なんなんや~!!」

●人の顔をコピーする愚神
「う~ん、ぜんぜん食べ足りないな」
 正義の恰好をした、愚神は伸びをした。その輪郭がゆがんで、男の姿になった。男は、まったく膨らんでいない……むしろ凹んでいる腹をさする。
「変身はカロリーを使うなー。でも、リンカーの姿をしてれば安全だし。ああ、しょっぱいもの食べちゃくなっちゃった」
 この愚神、変身の能力を持っていた。だが、その変身を維持するためには大量のカロリーを必要とするために、変身のために食べつづけていなければならないという弱点を抱えていた。
「今度は、この顔にしよって。さーて、とんこつラーメンを食べに行こうっと」

●無銭飲食の罪
「ご近所より、リンカーが無銭飲食を繰り返しているという苦情が来ています」
 はぁ、とHOPEの職員がため息をつく。
 職員に呼び出されたリンカーは、身に覚えのない無銭飲食の罪に問われていた。ちなみに、一人当たり十万相当は食べていることになる被害総額だった。普通の無銭飲食でないのは明らかであり、愚神が関与している可能性が非常に高かった。
 だが、証拠がない。
「でも、ライブスではなくて普通の食事を欲する愚神なんて……変わってますねェ」
 職員は、被害届を見ながら呟く。
 この事件の被害は、タダ食いされた商品ぐらいで誰かが倒れたという届はない。
「ええっと、北に移動しながら無銭飲食を繰り返しているようですね。被害が進めば、今頃は川向こう商店街に愚神が移動しているはずです。被害があった商店街から離れていますから、もしかしたら愚神の噂も届いていないかもしれませんね」
 今まで被害にあった店には「犯人は愚神の可能性が非常に高いが目下調査中」ということを説明はしている。しかし、正式に愚神が犯人と判明しているわけでもないので大々的な発表をすることもできない。
 集められたリンカーの一人が、恐る恐る手を上げる。
「じゃあ、川向うの商店街は下手をすると私たちが無銭飲食をしたと思うんですね」
 これから愚神が移動したと思われる地域に行き、食い逃げ犯を捕まえなければならない。
「そうだと思います……。もしも、犯人と間違えられても反撃したりはしないでくださいね」

●川向うの店主たち
 街の店主は苛立っていた。
「よくも店のメニューをタダ食いしやがって!」
 看板メニューを食い逃げされた店主の恨みは深かった。
「今度あったら、熱したフライパンで殴ってやる!!」

解説

・怒り狂う店主たちから逃げながら、食い逃げ犯(愚神)を退治してください。

川向うの商店街――賑わっている商店街。様々な飲食店があり、そのほとんどが被害に会っている。店主たちはリンカーを見れば、食い逃げはんだと思い込みフライパンなどを持って追いかけてくる。

店主たち――最初はラーメン屋、今川焼屋、アイスクリーム屋、洋食屋の店主が出現するが、一定時間ごとに増えていく。基本的に頭に血が上っており、人の話を聞かない。リンカーを見ると愚神だと思って追いかけてくる。その店で使われている調理器具(包丁など)を振り回し、素早く移動する。

買い物客――普通に買い物をしている。リンカーと店主の追いかけっこをなにかのイベントだと勘違いして、集まってくる。多数出現。

愚神――ところかまわず食い逃げをしまくり、時間が経つごとに怒れる店主の数を増やしていく。最後に見たリンカーの姿をコピーし(シナリオ開始時は正義の姿)食い逃げの罪をリンカーに押し付ける。三名以上のリンカーに囲まれると、戦闘に入る。なお、戦闘時には擬態してきたリンカーの姿に次々姿を変える。本体は、やせ形の男の姿をしている。
思い出の味……今川焼を買い食いしている買い物客を操り、自分の配下に置く。運動能力などは変わらない。十人以上が操られる。
替え玉……操られた人間五名の人間の身体能力が、リンカー並みに上がる。
ナイフとフォーク……愚神の周辺に召喚され、掃射される。狙いはかなり荒い。
食欲……近くにいる人間のライブスを吸い上げ、己の素早さをアップさせる。逃げるときに使用する。

ガラ――戦場の近くのゴミ捨て場より、出現。ラーメン屋より出たゴミ(牛の骨)に取りついた従魔。一見人間の骸骨だが、ガラが五体以上集まってできている。攻撃を受けるとバラバラになってやり過ごそうとする。武器は骨でできた鈍器であり、素早さはさほどではない。四体出現。

リプレイ

●俺たちは犯人じゃない
「ママー、あの人たちなにやってるの?」
 子供が無邪気に、買い物袋をもった母親に尋ねる。
「あら、きっとお祭りなのね」
「お祭りなわけがないです!!」
 イングリ・ランプランド(aa4692)は、店の店主に追いかけられながら走っていた。ラーメン屋の店主はイングリには身に覚えのない無銭飲食の罪で、怒り狂っている。どうやら、自分たちの顔を借りている愚神が食い逃げを繰り返しているらしい。
「貴方がそんなに意地汚い人だったなんて……」
 Jennifer(aa4756hero001)は、ため息をつく。ちなみに今の彼らも、現在進行形で店主たちに追いかけられている。
「きみまで!? 酷い!」
 小宮 雅春(aa4756)は、叫んだ。
 テレビ番組のような飲食店の梯子は憧れるが、人としての一線は守らなければならない。その一線を踏み越えたと思われるなんて、あんまりである。雅春は「およよよよ」と鳴きまねをしながらも逃げまくる。意外と器用である。
『冗談よ』
 子供たちが、雅春とJenniferを指差しながら笑う。
 どうやら、何かのイベントと間違われているらしい。
「ままー。二人三脚」
「違うわよ。あれは、どこぞの国の休日ごっこよ」
 そんな母親の声を聴いたのかJenniferが呟く。
『これがよくできた映画だったら、愛の逃避行と洒落込むのにね』
「罪状が食い逃げじゃあね……」
 逮捕されても男女の刑務所はバラバラだ。
 走り続けるなかで、美味そうな匂いが漂ってきた。この香ばしくも甘い香りは、今川焼であろう。ものすごく食欲が刺激された。
「……帰りに今川焼買いに行ってもいい?」
 あつあつを買い食いするのは、絶対に美味しい。テレビ番組の食べ歩きのようでなくとも、寒空の下でハフハフしながら食べる今川焼以上のご馳走はなかなか見当たらないのではないだろう。
『やっぱり意地汚いじゃない』
 Jenniferの言葉に、雅春は若干悲しそうな顔をする。
『冗談よ。分かりやすいんだから』
 くすくすと笑うJenniferより、嬉しそうな顔をする雅春。
 そんな顔に、Jenniferはより笑いを誘われた。
 ――ああこれだ、たまに出るこの子供じみた言動……でも嫌いじゃない。
 そんなデートじみた空間が発生しているすぐ近くで、割とごく普通な逃走劇を繰り広げている人間たちもいた。
「鯨のカルパッチョとかトナカイのステーキならともかく、ラーメンなんて食い逃げしないわよ!」
「そうです。エレオノールもラーメンよりもお菓子が良いです!」
 エレオノール・ベルマン(aa4712)も逃げながら、大好物のベリー類をもぐもぐしていた。口のまわりが、真っ赤になっている。
「ウチの鳥ガラスープが、クジラやお菓子に負けるわけねぇだろ」
 ラーメン屋の店主が、ネギくさい包丁を振るう。
「わたくしだって、クジラで出汁をとったラーメンを食べたくはないです!」
 息を切らしながらイングリは、かぶっていたフードを取った。季節は冬だが、鬼ごっこに興じているうちに熱くなってしまったのだ。
「もしも、愚神がエレオノールたちに化けているのならば目立ってしかたがないはずです」
 もぐもぐしながら、エレオノールは考える。
 だが、自分の足の遅さでは愚神が見つかる前に捕まってしまうかもしれない。ポケットにはまだベリーやお菓子がたっぷり詰まっているが、これだって盗んだものと言われて没収されてしまうかもしれない。
 そんなことはさせない。
 お菓子やベリーのためにも、エレオノールは捕まるわけにはいかないのである。
「これなら、被害は最小限で済むはずです」
 イングリは意を決するように叫んで、ワールドクリエイターを使用した。展開されるライヴスのオーラに、一瞬店主がたじろぐ。
「こ、このやろうー!!」
「わーん! ごめんなさい」
 もうすでに、食い逃げ犯は悪い方向へとレベルアップしていた。

 クワベナ・バニ(aa4818)は、口いっぱいに今川焼を頬ばっていた。出来立てのアツアツほかほかであったが、残念ながら味わっている暇はない。
「てめぇ、待ちやがれ。この野郎!!」
 今川焼屋の主人が、バニを追いかけていた。
「美味いなもんだな! やっぱり、寒い冬はあったかいもんに限るぜ」
『ん~、変わり種のチョコとしては合格点ですよね』
 フォラステロー(aa4818hero001)も幸せそうな顔をして、チョコクリーム味の今川焼を食べている。
『でも、店の店主はなぜ怒っているのでしょ? ちゃんと、代金は払ってきましたよね』
「ああ、ちゃんとカカオで払ってきたぜ」
 バニは、親指を立てて「ちゃんと代金は払ったぜ」とアピールする。実家からもってきたカカオ豆は、きっと新たなチョコクリーム材料になることだろう。
 ――ちゃんと工場に持って行ってもらえれば。
『美味しいチョコクリームになるといいですね』
 フォラステローも、目をキラキラさせていた。
 二人には、無銭飲食をしたという罪の意識はかけらもなかった。
『無銭飲食とは美しくないのう……』
 裏路地で、バニたちの様子を見ていたリンカーと英雄がいた。
 カルラ(aa4795hero001)と瑠璃宮 明華(aa4795)である。
『……明華、此度は儂に任せよ』
「あー? ああ、構わねぇよ」
 無銭飲食勘違い事件という面倒くさい事件にかかわりたくなかった明華は、カルラに全権を譲り渡すことを決めた。
『あっ、明華君にカルラ君。これ、美味しいチョコだったよ』
 フォラステローが、二人に向かって今川焼を投げる。
 明華とカルラは、できたてと思しき今川焼を受け取って反射的に口に運ぶ。甘くて、美味い。素朴な味わいはなによりだが、寒空に浮かぶ湯気がいっそう旨さを引き立てている。
「お前らも、なかまかぁぁぁ!!」
 店主の叫び声さえなければ。
『一般人に手を出すのは美しくないでなぁ。何、足には少しばかり自信があるのだよ』
 ふふふふっ、と色っぽく笑うカルラであったが手には今川焼。
 立派な食い逃げ犯(代金は一応カカオで払ってきた)の仲間入りである。
『さらばじゃ』
 背中を見せて逃げる、カルラ。
 目の色を変えて迫ってくる、今川焼屋。
 民家の屋根に上ってしまった、カルラ。
『ほ、ほ、鬼事か。うん、うん、追えるものならば追ってくるが良いよ』
 民家の屋根を逃げるカルラは、猫のようだった。
 お魚くわえて走り回り、主人公を馬鹿にするような猫のようだった。
「それ火に油じゃねぇか?」
 明華は、ぼそりと呟く。
 手の中の今川焼きは、徐々に冷めていった。
「人の姿で食い逃げするなんて卑怯ー! やるなら堂々とやればいいのに!」
『……堂々とでも駄目だから。美味しいものを食べたら、ちゃんと対価を払うべき』
 雨宮 葵(aa4783)と燐(aa4783hero001)は、洋食屋から逃げていた。洋食屋はナイフとフォークを投げながら、二人を追いかけている。
「いつの間に私達に化けたのー!」
 ごめんなさい、実は本当に食い逃げしていた人がいました。
 そう思いながら、明華はぬるくなった今川焼きを食べる。
『ん。……近くにいたのに、気づかなかったなんて不覚』
「基本、燐は殺気以外は気づかないじゃん!」
 燐は、視線を泳がせる。
 店主たちは怒ってはいるが、殺気立ってはいない燐には相性の悪い相手である。
『……取り合えず、作戦通りに』
 事前に決めた作戦では、愚神と仲間を見分けるために合言葉を決めたのだ。その合い言葉を忘れない限りは相打ちはないであろう。
「そうだね。もちろん、武器はなしだよ。店主達は悪くないし、怪我させれないからね!」
 そう言ってクラッカーボールを投げる、葵。
「うわぁ、食い逃げ犯たち武器を使い始めたぜ!」
「あっちでは、道路を凍らせている奴らもいるらしいぜ」
 食い逃げ犯の噂が、着実に悪い方向に進化している。
「ライヴスを使うなんて、あっちに愚神がいるのかな?」
 藤林 栞(aa4548)は、屋根の上からこの喧騒を眺めていた。
「街ならば仕事がやりやすいと思ったけど……」
 いたるところで騒ぎが起こってしまっていて、ここでは逆に分かりにくいかもしれない。
「下に降りよ」
「あー、食い逃げ犯」
 地面に降り立った栞は、びくりとした。
 栞を指差すのは、アイスクリーム屋。一週間前に、ツケで三段重ねアイスクリームを食べたばかりの店だ。ちなみに、代金はまだ払ってない。
「あっ、あのときは持ち合わせがなかっただけなんです。支払をうやむやにしようとか、そういう下心はなかったんです!」
 栞は今まで培ってきた忍者としてのスキルを無駄に発揮し、栞は昼の街に姿を消そうとした。ビラ配りのメイドに扮していた栞は、ここから逃げなければと考えた。次は、ビルの窓ふきにでも化けようか。
 だが、栞はとある男たちによって瓦解する。
「何故、食い逃げと言われなければならんのだ!」
『チャーシューメン大盛りと今川焼きの代金払え? 食ってねえよ!』
 東江 刀護(aa3503)と大和 那智(aa3503hero002)とであった。二人はフライパンで殴られたりしながら、刀護は叫んだ。
「アツアツにフライパンだろうが、おたまだろうが何でも殴れ! 俺達は何もしていないが!」
『刀護は特徴覚えやすいからなー。それに、ラーメン屋に置いてあった漫画に出てくる食い逃げ犯に刀護は似ていたからな』
 ほら、この漫画のコマに出てくるキャラクターと那智は開いた漫画を指差した。
 たしかに刀護によく似たキャラクターがコミカルに動いてはいたが
「そういうお前こそ目立つ格好しているだろう……。あと、その漫画はどこからもってきたんだ!」
『ラーメン屋だぜ』
 にっかりと笑う、那智。
 どうやら食い逃げは勘違いだが、無断借用はしていたらしい。
 そうやって逃げていた刀護たちは、メイド姿でビラを配っていた栞を発見した。
「カカオ豆」と叫ぶ、刀護。
「おかか飯」と答える、栞。
「こっちに食い逃げ犯はいなかった。注意しろ」
「わかりました!」
 元気よく答える、栞。
 その言葉せいで、栞は店主たちから「食い逃げ犯」であるとバレた。
「あっちのメイドも食い逃げ犯だぁ!!」
「潜伏に失敗!」
 栞の前に、アンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)と八十島 文菜(aa0121hero002)が並び立つ。
「おまえらも街を破壊し、漫画を盗む食い逃げ犯かっ!」
 段々と食い逃げ犯の格が、悪い方向に上がっていく。
『うちが無銭飲食とか悪い冗談やわぁ』
 ライフルを握る文菜の米神が痙攣していた。
「落ち着いて! 犯人を捕らえたら誤解はとけるから。食い逃げとか、漫画を盗んだとかっていう誤解はとけるから」
 アンジェリカは文菜をなだめるが、残念ながら被害の三分の二はリンカーたちの起こした行動である。
「これは相当怒ってるなぁ。むしろ犯人が愚神である事を祈るよ。人間だったら大変な事になりそう……」
 アンジェリカの呟きに、離れたところにいるはずの仲間たちの背中に悪寒が走った。被害の三分の二が、人災だからしかたがない。
「皆、興奮しないで」
 アンジェリカは皆をなだめようとする。
 神鷹 鹿時(aa0178)とフェックス(aa0178hero001)もそれに便乗した。
『俺とロックは無銭飲食してないぞ~』
「食い逃げする愚神ねぇ~、みみっちい愚神もいるもんだな! だが変身能力はさらなる悪行にも使えるからな! 確実に撃破しないとな」
 手伝ってくれと鹿時は住民に呼びかける。
 リンカーたちだけの力では、変身能力を持つ愚神を追い詰めるのは難しいかもしれない。だが、店主たちの力をかりればたやすく見つけることができるかもしれない。
『……ああ、美味いラーメンをタダで食わせてくれる店は大切にしたいんだぞ~』
 周囲の空気が、冷えた。
 鹿時は油の切れたロボットのように、フェックスを見た。
「ええっと……それってどういう意味だ?」
『ここの商店街のラーメン屋で、ただで食べたことがある』
「総員、かかれ!!」
 店主たちが、鹿時とフェックスに襲い掛かる。
「バカ! 喋りすぎだ!」
『ごめんだぞ~……』
 二人で逃げ出すが、怒りで我を忘れた店主たちの足は速い。
 このままでは捕まってしまうことだろう。
『濡れ衣を晴らすためだぞ~……』
「皆興奮しないでって、いってるよね。先ずはボクの歌を聞いて落ち着いてよ。ラララ~♪」
 フェックスと一緒に逃げていたアンジェリカが、足を止めて歌いだす。当然、そんなことで店主たちが追いかけるのを止めるわけがない。仕方がないので、アンジェリカはサングラスを取り出した。
「えーと、繰り返すけどボクたちは無実だからよ。無実だからね」
 フラッシュバンを使用し、その隙にアンジェリカたちは逃げだした。
 実は同じことをやろうとしていた鹿時は、思わず苦笑いを浮かべた。傍から見ると一般人にフラッシュバンは、けっこうかわいそうになる光景であった。店主たちはすっかり目がつぶれてしまって、その場にうずくまっている。
 その時、フェックスはもぐもぐと今川焼を食べている正義を見つけた。
『カカオ豆!』
 フェックスの言葉に、正義は勢いで答える。
「バレンタイン!!」
 周囲にいたリンカーたちの目が点になった。
 この合言葉を間違える奴は仲間ではない。
 仲間の皮をかぶった、食い逃げ犯である。
「よくも濡れ衣を着せてくれたな! 罰金はてめぇの命だ!」
 フェックスと共鳴した鹿時は、双銃を構えた。
「脳漿をぶちまけろ!」
 ストライクを使用し、鹿時は愚神の目を狙う。
『今まで悪い事なんかした事あらしまへんのに。うちの怒りを思い知りなはれ!』
「文菜さん、だから落ち着いて!」
 気迫の迫った文菜を、アンジェリカは止めようとする。
 だが、時すでに遅く文菜もストライクを使用していた。愚神が今川焼を持って逃げだす
『よくも俺らを食い逃げ犯に仕立て上げたな……食い物の恨みは怖いぜ?!』
「こっちは大迷惑したんだって!!」
 刀護と那智も、愚神を追いかけて行った。

 イングリは舞っていた。
 商店街を店主たちから逃げまくっていたのである。イングリを追ってきた店主たちは、その身のこなしにリタイヤしたようであった。
「無実の罪で捕まるわけにはいかないですもんね」
 エレオノールもイングリと共に逃げていた。
「もしものときはセーフティガスを使おうと思ってたけど。心配なかったね」
『ええ……これだけ足元が悪ければ、もう誰も近づかないみたいね』
 雅春とJenniferは、ぼろぼろになった商店街を見渡す。
 愚神が見つかったという連絡が来たが、その前に別の罪で訴えられそうである。
「愚神は、刀護君に化けているようです」
 斥候の栞が、愚神の今の状態を教えてくれた。
「人に罪を擦り付けた責任を取ってもらおうか! もー凄く走らされたんだけど! 一般人は蹴散らせないし面倒くさい!」
 葵は息を切らせながら、皆と合流していた。
 燐は本物の殺気にしか反応しないし、民間人を傷つけるわけにはいかないしで、葵は必要以上に疲れていた。
「しかも、今でも食い逃げをしているようだな」
『食い意地をはってますね』
 バニとフォラステローは、今川焼を食べながら頷いている。ちなみに、今食べているのはビターチョコ味。さっきよりも、よりカカオを味わえるクリームにバニは大変満足していた。
「また、あっちゃった。これ、食べる?」
 刀護の姿となり通りかかった愚神が、今川焼を差し出してきた。そして、ぐにょりと顔をカルラへと変える。道端でばくばくと今川焼を食べる愚神に対して、カルラは震えていた。
『……っお前……!あての姿を取るのであれば所作も美しくせぬか! それで食い逃げなぞ下劣な真似をしてみよ、殺すぞ!!!』
「そこなのか」
 明華の突っ込むより先より、カルラは香水と投げる。
『他の面々が来る前に、ぼこぼこにするのじゃ!』
「いや……これ以上、被害が広がるのはHOPEの評判的にまずい」
 明華が評判を気にするより傍から、仲間たちが攻撃をしかけていく。
「さぁ人のふりして悪事を働く悪い奴め! この青い翼のヒーローが退治しちゃうぞー!」
 葵が大剣を振り回して、愚神に切りかかる。
 一緒に商店街まで壊しているような気もするが、たぶん気のせいだろう。気のせいだと思うことにしよう。明華は、一瞬現実逃避をした。
「あなたのせいで、せっかくのお菓子のセールに行けなかったんですよ!」
 エレオノールはお菓子の恨みとばかりに、攻撃を開始する。一瞬驚いていた愚神の視界を塞ぐために、葵が再び前に躍り出た。
「消火器で消火剤をばら撒いて視界を塞ぐよ」
『……後片付けが大変そうだな』
 燐の呟きと共に、視界が真っ白になっていく。
 その煙に中で、雅春が愚神に接近する。
『逃げるな』
 Jenniferが小さく囁く。
『あなたのお腹はブラックホールででもできているのかしら? 羨ましいことね』
 元々食事をとらないJenniferなのだが、もしかしたら皆と一緒にご飯を食べたいのかもしれない。そう思うと雅春は涙が出てきた。せめて気分だけでも、一緒にご飯が食べれるようにしてあげたい。
「ジェニー……ラーメンはなかったけど、ガラはあったよ」
『それ、従魔よね』
 雅春が指差したのは、出汁を取られてしまって最早猫でも見向きもしないガラの従魔であった。見た目は、完全に生ごみである。
「加勢しにきたぜ」
 刀護と那智が、武器を持って現れる。
「粉末スープになりやがれ!」
 ストームエッジを使用して、刀護は従魔を蹴散らす。骨はばらばらになり、しばし静かになった。
「これで俺達じゃないって証明されただろ! エージェントは無銭飲食はしないんだぜ!」
 鹿時は胸をはっているが、残念ながら彼の相棒フェックスは思いっきり無銭飲食をしている。かつ、かつ、かつ、と音がした。鹿時が振り返ると、そこにはバラバラになりながらも逃げようとする従魔の姿があった。
『バラバラになっていた骨が、動いてます! ふっしぎー!!』
「骨全部が従魔というか。骨一つ一つが従魔っていうわけか」
 カポエラの構えを取りながら、バニは従魔との距離を詰める。
 バラバラになっても動くならば、もっとバラバラにしてしまえばいいのだ。
 バニの技術とホイールオブブレードさえあれば、きっとそれは可能であろう。
 従魔が戦っている隙をついて、愚神がナイフとフォークを召喚する。
 その武器を叩き落としたのは、アンジェリカと文菜であった。
『逃がしませんでえ』
 文菜のほほえみを合図にするように、刀護が後ろから愚神を襲い掛かった。
「食い物だけで腹を満たせ」
 敵に囲まれた愚神は圧倒的に不利であった。その不利のなかで、愚神は顔を変える。今度の顔はアンジェリカのものだった。
『顔を変えても匂いまでもは、無理のようじゃな』
 カルラは、降雹之書にポイズンボトルをしたたらせていた。
『気を付けると良い、その氷には毒があるぞ?』
「香水作戦は成功だったな」
 頭から香水をかぶせられた匂いは、しばらくは取れないだろう。これで、愚神の顔を変える作戦は完全に死んだと言っていい。
「さぁ、殴っちゃうよ。走らされた恨みもこめて、ぼこぼこにしちゃうよ」
 葵は拳を鳴らす。
『……油断は禁物だ。なにか、やろうとしている』
 燐の言葉に、葵は剣を構える。
 あたりに緊張感が漂う。
 愚神は明らかに何かをしようとしている。
 だが、何も起こらない。
「探しているのは、これなのかな?」
 栞が物陰から、手裏剣に刺さった今川焼を投げ捨てた。
「これを食べた一般人を操ろうとしていたみたいだけど。ぜんぶ、叩き落としてもらったよ」
 ざんねんでした、と栞は舌を出す。
『さすがやな。これで、うちも心残りがないように行動できます』
 文菜はおっとりと笑いながら、ライフルを握っていた。
 だが、その眼だけは笑っていない。
「分かってると思うけど。一応、だからね。一応、注意するけど。周りに被害はださないようにね!!」
 アンジェリカの注意に、文菜はにこりと笑った。
「面白い子やね。うちが、そんな下手を打つはずあらへんのに」
 しとやかな笑顔の後ろで、銃声が鳴り響いた。

●反省しましょう
『ええっ、始末書なんですか?』
 フォラステローは目を点にしていた。せっかく愚神を倒したのに、突きつけられた現実は――食い逃げした始末書であった。なお、食い逃げをしたリンカーたちは実費で商品を弁償している。
「ちゃんと代金は(カカオで)払ってきたぜ」
 クワベナの意見は、残念ながら日本経済の前では通じなかった。
『なんで、わしもなんじゃ』
「もらっちゃったから、じゃないかな?」
 明華は苦笑いしながら、始末書を記入していく。HOPEの職員から食い逃げの件では小一時間の説教をくらったが、明華はしかたがないものとあきらめていた。
『俺たちは書かなくていいんだな?』
「あんなに汚れた漫画、もうゴミだって店主が言ってたからな」
 始末書を逃れた刀護と那智は「帰りにラーメンを食べていくかと」と話していた。
『オレも食べたいぞ~……』
「始末書を書いてからな。始末書が終わっても、昼飯はお預けだろうな……」
 フェックスに始末書を書かせながら、鹿時はため息をついた。この場にいない人間たちは、さっさと始末書を記入して新たなミッションについているのである。

●イメージアップも大事です
「いらっしゃーい。いらっしゃーい。当店自慢のイチゴ飴はいかがですか。すっごく美味しいんだよ」
 お菓子屋さんの前で、アンジェリカが上機嫌で呼び込みを行っていた。
『お店の人も食べられ損やし、呼び込みのお手伝いでもさせてもらいますえ。そこのお人、チョコレートクランチの試食はいかがどすえ?』
 文菜も味見のお菓子を配りながら、にこにこしている。
 一方で
「えっ、三段重ねのアイスクリームでジャグリング? 無理ですよ。忍者だから大丈夫って、そんな忍術はないよー!!」
 忍者だからできる、と店主に力説され栞は冷や汗をかいていた。実際に食い逃げ(ツケでの飲食ではあったが)していたこともありHOPEより、彼らはイメージアップのためにボランティア活動を命じられていたのだ。
「わたくしも以前は人生相談とかしてましたけど……お店の運営の相談は無理です。ラーメンの売り上げが下がっている理由は、わたくしには分かりません!」
 食い逃げはしていないが一般人へAGWを用いたイングリは、経営不振に悩む商店街店主の経営を永遠と占う羽目になってしまっていた。
「エレオノールも羊飼いですけど、この数のお客さんの誘導を一人でするのは……牧羊犬がいても無理です」
 エレオノールも羊飼いの腕を見込まれて、愚神とリンカーの鬼ごっこをイベントと間違って集まってきたお客さんを誘導するように説得されているが……悲劇の予感しかしない。
「まぁ、商店街がにぎわっているし、いいことなのかな?」
『まぁ……賑わってはいるわね』
 試食用のチョコレートクランチを食べながら葵と燐は、苦笑いをする。
『私たちの戦いの見物客がほとんどだけどね』
「まぁまぁ、そういわないで」
 雅春の隣で、人数分の今川焼を買ってきた雅春はにこりと笑う。こうやって皆で同じものを食べていたら、Jenniferも少しは「食べた」気になってくれるのかなと思いながら。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 希望を胸に
    アンジェリカ・カノーヴァaa0121
    人間|11才|女性|命中
  • ぼくの猟犬へ
    八十島 文菜aa0121hero002
    英雄|29才|女性|ジャ
  • キノコダメ、絶対!
    神鷹 鹿時aa0178
    人間|17才|男性|命中
  • 厄払いヒーロー!
    フェックスaa0178hero001
    英雄|12才|男性|ジャ
  • その背に【暁】を刻みて
    東江 刀護aa3503
    機械|29才|男性|攻撃
  • 最強新成人・特攻服仕様
    大和 那智aa3503hero002
    英雄|21才|男性|カオ
  • サバイバルの達人
    藤林 栞aa4548
    人間|16才|女性|回避



  • 知られざる任務遂行者
    イングリ・ランプランドaa4692
    人間|24才|女性|生命



  • エージェント
    エレオノール・ベルマンaa4712
    人間|23才|女性|生命



  • やさしさの光
    小宮 雅春aa4756
    人間|24才|男性|生命
  • お人形ごっこ
    Jenniferaa4756hero001
    英雄|26才|女性|バト
  • 心に翼宿し
    雨宮 葵aa4783
    獣人|16才|女性|攻撃
  • 広い空へと羽ばたいて
    aa4783hero001
    英雄|16才|女性|ドレ
  • 片翼の不良
    瑠璃宮 明華aa4795
    獣人|21才|女性|攻撃
  • 写真部『マドンナ』
    カルラaa4795hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • エージェント
    クワベナ・バニaa4818
    人間|24才|男性|回避
  • エージェント
    フォラステローaa4818hero001
    英雄|17才|女性|バト
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