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【相談卓】
最終発言2017/01/15 10:05:38 -
【質問】ジョセフ殿へ
最終発言2017/01/13 10:19:03 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/01/12 00:23:57
オープニング
●国粋主義未だ健在
H.O.P.E.エージェント達が、とある愚神との戦いに勝利し、救出できた人々の証言や確保できた証拠の数々は、ロシア軍上層部を牛耳ってきたオレグ・ベルマンの正体を暴いた。
オレグ・ベルマンはロシアの優越を唱える国粋主義者にあらず。その正体は秘密結社シーカ。
オレグの真の目的は『自分達の手で世界のバランスを保つこと』であり、自分の意志を反映させるために国粋主義を装い、反対する人々をその家族ごと抹殺しようとし続けた。
H.O.P.E.エージェント達によってオレグのしでかした数々の所業が明らかにされると、H.O.P.E.より情報を受けたロシア諜報組織はただちにオレグの身柄確保に動いた。
だがオレグ逮捕に動いた諜報機関員達は、突如現れた『無数の武器を操るコート姿の老人』の襲撃に遭いことごとく撃退され、その間にオレグは逃走し行方をくらませた。
これでロシア軍上層部で主流派として幅をきかせていた、ロシアの優越を唱える国粋主義者達はなりを潜めるかと思われたが、オレグが姿を消してもなお、残された国粋主義者達はH.O.P.E.の提示した証拠の数々を『H.O.P.E.がオレグ・ベルマンや自分達を失脚させようとする謀略』と否定し、自分達の主張の間違いを認めようとしなかった。
その間にもロシアには、現在自国内で暴れている愚神達の他に解決しなければならない問題がある。
それは支援の手を差し伸べてきたものの、オレグ・ベルマンが『ロシアの総意』として手ひどく拒絶したことで怒らせ、援軍を出すのを止めたアメリカやNATO軍との関係修復だ。
動いたのは最初からオレグの主張と真っ向から対立した結果、オレグによって抹殺対象とされ、愚神のドロップゾーンに囚われたものの、H.O.P.E.エージェント達によって無事救出され、職場復帰を果たしたロシア軍や政府高官達だ。
彼らは今の事態がすでにロシアという国家のみで解決できるほど容易ではないこと、事態を打開するためにはアメリカ軍やNATO軍の支援は何としてもとりつけねばならないことを痛感していた。
●動かぬアメリカ
だがロシアに対するアメリカ軍や政府の反応は冷たかった。
「今になって援軍を求めるとは、虫の良すぎる話ですな」
アメリカのホワイトハウスに所属する大統領補佐官、ホセ・グレッグはロシア政府高官達の援軍要請に対しそう応じた。
「支援を断ったのは我々の本意ではない。あれは――」
ロシア側の高官は先の支援拒絶に至った経緯を説明する。
「国家でもない1組織に、貴国が支配されていたという話を信じろと仰るのですか?」
実際はその通りなのだが、ホセやアメリカ政府はロシア側の説明を信じようとせず、ますます態度を硬化させていく。
ロシア側は言葉を尽くしたが、アメリカ政府は援軍要請に応じようとせず、アメリカの強硬な態度にひきずられ、NATO軍も動きを止めていた。
結局援軍の話を引き出せなかったロシア政府高官達は一度話を引き上げたが、同時にアメリカ側の態度が、オレグの引き起こした『無礼』への反発にしては妙に強硬だったことへ疑念を抱いていた。
――もしかしたらアメリカにも、シーカの手が及んでいるのか?
●逮捕の足音
ジョセフがスクリーンに1人の男の映像を映す。
「こいつがオレグ・ベルマンだよ。表向きはロシアの優越を掲げるロシア国粋主義者だけど、その正体は秘密結社シーカの一員で、ロシアの『調停役』。もちろんシーカの独りよがりだけどね」
だがその正体は既にH.O.P.E.エージェント達の手で明らかにされ、H.O.P.E.エージェント達が入手してきた証拠の数々が、オレグの正当性を否定していた。
そしてこれまでオレグに不自然な動きを強要されていたロシア軍や政府の顔を立てる形で、H.O.P.E.はオレグの逮捕をロシアの諜報機関に任せたのだが、先日逮捕に向かった者達は『無数の武器を操るコートを纏う老人』の迎撃に遭い、壊滅した。
そこで改めてロシア諜報機関や軍を介し、ロシア政府よりH.O.P.E.に対し、オレグ・ベルマン逮捕の要請が届けられた。
依頼者であるロシア政府高官が密かに教えてくれた話では、いまだオレグの掲げた思想を信じ、影響力を維持しようとする者達が軍上層部や政府内に残っているらしい。
そのためオレグが去った後も軍や政府は満足な動きがとれず、オレグを逮捕し、本人から自白を引き出さない事には、残党たちの影響を排除し、ロシア軍や政府が正常に機能するのは難しいとの事だ。
「入手できた証拠の解析で、オレグがロシアから脱出を計ろうとしていることや、それまでの潜伏先はほぼ判明している。ロシア側の諜報員達は壊滅して動けない状態だから、僕たちH.O.P.E.に要請が来た時点で、身柄を確保したり捜査を行う一切の権限をH.O.P.E.が行使できることや、報酬の増額も認められている。高飛びされる前に、オレグ・ベルマンを捕まえてほしい」
なお今回ロシア諜報機関よりロシア軍を介し、『あなたたち』への防寒具一式や護送車、捕縛用具など捕縛に必要なものは人数分用意してくれるとのことだ。
ここでジョセフは『これはまだ未確定な情報だけど』と前置きした上で、『あなたたち』にその内容を伝える。
「アメリカ政府と交渉にあたっていたロシア政府高官が『アメリカもシーカの影響下におかれているのでは』って推測してたみたいだ。オレグを逮捕できたら本当かどうかわかるかもしれない」
こうしてロシアを裏で操っていたシーカメンバー、オレグ・ベルマン逮捕の依頼が『あなたたち』の前に示された。
●面従腹背
そのオレグ・ベルマンは用意していた隠れ家の中で、コートを羽織る老人に怯えた様子で問いかけていた。
「フランツからの連絡はまだか? なぜこの場にお前達の主、ニア・エートゥスがいないんだ?」
オレグの目は忙しなく宙を惑い、かつて見せていた傲然とした雰囲気はどこにもない。
「エートゥス殿なら所用で忙しい。追ってきた連中なら全て潰したが、不満か?」
老人の鋭い視線や、いつの間にか老人の周囲に展開した無数の武器に睨まれ、オレグはそれ以上の言葉を飲み込む。
「そちらの同志とやらは周囲の警護についている。こちらも手勢は用意した。せいぜい動かぬことだ」
老人はそうオレグに告げ、その場から立ち去り、誰もいない場所で通話機越しの相手に連絡を入れる。
「言われた通りのことはした。あとは立ち去らせてもらう」
『それで構いません。今回はご足労をおかけいたしました』
通話先にいる愚神――ニア・エートゥスからの声は腰の低いものだった。
「エートゥス殿には救われた義理があるからな」
そう言うと老人は通話を切り、外見にそぐわぬ速さで身を翻し、建物の立ち並ぶ区域の外へと消えていった。
解説
●目標
オレグ・ベルマンを逮捕し被害拡大を防ぐ
ロシア軍や政府からシーカの影響を排除する
●登場
オレグ・ベルマン
ロシア軍高官。一般人。これまでロシア軍の不可解な動きを主導してきた。国粋主義者を装っていたが正体はシーカメンバー。自分に反対する人間達の抹殺を愚神達に命じるなど悪事の証拠は全てH.O.P.E.が入手済み。
シーカ結社員×4
オレグの部下で全員ヴィラン。うち2人はジャックポットの『トリオ』『フラッシュバン』『ロングショット』と同様の術を使い、射程48sqの対物ライフルを装備。略称『銃員』。残る2人はドレットノートの『疾風怒濤』『怒涛乱舞』『烈風波』と同様の術を使い、槍を装備。略称『槍員』。
ムンギア×6
ミーレス級。通称『影忍』。身長1.8m前後。影が人の姿をとったような漆黒の従魔。
シャドウルーカ―の『潜伏』『毒刃』『地不知』と同様の術を使い武器は手裏剣、忍刀を使う。
コート姿の老人
愚神ニア・エートゥスと何らかの繋がりがあるらしき存在。従魔達を残し、既に離脱。全てPL情報。
状況
ロシアの地方都市にある住宅区域。同じような正方形の高さ6m前後の建物がほぼ碁盤目のように並ぶ。
建物間は路地裏で路地裏の幅は4m。至る所に荷物が雑然と積まれ障害物が多く、身を隠しやすいが、敵にも同じ条件が適用される。
オレグの居る建物はその区域の中央部分にあるまでは突き止めたが、それ以上の詳細情報は不明。中央部分より縦横各400m圏内に住む住民達は老人や結社員達に追い出されており無人。現在シーカ結社員と従魔達が無人となった圏内を警戒中。その周囲を老人に壊滅させられたロシア諜報機関員達が姿を変え、辛うじて包囲し対峙中。無線貸与済み。
リプレイ
●散開
人気のなくなった路地裏をエージェント達が密かに進んでいく。
「主の元に、ご両親と昔の友人達から年賀状が来ていたな」
「ええ。日々の活動の励みになりますね」
突入前に気負い過ぎぬよう、日常の話題をふるリーヴスラシル(aa0873hero001)に、月鏡 由利菜(aa0873)はそう応じつつ、内心で家族や友人達に詫びていた。
(故郷の皆様、戻れずにごめんなさい。手紙では篠宮クレアとして振る舞っていますが……今は『月鏡由利菜』としてやるべき任務を果たします)
そして由利菜はリーヴスラシルと共鳴する。
「オレグって人を捕まえれば万事解決ってこと?」
「依頼にはシーカの影響からロシアを解放する事も含まれているけど、ここでできることは、その認識で問題ないわ」
天宮城 颯太(aa4794)の確認する問いに、横にいた光縒(aa4794hero001)は颯太の認識を認めつつ、『ただし』と付け加える。
「他にも何かあるの、光縒さん?」
「関連報告書を閲覧する限り、この愚神達は人の心や弱点を侵食するのが巧みな存在よ。これで全て終わるとは思えない。今後も何かあると心した方がいいわ」
そう颯太に忠告し光縒は颯太と共鳴する。
この時光縒は一連の事件に絡むニア達愚神や、事件の本質を言い当てていたのだが、別の角度からキース=ロロッカ(aa3593)や匂坂 紙姫(aa3593hero001)も事件の裏にある何かに辿り着こうとしていた。
「アメリカの動き、奇妙だね、キース君?」
「ええ。どうにも1高官に対する対応にしては妙に強硬すぎる気がします」
紙姫の問いにそうキースは応じながらも、ロシア軍高官が抱いたのと同じ疑念をキースも抱いていた。
「もしかしたら、アメリカもシーカに操られている、とか思ってるね?」
「ええ、確証はありませんが。しかし全てはこの任務を成功させてからです。行きましょうか」
そう紙姫に応え、キースは紙姫と共鳴する。
「オレグ・ベルマン様の逮捕は、単なる一端に過ぎないのでしょうか?」
Летти-Ветер(aa4706hero001)と共鳴したГарсия-К-Вампир(aa4706)は、オレグ逮捕が終着点ではないと薄々感づいていた。
「とはいえシーカと関わりがある以上放っては置けませんし、何よりここは私の故郷。私のロシアでもあります」
――Для наших благородных и благодать земли(いと気高き我らが大地の恩寵があらんことを)
Гарсияは心のうちで母国語でそう唱え、あえて仲間達より前へ先行する。
(Гарсия。わかっていると思いますが、今までГарсияが敵からよく攻撃をされたのは)
(わかっています。『行動の合間が無防備だったから狙われやすかった』と。ですから今回は対策をとっています)
実のところГарсияが一連の戦いでよく攻撃を受けたのは、敵に脆いと思われたからではなく、Гарсияが携帯品のナイフを取り出し元から装備していた主武器を携帯品に格納する際と、再び携帯品にしまった主武器を取り出し装備するまでの間、敵に攻撃も防御もできない無防備な状態を晒し続けていたからだと、内にいるЛеттиより指摘され、今回Гарсияはそのような事がないよう、装備を整えている。
「オレグ・ベルマン。……愚神を利用し続けた男……か」
宿輪 遥(aa2214hero001)と共鳴した宿輪 永(aa2214)は億劫そうな口調で『シーカにもヴィランにも興味はないが』と続け、本音の部分は心のうちだけに留める。
――愚神や従魔だったのならば、この手で討てたのだが。
(ハル。……オレ達への依頼は討伐じゃなくて逮捕だ。そうだろ?)
内にいる遥は、愚神を使役し悲劇を積み上げていたオレグに怒る永の行動を『オレグの逮捕』の枠内にとどめようと努力していた。
既に壊滅したロシア諜報機関より、敵は無人となった区域の建物屋上にも配置している事は判明している。
「逮捕もさすがに一筋縄じゃいかないねえ」
「仮にもロシア一国を操っていた組織じゃ。そう簡単にはいくまい」
百目木 亮(aa1195)と ブラックウィンド 黎焔(aa1195hero001)はそう言いあう間も、現地組織を壊滅させたコート姿の老人にも警戒の念を緩めない。
既に持参したスマホの録画機能は起動済みで、これから起こる事を全て記録する準備を終えた後、亮と黎焔は共鳴する。
努々 キミカ(aa0002)と共鳴したミュー・イーヴォル(aa0002hero002)は、内よりキミカのもう一人の英雄が得た命題『大義の為ではなく、自分が後悔しないために戦う』について話をしていた。
(努々、『己で考える』ことから逃げるな。不正義な甘言に飛びつき、オレグという悪党に加担した連中のようにはなりたくないだろう?)
「……肝に、命じます」
ミューからすれば、自ら真偽を吟味せず、他者に判断を委ね思考を放棄した国粋主義者達など無様でしかなく、キミカはそうならないよう自分を戒める。
「オレグっておじさんは、ロシアの大雪原に咲いた『花』ね」
セラス(aa1695hero002)が、読書好きのセレティア(aa1695)には通じる言葉で、オレグを暗に『悪』だと評し、セレティアもセラスの評価に同意した。
「個人の主義主張を総意と言い張る人って大嫌いです。でも、そんな人も丁重に扱うのがわたし達淑女です」
そう言ってセレティアはセラスと共鳴し、キース、キミカと共に近隣の建物に敷設された屋上への梯子を器用に登っていき、こちらを狙うシーカ結社員や従魔達の迎撃に回る。
その間にオレグが隠れていると思われる場所へГарсияが前を進み、由利菜、颯太、亮、永がいつでもお互いにカバーできる位置を保って続く。
こうしてオレグ逮捕に向け、地上と屋上からエージェント達は迫っていく。
●交戦
突然、風が鳴った。ごくわずかなそよぎだったが、複数の場所から投擲された幾条もの光が、仲間達より先んじていたГарсияめがけてまっしぐらに飛んできた。
「やはり来ましたね!」
「後は任せろ!」
まずアイギスの盾を掲げた由利菜、フラメアを振るう亮が強引にГарсияの前に出て、前方より飛来した手裏剣を弾き飛ばし、由利菜のアイギスの盾からライヴスの光の羽が舞う中、頭上や後方から飛んできた手裏剣を、永が上に掲げたスヴァリンと、ベグラーベンハルバードを旋回させた颯太の一振りが、空間に火花を散らして弾き飛ばす。
「予想通り……だ、な」
「これって、手裏剣? もしかして敵って……」
永が細々とした口調ながらも堅実な守りを見せる中、颯太は敵の正体に心当たりがあったようだ。
(ユリナ。楽園もどきの従魔どもが来たようだ)
「Гарсияさん、敵の釣りだしありがとうございます。我は戦姫。抗う戦士達よ、我が下に集え!」
由利菜はリーヴスラシルの助言に頷くと、これから集結するであろう敵達に向け守るべき誓いを放ち、Гарсияへの攻撃を自分へと引き寄せる。
「さぁて、隠れてる連中を見つけ出すとするかね」
「潜伏を……見破、る」
亮と永の耳目は既に周囲に隠れる気配や微かな音から、敵の動きを把握していた。
地を蹴った敵達が、地面と言わず壁といわず駆ける音。手裏剣が風を切る音。
(ハル。位置は全て判明した。でも、こいつらを使役する愚神って確か)
「……ああ。……ニア……だ、な」
殺到する従魔達を差し向けてきた愚神に永は心当たりがあった。
――人に仕えるトリブヌス級愚神。『楽園の長』ニア・エートゥス。
やはり今回の一件もあの愚神が絡んでいるらしい。
(前後だけでなく。側面攻撃への警戒も呼びかけるのじゃ)
「前方に3体、『上から建物の壁を走ってくる』のが2体だ!」
殺到してくる全てを把握できた亮が、内からの黎焔の助言に従い、ライヴス通信機「雫」で他の仲間達へ追加の敵位置を伝え、仲間達の警戒網を立体的にカバーする。
「天宮城さん、私が守ります。私の側から大きく離れないで下さいね」
ライヴスの白い羽を散らして殺到する手裏剣をことごとく弾き飛ばしながら由利菜は傍らにいる颯太を庇い、やがて永や亮の指摘した場所から姿を見せた従魔――ムンギア達の姿に颯太は奇妙な叫び声をあげる。
「ニンジャ!? ナンデニンジャ!?」
叫びながらも『ロシア人って忍者好きなんだな』と颯太は見当違いな感想を抱いたが、内より光縒が冷えた口調で『違うわよ』と鋭い突っ込みを入れていた。
(Гарсия。シーカ結社員もこちらに来ました。迎撃を)
「皆様。先ほどはありがとうございました。これより私はあの結社員様を抑える事にいたします」
従魔達を釣りだす事に成功したГарсияは、内からのЛеттиの助言に頷くと、現れたムンギア達に紛れて殺到してきた槍持ちのシーカ結社員(以下槍員と略)に向け、忘れ形見とも言える小説「白冥」 を開く。
その途端Гарсияの周囲に冷気混じりのライヴスがあふれ、鋭い冷気はナイフを思わせる刃の群れへと変化し、Гарсияの吹雪にも似たライヴスの弾幕が槍員に放たれ、槍員に絡みついた。
Гарсияからの攻撃を受け、赤い霧をあげて転倒した槍員の体がГарсияの小説「白冥」の影響を受けて凍りつき、その動きを拘束する。
(颯太。動けない今が好機よ)
内からの光縒の助言に頷くと、颯太は拘束状態の槍員に肉薄し、疾風怒濤を発動してベグラーベンハルバードを3閃し、疾風の速度で颯太のベグラーベンハルバードが3度槍員に繰り出された。
肉を貫き、骨を穿つ異音が3度響き、槍員の血と骨粉の匂いが颯太の鼻孔を刺激する。
その匂いと手ごたえは、初めて人間と戦う颯太を戸惑わせるには十分だった。
――過ぎた力を持つべきではない。
以前光縒が颯太に語った内容をふと思い出すが、颯太は頭を振るって雑念を飛ばす。
「だからといって、立ちすくんで何もしないわけにはいかない! 悔やむ事なら後でもできる!」
そう颯太は叫ぶと共に、前より飛来した手裏剣をベグラーベンハルバードで防ぎ止める。
(ユリナ。住民の領域に土足で踏み込む従魔どもなど、滅するのみ)
内からのリーヴスラシルの声に従い、由利菜は攻勢に転じる。
「赤き鞘よ、蒼黒の剣の秘めたる力を解き放て!」
由利菜の裂帛の叫びが響き、改良され赤身と金鎖の美しい【SW(剣)】レーギャルンより『シュヴェルトライテ』の銘を得た無形の影刃<<レプリカ>>の蒼黒の刀身が鞘走り、宙に鞘の赤と刀身の蒼が入り混じる紫光の剣閃が描かれる。
既にリンクコントロールでリンクレートを上げ、ブレイブガーブで能力を底上げした由利菜の放った紫光の軌跡は、衝撃波と化して宙を疾駆し、建物の壁から壁へと跳躍するムンギアを捉え、胸から断ち切られたムンギアは塵を噴いて落下し、地面に叩きつけられる前に消滅する。
後方では亮と永が反対方向から突進してきた槍員を迎え撃っていた。
「おっさん、か弱いんで手加減してくれると嬉しいんだが……そうも言ってられないかねえ」
(ならば攻撃される前に無力化するしかないじゃろう?)
そう言いつつも亮は内からの黎焔の声に同意し、フラメアの間合でない間にSMGリアールを顕現し引き金を引く。
乾いた銃声が断続して響き渡り、亮の放った弾幕状ライヴスを槍員は浴び、弾痕を穿たれ、鮮血を飛沫かせる。
そこへ永の放ったブラッドオペレートによるライヴスのメスが槍員の身に突き刺さり、さらなるダメージを負わせるも、なおも槍員の突進は止まらない。
(ハル。敵の攻撃に備えて!)
遥の助言を受け永がスヴァリンを掲げ、亮がフラメアで防御の姿勢に入ったのとほぼ同時期に、槍員の槍が轟然と旋回し、大気を裂く槍の唸りに複数の刺突音が重なり、亮、永の体に手傷を負わせた。
一方援護射撃を放ってくるはずのシーカ結社員の銃要員(以下銃員と略)達は、屋根へと駆け上がってきたキース、キミカ、セレティアによって射撃を阻まれていた。
「まずはティア、キミカさんへの援護射撃です」
ともに遮蔽物のない建物と建物の間を飛び回り、キースがLSR-M110を構え、ロングショットで銃員の1人を狙撃する。
乾いた銃声が響き渡り、大気を貫いて飛翔したキースの弾丸状ライヴスは本来の射程を越え、キースを狙っていた銃員の胸を穿ち、のけぞらせた。
その間に周囲を見渡したセレティアの声が、凛として響き渡る。
「キースさん、努々さん。右手奥に別の狙撃手が伏せていて、左よりムンギアが高速接近中です」
「こちらも確認した。敵狙撃手はまかせろ!」
すかさずキミカが応じ、九陽神弓の弓弦を引き絞ると、キースと同じくロングショットで先制狙撃を試みる。
弓弦の響きに、銃員へと放たれたキミカの矢状ライヴスが風を切る音が重なり、さらにムンギアを射程距離に捉えたセレティアの詠唱が重なった。
「火精よ、燃え猛れ」
その途端、セレティアの放ったブルームフレアが、屋上を跳躍して手裏剣をセレティアに放ったムンギアを包み込む。
セレティアは左へと身体をそらしてムンギアの放った手裏剣を躱し、セレティアの火焔の乱舞に巻き込まれたムンギアは、業火に身を焼かれ塵と化す。
キミカの放った矢状ライヴスはもう1人の銃員の肩を貫き、銃員の血が飛沫く。
だが、キース、キミカのいずれの狙撃を受けた銃員達はそのまま倒れず、キースとキミカに報復の狙撃を放つ。
キースは軽く頭を引いて銃員の放った銃弾をかわし、銃弾はキースの後方にあった屋上の一部を削ったが、キミカに飛来した銃弾は回避するキミカに食らいつき、キミカにダメージを負わせた。
(しっかりしろ努々。大したことはない)
ミューの加護のおかげか、キミカの受けたダメージは少なくすみ、キミカはキースとセレティアに『私から視線を逸らすんだ』と警告後、銃員達を射程内に入れた後フラッシュバンを発動する。
まともにキミカのフラッシュバンを浴びた銃員達が衝撃で意識を削り取られる中、キースのロングショットが再び放たれ、キースの弾丸状ライヴスが銃員の1人を貫き、もう1人の銃員もセレティアが破魔弓の弓弦を鳴らし放った白い光の矢状のライヴスに貫かれ、今度こそ銃員達は倒れ伏す。
ただちにキースが諜報機関より貸与された拘束具を使いキミカにも声をかけ2人で銃員達の確保に移り、セレティアはライヴス通信機「雫」を介し、仲間達に『屋上の敵は全て無力化しました』と連絡を入れる。
こうして屋上での戦いには決着がつき、戦いは路地裏に絞られた。
●殲滅
セレティアより屋上での戦闘の状況を聞いた亮に、内から黎焔の助言が届く。
(この際じゃ。まとめて治療できる人数は増やした方がいいじゃろう?)
黎焔の助言に頷くと、亮は屋上にも伝わるよう無線でこう叫んだ。
「回復入るぞ! 努々の嬢ちゃんも一度こっちに来てくれ!」
亮に呼ばれたキミカは一瞬持ち場を離れてもいいか悩んだが、内にいるミューより『負傷は軽いが今のうちに回復しておくんだな』と助言を受け、するすると屋上から亮のもとへ近づく。
それを確認した亮はケアレインで治癒の力を帯びたライヴスを周囲一帯に降り注ぎ、槍員と交戦中の永、やってきたキミカ、そして自身の負傷を回復する。
「永。すまないがその槍使いは任せた。努々の嬢ちゃん。今屋上にいるキースやセレティアにも援護を頼めるか? 俺はГарсияの援護に回る」
治療を終えた後、永とキミカに後方の敵への対処や援護を頼み、亮は先行するГарсияのもとへ疾駆する。
(努々。ここは屋上からの援護に終始すべきだ)
「了解だ。永。貴様の援護はしてやる」
内からもミューにそう言われたキミカは、亮の提案に同意すると再び屋上へと駆け上がり、キースやセレティアに援護攻撃の件を話し、キースとセレティアは承諾して、各屋上より階下の仲間達への援護に入る。
前方では由利菜が敵群を釘付けにして他の方向へ向かわせない間に、Гарсияは単独でオレグの潜伏する建物の捜索に移る。
由利菜の守るべき誓いの効果が切れたのか、ムンギアの1体がГарсияへと手裏剣を投じようとするも、飛来した銃弾状ライヴスがムンギアの近くを跳ね、ムンギアの投擲を妨害し、放たれた手裏剣はГарсияから逸れた場所に突き立ち、乾いた音を上げる。
『行って下さい、Гарсияさん。結社員から引き出せた情報では中央にある、周りより背の高い建物にオレグはいるそうです』
「ありがとうございます、キース様」
別の建物屋上からLSR-M110で威嚇射撃を行ったキースより、ライヴス通信機でГарсияに情報を送り、Гарсияはキースのいる建物へと頭を下げる。
(Гарсия。今周囲に術に巻き込まれる味方はいません)
周囲に味方がいないことをЛеттиより伝えられ、Гарсияはウェポンズレインを発動する。
「ムンギア様、先を急ぎますのでこれにて失礼いたします」
Гарсияによって召喚されたУбить вампира状のライヴスがГарсияの頭上に多数展開し、空間に何十条もの銀光の雨が降り注ぐ。
Гарсияのウェポンズレインで全身を貫かれたムンギアは塵を撒いて消え、消滅を見届けることなくГарсияはオレグのもとへと疾駆する。
その頃には残る敵達の最期も近づいてきた。
(キミカ。敵の横槍を防げ)
「邪魔はさせないぞ」
屋上に戻ったキミカはミューの助言に従い、永のもとへ壁を走って迫るムンギアへ、九陽神弓の弓弦を鳴らして矢状ライヴスを放ち、キミカの一射に射抜かれたムンギアは塵を撒いて落下し消える。
「ティアさん。魔法で支援をお願いします!」
路地裏からの由利菜の要請を受け、セレティアの詠唱が再び屋上に響いた。
「風精よ消え失せよ」
セレティアの示した先でゴーストウィンドが発動し、不浄の風が永と戦っていた槍員や近くのムンギアだけを包み、その身を朽ちさせムンギアは塵と化し消えた。
その間に永はケアレイで自分の負傷を回復させて態勢を立て直し、顕現した天雄星林冲が炎のようなオーラを曳いて翻る。
(ハル、今が攻勢の時だ)
内からの遥の意志に呼応し、永の天雄星林冲の穂先が稲妻の勢いで槍員に突き出される。
永の天雄星林冲は槍員の身を貫き、噴き上がった血の筋が陽光に紅い虹を描き、槍員は倒れ伏すと、屋上から降りてきたセレティアが持参した拘束具で確保に動く。
(ユリナ。残る従魔どもが複数狙える範囲に入ったぞ)
「わかりましたラシル。熾天の羽よ、我が剣に宿り障害を祓え!」
リーヴスラシルの助言を受け、由利菜は着地したムンギア達のもとへ飛び込むと、一閃を発動する。
由利菜は一息で『シュヴェルトライテ』を鋭く振るい、蒼黒の閃光が相次いで空間とムンギア達を複数回切り裂いた。
肉の切り裂く鈍い音と、塵をしぶく音が交錯し、由利菜の一閃で斬り刻まれたムンギア達は塵と化し消え全滅する。
(颯太。最後まで気を引き締めて)
「これで終わりだ!」
光縒の忠告に呼応した颯太が、残る槍員へ一気呵成を発動し、颯太のライヴスが集まったベグラーベンハルバードは衝撃力と重みのある一撃となって槍員を転倒させ、颯太の追撃の刺突を浴びた槍員は血を迸らせ沈黙したのと、亮の援護を受け先行していたГарсияから連絡があったのはほぼ同時だった。
『オレグ様の居場所を発見いたしました』
●尋問
オレグの潜伏場所が判明した後のエージェント達の行動は迅速だった。
「お前を助けに来る者はもういない。命が惜しければ、お前が犯した罪の告白と引き換えだ」
嫌いな人間に向ける口調で永が諜報機関より借用した拡声器と銃を使い、オレグに投降を呼びかけ、共鳴を解いたミューは諜報機関より借りてきた鞭を唸らせ、地面を叩き建物に籠もるオレグに迫る。
「せめてもの慈悲だ。我々に協力して安全な居場所を得るか。この場で俺に八つ裂きにされるか。選択権は与えてやる」
ロシア諜報機関が何故そんなものを持っていたのかは『そういう組織だから』とだけ述べさせて頂く。
永やミューの迫力に押され、セレティアがマジックアンロックを使うまでもなく、オレグ・ベルマンは外へ飛び出し逃げようとするが、その眼前にГарсияの投擲したナイフが通過し、それ以上の逃亡を阻止する。
「オレグ様を殺させるわけには参りませんので」
Гарсияが淡々と告げる中オレグは逮捕され、由利菜がジョセフを通じロシア諜報機関へ根回しを行った結果、オレグの身柄はH.O.P.E.に移され、そこで尋問が始まる。
「お前さんの協力者が認めたよ。お前さんのやってきたことをな」
亮はオレグに消されかけた人間達や愚神になったヤナ・コトワの名は出さず、他の協力者の名を出そうと試みる。
キースはオレグに『アメリカも貴方達シーカの影響下に入っているんでしょう?』とカマをかけてみたところ、あっさりオレグはそれを認めた。
「シーカはロシアとアメリカを対立させることで世界の均衡を図っている。違いますか?」
キースが問いかけを工夫し、オレグより情報を引き出すことに成功する。
「シーカの目的はロシアやアメリカ、H.O.P.E.や愚神勢力『全て』を制御すること、ですか」
キースも周りのエージェント達も、愚神が人間に制御できる存在ではない事は十分理解していたが、オレグやシーカは『できる』と思っている。そこがエージェント達にはわからない。
「コート姿の老人もオレグさんが制御していたんですか? その存在も愚神なんでしょう?」
共鳴を解いた颯太がオレグに尋ねると『あの老人は邪英』という意外な答えが返ってきた。
「私が聞きたいのは1つだけです。あなたがシーカの為に動いていたのは、人々を『楽園』で救いたいと思ったからですか?」
キミカの問いにオレグは奇妙な答えを返す。
「そう信仰しているのは愚神だけ、ですか。ではあなたは何のために世界の均衡を?」
キミカが重ねて尋ねたことへのオレグの答えは、ミューや横から遥に止められつつも、弾を抜いた銃をオレグにつきつけていた永を不快にするには十分すぎた。
「ふざけるな。何が『平和のため』だ。恐怖と緊張のもとでしか人々は平穏に過ごせない? それは貴様達シーカだけの傲慢な思考だ!」
ミューはオレグの語るシーカの『本質』を冷徹にそう斬り捨てた。
●雪解け
セレティアとセラスは、ロシアに残存する国粋主義者への取り調べは慎重に行うよう関係機関に提案し、根回しを行っていた。
「騙された、という言い分には耳を傾ける余地はあります」
「否定ではなく寛容の精神で」
セレティアやセラスの姿勢が、頑なだった国粋主義者達の態度を軟化させ、黎焔、由利菜、リーヴスラシル達の話を通しやすくなった。
「一時でも疑う事を忘れ、賛同したのであろう? その事実を忘れてはならぬよ」
亮がスマホに録画していたオレグの自白を国粋主義者達に見せた黎焔は、彼らにただ『自分達のした事を忘れるな』と諭していた。
由利菜やリーヴスラシルも、彼らを未来へと思考を向けさせる説得を行う。
「これからは祖国だけでなく、外の世界へも愛情を向けなければなりません」
「まずは住宅街の復興に協力して貰おう」
エージェント達の話を聞いていた国粋主義者達は、深く頭を垂れた。
「我々が間違っておりました。これからは世界と復興に協力して参ります」
こうしてエージェント達の奮闘により、ロシアより偽りの国粋主義は姿を消し、ロシア政府や軍は本来の動きを取り戻すことができた。
ロシア現地部隊に発せられていた不自然な命令は全て撤回され、ロシアとH.O.P.E.は協調して動くことが可能になり、両者は本格的な愚神達との戦いや事後の復興へと動き出す。
残るは、オレグより引き出せた『アメリカに不自然な動きを強いるシーカの影響の排除』だ。
エージェント達によるオレグへの尋問によって、アメリカがシーカの影響を受けている情報は引き出せても、メンバーの名前を引き出すには具体的手段が足りなかったので、今後事態解決のためにはアメリカへ飛び、さらなる情報や証拠を確保し、シーカメンバーを引きずり出す必要がある。
「……ハル……」
常になくオレグやシーカへの怒りを抱える永に、遥は『本日の課題』を言い出しかねた。
だが永はいつものように遥に『沐猴にして冠す』と答えようとして少し考え、こう答えた。
「……人面獣心……だ、な」
――人を単なる道具としか思わぬ、人でなし達は必ず引きずり落とす。
シーカを巡る物語の舞台は、ロシアからアメリカへと広がろうとしていた。