本部

初詣に行こう!

時鳥

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2017/01/13 20:20

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-

掲示板

オープニング

●初詣
 日本で年明け、初めて神社や寺院などに参拝する行事である。
 今年一年の無事や平穏を祈願したり、一年の運勢をおみくじというもので占ったりする。
「前回はドイツのクリスマーケットでしたし、今回は日本の初詣を体験してもらうのはどうでしょう?」
「しかし、参拝の混雑が大変ではないかな」
「何を言ってるんですか! はぐれそうだから手を繋ごう、なんてロマンスがあるかもしれませんし、むしろ好都合でしょう!」
「甘酒を参拝者に振舞われてるところがいいです~」
 わいわい、と次のイベントの話に盛り上がる息抜き企画部。
 殺伐とした戦闘や、難しい依頼に日夜頑張るエージェント達の息抜きの為、楽しいことを斡旋することを目的としていた。
「慣れてない方のためにまた、パンフレットの作成をして」
「折角ですから希望者には着物のレンタルや着付けを行うのは?」
「いいですね!」
 特に企画部女性陣が楽し気に盛り上がっている。
 こうして年明け一回目の企画が決まった。

●貼り紙
 日本で行われる初詣を楽しんでみませんか?
 人は多いですが、おみくじや甘酒など、日本古来からの文化に触れあうことが出来ます!

 初詣で何をしたらいいか分からない。
 初詣ってなあに?
 と言う方も大丈夫!
 息抜き企画部特性パンフレットで細かいことも丸分かりです!
 当日は企画部職員も同行いたしますので、分からない事があれば聞いて頂くことも可能です。

 また、息抜き企画部では企画当日、希望者に着物のレンタルや着付けを行います。
 気になった方は息抜き企画部までどうぞお越しください!

解説

●目的
初詣を楽しむ。

●神社
比較的有名な東京にある神社。
甘酒が参拝者に振舞われています。
おみくじ、絵馬、お守りが売っています。

・手水舎
お参りをする前に手水舎で心身を清めましょう。
手水の手順
1.右手で柄杓を持ち、水を一杯掬って左手に掛けます。
2.柄杓を左手に持ち替え、同じように右手に掛けます。
3.柄杓を右手に持ち、左掌に水を注いで、口をすすぎます。※柄杓に口をつけたり、水を飲んだりしないようにしましょう。
4.もう一度、左手に水を掛け清めます。
5.最後に柄杓を両手で立て、柄杓の柄を洗い流します。※柄杓を戻すときは伏せて置きましょう。

・お参りについて
参拝場所は参拝者が並んでおり混雑気味になっています。
きちんと並んで自分の番を待ちましょう。
偶に押されたり、人の流れに巻き込まれ連れとはぐれてしまう可能性がありますので、気を付けましょう。
参拝の作法は二礼二拍手一礼です。

・おみくじ
一般的なおみくじです。御籤棒を使ったおみくじです。
おみくじの手順
1.百円を料金箱に入れる、細長い棒の入った六角形の筒状の箱を振り、棒の端に書かれた番号と同じ籤の番号を併設された
2.六角形の筒状の箱を振る
3.筒状の箱から出てきた細長い棒の端に書かれている番号をチェック
4.籤の並んだ棚から指定の番号に入っているおみくじを取る
※結果はプレイングに指定が無い場合ランダムになります。

・絵馬
今年の干支、鶏が書かれている絵馬です。
縁結び用にハート型の絵馬もあります。

・お守り
様々な種類のお守りが売っています。
一般的な形のお守りから、鈴の形をしたお守り、破魔矢の形をしたお守りなどもあります。

リプレイ


 桜寺りりあ(aa0092)が息抜き企画部のパンフレットを手に比蛇 清樹(aa0092hero001)の様子を伺うように見上げながら口を開いた。
「清樹、えと……あの、初詣を楽しめるらしいの……」
「……わかった、行きたいんだな。となると着物を準備するか」
 察した清樹が小さく頷き返し家の奥へと向かう。
「レンタルじゃなくて良い、です?」
「家にあるんだからそれで良いだろう。普段着ないものも多いからこれを機に着ておけ」
 清樹の後をついて歩きながら問いかけるりりあ。着物の仕舞ってある部屋を目指しながら清樹は答えた。
 二人で着物を選ぶ。
 りりあは可愛い桜色ベースの着物にもこもこのストールを付け、見た目にも暖かそうだ。清樹は黒生地の金で模様の入った着物を着こなしている。
 着付けは全て清樹が行った。
 二人は着物姿で連れ立って目的の神社へと向かう。
 そんなりりあ達と同時刻頃。企画部からパンフレットを貰ってきた大宮 朝霞(aa0476)が春日部 伊奈(aa0476hero002)に声を掛ける。
「伊奈ちゃん! 初詣に行こう!」
「初詣? なんだそりゃ?」
 当初、元いた世界の事も、自分の名前すら満足に覚えていない伊奈が初詣を知ってるわけもなく首を捻る。
「神社に新年の挨拶に行くんだよ。今年一年の心構えを神様に宣言しに行くんだよ!」
「なんだぁそりゃ? 面倒そうだなぁ」
「出店もあるとおもうよ? たこ焼きとかやきそばとかさ」
「たこ焼き!?行く行く!」
 渋る伊奈を難なく行く気にさせた朝霞。でもまずは、と言って、伊奈を連れ企画部で着物のレンタルと着付けをしてもらうことにした。
「平穏無事とは行かんだろうから無病息災を願うとするか」
「え~っと、ボクが願掛けをするのは違う気がするんだけど……」
 神社へと向かおうとする御神 恭也(aa0127)の隣で伊邪那美(aa0127hero001)が唇を尖らす。自称日本神話に出てくる神様である彼女が「神に願掛けに行く」というのは違和感があるようだ。
 しかし、結局は恭也の後についていく伊邪那美。
 他にも神社へ向かう人影があった。真壁 久朗(aa0032)とアトリア(aa0032hero002)だ。
「余計な気を……使わずとも、良かったでしょうに」
 アトリアは久朗が企画部に申請した薄紅の生地に蝶と菊のあしらわれた着物を着ており、機械の手を隠すように両手には品のいいレース飾りのついた白手袋を着けていた。
 ぶつぶつとむっつり顔で零すアトリアだったが、内心は嬉しいと思っているものの天邪鬼な性格が邪魔をして素直になれないでいた。
「せっかくだしな。……前に行った祭りの時とはまた雰囲気が違ってて、いいんじゃないか」
「……せっかくと言うならアナタも着たらいいではありませんか」
「動きづらいからな」
 いつもと変わり映えのしない服装の久朗と並んでアトリアは神社までの道を歩む。

「ヴァーンーヴァーンー。――初詣行くわよ」
 雁屋 和(aa0035)が中年男性、ヴァン=デラー(aa0035hero001)を見つけるとくいっと親指であらぬ方向を指し、さらっと言ってのけた。ヴァンは不思議そうに和を見遣る。
「ノドカ、ハツモウデとはなんだ? 何時頃行うんだ」
「今よ」
「むう」
 ヴァンの問いかけに和は即答した。
 そういうわけでサクサクとサクサクと初詣にやってきた和とヴァン。
 まずは手水舎へと向かう。
 柄杓を持ち、手順を踏まえて手水を行う二人。
 その頃、同じ手水舎に久朗とアトリアが向かってきていた。
 初詣の人手に驚きつつわくわくとした雰囲気を隠しきれてないアトリアを久朗が導いている。
「……人、多いのは仕方ないか」
「あのワタシ、手袋を取るのは……」
 そっと、久朗にだけ聞こえる声でアトリアが言った。着飾っている時は特に他の女性とは違う自身の特徴を見られたくない。そんな気持ちが彼女にはある。
 手にした柄杓をアトリアに渡し、久朗は他人から見えないよう体を寄せ真横に立ち塞がる。
「立ってる。ほら、手順見てやってみろ」
「……この通りにやればいいのですね」
 企画部に貰ったパンフレットを確認し、アトリアは手袋を外した。首から下の漆黒の鋼鉄の一部が姿を現す。久朗の影、鋼の手に流された水滴が光った。
 丁寧に手順に従って手を清め終えると、白手袋を着けなおして久朗の腕をつつくアトリア。久朗がアトリアが置いた柄杓を手に取る。
 そこへりりあ達が手水舎にたどり着いた。
 清樹が先に手本をりりあに見せる。じっとその様子を見つめるりりあ。
 そして、清樹から柄杓を受け取り見よう見真似で手水を始める。しかし、袖が下がり手水舎の水に触れそうになってしまっていた。清樹はりりあが着物を濡らさぬよう袖を持ち、極力気を付けるようにと注意を促す。
 一方、参道前。
「うっが~、何なのこの人混みは!? 正中にまで人はいるし、一揖もしないなんておかしいよ!」
 ごった返す人込みに伊邪那美が大きな声を上げる。
「落ち着け 参拝客全てが作法に則っていたら混雑がもっとひどい事になるぞ」
「あのね、ボクが言っている事は常識の範囲だよ。恭也に判る様に例えると車に信号に従って逆走をするなって言ってるみたいな物だよ」
 伊邪那美の肩に手を置き、落ち着かせようとする恭也に両手に拳を作りながら伊邪那美が抗議を続けた。
 正中とは参道の中央のことで、一般的には「神さまの通り道」とされている。しかし、人が多いためか、現代では知らない人が多いのか、正中を歩いている人も多く見受けられた。
「まあ、あれだ。現代社会において省略できる事は省略しているだけだなんじゃないか?」
「それだけじゃ無く、犬猫まで境内に連れ込むなんて信じられないよ」
「いかんのか?」
「……恭也、本気で聞いてるの? 基本獣は穢れとして扱われるし、ここに祭ってるのが稲荷なら犬との相性は最悪なんだから」
 更に指摘を続ける伊邪那美。流石は神世七代の一柱を名乗るだけはあり、幼い見た目では考えられない程しっかりと知識を持っている。
 しかし、やはり見た目は幼女。そんな彼女が大きな声で神社の常識を叫んでいれば自ずと視線を集めてしまう。
「判ったから落ち着け、周囲の視線が集まって来てるぞ」
「大体、恭也は行儀よくしろってボクに言うくせに手水舎での清め方も間違ってたじゃないか。こうなったら今日は、参拝の作法を恭也に教え込んであげるからね!」
「藪蛇か……矛先がこっちに変わったか」
 はぁ、とため息を逃がし逸れないように伊邪那美の手を取り参道へ向かう恭也。二人が動き出すと集まっていた視線は散った。
 参道を人の流れに合わせながら進む中、伊邪那美は参道の歩き方、手水舎での清め方を恭也に教え込む。
「やれやれ、何時もと立場が逆転してしまったな」
「はい、無駄口を叩かない。次は参拝の仕方を教えるからね」
 いつもであれば恭也が年上、保護者として教えたり世話を焼いたりしているのだが、今回ばかりは伊邪那美の独壇場だった。
 同じように参拝の列に並び、伊邪那美の講義の声を聞いていた和とヴァンは神様、について話をしていた。
「とはいえ神様にお縋りする事なんてまずないから、一年の抱負を願って『去年もお世話になりました、来年もよろしくお願いいたします』くらいでいいわ」
 そして、参拝するときのお願い事へと話が移る。
「よくわからんがこの国の人間は事あるごとに「神」と言う物に縋るのではないのか? 何故願いだけを?」
「んーん……難しいけどそこは人による、としか言えない。私は「神様は私を見てくれているからそうそう悪いことはできない」と言うイメージで生きて来たから」
 改めて問われると難しい、と眉間に皺を寄せながら答える。日本には「天道様はお見通し」ということわざがある。太陽は、世の中を照らし出しどんな小さなことでも全て見ている為、悪いことはできない。という戒めの言葉だ。「お天道様が見ている」のような言い方もする。日本神話に出てくる天照大御神の存在など、太陽と神様は結びついているのだ。
 そんな話をしている間に徐々に列は進んでいる。
 彼女達の後方、参拝所へ向かう道すがら人混みに気圧され、たじたじとなるアトリア。
「はぐれそうだな……これ、つかまってろ」
 はぐれそうだな、の一言にてっきり手を繋ぐのかと思ったアトリアだったが、久朗は自身のマフラーを指し示す。
 そういう事を彼に期待している訳ではないが現代に来て色々な事を学んだ彼女にも憧れというのは二つや三つ、抱いているらしかった。
「……では」
 人混みでアトリアの表情は久朗には見えない。
「《しっかり》つかまっておきますね」
 アトリアは力いっぱいぐいっと強く久朗のマフラーを引っ張った。
 二人が微笑ましい(?)やり取りをしている最中、運よく参拝所にたどり着いたりりあと清樹。二礼二拍手を行い並んで願い事をする。
(新しく契約した方と清樹が上手くやっていけるようにお願い、します)
(家内安全、りりあが健康に一年無事に過ごせるように)
 りりあと清樹それぞれがお互いのことを祈ったがそれは本人たちしか知らない。
 一礼し、その場を離れる二人。
 おみくじを引くため、社務所へと向かう。その途中、りりあは清樹の様子を伺うように顔を上げた。
「あの……清樹?」
「なんだ? 願い事は心に閉まっておく方が良いんだぞ」
 清樹の言葉にりりあは首を横に振る。
「んん、あの……勝手に契約してごめん、なさい」
 少し躊躇ってから俯くりりあ。
 相談せず第二の契約を結んだ事。
 そのことがりりあの心の中にずっと蟠っていた。清樹に謝らないと、と。
「……別にお前が決めたことなら構わん」
「それでも、やっぱり何も言わなかったのはいけなかったと思って……」
「これでもお前の見る目は信じている。まぁ……仲良しこよしをするような年でもないからな」
 清樹は緩く首を横に振る。突然増えた第二英雄との仲は良好とは言い難いが、りりあの幸せを願う、という目的は同じ。
(その部分ではお互いに信用しているからな)
 と清樹は口に出さずに思った。だが、それが通じたのかりりあも安心したように小さく微笑む。
 二人は穏やかの空気の中、社務所へと足を進めた。
 参拝所へ場面は戻る。一揖二礼二拍手一礼一揖で御賽銭を入れるのは恭也と伊邪那美だ。
 より丁寧な参拝を伊邪那美の指導の下行う。
「今日は昇殿参拝じゃ無いから一礼のあとで天津祝詞をあげて貰うからね」
「天津祝詞ってなんだ?」
「はぁ~、天津祝詞を知らないなんて……もういいから、ボクが祝詞をあげるからそれを真似してくれれば良いよ」
「ぐっ、完全に呆れているな此奴は」
 やれやれ、と言いたげに肩を竦める伊邪那美にいつもと逆にしてやられて苦々しい顔の恭也。
 伊邪那美の後に恭也が祝詞を唱えている最中、和達も参拝所にたどり着いた。
 手を合わせ和はお参りをする。
(今年は――戦います。戦うのが怖くて、エージェントとして登録してからもずっとずっと逃げて来たし、今も怖いけれど。隣に相方が居るし、契約は、約束は守らなければいけないし――何より、聞きかじってきて、力があるのに、戦わないのは只管にズルい事だと思う、から)
 和が祈るのは決意、或いは戦う事の新年への抱負。
(記憶は戻らないのではないか、と少しだけ諦めていた。しかし、俺の相方が俺に付き合って―戦うのだと言う。ならば、俺は諦めるわけにはいかない。俺の記憶の為に、そして、相方を生かして返すために)
 そしてヴァンが祈ったのは記憶を取り戻す事への僅かな諦念と新年への期待。
(見ていていただければ、幸いです)
 最後に二人揃い同じように心の中で語りかけた。そう今燦々とこの場を照らし出す太陽のように。今後を見守っていてほしい、と。
 その隣に久朗とアトリアが立つ。彼らも順番が来たのだ。マフラーで首が締まらないように抑えていた久朗だが、アトリアが手を放したのを見て軽く整える。さて、と一息ついて参拝しようとしたが。
「……クロウ、サンパイとは何をするのですか?」
 実は参拝が何か聞いていなかったアトリアが賽銭箱の前で困ったように首を傾げた。
「賽銭を入れて、ああいう感じで手を叩いて礼をして……あとは誓いを立てるんだ」
 久朗が隣の和や他の一般人を顎で指示し、参拝の手順を教える。
「誓い?」
「この一年自分が何を頑張るか……神様に表明するって事だな」
「ふむ、アナタは何を誓うのです?」
 手を合わせ誓うことを考えながら久朗をアトリアを見遣る。気が付いた久朗が視線を合わせ。
「…………秘密だ」
「なっ! ではワタシも教えません!」
 久朗の答えにそっぽを向くアトリア。
 何を誓ったのか、本人にしか分からないことだが、心の中ではっきりと表明することで彼女の中にその気持ちは残って行くだろう。


 社務所前。
「お母さんは?」
 巫女服姿の光縒(aa4794hero001)が迷子の子供に屈みこんで話を聞いている。彼女は助勤に来ており、ついさっき自分の勤務を終えたところだった。
 いつもならば仏頂面の彼女だったが、子供相手ということもあり、少し柔らかい表情を浮かべている。
「一緒に探しにいこうね」
 と、子供の手を取り親を探しに社務所を出ていく。
 入れ違うようにりりあと清樹が社務所へと到着した。
「おみくじは引かなければいけないの……」
「引かなくてはいけない事はないがな」
 おみくじの箱を持ち真剣な表情のりりあ。
「清樹も引いて」
 と、二つあるうちの箱を一つ、清樹に手渡す。
 そして二人揃っておみくじを引いた。
 清樹が先に籤の並んだ棚から自身の番号のくじを取り出す。小吉だった。そんな籤を清樹が見つめているとりりあが自分の籤を持って嬉しそうに清樹の袖を引く。
「みてみて、清樹……大吉」
 と、嬉しそうな笑顔を浮かべるりりあ。
「さ、帰りましょうか。なあに、おみくじなんて引かなくてもいいわ」
「? こういう所では引くのが作法なんだろう?」
「何言ってんのよ! 今年からはアンタにも、沢山頑張ってもらうんだから何か食べた方が良いわ」
 社務所を通りかかる和とヴァン。ヴァンがちらっとおみくじのセットに視線を向けるが和は首を振ってしっかりしたことを言う。
「あ……雁屋さん。雁屋さん達ももいらしてたんですね」
 そんな知り合いの姿を認めりりあは声を掛けたのだった。

「朝霞! はやくたこ焼き食べよーぜ!」
「ちょっと待って伊奈ちゃん。まずはお参りからだよ」
「ちぇー」
 着付けを終えて神社にやってきた朝霞と伊奈。伊奈は出ている屋台からたこ焼き屋を探していたが、先にちゃんとしよう、と言う旨を言われ口を尖らせる。
 朝霞は薄いピンクの生地に梅の模様が散りばめられ淡い色合いの着物の上に紺色の鮫小紋柄の羽織が引き締まって見える。一方、伊奈は赤い髪に映えるよう、濃い赤の生地に椿が咲き誇る着物の上に白地にの赤やオレンジの雪輪文様が散りばめられた羽織というチョイスだ。
 手水舎に向かう途中、社務所でお守りを見ている久朗達の姿を認める朝霞。
「真壁さん!」
「大宮……これからか?」
 声を掛けると久朗が振り返り二人の恰好を見ながら問いかける。そうです、と朝霞は頷いて見せた。
 混んでいるから気を付けた方がいい旨を久朗が伝えると元気な返事と共に朝霞は伊奈と手水舎に向かっていった。
 二人が去った後、お守りを珍しそうに眺めるアトリア。
「留守番しているセラフィナに手土産でもと思って」
 目で一つ一つのお守りを追いながらアトリアはもう一人の英雄の顔を思い浮かべた。言われて久朗もお守りに目を走らせる。
「鳥の形の御守りがいいだろうな。あいつ、鳥好きだし」
「ではこのストラップにしましょうか!」
 久朗の言葉に鈴のついた小さな鳥のストラップを手に取りアトリアは巫女へと声を掛けた。
 一方、手水舎へたどり着いた朝霞と伊奈。
「朝霞、コレはどうやんだ?」
「……正直、私も詳しくはわからないのよね。とにかくお参りの前にお清めをしておくんだよ!」
「へぇ~」
 やり方を詳しく知らず首を捻る二人。他の参拝者のやり方を真似してみる。
 中々うまい具合に手水を終えて参道に向かう二人。そこで久朗が言っていた「混んでる」ことを実感した。
「ちょっ……、すごい人だなこりゃ」
「初詣だからね! 同人誌即売会の激戦地に匹敵する神社もあるぐらいだし」
「……その例えはよくわからねーけどな」
 人混みに気圧される伊奈に対し、朝霞は余裕の態度。なんだかとっても人が多い場所には慣れているようだ。
 慣れない着物でゆっくりと歩きながら二人は列に並んだ。
「ひゃー!」
 そんな二人の近くで並びながら声を上げる七森 千香(aa1037)。アンベール(aa1037hero001)は押し黙っている。
 手水舎で清めた手が二人ともものすごく冷たい。
 逸れないように手を繋いでみたが、お互いの冷たさにこの反応である。
「アンベールさんの手、冷たい!」
「千香の方が冷たいぞ、生きてるのか?」
「生きてます!」
 等と、コミカルにやり取りをしながら、手が凍らないように、と適当に手遊びを始める。動かしていれば暖かいし、アンベールも暇にならないだろう、と考えたからだ。
 千香に合わせてアンベールも手を同じように動かす。
 徐々に手先がほんわりと暖かくなっていく。列も徐々に進んで行き、もう少しで参拝所に着きそうだった。

 恭也と伊邪那美は甘酒を貰ってから二人でおみくじを引きに行っていた。
 ちなみに結果は恭也が凶、伊邪那美が大吉と極端だ。
 甘酒で両手を温めながら大吉が出て当たり前、と言う感じの伊邪那美。流石は神様である。恭也のはキョウヤだけに凶、等と洒落を利かせたのだろうか。
 無病息災のお守りをその足で買いに行く恭也。
「伊邪伊邪那美は買わんで良いのか?」
 大吉だったからか? と言いたげな恭也の様子に呆れたように伊邪那美は目を細める。
「あのね……忘れてるみたいだけど、国生みの一柱だよ? ボクは」
 改めて伊邪那美は自分が神であることを告げた。イザナミである、と。
「鈴のやつがあるぞ、りりあはこれで良いだろう」
 その神様主張をしている横で、清樹がりりあに鈴のお守りを手渡す。
(これでどこに行ったかすぐにわかるな、迷子防止にぴったりだ)
 と思った事も知らず、りりあは素直に頷く。
「あ、可愛い……じゃあ、あたしはこれで。清樹には藍色のを……」
 お揃いで、と色違いをもう一つ、それから白のお守りも留守番をしてるもう一人の英雄に、とりりあは手に取った。
 三つの色違いの鈴のお守りを買う。
 このお守りが三人の絆を見守ってくれるかもしれない。
 小さな鈴の音に小さく微笑み、りりあは清樹と共にその場を後にした。
 りりあ達が去る頃、迷子の親を無事に見つけた光縒は、微笑みながら手を振って子供と別れた。
 戻ろうと振り返る。
 そこで交通整理のアルバイトを終えた天宮城 颯太(aa4794)と遭遇した。
 コンマ1秒で光縒の表情が鋭くなり、物凄く、緊迫した空気が流れる。
「や、やぁっ、光縒さんっ、き、奇遇だね!」
 しどろもどろになりながら声を掛ける颯太。
「……いつから、見てたのかしら」
「み、見てたって、な、何を?」
「そう……。見てないならいいわ」
 鋭く冷たい視線のまま光縒は踵を返しその場を去ろうとする。颯太は慌てて追いかけた。
「ね! 折角だから、一緒にお参りして帰r……」
 そして、何もない場所で躓いて転ぶ颯太。それを光縒は溜息をついて見下ろす。
「人混みは好かないわ。でも、行くというのなら、今が一番いいでしょう。早くしなさい」
「あ、見捨てていかない……。光縒さんが、優しい!」
 嬉しそうに光縒の後に颯太は続く。こんな扱いでも幸せなのか、颯太……。
 彼らが向かう参拝所では丁度、朝霞達の番が迫っていた。
「朝霞、コレはどうやんだ?」
「……えっと、お賽銭をあのお賽銭箱に入れた後に、手を合わせて神様にお願い事をするんだよ」
「へぇ~。朝霞、私アレやりたい! がらんがらんっての」
 前方で鳴らされる鈴を指さしてはしゃぐ伊奈。
 先に千香とアンベールに順番が来る。千香は練習した二礼二拍手一礼を確り熟しアンベールに硬貨を渡して一緒にお賽銭箱へと投げた。
 からんからん、と硬貨が賽銭箱の中に転がって行く音がする。
 手を合わせ目を閉じて。
「今年も健康で過ごせますように」
 千香はそう願う。
 そしてアンベールは目を開いたまま。
「千香がちゃんと成長するように」
「!?」
 アンベールが口にした願いに千香がバッと振り返る。どこの成長!? というのは飲み込んだようだ。
 彼女達の参拝が終わると伊奈が早速鈴についた麻縄に手を伸ばす。
 がらんがらん。
 大きく綺麗に響く鈴の音。伊奈の表情は楽しそうだ。朝霞に促され二人並んで手を合わせる。
(今年一年、みんなが健康でありますように)
 朝霞は健康祈願を。
(なんか面白い事があったらいいなぁ)
 伊奈は漠然と願いを込めた。
 その時、一瞬財布が賽銭箱に投げ入れられたが、まさか気のせい、と朝霞は思う。二人はおみくじを引くために社務所に向かった。
 先に千香とアンベールが料金箱に小銭を二人分入れる。
「アンベールさん、振ってください」
 まずは、と千香がアンベールに箱を渡すとこくっと一つ頷いて。

 シャカシャカシャカシャカッ!

 これでもか!!! という勢いで振るアンベール。唖然とする千香。
 いや、振るってそうじゃない。
 慌てて千香が説明をする。
 そんな一悶着の末、出た二人のおみくじ結果は……。
 千香、凶。アンベール……まさかの大凶。
 ちなみにこの神社のおみくじで大凶は1%しか存在しない。つまり、百分の一の確率。早々引き当てられるものではない。奇跡の1%と言ってもいいかもしれない。
 あの激しい極振りのせいなのだろうか。
 二人が大凶のおみくじを覗き込んでいる横で、朝霞と伊奈もおみくじを引く。
 朝霞が大吉で伊奈が中吉だった。隣にいる二人とは雲泥の差である。まぁ、大凶を出す方がある意味運がすごい、とは言えるが。
「伊奈ちゃん、どうだった?」
 自分のおみくじを読み終わった朝霞が伊奈のおみくじを横から覗き込む。
「う~ん、恋愛は……何言ってんだかわかんないな」
「書き言葉だからね。どれどれ、まぁ、悪くはないんじゃない? ふふっ」
「あ~、なんだよ! なに笑ってんだよ~」
 恋愛欄に朝霞が小さく笑う。内容の意味を朝霞は伊奈に教えずにおみくじを括り付ける場所へと移動する。
 木の枝にくくる行為は神様と縁を結ぶ縁起担ぎだと言われている。
 伊奈にやり方を教えながら朝霞はおみくじを結んだ。
 一方、アンベールは結ばずに持ち帰ったわけだが、おみくじを持ち歩き時々読み返すとお守りや戒めの意味を持つそうだ。
 千香と並んで帰路を歩くアンベール。
「初詣、どうでした?」
 彼の顔を覗き込むようにして千香は様子を伺う。
「明日も来よう」
「え!?」
 その声は、大凶を引いたから、というわけではなく楽しかったから、だということを千香は察した。
(と、とりあえず、楽しんで貰えたようです!)
 ちょっと動揺しながらも内心嬉しく思う千香だった。
「流石ね颯太。あそこで財布ごと賽銭箱に投げるなんて」
「ぅぅ……。あれは、後ろの人が押したから……。今日のバイト代……」
 千香達の横を通り過ぎる颯太と光縒。颯太はしゅん、と項垂れている。朝霞が見たのは颯太の財布だった。
「無様ね。小銭を探して、まごついているのが悪いのよ」
「うむー。光縒さんは、何をお願いしたんですか?」
「颯太のドジが治るように」
「ぐっ」
 言葉が詰まる颯太。新年早々、ドジっ子事始めというべきか、扱けるし財布は無くすし散々である。
「……それで颯太は?随分と熱心に願っていたけど」
「あー……。でも、よく考えたらもう、叶っちゃってた、ボクの願い事」
「一体、何をお願いしたのかしら?」
「光縒さんの、笑顔が見たいって!」
 屈託のない笑顔で、言い放ちながら、光縒さんの方を向いた瞬間、颯太の顔が凍り付いた。
 光縒の手には、一振りの木槌が握られていたのだ。
「颯太。鏡開きって、知ってるかしら?」
 颯太が、自己ベストを更新する速さでその場から走り去ったのは、言うまでもない。
 木槌を握った光縒の横を通り過ぎ、朝霞と伊奈は立ち並ぶ出店へと向かっていた。
「さて、帰る前にたこ焼きを買っていきますか」
「おっ! 待ってました!」
 伊奈の一番の目的たこやき。それを探しつつも種類の多い出店に伊奈のテンションはうなぎ上りだ。
「いろんなのがあるんだな! 朝霞、アレはなんだ?」
「べっこう飴だね」
「飴!? アレは食べられるのか!?」
「飴だからね。食べられるよ」
 そんなやり取りをしつつ境内の外へ続く出店を見ながらあれもこれもと買い食いし、今日一番楽しんでいる二人だった。


 三が日、この期間だけは夜まで神社が開いているところが多い。
「ふー、寒いな……。どんな格好で来るのやら」
「あー……、初詣なんてだりぃなー」
 夜空の下、昼間と変わらぬ賑わいを見せる神社の石段の前、ヘンリー・クラウン(aa0636)と片薙 蓮司(aa0636hero002)はデート相手を待っていた。
 蓮司はだるそうに、ヘンリーはスマホを見ながらそれぞれの相手を待っている。
「きょうは初詣だ!」
「いやー人いっぱいいるっすねー。」
「おみくじやりたいなぁ。あとリンゴ飴食べたぁい!」
「自分あの景品欲しいんすよねー?」
 二人の待ち人、葉月 桜(aa3674)と五十嵐 渚(aa3674hero002)がキャッキャと話しながらやってくる。女性は二人とも可愛らしい着物を着ていた。
 桜は純粋に着物を喜んでいるが、渚は着慣れていないのかなんだか恥ずかしそうにしている。
 二人が現れるとほぼ同時に顔を上げるヘンリーと蓮司。
「お、似合うじゃないか……、可愛いよ」
 ヘンリーは恋人桜の傍に寄り、服装を褒めて頭を撫でる。嬉しそうに微笑む桜。
「へー……、着物にあってんじゃん、いんじゃねえの」
 渚と向かい合い、珍しい着物姿に照れくさそうに蓮司は視線を逸らした。だが、恋人に会えた渚は嬉しそうに笑顔を浮かべている。
 四人はそのまま石段を上り、参拝へと向かった。
 夜だというのに列ができており、ゆっくりとした速度で進んでいく。
 結構な時間がかかりそうだった。
 だが、恋人同士で来ている彼らにはゆっくりと話すいい時間となったようだった。
 手順を踏まえ、願掛けを済ませる四人。
 これからがデートの、ある意味本番だ。そっと二手に別れる。
 蓮司と渚は連れ立って甘酒の方へと歩いていた。
 甘酒を飲んでみたい、と渚が蓮司にせがんだのだ。
 手を繋ぐタイミングを計る蓮司。しかし中々触れ合いもしない。
 結局甘酒を受け取るまで手を繋ぐことは出来なかった。
 甘酒を片手に意を決して渚の手を握ろうとする蓮司。
「このまま屋台に行くっすよ」
 何かそそっかっしい蓮司を見て察した渚は、わざと気が付ないふりのまま屋台の方を指さす。
 すぐさま蓮司は手を引っ込めた。
「うっせ! 気にすんな! ほら、さっきもらった甘酒飲んで……、楽しむぞ」
 甘酒を飲みながら屋台を見て回る二人。
 射的の景品にとてもかわいらしいぬいぐるみを見つけ渚は足を止めた。蓮司がそのことに気がつき、渚の視線の先のぬいぐるみを見つめる。
「あれが欲しいっすよ」
 蓮司にとって、とお願いする渚。もちろん、蓮司が断ることはない。
 銃を構える。ここは腕の見せ所だ。銃が元から得意な蓮司は、1セット分のコルク弾で落とせるだけ景品を落として見せた。注目が集まる。
 景品が袋に入れられて蓮司に渡される。その中からさっきのぬいぐるみを取り出し、素っ気なく渚に渡した。 
 とても嬉しそうな表情を緩める渚。無意識に蓮司は微笑みを返す。ぬいぐるみを片手に、もう片手で蓮司の手を渚は握った。照れくさそうに他所を見ながらも蓮司は渚の手を握り返す。
 二人は手を繋いで他の屋台へと向かう。
 焼きそばやフライドポテトといった食べ物を買いながら人気がいなさそうな場所へ向かう二人。
 人の気配がない二人きりの場所で蓮司と渚は肩を寄せ合う。あまり素直ではない二人だが、静かな夜が彼らを見守っている。そんな夜空を見上げ、渚が口を開いた。
 一緒に共にいよう、とそんなことを蓮司に囁く。本当になんと言ったのかは蓮司にしか分からないが。

 一方で、ヘンリー達はおみくじを引きに行っていた。
 共に引いた結果はヘンリーが大吉。桜が末吉だった。桜のおみくじと一緒に大切にとっておくヘンリー。
 二人は手を繋ぎ出店を見て回ることにする。
「リンゴ飴食べたかったの、買って!」
 キレイな林檎飴を見つけた桜がヘンリーの手を引き、買って欲しいとねだる。林檎飴を一つ買い、桜へと手渡した。深く感謝を示し、美味しそうに林檎飴を齧る桜。
「一口くれよ」
 そう言って桜の林檎飴を一口貰ってニッとヘンリーは笑う。平然を装いながら。
 そっと桜を見ると顔を赤くしていた。満足そうに目を細めるヘンリー。
 ぎゅっ、と桜の手を握る力が強まる。
 二人は体を寄せ合いながら他の屋台もゆっくりと見て回った。
 そして、段々と人が少ない方へと流れていく。
 楽し気に二人、談笑しながら。
 誰もいない場所へ。
 唐突にヘンリーが桜の手を引き抱きしめた。寒い冬の気温はより人肌を近くに感じさせる。
 そっと顔を近づけて。
 優しくゆっくりと。
 唇が触れ合う。
 軽いキスをしヘンリーが顔を離すと、今度は桜がヘンリーの首に腕を回し引き寄せて、もう一度だけ唇を重ねる。
 夜空だけが二人を見ていた。

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結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • おとぎの国の冒険者
    七森 千香aa1037

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 傍らに依り添う"羽"
    アトリアaa0032hero002
    英雄|18才|女性|ブレ
  • 【晶砕樹】
    雁屋 和aa0035
    人間|21才|女性|攻撃
  • お天道様が見守って
    ヴァン=デラーaa0035hero001
    英雄|47才|男性|ドレ
  • エージェント
    桜寺りりあaa0092
    人間|17才|女性|生命
  • エージェント
    比蛇 清樹aa0092hero001
    英雄|40才|男性|ソフィ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 私ってばちょ~イケてる!?
    春日部 伊奈aa0476hero002
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 戦うパティシエ
    ヘンリー・クラウンaa0636
    機械|22才|男性|攻撃
  • ベストキッチンスタッフ
    片薙 蓮司aa0636hero002
    英雄|25才|男性|カオ
  • おとぎの国の冒険者
    七森 千香aa1037
    人間|18才|女性|防御
  • きみと一緒に
    アンベールaa1037hero001
    英雄|19才|男性|ブレ
  • 家族とのひと時
    リリア・クラウンaa3674
    人間|18才|女性|攻撃
  • 友とのひと時
    片薙 渚aa3674hero002
    英雄|20才|女性|ソフィ
  • 藤色の騎士
    シオンaa4757
    人間|24才|男性|攻撃
  • 翡翠の姫
    ファビュラスaa4757hero001
    英雄|22才|女性|ジャ
  • エージェント
    天宮城 颯太aa4794
    人間|12才|?|命中
  • 短剣の調停を祓う者
    光縒aa4794hero001
    英雄|14才|女性|ドレ
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