本部

【初夢】拝め、その頂で!

一 一

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
7人 / 4~10人
英雄
5人 / 0~10人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2017/01/12 19:05

掲示板

オープニング

 この【初夢】シナリオは「IFシナリオ」です。
 IF世界を舞台としており、リンクブレイブの世界観とは関係ありません。
 シナリオの内容は世界観に一切影響を与えませんのでご注意ください。

●その名はFUJI!
 気がつけば、エージェントたちはそこにいた。

 薄暗い時間帯で周囲は薄い霧に包まれ、なだらかな傾斜を形成している山麓のただ中に立ち尽くす。

 改めて目を凝らすと、背後へ続く傾斜が下る先は何も見えず、進む道もない。

 それに、横へ広がる裾野は無限に広がり、どこまで行っても果てが見えない。

 しかし。

 エージェントたちの目の前には、はるか頂へ続く『山』があった。

 決して険しくはない、されど優しくもない自然の体現たる霊峰。

 彼らは疑問に思うよりも先に、本能で理解した。

 日本という国に雄大にそびえ立つ富士山に似たこの『山』は、FUJI。

 この世界のどこよりも神聖で、どこよりも尊い、誰もが見果てぬ頂上を知る『山』。

 それが、FUJIだ。

 それが、真実だ。

 それだけが、すべてだ。

 ああ、何だろう?

 この、内からわき上がってくる衝動は何だ?

 心臓が熱い。

 熱すぎて、体内から生じた熱を吐き出してしまいそうだ。

 老いも若きも、男も女も、人種も世界も。

 何もかもを超越して、エージェントたちの思いは、一致する。

 ああ。

 ……登りたい!

 誰かが先導したわけではなかった。

 誰かが促したわけでもなかった。

 誰かが臆した様子など見せなかった。

 誰もが示し合わせたように、一歩を踏み出す。

 誰もが何の疑いを持たずに、二歩目を地に穿つ。

 誰もが見たことのない、頂の景色をこの手に掴むために。

 能力者も英雄も関係なく、ただ願うのだ。

 天をも貫く頂点に立ち、栄光の光を全身に浴びたいと。

 この暗鬱とした暗闇と霧を晴らしてくれるだろう、希望の輝きに包まれたいと。

 何でもなかった今日を、きっと素敵に変えてくれる未来の力を感じたいと。

 願いが、思いが、熱量が。

 彼らを登山へ駆り立てる!

 何故って?

 そんな大げさな理由なんていらないさ。

 そこに未踏の絶景が広がっているんだから。

 そこに人類のロマンが詰まっているんだから。

 何より、そこに『山』があるんだから。

 俺たちは、登り続けるんだ!

解説

●目標
 霊峰・FUJIの登頂。

●登場
 FUJI…全世界でも最高峰の山であり、全世界からの信仰を受ける霊峰。天は雲をも容易に突き抜け、視界いっぱいに広がる偉容は自然と畏敬を覚えてしまうほど。なお、日本の富士山っぽいが別物。

 TAKA…登山中に襲ってくる猛禽類。意志の強い瞳は侵入者をすくみ上がらせ、鋭い爪は霊峰の神聖性を失わせまいと侵入者に容赦なく突き立てられる。なお、シャドウルーカーのスキル『鷹の目』っぽいが別物。

 NASUBI…登山中に襲ってくる野菜。常識離れした肉厚で巨大なボディと、栄養と水分がしっかり詰まった果肉は焼きナスで食べるのがオススメ。なお、泉州産の水ナスっぽいが別物。

 OUGI…登山中に襲ってくる道具。常識離れした巨大さで空中に浮遊・展開し、不思議な力で動いて強烈な神風を起こす。なお、無数の飾り扇子の中に1つだけ檜扇が混ざっている。

 TABAKO…登山中に襲ってくる煙。まるでFUJIが試練を与えるように山麓から立ち上り、一寸先が見えないほどの濃い煙幕を発生させる。なお、この煙はシガレットではなくキセルから生じている。

 ZATOU…登山中に襲ってくる琵琶法師。それぞれの理由で視力を失い、剃髪をしてから琵琶だけで世を渡り語る楽士。なお、1人だけ世界のKITAN○に似た人が混ざっているが、本人とは別物。

●状況
 場所はFUJIの麓がスタート地点。ゴールは山頂。それ以外に道はなく、PCたちも謎の衝動に突き動かされてそれ以外の道を選ばない。時刻は大晦日の夜であり、制限時間は夜明けまで。地面は草原→岩肌→雪原→峰へと変化。酸素濃度や気温の変化はなく、FUJIを中心に渦を巻くような突風が常に発生している。
 なお、途中で山から脱落するとPCたちの最後尾に強制転移するため、登り続けることは可能。共鳴・非共鳴は任意だが、共鳴状態の方が能力的に有利。

リプレイ

●頂を目指して
 なだらかな傾斜の草原を歩くエージェントたちは、それぞれの思いを秘めてFUJI山頂を目指していた。
「ああ、霊峰FUJIってこういう山なんですね! 山裾! 雪! 高山! 霧! 私はかえってきました!」
『早く登りましょう! 麓近くでは暑くてかないません!』
 中でも大興奮で先陣を切ったのはペーマ(aa4874)とヤク(aa4874hero001)。ずっと高地で暮らしていたペーマと、標高5000m前後に生息する牛の仲間である動物『ヤク』の精霊であるヤクは、FUJIに望郷の念を覚えてすぐさま共鳴。他のエージェントを置いて一直線に山を登る。
 それ以外のエージェントは、足並みをそろえて登山に挑んでいた。
「ねぇ燐、燐!」
「……何で、山見てそんなキラキラしてるの?」
「これ凄い登りたいと思わない? パワーを感じるというか、ロマンを感じるというか!」
「え、よく分からない、けど……」
 ペーマたちの次にテンション爆上がりの雨宮 葵(aa4783)と比べ、燐(aa4783hero001)は冷静に言葉を返す。というか、ちょっとついていけない。
「とりあえず登ろう!」
「……わかった」
 寒いし面倒くさいけど、楽しそうだし、という心の声を胸にしまい、燐は元気よく進んでいく葵の背を追う。
『すごく綺麗で神聖な感じがしますね。御神体みたいです』
「なんか圧倒されるというか、でも威圧的じゃなく包まれる感じだ」
 こちらは一目でFUJIの力強さを感じ取ったユズリハ ルナリィス(aa0224hero002)と同様、月影 飛翔(aa0224)も不思議な感覚を覚えながら足を進める。すでに共鳴した2人の思いは、あの頂まで登ってみたい、という無性に高まる衝動で満たされていた。
「……この場所は何なのですか?」
 一方、エジプト人のモニファ・ガミル(aa4771)は共鳴してとりあえず一緒についていくが、いまだ富士山の景色にピンと来ず。
「ここは富士山という、日本の象徴としても知られる国内最高峰の活火山……、のようなものじゃ。古くから神聖なる霊峰として、信仰の対象にもなっている」
 そんなモニファのつぶやきを聞き、守屋 昭二(aa4797)が簡単に説明を加える。言葉にはやや含みがあったが、モニファは納得した様子。
「なるほど、ピラミッドのようなもの、ですか」
 モニファが信仰の対象と聞いて、真っ先に思いついたのがピラミッド。そう見るとFUJIに興味が湧き、何より景色が綺麗だった。昭二に軽く礼を言うと、モニファは自発的に足を動かし頂上を目指す。
「しかし、登ったことはあるが微妙に景色が違うような……」
「死後の世界ってやつじゃねえか? 俺も登ったことはある」
 ただ、富士山の登山経験がある昭二はその景色に違和感を覚えており、神戸正孝(aa4797hero001)も同じなのかちょっと怖いことを言い出す。
「夢の中のよう……いや、夢を見ているんじゃろうな」
「初夢に富士山なんて最高じゃねーか。登ろう。気楽な登山もいいもんだろう?」
「気楽、であればいいのじゃがな」
 純粋に楽しもうとする正孝とは反対に、昭二は言いしれぬ不安を抱く。富士山と似て非なるだけでなく、奇妙な力を感じるこの山が、果たして本当に普通の山なのだろうか?
「FUJI……やっぱ登るべきだよな。いや、登らなくっちゃなんねぇんだな!!」
 他方、茨木 煉華(aa2431)はFUJI登頂に義務感すら感じていた。ムキムキガテン系の彼女が登る理由は、FUJIの頂上に電柱を建てる為。
 彼女の目の前には山があった。
 でも電柱が無かった……。
 ならば、建てるしかない!
 FUJIに電気を届ける為に!!
「おまえらも気合い入ってるじゃねぇか」
 自前AGWの電柱と建設用の電柱を担ぎ、登山道具一式を詰めたバックパックを背負った煉華は、幻想蝶の中身を確認する餅 望月(aa0843)と百薬(aa0843hero001)に声をかけた。
「ワタシ達がどうして登るのかって?」
「H.O.P.E.の依頼だからよ」
 インスタントコーヒー片手に百薬が煉華へ振り向くと、バーナーや鍋や食器などを確認した望月は防寒具を取り出して着込んだ。
「ちがうのー、そこに峰があるからなのー、そしてワタシには翼があるからなのー」
「いや、後半は関係ないでしょ。まあでも、一度は踏破しておきたいよね。ご来光は縁起良さそうだし」
 決め台詞をすかされた百薬の抗議を軽くスルーし、望月はジャンヌを取り出して山頂を見上げた。
 真っ暗な山腹全体を覆い隠す雲の先にある山頂には、一体どんな景色が待っているのだろうか? それぞれの思いは別でも、抱く高揚感は同じ。未知なる世界へ到達するため、不安と期待を胸にエージェントたちは足を運んだ。

●1FUJI・2TAKA・3NASUBI
 登山を開始してしばらく。景色は草原から岩肌が目立つようになり、傾斜もだんだんと急勾配になってきた。
「厳かな雰囲気ー! お正月っぽいー!」
「……ん。空気が綺麗で気持ちいい、かも」
「湧き水とかあったら汲んで帰ろう! 山菜とかあったら取って帰ろう! あと何があるかな!?」
(はしゃいでるなぁ……)
 まだ序盤ということもあり、葵はわくわくしながら登っていく。同時にそわそわもしている葵に、燐は感心と呆れが混じった目を向けた。
「ここまで登山道が整備されてなかったな。本当に自然そのままの山なのじゃろう」
『風がやや強いが、登る分には問題ねえな』
 共鳴して身軽な動きでひょいひょい登る昭二は、実際の富士山で見た光景と重ねていく。正孝も過去の経験と照らし合わせ、声音は楽しそう。
「む? あれは……」
 すると、注意深く観察していたこともあり、昭二が最初にそれに気づいた。
 エージェントたちが進む先、大きな鳥らしきシルエットが複数飛んでいたのだ。全員が視界に収めた距離まで近づくと、鳥たちはエージェントたちへ向かって突っ込んできた。
「痛っ!? ちょっ、痛い痛い!?」
『おたすけー!』
 なお、先行していたペーマはすでにTAKAに群がられ、クレイモアを振り回すが完全に翻弄されていた。
「縁起物っぽいけど倒しちゃっていいよね!」
『ん。問題ない。向かってくるなら、容赦しなくていい』
 TAKAを敵と判断した葵と燐は即座に共鳴。物理でぶっ倒して突き進む! という気概で迎撃に出た。
「邪魔すんなぁ!」
 煉華もまた、向かってくるTAKAを電柱でかっ飛ばす。が、非共鳴での登山だったためか、TAKAは消滅せずに再び向かってくる。
「進ませない意志を感じるが、その程度で俺達の意志を砕けると思うなよ」
 飛翔は背中に担いだスカバードから天叢雲剣を抜刀し、カウンター気味にTAKAを斬り伏せる。
『あの程度、従者指導で受ける無言威圧に比べれば何でもないです!』
「……そうなのか」
 その際、ユズリハがぽろっと日常の苦労を口にし、飛翔は同情を込めた相づちをこぼした。
『戦うことが翼あるものの宿命ね』
「いやだからこの羽根は、まあいいや」
 まともに飛べた試しがない羽をことさら強調する百薬へのつっこみを諦め、共鳴した望月も向かってくるTAKAを槍で刺す。
『爪って辛いのだよね』
「違うんじゃないかな。あとあたし、別に料理できない子じゃないからね?」
 ただし、消滅するTAKAを見た百薬の間違った知識には望月も釘を刺した。鷹の爪は唐辛子の一種で、モノホンの爪じゃないですよ。
「TAKAも焼けば美味しんいじゃないかな!」
『……基本的に肉食獣は美味しくない、よ?』
 ここにも1人、料理できない子がいた。切り捨てたTAKAを見て目を輝かせる葵に、燐はサバイバルっぽい知識でたしなめた。食べたことがあるのだろうか?
「縁起物じゃが、仕方ない」
「あ、ありがとうございます~」
 そして、ペーマへ集まったTAKAを昭二が斬り伏せたところで、TAKAの影はすべて消えた。援護がくるまでなすがままだったペーマには、爪やくちばしによる傷が全身に刻まれている。
 戦闘後、負傷したペーマに望月が『ケアレイ』を施してから、登山を再開。それでも懲りず、ペーマは最短距離を行こうとズンズン前進する。
「ふぎゃっ!」
『何ですかこれ~!?』
 それが新しい悲劇を生む。山頂から転がってきたNASUBIに衝突し、勢いに負けて転がり落ちてきた。
「お、これも縁起物じゃな」
『サイズはおかしいが、初夢なら大歓迎だ!』
 落石と大差ない勢いで迫るNASUBIだが、昭二も正孝も嬉しそう。2人とも古めで生粋の日本人であるため、ある意味ドツボらしい。NASUBIを居合いで細切れにし、笑みを深めた。
「守屋さん、もったいないですよー!」
 ただ、ブレイブザンバーでNASUBIを受け止め、勢いを殺した葵から注意が飛ぶ。彼女の所持品には味噌やポン酢があるといえば、理由は語るまでもない。
「あぐっ! ……あ、おいひい」
 中には生でいく強者もいた。ワニめいたエジプト神の姿であるモニファが、NASUBIを噛みつきで止めたのだ。こちらはAGWなしでも対処できたらしく、鋭い歯から滴る水分が喉を通ると、モニファは自然と頬をゆるめた。
「茄子が転がってくるのか。ある意味すごい光景だ」
『でも先輩、これ美味しそうですよ』
 飛翔も驚きつつも冷静に対処し、昭二に続いてNASUBIを輪切りに。すると果肉の断面からは次々と蜜があふれ、ユズリハは別の驚きでNASUBIを見つめる。
「せい! ……誰か、タッパある!?」
 望月は正面からフラメアでぶっ刺しNASUBIを受け止め、仲間へ声をかけた。こちらも食べる気満々である。
「幻想蝶にでもしまっとけ! っと! おーおー、大丈夫かー?」
「な、なんとか……」
『ぐ~る、ぐ~る……』
 そして、エージェントの最後尾にいた煉華は電柱を岩に突き刺し、ペーマを巻き込んだNASUBIを力ずくで止める。しばらくバウンドするNASUBIとともに回転したためか、ペーマもヤクも完全に目を回していたが。
 それからエージェントたちは相談してNASUBIを頂上で食べようと決め、煉華の助言通り幻想蝶に収納して先を急ぐことに。
「そういえば、煉華さんは幻想蝶を使わないんですか?」
「んぁ? 幻想蝶? 俺達が登れたって、幻想蝶をもたねーやつの参考になんねーだろ?」
 なお、大荷物の煉華を不思議に思ったモニファが尋ねた返答がこれ。どうやら煉華はFUJIの一般開放を目指しているらしい。流石は登山のインストラクター。お仕事熱心ですね。

●4OUGI・5TABAKO・6ZATOU
 その後も登山経験者たちの助言で適宜休憩を挟みつつ、エージェントたちは順調にFUJIを登っていく。ついでに、煉華が休憩地点ごとに電柱を建てて電線を引き、FUJIの電力供給計画も着実に進む。
「おかしい、おかしいですよ……。こんなに上ったのに酸素が薄くならない!」
『それに、気温も全然下がらないじゃないですか! 詐欺です! 責任者出てこい!』
 かなりの行程を消化し、岩肌に雪が積もりだした頃合いで、ペーマとヤクが珍しい苦情を上げだした。登山において、酸素濃度や気温の低下はなるべく避けたい変化だが、ペーマたちはそれを求めていたらしい。あまりの高山感のなさに声を荒らげるが、霊峰に責任者はいません。
「あ、ちょっと!」
 よほど頭にきたのか、前半の行動を反省して仲間と足並みをそろえていたペーマたちは、またもや1人で突っ走り始めた。望月が制止の声を出したところで、上の方に何かの影を見つける。
「ギャワー! なんですかあのオウギの怪物は! えーい体当たり! 体当たり!」
 それは巨大なOUGIだった。中心に檜扇を据えてずらっと飾り扇が横一列に並び、ぶわっさぁ! と広がる。びっくりしたペーマはさらに速度を上げ、OUGIをぶち抜こうと突進!
「あ~れ~!」
『ひゃ~!』
 しかし、次の瞬間にはOUGIが発生した神風を受け、ペーマはあっさりと吹き飛ばされてしまった。落下した人を受け止めようと殿を務める煉華も、神風で身動きを封じられ救助ができない。
「よくも! ペーマちゃんの敵(かたき)!」
『……死んだの?』
 ペーマの脱落に怒りをともした葵はOUGI打倒に奮起するが、神風の強さに足を進められない。燐のツッコミも、風にかき消されてしまった……かも。
「おぉ、飾り扇とはめでたい」
『檜扇の方は公家が使うやつじゃねえか!』
 ただ、昭二と正孝は神風を耐えつつOUGIの装飾にさらにテンションが上がる。装飾の華美さからして、縁起物としては上等だろう。
「ハア、ハア、負けない……! もう少しで究極のワニに会えるのに、こんなところで負けてられない!!」
 モニファは神風の強さに押され気味となり、つい心の声が漏れる。全員が『ワニ……?』と首を傾げたが、モニファの認識ではFUJIの頂上には素晴らしいワニとの出会いが待っている。可能性は低くとも、0ではない。なら、いるはずだ! 多分!!
「望月、俺に続け!」
「わかった!」
 しばらく足止めを食らったが、飛翔が扇ぐタイミングを見極めて前進。OUGIを峰打ちで叩き落とす。追随した望月はちょっと荒っぽく、OUGIを引っ張り広げきって破壊した。
「あー、びっくりしました」
『一瞬、食肉用に解体された仲間の姿が見えましたよ』
「うおっ!?」
 OUGIが破壊されたところで、いつの間にか落ちたはずのペーマとヤクが煉華の近くで額の汗を拭っていた。気配もなく現れたため煉華は驚いていたが、ここはそういう仕様になっているらしい。
「視界が悪いな、要注意だ」
『これじゃ斬れませんし、本体でもあるんでしょうか?』
 登山を再開してしばらく、今度は大量の煙がエージェントたちの視界を奪った。飛翔はさっき拾ったOUGIで吹き飛ばそうと試みるが、効果は一時的。ユズリハも突如出現した煙の本体を探そうとするも、それらしいものは見当たらない。
 それもそのはず、この煙はエージェントたちが出発した麓に出現したTABAKOが起こしたもの。ずら~っと並ぶキセルから煙が発せられる光景は、ちょっと異様な絵面ではある。
「この臭いは、煙草じゃな」
『ってことは、あと1つで全制覇だな!』
 ほぼ視界0の中、煙の正体を暴いた昭二の言葉に、正孝の興奮はさらに高まる。
「本体があったら、天まで燃やそうと思ったけど」
『探すのは難しそう、……あれ?』
 視界の悪さに眉をひそめる望月の中で、ふと百薬は奇妙な『音』を聞く。あまり聞き慣れない楽器の音にエージェントたちが振り向くと、煙の先にずらっと並ぶZATOUたちが琵琶を手にして弾き語っていた。
「この音、何だか気持ち悪い……」
『体当たりです!』
 が、琵琶の音は攻撃らしくペーマは体調不良を訴える。即座にZATOUを敵と見なしたヤクに従い、ブモー! と突進を仕掛けた。
「ぎゃー!」
「悪ぃが、こっから先は通さねぇよ?」
 しかし、ZATOUへ突っ込む前に現れた盲目の男性が放った剣閃を食らい、ペーマの足は完全に止まった。
「最後は座頭、じゃが」
『1人、厄介なのが混じってるな』
 敵の正体を看破した昭二と正孝だが、今までと違い緊張感を漂わせる。先ほどの太刀筋、居合いを修得した昭二の目でも追えない速度だったのだ。
 緊迫した空気の中、動いたのは飛翔。真っ向から距離を詰め、同じく居合いを放つ。
「強い、でも頂はすぐそこだ。負けるわけにはいかないんだ」
『……琵琶法師って侍じゃないですよね?』
 が、男は飛翔の刀を受け止め、平然としている。飛翔は敵の強さを認めて戦意をたぎらせ、ユズリハの疑問はスルーされた。
「国は違えど、百薬は武侠迷の血が騒ぎそうね」
『う~ん、ワタシはK○TU派だから』
 ペーマへ『ケアレイ』を放った望月はKITAN○似の○頭市を前に軽口を叩くも、百薬はKAT○派らしく、反応は鈍い。
「しっ!」
 さらに、側面から昭二も居合いで切り込むが、KITAN○は飛翔の刀をすり抜け迎撃。その後望月も戦闘に加わるが、KITAN○は1対3でも引けを取らない強敵だった。何故コメディシナリオで出てきたのだろうか?
「っしゃらぁ!」
「これで、最後!」
 しばらく剣戟の音が響いていたが、突如煉華と葵の声とともに煙と琵琶の音が消えた。見ると、KITAN○を抑えている間に2人が迂回し、ZATOUたちを全滅させていた。
「……行きな。俺の負けだよ」
 すると、KITAN○は戦意とともに刀を鞘へと納め、その場に座り込んだ。
「まだ、あなたを倒していない」
「兄さんたちは全員立ってるだろ? でも、俺の仲間は皆倒れた。つまり、そういうこった」
 すぐには警戒を解けない飛翔だが、言葉通りKITAN○に攻撃の意思は全くない。納得は出来なかったが、結局飛翔は無言でKITAN○の横を通り過ぎ、山頂を目指した。
 最後までエージェントたちの猛攻を一太刀も通さず、無傷の敗者となったKITAN○は静かに雲の中へ消えていった。アンタ、どうしてコメディシナリオに出てきたんだ、マジで。

●新年の思い
 数々の苦難を乗り越え、エージェントたちはついにFUJIの頂へたどり着いた。時間もちょうど日の出前。周囲はまだ暗闇だが、日が出れば絶景が見渡せることだろう。
「……っし! もう一仕事だ!」
 煉華は神社のない頂上でお参りをし、すぐに電線の設置工事を開始。どこへ延びるのか不明な電線は地上と頂上を結び、見事通電に成功。これで今年も、電柱建ての仕事が多く舞い込んでくるだろう。やったね!
「ワニは? ワニはいないのですか!?」
「……この環境でワニは生きられないと思うんじゃが」
 一方で、モニファは目を皿のようにして究極のワニを探すが、もちろんいるわけもなく。水源どころか火口しかないFUJI山頂では無理だろう、と昭二が控えめに教えてあげるがモニファは聞く耳を持たない。神々は試練を与えても、ワニは与えてくれなかった。
「何これ美味しい! 取れたて野菜ってこんなに美味しいの!?」
「……自分で苦労して取ると、美味しさ倍増、だね」
 ご来光までの間、登山中に確保したNASUBIを焼いて食べたエージェントたちは、あまりの美味しさに目を丸くする。味噌とポン酢で食べた葵と燐はまるで畑から取ってきたように言うが、これは体に優しいFUJIの恵みです。
 食後、望月はNASUBIを焼いたバーナーを使い、山頂で集めた雪でお湯を沸かしてインスタントコーヒーを作ると全員に配った。
「ほら、これでFUJIもあたしたちに収まるってワケよ」
 望月の粋な計らいに全員が笑みを深め、コップを打ち付け乾杯。FUJI登山の苦労話で盛り上がった。
 登頂を成し遂げた仲間たちとの語らいで時間はあっという間に過ぎ、気づくと地平線に光の筋が見え始める。夜明けの時が来たのだろう。
「1富士2鷹3茄子と4扇5煙草6座頭、か」
「先輩、何ですかそれ?」
「『富士』と『扇』は子孫や商売の繁栄。『鷹』と『煙草の煙』は運気の上昇。『茄子』と『座頭』は『毛が無い』から転じて『怪我が無い』として家内安全。それぞれ、初夢に見ると縁起がいいとされるものだ」
「全部会いましたね。なら今年は幸先いいです」
「何とか初日の出にも間に合ったし」
「すごく綺麗ですね」
 ゆっくりと、世界に光をもたらす初日の出を眺めながら、飛翔とユズリハは自然と笑みを浮かべる。
「雲の上から世界を見渡せる感じが良いよね」
「これぞ空から見る景色! って感じだね」
 望月と百薬も、日の光を反射して宝石のように輝く無限の雲海を眺め、ため息をもらした。
「自分の足で山登り超楽しい。ボコボコにされてるけど超楽しい」
「ん。よかった」
「燐と一緒に見るFUJIも凄く綺麗! 今まで見た景色で、一番綺麗!」
「これからも、綺麗な景色、いっぱい見れるよ。もう、自由なんだから」
 登山中の負傷も気にせず、両手を広げてご来光を全身に浴びる葵へ、燐は柔らかい声で告げた。世界はこんなにも楽しくて、広くて、自由で、輝いている。束縛から解放された葵の未来も、きっとこんな風景が広がっていることだろう。
「『今年も健康で健やかに過ごせますように』」
 そして、地平線から全身を現した新年の太陽に、飛翔とユズリハは拝みながら声をそろえた。
「今年もよろしくね」
 その上に、鶏鳴の鈴を鳴らしてご来光に色を添え、望月もまた静かに拝む。
 朝焼けの赤が夜を切り裂き、世界は清澄なる光で照らされた。
 ここからまた、新しい1年が始まる。
 どうか、人々にとって健やかなる年になりますように……。



 ……という夢を見た。
『台無しだよ!!』
 再び目を開けると自宅の布団の中にいて、窓から差す日の出を目の当たりにしたエージェントたち。たとえ夢だとわかっていても、あまりにもばっさりと現実に戻された言いようのない感情から、全員が朝日に向かって一斉に叫んだ。

 明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いしますね。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『星』を追う者
    月影 飛翔aa0224
    人間|20才|男性|攻撃
  • エージェント
    ユズリハ ルナリィスaa0224hero002
    英雄|16才|女性|カオ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 我が肉体は鋼の如し
    浅葱 吏子aa2431
    人間|21才|女性|生命



  • エージェント
    モニファ・ガミルaa4771
    獣人|16才|女性|攻撃



  • 心に翼宿し
    雨宮 葵aa4783
    獣人|16才|女性|攻撃
  • 広い空へと羽ばたいて
    aa4783hero001
    英雄|16才|女性|ドレ
  • エージェント
    守屋 昭二aa4797
    人間|78才|男性|攻撃
  • エージェント
    神戸正孝aa4797hero001
    英雄|42才|男性|ドレ
  • エージェント
    ペーマaa4874
    人間|16才|女性|命中
  • エージェント
    ヤクaa4874hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
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