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最終発言2016/12/26 21:46:17 -
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最終発言2016/12/25 22:09:41
オープニング
●ロンドンの大時計
2016年ももうすぐ終わり、新たな年を迎えようとしていた。
イルミネーションで華やかに彩られた夜のロンドン。
天使舞うリージェント・ストリート、クジャクのような羽が煌めくボンド・ストリート、星が浮かぶオックスフォード・ストリート…………どこも人で賑わっていた。
イギリスで最も有名な時計台、エリザベス・タワーこと『ビックベン』。この時計台も華やかな夜の中で静かに街を見守っていた。年が明ければ、ビックベンもしばらく休みに入る。長い間、ロンドンの人々に愛されて来たこの時計台も老朽化が進み、年が明けてから補修工事が決まっていた。だが、『世界蝕《ワールド・エクリプス》』以降に訪れたクリエティブイヤーと呼ばれる時代の技術革新によって、その規模は小さく工期も短く済みそうではあった。
テムズ川の東岸からビックベンを見上げる小柄な男の影があった。
「”DOMINE SALVAM FAC REGINAM NOSTRAM VICTORIAM PRIMAM(主よ、われらがヴィクトリア女王にご加護を)”、ですか」
この距離では読めないはずの文字盤の文言を読み上げて男は声だけで笑った。その顔は額に赤い傷跡があること以外はガイ・フォークス・ナイトに使われる仮面によく似ていた。だが、死人のように青ざめた肌はしっとりとしており、それが仮面ではないことを表している。
「年を取った大時計が止まる時、主の加護も失われるのですよ」
男────ケントゥリオ級愚神ファニーガイはその指で額の傷跡をなぞった。指先が赤く染まる。
「ライヴスはまだ残っています────この体内に」
ロンドン支部長キュリス・F・アルトリルゼイン(az0056)は秋の終わりにイギリス各地を騒がせた騒動の後片付けをしていた。
すでに夜も訪れたというのに書類の山が減る気配は無い。
「これはいつまで続くのかしら? …………もしかしなくても、新年まで続きそうね」
ヴォルフガング・ファウスト(az0056hero001)は書類に埋もれたパートナーへ呆れたような視線を投げかけた。
「あら?」
ふと、何かに気付いたファウストが証拠品として押収した仮面のひとつを取り上げる。
そちらを見たキュリスは眉をしかめた。
「これは────」
先日、ハロウィンやガイ・フォークス・ナイトの影でライヴスを集めるために人々を誘拐していたヴィランズ”funny(ファニー)”。その彼らが被っていた額に赤い印のあるガイ・フォークスの仮面。その額の赤い×印が赤く光っていた。
「ライヴスの流れを感じる気がするわ……」
ファウストの言葉に目を見開いたキュリスは迷わずそれを掴み己の顔に着けた。
「キュリス! なんて馬鹿なことを!」
即座にそれを剥がすファウスト。同時に部屋中の仮面がぴしりと音を立てて縦に割れた。
「大丈夫です。すぐに外せば問題は無いと報告は受けています。────ですが…………」
キュリスの瞳が細められた。
「まさか、『ヴィクトリア』とは……」
●女王の目覚め
H.O.P.E.ロンドン支部は大英図書館の地下にある。その近辺に居たエージェントたちが急遽召集された。
「お呼びだてしてすみません」
そこで待っていたのは厳しい表情を浮かべたキュリスだ。彼の背後で輝くライヴス球体を抱えた巨大な機械────ワープゲートが唸りをあげる。
「時間がありません。手短に説明します」
キュリスの指示で、一見するとよくわからない装置が配られた。ベルトと脚部用アタッチメント、それに取りつける円筒状の道具。
これらは【神月】の大規模作戦に参加した者はならば、見覚えがあったかもしれない。
「今、このような方法は行いたくなかったのですが────」
そう言うキュリスは傍らに立つファウストをちらりと見る。その手には割れたファニーの仮面があった。
「ロンドンに巨大なドロップゾーンの構築を試みたケントゥリオ級愚神ファニーガイ。彼がまた現われました」
愚神ファニーガイはヴィランズ”ファニー”を仮面によって操り情報を共有していた。それは参加したエージェントたちの証言でわかっている。ファニーガイと繋がるその仮面を被ったキュリスはファニーガイの企みの一部を覗き見ることに成功したのだった。
「今、愚神ファニーガイはエリザベス・タワーを中心にロンドンを再びドロップゾーンに呑み込もうと画策しています。
エリザベス・タワー……『ビックベン』の中には『ヴィクトリア』というオーパーツがあり、その力を利用しようとしているようです」
『ヴィクトリア』は近年発見されたオーパーツで、その存在は一部の者しか知らないはずだった。時計台の時計に複雑に組み込まれ、尚且つ、その時計自体が『ヴィクトリア』を封印・隠匿する結界を成していた。
「…………どうやら、時計塔の老朽化により封印の力が弱まったようです。
ヴィクトリアの下でファニーガイがドロップゾーンを完成させることは大変危険です」
『ヴィクトリア』の来歴はまだ詳しくは解明されていない。けれども、それがライヴスを増幅、使い方によっては愚神のドロップゾーンを強化・成長を促す力があることはわかっている。
「もちろん、H.O.P.E.としてもこのオーパーツを封印するための準備はしてあります。けれども、それは時計塔の改修工事と同時に発現させるものでまだ未完成────、今、ファニーガイを抑えながらそれを行うこともまた大変なリスクを伴います」
秘匿された『ヴィクトリア』の存在に、万が一、愚神が気付いたとしても、時計に組み込まれたオーパーツを奪うことはできないはずだった。
「前回の作戦が失敗したファニーガイは己のライヴスを全て使って、このロンドンをドロップゾーンへと変えるつもりです。
ファニーガイはケントゥリオ級愚神でも力のある愚神です。その力を全て使い、封印の弱まった『ヴィクトリア』の下展開されたドロップゾーンは恐らく強力なものとなるでしょう。
彼の目的は…………己の存在と引き換えにロンドン中のすべてのライヴスを搾り取る事です」
キュリスはワープゲートを見上げた。
「ワープゲートからゲートの無い場所へのワープは相変わらず危険で、以前より多少精度はましになったもののウエストミンスター宮殿の上空のどこに出るかはわかりません。ですが」
ロンドン支部長は真剣な眼差しでエージェントたちを見た。
「今ならまだ間に合います。ファニーガイはビックベンの文字盤周辺の上空にドロップゾーンを展開しています。ドロップゾーン上空にワープして、ファニーガイがライヴスを注ぎ切る前に彼を倒してください」
キュリスの隣でずっと黙っていたファウストが微かに笑った。
「What are you doing on New Year's? ────愚神を倒して素敵な時間を過ごしましょう?」
解説
目的:ファニーガイを倒す(ファニーガイのライヴスを注ぎ切ってしまった場合は失敗)
ステージ:ロンドン上空、ビックベン周辺の見えない床のあるドロップゾーン。ビックベン以外は何もない平坦なステージ。
ビックベンの文字盤の高さ、ウエストミンスター宮殿より広いくらいのドロップゾーンが展開されている。壁は無いので、ウエストミンスター宮殿より離れすぎると落下する。ゆっくりとに広がっている。
ドロップゾーンがロンドンを覆うと、床は消え、地上から空中までがすべてファニーガイのドロップゾーンとなり、市民のライヴス吸収が始まる。
参考:ウエストミンスター宮殿 敷地:30,000m2、幅:280m、高さ(時計塔):96m、文字盤は地上55m
・敵
・ケントゥリオ級愚神ファニーガイ
ケントゥリオ級/158cm/人型/AGWの銃器等所持
物攻:A/物防:B/魔攻D/魔防:C/命中:C/回避:B/移動:A/特殊抵抗:C/INT:B/生命:A
※時間が経つごとに弱体化するが、弱体するほどドロップゾーンが拡張・強化される
スキル
《火炎の歪曲》使用可能回数:3、射程:1~不明
物理攻撃力反映(防御側も物理使用)の特殊範囲攻撃、蛇のように蠢く炎の鞭で襲う
《ブロウアップ》使用可能回数:5、射程:1~18 範囲5
物理攻撃力反映(防御側も物理使用)の特殊範囲攻撃、単体目標の足元から周囲を巻き込む大爆発を起こす
スタート時点、彼は文字盤の前に立っている。
※ただし、このデータは前回のファニーガイとの戦闘時のもので、負傷のため変化している可能性がある
・ファニー(デクリオ級愚神)×2
剣・銃・物理攻撃及び、仮面を被ったミーレス級従魔を一度に2体召還可能。
・ワープ
1D6ランダムにファニーガイ頭上~ドロップゾーンの端に飛ばされる。
・オーパーツ『ヴィクトリア』
数個の部品の内部に封じ込まれた球体型オーパーツだが、時計の内部に複雑に組み込まれているため取り出し不可能。
また、ファニーガイとオーパーツ自身のバリアがあり、破壊不可能。
リプレイ
●降下する光
新年を前にしたロンドンの夜は明るい。
街並みを飾るカラフルなイルミネーションは美しく、のっぺりとした夜の空にその光を投げかけていた。
薄い闇にライヴスの燐光が輝く。
それはロンドンを飾る灯に比べれば小さなものだ。しかし、比べ物にならない程の力強さを秘めて共鳴したリンカーへと変わる。
大英図書館の地下、ロンドン支部の施設内でキュリスは職員へ指示を出していた。
「キュリス、『封印』は間に合いそうかしら?」
ファウストに尋ねられて、キュリスは首を振る。
「まだわかりません。しかし、あれほどのエージェントたちが捕まるとは嬉しい誤算でした。『ヴィクトリア』を封じる最後の加護がまだあそこにあるのかもしれません」
今しがた多数のエージェントたちが姿を消したばかりのワープゲートをキュリスは見つめる。
「うおっ!!」
慌ててジェットパックを作動させた虎噛 千颯(aa0123)はウエストミンスター宮殿から少し離れた空中に着地する。見えないドロップゾーンの床は硬質な音を立てて輝いた。
「ひゃー、高い高い」
呑気な千颯の声に白虎丸(aa0123hero001)が一喝する。
『何を気の抜けた事を言っているでござる! 気を引き締めるでござるよ!』
「だって、白虎ちゃ……お?」
弾かれたように走る千颯は次いで降下して来た友人の服を掴む。
「すまない」
千颯の逆の掌を握り返すと、麻生 遊夜(aa0452)はジェットパックで反動をつけてドロップゾーンの床に滑り込んだ。
「やれやれ、厄介だな」
イルミネーションに照らされたドロップゾーンは鏡のように微妙に光を反射して、その終わりを微かに教える。
その煌めきを頼りに一歩先に床が無いことを確かめて、麻生は眉を顰める。
「もうちょっと、近い位置だったら良かったんだけどなー」
『……ん、時間がない、頑張る!』
ユフォアリーヤ(aa0452hero001)の言葉に遊夜は遠くを見た。
闇の先にタワーを乗せた巨大な文字盤が浮かんでいる。もちろん、下を見ればそれは塔と繋がっており、紛れもないビックベンのそれである。
「行くぜ」
「ああ」
千颯と遊夜は文字盤を目指して駆け出した。
ジェットパックを使ってふわりと降り立った木陰 黎夜(aa0061)は遠くで明るく光る時計を見た。
「すごく、すごく……面倒くさい……」
『最後の足掻きとしては見習うべきものがあるけれどね』
アーテル・V・ノクス(aa0061hero001)の言葉に黎夜は鋭い目で武器を構えた。
「敵に回ると……厄介この上ないと、思う……」
その視線の先にはガイフォークスナイトの仮面を被った男が立っていた。黎夜は通信機へと囁く。
「木陰……。目的の文字盤よりかなり遠い……目の前にファニー一体……」
そして、通信を切るとAGWを構えた。
「────”先”へ……」
「悪い」
雷上動の弦が鳴り、黎夜の紫電の一矢が時計塔への道を拓く。
セレティア(aa1695)と共鳴したバルトロメイ(aa1695hero001)は、立ち止まる黎夜を抜いて全力で駆け出した。
「ランダム転移は以前も経験しているからな、どこに出ても慌てないことだ」
『いきなり敵の目の前と言うこともありえますしね』
月影 飛翔(aa0224)の言葉に答えるルビナス フローリア(aa0224hero001)。
先に時計塔の先端、後ろには数人のエージェントの影。
「障害物はないようだし、すぐに合流できるだろう」
遠目に見える仲間の服装で面子の当たりを付けた彼は時計塔を目指して駆け出した。
飛翔たちよりだいぶ文字盤に近い位置に放り出された志賀谷 京子(aa0150)はジェットパックを使用した。
「時計塔が封印だなんて、さっすがロンドン。大英帝国は伊達じゃないね」
眼下に見える巨大な文字盤が今は不気味だ。
『……降下は怖くないのですか?』
アリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)が案じるように尋ねる。
「だって、もっと怖い思いなんていくらでもしてきたじゃない。今度こそ、ファニーガイの終焉を迎えさせないとね」
『そうでしたね。ふた月も続いた続いた狂騒、新しい年を迎える前に終わらせたいものです』
きらり。そんな京子の近くで光が集まり人へと変わる。
唐紅の髪が夜空になびく。ユエリャン・李(aa0076hero002)の髪色に変わった紫 征四郎(aa0076)だ。
傘型AGWスカーレットレインを開いて現れた彼女は、ジェットパックを併用しながら夜空にふわふわと浮かび上がった。
「敵の位置も報告します」
『傾向からある程度、位置特定もできるやもしれんな』
ライヴスの鳥は闇の中では人と同じ程度にしか見ることは出来ないが、この明るさならば十分だろう。飛び立つ鷹のを見送った征四郎は京子へと振り向いた。
「私はファニーガイへ向かいます」
「わたしはもう少し位置を調整するよ」
征四郎と京子は互いに両手を軽く合わせた。掌を軸に空中で回り、押し付け合った力の反動で闇へと落ちていく。
────気を付けて、声の無い言葉を交わされた。
京子の姿が見えなくなると、征四郎はユエリャンに語り掛けた。
『ここからだと、建物がいっぱい見えるのです』
『そうであるな』
更に時計塔へ近づいた征四郎の呟きにユエリャンが頷く。
「そのひとつひとつで、皆は今日も生きてるのです。だから……絶対に、阻止しなければ」
光に照らされた文字盤は明るい闇の中でぽっかりと空いた穴のようでもあった。
その陰で辺是 落児(aa0281)と共鳴した構築の魔女(aa0281hero001)は巨大な時計塔の先端を見上げた。
「グレートビックベンにオーパーツが……。こんな機会でなければゆっくりと楽しみたいものですね」
彼女はハーレキン(aa4664)と共に時計塔を挟んで、ファニーガイと反対側に着地していた。
事前に用意した周辺地図に、周囲のエージェントからの報告を照らし合わせてそれぞれの位置を把握する。
「単純戦力として、ハーレキンは役に立つでしょうか」
まだ経験の浅いエージェントであるハーレキンに、構築の魔女は時計塔の先端を見上げる。
「見晴らしの良いこのステージはハーレキンさんには不利でしょうが、それでも────」
目の前の時計塔に身を隠し奇襲を試みることはできるだろう。
「……少しでも意識をこちらに向けられればと思ったのですが」
降下中、構築の魔女はファニーガイを狙っていたが、彼女の持つ37mmAGC「メルカバ」でも時計塔が障害となってギリギリ射線が通らなかった。それを無念に思う。
『………ロ、ロー…、…ーー、…………』
辺是の言葉に、構築の魔女は頷く。
降下する時に時計塔の反対側へ降下する仲間たちの姿が目に入ったのだ。
「そうですね。彼らなら大丈夫です。慌てずに行動いたしましょう」
構築の魔女は仲間に連絡を入れると、敵を狙う場所へと移る。
「状況把握と情報解析をしっかりと行なっていきましょうか」
その通信を受けた京子が微笑した。
「どんなに広い戦場だって、わたしたちの手は届くとこ見せてやろうじゃない」
『魔女どのはまさに砲台。とはいえこちらも負けて入られませんね』
恐ろしいほどの命中力を持つジャックポットたちが散ったこの戦場に、死角など無いのだ。
●ウエストミンスター宮殿、その上空にて
テムズ川をのぞむビックベンの文字盤には赤黒い液体で几帳面に何かが書き記されていた。
「こんなものですかねえ」
巨大な時計と相対したファニーガイは、それへと両手を伸ばした。
薄紫のライヴスの糸が愚神と時計を繋ぎ、愚神は小さく呻いた。
その首にひんやりとした刃が触れる。
「!?」
ライヴスを注ぎ込むために文字盤────その背後にあるオーパーツ、『ヴィクトリア』に意識を向けていた愚神は反応が遅れた。
複製された三本の死神の大鎌は彼を襲う。
飛び散る赤とライヴス。
後退するファニーガイを追う様にライヴスの針が降り注ぐ。それらを避けると愚神頭上を見上げた。
「何度も処刑台から逃げ遂せると思わないでください。罪には罰を、道化の舞台に終幕を」
片手にグリムリーパー、そして、もう片手に役目を終えたフォーチュンダイスを。《レプリケイショット》を放った凛道(aa0068hero002)がファニーガイを見据える。
「まさか、こんなど真ん中で事に及ぼうとするとはなぁ……」
『逆に言えば、逃げ場がないくらいに追いつめたとも言えるな。このまま仕留めるぞ』
《縫止》を避けられた九字原 昂(aa0919)を冷静に鼓舞するベルフ(aa0919hero001)。
そして、ライトアップされたビックベンの文字盤より眩しく輝く光が落ちる。
「誓約術よ、英雄の神技の記憶を開放せよ!」
輝く翼をはためかせた月鏡 由利菜(aa0873)の剣、シュヴェルトライテが愚神に向かう。いつもの金髪と光の鎧が英雄の持つブルーへと変化していた。
由利菜と英雄リーヴスラシル(aa0873hero001)の絆の力を高めたスキル《コンビネーション》だ。
『豊穣神フレイよ、我が主へ大いなる加護を与え賜え!』
戦女神へ変えた由利菜の緑に染まった瞳で愚神を射貫く。
光の翼の羽ばたきが闇の愚神を襲い、怯んだところにシュヴェルトライテによる連続攻撃。
辛うじてそれを躱すファニーガイ。
だが、由利菜の翼のライヴスが剣へと収縮され────。
「『その身に刻め!神技!ディバイン・キャリバー!!』」
鋭い突きがファニーガイを貫く。
組んだ拳で由利菜の身体を殴りつけ距離を取った愚神が、揃えた指先で素早く傷口を撫でた。吹き出した赤黒い体液が止まる。
「────あなたたちですか」
汚れた指先を擦り合わせ、周囲を見渡すファニーガイ。笑みを刻まれた死びとの顔は怒りに満ちていた。
何かを掴むように掌を動かす愚神の動きに、凛道が警告の声を上げた。その声を掻き消すように狂暴な火炎の鞭がエージェントたちを薙ぎ払う。苦痛を感じながらもなんとか踏みとどまるエージェントたち。
「荒っぽい攻撃ですよね」
愚神は目を見開いた。
彼の攻撃を避けた昂が背を低くして踏み込んで来たのだ。
「お疲れのところ申し訳ありませんが、もう少し疲労を重ねてもらいます」
『弱っているところを狙うのは、戦いの常套手段だな』
ベルフの言葉と同時に《霊奪》が仕掛けれられる。抉るように放たれた掌打を辛うじて避けたファニーガイは昂を見る。視線が合って愚神の空虚な目を囲む瞼が僅かに痙攣しているのが見て取れた。
「────正直、あなたは苦手ですねえ……」
ファニーガイは懐から拳銃によく似た得物を取り出す。
巨大な文字盤を前にして八朔 カゲリ(aa0098)は足を止める。
「あれが”ファニー”か」
ガイフォークスの仮面を被ったデクリオ級愚神が同じ仮面を被った男たち────ミーレス級従魔を二体従えている。
『少し騒ぎ過ぎたかの?』
神威の鷲、ナラカ(aa0098hero001)は逼迫しているはずの事態に笑みを浮かべる。
────ああ、そうとも。此処は笑う場面であろう。
京子に由利菜、征四郎に千颯……、今回の作戦に参加したエージェントは彼女が期待する者が多数参加している。
そして、それは彼女が覚者と呼ぶカゲリにとっても同じこと。
京子を始め、信頼する仲間たちの顔ぶれに、彼も厳然な評価として、失敗についてはそれほど考えていなかった。
もちろん、だからと言って楽観・油断などというものとは無縁の男だ。
────失敗したとてそれはそれ。諸行無常、総てはそうしたものだ。
それは、愚神と言えども同じこと。
カゲリは魔導銃50AEを手に取った。
「先に進め」
「頼んだぜ!」
全力で駆ける千颯を妨害しようとしたミーレス級をカゲリの銃弾が捉える。
次いで千颯を妨害しようとした従魔が爆風に散る。飛翔のフリーガーファウストG3だ。
ロケット砲を放った飛翔が言う。
「雑魚はこちらで片付ける。先に行ってくれ」
『早急にお掃除と行きましょう』
同時にファニーがまた二体従魔を召還した。
「ならば、さっさと片付けよう」
「ああ」
カゲリの言葉に飛翔は頷く。
カゲリの中で見守るナラカは笑った。
────さあ、皆の者よ。勝利を得るべく駆け抜けるが良い。勝利を以て明日と言う栄光を掴む為に。
奮起の姿こそ、彼女は愛している。
だからこそ、例えいかなる苦難であろうとその先に勝利を掴むのは我々だと、彼女は、想い、見守り、見送る。
「近距離も出来なかないが、本職さんらに任せようか」
足を止めた遊夜が抱えるのはモフモフしたアルパカである。
『……ん、今回は狙撃……妨害特化』
共鳴世界で尻尾をゆらゆらと揺らしたユフォアリーヤ。
遊夜の抱えたアルパカの首が真っすぐになり口が開くと凶悪な砲身が覗く。
可愛い外見に反して、3.7mmAGC「アルパカ」は広大な範囲を捕らえ驚異の命中力を誇るAGWだ。
…………このアルパカは獲物を逃さない。
遊夜の位置からは二体のファニー、そして、乱戦中のファニーガイが射程に収まった。
「さて、どこから狙おうか」
仲間からの位置情報を加味した上で、高レベルのジャックポットは照準を定めた。
「!?」
銃弾が吸い込まれるようにファニーの頭蓋を撃ち抜いた。唸ったファニーは額の×印を拭い体液を払う。
「人型の割にほんと……人間離れしてるんだな」
ファニーに相対する黎夜は黒い魔法書を開いた。
「冬だし……あったまっとく……?」
《ブルームフレア》の炎が炸裂した。従魔たちと共に炎に巻かれたファニーがじろりと黎夜を見た。その仮面の奥に動く赤い灯を認めた瞬間、それは黒塵と化した。
「寒いのが苦手なら、悪い、な……」
周囲を見渡すと黎夜は仲間に連絡を入れる。
「────木陰……。ファニー……一体撃破……」
『よく頑張ったわ。ここは全員通ったみたいね』
仲間に通信した直後、大きく息を吐いた黎夜を英雄が労わる。
「……たぶん……麻生にも……礼、言わないとな……」
なんとなくさっきの一撃の主を察した黎夜は、友人に感謝の言葉を呟き、時計塔を目指した。
続けざまに放った京子の《トリオ》がファニーとファニーガイを貫く。
そのチャンスを逃さず、殺人道化師の姿をしたハーレキンが時計塔から滑り落ちてその《毒刃》を放った。
だが、それを愚神は悠々と避け────その先に、飛び出す影。
「いけええっ!」
セレティアの────彼女と共鳴したバルトロメイの声が響き渡った。
Satanの銘を持つ彼の木製バットが空気をブンと鳴らす。
だが、《ストレートブロウ》を使ったその一撃は残念ながら空振りとなった。
「次だ!」
構えるバルトロメイ。
「糞が……!」
京子に射抜かれた傷口を押さえ距離を計りながら毒づく愚神。
片手を握りしめて素早く射手を探すその目がハーレキンに止まった。
賢者の欠片で傷を癒した凛道が何かを察してファニーガイへと声をかけた。
「ねぇねぇ、その傷は誰につけられたの? 君が作りたかった世界はどんな物なの? 俺、知りたいなぁ」
それは、凛道ではなく彼と共鳴した木霊・C・リュカ(aa0068)のものだった。
リュカの台詞にファニーが一瞬動きを止めた後、それに気付き顔を歪めて”口角を吊り上げた”。
「”また”お会いしましたね。仮面を被ったのはあなたでしたか。ふふ、無茶なことをする────とんだファニーガイですね」
「あなたほどではないよ」
そう言ってリュカは愚神へと向かって駆ける。愚神は躊躇わず炎の鞭をリュカと周囲のエージェントへ振った。
リュカも鎌を支店にして攻撃を避けようとしたが、長く伸びた炎の舌は彼らの身体を打ち据える。
「リュカ────」
文字盤へ辿り着いたばかりの征四郎が目の前の光景に悲鳴を上げかけた。そんな彼女をユエリャンが制する。
『己が存在を犠牲に、か。腹の座った敵は強いであるぞ、おチビちゃん』
『わかってるのです。けれど、征四郎だって、守ると決めたのです。皆を!』
征四郎のスカーレットレインの銃口が開き、愚神を撃つ。それを避けたファニーが獣のような唸りを上げた。
「征四郎ちゃん、焦らずに確実にダメージを与えていくんだぜ!」
そんな征四郎の視界を遮るように緑髪の男。エージェントたちがはっと息を吐いた。
額に浮かぶ汗を振り払って、その場に辿り着いた千颯はエージェントたちに《ケアレイン》をかけた。治癒の力が仲間たちに降り注ぐ。
『これからは攻撃あるのみでござる』
白虎丸の言葉に千颯は力強く頷く。
「能力が下がった分ドロップゾーンが完成に近づくのでしたね」
構築の魔女の《ロングショット》。元々敵を逃すつもりのない彼女の攻撃。だが、彼女はその上で愚神の動きが鈍っていることに気付いた。
続く、遊夜の攻撃。
「すまないが、お前さんは此処でおしまいだ」
『……ん、何もさせない……そのまま、消えて……ね?』
くすくすと笑うユフォアリーヤの声が聞こえた訳でもないのに、ファニーガイは怒りの声を上げた。
次々呼び出す従魔を壁にして距離を計って後退するファニー。
あからさまな時間稼ぎにカゲリと飛翔は同時に文字盤を見る。
「────勝利を掴む為に己が出来る事を尽くすだけだ」
『それでこそ覚者じゃ』
『こんな時こそ冷静に、です』
「ああ、一気に全力を叩き込むタイミングを計るぞ」
カゲリと飛翔は顔を視線を交わした。
また従魔を召還を狙うファニーへ京子の一撃。
「行け!」
フリーガーファウストの一撃が爆炎を起こす。
身を仰け反らせたファニーがはっとして時計塔へと手を伸ばした。
その背後に爆炎の中から奈落の焔刃を振り上げたカゲリの姿。
ナラカが魔刃と呼ぶ黒焔が放たれ、デクリオ級愚神を包んだ。
ファニーの伸ばされた掌は時計塔に向けられたまま、塵と化す。
そこに何も残っていないことを確認すると、カゲリは仲間に連絡を取る。
「────こちらで残りのデクリオ級愚神と従魔は倒した」
「今年に起きた事件は今年中に解決して、スッキリと新年を迎えないとな」
飛翔は時計塔を睨んだ。
「こんなことが……時間さえ、あれば!!」
唸った愚神の声に応えるように。
ファニーガイの眼前に、ぶわりと二体のミーレス級従魔が湧き出た。。
カゲリたちが倒したファニーが最後に召還した従魔たちだ。
それを盾に距離を計るファニーガイ。
「ヴィクトリアは使わせません……!」
由利菜、そして昂が召喚されたばかりの従魔をあっさりと切り捨てる。
そこへ揶揄するように京子の《ダンシングバレット》の跳弾が愚神の頬を掠めた。
「────ふ、ふふふ……」
笑い声を上げながら、ファニーガイがむんずとライヴスの糸を掴んだ。
ぎろりとその目が深く傷ついたハーレキンに向けられる。片手で天を仰ぐファニーガイ。
だが、ハーレキンに向けられた《ブロウアップ》を《ターゲットドロウ》によって征四郎はが受ける。
「…………っ、今ですよ、凛道!」
「避けてください!」
征四郎の合図によって放たれた凛道の《ストームエッジ》。
先程まで易々と避けていたそれのいくつかがファニーガイを傷つける。
通信により、構築の魔女からの警告が入る。
「ドロップゾーンの拡大が早まっています!」
「させるか!」
傷を癒しながら何度も攻撃を試みるバルトロメイ。
彼の《疾風怒涛》を使った連続攻撃が奇跡を起こした。
「────ばかな!?」
バットを包むように爆炎オーラが燃え上がり、その一撃が愚神の身体を捕らえると大きく弾き飛ばしたのだ。
思わず、バルトロメイの脳裏に流れるテーマソング。
ふつり、ファニーガイとビックベンを繋いでいたライヴスの糸が切れ────バルトロメイの剛腕で弾き飛ばされたファニーガイは起き上がろうとして、崩れ落ち、そのまま夜空を仰ぐ。
気付けば、周りにはすべてのエージェントたちが揃っていた。
凛道の姿をしたリュカが一歩踏み出した。
「ここ最近の騒動、結構楽しい物語だった。────ありがとね、それじゃ……」
ファニーガイが空洞のような目をリュカに向けた。リュカはゆっくりと口を動かす。
「いずれ、また」
愚神の白い顔が、その吊り上がった楽しげな唇の端がはっきりと歪んだ。
「……ええ────いずれ、また」
次の瞬間、ファニーガイの身体は破裂し細かな煤塵と化してロンドンの夜の中へと飲まれていった。
「『おやすみなさい、良い旅を』」
きつい眼差しでそれを見届けた遊夜と、彼に共鳴したユフォアリーヤが消える愚神を見送るように言葉を重ねた。
最後に黎夜もおやすみ、と呟く。
「……ファニーガイ……たった一度だけの邂逅でありますように……」
●広がるドロップゾーン
『回復は任せるでござる』
「チクッとな! 回復量アップで少しは効果があるんじゃないか」
「注射みたいであまりうれしくないですね」
ピキュールダーツに装備を変えた千颯が怪我人の回復に走る。
強力なエージェントたちが揃っていたとは言え、暴力的なファニーガイの炎の前に、昂以外の前線の戦士たちも傷を負っていた。特に傷の深かったハーレキンは千颯の言葉に微笑を浮かべた。
『またしてもロンドンの危機か……。母上の故郷が危機となれば黙ってはいられまい。ユリナ』
ドロップゾーンの上からテムズ川を見下ろしていた由利菜に、リーヴスラシルが声をかけた。
「ええ……厳密には、母の故郷はウェールズのカーディフなんですけどね」
由利菜は一瞬、目を伏せたが、すぐに仲間の方へと踵を返した。
京子はテムズ川の上を気を付けながらそっと散歩してみる。
冷たい風が吹き上げたが、空中から見る年末のロンドンはイルミネーションで美しく輝いて美しかった。
「ろくでもない敵だったけど、これだけは感謝してもいいな」
『戦いのあとでなければ素敵でしたのにね』
そんな京子たちの後姿を見守っていた昂がふと軽く首を傾げた。
「……ところで、愚神を倒したら僕らも落ちるんでしょうか?」
「足元のゾーンが無くなって落下……ってオチはないよな」
見えない床を爪先で叩いた飛翔が昂と顔を見合わせる。
『大丈夫です、共鳴していれば落ちてもダメージはありませんから』
「それはそうだけどな」
飛翔にすっぱりと告げるルビナス。
『……備えておくに越したことはないだろうな』
少し考えた後に一応、昂に注意を促すベルフ。
その時、凛とした声が宮殿の上空に響いた。
「ドロップゾーンの拡張は終わっていないようですね」
全員が振り向くと、何かを調べていた構築の魔女が厳しい顔でドロップゾーンの端を指す。
着地した頃よりだいぶ広がったドロップゾーンの端は通りのイルミネーションを反射してキラキラと光っている。
そして、そのお陰で、それが今も滑らかに広がっていることがわかった。
「────まさかヴィクトリアか!?」
仲間の治癒を行っていた千颯が時計塔を振り返り叫んだ。
文字盤には消滅したはずのファニーガイが残した図形が未だくっきりと残っている。
「ヴィクトリアの中に取り込まれたファニーガイのライヴスは消えていないのか……?」
呆然とバルトロメイが呟き、はっと武器を掴む。
「既に吸収したライヴスだけでドロップゾーンが完成するとは思えないが……」
遊夜の言葉に、京子が頷く。
「AGWが効くかはわからないけど」
エージェントたちがそれぞれの武器を時計塔に向けたその時、強力な光が闇を切り裂いた。
「うお、眩しっ!」
巨大な経緯台に取りつけられたサーチライトがビックベンの文字盤を照らしている。
眩しさに思わず目を覆うエージェントたちに、通信機を通したキュリスの静かな声が届く。
「今から『ヴィクトリア』に封印を施します。急いで離れて下さい」
サーチライトの光が消え、次の瞬間、間近じゃなければわからない程の紫黒の光が四方から時計塔に照射された。
それはふっくらと文字盤を包む暗い光球へと変わって行く────。
照射が止まったが、息を飲んでそれを見守るエージェントたちの前で光球は静かに文字盤を覆ってそこに留まった。
バラバラバラというプロペラ音と共に巨大なヘリコプターがドロップゾーンへと降り立った。
「これで、終了よ」
ヘリコプター中からファウストとキュリスと数名の職員が降り立つ。
「これは?」
「以前から用意していたヴィクトリアを封印する試作機です────ですが、これはオーパーツを利用した、世界でたった一台もの。
装置を破壊する可能性のあるファニーガイの前で使うことは出来なかった」
構築の魔女の問いに、白衣を羽織った職員が答える。
「あなたたちのお陰です、ありがとうございます」
「ドロップゾーンは大丈夫なのか?」
怪訝そうなバルトロメイにキュリスが頷く。
「ええ。ドロップゾーンを破壊するためのゾーンブレイカーはこちらへ向かっていますし、今の状態ではここは無力です」
「良かった……」
京子が胸を撫でおろす。
「でも」
ファウストが悪戯っぽい微笑を浮かべた。
「ゾーンブレイカーが来るまで、まだしばらくかかるの」
「念のため、皆さんにはしばらくここで待機をお願いしたいのです」
職員たちがヘリコプターから何かを取り出し、設置し始めた。
上品な厚手のレジャーシート、折り畳みテーブル、テーブルクロス。何か甘い匂いのする籠と、ティーセット。
「まさか────」
「共鳴はしたままになりますが、少し休んで頂ければ。…………もうすぐ始まりますし」
────カーン、カーン、カーン、カーン!
暗い光球で覆われた時計塔から大きな鐘の音が空気を震わせた。
「えっ……」
「少し、騒がしいわよ。特注だから急いで着けて」
ファウストはふかふかとしたイヤーマフを配って装着するように促す。
全員が着け終わった直後に、AGW製イヤーマフを通しても聞こえるけたたましい破裂音。
夜空が眩く輝いた。
いくつもの花火がビックベンから夜空に打ち上げられる。
空気を揺らす人々の歓声。陽気な音楽。
「すごい!」
「こっちの花火は特に音が大きいので気を付けて」
花火はエージェントたちの頭上に巨大な光のアートを描き出す。
「あっちも!!」
共鳴したリュカの手をいつものように握った征四郎が、頬を蒸気させて花火に負けないように大声でリュカに示す。
『おチビちゃん、あまりはしゃぎすぎて、落ちないように』
巨大観覧車ロンドン・アイの方角からも、ビックベンに応えるかのように色とりどりの花火が打ち上げられているのだ。
凛道の青い瞳に眩い光の花とイルミネーションに輝くロンドンの街並みが映って、彼らは息を飲んだ。
「ハロウィンとガイフォークスナイトの締めが花火とは……複雑な気持ちですが────」
渡されたカップから温かい紅茶を一口含んで、構築の魔女は歓声とともに打ち上げられる華やかな花火を見つめた。
「だけど、今年の厄は払えた気がするよ」
構築の魔女の隣で京子は明るい表情は明るい。
『どうだ、覚者よ。これは中々見れぬ光景ではないか?』
ナラカの声にカゲリは黙って紅茶に口を付け、ハーレキンは黙ってその瞳にそれを映した。
『ん……きれい……』
「ああ、そうだな」
なんとなく、並んで見れないことに違和感を感じながら遊夜はユフォアリーヤに応えた。
『きれいですね、バルトさん』
夜空に目を奪われていたバルトロメイだったが、セレティアの声が聞こえた気がしてはっとする。
「そうだな、来年は並んで見よう」
すこし目を細めたバルトロメイの言葉は誰にも聞こえなかった。
「白虎ちゃん、すげーな!」
『千颯、そっちは危ないでござる!』
「わかってるって」
千颯はスマートフォンを空に向けて感動を切り取る。もちろん、それを家に持ち帰るためだ。
『落ちはしなかったが、凄い音だ』
「一年の幕引きには中々なんじゃないでしょうか」
「お陰でスッキリと新年を迎えられそうではあるな」
『騒がしいのは苦手ですが』
共鳴したベルフと昂、そして飛翔とルビナス。
『由利菜────』
「ラシル、ロンドンの花火は素敵でしょう」
『────ああ』
花火が終わったしばらく後、夜空に釘付けになっていた黎夜はふと光球に包まれた文字盤をちらりと見た。
『……ヴィクトリア。その力は俺達の益か、あるいは……』
「……どう、したんだ……?」
考え込むアーテルに黎夜が問う。
『なんでもないわ。────つぅも向こうでお茶を頂きましょう、冷えてる』
暖を取るため、自然と集まったエージェントたちがお茶と軽食を楽しんでいる。
平和なロンドンの夜風がどこからかプロペラ音を運んできた。
────ゾーンブレイカーももうすぐここへ到着するのだろう。
ハロウィンとガイフォークスナイトの影で行われた騒動はこうした幕を下ろした。
I hope you have a happy new year!