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クリスマス関連シナリオ

【聖夜】れっつごーとぅーイルミネーション

雪虫

形態
ショートEX
難易度
易しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
12人 / 4~12人
英雄
11人 / 0~12人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2017/01/04 18:04

掲示板

オープニング

●Let’s プレゼント
「本当にお休み貰って大丈夫なの!?」
 豪快of豪快な声が店中にゴッと響き渡った。ここはオネェバー「かぐやひめん」。その店主であるキャシーの前で青いチャイナドレスのオネェがくねくねと筋肉質バディをくねらせる。
「店長ぉ、去年のクリスマス・イヴは頑張って下さったじゃないですかぁ。だからぁ、私達今年は店長にお休みをプレゼントしたいと思ってぇ」
 とは言ってもクリスマス・イヴはプレゼント出来ないんですけれどぉ。かぐやひめんのオネェ達は残念そうに声を落とした。だがキャシーにはそれで十分だった。もとよりイヴを共に過ごす恋人はお店のお客と決めている。しかし店の子達からのプレゼントが嬉しくない筈がなく。 
「みんな、どうもありがとねん! それじゃあお言葉に甘えて、今年はみんなからのクリスマスを楽しませて頂くわ~ん」

●Let’s 相談
「とは言っても、別に予定もないのよねん……」
 そう言ってキャシーは重苦しく息を吐いた。ここはキャシーの居住地「ナニカアリ荘」。目の前にナニカアリ荘の住人達をはべらせて、キャシーは再び重苦しく深刻に息を吐く。
「みんなには悪いからお休みはありがたく頂いたけど……でもせっかくだから楽しみたいわ~ん」
「オネェさん殿は何かしたい事はないでござるか?」
「出来る事ならエージェントちゃん達のみんなとデートがしたいわ~ん! だって最近ずっとご無沙汰なんですもの~ん。何か大変な事件がいっぱい起きていたみたいだし……あたし心配で心配で……」
 ガイル・アードレッド(az0011)の問い掛けにキャシーはまたもや息を吐いた。キャシーから出された要望にデランジェ・シンドラー(az0011hero001)が口を開く。
「キャシーちゃん、それなら、みんなで一緒にイルミネーションでも見に行かない?」
「イルミネーション?」
「これ、行ってみたいと思ってたのよねん。HOPEのエージェントちゃん達もお誘いして……ね?」
 デランジェはタブレットを操作し画像を出すとキャシーの眼前に差し出した。液晶越しにキラキラと輝く光景にキャシーがボンと手を叩く。何故か風が巻き起こった。
「まあ素敵! そうねん、もしかしたら忙しいかもしれないけれど、一応お誘いしてみましょ! 永平ちゃんと花陣ちゃんも行くわよねん!」
 その声に、同じ空間にいた李永平(az0057)と花陣(az0057hero001)が振り向いた。花陣は「おう!」と元気よく右手を上げ、ようやく衣替えを終えた永平は眉間に皺を寄せる。
「……は?」

●Let’s 悪だくみ
 恋人達が愛を語らったり、家族が団欒を楽しんだり、一部の者が慟哭したり、とあるアパートの一室でオネェがイルミネーションを見に行く予定を立てていたりした、その時節、こっそりひっそりささやかにとある事件が起こっていた。
 その名も「ホープマン事件」。
 強盗や下着泥棒、喧嘩、食い逃げ、子供のお菓子強奪など、様々な犯罪が立て続けに引き起こされ、それら全てで「犯人はホープマンだった」という証言が上がっていた。
 その真相はともかくも、とあるイルミネーションが有名な観光地の一角で、今まさにホープマン「達」による犯行が企てられていた。
「いいか。これから行う計画は、にっくきホープマンの名誉を地に落とすための聖戦である!
 必ずやこの計画を成功させ! イルミネーションとそれを楽しむ一般人をしっちゃかめっちゃかにし! 我々の恨みを世間に広く知らしめるのだ!」
「おおー!」

●イルミネーション村地図

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A:入口
B:イルミネーショントンネル(イルミネーションで出来たトンネル)
C:イルミネーションツリー(広場の中心に立つイルミネーションで飾られたツリー。見上げる程に巨大)
D:イルミネーション村(イルミネーションで彩られたコテージがたくさん並んでいる。コテージの中には入れない)
E:イルミネーション教会(イルミネーションで彩られた教会。教会の中には入れる/中は普通の教会)
F:屋台(おでん・フランクフルト・フライドポテト・肉まん・あんまん・ピザまん・コーヒー・甘酒・ココア・野菜スープ・コーンスープ・キムチチゲ・ホットワインが売っている。飲食スペースは少し高い場所にあり、イルミネーションの全貌を眺めながら飲食出来る)

解説

●状況
・キャシー達に誘われイルミネーション村に行く
・駅に集合→電車でイルミネーション村へ(到着は夜7時)の流れ

●イルミネーション村
 イルミネーションで彩られた観光地。入る時にカードと首から下げるパスケースを渡され、そのカードを使って食事購入/退園時に入場料と食事代を一括清算するシステムになっている。飲食物持ち来みOK。酷い酔っ払いには強制退去の処置が下される
 夜9時までは全体的にカラフル/夜9時以降は白と金のみのイルミネーションに切り替わる

●NPC情報
 ガイル&デランジェ
 お騒がせNINJYA&忍ばぬASSASSIN。恰好はこだわりのNINJYA装束&アンティークドレス。寒さはNIN術でへっちゃらでござるぶえっくしょん
 武器:二丁拳銃「パルファン」

 李永平&花陣
 忠義の悪童&車椅子の英雄。永平は「見てて寒い」と文句を言われたので冬服仕様&花陣はコートを羽織っただけ
 武器:釘バット「我道」

 キャシー 
 身長192cmのオネェ殿。恰好はこだわりの真っ赤なドレス。寒さは筋肉で吹き飛ばす。一応一般人

●敵NPC【PL情報】
 偽ホープマン×6
 シナリオの途中で戦隊物のごとくイルミネーションツリーの前に出現しイルミネーションを壊そうとする。その正体はかつて本物のホープマンに逮捕された小物ヴィラン×6
 AGWは持っておらず素手でイルミネーションを引き千切ろうとしたり一般人を脅そうとしたりする。捕まえるとイルミネーション村からのお礼として入場料と食事代がタダになる

●その他
・NPCは特に要望がなければ描写なしor最小限
・飲食物持ち込みの際は場合によって別途ゲーム通貨を徴収します
・ガイルと永平はホープマンレプリカ(ガチ)を何故か持っている/使用するのをめちゃくちゃ嫌がる
・未成年の飲酒・喫煙描写は出来ません。ご了承願います(見た目が若い成人であればOKです)
・寒いので暖かい恰好でお越し下さい

リプレイ

●待ち合わせ
 仁王立ちするゴリラの姿に春日部 伊奈(aa0476hero002)は瞠目した。何故192cmのゴリ、もといおっさんが真っ赤なドレスに身を包んで仁王立ちしているのか。その威風堂々たる有様に、伊奈は大宮 朝霞(aa0476)へひそひそと話し掛ける。
「おい、朝霞。このおっさん誰だ?」(ひそひそ)
「キャシーさんだよ。オネェバーの店長さんなんだよ」(ひそひそ)
「……キャシーって風にはみえないぜ?」(ひそひそ)
「通称みたいなものだよ。本名はたしか……苦竹剛三郎さんだったかな」(ひそひそ)
「なるほど。朝霞のウラワンダーみたいなものだな!」(ひそひそ)
「あらー朝霞ちゃんお久しぶり~。来てくれてとっても嬉しいわ~ん」
 朝霞を発見したキャシーはバチコーンとウインクした。何故か起こった突風に前髪を巻き上げられつつ、朝霞はぺこりと頭を下げる。
「おひさしぶりです、キャシーさん。今日は思いっきり楽しみましょうね!」
「私は春日部伊奈。朝霞の英雄やってんだ。よろしくな!」
「この前の素敵な彼とは違う子ね。どうぞよろしくお願いするわ~ん」
(「凄く体格の良い人だからすぐ分かるとは聞いてたけど、確かに見間違う事は無さそうだね……」)
 朝霞達の様子を見た杏子(aa4344)は一人頷いた。本当はキャシー達と面識のある娘夫妻にお誘いが来たのだが、彼女達は別件で来れないため代わりに杏子が参加となった。いつもの着物姿ではなく薄紫色のコートを身に纏ってきた杏子は、白いコート姿のテトラ(aa4344hero001)を伴いキャシーの傍で歩みを止める。
「貴方がキャシーさんね? 今回はお誘いありがとねえ♪」
(「正直興味は無いんだがな」)
 上品な笑顔の杏子とは対照的に、テトラは幼い無表情で心中にて毒を吐いた。キャシーが「どうもよろしくね~ん」と挨拶を返す一方、知り合い達の姿を見つけ朝霞は伊奈の肩を叩く。
「ほら、虎噛さんや木陰さん達も来てるみたいだよ」
「ホントだな! 楽しくなりそうだな!」
「こんばんは~」
「よっ、朝霞ちゃん、伊奈ちゃん、今日はよっしく~」
「……こんばんは」
 朝霞の声に虎噛 千颯(aa0123)は元気よく、木陰 黎夜(aa0061)はおずおずと言葉を返した。朝霞はにっこり笑みを浮かべた後別の二人組を発見し、「ガイルさん! デランジェさん! こんばんは~」と挨拶周りに走っていく。
「パパと一緒でデートみたいだね!」
「はは……そうだね……烏兎ちゃんが楽しいならパパ嬉しいよ」
 烏兎姫(aa0123hero002)は朝霞を見送った後千颯の腕にぎゅっと抱き付き、千颯は常に見合わない困惑気味の声を上げた。「別世界の千颯の息子」と言い張る烏兎姫(見た目可愛い女の子)に、千颯は扱い方が分からず困惑している真っ最中だ。決して烏兎姫の事を嫌っている訳ではなく、むしろ甘えてくれる事を嬉しく思っているぐらいだが、
「あ、ガイルちゃん、永平ちゃん」
 と、顔なじみの姿を見つけ千颯は二人へ近付いた。振り返るガイルと永平に千颯は烏兎姫の背中を押す。
「オレちゃんの新しい英雄の烏兎ちゃん。仲良くしてやってな」
「烏兎姫だよ。仲良くしてくれると嬉しいんだよ!」
 烏兎姫はヘッドホンのうさ耳を揺らし元気いっぱい右手を上げた。ガイルは「よろしくでござる!」と元気いっぱいに声を返し、永平は「どうも」と呟いた後愛想少なくそっぽを向いた。
 
 ウェルラス(aa1538hero001)はキャシーの前に膝をつき、映画のワンシーンよろしく花束を差し出していた。久々に会えた憧れのキャシーにウェルラスのテンションはうなぎ上りになっている。
「お久しぶりです。ミス・キャシー。やはり変わらずお美しい。こちらはミス・キャシーの美しさの前では霞んでしまいますが……誠意をこめて選ばせていただいた花になります」
「いつもありがとうねんジェントルちゃん。ジェントルちゃんにお会い出来てあたしもとっても嬉しいわ~ん」
 キャシーはブーケクラッカーを受け取ると、ウェルラスに向け投げキッスをリップ音と共に放った。ブーケの受け取りを断られる事も想定していたウェルラスだったが(きっとミス・キャシーは断り方も美しいからとしょぼくれるつもりもなかったが)、上がっていたテンションが更に限界値を突破した。しかしいくらテンションが上がろうと、このまま独占はしないのがウェルラスという男である。「それでは他の方のご挨拶もあると思うので」とスマートに距離を取り、そのままキャシーを見る事が出来る位置をひっそりキープする。例えるならいにしえの女子学生のキャッキャッとしたノリ。見られるだけで幸せいっぱい。そんな相棒の後ろ姿を水落 葵(aa1538)はいつもの事と割り切った瞳で眺めていた。
「葵くん、こんばんは。イルミネーションを見に……というよりはウェルラス君に引っ張られてきた感じかな」
 爽やかな青年の声が聞こえ、葵は振り向いてほっとした、のも束の間、声の主の性格を思い出し若干視線が遠くなった。しまった今回の周囲のシチュエーションは彼の変……アレを増す条件しかそろっていない、ような気がする。葵にそんな心配をされる変た、もとい友人蛇塚 悠理(aa1708)、の相棒蛇塚 連理(aa1708hero001)の格好に、葵は自分の予感が当たった事を瞬時に悟った。
「やぁ、蛇塚サン達久しぶり。……連理サンは……これまたかわいらしい格好で……」
 葵は連理の服装を何とも言えぬ瞳で眺めた。悠理は特に何の変哲もないコートとマフラー装備という至って普通の格好であり、連理はブラウン系のダッフルコートの下にセーラー服がちら見えしている。一見するとイケメンと、茶色の三つ編みがキュートな女子高生のカップルである。連理が男である事を除けば。
「ふふ、楽しみだね連理」
「イマスグカエリタイ」
 連理は一瞬ウェルラスに助けを求める視線を向け、すぐ諦めた。ウェルラスはキャシーを眺める事にすっかりお熱になっているし、格好が格好なので静かにしていた方がいい。
「あ、佐倉さんも来てたんだね」
 と、悠理が佐倉 樹(aa0340)に気付き片手を上げ、葵は樹に気付かれる前に一瞬にして姿を消した。避けるにしても不自然にならない範囲でしたい所だが、今近くにはキャシーがいる。せっかく一年程隠し通せたんだからバレないに限る。うん。
 という葵の心情を一切知らず、悠理はお得意のイケメンスマイルで樹へと話し掛ける。
「こんばんは。そういえば佐倉さんはもう成人していたかな。お酒飲めるなら今度一緒に飲みたいなって」
「ええ、そうですね」
 樹は自分の格好につっこまれないようとても静かにしている連理、の遠くに去った人影に橙の瞳を細めたが、今は追っている場合ではない。今日は他に用事もあるし、
「お仕置きが必要な場合は後日執行、今日はその通達ぐらいかな……」(ぼそり)

「お誘い、ありがとうございます」
「寒くない? ダイジョブ?」
 白市 凍土(aa1725)はキャシーへとしっかりお辞儀付きで挨拶を述べ、シエロ シュネー(aa1725hero001)はごそごそした後マフラーを取り出した。キャシーは出されたマフラーに笑顔と遠慮を同時に浮かべる。
「お気遣いは嬉しいけど、あなた達は大丈夫?」
「オレはマフラー慣れてないし……」
「私は風の子だから平気!」
 凍土の声にシエロが続け「走れば寒くナイよー!」とその場をぐるぐる回り始めた。元気いっぱいなシエロの姿にキャシーは笑みを、コートと手袋装備の凍土はぶっきらぼうな溜息を洩らす。
「本当に風の子ねん」
「よく寒くないなって思うよ」
「それじゃあお借りするけれど、寒くなったら遠慮なく言うのよん」
「電車が来たでござるよ!」
 ガイルの声に一同は改札口へと入っていった。駅に来ていないメンバーはイルミネーション村前で合流する事になっている。木陰 黎夜(aa0061)はアーテル・V・ノクス(aa0061hero001)と仲間の背を見送りながら、もこもこの手袋に冷え始めた頬をうずめる。
「イルミネーション……キレイなの、いっぱい見られるといい、な……」
「たくさん楽しめるといいわね、黎夜」
 アーテルの声に黎夜はこくんと頷き返し、皆の後を追うべく改札口へと足を進めた。

●イルミネーション村入口
「知り合いは多いけど主催のキャシーさん? とは面識ないんだけど、来て良かったのかな」
 入口に立つ秋津 隼人(aa0034)は夜空に赤い瞳を向けた。そんな隼人をクロエ(aa0034hero002)が見上げ、幼い容姿に似合わない落ち着いた風情で口を開く。
「ここまで来て何を今更。これを機にって事でいいんじゃないの? それに前にも言ったけど、たまには休みも必要なんだって」
「まあ、そうか……全ては御挨拶してから、か。それじゃあ早速一緒に……」
「という訳で僕は屋台とイルミネーション自由に楽しんでくるから、頑張ってね」
 飄々としたクロエの言葉に隼人は「え」と声を漏らした。信頼する相手限定の砕けた調子でクロエはさらに言葉を続ける。
「だってジャンケンで負けて来られなかったあいつの顔見たでしょ? その分楽しまないと逆に心苦しいし、主に接するのは隼人なんだから僕はいいでしょ」
 隼人の脳裏に置いてきたもう一人の英雄の姿が過ぎった。確かにその分楽しむというのは一理あるように聞こえるが……隼人が反論するより先にクロエが飄々と言葉を続ける。
「恋人と来てるなら兎も角、今回は都合ダメだったんだし。大丈夫、あいつへのお土産も買っておくから!」
「いやそこを心配してる訳じゃ……まあいいや、じゃあ任せるよ。そっちも楽しんで」
「流石、話が早くて助かるよ♪」
 言うが早いかクロエは速攻で入口へと吸い込まれた。しばらくして隼人の元にドレスを着たゴリ、もとい話に聞いていたキャシーと顔見知り達が到着し、隼人はまずキャシーへと挨拶するべく歩を進める。
「初めまして、秋津隼人と申します。今日はお誘い下さりありがとうございます」
「こちらこそ今日はよろしくね~ん」
「……」
 千桜 姫癒(aa4767)は入口から覗く人の群れに細く美しい眉をしかめた。英雄の日向 和輝(aa4767hero001)に言われるままにここまで着いてきはしたが、
「人ごみ苦手なの知ってて俺を連れ出してる?」
「たまには良いだろ。イルミネーションとかしょっちゅう見れるものじゃないんだし、綺麗な物は好きだろう?」
 和輝の言葉に姫癒はむっと口を噤んだ。和輝の言葉は間違いではない。間違いではないけれど、
「綺麗なのは良いけど、ああいうのって浮かれて変な奴が出てくるのが定番な気がする」
「わかった、そんな奴が出てきたら俺がさっさと始末する」
 二つ返事の和輝に姫癒は小さく息を吐いた。とは言え信じていない訳ではない。おちゃらける時もあれど真面目な時はきっちり決める、そんな相棒を頼りにしてるし、それを誓約と結んでもいる。
「頼んだよ」

「それじゃあみんな、入りましょうか」
 キャシーの声に一同はゲートへと足を進め、食品購入に必要というカードをパスケースにそれぞれ入れた。黎夜はコートの中にパスケースを仕舞った後、キャシーの元へ近付いておずおずと声を掛ける。
「キャシーお姉さん、今日はお誘い、ありがとう……楽しみに、きた……」
「あら本当? 黎夜ちゃんが喜んでくれたらオネェさんとっても嬉しいわん」
「それで、出来れば一緒に回りたいんだけど……他にお誘いなければ、だけど……。独り占めするつもりは、ねーから……」
 黎夜の言葉にキャシーは目を見開いた後、嬉しそうに瞳を細めた。黎夜が怖がらなくて済むように更に声を和らげる。
「こんな可愛い子にお誘いされてお断りするわけがないわん。いっぱい見て回りましょうねん」
 キャシーの返事に黎夜は表情をわずかに緩めた。未だ男性恐怖症と戦う黎夜が、「男性」であるキャシーとの溝を完全に埋める事は出来ない。
 それでも、
「……よろしく」
  
●Let’s イルミネーション
 まず視界に飛び込んだのは、数多のイルミネーションで彩られた幻想的なトンネルだった。赤、青、黄、緑、橙、白、桃色と、たくさんのイルミネーションがアーチを作り連なって、正に光の洞窟として観光客を迎え入れる。シエロは「イルミネーションだー!」と突風のごとき突撃を見せ、伊奈はイルミネーションに負けないぐらい目をキラキラと輝かせる。
「おーっ! すげー!! 朝霞、はやく行こうぜ! はやく!」
 伊奈に手を引っ張られ朝霞も楽し気にトンネルをくぐった。夜空をバックにイルミネーションは輝きを一層増していて、見ているだけで朝霞の胸もわくわくとときめいてくる。
「これは本当にすごいね! 綺麗だねぇ」

 姫癒は少々不安げに人集りを見回した。幼少から生い立ちや容姿の事でトラブルに巻き込まれがちな姫癒は、今回のイルミネーションもあまり乗り気になれなかった。
 ホープマン事件。
 先日ネットに載っていた記事も姫癒の気掛かりの一つだった。変な奴が増えている時節に、事件に巻き込まれそうな場所を訪れるのは本意ではない。しかし来たからにはやはりイルミネーションを楽しみたい。その気持ちもまた本心だった。
「和、変なのがいたら……」
「わかってる、何か起こる前に始末してゆっくりイルミネーションを楽しもうな。で、何処から見ていく?」
「とりあえずトンネル潜ってツリー? メインみたいだし……」
「おっけ、ゆっくり見たら温かい飲み物でも飲もうか。俺は珈琲、ひめちゃんはココア?」
 和輝の呼び方に姫癒はむっと皺を作った。確かに姫癒は中性的な、今でもたまに女性と間違われる程の容姿だが、
「ひめちゃんって呼ばない。あ、肉まんも……」
「了解了解。後でゆっくり食べような」
 からからと笑う和輝に連れられ、姫癒もイルミネーションの洞窟へ一歩足を踏み入れた。懸念を滲ませていた表情も、圧巻と呼べる美しさにあっという間にほころんでいく。そんな姫癒を眺める和輝もまた表情を和らげていた。

 杏子はウキウキした足取りでトンネル内を眺めていた。まずはトンネルを思う存分堪能し、次にツリー、コテージと一通り見て回るつもりだ。嬉しそうな杏子と裏腹に、テトラは口元に手をやって無表情に着いていくだけ。
「とっても綺麗だねえ♪ テトラ、お前もそう思うだろう?」
「……」
 喋りもしない相棒に杏子がふと視線を落とすと、テトラはイルミネーションにあまり興味が無い様子で肉まんをムシャムシャ食べていた。一体いつの間に肉まんを手に入れたかは定かでないが、花より団子、もといイルミネーションより肉まんと言わんばかりに淡々と口を動かす。
「……まあ、お前にとってはどうでも良い事か」
 杏子は頬に右手を添えふうと上品に息を吐き、テトラは我関せずで肉まんをムシャムシャ食べている。
 
 連理は村に入る前より一層静かになっていた。頭の上にはねこみみカチューシャ(あくまで装備)、両手にはねこねこなっくる(どうあがいても装備)が着いている。ダッフルコートからちら見えするセーラー服(やっぱり装備)と合わせて可愛さパワーはバツグンだ! 
(帰りたい……でも装備と言われちゃ仕方ない……絶対後でこいつの足を思いっ切り踏ん付けてやる……)
「俺も一緒で良かったのか?」
 連理が悠理への報復を心密かに固めていると、悠理に誘われ着いてきた葵がぽつりと声を掛けた。悠理は葵を振り返りイケメンスマイルにて答える。
「葵くんはソウルメイトな気がするから。ああ、これがイルミネーションツリーだね。これはまた……大きいね。首が痛くなりそうだ」
「上までイルミネーションってどうやってんだろ……」
 悠理の言葉に連理が続け、イルミネーションが幾重に巻かれた巨大ツリーに視線を向けた。ツリーのサイズもさる事ながら、使用された電飾は一万個に手が届く。色とりどりの星を集めて贅沢に散りばめたような、迫力ある美しさに思わず息を吐いてしまう。
「すごいな……と、蛇塚サン達、もし良ければ何か飲みにいかないか? ホットワインコーナーとかあるみたいだし……寒いしあったまろうか」
「それはいいね。あったまったら教会にも行ってみようか。教会は二度目かな。連理は洋風の方がいい?」
 葵の誘いに悠理が同意しそのまま連理に視線を落とした。セーラー服をちら見せしつつ連理が全力でツッコミを入れる。
「とりあえず立つなら右側だしその予定は無いからな!?」

「屋台の食べ物……種類も豊富で結構手が込んでていいね。たかだか祭りの出店と侮れないものだなぁ」
 一先ずは腹ごしらえと屋台を訪れていたクロエは、お土産探しを行いながら食べ歩きを楽しんでいた。目に入った物を購入しては口に入れ、同時に屋台からの光景も思う存分堪能する。
「それにイルミネーションもまぁ見事で……人が集まるのも頷けるな。温かみがあると言うか……これは、僕にはなかった、かな?」
 一瞬、夜空のようなクロエの瞳が物思いに曇ったが、すぐさま食べ物を味わい続けるお仕事へと戻っていた。先程隼人に言ったように思う存分楽しまなければ、留守番を務めているもう一人の英雄に失礼だ。
「しかし、食べ物の屋台ばかりだね。お土産は……教会で祝福受けた何か、飾りとか貰えないかな……」

「屋台だー!」
 そんな大歓声と共にシエロは屋台に吸い込まれた。某掃除機もびっくりの、ただ一つ変わらない全力マックス吸引力。
「ほんな(ごっくん)キレイな光の中で食べるひゃべものおいひー(ごっくん)ね!」
「食べるか話すかどっちかにしろよ」
 イルミネーションも屋台も全力で楽しむ相棒から凍土は財布に視線を落とし、しばしの間沈黙して考えるのをふっとやめた。「ココアください」と注文を入れ飲み始めた凍土の前を、寒そうな格好をしたNINJYAが一人通り掛かる。
「ニンジャさん! 甘酒飲みますかー?」
「寒いものはガマンしないで温かいの飲んだ方が良いよ?」
 二人の声にガイルが振り向き「シエロ殿! 凍土殿!」と元気いっぱいに駆け寄ってきた。「サンキューベリーマッチでござる」とありがたく甘酒を頂戴し、そんな一同の元に葵と蛇塚組が到着する。
「水落サン、肉まん食べよー。ウェル君にピザまん渡したいよー」
「ウェルラスはキャシーサンの追っかけだな……何か奢るよ。ほれ食えちびっこ」
 葵は肉まんのお礼におでんのカップを凍土とシエロに渡した後、二人の頭をぐしぐし撫でた。二人がこんにゃくをもぐもぐしているとそこに隼人も参上し、先日顔見知りとなった葵と悠理に声を掛ける。
「水落さん、蛇塚さん。先日のバーではお世話になりました。水落さんは運んでくれたそうで……本当にすいません。お礼に何か一つ奢らせて頂きたいんですが……」
「じゃあ一緒にホットワイン、どうかな。ちょうど蛇塚サンと一緒に飲もうとしていた所なんだ」
「やぁ秋津くん。この前はとても楽しかったよ。そうそう紹介が遅れたね。この人がね、俺の大切な人なんだ」
 とてもいい笑顔で挨拶し、にっこりと連理を押した悠理は、直後華麗なターンを決めた連理に思い切り足を踏み付けられた。装備の恨みもこの際だからと込めながら、連理はちょっとびっくりしている隼人へと顔を向ける。
「これの英雄の蛇塚連理だ。こいつの言うことは大体冗談だから気にしないでくれ……」
「え、ええ、よろしく……」
 返答に困った隼人はなんとかそれだけを返した。連理の外見と説明不足が相まって、隼人には連理の性別が分からない状況なのだが、
(下手な事は言わない方がいい気がするな……)「秋津隼人です。よろしく」
 悠理の足を執拗に踏む連理に隼人は問題の回避を決め、たまごもぐもぐに取り掛かる凍土とシエロに声を掛けた。

「あったかくて、おいしい……」
 おでんのスープで喉を潤し、黎夜はほうと息を吐いた。コートにマフラー、手袋、ニット帽と防寒対策に万全を期す黎夜の姿はもこもこだが、もこもこに包まれる本体は細身の痩せ型となっている。そんな黎夜の前にあるのは、おでんの他にフライドポテト、肉まん、そしてコーンスープ。
「黎夜は本当によく食べるわね。もっと食べて大きくなりなさいな」
 もこもこ黎夜と対照的にコートにマフラー、手袋とシンプルに纏め上げたアーテルは野菜スープを一口飲んだ。ホットワインも嗜んでいるが一杯だけなので酔ってはいない。
 一方キャシーは一時別れ屋台を物色していたが、そこに同じく屋台を訪れた姫癒と和輝が通り掛かる。
「あ、キャシーさん。今日は誘ってくれてありがとうございます。こんな綺麗な場所知らなかったんで助かりました」
「どうも、ありがとうございます」
「こちらこそ、お付き合い下さって嬉しいわん」
 和輝と姫癒の言葉にキャシーはバチコーンとウインクした。何故か巻き起こった風を頭の上に感じながら、姫癒は懐から愛用のタロットを取り出す。
「もしよければ、お礼にタロット占いでも……」
「ひめちゃんは占い師なんですよ。星も見れますが、得意分野はタロットの大アルカナを使った占いで」
「占い師? 素敵だわ~ん。それじゃあお願いしちゃおうかしら」
「それでは、ワンオラクルを」
 人の少ない所に場を移し姫癒は慣れた手付きでカードを切った。とは言っても実は来る前に占っていたので、結果をキャシーに引かせる形でカードを見せる。
「THE STARのカードの正位置……あなたの希望が叶うチャンスの時、直感やひらめきを大切にして判断すると良い……」
「あら、さっそく当たっているわん」 
 思いもよらぬ反応に姫癒はわずかに首を傾げた。そんな姫癒にキャシーは悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「だってエージェントちゃん達とデートしたいってひらめいて、今その希望が叶っているもの。そしてこれからも今日みたいな幸運が舞い込んでくる……そういう事よねん、占い師さん」
 キャシーはバチコーンとウインクを飛ばすと「これからどうされるの?」と二人に予定を聞いてきた。少し休憩した後教会でのんびりするつもりだと伝えると、「楽しんでねん」と手を振られたので会釈をしてその場を去った。占い師は英語に訳すとfortune teller、幸運を告げる者と言い、姫癒はその言葉通り幸運を告げる者であろうとしている。
 姫癒はタロットを一瞥した後大事そうに仕舞い込み、ご機嫌な様子の姫癒に和輝も嬉しそうな色を浮かべた。難色を示していた姫癒だったが、綺麗なイルミネーションはお気に召して頂けたようだ。
「それじゃあ、ココアと肉まんを手に入れに行こうか、ひめちゃん」
「だからひめちゃんって呼ばないで」


「ただいま戻ったわ~ん。黎夜ちゃんはお腹いっぱいになったかしら?」
 キャシーの問いに黎夜はこくりと頷き返し、それからおずおずとキャシーを見上げた。自分の発言を待つキャシーに意を決して口を開く。
「キャシーお姉さん、ツリー、行きたいんだけど、いいかな……あと、トンネルも……」
「もちろんよん。それじゃあ行きましょ」
 黎夜はキャシー、アーテルと共に巨大ツリーまで歩いていき、堂々たる光のツリーに三人揃って息を洩らした。アーテルはスマホを取り出すと黎夜とキャシーに声を掛ける。
「ねぇ、黎夜。キャシーさんも。折角だからツリーを背景に一緒に一枚どうかしら?」
「……キャシーお姉さんは、いい……? うちは、誰かと一緒に写真撮るの、あんまりなかったから……歓迎……」
「もちろんよん」
「それじゃあ撮るわよ。二人ともこっちに視線を頂戴」
 告げて一枚画像を撮り、アーテルはスマホを見つめやわらかい笑みを浮かべた。笑顔こそ見せる事は出来ないが黎夜の表情は緩んでおり、楽しそうな雰囲気は十二分に伝わってくる。
「次はトンネル、行きたい……」
「了解よ~ん。いっぱい楽しみましょうねん」
 キャシーの言葉に黎夜は頷きトンネルに足を踏み入れた。アーテルは黎夜の姿を優しい瞳で見守りながら、もう一人の英雄への土産と黎夜の思い出残しの為、黎夜とイルミネーションを中心に再びスマホのカメラを向けた。

「おでんだ、朝霞! おでんがあるぜ!」
「冬はやっぱりおでんよね! すみません、おでん二人前ください!」
 おでんに飛びつく伊奈の横で朝霞は元気に手を上げた。「熱いから気ィ付けろよ」という店員の忠告通り、あつあつのおでんを受け取って飲食スペースに移動する。少々高い場所にある飲食スペースに腰を下ろし、そこから光の絨毯のような村の様子を一望する。
「絶景だね!」
「絶景だな!」
 はふはふとおでんを食べながら景色も堪能していると、伊奈の目にキラキラ輝く光のツリーが飛び込んできた。遠目にも目立つ巨大ツリーに伊奈の瞳もキラキラ輝く。
「なぁ、朝霞。私、あのツリーがみたいな!」
「そうだね! よし、近くに行ってみよう」
 楽しそうな人の波を二人は泳ぐように歩いていった。ツリーは近付く程にその大きさを増していき、辿り着いた二人は最後に「おお~」と息を吐く。
「大きいねぇ」
「でっかいな! 綺麗だな!」
 朝霞の声に伊奈が嬉しそうに言葉を続け、そのまま二人は光の巨木を仲よく並んで見上げていた。

 クレア・マクミラン(aa1631)はアルラヤ・ミーヤナークス(aa1631hero002)と共にホットワインを嗜んでいた。本当はクレアはウイスキー、アルラヤはウォッカが欲しかったが、取り扱っていないとの事でホットワインに甘んじていた。なお配分は食事より酒である。
 ふと顔を上げると通りすがった葵がコップを軽く掲げてきたので、クレアもコップを掲げ簡単な挨拶を交わし合った。そしてすでに何杯目か分からないホットワインを流し込み、アルラヤの杯も空である事を確認して立ち上がる。
「どれ、教会にも行ってみようか。酒が欲しくなったらまた来よう」
 クレアの言葉にアルラヤは黙して追従した。目以外を包帯に覆い隠し、厚手の茶色い防寒コートと鉄のヘルメットを身につけた「兵士」は、自分からはほとんど喋らない。しかし必要な事のみはハッキリと返すこの英雄が否を唱えないなら否ではない。威圧感漂う相棒を背後に連れ、クレアは人混みとイルミネーションの中を歩いていった。

「養母さんが好きだったわね。もう一年か……」
 志々 紅夏(aa4282)はホットワインとノンアルコールの甘酒をそれぞれ手に持ち立っていた。周囲にリンカー達はおらず、幻想蝶さえ両方家に置いてきている。手に持った二種の飲み物をしばしの間眺めた後、ホットワインに口をつけ隣へわずかに視線を送る。
「こういうの、好きよね。養母さんと一緒に見られないのはやっぱり寂しいわ」
 隣に人がいるかの様に紅夏は独り呟いた後、もう一度ワインに口をつけ、そこで自分の前に誰か立っている事に気が付いた。駅で合流した際「やっと服を着たわね」と声を掛け、「誰かさんがうるさいんでな」と軽口を返してきた相手……永平が眉をわずかに寄せて小柄な紅夏を見下ろしている。
「その顔は見たし聞いたわね」
「……」
 沈黙で是と返す永平に溜息を吐き、紅夏はまた一口ホットワインを口に含んだ。「こっち来て」と永平を近くへ呼んだ後、半ば独り言のようにぽつぽつと声を落とす。
「養母さんが去年の今朝、病気で亡くなったのよ。血の繋がりはなかったけど、両親に自殺された私を引き取ってくれた。その時にはもう八十を越えてたから、仕方ないの」
 耳を打つ声に永平は口を結んだが、紅夏は永平を見ないままコップの縁を少し舐めた。他人に素直な感情を見せる事はない紅夏が、今日は酔っているためか饒舌に内心を吐露していく。
「でも、私はあんたが羨ましい。あんたの龍は生きてる。私の養母さんはもういないから」
 悲し気に呟いて、紅夏はレターセットを取り出すと永平の胸に押し付けた。困惑を見せる永平に紅夏は酔った舌を動かす。
「いつか、その人に渡す手紙でも、自分が感謝してる誰かにでも、恋文でも、上手く言えない事書くといいわよ。あんたも口下手そうだし。私は、今はいないから」
 レターセットを返そうとして、しかし永平は大人しく受け取る事にした。「貰っとくよ」と言う永平に、紅夏はもう片方の手にある甘酒のカップを持ち上げる。
「これ、養母さんの為に買ったの。でも自分で飲むわよ。養母さんの為に買っても養母さんいないもの。でも、養母さんの好きなもの、捨てるなんて出来ないわ」
 珍しく普通に笑う紅夏を、永平は痛々しいものを見るような顔で眺めていた。今度は甘酒を一口飲み、紅夏はぽつりと口を開く。
「そろそろあっち行ってちょうだい。勝手言って悪いけど、独りで飲んでいたい気分なの」
「……あんまし、飲み過ぎるなよ」
 永平はそう言い残して紅夏の元を離れていった。当てもなくしばらく歩いていると、向こうから小腹を満たしに来た樹とシルミルテがやってきた。いち早く気付いたシルミルテが「花陣チャンは?」と永平に近付き、永平は屋台に視線を向ける。
「派手な殺し屋と一緒にいるぜ。その辺をウロウロしてると思うが」
「探しテクる!」
 言うが早いかうさ耳を揺らしシルミルテは駆けていった。樹は相棒を見送った後周囲に知り合いがいない事を確認し、永平の前に小指の先ほどの小さな何かを差し出した。
「?」
「手、出して」
 永平が大人しく右手を出すと樹はダイスを……濃い暗赤色をしたガーネットの原石結晶を、ダイス風に加工したものを永平の手に転がした。ダイスとしての機能を殆ど持たないそれに視線を落とす永平に、樹は淡々と言葉を告げる。
「クリスマスの贈り物。ガーネットを加工してもらったんだ。“どんな困難や大きな課題を前にしても、持ち主に忍耐力を与えて前向きに乗り越える”力をくれるんだってさ。いまの永平にぴったりでしょ」
「……」
「まぁ……色々あるけどさ、私は私なりにやるしやっていくよ。焦るな とは言わないけれども、あまり焦りすぎると、永平が今の望みを何故望んだかの『何故』がぶれちゃいそうだからさ。一番大事な芯の部分を忘れないように ね」
 永平はダイスをしばし見つめた後「サンキュー」と呟いて、右手のひらを握り締めた。いつになく大人しい永平に、樹は構わず言葉を続ける。
「あぁ、そうだ。うちの第二誓約英雄が永平と花陣に会いたがってるんだ。こんど連れてくるから会ってあげてくれる? はい、これ私の連絡先」
 言って自分の連絡先を永平に手渡した樹は、同時に反対の手を出して永平に何かを要求した。「連絡先を寄越せ」と無言で、当たり前のように催促する樹に、永平は目を見開いた後半ば感心した息を吐く。
「なんつーか、たくましいな、お前は」

 一方、シルミルテは樹に近付き過ぎない、かつ離れ過ぎない距離をキープしつつ花陣とデランジェを探していた。これ以上は無理かなと諦めかけた、ちょうどその時、「よおうさ耳」と片手を上げる花陣の姿が瞳に映る。
「花陣チャン! デランジェチャン!」
 シルミルテは目を輝かせると二人目掛けて突撃した。車椅子に乗る花陣の膝に「どーん」と元気に飛び込んだ後、手のひらサイズのぬいぐるみを四つ取り出し二人に見せる。
「あらかわいい。うさぎさん?」
「そうダヨ! めリークリスます! コれオ手製のプレゼント! こッチノお花のガ花陣チャンで、コっちが永平チャンのネ! 後デ渡しテオイてくれル?」
「自分で作ったのか!?」
 花陣は受け取ったぬいぐるみを驚いた様子でまじまじ眺めた。後ろ頭に濃い桃色の小さな花束を模した文様が刺繍されているぬいぐるみと、片側の腰に赤目金龍の文様が刺繍されているぬいぐるみ。花陣と永平、二人を模したと思われるそれに花陣が照れた笑みを浮かべる。
「へっへー。あんがとなうさ耳」
「どういタシまシテ! デランジェチャンもハッピーメりーくりスマス! はイ! 一針一針に”好き“ヲ込めまシタ♪」
 シルミルテは今度はデランジェを模した、後ろ頭に濃い桃色のバラの紋様が刺繍された個体を差し出した。そして最後の一つ、肩の辺りに青色で手裏剣が刺繍されているぬいぐるみを、大事そうに抱え込んでこてんと首を横に傾げる。
「ガイルチャンがお手隙なラ直接渡しタいんダけド……」
「そうねん。そっちの方が喜ぶかも」
「永平も直接渡してやれよ。絶対素直に受け取らないけど」
 言った後花陣は「冗談冗談。ちゃんと渡すよ」とシルミルテの頭に手を伸ばした。シルミルテは頭を撫でられながらにこにことした笑みを見せた。
 
●VS偽ホープマン
「そろそろツリー見に行こうよ!」
 風の子シエロに急かされるまま凍土はツリー方面へ足を向けた。ちなみに凍土は待ち合わせには余裕を持って早く到着していたのだが、それも「イルミネーションだー!」と浮かれる好奇心の鬼に急かされた……訳ではなく、元々到着は余裕を持って早めにする派なだけである。
「……ん? なんだあれ」
 ツリーの近くまで赴いた二人は、そこで見るからに怪しい集団が立っている事に気が付いた。安っぽいメット。胸には赤いフェルトのワッペン。ピッチピチタイツの肩にはマントのように翻る風呂敷。どう見たって怪しいし、なんだか少し物悲しい。そんな怪しい集団に「寂しい人かな?」と風の子シエロは首を傾げて突撃する。
「なーにしてるの? 一緒に見よう! すっごくすーっごくキレイだよ!」
「肉まん、たべますか?」
 シエロがうーんと腕を伸ばしてイルミネーションの美しさを表現し、凍土は肉まんを取り出して不審者達に差し出した。不審者達は一瞬うろたえたがすぐに思い直したようで、目の前に立つ凍土とシエロにビシッと人差し指を向ける。
「我々は観光に来たのではない、イルミネーションを壊しに来たのだ! 人々に絶望をもたらす使者、絶望戦隊ホープマ」
 省略。
 とりあえず、やたらちゃちい格好をした戦隊崩れは凍土とシエロに飛び掛かった。慌てず騒がず共鳴した二人は拒絶の風を自身にまとわせ、湧き上がる人の声にエージェント達が異変に気付く。
「こら! 貴方達! なにしてるんですか! やめなさい!」
 ツリー下からいち早く駆け付けた朝霞は不審者にビシッと指を向けた。しかし偽ホープマンはイルミネーションを引き千切ろうと朝霞達に背を向ける。やめるつもりがないと判断した朝霞は傍らに立つ伊奈を振り向く。
「伊奈ちゃん、変身よ!」
「うへぇ、みんなみてるぜ。ココでアレやるのかよ?」
「つべこべ言わないの! 変身! ミラクル☆トランスフォーム!!」
 説明しよう、朝霞は英雄と共鳴する事で『聖霊紫帝闘士ウラワンダー』(自称)に変身するのだ! 「ビシィッ」とポーズを決める朝霞に伊奈はしぶしぶ共鳴し、そして光の中からウラワンダーが現れる。
「聖霊紫帝闘士ウラワンダー参上! それで、貴方達は一体何なのよ」
「我々は! 絶望戦隊ホープマ」
「貴方達みたいのがホープマンなわけないでしょ!」
 喰い気味にツッコミを入れたウラワンダーはそのまま偽者に飛び掛かった。反撃する隙も与えず偽者を組み敷いて、ピチピチタイツに包まれた腕を反対側に捻り上げる。
「器物破損ですよ! 警察に突き出しますよ」
「いでえ! 悪かったから離してくれっ!」

 キャシー達と共にトンネルを眺めていた黎夜は、逃げ惑う人々の声に黒い瞳を動かした。アーテルと視線のみで会話した後キャシーの方へ向き直る。
「……キャシーお姉さん。ちょっとそこで待っててほしい、な……」
「おいたが過ぎるのでちょっとお仕置きに行ってきます」
「気を付けてねん」
 黎夜は頷きアーテルと共鳴すると、キャシーに見送られながら現場へと駆けていった。一方、ホットワインを飲んでいた葵達の所へと、珍しく慌てた様子のウェルラスが滑り込む。
「ほら! 葵! 共鳴して! へんなの片付けるよ!」
「どうした……いやに積極的だg」
「万が一ミス・キャシーが怪我されたらどうするの!?」
 ウェルラスの瞳はふとどきもの(偽ほーぷまん)排除のために燃えており、それを見る葵の瞳は達観に遠くなっていた。葵達とワインを楽しんでいた隼人がコップを置いて溜息を吐く。
「楽しい一時を何と無粋な……さっさと片付けてしまいましょう」

「パパ、本物のホープマンが見たい!」
 烏兎姫の無邪気な無茶ぶりに千颯は困り果てていた。烏兎姫に悪意は全くなく、我儘は大好きなパパに甘えたい子供心故である。千颯としてもそのお願いに全力で答えてやりたいが、
「あ、ガイルちゃん! 永平ちゃん!」
 そこに、騒ぎを聞きつけ共鳴したガイルと永平が通り掛かり、千颯は持てる野生を総動員して二人へと飛び掛かった。突然の野生児襲来に二人はあえなく捕らえられ、千颯は二人をホールドしたまま声を殺して話し掛ける。
(「ホープマンになって!」)
「は」
「どうしてでござる!?」
(「声小さく! 実は烏兎ちゃんにホープマンが見たいって頼まれたんだけど、オレちゃんがなってもバレちゃうからガイルちゃんと永平ちゃんにお願いしたいの! ホープマンレプリカ(ガチ)持ってるんでしょ?」)
(「なんでそれを知ってんだ」)
(「細かい事はどうでもいいの! ホープマンになるか、オレちゃんに胸を揉まれるか二つに一つだ! どっちを選ぶ!」)
 千颯は二人の肩を渾身の力を込めて掴んだ。共鳴していない筈なのだが、この握力で揉まれたら揉まれるじゃ済まない。もげる。顔を引き攣らせる二人に対し、千颯は今まで見た事が無いレベルの鬼気迫った表情で詰め寄る。
(「烏兎ちゃんにホープマンが見たいって頼まれたらオレちゃんが鬼になってでも願いを叶えるんだぜ! さぁ! ホープマンになるか! イエスかはいか! どっちだ!」)
 選択肢ないじゃないですか、などというツッコミは通らなかった。千颯の目から血涙が流れた。こわい。


「……ホープマン? 何だいそれは?」
 杏子はテトラと共鳴し孤月を右手に携えたが、相手が素手であると知るや武器を仕舞い手刀を構える。
「さあ、手加減してやるから本気でかかって来なさい!」
「そんなお上品な格好で怪我しても知らないぜ……うおっ!」
 飛び掛かった偽ホープマンに杏子は黒の和服を翻し、見事な体捌きで不審者をいなし背後へと回り込んだ。そのままカオティックソウルで攻撃力を上昇させ、不審者の背中へ鋭い一撃を叩き込む。
「不躾は許しませんよ、覚悟なさい!」

「悪い事は、ダメ……弱らせて……捕まえる……」
 黎夜は蛇弓・ユルルングルを召喚すると、雷光をまとう一射を偽者へと撃ち放った。命中しひるんだ隙に隼人が極獄宝典『アルスマギカ・リ・チューン』の攻撃を重ね、慌てふためいた偽者は悲鳴交じりの声を上げる。
「なんでこんなにリンカーがいやがんだ!?」
「パパとのデートを邪魔するなんて許さない! 早く倒してもっと一緒にイルミネーションを見たり料理を食べたり、デートをいっぱい楽しむんだ!」
「烏兎ちゃんとの初共鳴、パパ頑張るよ!」
 千颯は烏兎姫と共鳴し、ブレイジングソウルの引き金を引いた。足下に命中させ、偽者がへたり込んだ所で眉間に銃口を突き付ける。
「ホールドアップ! ってな! これ以上悪さするならホープマンも黙って無いんだぜ!」
「はっ、ホープマンなんてどこに」
「ここでござるよ!」
 元気いっぱいに響いた声にその場一同は視線を向けた。頭部を覆う凛々しいメット。胸元で輝く赤い紋章。翻る緑のマント(裏地赤)。体にぴったりフィットスーツ。
「俺達が……本物のホープマン……」
「でござるよ!」
 ホープマンAはびしっと華麗なポーズを決め、ホープマンBは嫌そうに拳を上げた。ガチ感のあるメットがイルミネーションを反射している。

 目の前の光景にクレアは嫌そうに顔をしかめた。「ふむ……善からぬものを感じる……」と呟くアルラヤに「仕方ない、邪魔をされるのは癪だ。片付けよう」と返して現場に来てみれば、
「クソ、邪魔されてたまるか!」
「そこまでだ」
 足音を殺し人混みに紛れ偽者の背後に回ったクレアは、魔導銃「ファウダーC5」を不審者の背に押し付けた。青い瞳が据わっているのは酒に酔ったせいではない。
「私がこの世で嫌いなものはマズイ食事とマズイ酒、そしてくつろげる酒の時間を邪魔されることだ」
『貴殿の選択肢は二つ。抗戦し倒れるか、両手を頭に置き膝をつくか』
「く、クソッ!」
 破れかぶれに拳を振るう偽者にクレアは得物をファラウェイに変え、全力でフルスイングを叩き込んだ。ブースター内蔵超合金バットの一撃粉砕ホームラン。

 凍土に銀の魔弾を撃たれ偽者は逃げ惑っていた。樹は基本スルーしようとしていたが、こちらに向かってきているのでシルミルテと共鳴する。
「どうやら従魔じゃないようだね」
 ならばと黒の猟兵を開き、演出兼びびらせ目的でブルームフレアを炸裂させた。そこに幻想蝶を呼び出し、共鳴した紅夏が立ち塞がる。
「いい度胸してるわね」
 呟いて、格好も格好な偽者へロケットパンチを発射した。そこに葵の姿を借りたウェルラスが到着し、ターキーハンマーを後ろに大きく振りかぶる。
『ミス・キャシーに危害を加えるのは許さない!』
 そして放たれたハンマーに偽ホープマンは吹き飛ばされた。本日はホームランが大盤振る舞いの模様です。

 悠理はねこねこなっくるを構えたまま怒っていた。愛しい連理との時間を邪魔されイケメンはおこおこである。
「こんなところで乱闘騒ぎなんて、さすが偽物かな。本物ならまずこんなことしないだろう? その陳腐な服装ぼろぼろにしてあげるよ」
 そして悠理はボディ狙いでねこねこなっくるを繰り出した。出来るだけ加減しているとは言え、重く鋭いねこおこラッシュに偽者は一瞬でぼっこぼこである。
 最後の一人は戦慄した。このままでは自分がしっちゃかめっちゃかにされてしまう。逃げよう、と足を引いた瞬間、凍土の朱里双釵と姫癒のクリスマスベルロッドが勢いよく襲いかかり、慌てて避けた先で黎夜のノーブルレイが絡み付く。
「う、うお、なんだ!」
「鋭いから……暴れると切れる、よ……」
 小声で静かに呟かれ、偽者はひっと悲鳴を上げた。おとなしくお縄についた偽ホープマン戦隊を、クレアと和輝達が代表で然るべき機関に引き渡しに行き、ウェルラスは近くで不安そうにしているカップルや家族連れのフォローに回った。
『すいません、演出だったのですが……貴方たちの仲の良さに嫉妬してしまったようです』
「……えらい目に遭った」
「千颯殿コワかったでござるな」
 と、事態が一段落した所に、ホープマンレプリカ(ガチ)を脱いだ永平とガイルがこっそりひっそり戻ってきた。二人を見つけた烏兎姫がぱたぱたと駆け寄っていく。
「パパに無理をお願いされたんでしょ。ごめんなさい。でもパパを責めないでね? ボクがお願いした事だから……これはお詫びとお礼!」
 そして烏兎姫は二人の頬に軽くキスをお見舞いした。烏兎姫にバレていた事はさておいて、目撃した千颯が烈火の如く二人に詰め寄る。
「●×▽□◎■◆×△!」

●騒ぎの後で
「お待たせ……。キャシーお姉さんは、ケガとか、ない……?」
「素敵なエージェントちゃん達のおかげであたしもイルミネーションも無事だわん。とってもカッコ良かったわよん」
 キャシーの言葉に黎夜は嬉しそうに頬を緩めた。共鳴を解き、コート姿に戻った杏子が皆に声を掛ける。
「お疲れ様も兼ねてみんなでホットワインでも飲みましょう。ガイル君とデランジェちゃんには何か温かい物を買ってあげる」
「そうですね。ひめちゃんも、ほら」
「ひめちゃんって呼ばないでってば」
 杏子の誘いに姫癒を連れて和輝が同意し、ほとんど全員参入の飲み会が始まった。杏子は家族からよく聞く木陰組と虎噛組にこれを機会と話し掛け、隼人は先程のソフィスビショップ勢の戦い方を今後の参考と記憶に留める。
「水落のおっさん、ウェルラス、ちょっと手、貸して」
 凍土はメジャーを持ちながら葵とウェルラスに話し掛け、二人の手形と長さを測った。疑問符を飛ばす二人に凍土は作業しながら説明する。
「今度お返しにマフラーと手袋編もうと思って。マフラーは適当でも良いけど、手袋はしっかりしたの作りたいしさ」
「そうか、それは楽しみだ」
「期待してるよ」
 葵とウェルラスの言葉に凍土はこくりと頷いた。そんな葵達を見るとはなしに見る樹に、シルミルテがこっそり問い掛ける。
「……後悔ハ?」
「全部成し遂げてたとしても しないよ」
 樹は淀みなくそう答え、コップの中身を軽く煽った。

 クレアとアルラヤは屋台に戻ってしばらく飲み食いを楽しんだ後、教会へ赴き中で静かに過ごしていた。ちょうど聖歌隊が準備している最中で、二人は邪魔にならない位置でその様子を眺めている。
「アルラヤ、お前達は信仰心はあるか?」
 複数系の呼び方にアルラヤは疑問を呈さなかった。青い瞳を正面に向け淡々と言葉を紡ぐ。
「意見が分かれる。この手の問題は統一見解は出せんな。サニタールカはどうなのだ?」
「なくはない。が、昔ほど強くはない」
「何を考えた」
「考えたことは多くあったが、結論としては人を救うのは人の術だということさ。生きることへの執念が信仰ならそれはそれで命を繋ぐ一つの要素になるが、手を施す人間がいなければ死ぬ。神に祈る暇があるなら、腕を磨く」
「然り。最後は人の術だ。とはいえ、時に信仰は人の心を慰め、前を向かせる。やはりぞんざいには扱えん」
 会話が途切れたちょうどその時、聖歌隊の歌声が教会内を包み始めた。荘厳な歌声に耳を澄ませ、クレアが心地良さげに呟く。
「信仰心はさておき、今でもやはり聖歌隊の歌を聴くのは毎年変わらないな。美しい」
「……」
「お前達はあまり興味はないか?」
「いや、我々も嫌いではない。思い出すことも多い」
 それきりアルラヤは沈黙し、クレアも話し掛けはしなかった。聖歌隊の歌を聞きながらのんびりと瞼を閉じる。

 紅夏は皆から一人離れイルミネーションを眺めていた。九時になり金と白に変わった光は美しく、けれどどこか物悲しい。
「やっぱり今日は……ダメね」
 呟いて、紅夏は誰も見てないだろうと声を上げずに泣き始めた。そこに人の気配がし、紅夏ははっと顔を上げる。
「泣いてんのか?」
「み、見ないで」
 永平の声に紅夏は必死に手で顔を隠そうとした。永平は紅夏から少し離れた位置に立ち止まり、独り言のように口を開く。
「俺はどっかの親馬鹿から逃げてここに来ただけで、ここで誰が何をしようがそんな事は知らねえよ」
 紅夏が永平に視線を向けると、永平は目を固く閉じ、手で両耳を押さえていた。自分は何も見はしないし聞きもしないと言わんばかりに。紅夏は顔を少しだけ歪ませると、アルコールのせいにして目元を両手で覆い隠した。

●帰り道
「「キャシーさん、今日はありがとうございました!」」
「こちらこそマフラーありがとう。次誰かが寒そうにしてたら貸してあげてちょうだいねん」
 声を揃える凍土とシエロにキャシーは借りていたマフラーを返した。アーテルは朝霞や千颯達に黎夜の事をそっと預け、一人キャシーに話し掛ける。
「キャシーさん、黎夜と仲良くしてくださってありがとうございます。去年のクリスマスイヴに出会ってから依頼や遊びのお誘いを受けて、黎夜は楽しそうなんです。今日のお誘いもとても楽しそうにしていました。これからも、よろしくお願いします」
「あたしも黎夜ちゃん達に出会えて本当に幸せよん。これからもどうぞよろしくねん」
「あ、リンカーさん達ちょっとお待ちを!」
 ゲートを出て行こうとすると、一人の男性がこちらに向かって走ってきた。男性は息を整えた後一行へ大きく頭を下げる。
「私はここの責任者です。先程は不審者達を捕まえてくれてどうもありがとうございました。せめてものお礼に今回の入場料と食事代はサービスさせて頂きます。それと」
 責任者は「思い出にどうぞ」とエージェント達に何かを配った。イルミネーションを模したキーホルダーは、きらきらと美しく手のひらの上で輝いている。クロエはキーホルダーをまじまじと見つめた後、口元を少し吊り上げた。
「お土産はこれで大丈夫かな? 喜んでくれるといいんだけど」

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 挑む者
    秋津 隼人aa0034
    人間|20才|男性|防御
  • エージェント
    クロエaa0034hero002
    英雄|13才|男性|ソフィ
  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 薄明を共に歩いて
    アーテル・V・ノクスaa0061hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • 雨に唄えば
    烏兎姫aa0123hero002
    英雄|15才|女性|カオ
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 私ってばちょ~イケてる!?
    春日部 伊奈aa0476hero002
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 実験と禁忌と 
    水落 葵aa1538
    人間|27才|男性|命中
  • シャドウラン
    ウェルラスaa1538hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
  • 死を殺す者
    クレア・マクミランaa1631
    人間|28才|女性|生命
  • 我等は信念
    アルラヤ・ミーヤナークスaa1631hero002
    英雄|30才|?|ジャ
  • 聖夜の女装男子
    蛇塚 悠理aa1708
    人間|26才|男性|攻撃
  • 聖夜の女装男子
    蛇塚 連理aa1708hero001
    英雄|18才|男性|ブレ
  • エージェント
    白市 凍土aa1725
    人間|14才|男性|生命
  • エージェント
    シエロ シュネーaa1725hero001
    英雄|12才|?|ソフィ
  • 断罪乙女
    志々 紅夏aa4282
    人間|23才|女性|攻撃



  • Be the Hope
    杏子aa4344
    人間|64才|女性|生命
  • トラペゾヘドロン
    テトラaa4344hero001
    英雄|10才|?|カオ
  • ひとひらの想い
    千桜 姫癒aa4767
    人間|17才|男性|生命
  • 薫風ゆらめく花の色
    日向 和輝aa4767hero001
    英雄|22才|男性|バト
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