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【相談卓】
最終発言2016/12/20 06:48:00 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/12/20 01:33:27
オープニング
●クリスマス・リンクス
人々がそわそわし始める季節――クリスマス。
街頭にはクリスマス・イルミネーションが輝き、商店のショウウィンドウには赤と緑と白の三色が飾られる。恋人や家庭人たちはその日を待ち望み、一部の者たちは自嘲的に当日の予定を語る。
世界蝕以降、創造の二十年を経てなお変わらないもの。
愚神が出現しても、大きな事件が起こっても。
商業主義的だとか本来の意味が失われているとか、そんな批判も何のその。多くの人々が、以前と変わらずイベントを楽しんでいる。変わったことと言えば、「どこかの異世界にはサンタのような英雄がいる。だからサンタは実在する」とまことしやかに語られるようになったことくらい。
これはそんなクリスマスの一角で起こった事件――。
●恋愛の聖地とクリスマスの樹
この星に数多とある『恋愛の聖地』。
そこはそのひとつだった。
陸地から離れ、海にぽかりと浮かぶ小さな人工島。
その中心には建物を飲み込むように幹や根を伸ばす巨大なガジュマルに似た樹が生えていた。
枝の先にガラスの鈴のような花序をつける奇妙な植物である。花序はほんのりと緋色を帯びて、風に吹かれるとしゃらんしゃららんと涼やかな音を鳴らす。それがまた美しく幻想的で見る者の心をかき乱した。
────それは元々AGWの研究の過程で生まれた美しいだけの植物であった。だが、その姿に目をつけたひとつの企業がこの小さな島に樹を植えた。海風にさらされながらも特殊な生育方法で育てられたそれはあっという間に大きくなり、幻想的な光景を作り出した。
人工的に作られた小島に植えられた人に生み出された植物は、『恋愛の聖地』という商業施設を作り出し、そこは『ロートスの樹』と名付けられた。
さて、『ロートスの樹』のスタッフは悩んでいた。
シスターの制服をそつなく着こなした彼女はこの施設でも一目置かれる存在だった。
一目置かれる存在というのは、何かと問題を押し付けられることも多い。
そんなわけで、今回もそうだった。
「う、うぅうん……」
今、この施設はどんな恋人同士の心も射落とす、やる気満々のクリスマスモードである。
キュートからセクシー、清楚までお客様の様々な好みに対応し、どっさり仕入れたイルミネーションの輝く光でどんな朴念仁もときめかす、そんなやる気満々のクリスマスモードなのである。
それなのに、ここで従魔発生。
「なんなの、このパターン。去年から冬になるとこのパターンが多いような気が」
人が集まればライヴスも集まる。ならば、それに惹かれて愚神や従魔が現れるのも世の常なのかもしれないが。
「でも、この時期に従魔に負けて施設を閉めるわけにはいかない…………!」
書き入れ時のクリスマスモードなのだから。
意を決して彼女が助けを求めたのは、もちろん、H.O.P.E.のエージェントたちである。
●メガネかけて
「そういうわけで、『ロートスの樹』にて大量発生した従魔を倒して欲しいのです」
オペレーターが説明する。
「従魔と言えどもレベル0のイマーゴ級です。ただ、これが大量に発生しており、これが続けば施設内の人々が体調を崩す、またはライヴスを集めた従魔が成長する可能性もあります。特に年末年始は人の出入りも多いので一刻も早い解決が望まれます」
オペレーターはスクリーンに星型とハート型の光を映す。
「これが問題の従魔です。H.O.P.E.により『ランビリス』と名付けられました。体長五センチ。何種類かおり、七色に光ってふわふわ飛んでいるそうです。
そこで皆さんにはこれを使って従魔を退治して貰います」
オペレーターはおもむろにテーブルの上に大きな虫取り網と鼻ヒゲ眼鏡を置く。────鼻ヒゲ眼鏡、パーティアイテムでよくある丸い黒縁眼鏡にゴムの大きな鼻とカイゼル髭が付いたお笑い担当のあのアイテムである。
「この虫取り網には微弱なライヴスが走っており、触れるだけでランビリスは消滅します」
仕組みはラケット型の害虫駆除道具に似ている。
「そして、眼鏡は────実は、この眼鏡ではなく持ち込みの眼鏡でも構いません。ただ、眼鏡をお持ち頂けないと、予算と在庫の関係でこの眼鏡になるというだけなんですが……。
ランビリスの姿は肉眼では見えません。眼鏡のガラス部分にこの特殊な液体をかけますと、眼鏡をかけた時にランビリスを見ることができるようになります。ただし、問題がふたつ」
オペレーターは真剣な顔でこう言った。
「能力者か英雄がこの液体を塗布した眼鏡にライヴスを込めてパートナーに眼鏡を着けるという手順が必要です。これは、双方のライヴスが必要なためと、共鳴した後に眼鏡をかけた場合、双方のライヴスが拾えなくて効果が発揮できないためです」
そして、とオペレーターは更に深刻な顔をした。
「この眼鏡をかける時、眼鏡をかけようとする側が非常に、とってもドキドキします」
●あるエージェントたちの場合
ミュシャ・ラインハルト(az0004)は長い時間眼鏡を持っては手元へ戻すという動作を繰り返していた。
「────ミュシャ…………、僕がやろうか?」
エルナー・ノヴァ(az0004hero001)の何度目かの申し出をミュシャは首を左右に振って断った。長いポニーテールが勢いよく揺れる。
「大丈夫です。前にもこんな目に合いましたから慣れています」
「だけど」
「大丈夫です! エルナーにドキドキされるよりはマシです!」
「────まし……」
ミュシャは何度目かの深呼吸をすると、件の液体をレンズに塗布した自前の眼鏡をエルナーの顔に近づけた。
────途端に、心臓が大きくはねる。そして、早鐘のように鼓動が早くなり顔がかああっと赤く染まり始め、耳まで熱くなる。
「────う、あ、ううっ、すみません!」
ばっと眼鏡を持ってミュシャがその場に蹲る。
「ミュシャ……代わってもいいかな?」
「ダメ、です!!」
ミュシャ・ラインハルトは涙目で叫んだ。
「あちらの部屋は騒がしいな」
灰墨信義(az0055)はミュシャたちが居るであろう別室を見て、小馬鹿にしたように小さく笑った。
「────まあ、俺たちは夫婦だし、そういうのは平気だろ」
少しからかうように信義は妻でありパートナーの英雄でもあるライラ・セイデリア(az0055hero001)を見た。
「あら、ならなんでワタシが『かける方』なの?」
ライラが問うと、信義はにやりと笑った。
「その方が面白いだろう」
小さくため息をついたライラ。だが、すぐに件の液体を塗布した信義の私物の眼鏡を手に持ち、信義にそっとかける。
「どうだ?」
ライラの頬がほんのりと赤くなり、そしてにっこりと笑う。
「不思議ね……。信義がとてもいい子に見えるわ。ふふっ、意地っ張りな所も面倒な性格もみんなとっても可愛いわよ」
「おい────」
ライラの答えに信義の表情が固まった。
解説
眼鏡に塗布する液体の瓶にはこう書いてある。
・直接肌に触れても問題はありませんが、専用の布に染み込ませて眼鏡に塗布してください。
・ライヴスを込めて眼鏡を相手にかける際、動悸がしますが、単なる副作用です。
もし、相手が異性として非常に素敵に思えたり、家族としてとても優秀で愛おしく思えても(いわゆる親馬鹿状態です)、
それは一時的な副作用のせいです。
目的:共鳴し、虫取り網を振り回して従魔を撲滅する
ただし、共鳴するまでが(ドキドキして)大変である
従魔の数が多く、完全殲滅は夜までかかる
従魔を全部倒した後はイルミネーションを見ながら遊んでOK
敵
ランビリス(イマーゴ級)
光りながらふわふわ飛ぶが、特殊な液体をかけた眼鏡のレンズ越しじゃないと見えない
微弱なライヴスで消滅
施設内容
一般客がたくさん居るが、入場制限がかかっているため、そんなに混んではいない。
一般客にあまり迷惑をかけないようお願いします。
宿泊施設もある観光地なので島の開場時間の決まりは無く、施設は十時開始が多い。
エージェントは無料で屋台で食べ放題飲み放題。
石畳のメイン通りの両脇にはたくさんの屋台が並び、クリスマス料理からお酒まで色々提供している。
無数にクリスマスツリーがあり、夜になるとイルミネーションが美しい。
海上にも蝋燭のような光が浮かびロマンチックな光景になる。
時間帯:朝九時共鳴チャレンジ開始、望むなら共鳴は個室でもOK
●お願い
眼鏡を持つ方※の名前とその反応が「家族」か「異性」か記載をお願い致します。
※眼鏡自体の区分が能力者・英雄の装備品であるというのは今回関係ありません
その後の双方の台詞・反応、NG項目がありましたらその辺りもできるだけプレイングや設定項目にお願い致します。
特に、英雄・能力者同士の呼び方は設定や『イラスト描写、シナリオ執筆の際のお願い』等に書いて頂けると、
今回に限らずとても助かります。
リプレイ
●動悸・息切れ・恋煩い?
英雄の光縒(aa4794hero001)に副作用について秘密にして依頼に挑んだ天宮城 颯太(aa4794)は、さっさと眼鏡をかけることにした。
────ていうか、話したら殺されかねない。
使う眼鏡は颯太のものであるから、必然的にかけるのは光縒になる。
────いつも仏頂面の光縒さんの違った一面が見られるのかな?
ドキドキわくわく、キラキラした眼差しで、光縒をじーっと顔を見つめる颯太。
……そこに光縒の目潰しが炸裂した。
「ウボァアァ!? 目が、目がァアアアア!!」
悶えゴロゴロとのたうち回る颯太。
「アア……」
天を仰いだその瞬間にスチャっと慣れた感覚。眼鏡が装着されたのだ。
「……フン。さっさと起きなさい。共鳴するわよ、颯太」
声のトーンはいつもの冷酷非道な光縒のものだ。
咄嗟に彼女を見たものの、まだしょぼしょぼとしている颯太の瞳ではぼんやりとシルエットしかわからなかった。
鳥海 陸(aa4676)は宗近(aa4676hero001)に手を差し出した。
「あまり人混みには入りたくはねェんだ。さっさと終わらせるぞ」
自分の伊達メガネに液体を塗った宗近が尋ねる。
「時に主君。こちらの薬、副作用がありますが、よろしいですか?」
「あ? 大丈夫だろ? しっかし、妙な薬を使わねェと見えない従魔がいるんだな」
そう言うと、鳥海は受け取った眼鏡を不用意に宗近に向けた。
「普段は不愛想でクソマジメで。キレると手がつけられねぇくらい怖ェし」
鳥海の粗暴な言葉に宗近は僅かに眉を顰める。
────おや? 薬が間違っておりましたか?
ドキドキして相手が魅力的に見えるという副作用のはずだ。ただ、鳥海の眼鏡を掛ける手が止まっている。
眼鏡を持った鳥海の言葉は続く。
「だが、俺が引きこもっている間面倒見てくれたし、俺だけじゃなく妹と弟の面倒をよく見てくれるし、オマケに亀裂入ってた家族との間を取り持ってくれて、その社交性は尊敬して」
ぱたん、眼鏡のテンプルが閉じられた。
「────って何言ってんだ俺は!!!!」
頭を抱えて絶叫する鳥海。その頬は赤いが、羞恥の為か副作用の為かは定かではない。
「おやおや……。これはなかなか」
「なかなかってなんだよ……言いたい事あるなら言えってんだ」
顔を赤らめながらもいつもの自分を保とうとする鳥海。
「では、失礼して……」と前置きし、宗近はしみじみと言った。
「これが所謂ツンデレというものですか」
「どこで覚えたその言葉ァ!」
絶叫。
「妹君の参考書にございます」
参考書と言う名目の漫画である。
「あいつ……」
そう言いながら、彼はまた無意識にノーガードで眼鏡を持った。
「そうやってドンドンワカラナイ言葉覚えて使っていく積極性も魅力だって」
ぱたん。
「……副作用テメェ!!」
絶叫再び。
しかも、それが絶対言えないと思っているものの、紛れもない本音でもあるからさらに恥ずかしい。
己の状態に悶え見えない副作用へ怨嗟の声をあげる鳥海に宗近はクールに言った。
「主君。早くして下さい」
「うっす……」
ノーリアクションはつらい。
鳥海はそう思ったが、実は宗近は解り辛く褒められる喜びを噛みしめていた。
紫 征四郎(aa0076)が丁寧に塗布した持ち込みの伊達メガネ。それをユエリャン・李(aa0076hero002)は無造作につまんだが、即座に動きを止めた。
「だ、大丈夫ですか……!?」
「大丈夫、だが。これは少し拙いであるな……」
自分を気遣って見上げる少女……心臓のリズムの乱れにより勘違いが起こっているのか、何故か征四郎の長い紫の髪も綺麗な肌もいつもより美しく、愛おしく思えてくる。
────恋愛とは、かくも心が乱されるのか。
”前”世界での記憶は曖昧だ。もしかしたらこのような想いを抱えたこともあったのかもしれないが……。
「────あ」
ユエリャンの変化を目の当たりにした征四郎は、はっとして一緒に依頼を受けた木霊・C・リュカ(aa0068)と凛道(aa0068hero002)を見た。
もちろん、彼らも凛道の私物の眼鏡を使って挑戦していた。
凛道によるとその眼鏡は共鳴時のモノクル、デ・ラ・リュースが姿を変えたものだと言うのだが。
それはともかく。
眼鏡を受け取り凛道に向けたリュカもまた激しい胸の高鳴りに襲われていた。
さらりとした髪の間から真っ直ぐにリュカを見つめる視線。……眼鏡をかけてもらう凛道が生真面目にリュカを見つめているだけなのだが、リュカは手に持った眼鏡を握りしめ、思わず片手で胸を押さえる。
「……ま、マスター?」
紅潮したせいで白い肌が際立ち、赤い瞳が潤む。
「これが……恋……?」
「は?」
「!! ゆ、ユエリャン!」
「どうした、おチビちゃん」
どう眼鏡をかけようかと考えを巡らせていたユエリャンの視界の中で、征四郎の顔色が赤と青に明滅する。
「うう、絶対に早く終わらせるのです。ユエリャン、共鳴しますよ!」
必死に縋り付く征四郎。眼鏡を手にしたユエリャンはたまらず視線を反らす。
「わかった、から、余り真っ直ぐ見ないでくれ」
そこで、ふと、あることに思い至った彼は眼鏡のフレームを征四郎に向けると楽しそうに尋ねた。
「なぁ、君にはちゃんと我輩が美しく見えているか────」
「もー、いいから早く! 共鳴!」
必死の征四郎にスルーされた挙句、軽く叱られた。
「まったく」
鷹揚に笑うと尊大な美人は小さな佳人にちょこんと眼鏡をかけてあげた。
「動悸が激しくてつらいから、ちょっとタンマ」
「だ、大丈夫ですか……」
大丈夫って何が。などと自分で自問自答しながらも凛道は己のマスターを見る。
一旦眼鏡を収めたリュカがちらりと振り向けば、ユエリャンが征四郎に視線を合わせて優しく眼鏡をかけている。
…………紫家の美しい方々は絵になる麗しさなのに、こちらはいい歳をした男子ふたりで何をやっているのだろう。
「……マスター?」
戸惑いを深める凛道に、改めてリュカは片手で彼の顔を撫ぜる。
重度弱視者のリュカにはよく解らないから、フレームで顔を刺したり傷つけたりしないように耳の位置をきちんと確認しながら、眼鏡を凛道に向ける。
「いや、何だか最初の誓約の時を思い出して」
相変わらず、動悸は酷い。
それでも、なんだかそれが少し可笑しくも感じてきて、吹き出すような笑みを零しつつリュカは口を開いた。
────見えない中でも、不思議と色が飛び込んできたんだ。とっても綺麗な、少し紫がかった青。
「竜胆、悲しみに寄りそう正義と誠実の花、凛とした道を行く子。
まだわからない事も多いけど、お前から見た世界もとても綺麗なんだ!」
マスターの言葉に、眼鏡を掛けた凛道がまっすぐに彼を見た。
それから、幻影蝶がふわりと舞い────共鳴したリュカは凛道の瞳を得る。
世界は……美しく愛しい。
涙目で蹲るミュシャと困った表情でそれを見守るエルナー。
なんとなくふたりのやりとりを見てしまう月鏡 由利菜(aa0873)とウィリディス(aa0873hero002)。
「……ユリナって年下の男の子が好みの異性みたいだけど、実際どうなの?」
「り、リディスには関係ない話でしょう!?」
ミュシャたちの様子に刺激されたのか、突然そんなことを言い出すパートナーに由利菜は激しく狼狽する。
────同性の第一英雄であるリーヴスラシルに惹かれる自分をいけないと思う由利菜は、異性の恋人を探そうと思っていた。だが、恋愛に酷く奥手な彼女にそれは難題である。
そして、誓約してからそんな由利菜を見守ってきたウィリディス。
そんなふたりの元へ友人のミュシャから今回の依頼の相談が舞い込んで来たのだ。
恋愛の聖地という文言に惹かれたふたりは思い切って参加したのだが。
「大惨事だよね」
呟くウィリディス。そう言いながらも持ち込んだ眼鏡はしっかりとその手に。
「それじゃ、眼鏡はあたしがユリナにかけるね」
「好奇心が旺盛すぎるわ、リディス……」
この惨状を前にしても、面白そうだからと嬉々して伊達メガネを持つ彼女のたくましさ。
だが、そんな彼女にも副作用は起こった。それも、かなり強力な形で。
「リディス?」
目を閉じて待っていた由利菜だったが、一向に眼鏡をかけてこないウィリディスを不審に思いそろそろと目を開ける。
途端に、茶色の瞳を潤ませて縋り付くように自分を見るウィリディスの顔が飛び込んで来た。
「あたし、ユリナと友達じゃ嫌なの!!」
「────えっ」
眼鏡のフレームをぎゅっと握ってウィリディスが由利菜に迫る。
「だけど、ユリナの心にはいつも先生がいて……あたしが入る余地なんてなかった!
あたしのことももっと見て! 誓約だって、もっと親密な内容にして……」
「ま、待ちなさい、リディス!」
先生、というのはリーヴスラシルのことだ。彼女への想いまでばらされ慌て困惑する由利菜。
慌てて辺りを見回すも、幸いというか周囲は相変わらずのある種の阿鼻叫喚である。
────”いつも友人として親しく話す”。
動揺した由利菜の脳裏にウィリディスとの誓約内容が過る。
「リディス! あなたは契約の時、自分を私の親友として受け入れて欲しいと言ったでしょう! 誓約は軽く扱っていいものではありません!」
毅然とそう言い放つと、由利菜はウィリディスの手首を掴む。その言葉に一瞬口ごもったウィリディスだったが、そっと眼鏡を由利菜にかけた。
「あ、あれ?」
「大丈夫ですか?」
由利菜の声かけに、ウィリディスは怪訝な顔で曖昧に頷く。
「眼鏡をかけないと見えねェってのは面倒だねェ」
「眼鏡をかけて、わかるから、まだ楽なもの」
準備した眼鏡を弄ぶ聖陽(aa3949hero002)のぼやきに九龍 蓮(aa3949)は答える。
「……まァ、そうだねェ」
そうなんだが、過程にだいぶ問題があるようだ。
聖陽は顔見知りのリュカや征四郎たちのあれやこれやをちらっと見て、手の中の眼鏡に視線を落とした。
こんな小さなレンズ一枚のせいで、謎の液体のせいで騒動が起きている。
「ヤン、眼鏡」
蓮に促された聖陽は眼鏡のテンプルをつまむ。
持ち込んだ眼鏡は居候先の主人のものを内緒で拝借したものだ。度は入ってない。
「さて」
眼鏡を蓮に向ける。とたんに高まる鼓動。
「────女に興味がねェっつっても、男に興味があるわけじゃねェはずなんだがねェ」
「ヤン?」
首を傾げる蓮に聖陽は苦笑いを浮かべた。
男女の区別など関係なく魅力的なこの虹蛇のワイルドブラッドの姿が、まるで彼の持つスフェーンのような不思議な魅力をたたえて見える。
もしかすると、この気持ちは異性に対する感情に似ているのかもしれない。
「俺様でこれだから、ユエのやつがやったら、大惨事だなァ」
眼鏡をかけながら、聖陽は蓮に尽くすことがすべての第一英雄を思い浮かべる。
「……だから、声かけなかった」
「……納得だ」
眼鏡をかけるとときめきも高揚も収まった。
そこに在るのは見覚えのある眼鏡をかけた聖陽の主人、いつもの蓮だ。
藍那 明斗(aa4534)は混沌とした室内を感心したように見回した。
「眼鏡を外した相手にドキッでもなく、眼鏡萌えでもなく……かける過程にドキドキさせるとは開発者……なかなか業が深いな! うまく使えば金儲けのタネにすら……」
「本業の事もちゃんと考えてねー」
さらりと商売を考える相棒にクロセル(aa4534hero001)は苦笑した。
明斗の眼鏡をクロセルが持つ。
────まあ、俺たちは大丈夫だろ。
そんな気持ちはあった。
けれども?
「動悸なんて600年ぶりかも」
「大丈夫かよクロセ。心臓発作とかやめてくれよォ?」
普通に動悸が激しくなったクロセルの様子に、明斗は相棒の負担を軽減させようと顔を緩ませた。それの表情はさながら顔文字の(3ω3)である。
「優しくしてネ☆」
三の字の目のまま無駄にキリッとした明斗の様子にクロセルは吹き出した。
「プッ。……だめ、笑いとどきどきで息が……」
「おじいちゃーん!!?」
突っ伏したクロセルの状況が回復するのを待ってテイク2。
深呼吸をしたクロセルは作戦を練った。
「ミントくん、動かないでね」
尻尾を明斗の体に巻きつけ、お互い逃げない様に固定する作戦に出たクロセル。
しかし、相変わらず胸の鼓動は激しい。
「こんなに密着する必要な……ちょ、待っ!」
頬を赤らめ、動悸を抑えるために息を深くしながら近付く可憐な相棒の顔に、眼鏡を持っていないはずの明斗が謎の背徳感に襲われた。思わず身をそらし、更に動揺のまま、悪手なことに思わず自分を拘束するクロセルの尻尾を掴んだ。
苦手な尻尾を掴まれたクロセルは思わず可愛らしい悲鳴を上げた────あと、咄嗟にパンチを明斗の鳩尾にめり込ませた。
「……う、ぐ……」
予想外のダメージに崩れ落ちる明斗。
……テイク3。
「いつから俺が眼鏡をかけなければならないと錯覚していた?」
攻守交替。ダメージから立ち直った明斗が相棒から眼鏡を受け取る。
クロセルは眼鏡を掛けて貰うために目を閉じた。
「さっきはゴメンね。ん、じっとしてるから」
完全にキス待ち顔の美少女です本当にありがとうございました。
────これはいかん。
目をつぶったクロセルを置いて、明斗はダッシュでオペレーターが机に並べた眼鏡に飛びついた。
「鼻眼鏡、鼻眼鏡」
「え?」
全力で目の焦点を眼鏡に集中させた明斗の努力の甲斐があって、鼻ヒゲ眼鏡をかけた可憐なクロセルの姿がそこにあった。
「……任務完了だ」
「気持ちはわかるけど、これからだよね」
激しい疲労感に襲われたふたりはぺたんと床に腰を着けた。
「じゃ、かけるよ、メガネ……」
持ち込みの伊達メガネに液体を塗布したリヴィア・ゲオルグ(aa4762)は英雄に眼鏡を掛けるべく、フレームを相手に向けた。
とたんに、心臓が痛いくらい激しく動く。それにつられて、頬が熱を持っていくのがわかる。
しかし、眼鏡はかけなくてはいけない。必然的に、高鳴る胸で紅潮した頬で相手を見つめる羽目になる。
感情は、身体の勘違いから起こることもある。否定すれば否定するほどドツボに嵌ることもある。
────な、なんでメガネかけるくらいで変な空気に……!?
狼狽のせいで眼鏡をかける手が止まると、必然的に相手をじっと見つめる羽目になる。
「────思えばあんたが来てくれたから、エージェントになれたんだよね……」
ぽろりと零れた自分の言葉に、はっとするリヴィア。
「ふ、ふん……吸血鬼が来て喜ぶなんて変態なんじゃないの!?」
そう、あの憎い吸血鬼なんて。
リヴィアは眼鏡をパートナーにかけるとさっさと共鳴する。
彼女の姿は彼女が憎む吸血鬼に変わったけれど、さっきの強い動悸は収まった。
────でも。
目の前の吸血鬼の姿に嬉しく歓喜したその気持ちは、かつてその存在に憧れ追った頃の自分を思い出させた。
……それは再び胸の奥に押し込める。
「行きましょう」
颯爽と歩き出す麗しき吸血鬼。その手には虫取り網。
残念ながら激しく似合わなかった。
エレオノール・ベルマン(aa4712)は用意した伊達メガネに液体を塗布すると、トール(aa4712hero002)を見上げた。
「お前がかけるのか?」
「Ja」
トールに椅子に座って貰って、エレオノールが彼に眼鏡を近づける。
「……うん」
激しい動悸。燃えるような瞳と赤い髪、そして髭を持つ勇ましく逞しい英雄が、アサ神族最強の戦士を映していることを急に思い出した。
エレオノールは古い時代へのロマンを抱き北欧神話に慣れ親しんだスウェーデンの羊飼いである。寝物語がてらに聞いたトールやフェンリルは元々好きであり、神を映した存在である彼と契約できたのは僥倖とも言えた。
「トール、あなたがいたのはどんな世界だったの?」
「五百四十の部屋があるビルスキルニルという屋敷でな……お前も知っているだろう?」
もちろんだ。エレノオールは頷いた。
「でも、あなたの口から聞きたかったの」
動悸は激しいが、高揚した気持ちは不思議な穏やかさも持っていた。
眼鏡はすんなりとトールの顔に収まった。同時に不自然な胸の高まりが消える。
「どうしたんだ?」
「いいえ」
誓約の証である『幻想蝶(ライヴスメモリー)』を互いに持ち、ふたりは目線を合わせるとキスをした。
ライヴスの光が二人を包む。
「……ん、綺麗だねぇ」
渡された資料の従魔ランビリスをユフォアリーヤ(aa0452hero001)はうっとりと見た。尻尾がふりふりと動く。
「普通にゃ見えんし、従魔じゃ無けりゃ良かったんだがなぁ」
麻生 遊夜(aa0452)も蛍のようにほのかな光を放つそれを残念そうに見る。
「しかし」
遊夜は一緒に渡された液体の入った瓶を胡乱気に眺める。
「掛けようとするとドキドキ……ね」
「……ん、かけてくれても、いいよ?」
ユフォアリーヤはわくわくとした様子で期待いっぱいの眼差しを遊夜へと向ける。
遊夜は液体を塗布するとパートナーの望み通りに眼鏡を掛け。
……掛けようと。
遊夜の胸が激しく高鳴った。
硬直した遊夜を、こてん、と首を傾げたユフォアリーヤが見上げる。
艶やかな黒髪が流れ落ちる。それはいつもの愛らしい仕草だが、動悸のせいで、期待にきらきらと輝く彼女の気だるげな黒い瞳に視線が吸い付けられる。白い肌が透き通って光っているような気がした。
遊夜が呻いた。
「……これは副作用、副作用……」
次いでぶつぶつと呟き出した彼に彼女は嬉しそうにクスクスと笑う。
「……ん、どうしたの?」
眼鏡を掛けやすいようにユフォアリーヤは顔を寄せる。それはキスができるほど、吐息がかかるほどの距離だ。
遊夜の身体に電撃が走った。
「くっ……駄目だ、駄目だ…………くそぅ、かわい……」
「……ん、ふふ……」
ぶるぶると震える遊夜を可愛くて愛しくて仕方ないと、彼女は目を細める。
ギブアップ。
「……すまん、頼む」
大きく息を吐いた遊夜はげっそりとした様子で眼鏡を相棒に押し付けた。
「……ん、はーい」
ユフォアリーヤが遊夜に胸をざわめかせているのはいつものことだ。躱し続ける彼の、少し狡い言葉に、けれども、彼女は素直に従った。
結果、ユフォアリーヤはすんなりと遊夜へ眼鏡をかけることができた。だが、その身体は止まらない。
「……んー」
「むぐっ!? むー!」
眼鏡を掛けた後、そのまま顔を近付けての熱烈なキス。慌てて遊夜は彼女を引き離そうとするが、深い口づけのせいか動揺のためかうまくいかない。
「……ん、美味し」
だいぶ経ってから、彼女は身体を離すとぺろりと唇を舐めた。
真っ白に燃え尽きた遊夜と満足気なユフォアリーヤ。
────抑えきれなかったからね、仕方ないね? 全部副作用のせい、ボクは悪くない!
●いざ従魔退治へ
眼鏡を掛けると確かに驚くほどたくさんの従魔が浮遊しているのが見えた。
ただ、クリスマスムードたっぷりの洒落た街並みに星とハートの形をした小さな光がふよふよと漂う様はそれはそれで美しくもあった。
ポップコーンを摘まみながら見晴らしの良い塔から降りると、小さな遊園地に足を踏み入れる征四郎。
目の前のジェットコースターを拒否するユエリャンを宥めて、共鳴した征四郎は虫取り網を持ってそれに座る。
「の、乗らなきゃ近づけない位置でしたし……ぴゃああ!」
ガクンと動き出したジェットコースターに悲鳴が添えられた。
「!」
ジェットコースターをふらふらと降りた征四郎は、人混みの向こうに青い髪をみかけて逆方向へ走る。
────あんまり、八つ当たりしたくない……です。
『時に、先ほどのヤキモチはどっちにだ? おチビちゃん』
「……、……。もう! 意地悪!」
誓約の為、征四郎はユエリャンに隠し事をすることができない。征四郎は再びAGWを構えてランビリスを追った。
仲間たちが居ないエリアを走るユフォアリーヤ。
『……俺は、もうだめだ』
「……もう、しゃんとする!」
まだぐったりとしている遊夜に比べ、ユフォアリーヤはご機嫌に元気に従魔退治に奔走する。
『ああ、もう……さっさと終わらせるぞ!』
くすくす笑うユフォアリーヤ。可愛い遊夜も好きだがやはりいつもの彼がいい。
休憩をと共鳴を解いて屋台を巡っていると、見覚えのある人物が虫取り網を振り回していた。
「……ん、どうしたの? 『いい子に見える』とか『可愛い』とか、言われたような顔……してるよ?」
首を傾げるユフォアリーヤに、仏頂面の信義の顔が強張った。
さっきもリュカや征四郎に『こころちゃんのお兄ちゃん』として声をかけられ、何やら励まされたばかりである。
そんな信義の様子に何かを察した遊夜。
────今回ばかりはこのやるせなさを共有したい、とてもしたい。ベクトルは違えども分かり合えるはずだ。
「……今度、飲みに行かないか?」
哀愁を漂わせて肩を叩く遊夜の姿に信義も何かを察したのか、視線を反らした。
「────……今度な」
そこへタイミング良くか悪くか、聞き覚えがある声がかかる。
「やぁ、信義。久方ぶりだね」
クツクツと笑う信義にとっての悪童の一人────蓮がミュシャを連れてそこに立って居た。
「なんだか、不機嫌そうだけど、奥方に何か言われたのかな」
仏頂面を通り越して能面の表情で二人を見る信義。
「ただただ、退治するのは面白くない。狩りは楽しんでするべきものだよ」
「ほう、それは面白いな」
「えっ?」
蓮の提案にすぐに乗って来た信義に、ミュシャが意外そうな顔をする。
「面白そうだ、参加しよう」
エッグノッグを飲んでいた共鳴中のエレオノールが参加を表明する。
そして、従魔狩り競争は輪を広げながら、どさくさに紛れて何やら気持ちをぶつけるように虫取り網を振るう一部のエージェントたちによって従魔狩りは倍のスピードになったという。最も途中で蓮が飽きてしまった為に勝者のカウントはされていない。
さて、彼らの姿は従魔が見えない一般客には『真冬のクリスマスムードたっぷりの恋愛の聖地で眼鏡をかけて虫取り網を振り回す人達』にしか見えない。
だが、その状況を救った者がいた。
明斗である。
「振り回すほど運が溜まる新しいドリームキャッチャーだ。お試しイベント中なんだがそのうち一般でもやるかもなー」
軽やかに虫取り網を振り回しながら、一般客の好奇の目に気付くと朗らかに説明する。
ロマンティックな街並みの中で鼻ヒゲ眼鏡を掛けた明斗は明らかに場違い過ぎて、スタッフかモニターであるという説明は逆にしっくりきた。
むしろ、そうでなかったらなんなのかと。
その近くで吸血鬼然としたリヴィアや宗近が嬉々と虫取り網を振るっているのだから、シュールな相乗効果でよくわからない説得感は増した。
────ちなみに、その宗近との共鳴世界で鳥海は頭を抱えて従魔ではなく羞恥心と戦っていた。
●聖夜
最後の従魔を倒した頃、あちこちがやんわりと輝き始め……イルミネーションの光が灯った。
思わず息を飲むリヴィア。
島の中だけではなく、見える海上にもぼんやりと明かりを乗せた丸い何かが浮かんでいてゆらゆらと輝くのだが、その光をロータスの樹にぶら下がった硝子の花序がきらきらと弾いた。
しゃららん……。
今まで従魔に気を取られて気付かなかったロータスの樹と風が奏でる歌が聞こえた。
「せっかくだから遊んで帰りたいな!」
勿論、リュカの提案に反対する者は居なかった。
ぱちりとイルミネーションを写真に収めながら屋台を楽しむ鳥海と宗近。
「で? チカはそんな反応なかったが? 実際のトコロはどうだったんだ」
「申し上げても?」
チキンを齧りながら、おうと頷く鳥海に襟を正す宗近。
「では失礼して……。普段は主君に褒められる事がなく、非常に新鮮な体験でした。
妹君や弟君に対してもそうですが、主君はもう少し良い言葉を口になさった方がよろしいかと」
「く、口に出すのは勇気がいるんだよ……」
そんな鳥海の横をリュカと征四郎が追い抜く。
「せーちゃん、あっちから凄く美味しそうな香りがするよっ」
征四郎は差し出されたリュカの手をいつものように握る。
「リュカ、イルミネーションきれいですよ」
────あのキラキラを一年前よりは言葉で伝えられるようになっただろうか。
そんなことを思い、征四郎ははっとした。
────リンドウに今日のこと、謝っておかなければ。
けれども、人混みですぐに凛道を見失ってしまう。
「お酒も飲みたいなーっ、あと、皆であったかい物食べて、せっかくだから集合写真とかも撮りたい!
去年は依頼で忙しかったけど、今年は楽しいクリスマスになるといいね」
リュカと征四郎が屋台前の人混みに飲まれると、既に何かを頬張ったユエリャンは凛道に声をかけた。
「おい眼鏡置き、あまりふらふらするでないぞ」
そんなユエリャンに、周囲をぼんやりと見ていた凛道が口を開いた。
「……この世界の夜はとても明るくて綺麗ですね」
「ああ、美しいな」
その感想に同意するユエリャン。
「夜はもっと暗くて寂しいばかりだと思っていたが」
────人工の電光がこんなにも温かいなんて。
気の置けない二人は置いて、と彼は凛道にイルミネーションを指した。
「あれがよく見たい、付き合わせてやろう」
すれ違うように蓮が走る。
「ヤン、次あっち」
「へいへい。買うのはいいが、買い過ぎじゃねェか?」
「月詠のご機嫌取り用に、狐のご機嫌取り用と、ヤンの分に、僕の分。あと」
「……全員分ねェ」
蓮の腕の中にはたくさんのお土産が抱えられている。
日持ちしないようなちょっとした食べ物の山にレターセット、手帳に……一つ一つはよくあるお土産だけれど温めるようにそれを抱える蓮。蓮の体力と土産の量を見比べてため息をついた聖陽は蓮を抱えあげた。
由利菜とウィリディスは柔らかい芝生の上に並んで座った。
「し、静岡にいた中学3年の頃、とある男の子に恋をしたの」
「ふむふむ」
「でも……その男の子は自分より年下の後輩で、見た目は小学生に近かった。周囲に色々冷やかされるのが怖くて……告白する機会を作ったのに意地を張って『す、好きな女の子がいるなら仲を取り持ってあげるわよ!』と言って……」
「初恋、終わっちゃったんだ。あれ……? 聞くけど、当時のユリナって女王様みたいな性格だったんだよね?」
「……外面だけよ。恋愛に不器用だったのは当時からだわ」
由利菜の話を聞いたウィリディスはなんとなくこの出来事が彼女の恋愛観を形作っているような気がした。
────恋愛に正しい答えはない……。でも”その時”が来たら、決めなければならない……。
黙ってイルミネーションの光を見つめる由利菜の横顔を覗き見るウィリディス。
────メガネを掛けてた時のあたしの気持ちは……幻覚? それとも……。
「折角、光縒さんの照れ顔とか、初々しい反応とか、そういうのが見れると思ったのになぁ」
「颯太、考えてもみなさい。もし仮に、そんな反応を見せて、その後で、颯太を生かしておくと思う? 確実に息の根を止めて、その間抜けな頭部を、あのツリーの天辺に飾り付けてるところよ」
「光縒さん、コワイ。目が、笑ってない」
「……仕事も終わったし、私は帰るわ」
「やめて! こんなカップルだらけのところに、置いていかないで!? 僕も帰るよ!」
慌てて光縒の後を追おうとして盛大にすっ転ぶ颯太。足下には何もない。
そんな相棒の姿を見た光縒は深くため息を吐き、「無様ね」と冷たく言い放ち去って行く。
────いつの日か、光縒さんの鉄面皮を剥がせる時がくるのだろうか。
……まだまだ先は長そうである。
「僕も返ろう……」
起き上がりとぼとぼと歩きだす颯太。
船がまだ動かないことに気付くのは港に着いてからだ。
同時刻、スタッフルームを尋ねた者が居た。
眼鏡装着の様子をこっそり撮影した動画────プライバシーには配慮してあります────をスタッフに見せた明斗は、『眼鏡を利用して相手と自分の新たな表情を発見』というプレゼンで”エンゲージグラス”という新しいイベントを提案していた。
「このように既に資料も素材もばっちりだぜ!」
「うちのこがすみません……」
思わず謝ったクロセルだが、彼の予想に反してスタッフの反応は好意的だったという。
結果
シナリオ成功度 | 大成功 |
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