本部

【絶零】連動シナリオ

【絶零】凍る楽園が隠すものは

岩岡志摩

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2016/12/25 15:02

掲示板

オープニング

●過ち
 ここにオレグ・ベルマンという男がいる。
 彼は現在のロシア軍のおかれている状況に不満を持ち、ロシアが優れているというロシア国粋主義を掲げ、ロシア軍がよそ者であるH.O.P.E.などの手を借りることなく、独力でこの困難に立ち向かえると豪語した。
 これがただの1国民の主張であれば『今ロシアで起こっている事への現状認識に欠ける』と切り捨てられるところだが、ロシア軍高官という彼の立場と、彼の意志がロシア軍上層部に反映される状況であるため、始末が悪い。
 そんな彼が先日H.O.P.E.への緊急要請が必要な案件についても口を出し、現地のロシア軍にH.O.P.E.を支援しないよう指示を出していたことは『あなたたち』の記憶に新しいところだろう。
 現地で住民達の救助に当たっていたロシア軍指揮官たちは上層部の動きに不審を抱きつつも、救助活動に従事していたが、そんな現場指揮官たちをさらに不安にする事態が発生する。
「援軍などもっての他だ。この神聖なロシアに外国の軍隊が土足で踏み込んでよい土地など何処にも存在しない」
 異常な寒波に襲われ、愚神達の活動も報告される中、助力を申し出たアメリカ軍やNATO軍に対し、あのオレグが『ロシア軍の総意』としてアメリカ軍やNATO軍の援軍を拒絶したのだ。
 その席でオレグから『愚神と同列』呼ばわりされたアメリカ軍高官は、辛うじて怒りを抑え、慇懃な口調でこう応じた。
「そこまで仰るからには、貴国は独力で事態を解決できるということですな。いいでしょう。その言動が改められぬ限り、こちらも援軍は出しません」
 アメリカ軍高官はそう言い残して席を立ち、連絡を受けたアメリカのホワイトハウスもロシアの『無礼』な言動に不快感を示し、援軍の話は立ち消えになった。
 既にロシアの事態は悪化の一途を辿っており、オレグの『愛国主義』はさらなる危機をもたらしたことを受け、H.O.P.E.も動き出す。

●過去
 ロシアのある都市に、人一倍誰かの命を救う使命感を抱える女性の医師がいた。
 彼女の名はヤナ・コトワ。とある救急病院に勤務し、死にかけた人の命を拾い上げていた。
 しかし彼女の中では、命を拾い上げるとき患者に苦悶を味あわせてしまう事、いくら手を尽くしても命を落としてしまう人が出る事に、無力感と悔しさ、助けられなかった自分への怒りを密かに募らせていた。
 そんなある時。彼女の前に愚神――ニア・エートゥスが現れた。
 ニアはヤナに向けこう言った。
 ――貴方には人を今よりも救える力を得る資格があります、と。
 その後どういうやりとりがあったのか不明だが、ヤナは差しだされたニアの手をとった。
 苦しみや悲しみのない世界を作るために。人々を苦しみから救うために。
 ――今、彼らを殺して『救おう』と。
 人を救いたいという信念はそのままに。行きつく先が致命的に捻じ曲がった、ソクという愚神はこうして生まれた。
 以上が愚神ソク達の襲った集落の住民達がエージェント達に護送され、避難したロシア軍基地へと届けられた『証拠』の中にあった情報の1つだ。

●次の手がかりは
 そして証拠に残っていた記録媒体より抽出できた、ロシアのとある集落の地図がスクリーンに映し出される。
「現地ロシア軍に問い合わせた結果、最近の異常寒波の被害を受け、住民達を避難させた集落の1つとの事でしたが」
 この地域の偵察役だったポルタ クエント(az0060)は機械を操作し、映像を集落の今の状況に変える。
 そこには集落周囲のみ猛吹雪に包まれた別世界――ドロップゾーンが映し出されていた。
「ご覧の通り、今はドロップゾーンと化しています」
 そしてポルタと同じく現地調査に駆り出された真継優輝(az0045)がドロップゾーン内の先行調査を行い、ボロボロになりながらもいくつかの情報を入手し戻ってきた。
「先行調査の結果、ドロップゾーン内の空は猛吹雪、地表は遮蔽物のない雪原が広がる世界で、その中にこの愚神がいたそうです」
 画面にロシアのある集落で遭遇した愚神の写真が映し出される。
「人間の時の名はヤナ・コトワ。今は『パラダイス・メーカーズ』(楽園の作り手達。以下PMと略)の愚神ソクです。今まで入手した証拠のいくつかがこの場所とこの愚神を指定している以上、この愚神は何らかの手がかりと共に私達H.O.P.E.を待ち受けていると考えていいでしょう」
「罠の可能性はないのか?」
 部屋にいたリンカーの1人がポルタに尋ねると、ポルタは頷いた。
「もちろんその可能性は低くありません。ですが、これが愚神ソクのドロップゾーンであることは事実である以上、放置するのは危険です」
 だからこそ踏み込んで中にいる愚神ソク、及びドロップゾーンを撃破する必要がある。
 なお現地近くにいるロシア軍からは、上層部から『H.O.P.E.をあまり支援せぬように』との命令を聞いてはいたが、聞いたふりをしながら密かにH.O.P.E.を支援する約束をしてくれたので、『あなたたち』が現地に向かうための雪上車や雪上迷彩付の防寒具一式、無線など必要なものは人数分用意してくれるとの事だ。
 また危険な任務になるので、ロシア軍上層部の目をかわしながらのやりとりだったが、報酬の増額も約束された。
「その際現地ロシア軍より『できればヤナ先生を救ってほしい』とのお願いもございました」
 聞けば、ヤナ・コトワの救命治療で救われたロシア軍兵士達が現地近くに複数おり、助けられるなら助けてほしいとのことだった。
「ご判断はお任せします」
 そう言ってポルタは頭を下げた。

●楽園の名は『救済』
 自身のドロップゾーン内に吹き荒れる猛吹雪の中で、ヤナ・コトワ――愚神ソクは物憂げな表情を浮かべていた。
 この吹雪の向こう側へと隠した場所に、オレグ・ベルマンという人間が『消せ』と命じた人間達を、ニアの指示で実際には消さずに全員昏睡させ、ニアから渡された数々の物証とともに『保管』している。
 ソク――ヤナは自分が『救いたい』と願って動うとき、自分の思考や行動が操作されたものだと気付いていた。
 だが止まる事はできなかった。愚神となる前にそんな感情が心のどこかにあったから。
 人間達、特にH.O.P.E.のエージェント達には自分という『楽園にして試練』を乗り越えてもらわなければならない。
 自分程度の災厄を乗り越えられなければ、この先人間達はさらなる苦難に押しつぶされる。
 乗り越えられればよし。さもなくば苦しむ前に『殺して救う』。
「私は貴方たちの全てを赦すわ。あらゆる攻撃も。殺意も」
 だから逃げずに乗り越えてほしい。私の『救済』を――暴力をもって押し付ける思想も。
 それがヤナの信念から出たものか、ソクの意志であるのか。
 応えるものはいなかった。

解説

●目標
 ロシア軍高官オレグ・ベルマンに関わる証拠の入手及び愚神ソクの撃破
 副目標:ヤナ・コトワの救助
 下記従魔の撃破数は依頼達成度に影響しない。

●登場
 ソク
 愚神組織『パラダイス・メーカーズ』(楽園の作り手達。略称PM)所属の女愚神。ケントォリオ級。
 2回行動。刀を振るう。先行偵察で以下の能力が判明。
 氷柱掃射
 氷柱の群れを吹雪のように放射し、標的を攻撃する。射程48sq。

 氷柱雨
 頭上に青い光を発射し一定時間後雨のように無数の氷柱が振ってくる。射程12sq。範囲3sq。

 氷柱壁
 自分の周囲に4本の氷柱を展開。範囲1sq。射程3sq以上の物理・魔法攻撃を防ぐが、射程3sq以内の攻撃には物理魔法問わず1撃で消える。 

 凍療
 氷が傷口を覆い負傷を治療する。

 フローズンジェル×無数
 ミーレス級。通称『凍粘』。全長2~3m前後の不定形従魔。半透明でシャーベット状の身体をしており、氷に擬態化して無数に存在。近付いてきた獲物に群れで襲い掛かって取り付くと、身体を凍らせて相手の動きを封じ、ゆっくりと捕食する。粘着を受けた時【拘束】が時々【減退】つきで付与される。

 オレグ・ベルマン
 ロシア軍高官。一般人。ロシア軍上層部で幅をきかせる国粋主義者。

 ロシア軍
 現地ドロップゾーンのある元集落付近にいる小部隊。現地への送迎の他、連絡があれば救助用の雪上車を派遣してくれる。

 状況
 ロシアの元集落に広がるドロップゾーン。ゾーンルールによって中に入ると縦横各50mの遮蔽物のない雪原にしか行くことはできない。
 雪原中央にソクが佇み、周囲にはフローズンジェルが大量に潜んでいる。
 中は昼間の雪嵐の光景が広がり、視界は悪いが共鳴していれば影響なし。無線貸与済み。

リプレイ

●衝突
 寒波の中でも時折陽の光が射し、純白の雪原を照らす中、大型の雪上車が雪原の中をひた走る。
 運転する谷崎 祐二(aa1192)の横から、プロセルピナ ゲイシャ(aa1192hero001)が『にゃぁ……』と何かを案ずるような声を祐二にかける。
「ああ、コトワさんは無事に助け出す。準備や根回しも前もってやっておいただろう?」
「にゃ」
 余人には人語に聞こえないプロセルピナの言葉も、祐二には通じており、プロセルピナも祐二や他の仲間達の言葉は理解しており、祐二の言葉に頷く。
 やがて祐二とプロセルピナは共鳴し、祐二は髪を濡羽色に、瞳に赤色を宿す姿へと変じ、祐二の走らせる雪上車の先に、吹雪のベールに隠され中を見通す事はできない空間――ドロップゾーンが見えてくる。
 雪上車の屋根の上にはアトリア(aa0032hero002)と共鳴し、髪を燃えるような赤色を、瞳に金色を纏う姿に変じた真壁 久朗(aa0032)がいた。
(罠の可能性があったとしても、そこに愚神がいるというなら、ワタシ達は向かわなければなりません)
「それには同意見だが、まだ助けられる可能性があるなら、あまり時間はかけられないな」
 内からのアトリアの見解に対し、久朗が自分の考えを伝えると、アトリアから辛辣な答えが返ってきた。
(向こうは本気でワタシ達を殺しにかかりますよ。『出来るなら助けたい』などという中途半端なことをワタシの前で口走るつもりではありませんよね?)
「もちろんだ」
 久朗はそう呟いて、それ以上の言葉を引っ込める。
「ドロップゾーンが見えた。これより突入する」
 祐二は後部にいる仲間達へドロップゾーン発見の連絡を入れる。
「さて、俺様の初仕事だ。愚神。貴様の命運は最初から尽きてるぜ」
 今回初の依頼参加となるライガ(aa4573)は既に共鳴を終え、瞳に金色を宿した姿に変じ、いつでも飛び出せる状態にいる。
 なおライガは『憑依された人間は助けるんだろ? 任せときな』と、今回ただ敵を倒せばいいというものではないことは承知している。
「女性の命がかかっているなら張り切らないとね」
 マック・ウィンドロイド(aa0942)の言葉に、横にいた灯永 礼(aa0942hero001)は含みをもった笑みを向ける。
「今回は私と一緒でよかったな。戦場なら体も温まるし頭も冷えるし健康的だよね?」
「致死量の敵の攻撃は、健康的といえないんじゃないかな?」
 共鳴すれば外を支配する寒波の影響とは無縁になると知っていての、礼なりのマックへのからかい混じりの激励だったが、マックも礼の真意は理解しているため、そう応じつつ礼と共鳴し、礼の姿が空間に溶け、周囲に0や1の文字、浮遊する透明なキーボードやモニタの映像が浮かび、瞳に礼の色を宿したマックの姿が現れる。
「まだ救えるかもしれないんだよね」
 御代 つくし(aa0657)は、隣にいるメグル(aa0657hero001)に問う形で、自分の意志を伝える。
 できるならば、ヤナ・コトワは救いたい。
 そんなつくしの意志を支えるべく、メグルも言葉を重ねる。
「ええ。僕達の頑張り次第です。行きましょう」
 そしてつくしとメグルは共鳴し、つくしの髪が銀を帯びて腰まで伸び、瞳にメグルの紫色を纏う姿に変じる。
 努々 キミカ(aa0002)もヤナを救おうと心に決めた1人だ。
「ヤナ・コトワは愚神の災厄に巻き込まれたまま死ぬべき人ではない。必ず助け出そうぞ」
 ネイク・ベイオウーフ(aa0002hero001)は、そんな想いを巡らせるキミカの背を押す言葉を向け、キミカもネイクへと意識を向けて頷いた。
「もちろんです、ネイク。そのためにも、今回はあなたの力を借りますよ」
「無論だ。彼女を救うことで、我々は愚神達の生み出す絶望を上回る存在だと証明できようぞ」
 キミカの言葉にネイクは尊大な態度でそう応じて共鳴し、キミカは瞳と髪にネイクの色を宿し、心にネイクの剛毅さが程よくブレンドされた姿に変じる。 「爺さん、結果はどうであれ、俺にできることは全力でやりてえんだが、どうだ?」
 百目木 亮(aa1195)は問いの形でブラックウィンド 黎焔(aa1195hero001)に自分のやるべき事を伝えようとしたが、黎焔は全容を聞く前に頷いて了承する。
「亮の好きにやるが良い。わしは手を貸し、見届けるだけじゃ」
 黎焔の言葉に亮は頷くと、黎焔と共鳴し、亮は瞳に金色を宿した姿に変じる。
 その横でヤン・シーズィ(aa3137hero001)は傍らにいるファリン(aa3137)へ最後の確認をしていた。
「もしかしたら彼女――ヤナ・コトワは既に人の命を奪っているかもしれない。それでも彼女を救いたいか?」
 ヤンの言葉にファリンは凛とした声で『はい』と告げた。
「ヤナ様がこの先も人々を殺すならば、討つことに躊躇いはございません。ですが、そのようなことがないならば、どのような手を使っても生かすのがわたくしの正義です」
 そしてファリンは事前に久朗やアトリア達と共に、かつてヤナに救われたロシア軍兵士達より、彼女の人となりを聞いており、『そのようなことがない』ことを知っている。
 だから自分の正義を行使し、彼女の命を拾う。
 ファリンの言葉にヤンは満足な表情を浮かべ、『では俺も手を貸そう』とファリンに伝え共鳴すると、ファリンは純白の装束を纏い、表情と精神を凛と引き締めた姿に変じる。
 その間にも雪上車はドロップゾーン内へと突入し、遮蔽物のない雪の平原と白色の嵐が吹き荒れる光景がエージェント達を出迎え、その中に女性の姿をした災厄――愚神ソクを見定めた祐二は、アクセルを思い切り踏み込んで雪上車を加速させる。
「これからこの雪上車を愚神ソクにぶつけておさえこむ! その間に車から出て奴を攻撃しろ!」
 祐二は後部座席にいる仲間達へそう伝えるのと同時に、雪上車は愚神ソクと衝突した。
 
●安全確保
 雪上車の突進をまともに受けたソクがそのまま雪原の端まで轢かれる中、雪上車の屋根や後部より次々とエージェント達が飛び出し雪原へと着地する。
 そして雪上車を運転していた祐二がソクを轢いたまま運転席から飛び出した直後、周囲に潜んでいたシャーベット状の従魔――フローズンジェルの群れが雪上車に次々と覆いかぶさる。
「ハッ。俺様の牙の威力を見せつけてやるぜ。抉れ! 砕け! ぶちまけろォッ!」
 ライガがソウドオフ・ダブルショットガンをウェポンズレインで多数召喚し、フローズンジェル達の頭上に展開する。
 空中に並ぶソウドオフ・ダブルショットガンの一群より無数の発射音が鳴り響き、ぶち撒かれた散弾の嵐が雪上車ごとフローズンジェル達に叩きつけられ、ライガの宣言通り散弾状のライヴスがフローズンジェル達の身を抉り、その体を微塵に砕き、破壊の通路をこじ開ける。
(亮よ。初手はあの嬢ちゃんの策に合わせてみてはどうじゃ?)
「努々のお嬢ちゃんが言っていた『安全確保』策だな。聞いてみる」
 内からの黎焔の助言に亮はそう応じると、やや後方でフリーガーファウストG3を構えるファリンに向けライヴス通信機「雫」を介し、連携しての砲撃を打診する。
『あんたも同じ努々のお嬢ちゃんの策で動いてるようだし、どうだ?』
(ファリン。フローズンジェルの居ない空間を作るなら、人手は多い方がいい)
「わかりましたわ、お兄様。亮様。その申し出、お受けいたしますわ」
 内から届いたヤンの助言に頷くと、ファリンは亮へ『受諾』の回答をライヴス通信機「雫」で送る。
 亮もまたフリーガーファウストG3を顕現して構え、ファリンと共に同じタイミングで引き金を引く。
 亮とファリンより放たれたロケット弾状のライヴスは空を駆けあがり、雪上車の残骸周囲に現れたフローズンジェルの群れ両脇へと吸い込まれ、弾着の爆発が沸き起こり、爆風がフローズンジェル達を次々と吹き飛ばし塵に変える。
「えらい数だな。本当に何匹片づければいいんだよ!」
(にゃー)
 祐二はそう叫びながらも当初雪上車の上から従魔達を攻撃する予定だったが、既に雪上車が残骸と化しフローズンジェル達の中に埋もれており、プロセルピナよりキミカの『安全確保』策に合わせて見ては、という意味の思念が伝えられ、祐二は方針を切り替え、策の発案者であるキミカに声をかける。
「努々さん。俺も安全確保に協力してもいいかい?」
(我らの策が妥当である証だ。拒む理由はあるまい)
「問題ない。発砲のタイミングは私に合わせてくれたまえ」
 内からのネイクの賛意を受け、キミカはやや気取った口調で祐二に応じながらも祐二と共に、顕現したRPG-07Lの引き金を引く。
 白煙の尾を曳いて飛翔した祐二とキミカのロケット弾状のライヴスがフローズンジェルの中へ吸い込まれ爆散し、周囲に衝撃を走らせ、雪上車や複数のフローズンジェル達を薙ぎ払い、破片や塵に変えていく。
 その間にもマックはオートマッピングシートや双眼鏡を駆使し、ドロップゾーン内に広がる雪原の地形や安全な個所の確認のため駆けまわり、途中の敵はRPG-07Lの砲撃で撃退しながら、ある傾向を掴んでいた。
(マック。従魔達はこの雪原の端に近づくと出現するみたいね。ファイヤーウォールみたい)
 オートマッピングシートやそれまでフローズンジェルと遭遇した際、RPG-07Lで撃退して記録した従魔達の襲撃頻度などをマックがデータを整理分析した結果を見て、内にいる礼がそう告げると、マックも礼の見解に頷くも一部訂正した。
「実際は凍らせるようだから、ファイヤーウォールとは少し違うかな?」
 マックは自分の得た索敵結果をライヴス通信機「雫」が繋がる相手には通信機越しに、装備していない仲間には口頭で伝えて回り、エージェント達がフローズンジェルを警戒する範囲は雪原の端へと絞られる。
(つくし。ここにいる従魔達も片付けましょう)
「残りは私が焼き払うよ!」
 内からのメグルの助言に従い、つくしはブルームフレアを発動して火焔の渦を雪原に展開し、雪上車ごと残るフローズンジェル達を業火の腕に絡め取り、その身を焼きつくし、全て塵に変えた。
(今です。ただちに術の射程圏内へ接近しなさい)
 そこへ仲間達がこじ開けた空間を、アトリアに背を押された久朗が疾駆して雪上車の残骸に接近し、その下にいるソクへ守るべき誓いのライヴスを放つ。
「こうして待ち受けていたのなら、俺達に伝えたいことがあるんじゃないか?」
 久朗がソクへ問いかけると、残骸を押しのけて愚神ソクが起き上がる。
 久朗の見たところ、先程のつくしのブルームフレアで焼かれたダメージが最も大きかったようだ。
「『私』は緩やかな死で命を救いたいの。だから貴方たちにはこう伝えるしかないわ」
 ソクの周囲に氷柱の壁が現れる中、ソクはエージェント達に告げた。
「戦争をしましょう」

●争剋
 ソクが手を久朗へ向け、氷柱状のライヴスを放射すると、久朗の掲げたライオットシールドに命中し、ソクの氷柱は異音と共に四散して消えた。
(この愚神はワタシ達に傷を負わせるほどの攻撃力はないようですね)
「だからこそ、俺達が盾役となればいいだけだ」
 内からのアトリアの冷静な指摘に久朗も淡々と応じ、守るべき誓いの効果がある間は自分へソクの攻撃を引き寄せ、仲間達の攻撃をソクへ届けるべく、位置や動きを調整する。
 その間にもライガのアンチマテリアルライフルから乾いた銃声と共に弾丸状のライヴスが放たれ、凍えた大気を貫きソクの肩を捉えるが、寸前でソクの構築した氷柱壁に阻まれ、金属を打ち据える異音と共に弾かれる。
「次は距離を詰めるとするか」
 ライガはそう呟き、次の術の効果範囲にソクを捉えるため、雪原を疾駆する中、既に防壁を破壊できる間合に亮は到達していた。
(先に邪魔な防壁を排除するのじゃ)
「そのつもりだ、爺さん」
 内からの黎焔の助言に亮はそう応じてフラメアを顕現し、雷光の速度で繰り出されたフラメアの穂先がソクの防壁を貫くと、ライガの銃撃に耐えた防壁はあっけなく砕かれた。
(つくし。防壁のなくなった今なら攻撃を当てられます)
「みんな! 私の前から退避して!」
 メグルの助言に従い、つくしが周りにいる仲間達へ予め警告を発し、射線上に仲間達がいなくなったことを確認した後、つくしの振りかざすミラクルスタッフがソクに向けられ、その先に灼熱の光を纏う雷の槍が具現化する。
 つくしの発動したサンダーランスは空間を軋ませながらソクへ殺到してその身を穿ち、ダメージと共にその意識を削り取る。
 それを見過ごすマックでなく、マックのゴーストウィンドが発動し、マックの手にある数字の0と1の群れより不浄の風が放たれソクに絡みつき、少しダメージを与えたもののその身を朽ちさせるには至らなかった。
(思ったより堅いよね。エントロピーの法則通り、熱い方がいいのかな?)
「だからと言って攻撃しないという選択肢は僕にはないよ。それにあの愚神は熱力学の外にある存在だ」
 内からの礼の声にそう応じつつ、マックが次の術を構築する中、ソクの前方より祐二が襲いかかる。
「まだ撃てるなら、やるしかねえだろっ!」
 既に再装填を終え、毒刃を付与したRPG-07Lを祐二が至近距離から放ち、爆発と衝撃波でソクを包み、ソクの生命力を減少させ、周囲に爆風で撹拌された雪煙が舞いあがる。
 その雪煙を隠れ蓑にして、ソクの背後へ忍び寄ったキミカはライヴスリッパーを発動する。
(貴様の憑依する『ヤナ・コトワ』は返してもらうぞ。彼女は貴様たち愚神の絶望に巻き込んでいい人ではない!)
「私達からもきみに伝えよう、愚神ソク。私達もきみを討ち『彼女』を救う」
 ネイクの意志に背を押され、キミカがそう呟いて放ったライヴスリッパーは、ソクに命中しその意識を奪い、気絶させた。
(ファリン。今のところ周囲に従魔はいないようだ。愚神の撃破を優先しろ)
「了解ですわ、お兄様」
 ヤンの助言に従いファリンはフリーガーファウストG3の引き金を引き、発射焔と共に放たれたロケット弾状のライヴスはソクへとまっしくらに飛んでいき、ファリンのロケット弾状ライヴスはそのままソクへと直撃し、爆焔の花を咲かせ、ソクを包み込む。
 なおもエージェント達の猛攻を受け続けるソクの体から青い光が頭上に放たれ、それを見たライガはインタラプトシールドを発動し、亮、つくしはそれぞれ頭上を見上げ、氷柱が落下するまでの時間を数えはじめる。
 やがて亮、つくしが5秒を数えたころ、曇天に覆われた空から人の大きさもある氷柱が複数本、久朗の周囲へと無音のまま飛来する。
「降ってくるよ! 気を付けて!」
 つくしの警告に射程内にいた久朗、キミカ、亮、祐二、ファリン、ライガはそれぞれ行動する。
(にゃーっ!)
 内にいるプロセルピナより回避して、という意味の思念が届いた祐二は横に転がって氷柱を回避する。
(ファリン、後方に飛びのいて躱せ!)
「わかりましたわ、お兄様!」
 ヤンの指示に従いファリンも後方に飛び退き、その眼前に氷柱が落下し地面に突き刺さる。
「へっ、これくらいの攻撃、俺様の防御にかかれば……」
 自信のある口ぶりだったが、ライガはケントォリオ級愚神の攻撃が侮れないことを熟知しており、ライガはインタラプトシールドで飛来する氷柱を防いだが、威力を削減しきれずダメージを負う。
 キミカ、亮、久朗は回避より防御を選択して頭上からの氷柱を防ぎ、久朗は無傷でやり過ごし、キミカと亮もネイクや黎焔の加護のおかげか、ほぼ無傷で防ぎきる。
 最もダメージを受けたライガへ向け、ソクが氷柱を放射するが、寸前で割り込んだ久朗とライオットシールドに防がれ、久朗はソクの攻撃を無力化する。
(頭上からの氷柱を回避しても、回避した先に氷柱が来る二段攻撃のようですね)
「ああ。だが俺が防いでいる間はその攻撃は無効だな」
 内から届いたアトリアの分析に久朗は賛意を示しつつ、再び守るべき誓いを発動してソクの戦意を自分へと固定し、仲間達の動ける余裕を生み出す。
(今のうちにライガ殿を治療しておいてはどうじゃ?)
「回復入るぞ!」
 黎焔の助言に従い、亮はケアレイで癒しの効果のあるライヴスの光をライガに飛ばし、負傷を回復させる。
「その間に僕は僕なりにできることをするよ」
 久朗が仲間達の防衛、亮が回復に回る間に、マックは温存していた幻影蝶を発動する。
 マックの手に集う0と1の集合体からライヴスの蝶の群れが解き放たれ、ソクに絡みついて包み込み、今度はソクの強度や意識を強引に削り取り、急速にその身を朽ちさせる。
(ファリン、今までの戦い方から鑑みても、奴の術の使用回数には『限りがない』。長期戦は不利だ)
「わかりましたわ、お兄様。早期撃破に務めますわ」
 内からのヤンの助言に従い、ファリンはマックの術で脆くなったソクに向け【SW(弓)】アタランテの髪で命中精度を引き上げた九陽神弓の弓弦を引き絞り、弓弦を鳴らして矢状のライヴスをソクに放ち、矢状のライヴスでソクを貫く。
「愚神、貴様の命、もらったぜ!」
 負傷から回復したライガは短く亮に礼を述べた後、ソクに向けファンタジーソードによるストームエッジを発動し、空間に幾条もの剣光を煌めかせ、次々とソクの身に突き刺さり、炎が上がる幻影をつかの間見せる。
 気絶状態から意識を回復させたソクに向け、祐二が女郎蜘蛛を発動し、ソクや周囲に無数のライヴスの糸を張り巡らせ、ソクの身動きを拘束する。
「目を覚めせよ! コトワさん!」
「その前にソク。きみの意識は再び刈り取らせてもらうよ」
 祐二がソクを拘束する間にソクへと接近していたキミカは最後のライヴスリッパーを発動し、ソクの意識を再び奪い、ソクとの戦いで最もソクに有効打を与え続けていたつくしへと後を託す。
(つくし。この攻撃で彼女を取り戻しましょう)
「絶対に、救ってみせる!」
 メグルの援護を受け、つくしは最後のサンダーランスを発動する。
 つくしがソクに向けたミラクルスタッフの先より空間が吼え、灼熱の軌跡を残して走った稲妻がソクに喰らいつき、雷の牙でその身を引き裂いていくと、何かが割れる音が響くと共に、ソクの体から塵が噴き上がり、それまで周囲に立ちこめていた吹雪も一瞬で掻き消される。
 それがドロップゾーンと愚神ソクの消失だと気付いたつくし、キミカ、ファリン達は急いで『ヤナ』のもとへ駆けつける。

●救いの果て
 エージェント達の奮戦で残ることのできたヤナ・コトワが無理に笑みを形作る。
「……無茶しすぎよ、貴方たち」
 ヤナはそう呟き、どうと倒れこむところを駆けつけたキミカ、つくし、ファリン達が抱きかかえる。
「大丈夫ですか」
 共鳴を解いたメグルはかがみこみ、祐二やマックが防寒着やサバイバルブランケットで包んだヤナの具合を伺う。
「……お願い……私より……あの人達を……」
 ヤナの切れ切れの声と、震える指が示す先には、ドロップゾーンに囚われていた人達が折り重なって倒れていた。
 祐二がただちに無線で周囲にいるロシア軍へ連絡すると、それまで近くで待機していたロシア軍部隊が雪上車の響きと共に駆けつけ、亮がライオットシールドを掲げ作業者達を守る間に人々を雪上車へと載せ、慌ただしく運び出していく。
 病院へと到着するまでの間、車両の中で亮やファリンが凍傷を負った人々へ向けケアレインによる治療を施し、2人の治療の甲斐もあり、衰弱したヤナも含め全員の命を救うことができ、ヤナも数日後には集中治療室から通常の病室に移る事ができた。
「……わざわざ私まで救わなくても、よかったでしょうに」
 病室に現れたエージェント達に向け、ヤナは人々を救ってくれたことへの感謝を述べ、頭を下げた後もそう言った。
「捨てたいならその命、俺様が拾わせてもらうぜ。俺様のために働くがいい」
 尊大さを装った口調でライガがヤナにそう言うと、ヤナは軽く目を見開きそれ以上の言葉を失う。
「すまんが、お前さんの意思よりも救ってほしいっつう願いに目がいっちまった。お前さんを、『ヤナ先生を救ってほしい』ってのは、お前さんに救われたロシア軍兵士達の願いだ」
 亮の言葉にヤナはハッとする。
「コトワさんの信念に助けられた人もいるんだ。救えなかったことへの罪悪感にかられるだけじゃなく、そのことも思い出しなよ」
 祐二からの言葉にヤナは俯く。
「助けられなかった、という後悔の数より拾う事のできた命の数をかぞえてみろ。その方が信念を他者に利用されずに済む」
 久朗の言葉には、目の前のヤナと自分達エージェントは、戦い方こそ異なるが同じ『人の命を救う』者とみなす意志が込められていた。
「コトワさん。貴方が助けた命が、コトワさんを助けて欲しいと言っていました。どれだけ苦しもうと、命に代えられるものはありませんよ」
 つらくても。苦しくとも。命が拾ってきたことは無駄ではないと、メグルはヤナに伝える。
「俺には人の心はわからない。だが貴女の心は興味深い」
 人を救いたいというヤナの信念は本物だったとわかっているからこその、ヤンの言葉だった。
「死ねば楽になります。生きていれば辛く苦しい事ばかりです。だからこそ人は生きているだけで尊いのです。たとえ貴女様が罪を抱えたとしても、貴女様は尊重されるべきです」
 罪を背負った。操られ人を殺そうとした。それでもヤナは尊いとファリンは口にする。
「みんな、あなたに感謝している事は、知っておいてほしいんです。だから、今は自分自身を救ってください。苦しんででも未来を見つける事が、きっとあなたの救いになります」
 キミカの言葉に、ヤナは片手を額に当て、ため息をつく。
「貴方たち、あの愚神よりも手厳しいわね。でも……ありがとう」
 それは確かに『あなたたち』に救われた命からの『感謝』だった。
「これからもっと傷つく人が増えると思うんです。その人達を助けてもらえませんか。あなたは誰かを癒せる人だと思います。私は戦えるけど、誰かを癒すことはできないから」
 つくしの訴えに、ヤナは顔を上げ、痛みを伴うような笑顔を形作り、頷いた。
「今すぐは難しいけれど、そうなるよう約束するわ」
 これからも『ソク』の記憶や罪がヤナを苦しめるだろう。それでも今、ヤナは微笑んでいる。
 全ては『あたたたち』が拾い上げる事の出来た未来だ。
 こうしてヤナから愚神ソクがこれまで犯してきた所業の証言を得て、帰還したエージェント達の前に、同じように救出された人々の証言や、マック達が現場を捜索して入手し、マックが解析できた証拠の数々が出迎える。
「やだやだ、ここまで露骨とはね」
 マイクはおどけた口調だったが、目は笑っていない。
 それは『自分に逆らい都合が悪い』という理由だけで、当人だけでなくその家族も暗殺対象としたオレグ・ベルマンの悪行を立証するものばかりだった。
「ふざけるな、オレグ・ベルマン! 貴様の捻じ曲がった信念の為に、一体どれだけ無辜の人々を巻き込む気だ!」
 憤りを露わにするネイクの横で、マックは証拠の記憶媒体から解析した内容を仲間達に伝える。
「オレグの愛国主義は嘘なんだよね。本当の目的は『自分達が世界のバランスを保つこと』だよ」
 礼はマックの後を引き継ぐ形でオレグの正体を仲間達に告げる。
「オレグ・ベルマンは『秘密結社シーカ』のメンバーだよ」
 それが『あなたたち』がロシアに不自然な動きを強いる存在、『シーカ』に辿り着いた瞬間だった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657
  • HOPE情報部所属
    百目木 亮aa1195

重体一覧

参加者

  • 夢ある本の探索者
    努々 キミカaa0002
    人間|15才|女性|攻撃
  • ハンドレッドフェイク
    ネイク・ベイオウーフaa0002hero001
    英雄|26才|男性|ブレ
  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 傍らに依り添う"羽"
    アトリアaa0032hero002
    英雄|18才|女性|ブレ
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657
    人間|18才|女性|防御
  • 共に在る『誓い』を抱いて
    メグルaa0657hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • 隠密エージェント
    マック・ウィンドロイドaa0942
    人間|26才|男性|命中
  • 新人アイドル
    灯永 礼aa0942hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • Foe
    谷崎 祐二aa1192
    人間|32才|男性|回避
  • ドラ食え
    プロセルピナ ゲイシャaa1192hero001
    英雄|6才|女性|シャド
  • HOPE情報部所属
    百目木 亮aa1195
    機械|50才|男性|防御
  • 生命の護り手
    ブラックウィンド 黎焔aa1195hero001
    英雄|81才|男性|バト
  • 危急存亡を断つ女神
    ファリンaa3137
    獣人|18才|女性|回避
  • 君がそう望むなら
    ヤン・シーズィaa3137hero001
    英雄|25才|男性|バト
  • 風穴開けて砕け散りな
    カナデaa4573
    獣人|14才|女性|命中



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