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最終発言2016/12/16 23:41:28 -
グロズヌイ・シティ救出作戦
最終発言2016/12/17 00:46:50
オープニング
●救援を求めて
「なんということだ……」
ロシア軍特殊部隊の指揮官は眉間に濃い皺をよせ髭を撫でながら呟いた。
故郷であるカフカス地方で新たなる愚神が現れたとの報を受けたのだ。
本来であればカフカス地方には自分達ロシア軍特殊部隊がいる。しかし今は、黒海沿岸の都市、ロストフ・ナ・ドヌーに出現した愚神の救援へ向かっている最中であった。
最悪の絶妙と言っていいタイミング。
戻って間に合うものではない。
ましてやロストフへの救援を放棄することは不可能だ。
愚神の襲撃を受けた北東部チェチェン共和国のグロズヌイの市長が彼に直接連絡を寄越した。
透き通るように白い肌、天へ伸びる紫色の光を帯びた二角。人のようで明らかに人ではないそれが都市へと姿を現したと同時に、上空に多数の氷柱が現れ雨のように辺り一面に降り注いだそうだ。
その愚神、白冷鬼は数多の雪だるまのような従魔ミミックスノウマンと二体のアイスゴーレムを従え、市を恐怖へと陥れた。
現地の警察や残っている戦力では到底倒すことなどできない。
一刻の猶予もない。
危機感を覚えた市長はH.O.P.E.への救援依頼をロシア軍へと求めたものの『援軍は現在編成中であるからH.O.P.E.を介入させるな』と拒否されたそうだ。
市長の声も切羽詰まっていた。
他に手立ても思い浮かばなかったのだろう。
もし、手立てがあるとしたらやはりH.O.P.E.からの救援を受ける、それしかない。
だが、軍自体としてはH.O.P.E.の介入を嫌っている。
ならば……。
指揮官は精悍な眼で空を見据えた。
先の大戦【神月】の際に彼はH.O.P.E.やエージェント達がどのように動き、世界を守ってきたかをその目で見ていた。
彼らは我らロシア軍特殊部隊と肩を並べた「戦友」である。
指揮官は立ち上がった。
H.O.P.E.という組織ではない、「戦友」へと助けを求める為に。
彼は言った。
「俺たちの故郷を守ってくれ」
と。
●白冷鬼、サモミーニヤ
「はぁ、たかだかこれくらいのことでワタシがくる必要などありましたカシラ」
白冷鬼、サモミーニヤはため息を逃がした。
冷気できらめいている長い髪を指先に絡め弄びながら悲鳴が上がる周囲を冷めた瞳で見つめる。
肌は白く傍目から見れば絶世の美女。しかし 髪の合間から天に向かい伸びた角が彼女が人間でないことを教えてくれている。
「まぁ、いいデスワ。貴方達、働きナサイ。ワタシのタメニ」
彼女の指揮で従魔達が逃げ惑う人々を襲う。
地面には氷の柱が突き刺さり、周りに立ち並ぶ高層マンションのガラスに冷たく反射していた。
「殺してはダメヨ。氷漬けにしてじわじわと吸い尽くして差し上げマショウ」
青白い唇を歪めるサモミーニヤ。
彼女が手にしている氷でできた剣「アイスソード」を一振りすると冷気の弾丸が一気に放たれた。
弾丸は体に掠るだけでも当たった個所からピキピキと凍り氷像のようになってしまう。
「この化け物め!」
警察官の弾丸がサモミーニヤに向かい放たれた。しかし、そのようなものが効くはずもなく、アイスゴーレムが弾き飛ばし銃を向けていた警察官を巨大な腕で押し潰す。
「無理だ! 援軍を待て! 囲め! 街中に散らばられたら大惨事だ!」
これ以上被害が広がらないよう、バリケードでサモミーニヤ達を包囲しようとする現地警察。
「そんなもの吹き飛ばしてしまいナサイ。どうせ自爆したところで本体が生きてれば戻るのダカラ」
バリケードへ一体のミミックスノウマンを向かわせるサモミーニヤ。バリケードの直前、ミミックスノウマンは体を震わせ衝撃波と共に炸裂した。一部のバリケードが吹き飛ぶ。
「ふふふフフフ、足掻いてイイワ」
ニヤニヤと笑いながらサモミーニヤはバリケードの向こうを見つめた。
アイスソードを掲げながら。
●作戦
救援要請がH.O.P.E.へと届いた。
サンクトペテルブルグ支部にて慌ただしく出撃の準備が始まる。
「緊急です。しかしながら、敵はケントゥリオ級が一体、デクリオ級が二体、ミーレス級が数十体、と数が多く、すぐ出撃できるこの人数では無策に突っ込むことは得策ではありません」
オペレーターが早口で今回の作戦を説明する。その合間に参加エージェント達の端末に今回の愚神と従魔のデータが送信された。
【神月】でも行ったワープゲートと「使い捨てライヴス・ジェットパック」を利用した空中投下作戦、それを今回も行おうというのだ。
グロズヌイ上空にエージェントたちを転送して投下、ライヴス・ジェットパックによって目標愚神の付近に着陸する。
現地の警察がバリケードを張り愚神を包囲している為、その内側に直接赴くためだ。
場所は高層ビルが立ち並ぶグロズヌイ・シティ。
白冷鬼は人並みの頭脳を持ち合わせいるが、接近戦には弱く遠距離から甚振ることを好む為、何かあった際に隠れる場所の多いその場所を選んだのだろう。
「また、これはロシア軍からの救援要請ではありません。もし何か聞かれてもワープゲートなどの使用は口にせず、『現地にたまたま居合わせており、緊急的な対応としてH.O.P.E.から迎撃を指示された』と話してください」
作戦の概要、また注意事項を伝え終えるとオペレーターは一呼吸置き
「では、皆さん、よろしくお願いします。健闘を祈ります」
エージェント達を送り出す言葉を口にした。
解説
●目的
グロズヌイ市を襲う愚神達の撃破
●場所
グロズヌイ・シティと呼ばれる高層ビル集合地帯。
ビルは7棟あり、中央の左右に二車線の道路に面し、北東に三棟、南西に四棟並んで建っている。
北東の三棟は45階、南西の四棟は30階。
ビル群の中央道路を中心にバリケードを張り、愚神達を閉じ込めている。
中央道路は白冷鬼の攻撃で氷柱が突き刺さり、地面は凍って滑りやすくなっている。
居合わせた一般市民が数名氷像と化しており、生きているが壊すと息の根が止まる。
北東側の三棟、北西よりのビル寄りに一名。中央に二名。
南西側の四棟、中央二棟寄りにそれぞれ二名ずつ、氷像が確認できている。
●使い捨てライヴス・ジェットパック
【神月】でも使用。ライヴスを動力源とする使い捨てのジェットパック。
腰と脚部に取り付けて使用し、能力者のライヴスによって空中での飛行能力を得る。
稼働時間は20~30秒ほどで事実上空を飛ぶ為の装備ではない。
降下中にその機動によって降下地点を調整することと着地時の減速が可能。
●敵
・愚神白冷鬼 個体名「サモミーニヤ」×1
人型のケントゥリオ級愚神。
全長1.7m程、絶世の美女の外見をしているが二本の角が頭に生えている鬼。
激しい肉弾戦は得意ではなく距離を取りながら遠距離攻撃を繰り出す。ただし接近戦も多少は行える。
残忍な性格をしており、アイスゴーレム、ミミックスノウマンを盾にしてくる。
・アイスゴーレム×2
氷でできたゴーレム。デクリオ級従魔。
透き通った氷のようなボディを持ち、身体の中央には石のようなものが埋め込まれている。
・ミミックスノウマン×???
雪だるまに擬態するミーレス級従魔。
本体一体につき5~10体に分裂することが可能。
より詳しいデータに関しては【絶零】特設ページ、「敵戦力」を参照のこと
リプレイ
●
サンクトペテルブルグ支部、ワープゲート前。エージェント各位がジェットパックを身に着け準備を整えている。
「……今回は随分と回りくどい話になってるなぁ」
「建前や面子ってのは大事なもんだ。特に、組織が大きければ大きいほどにな」
共鳴の準備をしながら九字原 昂(aa0919)が零した言葉にベルフ(aa0919hero001)が答えた。
「こーかさくせん! れいえん、こーかするんだって!! こーか!!!」
その横で元気いっぱい、まいだ(aa0122)はジェットパックを使った降下作戦に大はしゃぎだ。
(ったくはしゃぎやがって。いいか、遊びじゃねえんだぞ。ちゃんとサポーターつけたか? ヘルメット被ったか? それから)
「だいじょーぶ! ばっちりです!!」
まいだと共鳴した獅子道 黎焔(aa0122hero001)が心の中からまいだに準備の確認を促す。
37mmAGC「メルカバ」の内側に腕を通し握りこんで固定装備しながら、まいだは元気にびしっ、と言い放った。
「故郷を失う苦しみを味わう人間は……もうこれ以上増えて欲しくない」
「すげー! クリスってヴィラン殺す以外に能があったんだね!」
「あぁ?」
沈痛な面持ちで市民の境遇を自身の体験に重ね合わせ真剣に考えていたChris McLain(aa3881)、ことクリス。その彼をアダム・ウィステリア(aa3881hero002)が茶化した為、リボルバーがアダムの眉間に突き付けられた。
「すいません許してください何でもしますから」
「ったく………………そろそろ出撃だな、共鳴するぞ」
「あいあいさー!」
コミカルなやり取りをする二人の後ろ、腰が引けながらもジェットパックをつけているのはアセンナス・R・P(aa4788)。英雄のサーヤー(aa4788hero001)は鷹の性質があり、定期的に空を飛ぶことが誓約条件でもあるため長期間飛ばないと消えてしまう。どうしようもなくアセンナスは依頼に参加したのだった。
「今回はトールハンマーを得るための修行です」
と、エレオノール・ベルマン(aa4712)が第二英雄のトール(aa4712hero002)を見ながら小さく呟く。トールとの共鳴は雷属性しか使えない。今回の敵に有効と思われる炎はからきしだ。
修行と割り切り出来ることをする、と決めた。エレオノールは結構自己中心的で慈愛精神はあまりない。
トールとの共鳴を行う為、キスをしようとする。
「融雪剤より自然と地面さ優しいんスよ、砂って」
「ズルッとやったらイテェけどな」
スキットルに詰め込んだ砂を確認しながら齶田 米衛門(aa1482)は言うと、スノー ヴェイツ(aa1482hero001)が頷きながら答えた。
豪雪地帯の道路にはよく砂を撒く。路面を滑りにくくするためだ。ロシアでは大きな車が道路を移動しながら撒いていくのだから、それだけ効果があるということだろう。
緊急だったため、サンクトペテルブルグ支部付近にあったごく普通の砂であり、特別設えた専用のものではないが多少なりとも効果を発揮できるだろう。
一方で、温かい食べ物や飲み物、毛布等を後から送ってほしい、と繰耶 一(aa2162)とヴラド・アルハーティ(aa2162hero002)はオペレーターに申し入れていた。戦闘が終わる頃になら、少しは間に合うだろう、と。
「では、出撃してください」
一通り準備が出来たのを見計らったオペレーターが一言、全員に声を掛ける。
そして、エージェント達の体はワープゲートを通り、寒空の下へと放り出された。
「空挺降下じゃないけど言ったほうがいいかな……ジェロニモ!」
(お前さんが良ければどっちでもいいと思うがな……)
様式美に拘る昴の中で、ベルフが呆れながら嘆息を漏らす。「ジェロニモ」というのは米軍の兵士が飛行機から飛び降りるときの掛け声だ。
「寒いね、アリス」
「そうだね、Alice」
「寒いところは嫌いだよ」
「早く終わらせて帰ろう」
降下しながら呟いているのはAlice(aa1651hero001)と共鳴したアリス(aa1651)、もとい、一人で二人のアリスだ。下から吹き付ける風はひどく冷たい。
彼女達は地上を見つめる。敵にも味方にも、軍にも一般人にも思うところはない。オーダーだから。思い入れなどない。
(そろそろロシアの寒さにも慣れてきたな。グロズヌイ……その名の通りの有様になったわけだ)
「ほーんと縁起でもないわよねぇ~。でーも、次はこっちが愚神達に与える番ね」
一の心の中の呟きにヴラドが答える。グロズヌイとはロシア語で「恐怖を覚えさせる」という意味を持つ。そう、だからこそ奴等に味合わせてやろう。恐怖を。
ライヴスゴーグルの向こう側を見据え、ライヴスの流れを追いながら敵の位置を把握していく。まだ敵はこちらに気が付いていないようだった。
強者……恐怖に貶める力を持つ者との力試しに期待が膨らむ。口角が自然と釣りあがった。
中央道路側へ着地するよう機動を調節していく。
「ヴォジャの顕現媒介になる水は……そこらじゅうにあるわね! 雪は私の味方でもあるのよ」
上空から地面の様子を伺い、水の精霊ヴォジャノーイ(aa4692hero002)と共鳴した氷雪の魔女イングリ・ランプランド(aa4692)が空中制御を熟しながら口端を僅かに歪める。
イングリは魔女らしくホウキで空を飛ぶ瞑想に元々慣れており、初回からホウキ飛行の依頼に入った事から、制御はそこそこだ。サモミーニヤよりやや離れた遠方に舵を切った。
ロシアの身を切るような寒さに震えているアセンナス。カザフスタン人の彼女にとって例えロシアの南と言えど寒すぎるのだ。だが、もう戦いは始まっている。後数秒後には弾が矢が氷の柱が飛び交い怒号が触れるだろう。
鷹の性質を存分に生かして滑空するように体を制動しながらアセンナスは落下していく。目的である一般人の救出に一番都合のいい所を探しているのだ。上空から確認できる氷像は七つ。だが、逃げ遅れ隠れている一般人もいるかもしれなかった。
まだ、敵はこちらに気が付いていない。
新人であるアセンナスは戦力にならないであろうことを自身で認識していた。
が、せめて少しは敵の戦力を落とすくらいはしたい。
北西よりのビル頂上にもうすぐ降り立てそうだ。ならば。
アセンナスはショートボウを構えた。一番近くに見えるミミックスノウマンに標準を合わせ――放った。
それが、交戦の合図となった。
●
上空からの影、そして、一体のミミックスノウマンに突き刺さった矢が、事態を告げていた。
瞬時に空を見上げるサモミーニヤ。
幾つかの影を認めにやりと、口端を歪めいやらしく笑う。
「……バカネェ」
射程内に収まるのを狙いアイスソードを天空へと掲げる。冷気の弾幕が空へと向かい渦を巻いて襲い掛かって行く。
北東三棟側へ降下していたまいだは防御姿勢に入る。吹きすさぶ冷気が肌を引き裂くようだ。
「おおー!? でもまいだつよいこだからだいじょうぶ! いたくないなもん!!」
そんな上空の状況を喉を鳴らし楽しみながら、アイスゴーレムにも氷塊を放たさせる。冷気で押し上げ氷塊をコントロールするサモミーニヤ。
氷の塊と冷気が空を飛ぶエージェント達を襲う。
だが、昴だけは対空砲火を警戒し、ビルの陰に入りながら降下していた為、射程から外れていた。
「フフフ、なかなか料理し甲斐のある奴が出てきたもんだねぇ。さっそく解剖してみようか?」
黄泉(aa4226hero001)と共鳴した飛龍アリサ(aa4226)が愚神を見下ろしながら不敵な笑みを浮かべる。サモミーニヤに興味津々だ。
彼女にとっては戦いとは実験であり、研究である。
能力者や英雄、愚神、ヴィラン、AGW、これらを通してライヴスの秘密を探り、彼女しか知らない「ある野望」を達成する。
そのためなら残酷な方法も厭わない。
一方の黄泉、彼女は戦いこそが生きる目的であり、愚神やヴィランはそのおもちゃである。
アリサの手足となって戦いを享受できればそれでいいのだ。
冷気と氷塊の中、予定の位置より遠くはなったが、地に降り立つとアリサはA.R.E.S-SG550を構えた。雪玉を投げてくるミミックスノーマンへ威嚇するように射撃する。ミミックスノーマンの体は雪のように散るがすぐにその体は元の形に戻ってしまった。
「フウウ、炉に火を点けるぞォ~~~!!! 極寒の大地を溶かしつくすほどにッ!!!」
北東三棟、一番東側付近に着地したクリスが雄たけびを上げ、バリケードを壊そうと集団でまとまっているミミックスノーマンに突っ込んで行き、金床を手にしたハンマーで叩いた。すると、頭上に多数のSMGリアールが召喚される。
次の刹那、一斉の――乱射。
発砲音が耳に痛いほど響き渡り、突っ込んだ先のミミックスノーマンの体が粉のように吹き飛んでいく。しかし、本体を仕留めなければミミックスノーマンはすぐに体を再生してしまう。
だが、その場のミミックスノウマンは散ったまま元に戻らなかった。無差別攻撃により偶発的に本体を一つ撃破できたようだ。
味方や一般人がいない方向を確認し、他のミミックスノーマンの群れに飛び込んでいくクリス。
「ひゃっはぁーー!」
狂ったような雄たけびを上げながら。その姿は「男装の麗人」と揶揄されるほど女性のように見えるが、雄たけびと行動にバリケードを作って遠目で見守っている警察官がビビッてしまっている。つまり、怖い。
対外が冷気の嵐に目標地点より遠方へと着地地点をずらされた。あくまでも近づかせる気はないようだ。
サモミーニヤはもしもの為に氷漬けの人質が多い南西側、中央二棟よりに陣を取っていた。事前に昴が確認していた位置と左程変わらない。
反対側の三棟、真ん中付近に下りたまいだはビルの脇からミミックスノーマンを狙い氷像に当てない様気を付けながらメルカバをぶっぱなし弾幕を張る。
「すっごーい!!」
腕から砲撃というロケットパンチ的な攻撃にテンションは最高潮のまいだ。きっと英雄が身体の操作権をとって途中から修正してくれるので問題はないだろう。多分。
一方北西、ビルの影。極獄宝典『アルスマギカ・リ・チューン』を開きテンションの上がったアリスが自身のライヴスを活性化させ、魔法戦闘に関する能力を高める。
「それで、遠距離から甚振るのが好きなんだって? そう……私もだよ。意外と似た者同士かもね、象徴する属性は正反対みたいだけど」
そして、まいだの銃撃の弾幕に被せるように「地獄の業火」たる炎を放つ。炎と弾が愚神への道を塞ぐミミックスノーマン達に降り注いだ。
「遠距離攻撃が得意なのはこちらも同じね……」
北東三棟、一番東側のビルに隠れイングリも愛用のガルドラボーグを構える。あまり脚は早くない為、仲間と連携を取る算段だ。呪歌を唱えライヴスによって形成された魔力の弾をまいだ達の攻撃にタイミングを合わせ被せるように放つ。
数の多いミミックスノーマンを三人の一斉攻撃が粉砕していく。
だが、再生を繰り返すミミックスノーマンの数は中々減らない。
そこへ雷も混じる。エレオノールの「ライトニングブック」だ。しかし、彼女が違うところはずんずんと前に距離を詰めていき、そして狙いは愚神、サモミーニヤ。
(ザコ雑魔がかばおうと動くことで相手の動きを攪乱できるかもしれない)
と、彼女はそう判断していた。バチバチとトールの雷が光り舞う。
命中率を上げる為だけに前進し、大人しそうな顔とは裏腹に性格は攻撃的だ。
彼女の目の前にミミックスノーマンが列をなす。通す気はなさそうだった。ちゃっかふぁいあーくん1号へと武器を切り替える。ライヴスを纏った炎がスノーマンを一瞬で水へと変えるが、すぐ再生してしまった。再度、炎を放とうとしたが後方から飛んできたミミックスノーマンがエレオノールの近くで破裂した。
その時、タイミングを計りイングリもサモミーニヤを狙う。実力勝負の遠距離撃ち合い、そんなつもりだった。しかし、サモミーニヤはわざと氷像の後ろに隠れ、そして、氷柱をイングリに向かい放った。一つを避けるが続くようにもう二つ氷柱が連なるように飛び来て、イングリの腕を掠った。鈍い痛みが腕から伝わってくる。
サモミーニヤの意識が狙撃班に向いている合間を縫って、米衛門が動いた。南西側ビル、南東側のビル。
凍っている地面にホイールアックスを刃を立て砕き足場の安定を図りながら前進する。砂を撒けばいいのだろうが、量はスキットル分のみ。一気に親玉に詰める際に使った方が効率が良いだろう。
弾幕のおかげか、米衛門に気が付くことにサモミーニヤはやや遅れた。米衛門の巻物「雷神ノ書」から鋭い雷撃が走り抜ける。
咄嗟に近くのミミックスノーマンを掴み電撃の盾にするサモミーニヤ。
バチッと大きな音がしてミミックスノウマンが崩れ落ちた。
氷像の近くにいる以上衝撃の大きな攻撃はできない。
「残念だっタワネ」
嘲笑うかのように鼻を鳴らし、米衛門へとアイスゴーレムの一体が迫った。
「また会ったわね。アンタは初めましてでしょうけど」
弾幕の中もう一人近づいていたヴラド。彼はもう一体のアイスゴーレムを前に立ち軽口を叩く。知能の低いアイスゴーレムは彼の言葉を理解しない。大きな氷の腕を振るい、ヴラドへと殴りかかってきた。
ひらり、と横に避け軽やかにヴラドは交わす。
「いいわ、ウォーミングアップがてらまた核をひり潰してあげようじゃないの」
にやり、口端を釣り上げたと同時にアイスゴーレムの足元へV8-クロスパイルバンカーを振り下ろした。
尖った先が地面に刺さり、放たれたライヴスの衝撃波が爆発を起こす。
凍った地面を砕かれた。
足場が揺らいだアイスゴーレムはバランスを崩し、腕を振るった勢いで前のめりに転倒する。
起き上がろうとする隙をついてヴラドはアイスゴーレムの懐へ潜り込もうとしたところで一体のミミックスノーマンがヴラドに突っ込んできた。
そしていきなり爆発する。
「げほっげほっ」
飛び散るスノーマンの体に咽るヴラド。更に一体ヴラドに向かってきたが、サッと回避する。
更にミミックスノーマンがこちらへ向かってくる前に、足場の不安定さにややふら付いているアイスゴーレムの懐へ飛び込み、ライヴスリッパーを核へと打ち込んだ。
耳障りな叫び声を上げ、ゴーレムが仰向けに倒れる。本体を傷つけられ気を失ったようだ。
「とどめね」
ヴラドが倒れて動かないアイスゴーレムの赤い核をV8-クロスパイルバンカーで粉々に打ち砕く。アイスゴーレムの体はひび割れただの氷と化した。
雪玉を投げつけてくるミミックスノーマンを無視し、V8-クロスパイルバンカーを緊急パージ。「愚か者」の名を冠した二挺拳銃に持ち替え、ミミックスノーマンへと打ち込み蹴散らし、再生が終わる前にその場を移動し始める。
一体のアイスゴーレムが倒れたのを見てアリスは氷像化された一般人を移動させられないか試してみる。炎を使い氷を溶かしてみるも足元が地面と張り付いており、移動することは難しそうだった。
巻き込まれることもさることながら、あの愚神がわざと狙って壊しに来ることをアリスは懸念していた。
ちらり、とサモミーニヤを見遣るアリス。視線がかち合う。アリスの行動を見ていたようだった。
自分の近くの氷像に爪を立てニヤニヤと嫌な笑いを向けてくる。余裕があるようだ。
(もし一般人に向ける様なら……やってみなよ、その瞬間こっちもあなたを燃やしてあげる)
鋭い視線で睨み返し、その思いを込めプレッシャーをかける。そして、距離を縮めミミックスノーマンが固まる範囲を射程に収め――ライヴスの火炎を炸裂させた。熱気がサモミーニヤに届く距離で。
お前をこうしてやる、と言うように。
本当は愚神を含めた範囲にブルームフレアを叩き込みたかったが、氷像のすぐ近くに陣取っている為、不用意に範囲攻撃はできない。
(……まぁ、一般人の救助なんて今回のオーダーには入ってないんだけど……恩は売っておくに限る)
アリスは心の中でそう呟いた。
しかし、中々ミミックスノーマンの数が減らない。本体を倒せば、ということだがそれは愚神も知っている。何か手を打っている、ということだろうか。
愚神サモミーニヤに近づこうと機会を伺っているのはアリサ。遠距離組に気を引いてもらい、その内にジェットパックで愚神の背後を取る計画だったが、サモミーニヤの攻撃で予想以上に遠くへ追いやられ、着地地点は希望が叶わなかった。
早々に背後、元よりサモミーニヤは敵を自分に近づかせる気はないのだ。もし今、もっと接近されれば後方のビルの中へと逃げ込むだろう。
銃でミミックスノーマンを翻弄しつつ少しずつ距離を縮めていくしかない。
「お前さんは実に手ごたえがある。モルモットにするには絶好の素材だ。お前さんの本当の実力、今に見せてもらおうかねぇ。でなきゃあたしがわざわざここに来た甲斐がないんだよ」
(きゃはぁ、可愛い愚神ちゃん。ボクの遊びの相手をしてほしいのですぅ~♪ ボクと遊んでくれないと刺身にしちゃうのですぅ~♪)
気持ちの流行るアリサと黄泉。こういうところはパートナーとして通じ合っているというべきか、狂気を感じるというべきか。
そのアリサの前方、アイスゴーレムに間に割り込まれた米衛門だったが、近くにいたミミックスノーマンをよいしょっ、と持ち上げ、アイスゴーレムへどっこいしょーっ、と投げつけた。
ゴーレムが振り払う仕草をしミミックスノーマンが粉々になる。
従魔を攻撃しながら前進してまいだが、その隙に光学照準器「オプティカルサイト」を付けた銃で標準を定め――
(如何にも怪しい見た目しやがって。ぶちぬいてやれまいだ!)
「おおー? うんー!!」
黎焔の指示の下、引き金を引いた。
まいだの一撃がゴーレムの核を撃ち抜く。
仰け反るアイスゴーレム。
その隙に米衛門が横をすり抜けサモミーニヤに向かう。まいだはリジェネーションを米衛門に掛けた。
核にヒビが入りアイスゴーレムは、そんなまいだへと憤怒し突進、その氷の固い拳を叩き込もうとする。
黎焔が一時的に体の操作を奪い回避した。
まいだに迫るミミックスノーマンはイングリが粉砕し足止めしていた。
そして、まいだはゼロ距離でもう一度核に銃撃を叩き込む。
アイスゴーレムの膝が折れた。
「おー!!」
ヒビが入りただの氷になり白くなっていくアイスゴーレムに楽しそうに声を上げるまいだ。
着実に敵の戦力は減らせている。
サモミーニヤの顔からは余裕の笑みは消えていた。
●
目下ビルのした、中央道路、そこで各々玄人の戦いが繰り広げられている。
シャドウルーカーの素早い移動を生かしてビルの内部に取り残されていた一般人の救出に全力を尽くすアセンナス。彼女は大人数の群れで暮らしていた風習から、人が死ぬのがとても嫌なのだ。
人命救助を少しでも、したい。そう思い駆けずり回っている。
確かにエージェントとしては経験も少なく、戦力としても弱い。だが、愚神や従魔に怯え、その場から逃げ出せなかった者達にとって彼女は間違いなく救出者だった。
外での紛争に氷の軍隊を思い出しては及び腰になるものの、今できることを精一杯する。今しかこんな体験は出来ないかもしれない。慣れてしまえば怖くないかもしれない。
彼女がこの先どのようなエージェントに育つかは、誰にもまだ分からないが、今日助けた人々はアセンナスに感謝するだろう。
ビルの下の戦いは佳境に入っていた。
地面に砂を撒き、凍った地面の影響を回避した米衛門はサモミーニヤへの接近に成功していた。
ヴラドが距離を取り別角度から迫り、遠距離から気を散らさせようと射撃する。
更には米衛門のスロートスラストがサモミーニヤを襲い来る。
アリサも既に近距離に迫ってきていた。
ミミックスノウマンが合間に入り攻撃を受けて四散する。
冷気と空間の変化が生じた。弾き飛ばそうと冷気の渦がサモミーニヤの周りに出来る。が、米衛門はホイールアックスの刃を盾に突っ込んだ。冷気と氷柱の刃が米衛門の体を突き刺す。
しかし、リジェネーションの効果で受けた傷はすぐに塞がってしまった。
その米衛門の攻勢にサモミーニヤは敗色を覚える。ビルの中に逃げる、には位置的にも遅い。
このまま後退しスノーマンを盾にしたまま撤退すれば逃げ切れるのではないか、そう、サモミーニヤは考えた。
一番近いのが三人。遠いのが五人。だが、ミミックスノウマンでは到底、彼らの数は減らせない。
サモミーニヤの認識はそうだった。
氷の柱を空に生み出し自分の周りに落とそう。当たらなくてもいい。敵に距離を取らせ時間を稼ぐ、その為に。
アイスソードが点に掲げられた。
ところで、愚神の動きが止まった。
「さて、しばらく僕と踊ってくれませんか?」
(美人と踊れるとは男冥利に尽きるな)
そう、一言を発したのは昴だった。彼だけが、サモミーニヤの意識の中に居なかった。所謂、盲点。
既にビルの陰に入りながら降下していた時、昴は隠密行動のためにスキル潜伏を使っていた。
建物の陰などに隠れながら愚神へ接近し、事前に連絡先を登録しておいた通信機を繋いでもらいながら敵の状況を確認。
ヴラドが攪乱するように銃を乱射し、意識を散らさせていたのも昴の存在がサモミーニヤに悟られないように、だった。
そして、接近戦に持ち込める距離にたどり着いた昴は女郎蜘蛛でサモミーニヤの動きを拘束した、というわけだった。
奇襲という昴の作戦は大成功、と言っていいだろう。
ギリギリと奥歯を噛み締め昴を睨みつけるサモミーニヤ。屈辱でいっぱいだった。
下等な人間にこんな目にあわされている現状が許せなかった。
米衛門がホイールアックスで怒涛の勢いで攻撃を仕掛けてくる。
しかし、まだ数を減らし切れていないミミックスノーマンが合間に割り込んでくきた。
ヴラドが、昴が、アリサが追撃を仕掛けていく。
ミミックスノーマンがもともと下されていた指示に従いサモミーニヤを庇う。
だが、アリスやエレオノール、イングリなどがミミックスノーマンを蹴散らし、四人分の攻撃ではミミックスノーマンの再生は追いつかない。
確実に負けを悟ったサモミーニヤはアイスソードを強く握った。
最後の切り札で、一矢でも報いてやろう、と。
強力なアイスソードでの一撃を、愚神は無心で繰り出した。各々が回避行動をとる中、ヴラドだけが防御をしながらもその一撃を受け止める。
クロスガード発動しデータ収集を兼ねて、攻撃を受けたのだ。
だが、流石に最終手段。とても、重い。肩が裂ける。
そのヴラドに弾丸のようなライヴスの塊が当たった。まいだが放った、エマージェンシーケアだ。ヴラドの傷が塞がって行く。
昴のハングドマンがサモミーニヤの体を捉えた。米衛門の斧が振り下ろされ二本の角が折れる。
「アタシはね……自分の手を汚さず、汚したつもりで傲り高ぶった奴が嫌いなのよ。怯えて、そして消えなさい、醜女」
その言葉ともにヴラドはライヴスリッパーを渾身の力で叩き込んだ。
「……ンデ……ゆる、サナイ……」
呻くように呪いの言葉を吐きながらサモミーニヤの体はぼろぼろと雪のように崩れ、そして虚空へと消えていった。
「サンプルを回収しようと思っていたのに、残念だねぇ」
殲滅完了後、白冷鬼のサンプルを回収しようと考えていたアリサだったが、跡形もなく消えてしまったのを目にしため息を逃がす。だが、まだ終わってはいない。統率を失ったミミックスノウマンはひょこひょこと跳ねてはいるが、近づけば襲ってくる。
本体を見つけ出し、全滅させなければならない。
愚神が居た背後のビルの内側からもミミックスノウマンが顔を覗かせていた。
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まいだのケアレイで負傷者を手当し、無事、グロズヌイに平和な時間が戻ってきた。
警察官が荒れた道路の危険物やアイスゴーレムのなれの果てなどを移動している。
「俺は自分の意思で市民を助けただけだ」
「おぉ~!! ちょっとその銃見せて見せて!!」
警察官から事情聴取を受けている最中、クリスがきちんと釈明している傍から、超ハイテンションなアダムが警察官の銃に手を伸ばす。少女のようなアダムにたじたじしている警察。見かねたクリスが首根っこをアダムの掴んだ。
「帰るぞ」
そう言って半ば無理やり引っ張るようにして帰路へと向かう。
ヴラドが救出された一般人のアフターケア。頼んでおいて貰った毛布や、食料の配給手伝いなどを行っていた。
「は~いこれはミソスープよ、こっちでいうボルシチとかその辺に近いかしらね?」
と、エプロンまでつけて包容力全開発揮している。見た目は筋肉隆々の巨躯の男。しかし、その優しさはちゃんと伝わっているようだった。
「私にはもう、守りたい”故郷”はないが……故郷を守りたいと言う思いは同じさ。まだ恐怖は始まったばかりかもしれない、互いに最善を尽くそう。そう伝えてくれ」
一はこの依頼を頼んだであろう指揮官にオペレーターから伝えてくれるように、と頼んでいた。
その言葉に彼はこう答えるだろう。
「戦友よ、ありがとう。この恩は決して忘れない。お互いに最善を。またいつか、肩を並べる日を楽しみにしている」
とても嬉しそうな笑顔で。