本部

【卓戯】連動シナリオ

【卓戯】コウエン

雪虫

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 5~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/12/12 14:30

掲示板

オープニング

●後宴
 エージェント達の奮戦によりガネスとレイリィ、その配下のガーディアン愚神達は撃破され、ゲーム世界を模した件のドロップゾーンは消滅を待つばかりとなった。霊石の取りこぼし程度はあるかもしれないが、愚神は消え去りルールも綻び始めたドロップゾーンに脅威はない。
 と思われていたが。
「愚神パンドラが件のドロップゾーンから撤退した、という情報が入っていない。もしかしたらすでに離脱しているかもしれないが、万が一残っていたとしたら……ドロップゾーンの乗っ取りを企てている可能性もある」
 別のゾーンルーラーが作成したドロップゾーンを愚神や従魔が乗っ取るのに必要な条件は、三つ。
 一つ、作成者より階級が上である事。
 二つ、同格同士の場合は作成者の力量が同程度以下で、ドロップゾーンが崩れ切っていない事。
 三つ、ドロップゾーンに直接侵入し、中心部近くに赴く事。
「あくまで我々HOPEが把握している条件だが、いずれにしろパンドラの行方を探す必要がある。ヤツの階級も力量も不明のため、そもそも乗っ取り自体が不可能な場合もあるが、念には念をだ。何かあってからでは遅いからな」
 オペレーターの言葉にエージェント達は頷きを見せ、パンドラの名に李永平(az0057)はぎっと奥歯を噛み締めた。そして滅びを待つばかりのドロップゾーンへ赴くべく、コンソール型機材『VR-TTRPGシステム』に乗り込んだ。


 「彼」はそこに立っていた。廃墟ばかりが並ぶ世界で特に気負った様子もなく、一つ目を嵌めた白い面を崩れる景色に向けていた。永平が眦を鋭く吊り上げ、己に呪いを掛けた相手に吠えるように声を張る。
「パンドラ!」
「……ああ、皆さんお揃いで。今日はどうしはったんです?」
 永平の声にようやく気付いたと言わんばかりに愚神は首を巡らせた。エージェント達に肩を掴まれ止められながら、永平は今にも噛み付かんばかりの勢いで愚神を睨み付ける。
「それはこっちの台詞だ。ここで一体何してやがる!」
「この景色を見てたんです」
「……景色?」
「はい。だって壊れた遊園地みたいで、なんやワクワクしませんか? ついこの間まであんなに賑やかだったのに、今はもう誰もいない。静かで、荒涼としていて、このまま崩れて壊れて消えていくのをただ緩やかに待っているだけ……はあ、ずっとここにいたい。この景色をずっと見ていタい……」
 ドロリと、暗く溶けたような声色が鼓膜の奥に滑り込んだ。タールのような液体が、耳から臓腑の奥へと流れ溜まっていくようだった。パンドラはそれからしばらくじっと景色を眺めていたが、はっと正気に戻ったようにエージェント達に面を向ける。
「あ、すいません。つい夢中になって見てました。えっと……それで皆さんはどうしてここに? 皆さんもこの景色を見にここまで来たんですか? だったら一緒に見ませんか? こんな素敵な景色、ゆっくり見る機会なんてなかなかない……」
「フザケた事を……抜かしてんじゃねえぞ!」
 エージェント達を振り払い、ついに永平は地を蹴って単騎愚神に殴り掛かった。パンドラは振り下ろされた釘バット「我道」を、まるで動きを予測していたかのような所作でなんなく躱し、同時にフィールド上に黒い、アメーバのように形を持たぬ異形がいくつか湧き上がる。
「またペナルティーとかいうヤツか……ああ!?」
「ああ……それどうなったんでしょうね。このドロップゾーンのゾーンルーラー、いなくなってしまったんですよね。うーん……実は僕がNPCでいる条件は《僕から一切の攻撃をしない事》だったんです。ほら、NPCって自分から攻撃しませんでしょう? つまり敵NPCにするには……って事だったんですけど……」
 永平は一度距離を取り、愚神の顔の面を眺めた。面に覆われたパンドラの表情は当然分からない。
「何故、今更それを言う」
「だってもうゲームは終わりなんですよね? ルールがどうなってるかも分かりませんし、もう言ってもええのかなと。えーと、僕は今日は戦うつもりはないんです。ほんまにこの景色を見ていたいだけなんです。だから仲良くこの景色を見てませんか? ね?」
 愚神は首を傾げたが、当然その誘いに賛同する訳にはいかない。エージェント達が武器を取ろうとした、その時、エージェント達と愚神を囲むように光の輪が出現した。先日とある愚神を海へと叩き込んだ脱出ポータル。その出現を説明するべくオペレーターの声が響く。
「脱出ポータルを展開させた。今はまだ狭いが、徐々に範囲は広がって数十秒程度で完成する。パンドラをそこに落としてゾーン外に放り出せ!」
「そんな事しなくても、用が済んだら勝手に出ていくつもりですのに。この景色をもう見られないなんて堪忍しておくれやす」
 パンドラはふうと溜息を吐きエージェント達に面を向けた。殺意とは言えない、しかし確かな本気が少年の姿の愚神に宿る。
「僕はこの景色をゆっくり見ていたいだけどす。そこを退いてくれませんか?」

解説

●目標
 パンドラをゾーン外に撤退させる

●状況
・リンカーと敵は脱出ポータルに囲まれたフィールド上にいる/永平はパンドラから3sq・PCはパンドラから8sq以上離れた地点にいる/ここからリプレイスタート
・リプレイ開始時のフィールドは半径16sqの円/1ターン経過毎に半径4sqずつ脱出ポータルに浸食される(1ターン終了時半径12sq、2ターン終了時半径8sq……)

●敵NPC
 残滓×(参加能力者PC数-2)
 フィールドに出現したアメーバ状の従魔。地面に潜って移動しパンドラを守るように行動する
【PL情報】
 AGWを使えば一撃で倒せるが、次のターンには復活する/パンドラがPCを攻撃した後は復活しなくなる

 パンドラ
 回避力が異常に高い。脱出ポータルの外側に出るべく行動する。接触した愚神や従魔を改造するスキル「壊造」を持っているが今回は使う気がない様子
・禍の狂持
 パッシブ。一ターンで二回行動出来る
【PL情報】
・孕兆
 アクティブ。接触した対象に「何か」を植え付け体内を少しずつ破壊。【減退(1d6)】付与。このスキルは重複する(例:減退1負荷中に減退2を喰らうと、重複して減退3になる)。BS回復スキル以外回復不可
・躍れ依代
 リアクション。通常避けられないような攻撃に対し人外めいた超回避を行う。超回避による負荷が一定ラインを越えると回避力が低下する

●NPC
 李永平&花陣
 共鳴済みで行動開始。特に指示がない場合はパンドラに突撃する
 スキル:怒涛乱舞×1/オーガドライブ×1
 武器:釘バット「我道」

●その他
・使用可能物品は装備/携行品のみ
・脱出ポータルはエージェントが入るとHOPEに、パンドラが入ると海のド真ん中にワープするよう設定してある(PC情報)
・パンドラは脱出ポータルに落ちそうになると勝手にゾーン外に離脱する(PL情報)

リプレイ

●接触
「僕はこの景色をゆっくり見ていたいだけどす。そこを退いてくれませんか?」
 脱出ポータルを飛び越えるべくパンドラが走り出そうとした――瞬間、ハウンドドッグの弾丸がパンドラ目掛けて撃ち放たれた。鋭い猟犬の牙を、しかし愚神は身を捻り回避し、麻生 遊夜(aa0452)は狙撃銃を構えたまま口を開く。
「気持ちはわからんでもないんだがな……」
『……ん、これもお仕事……あなたは、日頃の行いが悪い』
 ビシィ! と効果音を伴いながらユフォアリーヤ(aa0452hero001)は宣告した。戀(aa1428hero002)はナイスバディを悩まし気にくゆらせながら、ニウェウス・アーラ(aa1428)は感情の見えにくい瞳で眼前の敵を見据える。
「さぁさぁ。落とすか逃げられるか、穴落としゲームの始まりよぉ♪」
「どの道、取り逃す事には、なるんだね……」
「過ぎた望みは身を滅ぼすしねぇ。適度にいきましょ?」
 ニウェウスは戀と共鳴すると、パンドラを基点に永平の反対側へと駆け出した。パンドラを挟撃する位置をキープし頭上に得物を召喚する。
「さて。まずは……邪魔な子達を掃除しましょうか!」
 戦意と情熱を溶かし合わせた声を上げ、ニウェウスは武装の雨を残滓達へと降り注がせた。二体の残滓が黒い飛沫と弾け消え、虎噛 千颯(aa0123)が茶目っ気混じりに目を細める。
「さて、今回は少しは相手してくれるのかね?」
「何を悠長な事を言っているでござる! 李殿の為にも踏ん張りどころでござる!」
 生真面目に喝を入れる白虎丸(aa0123hero001)に、千颯は薄く笑みを浮かべて共鳴した。ホワイトタイガーの尾を揺らし、禍い射抜く皎潔の聖槍――グングニルを出現させる。
「さてと、んじゃま少し頑張りますか! とっておきの一つくらいは出して貰いたいもんだな」
 露払い担当が複数いると判断し、千颯は駆けた勢いのままグングニルを愚神へ突き出した。しかし地中を移動した残滓が代わりに槍を受け弾け飛び、パンドラは方向をわずかに変えて千颯をすり抜けようとする。
『残念だけど、今は仲良く景色を眺める暇がないものでね』
「代わりに、この景色を背景に……最後にここで、踊っておく……?」
 アーテル・V・ノクス(aa0061hero001)と共鳴した木陰 黎夜(aa0061)が、対象を敵に限定しブルームフレアを解き放った。二体の残滓が蒸発し、パンドラは片手を床につき炎の合間を縫って躱す。
「今日は、パンドラでいいの、かな……。村人Pでも、弟Pでもなくて……NPCとか、そうじゃねーとか、関係なくて……お前は、パンドラ……?」
 黎夜の問いに愚神は白い面を向けた。表情はやはり見せぬままことりを首を傾げて見せる。
「そうだと言ったら?」
「パンドラなら、遠慮なく討ち落とせる……」
 もたらされた返答に愚神はわずかに肩を竦めた。自分を取り囲むリンカー達に困ったようにぽつりと零す。
「これは、骨が折れそうですね」

●交戦
 志々 紅夏(aa4282)は永平の首から上にがっちり視線を固定していた。永平の服装は今日も、半裸。いつも通り目の毒なヤンキーに紅夏は早口に告げる。
「寒くないの? 見られたい人なの?」
「ああ、どういう意味だコラ」
 永平からの質問返しに、しかし紅夏は既に背中を向けていた。目的は永平と舌戦を繰り広げる事ではなく、呪いを負いながら愚神に突撃しようとする永平をカバーする事。そして
「質問していい? NPCやってて、どんな気分だった?」
 紅夏の声に愚神は今度は紅夏へと面を合わせた。世間話でもするように愉し気な声を漏らす。
「楽しかったですよ。皆さんと遊べて」
 その言葉に、保志 翼(aa4282hero001)は内部で密かに舌を打った。紅夏はそれに気付きながらも、無言を貫く翼に素知らぬフリを続けてやり、そして愚神に向き直る。
「そう。あんたはNPCと言うより、客演に見えたから。このドロップゾーンも自分の遊戯の試演だったかの様にね。遊戯を利用して実験って奴?」
「……」
「ま、私あんた嫌いだから」
 紅夏は守りと拒絶を兼ねMS・フィールドを展開させた。紅夏の放った宣言に愚神は悲し気に声を落とす。
「そんな、寂しおす」
「あんたの玩具遊びに付き合ってやる義理はない」
 きっぱりと切り捨てて、紅夏はフィールドを構えたまま愚神目掛けて突撃した。パンドラは空中に飛んで回避し、そこにクレア・マクミラン(aa1631)が大剣を携え飛び掛かる。
「短い時間ですが、少しお相手を願いましょうか」
『相手は未知数のトリックスター、状態異常に気を付けてね、クレアちゃん』
 リリアン・レッドフォード(aa1631hero001)の忠告を受けながらクレアは魔剣「カラミティエンド」を振り抜いた。パンドラはそれを、刃の上に片手で倒立する形で躱し、着地した所にすかさず秋津 隼人(aa0034)がフリーガーファウストG3を向ける。
「あは」
 パンドラは微かに面を揺らすと、獣のような動作で駆け出しロケット弾を回避した。隼人はロケット砲を肩から下ろし、共鳴中の椋(aa0034hero001)と密かに言葉を交わす。
(「パンドラ……あれが、そうですか」)
(『話には聞いとったし過去の報告書も読んだが、なるほど雰囲気あるの。データが少ないのも不気味じゃ……気を引き締めてかからねばな』)
(「言われるまでもない。とはいえ今回は初顔合わせ、支援に徹して因縁ある皆さんに任せるとするよ」)
(『か、の。それでも充分に注意するのじゃ、何をしてくるか、何ができるか、影でいるならばそこでしっかり見定めねばならん』)
「パンドラァッ!」
 隼人と椋の会話を掻き消すように、気炎を上げる永平が怒涛乱舞を愚神に仕掛けた。一体の残滓が消し飛んだが永平を躱したパンドラは何事もなく立っており、頭に血を昇らせる永平を白虎丸と千颯が諫める。
『李殿、戦場では熱くなった者から死んでいくでござる。冷静になるでござる。冷静に何が出来るかを見極めるでござるよ』
「永平ちゃん! 技のタイミングは考えて! 闇雲に使って当たる相手じゃないでしょ!」
「そうですよ永平はん、熱くなったらあきまへんえ」
「……この!」
「二の轍を踏むか? そうしたいなら止めないが、そうしたくないなら頭は冷やすことだ。冷静すぎて困ることはない」
 永平の意識を愚神から戻すべくクレアが更に言葉を重ね、永平はようやく動きを止めた。リンカー達が愚神を追い詰めようと武器を構え直した、その矢先、倒したはずのアメーバ達が再び地上に湧き上がる。
『黎夜。従魔が』
「倒したと思ったのに……みんな、従魔はまだ、倒れてない……! 気をつけて……!」
「あら、倒してもまた出てきちゃうのね。余りしつっこいのは、女の子に嫌われるわよ?」
 アーテルの声を受け黎夜は仲間に忠告を飛ばし、戀の特徴を得たニウェウスが桃色の瞳を細めた。その様子を眺めながら遊夜は密かに案を巡らす。
 命中特化に一家言を持つ遊夜をさえ躱す回避力。普通の攻撃では当てられない。故に味方との連携、狭まるポータルを利用して間断なく追いつめるしかない。
「と言う訳で、餞別って訳じゃねぇが、これで我慢してくれんかね?」
 言って遊夜はその手に二つの機械を取り出した。首を傾げるパンドラに遊夜は高らかに説明する。
「これでも悠久を探究する会の名誉会員、壊れゆく物の美しさ……退廃的な物に一家言あるつもりだ。
 断腸の思いであるが! 今まで撮りためた廃墟群データが詰まったスマホにノートパソコンを進呈しよう!」
 その言葉に、愚神の動きがピタリと止まった。興味深々を隠そうともせず遊夜の手元に面を合わせる。その姿に、遊夜はニヤリと笑みを零し両の腕に力を込める。
「だから、ちょいとこっちの都合に付き合ってくれや」
『……ん、今度は、当てるから……ね?』
 「受け取ったら荷物で動きが鈍ってくれるかね? 受け取らなかったら、言うこと聞いてやる義理はねぇな!」、そう言わんばかりの勢いで、遊夜はスマホとパソコンを愚神の頭上へ放り投げ、同時に駆け出した千颯が愚神に槍を繰り出した。面を正確に狙った攻撃をしかしパンドラは身を反らして躱し、半ブリッジ状態のまま進呈物をキャッチする。超感覚やファンブルアセットを思わせる回避力の異常さに、黎夜が小さく声を漏らす。
「今の攻撃を、避けた……?」
『でも、あんな回避には何か弱点や負担になるものがあるはずよ。あくまで推測だけれどね』
 アーテルの言葉に黎夜は頷き敵を見定めるべく目を細めた。一方、隼人はパンドラの魔法防御のおおよその目安だけでも見極める事を目的に、ライヴスを攪乱する結界を展開させる。
「まずは御挨拶、という事で」
 広範囲に張られた隼人のライヴスフィールドに、しかし愚神はほとんど反応を示さなかった。どうやらパンドラの魔法防御は相当高いようである。リンカー達の思惑を尻目に、身体を起こした愚神は愉しそうな声を上げる。
「二つも頂いてしまいました! でも僕、人間の機械の使い方分からんのですよね。うーん……」
「変わった嗜好ね。だってコレ、アナタが壊した訳じゃないんでしょう?」
 スマホとパソコンを手に首を傾げるパンドラに、佐倉 樹(aa0340)は攻撃的な笑みを浮かべて足を進めた。共鳴し内部に潜むシルミルテ(aa0340hero001)と共に愚神に声を投げ掛ける。
『ソんなにヒトのモノがイイノ?』
「無いもの強請りのお坊ちゃん」
 皮肉な問いを放つと共に、樹は地を蹴り一息にパンドラへと肉薄した。今にも掴めそうな程に距離を詰め、ウィザードセンスに高めた魔力を迸らせ、笑う。
「ねェ、私と遊んでくれルんでしょう?」
『ダカら、ワタシトあソぼウヨ!!』
 息が触れる程の至近距離で、樹は渾身のサンダーランスを撃ち放った。パンドラはそれを横に転がる事で回避し、背後で巻き込まれた残滓二体が蒸発する。
「危ないですよお嬢はん! せっかく頂いたのに壊れたら」
「ウェポンズレイン!」
 パンドラの抗議はエクストラバラージを乗せたニウェウスの攻撃に阻まれた。身を捻って回避した所にさらに黎夜のブルームフレアが迫り、慌てて避けたパンドラが再び抗議の声を上げる。 
「ちょ、ちょっと待って欲しいどす! せめて仕舞う時間ぐらい」
「与える訳が」
「ないでしょう」
 無情な声と共にクレアが魔法書ネクロノミコンで、紅夏がMS・フィールドで攻撃を仕掛け、さらにそこに永平が釘バット「我道」を振りかざした。しかし愚神はそれすらもわずかな隙を縫って躱し、またもや復活した残滓の中心でスマホとパソコンを仕舞いこむ。
「もう、ほんま酷いどす……壊れたらどうするんですか……」
「本当、回避の化けもんだな……自信なくなるぜ」
『……ここまで、当てれないなんて』
 遊夜はやれやれと首を振り、ユフォアリーヤはしょんもり息を漏らした。そして敵に向ける得物をフリーガーファウストに換装する。
「だが、そう簡単に避けさせてはやらんぞ」
『……当てれなくても、崩すくらいはしてあげる』
 宣言と共に遊夜はロケット砲を担ぎ上げ、残滓と愚神を標的に早撃ちの乱射を披露した。弾けた残滓二体に目もくれずトリオを躱すパンドラに、ニウェウスは龍退治の大剣、アスカロンで斬り掛かる。
「ねぇ、貴方。なんで、この景色に執着するの? 郷愁の念でも浮かんだかしら。それとも……」
 問い掛けるニウェウスにパンドラは面を持ち上げた。大剣を軽くいなした後ニウェウスに面を近付ける。
「好きだからですよ、壊れたものが。お姉さんも壊れたらもっと素敵そうですね」
「させない!」
「おっと」
 突撃してきた紅夏の攻撃を愚神は後ろに飛んで躱した。戦場は大分狭まっている。愚神をポータルに突き落とすだけでなく、自分達が落ちないよう注意を払わなければならない。
 隼人は全体を視野広く把握出来るようにと仲間から一歩引いた後、インスタントカメラ二台を取り出しその両方で写真を撮った。相棒の行動に、椋が内部で首を傾げる。
『何をしておる?』
 それに隼人は小さく答えた。
「記録と皮肉的な敵への手土産用、ですかね」

●包囲
 樹は永平という存在を“箱庭“の“内側“と認識した。愛すべき箱庭。箱庭という名の日常。それを自分以外が侵す事を厭い、このままを維持するために、今必死に抗い戦っている。
 故に、パンドラは樹にとって“侵略者“と認識された。
 出来るか出来ないか等ではなく“排除する“。
 徹底的に“破壊する“。
 憎悪とは別感情として、
 オマエは私の“箱庭“にイラナイモノだ。

「あんまり話してる余裕はなさそうだから手短にな?」
 残滓を打ち伏せながら放たれた千颯の忠告に、樹は沈黙を以て返した。千颯には悪いがパンドラの注意を引くためにも『口撃』を緩めるつもりはない。
『オマエにハ』
「桜の花びらひとひらすらくれてやるものか」
「さくら? それ、お嬢はんのお名前ですか?」
 パンドラの放った問い掛けに樹は黒の猟兵を構えた。魔力を再び迸らせ拒絶の言葉を先んじる。
『アナタに名乗ル名前ナンて無いノ!』
「“侵略者“には名乗らないって決めてるの」
「いけずですね」
「ゴーストウィンド!」
 横合いから黎夜が不浄の風を解き放ち、合わせて樹がサンダーランスを繰り出した。さらにクレアがネクロノミコンの、永平が我道の一撃を飛ばす。
「全く、皆さん情熱的過ぎますよ!」
 パンドラはまたもや右手を地に突き猛攻の隙を縫おうとした、その時、パンドラの右腕からゴキリと嫌な音がした。パンドラはそのまま体勢を崩し砂塵の上に転がり落ちる。見れば愚神の右腕があらぬ方向に曲がっており、パンドラは折れた腕を押さえながら妙に湿った声を零す。
「ああ、ほんまに骨が折れてしまいました。素敵な感覚ですね……ふふふ……」
「やっぱり、負担が掛かるんだ……」
『この機を逃す手はないわ』
「みんな、大分狭くなってる。自分が落とされないようにくれぐれも注意するんだぜ!」
 黎夜とアーテルの声に更に千颯が注意を重ね、パンドラの面を狙ってグングニルを突き出した。パンドラは身を捻って槍を紙一重で躱すと、そのまま千颯に左手を伸ばし
『オマエはワタシの』
「エモノだよ」
 瞬前、樹の放ったライヴスの蝙蝠がパンドラへと襲い掛かった。同じく面を狙った攻撃をパンドラは背を逸らして回避し、バネのように起き上がるや樹へと肉薄する。
「情熱的ですね、お嬢はん」
 そして樹に迫った左手を、ハイカバーリングを使用して立ち塞がった紅夏が受けた。何かが侵入する感覚に紅夏がその場に膝をつき、クレアは得物をグングニルに換装、紅夏に左手を伸ばしたままの愚神へと狙いを定める。
「お前みたいなやつのために用意した特注の槍だ、一発持っていけ」
 そして突き出された神槍を、愚神は地面と槍の隙間に滑り込むように回避した。そのままクレアを面で見上げ折れ曲がった右手を伸ばす。
「それじゃ、お礼に」
 愚神がクレアの脚に折れた腕を突き入れた、瞬間、クレアの体内にぞわりと何かが侵入した。隼人がクリアレイを飛ばそうとし、気付いたクレアが声を放つ。
「私はいいので志々さんを!」
 紅夏に回復の光が放たれたのを確認した後、クレアは警戒を解かぬままに内部へも意識を巡らせた。何か小さなものが多数、侵入口を縦横無尽に這い回っているような。
「ドクター、こっちに頭と意識を回してくれ。戦闘とダメコンは私が専念する」
『了解。でも状態によっては自分の治療最優先よ』
 リリアンはクレアに声を飛ばし、黎夜は自分達の立ち位置とポータルの距離を密かに測った。眼前に立つ愚かなる神に、せめて一矢報いるために。
「木陰黎夜。アーテル・ウェスペル・ノクスと共に、お前を討ち落とす」
 愚神や従魔相手への命を奪う、宣言。それを音と述べながら黎夜は銀の魔弾を撃ち放った。密かに脱出ポータルに追い詰めるべく放ったそれを、愚神は横に転がって回避し、そこにニウェウスがアスカロンで、永平が我道で挟み込む。
「ま、周りのフォローは任せて突っ張りしなさいな」
『見極めるでござる! 敵の最大の隙を! チャンスは一度だけでござる』
 千颯と白虎丸の声を受け、永平はオーガドライブを乗せ愚神へと叩き落とした。パンドラは後転しニウェウスと永平の挟撃さえも躱したが、躱したその先に逃げ場は存在しなかった。完全に追い詰めたその先へ、遊夜が最後の銃口を向ける。
「これが俺の最高だ、避け切ってみろ!」
『……ん、今度こそ!』
 仲間の連撃を継ぎ放たれたダンシングバレットを、パンドラは、避けなかった。面を狙って放たれたそれを正面そのままに受け止めた。躱しても跳ね回り死角から奇襲するそれを、この場所では、この右腕では、もう避ける事は出来ないと知っていたから。
「は……痛い痛い……やっぱり素敵なものですね。身体が壊れる感触は」
 面の上半分がパキリと砕け地面に落ち、そこから少年のやや大きめの瞳が覗いた。泥を煮詰めて腐らせたような酷く淀んだ黒い瞳を、にこりと細めて眼前に立つリンカー達の姿を眺める。
「プレゼントも貰ってしまいましたし、今日は帰るしかなさそうですね。残念ですけど仕方ないどす」
 隼人はうそぶく愚神へと、二台のインスタントカメラの内一台を放って渡した。首を傾げるパンドラに丁寧な口調で説明する。
「記念にどうぞ、俺達に感傷に浸る時間を邪魔されたこと、これを見る度思い出してくださいね」
「パンドラ……次は、現世界で会おう……。今度は、お前を討ち落とせることを、望む、よ……」
「自分が壊れるシナリオも用意しといてね、お面野郎。私ら、いつか必ずあんたら潰すから」
『ソレじゃア』
「先に地獄へどうゾ」
 黎夜が意志を込めながら、紅夏が指で首を掻っ切った後親指を下に向けながら、樹がシルミルテと共に、愚神に告げた。パンドラはリンカー達を見つめ、黒眼を細め、笑う。
「ええ」

●帰還
「何かがすごいスピードで体内を食い荒らしているようだ……取り出すには深く進攻し過ぎているし、君の身の安全が最優先だ。申し訳ないが今回はここまでだ」
 HOPE職員がクレアに告げ、そしてクレアの身の内に巣食った「何か」はクリアレイにより掻き消された。「何か」の正体は分からなかったが、パンドラが異常な回避力を有している事、超回避を多用すると肉体が故障するらしい事、接触した相手に「何か」を植え付け体内を少しずつ破壊するスキルを有している事が明らかになった。
「結局、ドロップゾーンを乗っ取るツモリがあッタかドウかは分かラなかっタネ」
 シルミルテの言葉に樹はふうと息を吐いた。乗っ取りの意志を見せた場合真意を尋ねるつもりだったが、残念ながらその機会を得る事は出来なかった。
 しかし、いずれにしろ交戦は起こり、そして終わった。もし次にまみえた時は。
 その時は。
 樹はライヴス結晶を指でなぞった。

「ヤンキー、ちょっと」
 紅夏に呼び止められ、永平は紅夏に視線を向けた。相変わらず永平の首から上にがっちり視線を固定したまま、紅夏が告げる。
「あのお面絡むと、あんた狭い視界がより狭くなるわね」
「……」
「事情は聞いたけど、同情しないわ。同情されたいならしてやるけど、龍の目がそれで喜ぶなら興醒めだし」
「……龍の目?」
「話にしか聞いてないけど、あんたの大切な人は『龍』なんでしょ? その人が色んなもんあんたに託してるなら、その人の目じゃない」
 紅夏の言葉に永平は目を見開いた。その反応を確かめつつ、紅夏はそのまま言葉を続ける。
「あんたの大切な人はあんたの全てで、その人がいる場所が故郷なんだと思うけど、故郷は一つでも、居心地いい場所は幾つあっても困んないわよ。服は着てほしいけど、借りてきた子猫ちゃんしてないで自分の家の様に寛いだら?
 今の自分がどんだけ本来の力出せると思ってんだか。そんな甘い世界生きてきた訳じゃないんでしょう、李永平」
 「ただのヤンキーじゃないと自身で執念示せっての」、言いたい事を、伝えたい事を、紅夏は永平の名をしっかり呼びながら告げた。「故郷」の文言に再び翼が舌を打ったが、紅夏はまた気付かぬフリを続けてやる。
「……ああ」
 永平は、しばらく沈黙した後にようやくそれだけを零した。それからその場にいる全員に、気まずそうな様子で呟く。
「……その、悪かった。頭に血が昇っちまって……お前らの言う通りだ。頭冷やして、もっと強くならねえと。俺は」
「ま、言ったでしょ。周りのフォローは任せろって。次はきっちり決めようぜ!」
「……ん、次は、頑張ろう」
「お、おい、抱き付くな!」
 千颯に親指を立てられた後ユフォアリーヤに抱き付かれる永平の姿を、隼人は右目を細めて眺めた。その直情的で危なっかしい姿に思ったそのままを口にする。
「なんとなく、自分もこう見えてるのかな、とか、思ってしまいますね」
「見えとるよ。いい機会じゃもっと自覚してしまえぃ!」
 椋は相棒にそう宣告し、ふっと小さく笑みを漏らした。


 少年は直った右腕を名残り惜しそうに見つめていた。本当はもう少し壊れた感触を楽しんでいたかったが、壊れたまま放置しては支障が出るので仕方がない。
「まだ壊してしまう訳にはいきませんものね……少しだけ休んだら、またたくさん躍って下さいね。
 僕の依代」

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 挑む者
    秋津 隼人aa0034
    人間|20才|男性|防御
  • ブラッドアルティメイタム
    aa0034hero001
    英雄|11才|男性|バト
  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 薄明を共に歩いて
    アーテル・V・ノクスaa0061hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • カフカスの『知』
    ニウェウス・アーラaa1428
    人間|16才|女性|攻撃
  • 花弁の様な『剣』
    aa1428hero002
    英雄|22才|女性|カオ
  • 死を殺す者
    クレア・マクミランaa1631
    人間|28才|女性|生命
  • ドクターノーブル
    リリアン・レッドフォードaa1631hero001
    英雄|29才|女性|バト
  • 断罪乙女
    志々 紅夏aa4282
    人間|23才|女性|攻撃
  • エージェント
    志々 翼aa4282hero001
    英雄|27才|男性|ブレ
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