本部

【絶零】連動シナリオ

【絶零】氷ノ父

紅玉

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/12/06 19:54

掲示板

オープニング

●氷土
 風が皮膚に当たると痛い程の寒さ、地面には硬い雪に覆われている。
 この地では平均最低気温は-35~-40度と、例年平均よりも低く薪をくべる回数が増えて忙しく感じた。
 とある集落の住民は、あらかじめ蓄えていた薪を炎がゴウゴウと燃え盛る暖炉に投げ入れ家を温める。
 風が吹く度にギシギシ、と家が軋む音がし止むと静寂に包まれる。
(今日は一段と冷える……)
 普段なら十分な暖かさなのに、今日はいくら薪を暖炉にくべても「足元から冷たくなっていく気がするな~」と思い足元に視線を向けた。
 気がする、ではなく本当に足が凍りはじめて徐々に体温を奪っているのだ。
「なっ! これはどういう事……だ……ッ!」
 住民は驚きの声を上げるが、家族の耳に入る前に体は氷に包まれた。
「何だ? こんな集落に人が沢山いるぞ!」
 男は窓の外を見て家族に言う。
「え? 外には誰も居ないわよ?」
 男の隣で女は窓の外に視線を向けるが、そこには人は一人もいない。
「俺の目にはそう見えるぞ?」
 男は何度も目を擦るがその景色は変わらなかった。
「きっと、疲れているのよ」
 と、女が笑いながら言うと男は渋々ベッドに寝転び目を閉じた。
 他の家からも悲鳴に近い叫びが集落に響くと、暖炉の火が消えたのだろうか家の窓から明かりがふっと消える。
 その様子を巨大な雄鹿は紫苑に輝く瞳で見据える。
 ふー、と口元から吐き出される息は煙となり、鉛色の空へと向かって昇ると空から音もなく雪が降りだした。
 そして、しんしんと雪が降る中で集落は暗闇と氷に閉ざされ住民の命の灯火も消えた。

●プリセンサー
「愚神を感知しました!」
 プリセンサーが声を上げる。
「場所、愚神の種類と状況を!」
「ロシアの集落、種類はケントゥリオ級のユキワタリ1体とデグリオ級のアイスゴーレム2体! ドロップゾーンを展開し集落を呑み住民を凍死させます」
 職員はぎり、と歯を噛みパソコンの画面に映し出されるユキワタリのデータを睨む。
「明日の夕方に集落に出現します! 必要なモノは用意しエージェント達に貸し出しできるよう準備を!」
 プリセンサーは感知した情報を纏めながら職員に指示を出す。
「わかりました!」
 慌ただしくなる支部内で圓 冥人はプリセンサーの隣に立つ。
「……雄鹿に似た愚神、ね。イヤな予感がする」
「ええ、ですが今のエージェント達なら大丈夫ですよ」
 落ち着いた様子のプリセンサーは、冥人に感知内容を纏めた資料を端末に送る。
「へぇ、パテル……雄鹿だからかな?」
「それもありますが、通常のユキワタリより大きくてアイスゴーレムが子供に見えるからです」
 と、冥人の問いにプリセンサーは答えた。

●任務
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます。とある集落が愚神に襲われる未来をプリセンサーが感知しました」
 ティリア・マーティスはトリス・ファタ・モルガナに目配せをする。
「内容は『とある集落がドロップゾーンに呑まれ、集落全体が氷漬けになる』だそうです。皆には、現地に向かい住民の避難と愚神の撃破をお願いしたいのです。詳しい能力は判明しておりませんが、極寒の地に合う能力だと思います。危険な任務になりますが、皆を信じています」
 トリスはアナタ達に優しい笑みを浮かべた。
「移動手段はこっちで用意はしてあるから、壊さない程度に使うんだよ?」
 冥人は『使用許可書』と書かれた用紙をアナタに渡した。
「あと、愚神と従魔の情報ね」
 冥人が端末を操作してアナタ達の端末に愚神と従魔をデータを送る。
「今回出現するのは『パテル』と名付けられた個体。ちょっと変わった能力を持っているよ。ま、言ってくれれば俺らも助力もするから、ね?」
 と、冥人はアナタに言った。

解説

●NPC
ティリアか冥人のどちらか1名だけ同行可能です。
行動を指定しない場合は以下の行動を取ります。
ティリア:集落を守っている
冥人:後方で待機

●目標
1、とある集落の住民の避難
2、現れる愚神の討伐

●HOPEより貸出可能な物
・AALブーツ(汎用ALブーツ)
 【東嵐】で登場したALブーツの水陸両用版。
 起伏の激しくない土地(草原、雪原、水面等)でのホバー風走行を可能とする。
・各種防寒具

【雪上車】
・ウラル08
 積載力約2トン。乗員は運転席2名+25名。最大時速35km/h。
 より大型なタイプで、車体は小型バス並みの大きさです。
 大人数を運ぶことができますが、小回りは効かず、速度は若干落ちます。

・ウラル12
 積載力約1トン。乗員は運転席2名+10名。最大時速50km/h。
 大型トラック程度の大きさで、小回りが利くタイプです。

●場所
とある集落、夕方(天気:曇り)
平均最低気温は-35~-40度でとても寒いです。

●敵
愚神ユキワタリ『パテル』1体
雪に紛れて現れるケントゥリオ級愚神。
全長:3m
知能:獣
特殊能力:《吹雪》《跳躍》《幻惑の瞳》《誘いの瞳》《氷柱》
DZ内部に雪を降らせる事が可能であり、雪や吹雪で視界を悪くし、内部の温度を下げて能力者含め人の体力を奪う。
瞳は紫苑、白銀色の体毛を持つ。
穏やかな性格。1ターン目は雪に紛れて様子見しています。
DZ内なら地面から氷の手を生成し、対象を掴んだり氷を投げたりする事が可能。
氷で出来た従魔なら損傷した部分を再生できます。

従魔アイスゴーレム 2体
全長:2m
知能:獣
特殊能力:《無痛覚》《小再生》《氷塊投げ/射程5》《大型クロー》《締め上げ》
氷でできたゴーレムといった風体のパワー型デクリオ級従魔。
熱や日差しが弱点で、夜や雪が降っている時に活動している。

リプレイ

●雪の中で
 広大なロシアの雪原の中、ぽつりと集落の灯かりが見える。
「雪……初めての仕事を思い出すね、アル」
 東雲 マコト(aa2412)は雪上車の窓から見える雪原に視線を向けたまま言う。
「ふっ、そういや初めての仕事は雪山だったな……っとそろそろ現場だ。気を引き締めていくぞ!」
 バーティン アルリオ(aa2412hero001)が口元を吊り上げ、サングラス越しに集落の灯かりが近付くのを見て力強く言った。
 二台の雪上車からエージェント達は降りると、肌に冷気が当たると思わず「痛い」と思いながら準備をする。
「この地にも新たな愚神とは……」
 灰堂 焦一郎(aa0212)は黒曜石の様な黒い瞳で雪原を見据える。
『容易な相手ではあるまい。備えよ』
 と、無機質で機械的な声でストレイド(aa0212hero001)が言うと、焦一郎は己の英雄に向かって小さく頷いた。
「くっそさむ……え、何でいきなりシベリアなの」
 ツラナミ(aa1426)が気だるそうな様子で車の中に避難者用の道具を確認しながら呟く。
「仕事……仕方、ない……あとでおいしいの食べ……る」
 38(aa1426hero001)はAALブーツを装着しながらツラナミに言う。
「あー……ボルs『ピロシキ』……お前とは後でじっくり話し合う必要がありそうだ」
 ツラナミが「ボルシチ」と言おうとしたら、38は被せる様に言い放った。
「望む……ところ」
 ツラナミと38は睨み合う、お互いに譲れないモノがあるのだろう「食べ物の恨みは怖い」とよく耳にするが、この2人の場合はどうなるのだろうか?
「夕方、これから夕飯って時間だろうに、厄介な」
 と、端末のデジタル時計が秒を刻むのを見て迫間 央(aa1445)は小さくため息を吐いた。
「避難させる住人に不満が募りそうな状況ね……気を付けましょう」
 と、幻想蝶の中からマイヤ サーア(aa1445hero001)の緊張した様子の声色が聞こえる。
「ふ~……本来は宴の席で飲みたいがそうも言ってられないか、そしてやはり温まるな」
 繰耶 一(aa2162)は車内でスキットルに入れておいたウォッカを口にしながら呟く。
「極寒地を舐めていると痛い目を見るわよ。最悪肉体の腐食なんてありえるから防寒対策はしっかりね」
 ヴラド・アルハーティ(aa2162hero002)は配布された防寒具を並べてジッと見る。
「火器は持たないのか?」
「吹雪いている所に蒸気で視界に更に制限をかけるわよ、少なくともこっちは要らないわ」
 ふと、一はヴラドの武装を見て問うと、彼はその理由を答えると防寒具に袖を通す。
「……ともかくこの冷気は体力を奪う。無駄な行動が消耗を誘わないよう焦らず動くよ」
 と、言ってもまだドロップゾーンに呑まれる前の集落だが、いくら能力者が丈夫であれ寒いのには変わらない一は先の事を考える。
「がんばるぞー!」
 皆が緊張している中、葉月 桜(aa3674)が明るく大きな声を上げる。
「その元気を戦いで発揮してください」
 8人のエージェント達の中で唯一ロシアの様な気候に慣れているエレオノール・ベルマン(aa4712)は桜をみて微笑む。
「わっちはフェンリルじゃから平気やか」
 と、言いながらもばっちりと着込んでいるフェンリル(aa4712hero001)は体を震わせている。
「無理、よくない」
 弩 静華がフェンリルに言う。
「静華、集落の様子を見に行くよ」
 圓 冥人は雪上車から降りて集落へと足早に向かった。
「それでは皆さん、住民の避難ルート等に関してのしましょう」
 央は地図を手に仲間に声を掛けた。

●避難
 集落でそれなりに高い家の上、焦一郎は白い布に包んだLSR-M110を持ち屋根の上で息を潜める。
『狙撃モード・起動。各部関節ロック』
「あまり待たせて欲しくはありませんね……」
 ストレイドの淡々とした機械的な声を聴きながら焦一郎は低く呟いた。

「うん、室内温度はこんなものだな」
 ツラナミはウラル08の車内に付いている室内温度計を見て頷く。
 鉛色の空を見上げるとそこには、複数の鷹がぐるぐると空を滑空していた。
「さて、仕事するか」
 愚神が現れるまでまだ時間はあるのを確認し、ツラナミは友人である央と共に集落へと向かった。
「すみません。HOPEのエージェントですが、この集落に愚神が近付いています。最低限の荷物だけ持って雪上車の後ろに集まって下さい」
 央とツラナミは、エージェント登録証をドアから顔を出した住民に見せながら避難をする様に言う。
「まぁ! 大変! 火を消して準備してきます」
 と、女性は目を大きく見開き慌てた様子で家を駆けまわる。
 ロシアにぽつりとある小さな集落としては大事件である。
「はい、順番に並んで急がずにな」
 愚神が来る方向とは反対の位置に置いてある雪上車の元に、住民が荷物を手にして集まって来る。
 ツラナミが住民を雪上車ウラル08に誘導しているとその時、ガクッと力無く一人、一人雪の上に倒れ始める。
「マコト、あの辺に集落の人達を集めよう」
 バーティンはウラル08に倒れた住民を乗せると、もう一台の雪上車ウラル12の後ろを指で示した。
「分かった!」
「いや、人を動かすより車を移動させた方が楽だろう」
 と、子供を抱えるマコトにツラナミが言う。
「とりあえず、この様子じゃぁドロップゾーン内部だから注意するんだよ」
 冥人がウラル12を移動させ、直ぐにウラル08の運転席へ。
「残りの住民の護衛任せた」
 と、言ってツラナミが助手席に座る。
「急いだほうが良いかな?」
「できれば」
 冥人の問いにツラナミはいつもの口調で答える。
「はいよ」
 共鳴姿になった冥人はアクセルを踏み込んだ。

 音が消えた。
 雪が降る夜は、普通の夜より静かな気がする。
 視界を覆うように白い小さな結晶がふわり、と音も無く空から舞い降りる。
「ドロップゾーンが既に……!?」
 一は目を見開きライヴスゴーグルを外した。
「どうすればいいの?」
 桜は困惑した表情で周囲に視界を巡らせる。
「注意は引きつけておく、その間に住民の避難は任せたよ」
 と、通信機で住民の護衛している仲間に言うと一は雪原へと駆け出す。
「足止めなんて言わず、ここで狩りとるわよ……”荒熊”の力、見せつけるわよ」
 ヴラドがこれから始まる戦いに身を震わせながら口元を吊り上げ、近付いてくる獲物を狩るような猛獣の様な瞳で雪原を見据えた。
 共鳴姿になり、手には【SW】救国の聖旗「ジャンヌ」。
「さぁ、来なさい」
 サクッと地面に【SW】救国の聖旗「ジャンヌ」を突き立て光らせると、ヴラドの周囲に氷の手が雪の中からスルリと生える。
「くっ……足が掴まれて……っ!」
 伊集院 翼(aa3674hero001)が雪原をAALブーツで駆け抜けようとしたが、無数の氷の手が彼女の足首を掴む。
「3体まとめて北極の氷の下に沈めてやる!」
 黛香月(aa0790)はカオティックソウルで己の力を強化させる。
 静かな雪原にまるで石像が歩いているかの様な重たい足音が響く。
 氷山からゴーレムの彫刻を削り出したかの様な緑に近い青の体、漆黒の闇を思わせる様な瞳、そんな容貌のアイスゴーレムがエージェント達の瞳に映る。
「パテルは……見えないですね」
 焦一郎は体力が徐々に奪われていく中でじっと雪原を見据える。

「雪に慣れているとはいえ……ここはドロップゾーン内部の雪、普通の雪とは違うのですしょうか?」
 エレオノールは雪を手に掬う。
「そうだよ。ライヴスを介してない炎では溶けないと思うよ」
 マコトはジャック・オ・ランタンの火で住民達を温める。
「私達は住民の避難が完了するまでは守りましょう」
「ええ、でもこうしている間にも体力が奪われていると思うと……」
 央の言葉に頷きつつエレオノールは自分の体を擦る。
「うん、こういう時にこそ食料があれば良かったですね」
 と、呟きながら央は雪原の中で光る旗を見つめた。
「愚神に襲撃されても大丈夫な様に雪でバリケードを作ります。この雪景色ですからカモフラージュにもなりますでしょう」
 エレオノールは民家の傍に置いてあったスコップを手にし雪の壁を作り始める。
「うん、鷹の目で周囲を見ているけど吹雪で視界も悪い……分かるのは『パテル』らしき影は見えないです。繰耶さん達がアイスゴーレムと戦闘する光景が見えます」
 央が周囲を警戒している中、マコトもスコップを手にしてエレオノールの手伝いをする。

 だが……

「マコト、一番面倒なのが来たぜ」
 バーティンがサングラス越しに紫苑の瞳を持つ雄鹿が空を見上げている姿を視界に入る。
「フェンリル出番です!」
「やっと、わっちの出番かえ?」
 共鳴姿のフェンリルは銀色の髪を風に靡かせ、手にはグレイプニールを握り直ぐに戦える様だ。
『見られるな、物陰に隠れて』
 通信機から小声で冥人が言う。
「見なければ良いんじゃないのかえ?」
『俺の鷹が落とされた』
 フェンリルの問いにツラナミが答える。
 その話を聞いて央は空を見上げると鷹が1匹足りない。
「狙撃してる灰堂さん頼み、ですね」
 マコトは集落の屋根を見上げた。

●氷の像と父
 どすんどすん、と音を響かせ地面に積もった雪を周囲に舞う中でアイスゴーレムが2体は一に向かっていた。
「目覚めよ香月、貴公の憎しみの力とやらを借りるぞ」
 清姫(aa0790hero002)が緋色の瞳を細め煙管からふーと煙を出す。
「清姫よ、『炎の悪魔』と呼ばれし貴様の実力、奴らに嫌と言うほど思い知らせてやれ」
 と、香月が言うと2人は共鳴姿になった。
「『炎の悪魔』と呼ばれし我にこの程度の冷気などそよ風に過ぎぬ。愚かな自分を恨みながら灰となって北の大地に散るがよい」
 共鳴姿の香月はLSR-M110のグリップに手を添えると、吹雪くドロップゾーン内で紅蓮の炎の様に燃え上がる姿はとても目立つ。
「良いね。燃えるよ……あたしを楽しませなさいよ」
 ヴラドは、オネイロスハルバードを手に1体のアイスゴーレムへと向かって駆け出す。
「わ、私だって!」
 桜はドラゴンスレイヤーを両手で持ち雪原を滑る。
「ウォォォォン!」
 地面が揺れるほどの咆哮、近付いてくるモノは『パテル(父)』以外は敵もしくはライヴスを得るための獲物と認識しているアイスゴーレム。
「愚かな……この程度の冷気で私の憎しみを封じられると思うのか? 我が怨念の力の前に恐怖し屈服するがよい」
 香月がアイスゴーレムに銃口を向けるとトリガーを引く。
「もうっ! 吹き飛ばしてアイスダストに変えちゃうよ!」
 桜はドラゴンスレイヤーのストレートブロウをアイスゴーレムに叩きこむ、が……少しだけ後ずさりし氷を少し削った程度だ。
「もっと、こう腰を入れて叩き切るのよ!」
 ヴラドがオネイロスハルバードをブォンッと力強く振ると、アイスゴーレムの片腕が肩から切り落とされ地面に落ちると地面の雪が舞う。
「はいっ!」
「あら、ちょっとばかり面倒だけど……嫌いじゃないよ」
 桜が元気よく答えている間に、ヴラドが切った腕をアイスゴーレムは肩に付け直していた。
「桜一人では荷が重いだろうな」
 香月は、名刀「国士無双」を鞘から刀身を抜きカオティックソウルで己を強化してから素早くアイスゴーレムの懐へ。
「炎の悪魔が貴様を地獄に送って永遠に苦しむがよい!」
 香月の斬撃が巨体なアイスゴーレムの体を切り刻むと、氷の破片が吹雪に紛れてキラキラと宙を舞う。
「粉々に、してあげるんだよっ!」
 間髪入れずに桜が傷だらけのアイスゴーレムに一気呵成で片手を砕く。
 その時、雪原から無数の氷の手が生成され氷の塊を3人に向けて投げる。
「もっと、楽しませて欲しいね!」
 口元を吊り上げヴラドはオネイロスハルバードで氷の塊を弾いたり、切ったりして仲間に当たらない様に飛んでくる氷の塊を処理をする。
「意外と芸のない子ね」
「あ、ありがとうだよ……」
 桜は笑顔でお礼を言うが、微かに唇と武器を持つ手を震わせながらヴラドを見上げた。
「桜、無理はするな。私が戦うから少し休むと良い」
 と、翼は優しい声色で言うと桜と交代する。
「体力は減る一方か、援軍が来るまでは……と、そんな事は言わずにさっさと片付けてしまおう」
「その心算よ」
 香月の言葉にヴラドは力強く頷くとアイスゴーレムを見上げた。
 腕を振り上げたアイスゴーレムは、翼に向かって力強く振り下ろす。
「遅い」
 翼は最小限の動きで回避するとアイスゴーレムの拳は雪原に当たりドーン! と殴る音が響き地面が震えた。
「しかし、避難護衛している班は大丈夫だろうか?」
『愚神パテルが……』
 通信機から央の声が聞こえた瞬間、銃声に獣が吠える声が聞こえたかと思ったら通信が途絶えた。
「もう、メイディッシュは後に残して置きたかったけど……そうもいかなくなったね」
 ヴラドの琥珀の様な瞳にアイスゴーレムを映し出すと、獰猛な熊の様に一歩足を出す。
 倒す、痛覚の無いモノであれ強敵であればあるほど、彼の心に住む猛獣は嬉しそうに空に向かって咆哮を上げる。
 体力が無い?
 それは強敵である証みたいなモノ。
 彼の心は徐々に戦う喜びを、狂いそうな程に心の中で暴れる。
 良い、その気持ちを発散させるのが何とも言えないモノで満たされるからだ。
「こい、燃やし尽くしてやろう」
 香月が紅蓮の炎の様なオーラを膨張させ、まだまだ戦える様子のアイスゴーレムに手を差し伸べる。
 そして、ぎゅっと手を握りしめパッと開き地面にどろどろと溶けていくアイスゴーレムを想像する。
「援護はお任せを……」
 翼はドラゴンスレイヤーの剣先をアイスゴーレムに向けた。

 体に雪が積もる中、少しずつ体に重量が掛かっていくのも気にせずに焦一郎の視線の先には光る角。
『行動予測……風向・距離補正完了』
「先ずは、その眼を……!」
 角の光だけを頼りにLSR-M110の銃口を向け、静かに引き金を引いた。
 弾丸は降る雪を溶かしながら真っ直ぐに『パテル』へ。
 低い咆哮と共に『パテル』は片目に弾丸を受け、白銀の毛に鮮血を散らす。
「……っ!」
 焦一郎は再び引き金に指を掛けようとした瞬間、指が動かなくなり遠くに居るはずの『パテル』が目の前に立っていた。
『焦一郎どうした?』
 ストレイドは目を見開き動かない焦一郎に声を掛けるが、反応は無くまるで猛獣に襲われない様に息を潜める草食動物の様だ。

「残りの住民を乗せろ」
 帰って来たツラナミは雪上車の助手席から降りると仲間に指示を出す。
「足止めしようか?」
「先ずはドロップゾーンからの離脱が最優先だ。急いでくれ」
 マコトの言葉に央は首を横に振り倒れている住民を担ぐ。
「目を撃った灰堂さんに気を取られている今しかないです」
「それからでも遅くはないだろう」
 央の言葉に同意する様にツラナミは頷く。
「とりあえず、住民を避難先に送るけど戻ってきたら何でも言ってね。手助けはするから」
 冥人は雪上車に乗せられた住民に毛布を掛けながら言う。
「戻ってきたら終わっているかもしれませんね」
「おや、それは頼もしい言葉だね」
 笑顔で言うエレオノールに冥人は肩を竦ませながら言った。
 住民を乗せ終えると、後は冥人に任せたツラナミ達は片目だけになったらパテルの元へ。
「ヴァンクール、極寒の地に颯爽参上だぜ!」
 赤いマフラーを靡かせながら共鳴姿のマコトがパテルの前に颯爽と登場する。
「フーッ」
 アメジストを思わせる紫苑の瞳は片方は潰され、片方はまだ無事の状態でエージェント達を見る。
「いくぜパテル! バグラチオンのようにボコボコにしてやるぜ」
 ギガントアームを装着したマコトいやヴァンクールは地面に積もった雪の上を滑り、パテルに急接近し一気呵成で攻撃をするが後方に跳躍し攻撃を回避する。
「おらぁ! おまけにコサックの子守唄でも聞かせてやろうか?」
 ヴァンクールは、体不明のオイルをパテルに投げるとジャック・オ・ランタンの火でオイルに着火する。
「雄鹿肉のフランベと洒落込みますかぁ!」
 ボッと炎が上がり、一瞬だけパテルは炎に包まれるが吹雪により直ぐに消化されてしまった。
「今こそ、ちゃっかふぁいあーくん1号の出番です」
 エレオノールが声を上げる。
「燃やしてしまえばいいんかえ?」
 フェンリルはちゃっかふぁいあーくん1号を取り出す。
「はい」
「燃やしてやるのじゃ!」
 他のエージェントよりは距離を置いているフェンリルは、ちゃっかふぁいあーくん1号の銃口をパテルに向けトリガーを引くと銃口から勢いよく炎が噴き出る。
 それに気が付いたパテルは、迫ってくる熱を感知し雪をまき散らしながら素早く後退した。
「ゾッとする程に不気味な瞳だな……」
 ツナラミは素早く苦無「極」を手にし、パテルの側面へと移動し苦無「極」を目に向けて投げる。
 美しい紫苑の瞳に苦無「極」が刺さり、両目から鮮血が滴り白銀の体も地面も朱く染まり赤い涙を流しているかのように見える。
「二対の幻で、パテル(父)よ。子と共に雪にへと帰せ」
 央は忍刀「無」を鞘から刀身を抜き、ジェミニストライクによって作られた分身と共にパテルに向かって駆け出した。
 パテルの体を分身と同時に忍刀「無」で切る。
 カチンッと小気味の良い音と共に鞘へ刀身を入れると、後ろでパテルの首に大きな×が切り込まれドサッと雪の上に落ちた。
「おー、大丈夫かーい?」
 冥人は焦一郎の頬をぺちぺちと叩く。
「はっ、パテルがっ!」
「それは幻影ね。本体は倒したら安心して」
 と、冥人はパテルの死体を指し焦一郎に説明をする。
「迂闊ですね……」
 頭に手を添え焦一郎は首を小さく振る。
「そーでもない、目を撃ったし、気を逸らしてくれた。だから、焦一郎君、功労者」
 と、静華は焦一郎を見上げた。

 攻撃しても、攻撃しても、部位破損してもアイスゴーレムの体力は有り余っていた。
「ただの木偶の坊じゃ面白くないモノ……ッ! そうよ、そうでなくちゃ狩りは面白くないわ……ッ!!」
 体力が疲弊しながらもヴラドの闘志は増すばかり、彼は琥珀の瞳を怪しく光らせながら獣の様に咆哮を上げる。
「はぁ……はぁ……」
 翼は片膝を地面に着き、アイスゴーレムをただ見上げることしか出来ない状態までに体力が疲弊していた。
「これならば、貴様の回復力をもっても間に合わないだろう?」
 香月は頭上に刀剣類の武器を召喚する。
「まだ、まだこれからよっ!」
 口元を吊り上げ狂気的な笑みを浮かべヴラドは、ギガントアームでアイスゴーレムの核を狙って胸元を貫く。
「ふふ、なかなか楽しめたわよ」
 アイスゴーレムは奪われた核を取り返そうと手を伸ばす、が。

 パキィン――……

 ヴラドは無慈悲に拳に力を込めると、核はガラス玉を割った様な音を立てて指の間から雪の中へ零れ落ちた。
「本気出すまでも無かったな、清姫よ」
「そうだな。でも、油断は禁物……アレ以上のモノがこれから相手にするとなれば忙しくなるだろう」
 香月を尻目に清姫は煙管を口に付け、体も核もストームエッジで切り刻まれたアイスゴーレムの残骸を見て言う。
「立てるかい?」
「いいえ……」
 冥人の問いに翼は首を弱弱しく振った。
「とりあえず、ロシアの支部に戻ったら温かいロシア料理でもご馳走するよ」
「すみません……」
 冥人に抱えられた桜は幻想蝶にそっと触れる。
「避難した住民はロシア軍に任せてるから、皆は一旦支部に帰って報告とロシア料理が待ってるよ」
 雪上車に集まったエージェント達に冥人が声を掛ける。
「ん~この雄鹿食べれないかしら?」
 と、パテルの死体を見てヴラドは首を傾げる。
「食いしん坊かよ、住民のアフターケアが先だろう」
「わかったわよぉ……でもその前にぃ~イイ男探さなきゃ~」
 ロシアのイイ男を探すためにうきうきなヴラドは、雪上車に乗り込み様々な殿方の顔や対応を想像する表情は正に乙女だ。

●支部
 住民達の無事を自分たちの目で確認した後、エージェント達は支部へと向かった。
「はい、報告書は確かに受け取りました。寒い中での戦いお疲れ様です。住民がどうしてもっと言うので、皆さんに本場のロシア料理とお酒が用意してくれています」
 ティリアは、端末に送られてきた報告書に目を通しながらエージェント達に言う。
「サヤ」
「……望むところ」
 ツラナミが隣に居る英雄に視線を向けると、38は視線を合わせずにロシア料理が配給されている会議室へと向かった。

 真冬のロシアでの戦い、雪原で吹雪くという悪条件の中でアイスゴーレムと『パテル』を倒す事は出来た。
 しかし、ドロップゾーン内部での戦いは思いのほかエージェント達の体力を奪い、極寒という中で低温火傷等をしてしまい応急手当をする程度で済み大きな怪我は負わなかった。
 ロシアの地は広い、まだエージェント達が見たことが無い従魔や愚神が潜んでいる。
 まだ、ロシアという地での戦いは始まったばかりである。

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

  • 単眼の狙撃手
    灰堂 焦一郎aa0212
  • エージェント
    ツラナミaa1426
  • 魔の単眼を穿つ者
    繰耶 一aa2162

重体一覧

参加者

  • 単眼の狙撃手
    灰堂 焦一郎aa0212
    機械|27才|男性|命中
  • 不射の射
    ストレイドaa0212hero001
    英雄|32才|?|ジャ
  • 絶望へ運ぶ一撃
    黛 香月aa0790
    機械|25才|女性|攻撃
  • 反抗する音色
    清姫aa0790hero002
    英雄|24才|女性|カオ
  • エージェント
    ツラナミaa1426
    機械|47才|男性|攻撃
  • そこに在るのは当たり前
    38aa1426hero001
    英雄|19才|女性|シャド
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
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