本部

【絶零】連動シナリオ

【絶零】短剣も楽園も引っ込んでろ

岩岡志摩

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/12/01 11:49

掲示板

オープニング

●凍る集落と軋む軍
 この時期、北極圏各地で異常に強い寒波が発生し、孤立した複数の集落に残された人々を救うべく、ロシア連邦軍が奔走していた。
 そんな中、とある集落から『異常に大きな氷柱の群れに取り囲まれた』との連絡が飛び込んできた。
 降りしきる雪が吹雪となり、渦巻く白い嵐が視界を遮る中、ロシア軍各車両の群れが無限軌道を軋らせ、凍りついた荒野を疾駆する。
 やがて連絡のあった集落へと到着したロシア軍の前には、尋常でない規模の氷柱の林が形成され、一つの集落を丸ごと包み込んでいた。
「あんな氷柱が自然現象で作れるはずがない。愚神か従魔達の仕業だな」
 展開した無人偵察機ごしに状況を確認したロシア軍指揮官はそう呟くと、戦車部隊に向け発砲を命じる。
 折り敷いた戦車群の砲塔が一斉に灼熱の牙を剥き、重みのある飛翔音が大気を震わせ、閃き飛んだ戦車砲弾の群れが巨大な氷柱を乱打するも、いずれも鈍い音をあげて弾かれた。
「ライヴスを伴う攻撃でなければ突破できんというわけか」
 自身の推測が正しかったと判断した現地指揮官は、直ちに司令部を介し、H.O.P.E.へ集落の人々を救援する緊急要請を打診したが、通話機越しに届いた上層部からの命令に耳を疑った。
「H.O.P.E.に救援を求めるのはいいが、支援を控えろとはどういう事ですか?」
 そう現地指揮官が反論したが、上層部の言い分は、指揮官を納得させるには不十分なものだった。
 緊急事態につき、H.O.P.E.に提示する報酬の増額も、上層部は認めようとしない。
(そういえば都市スルグトを守っていた同僚達にも、上層部から『H.O.P.E.に肩入れするな』と命令があったな)
 何かが上層部で起きていると判断した現地指揮官は、それ以上の上層部との実りのない押し問答を止め、上層部とは別の情報経路を経てH.O.P.E.に対し密かに追加情報を送る。
 ――なお、ロシア軍上層部内にH.O.P.E.との連携を妨げる不穏な動きあり。注意されたし。

●命令の裏側
 現地指揮官との連絡を終えたロシア軍上層部要員は苦悩を押し殺し、不本意な命令を発した張本人に現地からの連絡を報告する。
「結構だ。ロシアの大地を守るのは我々ロシア軍でなければならん。よそ者であるH.O.P.E.をあまり活躍させるわけにはいかんのだ」
 そう応えたのは最近ロシア軍上層部の中で台頭してきた、ロシアが他国よりも優れているとして、それを守り発展させようとするロシア国粋主義を掲げるロシア軍高官オレグ・ベルマンだった。
 よく言えば愛国主義者だが、世界情勢を見通せる能力がある者達から見れば、愚神や従魔といった脅威への危機意識に欠けている。
 だが、それを口にしたり反対の姿勢を見せた高官達は『既に全員何者かの手で殺され、彼が黒幕と疑う態度を見せた者達も次々と姿を消している』。
 そしてこの男がやったという証拠はない。
 次に消されるのは自分かもしれないという見えざる恐怖がロシア軍上層部を支配し、オレグの意向が幅をきかせていた。
 自室に戻ったオレグは誰もいない空間に『ご苦労』と告げると、部屋の空気が一瞬揺らぎ、気が付くと部屋の片隅に黒地に金銀の意匠を纏う人の姿をした災厄――ニア・エートゥスが片膝をつき、頭を垂れていた。
「次はこいつらだ。『全ては世界の調和のために』」
 オレグがメモに何かを書いてニアに放ると、メモを受け取ったニアは一陣の風と共に、ふわりと姿を消した。

●救う者達
 部屋のスクリーンに、北極圏に近いとある集落の地図と、現地から送られてきた、巨大な氷柱の林に包囲された今の集落の映像が映し出される。
「現地のロシア軍部隊からの連絡では愚神の仕業だという話だけど、僕もそう思うんだよね」
 機械を操作していたジョセフ・イトウ(az0028)はそう言いながら、別の映像をスクリーン上に展開する。
 それは無数の砲弾をことごとく弾く氷柱達や、人型従魔が集落の屋根を跳躍しては、小銃の機銃弾を周囲にばら撒く映像だった。
「見ての通り、この氷柱は通常攻撃では歯が立たない。AGWで攻撃すれば破壊できるはずだ。そして集落への道をこじ開けて、中に閉じ込められた人達を救い出すのが今回の依頼内容になる」
 集落内に取り残された人達は、現在暖房器具をフル稼働させて辛うじて寒さを凌いでいるが、このままでは氷柱の群れに集落が飲みこまれてしまう、というのが現地にいるロシア軍兵士達の話だ。
 今回ロシア軍部隊は救出に向かう『あなたたち』に、住民達を収容し移動させる為の雪上車や、防寒具一式などを貸与してくれる。
 ただ周囲は従魔達が各家屋の屋根の上を飛び回っている危険な状況だ。
 『あなたたち』は住民達を雪上車に収容し、安全な場所まで搬送する間、従魔達の攻撃から守り抜く必要がある。
 なお『あなたたち』が集落に突入後、ロシア軍部隊が展開中の場所まで住民達を乗せた雪上車を護送してくれれば、後の住民達の搬送はロシア軍部隊が引き受けるという話だ。
 その代わり、現地のロシア軍部隊は、住民達をその後安全な場所へ避難させたり、従魔達を今いる場所に釘付けにすることで手一杯になるため、追加の援軍要請や何かの行動への支援要請には応じられない。
「この光景を見てわかると思うけど、現地はすごい吹雪で飛行機も飛ばせず、従魔達が飛び回る危険な場所と化している」
 そんな場所で救出活動ができるのはH.O.P.E.のみ。
 そこまで言い終えた後、ジョセフは思い出したようにこう付け加えた。
「現地の指揮官から、2つ興味深い情報があった。1つはロシア軍の上層部がH.O.P.E.に対し妙に態度を硬化させているって。そっちのほうは僕の方で探ってみるから、皆さんは住民救出を優先してほしい。もう1つは集落広場に1本巨大な氷柱があるという話だけど」
 ジョセフは『あなたたち』にこう助言する。
「住民達の安全が確保されるまでは、不用意に手出ししない方がいいんじゃないかな?」

●立ちはだかるは
 ジョセフの懸念は正解だった。
 吹雪で形成される白い嵐が集落に吹き荒ぶ中、広場に屹立した巨大な氷柱の中から2体の愚神が現れ、周囲を見据えていた。
「あのオレグという人間、今度は誰を『救え』と言ってきたの?」
 振袖のような装束を纏う女性の形をした愚神が傍らにいる『上司』に問う。
「ここにいる人間達はこの先起こる出来事に耐えられそうですか、ソク?」
 『上司』は答えることなく問いで返し、ソクと呼ばれた愚神は緩く首を横に振り、こう応じる。
「無理ね。きっと全員ひどい目に遭って苦しむわ。だからその前に私が殺して『救う』」
「今回は『直接手を出されるまでは』何もせず動かないで下さい。『楽園』はその時にお願いします」
 『上司』――ニア・エートゥスの言葉にソクは頷くと、再び氷柱の中に姿を消し、ニアの姿も嵐に溶けて消えた。

解説

●目標
 孤立した集落の住民達を救出し被害拡大を防ぐ
 
●登場
 カルリク×12
 異形の脚を持った身長1.8m前後の人型従魔。ミーレス級。通称長脚。空高く跳躍し、素早い動きで射程24sqの自動小銃を撃ち放つ。

 ニア・エートゥス
 シーカ幹部フランツに仕えている愚神。トリブヌス級。現在付近に姿は見当たらない。
 PL情報
 現地の近くで身を潜め、動向を観察中。

 ソク
 愚神組織『パラダイス・メーカーズ』(楽園の作り手達。略称PM)所属の愚神。ケントォリオ級。集落を包囲する氷柱を形成した後、集落中央の氷柱で待機。全てPL情報。

 ロシア軍
 孤立した集落の救助に駆け付けた軍隊。現地にいる部隊は砲撃を受けても壊れない氷柱の列に阻まれ集落に突入できない中、周囲から突如現れた上記従魔達と交戦中。『あなたたち』への防寒具一式と雪上車(全長4.7m。全幅2.3m。全高2.4m。10人乗り。最高時速45km)を人数分用意してくれる。

 住民達
 異常な寒波に襲われ孤立した集落にいる人々。1家屋につき平均8人が身を寄せ合い、自力での脱出はまず不可能。
 
●状況
 シベリア北部の都市ノリリスクにほど近い集落の1つ。現在集落は下記の状況で閉じ込められ、強烈な寒波と猛吹雪に周囲は包まれ視界不良。無線貸与済。
 1マスあたり縦横10m。

   1234567
 A氷氷軍軍軍軍軍氷氷
 B氷氷氷氷氷氷氷氷氷
 C氷■□□□□□■氷
 D氷■□□氷□□■氷
 E氷■□□□□□■氷
 F氷■□□□□□■氷
 G氷氷■■■■■氷氷
 H氷氷氷氷氷氷氷氷氷
 
 ■:住民達のいる家屋。
 □:雪原。『あなたたち』の移動や行動を阻害しない。
 軍:ロシア軍
 氷:氷柱。高さ4m以上。

リプレイ

●救出開始
 激しい吹雪が荒れ狂い、視界は数十メートルとないロシアの雪原を、複数台の雪上車が雪を蹴りたてて進む。
 その中にいるのはいずれもロシア軍からの救援要請を受け、応じたH.O.P.E.のエージェント達だ。
 だがロシア軍上層部は明確な理由がなくH.O.P.E.への助力を拒んでいると、迎えに来た現地ロシア軍兵士達が申し訳なさそうに教えてくれた。
 救われるはずの人間自身が救出を妨げている状況への苛立ちを抑えようと、ミュー・イーヴォル(aa0002hero002)は出発前にコンビニで購入した煙草に手を伸ばしたが、雪上車内で煙草の副流煙を他の仲間達に吸わせてはまずいと思い直し、煙草を再び懐の中にしまう。
「ミュー、大丈夫ですか? 気分が優れないように見えますが」
 その横から努々 キミカ(aa0002)が、ミューを案じる声をあげる。
「……そう見えたか、嬢ちゃん。すまない、気を使わせたようだ」
 キミカの声を受け、ミューは冷静にそう応じたが、キミカは緩く首を横に振ってこう応える。
「気を使わないで下さい。この状況に納得がいかないものを抱いているのは私も同じですから」
 それでも、今は自分のできる事をやるのみと続けるキミカの意志にミューは頷くと、キミカは共鳴してミューの在りし日の姿に近いが、黒衣とフードを纏い、髪にキミカの色を宿し、表情に鋭さを帯びた姿に変じる。
 一方百目木 亮(aa1195)は事態を冷静に受け止めていた。
「軍の上層部が邪魔をする、か……。ま、俺達のやる事はかわらねえがよ」
 その隣に座るブラックウィンド 黎焔(aa1195hero001)も頷き、当面の心構えを口にする。
「そうさのう。そういったことは頭の片隅に少し入れて、これから先は目の前のことに集中じゃの」
「ああ。情報にあった集落内のデカい氷柱も、な」
 黎焔の言葉にそう頷くと亮は黎焔と共鳴し、髪をオールバックに整え、おちついた雰囲気と瞳に黎焔の特徴を纏う姿に変じる。
 ゼノビア オルコット(aa0626)はスマートフォンのメール機能を介し、レティシア ブランシェ(aa0626hero001)と意志疎通を図っていた。
『住民の方々、もそうですけれ、ど。ロシア軍、の犠牲もゼロにしたい、です、レティ』
 自分のスマートフォンに届いたメールの文字を確認したレティシアが豪快な口調と共に頷いた。
「そうだな、ゼノビア。両方被害ゼロを目指すぞ」
 再びレティシアのスマートフォンにゼノビアからのメールが来た。
『そうです、ね。がんば、って、救う、です』
 そのメールを合図にレティシアはゼノビアと共鳴し、外見の基本はゼノビアだが、髪が先に向け赤から白へのグラデーションを帯び、人格はレティシアの状態となった姿に変じる。
 御代 つくし(aa0657)はメグル(aa0657hero001)と共鳴前に、最後の確認を行う。
「集落の人達を助けてロシア軍の人達も助けて……と。やることいっぱいだね!」
「一つ一つ対処していきましょう。まずはやれることから確実に」
「わかったよ、メグル」
 メグルの助言につくしが頷いたところで2人は共鳴し、つくしの髪がメグルの特徴と長さを帯び、瞳もメグルと同じ色を得た姿に変じ、同じようにヤン・シーズィ(aa3137hero001)はファリン(aa3137)に向け助言を送っていた。
「優先順位は従魔殲滅の方が上だ。しかし住民達に何かあれば従魔より住民救出のほうを優先するんだ」
「わかりましたわ、お兄様」
 頷いたファリンはヤンと共鳴し、純白の装束を纏い、表情を凛と引き締めた姿に変じる。
 東海林聖(aa0203)とLe..(aa0203hero001)は既に共鳴を終え、聖の体にライトグリーンの風を常に纏い、その一部が聖の前髪や右目に同色の雷光を伴って凝縮され、右手に同色の手甲の幻影が浮かび、聖の背後にLe..の影を背負う姿に変じていた。
(今回の目標。失う者を出さないこと。損害なし。いいね、ヒジリー?)
「わかってるぜ、ルゥ。誰も死なさねえ。そして、愚神の思惑通りにもさせねェッ!」
 これまでに得られた情報では立ち塞がるのは従魔のみだが、Le..はその背後に必ず愚神がいる事を予測し、聖に伝えたところ、聖は迷うことなくLe..の予測は真相を言い当てていると確信し、そう叫んでいた。
 クレア・マクミラン(aa1631)は雪上車の中から外の天候を冷静に分析していた。
「猛吹雪とは厄介ですね。視覚情報に頼り過ぎてもいけませんね」
「とはいえ、距離があろうと銃火は隠せぬ。サニタールカ、視ることを捨てるな。痕跡を完全に消し去れるものはこの世に存在しない」
 クレアの横にいたアルラヤ・ミーヤナークス(aa1631hero002)より、今回出現した従魔達の特徴と、現場での心構えを助言されたクレアは頷き、アルラヤと共鳴して髪に銀色を纏い、黒を基調とし随所に赤いラインの装飾を施した装束を纏う姿に変じた後、持参したイメージプロジェクターでロシア軍の雪上迷彩服の映像で自分の姿を上書きする。
「郷に入っては郷に従うように、装備もその国の軍のものがその国土に適している」
 共鳴してより理性的となったクレアがそう呟き、今後の隠密活動に臨む。
 やがて雪上車は目的地へと到達したエージェント達は、次々と氷柱の林に囲まれた集落の前に並ぶ。
 今回初依頼となるガルシア(aa4706)は別ルートより既に現地へ到着し、共鳴も終えロシア軍から人々の救出活動に必要な雪上車の借用手続きを終え、合流した7人に頭を下げる。
「皆様お初にお目にかかります。私はH.O.P.E.サンクトペテルブルグ支部所属のガルシアと申します」
 ガルシアの話ではエージェントとして認められたのは数日前のことで、『皆様と共に死力を尽くす事を誓います』と7人のエージェント達に挨拶した。
 雪上車の外は骨も凍るほどの極寒が支配していたが、共鳴したエージェント達に影響を及ぼさず、エージェント達は極寒と氷柱に閉じ込められた住民達の救出のため、動き出す。

●凍る集落
 ガルシアの携帯品より取り出され、ウェポンディプロイで複製されたナイフが、ガルシアの振るった手より投じられ寒空を縫い、眼前に立ちはだかる氷柱の1つを貫く。
 それまでロシア軍の放つ無数の砲弾を跳ね返していた氷柱は、ナイフに貫かれ小さな破砕音と氷の欠片をあげて砕け散り、ガルシアのナイフだけが雪の地面に落ちた。
「私の実戦経験は乏しいものですので、さまざまな形で皆様のサポートに徹したいと思います」
 ナイフを回収しながらガルシアは仲間達に自分の役割をそう伝え、氷柱の除去のため次の氷柱へ向かう。
 つくしは一刻も早く住民達を救うべく、跳躍で氷柱を乗り越えようとしたが、越えるために必要な移動力が足りなかったので不発に終わる。
(つくし。ここは雪上車が通る空間を確保するため、氷柱の破壊を優先しましょう)
「わかったよ、メグル。やることは多いけど、一つ一つ確実に、だよね」
 内からのメグルの助言につくしは頷くと、極獄宝典『アルスマギカ・リ・チューン』の魔法攻撃で立ちはだかる氷柱を攻撃し、破壊しては集落への道を切り開く。
(ファリン。従魔達が集まってくる前に、集落の道を広げるんだ)
「承知いたしましたわ、お兄様」
 ファリンは内にいるヤンの助言に頷くと、RPG-49VL「ヴァンピール」を顕現して構え氷柱の林を砲撃し、火竜と化したファリンのロケット弾状ライヴスは吹雪を突っ切って、氷柱に喰らいつくと爆発の衝撃波を周囲にまき散らし、巻き込んだ氷柱を粉砕して集落への道をさらにこじ開け、同じように駆けつけてきた聖もライオンハートを振るい、獅子の咆哮と幻影を纏った一撃で自分達と集落を分断する氷柱を粉砕し、障害を排した聖は雪上車より一足早く集落内へと疾駆する。
『行くぜ、ルゥ……! 今回ばかりは型にはこだわらねェぜ!』
(……その辺の扱いはヒジリーの方が上手いし……。メリハリは付けてね)
 内にいるLe..は敵の目的を測りかねていたが、今は聖の勢いに乗って従魔達を殲滅したほうが建設的だと判断し、聖を後押しする。
 そしてつくし、ファリン、ガルシア、聖によって切り開かれた道を、レティシアが運転する雪上車が集落内へと突き進む。
 その周囲からは従魔カルリク達が跳躍しながら殺到してくるが、雪上車の上で【SW(銃)】オプティカルサイトによる照準を終えていたキミカがスナイパーライフルの引き金を引き、乾いた銃声が響き渡った。
 凍えた大気を貫いて飛翔したキミカの弾丸状のライヴスは、跳躍して集落家屋の屋根に降りたカルリクの1体を1撃で撃ち倒し、塵に変える。
「まずは機先を制した。次は、みんなと合わせるか」
(住民達が避難を始めても、狙撃の手は緩めないことだ。敵の数を減らす方が被害抑制になるだろう?)
 内からのミューの冷静な指摘にキミカは頷き、ロシア軍より貸与された無線を使い、周囲に潜んでいるクレアに向け、現れた従魔達の位置情報を伝えると、別の方角から英国式に様々なカスタマイズを施したクレアのアンチマテリアルライフルが咆哮した。
 クレアの放った銃弾状ライヴスは白い嵐の中を閃き飛んで、別の家屋の屋根に舞い降りたカルリクの腹部に大穴を開け、カルリクは悲鳴と塵を噴き上げ消える。
 狙撃を終えたクレアは既に別の位置まで移動を終えており、従魔達と距離を保ちながらも敵に自分の位置を悟らせない。
「努々殿、状況は把握した。御代殿へも情報を送る」
 クレアが次の配置からつくしへと無線で情報を送る中、レティシアの動かす雪上車が最初の家屋へと到着する。
「俺達はH.O.P.E.だ。救援要請を受けてここに来た。これから俺達がロシア軍のもとまで護送する」
 レティシアの呼びかけに、それまで家の中で寒さと戦っていた住民達が次々と姿を見せ、雪上車の中へと入り始める。
 その間にも雪上車へのカルリク達が銃撃を続けるが、亮がその身を盾にして防いでいた。
(従魔どもの銃撃、派手ではあるが見かけ倒しじゃな)
 内にいる黎焔の指摘通り、カルリク達の銃弾は亮の総身に弾着の火花を咲かせるが、一切ダメージがない。
「みたいだな。それじゃ、鳥公。俺と遊ぼうぜ」
 その言葉とは裏腹に、亮の顕現したインドラの槍が稲妻の速度で射程内にいたカルリクへと繰り出されると、インドラの槍は亮の手から雷鳴の響きを轟かせてカルリクへと繰り込まれ、深々と穂先にその身を貫かれたカルリクは悲鳴と塵を上げて消える。
 その場に残ったインドラの槍を亮は回収して再び雪上車や住民達の守りにつき、時にはサバイバルブランケットで住民達を包み、寒さからも住民達を守り抜く。
 その間にも、クレアから無線で連絡を受けたつくしがファリンと共に雪上車周囲へと到着し、守りを固める。
(救助の邪魔はさせませんよ)
「あなた達の相手はこっちだよ!」
 内からのメグルの言葉と共に、つくしは味方や住民達を巻き込まない角度から、その先にいるカルリクに向け、サンダーランスを放つ。
 つくしから吹雪の空間に灼熱の軌跡を描いて走った1条の稲妻状のライヴスが、途中にいたカルリクの身を貫通し、射抜かれたカルリクは塵と化し消える。
(ファリン。従魔が飛んでくる。雪上車に近づかせるな)
「わかりましたわ、お兄様。住民の方々へ手出しはさせませんわ」
 つくしのサンダーランスから辛うじて逃れ得た別のカルリクにも、ヤンの助言に従ったファリンの構える九陽神弓が狙いを定め、九陽神弓の弓弦が矢を放つ響きと共に、ファリンの放った矢状のライヴスがカルリクに飛来してその頭を貫いて粉砕し、頭を失ったカルリクが塵を噴き消える。
(ヒジリー。ライヴスゴーグルを使わなくても、敵の動向は把握できるよ)
「わかってるぜ、ルゥ。距離を詰めるまではこいつの出番だな」
 内にいるLe..からの助言に聖はそう応じてイグニスを顕現し、射程内にいるカルリクに向け引き金を引く。
 聖のイグニスより灼熱の炎状のライヴスが吹き伸び、射線上にいたカルリクを絡め取ると、カルリクは聖のライヴスに焼かれ悲鳴を上げて失墜し、地面に叩きつけられる前に塵と化し消える。
 こうしてエージェント達の奮闘で、カルリク達は住民達への手出しを防がれる中、レティシアの動かす雪上車が各家屋とロシア軍の間を往復して人々を救助する効率は向上していった。

●殲滅
(つくし。未救出の方々が残る家屋周辺から従魔達を追い出せました。雪上車に連絡を)
「方角はあっちだね。わかったよ、メグル」
 周囲からの従魔達の銃撃が弱まったと判断したメグルがつくしに助言を送り、応じたつくしは雪上車を動かすレティシアへとライヴス通信機「雫」で連絡を入れる。
「レティシアさん。残りの家屋に向かう道は大丈夫だよ! 他の区域はまだ危ないけど、しっかり守るからね!」
『了解だ、つくし。なるべく早く収容作業を終わらせる』
 つくしのライヴス通信機「雫」にレティシアからの応答が入ると、いまだ家屋内で救出を待つ人々のもとへ、レティシアの雪上車が驀進し、キミカは雪上車の上で従魔達を迎撃する。
(ところで、努々。妙だとは思わんか?)
「えぇ…この従魔達に『氷を操る』能力は無いようです。だとすれば、この氷柱を生み出したのは……」
 恐らくそう遠くない場所に氷を操る愚神がいる。ミューが言外に告げた内容にキミカも頷いたが、詮索は後にしてキミカは従魔迎撃へと意識を戻す。
 その間にも聖は敵の中に突っ込む形で武器を【紅榴】の銘を冠するダズルソード03に切り替え、従魔達の迎撃にあたる。
「ひっかき回すっきゃねェな!」
(怪我、しないようにするんじゃなかったっけ……?)
「今は優先度が違うからよ」
(……そうだね)
 Le..は今の聖を制御するよりその勢いを助けた方がいいと判断し、聖の戦意を支援する。
「今、サポートいたします」
 雪上車へと銃撃を続けるカルリクへ向け、駆けつけてきたガルシアはストームエッジを発動し、寒空に幾条もの光が駆け抜け、無数のナイフに肉が貫かれる異音が響き、ガルシアの無数のナイフに貫かれたカルリクは態勢を崩すと、そのカルリクを狙って別方向から銃声が続けざまに轟いた。
 それはレティシアのPride of foolsで、発射焔が2発立て続けに放たれる。跳躍前だったカルリクは立て続けに胸を射抜かれ、塵を上げて倒れ消えていく。
 同胞を討たれた報復の銃撃が、カルリク達からガルシアへと放たれると、ガルシアは初弾こそ辛うじて躱せたが、続く銃弾はかわしきれず、その身を穿たれ負傷する。
 なおも銃撃を続けるカルリク達の前に、つくしが突風と化して突っ込み、つくしはその身を盾にして従魔達のガルシアへの攻撃を防ぐ。
「すぐ来れなくてごめんなさい。今度は私達が助ける番だから」
 背後にいるガルシアへ軽く詫びながらも、つくしは殺到する銃弾をことごとく弾きとばし、カルリク達がある一定の範囲に収まる瞬間を狙う。
(亮。今は住民達よりあのお嬢ちゃんの回復のほうが急務じゃ)
「そうだな。次の銃撃が来る前に治療するぞ」
 内からの黎焔の助言に亮はそう応じ、亮からケアレイの光がガルシアに飛ぶ。
(ファリン。見たところガルシアは恐らくケアレイ2回分の負傷を受けている。護衛から一時回復に役割を変更しろ)
「了解ですわ、お兄様」
 ヤンの指摘を受けたファリンはそう頷くと、ファリンからも『ガルシア様、今治療いたします』との言葉と共に、指圧めいた形状のケアレイの光がガルシアの体に放たれ、2人がかりでガルシアの負傷を癒す。
「ありがとうございます、百目木様。ファリン様」
 ガルシアが礼儀正しく亮やファリンに頭を下げる。
(今です、つくし)
 そしてメグルの助言に従い、つくしはブルームフレアを発動し、カルリク2体の足元から轟音と共に火柱が上がる。
 カルリク達のうち1体は跳躍し、つくしのブルームフレアを躱したが、残る1体はそのままつくしの業火に包まれ塵と化し消える。
「空に逃げたか。だが空に逃げ道は無い」
 跳躍したカルリクをキミカは冷静に見据えて武器を九陽神弓に変え、ストライクを発動して精神を集中し弓弦を引き絞る。
「次の跳躍はさせん。ここで消え去れ」
 弓弦を鳴らす音と共にキミカがそう宣告して、キミカの九陽神弓より放たれた矢状のライヴスはストライクによる鋭い一射と化し、いまだ宙空にいるカルリクの身を正確に射抜き、地に落とす前に宣告通り従魔の身を塵に変えて消す。
 それまで雪上車を援護していたクレアは、従魔達の跳躍先がある一定の範囲内に収まることを見抜くと、目算で従魔達が隣接するであろう空間と距離を割り出し、顕現したRPG-49VL「ヴァンピール」を肩付けしてその方角へと筒先を向ける。
「アルラヤ、修正」
『完了。引金を』
 アルラヤからの声と、クレアが心中に映し出す必中の標的が重なった時、クレアはトリオによる目にも止まらぬ早撃ちでRPG-49VL「ヴァンピール」の引き金を3度引く。
 発射焔が渦を巻き、炎の尾を曳いたロケット弾状のライヴスがクレアのRPG-49VL「ヴァンピール」から3つの発射音にと共に3度放たれる。
 クレアのロケット弾状のライヴスは大気を裂く飛翔音を響かせ、ちょうど他の方角から跳躍した2体のカルリクを直撃し、弾着の爆発音が宙に轟く中カルリク達は粉砕され、地に落ちる前に2体とも塵と化し消えていく。
 最後のカルリクは未だ跳躍中だったが、着地先では聖が【紅榴】の赤い刀身を煌めかせ待ち構えていた。
「護るより……脅威を残らず薙ぎ払うッ! 食らいやがれ!」
 【紅榴】の赤い刀身がライトグリーンの光輝を纏い、聖の剣閃が宙に赤い軌跡を描くと、その途中にいたカルリクの身を両断し、切断面から塵を噴き、最後の従魔は消えた。

●裏の裏
 こうして集落を脅かしていた従魔達は全て退治され、家屋に閉じ込められていた住民達もエージェント達の奮戦の結果、誰一人傷つくことなく全員雪上車に乗せ救助する事ができた。
 ファリンは救出できた住民達と、護送するロシア軍を守るため雪上車に同乗することをロシア軍に申し出る。
「私は住民の方々が安全な場所まで無事搬送されるよう、その援護に回りたく存じますわ」
(倒した従魔達を率いていた愚神が待ち受けている可能性も低くないからな)
 内にいるヤンもファリンの意向に賛意を示す中、現場の隊長判断でファリンの申し出は受理される。
「何かわかりましたら後ほど報告させて頂きますわ」
 ファリンはそう仲間達に伝えて頭を下げた後、ロシア軍や住民達の乗る雪上車と共にその場から離れ、残された雪上車にはレティシアが緊急時にすぐ発進できるよう待機し、集落にある巨大な氷柱を包囲する形でキミカとクレアはやや距離をとって十字砲火を組める位置につき、聖、つくし、亮、ガルシアが氷柱に接近する。
「そこにいるのはわかってんだ。さっさと出てきやがれ!」
 聖が【紅榴】の赤い刀身を氷柱に叩き込むと、巨大な氷柱はあっけなく壊れ周囲に無数の氷片と雪煙を巻き上げ、やがて雪煙の中から1人の女性の姿をした存在が現れたところで、つくしが問う。
「あなたは誰なの?」
「パラダイス・メーカーズ(楽園の作り手達。以下PM)、ソクよ」
 PMの名を聞いた聖の顔が険しくなり、予想通りの回答を得たつくしは次の質問をソクに向ける。
「……あなたの『楽園』の目的は?」
「私の『楽園』は『救済』よ。人々が酷い目に遭い苦しむ前に殺すのが私の『救済にして楽園』」
(こんな冷たい世界に人々を閉じ込めておきながら『救済』だなんて……)
(不愉快な奴だ)
 キミカとミューはソクの語る『救済』に『救いがない』という致命的欠陥があることを見抜き、内心穏やかでない。
「あの鳥公どもは銃を撃って飛び跳ねるだけで氷柱なんざ作っちゃいなかった。お前さんの仕業かい?」
 亮はソクにそう尋ねた後、続けてとんでもない事をさらりと告げる。
「『それとも、今お前さんの隣にいる奴』の仕業かい?」
 亮の言葉に『おや、お気づきでしたか』という声が響き、ソクの隣で影が具現化し、黒地に金銀の意匠を纏う姿の災厄――トリブヌス級愚神ニア・エートゥスが現れる。
 亮の鋭い観察眼はニアの潜伏を見抜いていた。
(やはりいましたか、ニア・エートゥス。つくし。今は戦おうとせず、情報収集を)
(わかってるよ、メグル)
 つくしがメグルの助言に従い戦意を自制する中、それまで沈黙していたガルシアよりニアに問う声が上がった。
「このあたりにいる愚神について伺いたく存じます」
「ヴァヌシュカっつう男を知らねえか? 都市スルグトで会った奴なんだが」
 ガルシアの問いに合わせる形で亮からもニアに向け質問が放たれたが、ニアは『言う必要はありません』と素気なく応じた。
「それなら『楽園』はH.O.P.E.に何を望むの?」
 メグルの加護を受けたつくしからの問いには、ニアは『楽園は何もH.O.P.E.に望みません』との謎の回答を返し、ガルシアがさらに問いかけた『父親』のことについては『恐らく人違いですから存じません』という妙な言い回しで答えた。
(……ヒジリー、怒りたいのはわかるけど落ち着いて)
「そいつの『救済』はてめーが仕組んだんじゃねえのか?」
 Le..からの忠告を受けつつ、聖が語気鋭くニアを問いつめると、ニアは素気なくこう応じた。
「彼女はそう信仰しています。力を授けた時、少し方向がずれたかもしれませんが」
「人の心を弄ぶのも、いい加減にしやがれッ!」
 聖の怒号と共に【紅榴】の赤い刀身が三閃し、宣戦布告を兼ねた疾風怒濤の3連撃がニアの身に叩きつけられ、ニアが指を鳴らして尋常でない規模の竜巻がその場に出現した時、いち早く咆哮したのはクレアのマテリアルライフルだった。
「派手に動き過ぎだな、愚神。この吹雪でもお前がよく見える」
(永久凍土では無駄な動きをする者から死んでいく。それは絶対の掟だ)
 クレアもアルラヤも、それが自分達にも当てはまる事や、トリブヌス級愚神とまともに戦って勝てる状況でない事は承知していたが、今は仲間達が退却できる隙を作るため、機動力を重視した援護狙撃を続ける。
 やがて異変を察知したレティシアが強引に走らせてきた雪上車につくし、キミカ、ガルシア、亮、聖が乗り込み、これ以上は無理と判断したクレアも現場から遠ざかる雪上車に飛び乗り、ニア達から急速に遠ざかる。
 やがて竜巻が姿を消した時、ニアやソクの姿も消えていた。
 こうして帰還できたエージェント達だったが、先に帰還していたファリン達より様々な情報と証拠がH.O.P.E.に提出されていた。
「俺達宛の荷物が、住民達を収容したロシア軍基地に届けられていたそうだ」
 ヤンの示したものは、袋詰めされたメモ用紙の束と記憶媒体だった。
 今はH.O.P.E.の諜報担当も動員して解析が行われているが、これまでに判明した事をファリンは口にする。
「内容でございますが、今ロシア軍上層部に起きている妙な動きを説明できる代物でございます」
 一息ついた後、ファリンは告げた。
「ロシア軍上層部の妙な動きはオレグ・ベルマンという男によるものですわ。彼はロシア優越主義をとなえ、反対する者をニアや愚神を使って葬り続け、上層部を恐怖で支配しておりますわ」
 それが、ガルシア達が探ろうとしていたロシア軍上層部の不穏の正体だった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 夢ある本の探索者
    努々 キミカaa0002
    人間|15才|女性|攻撃
  • 短剣の調停を祓う者
    ミュー・イーヴォルaa0002hero002
    英雄|65才|男性|ジャ
  • Run&斬
    東海林聖aa0203
    人間|19才|男性|攻撃
  • The Hunger
    Le..aa0203hero001
    英雄|23才|女性|ドレ
  • シャーウッドのスナイパー
    ゼノビア オルコットaa0626
    人間|19才|女性|命中
  • 妙策の兵
    レティシア ブランシェaa0626hero001
    英雄|27才|男性|ジャ
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657
    人間|18才|女性|防御
  • 共に在る『誓い』を抱いて
    メグルaa0657hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • HOPE情報部所属
    百目木 亮aa1195
    機械|50才|男性|防御
  • 生命の護り手
    ブラックウィンド 黎焔aa1195hero001
    英雄|81才|男性|バト
  • 死を殺す者
    クレア・マクミランaa1631
    人間|28才|女性|生命
  • 我等は信念
    アルラヤ・ミーヤナークスaa1631hero002
    英雄|30才|?|ジャ
  • 危急存亡を断つ女神
    ファリンaa3137
    獣人|18才|女性|回避
  • 君がそう望むなら
    ヤン・シーズィaa3137hero001
    英雄|25才|男性|バト
  • 守りもてなすのもメイド
    Гарсия-К-Вампирaa4706
    獣人|19才|女性|回避



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