本部

初めての休日

真名木風由

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2015/10/12 02:41

掲示板

オープニング

 エージェントになってから、休日らしい休日を過ごしたことがない。
 H.O.P.E.のエージェントとなった『あなた』は、ふとそのことに気づいた。
 エージェントになってからと言うもの、任務や研修があったり、知り合って間もない英雄がまだこの世界に不慣れである為にフォローしてあげたり。
 勿論、エージェントとなる前からの学業や生業を疎かにしたくないし。
 そうしている内に、休日らしい休日を過ごしていないことに気づいたのだ。
 研修も終わり、皆でお茶を飲んでいる時に何気なく漏らしてみると、皆「そう言えば」と自らもそうだと口にする。
 それなら、ここで休日らしい休日を過ごしていない者同士の縁で、皆でどこかに出かけてみようか。
 誰かが提案すると、面白そうだと賛成意見が挙がる。
 どこに出かけようか。
 皆、楽しい思いが出来る場所だといい。
 まだこの世界に馴染んでいない英雄は、この世界が興味深いと同行を申し出る場合もあるだろう、彼らに馴染みがない場所がいいのではないだろうか。
 皆であれこれ案を出し合っていると、ある女性職員が通り掛った。
「そういえば、こういうのを貰ったんだけど……私行く時間がないの。どうかしら?」
 参考意見として話を振ってみると、女性職員は手にしていたクリアファイルの中身を取り出した。
 見ると、それは遊園地の招待券だ。
 女性が言うには、女性の実家が会社を経営しているそうで、取引先から多く貰ったからと女性にも周囲に配っていいと回してきたそうだが、女性は招待券の有効期限まで予定があって、行くことが出来ないらしい。
「無駄にしてしまうのも勿体無いし、どう?」
 『あなた』達はその厚意に甘え、エージェントとして初めての休日、縁あって皆で過ごす休日を遊園地に決めた。

解説

●本日の重要なミッション
・開園~閉園(午後8時)まで楽しく過ごす

下記のアトラクションで楽しむことが可能です。
・ジェットコースター
3種類ある模様。
スピードはあるものの回転なく、比較的絶叫マシーンが苦手な人も問題なく楽しめるもの、スピード感満載で高低差や回転でスリルが味わえるもの、スタートから一気に最高速で最高到達点まで駆け、落下した後ビル並の高低差あるループが売りのコースター。
・バイキング
・魔法の絨毯
・大観覧車
夜の夜景が見事らしいです。
・メリーゴーランド
見事な造りが有名ですが、19時過ぎより回っている間御伽噺のストーリーが3Dプロジェクトマッピングで展開されるそうです。
・ゴーカート

※午後7時頃から遊園地では花火が上がるので、それも観ることとなります。

●食事について
・招待券にフードコート利用券もついていましたが、お弁当を持参してもOKです。
フードコートには、カレー・ピザ・ラーメン・サンドイッチ・ハンバーガー・各種飲み物・バニラソフトクリームがあるようです。
基本的に普通盛りですが、10人前30分で完全制覇すれば無料のチャレンジ激辛カレーも存在しているようです。

●注意・補足事項
・アトラクションによっては得手不得手もあると思いますので、全員同じアトラクションに乗る必要はないものとします。
幾つかのグループに分かれて巡ってもいいですし、全員一緒で苦手なアトラクションの時だけベンチで待っていて貰う形でも問題ありません。
・ただし、描写量確保の問題もありますので、1つのグループにつき、アトラクションは3種までとしてください。
これは能力者と英霊のペアでも、全員参加でも同じです。
プレイングの比重より、皆様それぞれのアトラクション・食事・花火の描写比重を決めます。
欲張って全てを書くより、重点的に書いた箇所の方がひとつひとつの描写が濃いものとなります。
・最後に。折角の休日ですから、皆さん仲良く楽しく!

リプレイ

●眺めるハイテンション
「いってらっしゃい」
 離戸 薫(aa0416)は、親友の中城 凱(aa0406)と凱の英雄礼野 智美(aa0406hero001)を送り出した。
「薫さんも苦手なの?」
「うん」
 美森 あやか(aa0416hero001)に声をかけられ、薫は肩を竦めた。

「いつも頑張ってくれてるからな、今日は目一杯食って遊んでいいぞ」
「嬉しいのさーいっぱい遊ぶのさーっ」
 柏崎 灰司(aa0255)の言葉にティア・ドロップ(aa0255hero001)は嬉しそうだ。
「ティアは速い乗物は平気か?」
「速い乗物は平気かって? ふふーん、そんなの大丈夫なのさ」
「なら、あれ乗るか」
 灰司が指し示したのは、この遊園地最強の最高速ジェットコースター。
「ハイジこそ根を上げないようにしておくのさ! あ、お仲間発見!」
 ティアが同じタイミングで列に並んだ凱と智美に気づく。
「あれ、確か薫とあやかと一緒に巡るんじゃなかったのか?」
「2人共絶叫系アウトで見ているそうです」
 あやかが内気な性質で、彼女の願いで馴染みある者達のみで巡るという話だったが。
 灰司が尋ねると、凱がその理由に触れた。
 智美が言うには、自分やあやかはこの世界に近い文明の世界出身の分、想像が出来る為にあやかは回避したらしい。
「説明する必要がないのは助かりますが」
「それは確かに助かる」
「何でティア見るのさー」
 そうこうしている内に順番が巡ってきた。
 それぞれ係員に案内され、シートに身を沈める。

 スタート!

「おーっ こりゃ思ってた以上に速ェな!!」
 灰司は一瞬にして最高速を楽しんでいた。
 が、隣のティアは硬直!
(ココマデハヤクテコワイトオモワナカッタノサ……!)
 何でハイジ普通なのさ!

 凄い高さから落ちたりループしたり……それに速い!!

「いやぁ、スピーディーで楽しめた。もういっぺん乗ってみ……って、どうしたティア!? 顔が無になってんぞ……!」
「あ、ハイ。ティアは元気ですよ」
 灰司は何故か敬語のティアを見、休憩の必要を感じた。
「俺達は2人が待ってるから、これで」
「また後で」
「おう」
 智美と凱を見送った灰司は、とりあえずベンチを探した。

●挑戦!
 楠元 千里(aa1042)は、マティアス(aa1042hero001)を気遣うように見た。
 最高速のジェットコースターが気になる様子のマティアスへ、千里は誰かが乗っている所を見て決めようと提案、マティアスも同意して見ていた。
 結果、そのスピードと灰司に連れられたティアがベンチで無になっているのを見、真っ青になる。
「あっちにしようか」
「……別にあんなの大丈夫だけど……千里に付き合ってやる」
 こうして彼らは回転しないジェットコースターへ向かった。

 千里達は、月鏡 由利菜(aa0873)とリーヴスラシル(aa0873hero001)も並んでいることに気づく。
「私も挑戦したいと思いまして」
「彼女も苦手だが、挑戦するらしく」
 由利菜を気遣うリーヴスラシルはどんなジェットコースターも平気そうに見えるが、由利菜に合わせているようだ。
 リーヴスラシルの言う『彼女』とは、2人の隣に並ぶゼノビア オルコット(aa0626)のことである。
『遊園地は子供の頃に1度来たっきりなんです』
 楽しみたいと添えるゼノビアはメモ帳にそう記す。
「すげぇよな。誰でも遊べるなんて」
 レティシア ブランシェ(aa0626hero001)の世界に遊園地はなかったらしいが、順応性高く慣れたようだ。
「大人になったら乗れる、らしい。無理して乗らなくてもいいんじゃないかって言ったんだがな」
「遊園地って中々来る機会ないですから。マティアスもそわそわして……いたっ」
 レティシアと千里の会話に乱入するようにマティアスが(そんなことねぇし)と脛を蹴った。

 やがて、それぞれジェットコースターを実感していく。

『で、出来ました……。でも、暫くもういいです』
 涙目で降りたゼノビアは、特に取り乱した様子もないレティシアにメモ帳の文字を見せた。
「よく頑張った! 他にも乗りたいもん全部乗っていこうな! 次いつ来られるかわからねぇし」
『沢山、楽しみましょうね』
 千里の言葉を思い出してレティシアが言うと、ゼノビアも折角なのだからと微笑んだ。

●スリルを楽しめ
「やはり待つか。仕方ない」
「厳しいです」
「ごめんなさい」
 智美へ薫とあやかが申し訳なさそうに微笑む。
 一緒に出かけるのは久し振り、という実感があるものの、彼らは絶叫系が苦手だ。
 薫と時間を合わせて研修の類は一緒に受けることが多い凱も同じだが、彼らに無理強いは出来ない。

「トイレに行ってる間に遊園地の話が出とったなんてなぁ。仕事ばっかりやったし、ええんやけど、ビャクは遊園地知らんて」
「シュヴェルトも疎いみたいです」
 門隠 菊花(aa0293)と染井 義乃(aa0053)は同じジェットコースターに乗ることが判明した為、一緒に並んでいた。
「何故戦闘でもないのに士気向上しているんだ……」
「阿鼻叫喚の悲鳴が聞こえるが……何が起きているんだ?」
 一方、英雄のシュヴェルト(aa0053hero001)も白青(aa0293hero001)はよく分かってない。
 シュヴェルトが言うには、義乃は「いざ行かん、遊園地!」と気合入った様子でここへ来たらしく、白青も「遊園地と言えばやっぱコレやろー」と菊花に連れて来られたと話す。
「俺も遊園地は初めなんで、楽しみです。これはスピード感ありそうですよね」
「乗ってみればわかるわー。ひゅーってなってひゃーってなるんやで」
「ひゅーってひゃー……?」
 やはり一緒に並ぶリオ・メイフィールド(aa0442hero001)が話に加わると、菊花が英雄達にそう笑いかけ、白青が何のことかと首を傾げる。
「リオが楽しめるといいんだけどね」
「私もシュヴェルトに楽しんで貰いたいです」
 レヴィ・クロフォード(aa0442)が皆と話すリオを見ながら言うと、義乃がシュヴェルトに聞こえないように言う。
 戦い以外でも楽しみを見つけてほしいそうだが、ジェットコースター初心者なので最高速のものは具合が悪くなっては困ると止めたらしい。
 普段から来ない場所らしいが、ちゃんとした休日もなく色々忙しかった最近を考えたレヴィは、リオ共々羽を伸ばそうと思ったのだとか。
「ここでは大丈夫そうだけど、リオと逸れたりしないようちゃんとエスコートしないとね?」
 レヴィがそう笑った所で、ジェットコースターに乗る番となった。

「戦闘以外で味わうスリルなど、たかが知れてる」
「そう言ってられるのも今の内だからね」
 まだ落下に入っていない為余裕のシュヴェルトへ義乃がそう言う。
 そのすぐ後ろで白青が似たようなことを菊花に言っている。
 さて、どうなるか……。

 落下開始!

「うあああああ!!」
「ヒャッハー♪」
 絶叫を上げる白青の隣の菊花は楽しそうだ。
 落ちる、回る……これで、最強じゃない!?
 白青にとって信じられない時間が過ぎていった。
 やっと降りる段階になった時だ。
「景色が走馬灯のようだった……」
「シュヴェルトォォ!!?」
 遠い目で白い灰のようなシュヴェルトと予想以上のダメージに慌てふためく義乃。
 だが、白青も他人事ではない。
「ふ、ふわってした。ばかか?こんな頼り無い足場をあんな速さで……」
「あはは、初めて乗るんにはちょっと刺激が強かったかー。うちはもう1回乗ってもいいくらいやでー」
 よろよろ歩き出す白青へ菊花が事も無げに言う。
「ばかか!? 落ちたらどうするんだ!」
「落ちない落ちない。ちゃんと設計されとるでー」
 からから笑ってる菊花の後ろを、レヴィとリオが歩いてくる。
「風が感じられて気持ち良かったです。次は……バイキングでしょうか。どっちかスリルなんでしょう」
「リオはスピード感あるのが好きなんだね」
 レヴィとリオは少しシュヴェルトを休ませる義乃と穏便な乗り物を希望する白青を連れる菊花に昼食の再会を告げて、バイキング乗り場へ歩いていった。

「あ!」
 レヴィとリオはちょうど向かいに凱と智美が座っていることに気づいた。
 やがて動き出すと、何となく会話を始める。
「楽しんでるみたいだね」
「そちらも」
 レヴィが声を掛けると、智美が風を楽しんでいる様子のリオを見て笑う。
「ジェットコースターとは違うスリルがありますね。景色も違います」
「より高低差を楽しめますよ」
 感心するリオへ凱もだから智美と楽しんでいると話す。
 バイキングも終わり、レヴィとリオは連れ立って降りていく。
 何となく、凱は彼らを見送った後、近くのベンチで見ていた薫とあやかへ視線を移した。
「薫と一緒に乗って、しがみつかれたかったんじゃないのか?」
 絶叫系好きの自分とは違うからと智美がからかうように言ってくる。
(たまに見透かされてる気がする)
 ちょっと憎たらしいと思っていると、智美が意外なことを言った。
「俺もあやかも、お前と薫の会話を聞いていると懐かしく感じることがある。元の世界に似ている知り合いがいたのかもな」
 そういう理由か。
 でも、やっぱり見透かされるのは好きじゃない。
 凱はそんなことを思いながら、薫とあやかの元へ歩いていった。

●のんびりと
 水瀬 雨月(aa0801)は、遊園地内をゆっくり巡っていた。
(遊園地で遊ぶなんていつ以来かしら……)
 記憶を遡らせても随分前だ。
 その所為か、ほとんど憶えていない。
(蝶の中から出てこない『彼』はどうしたものかしら)
 任務ではないからと幻想蝶の中にいることにしたらしいアムブロシア(aa0801hero001)を思い返し、雨月は昼食になれば出てくるかもと思考を切り替える。
 ふと、見上げた先には大観覧車が見えた。

 その大観覧車には、現在菊花と白青が乗っていた。
「う、ううむ。何だか足下がフラフラするんだが」
 白青にとってこうした形で地から足を離すのは落ち着かないらしくソワソワした様子。
「外の景色見てたらあっという間やでー。ちょっと揺すったろか?」
「やめろー!」
 白青、必死。
 仕方ないので、菊花は外を指し示す。
「ビャク、あれはゴーカートや。あれも風になれるんやで。次どや?」
「風はもういい」
 ジェットコースターの影響は大きかった。

 そのゴーカートではマティアスが楽しんで遊んでいた。
 ジェットコースターのようなスリルはないけれど、と千里に勧められたマティアスは係員に一生懸命教わったのだ。
「これ、いいな」
「え? また乗るの? いいけれど……」
 楽しんでおいでと見送った千里は、他の回れなくなるよと言いながらもマティアスの希望を聞いてあげた。

 マティアスが昼食までゴーカートを楽しんでいるのを千里が見ている間、大観覧車を降りた菊花と白青はメリーゴーランドへ移動していた。
「ほな、これなら大丈夫やろ。ゆったり乗れんで」
「……信用ならんな」
 菊花の勧めに警戒しながらも白青は見事な造りのメリーゴーランドへ乗ってみた。
「ふむ……今までに比べれば楽な乗り物だな」
「夜になると、また違うらしいで」
 跨る馬をたしたし叩いてみる白青へ菊花がそう言うと、白青が彼女の話に耳を傾ける。

(色々巡るのもいいわね)
 たまたま見ていた雨月は、口元を綻ばせる。
 さて、そろそろお昼……『彼』は出て来てくれるだろうか?

●楽しさ共有のひと時
 昼食の時間になり、エージェント達は一旦合流した。
 千里が折角の機会だから昼食は全員でどうかと提案、皆が賛成した形だ。凱が連絡方法をはっきりさせたこともあり、合流の際も混乱はない。
「家のラーメンとは違うのか?」
「全然違うよ。食べてみて」
 シュヴェルトは義乃と同じラーメンを渡されたが、シュヴェルトはわざわざ外で食べるものかと腑に落ちない様子。
 が、義乃が言うにはインスタントと違い、一から麺を作っているから食感が違うということで、シュヴェルトもラーメンを食べてみる。
「しっかりしているような気はする」
「でしょう?」
 食べ始めるシュヴェルトへ義乃も笑う。
「たまにはええよなあ、ジャンクフードも」
「俺も基本的に自炊ですし、折角だから食べようと思いまして」
 菊花がハンバーガーセットを購入すると、千里もピザとハンバーガーをトレイに乗せて微笑む。
「こういう感じの食べ物はあまり食べないので、全種類食べてみたいです」
「全種類?」
「リオは沢山食べるんだ」
 菊花と千里がリオの言葉に目を丸くすると、自身はサンドイッチと飲み物だけというレヴィはそう肩を竦める。
「リオもそれ頼んだの? ティアと同じなのさー♪」
「オイ、待てコラ……ティアッ! それ食う気なのか!?」
 ティアが驚く灰司を他所にリオの向かいに座ると、チャレンジメニューである10人前の激辛カレーを食べ始める。
 リオも挑戦者で、大量の激辛カレーを食べ始めていて、レヴィが見ているだけでお腹一杯になると言うのも頷ける。
「いっぱいあって悩んだけど、異彩を放つこのメニューに負けたのさー」
「美味しいですよね」
 ご飯ご飯と喜ぶティアにリオも頷いて食べている。
 余所見をしている間に注文された灰司は、ピザを食べながら見守るしかない。
「んー! 辛~い! 辛いけどうまうまー!!」
「あ……辛いの大丈夫なんですかそうですか」
「仲いいですね」
 ティアと灰司を微笑ましく見ている千里の横では、ピザのチーズが伸びてしまい、食べ方に戸惑うマティアスの姿が。
 種類色々あるからと千里からピザのお裾分けを貰った白青も食べ方がよく分からない。
「ああ、これはこうして……」
「おお、そうか」
「同じように見えて違うな」
 灰司から教えて貰い、白青とマティアスは色々なピザを食べてみる。
「それにしても、激辛カレー、凄い量だな。10人前じゃなければ食ってみたかったんだがなぁ」
「普通そうよね」
 残念がるレティシアへ雨月がそう言うと、姿を現したアムブロシアを指し示す。
 10人前の激辛カレーというチャレンジメニューを持ち出してみた所、アムブロシアはあっさり姿を現した。
 雨月は普通のカレーを食べているが、アムブロシアはティア、リオと遜色ないスピードで食べている。
「普通に食べ終わりそう」
『お好きなんです?』
 サンドイッチを黙々と食べていたゼノビアもレティシアが雨月と話していることもあり、メモ帳にその質問を記した。
「好物みたい」
 アムブロシアの格好は、如何にも英雄というものである。
 ……というより、英雄でない場合は警察から職質受けそうな気がする。
 が、幻想蝶に篭ってばかりなのにカレーを引き合いに出すと、出てくるレベルで好きなのだから驚きだ。
「食べ終わったら、また篭りそうだけど」
 雨月はそう言いながらも、アムブロシアのペースを見守っている。
 が、挑戦者の中にも厳しい戦いを強いられている者もいた。
「ユリナ、無理はしない方がいい」
 勇気を振り絞って挑戦した由利菜へ声を掛けるリーヴスラシルは、彼女のお手製のお弁当だ。
 サンドイッチ、リンゴ、プチショートケーキと可愛い構成のお弁当とアイスティーが彼の昼食だが、由利菜が心配でそれ所ではない。
「大丈夫……」
 ミルクを飲みながら、由利菜は頑張っている。
 いざという時は、自分が代わることも検討する彼は、いつの間にかマティアスも挑戦しており、苦戦していることに気づいた。
「挑戦メニューだから、手出し扱いになってしまうそうで」
 リーヴスラシルの視線に気づいた千里が、苦笑した。
 千里が挑戦者を応援している為、自然とマティアスも見ていたのだが、「結構平気そうに食ってるぞ。僕にもいけるんじゃね?」とマティアスが言い出したそうだ。
「あんな辛そうな色の、大丈夫? 試食は……ダメみたい」
 千里はチャレンジメニューのルールを見て、試食してからの挑戦がダメだと確認する。
 今度作ってみようと思うレベルで気に入った様子のハンバーガーも食べ終わったマティアスは挑戦し、今に至るのだとか。
「はい、水」
 ちょうどいいタイミングで千里がマティアスの前に水を置いている。
「けど、本当に凄い量……。それに、辛そう……」
「でもウマウマなのさー!」
 義乃が感嘆の溜息を吐くと、視線に気づいたティアが満面の笑顔を向けてくる。
「カレーは、この前先輩達の配慮で作ったことがあるんですよ」
「そうなんです?」
 あやかが同性だしと思い切って話に加わると、義乃が興味深げな目を向けてくる。
「ええ。研修の後、交流の場としてセッティングしてくれたんです」
「僕とリオもそこにはいたけど、大勢で食べるのも悪くないと思ったよ」
 薫とレヴィも話に加わり、美味しいカレーを皆で作って食べた話をした。
「その研修には、参加してなかったな。惜しい」
「ええ。そういう場は貴重ですよね」
 智美と凱がその場にいないことを残念がりつつ、焼きお握りを口に運ぶ。
「美味しそうですね」
「多めに作ってきたので、いかがですか?」
 義乃が興味を持つと、あやかが勧めてくれる。
 フードコートの利用券はおやつ時に回し、昼食はお弁当にしてはどうか。
 あやかがそう提案し、薫の手伝いを受け、朝からお弁当を作ったのだそうだ。
「手が込んでますね」
 リーヴスラシルへお弁当を作った由利菜が、カレーとの戦いの手を止めてこちらを見る。
 自分は洋食系だが、あやかは和食系のお弁当のようだ。
「秋の味覚を中心に、と思いまして」
 多めに作ることにしたので重箱を借りたとはにかむあやかは、料理が得意なのだとか。
『この炊き込みご飯、バターが入ってますね』
「隠し味だそうですよ」
「凝ってんなぁ」
 茸の炊き込みご飯をいただいたゼノビアがそれに気づくと、薫が微笑を浮かべる。
 ゼノビアと違い、その茸の炊き込みご飯を焼きお握りにしたものを食べるレティシアも感心しきりといった様子だ。
「ティア達も食べたいっ!」
「あの量をペロリと食べた後まだっていうのもすげぇわ……」
 激辛カレーを制覇した後、「チーズ伸びて面白美味しいよねー」とピザを楽しんでいたティアもリオと共にお裾分け希望。
 灰司が何とも言えない表情を浮かべ、見ているだけでお腹一杯のレヴィと顔を見合わせる。
「……どこにその量入っていったのかしらね。軽く見ても2~3kgあったように見えたけど。しかも激辛だし」
「問題ない。お前は食べなかったな」
「当たり前よ。見ているだけで胸焼けしそうだったもの」
 同じように食べ終わっているアムブロシアは、一応食後の休息を経てから幻想蝶へ戻るつもりらしい。
 好物ではないものの、薫とあやかの力作とも言える秋の味覚弁当を見ている。
「この秋刀魚美味しい! 蒲焼っていうんだよね?」
「ええ。こういう食べ方も美味しいでしょう?」
 ティアに微笑を向けるあやか。
 一方、菊花はカボチャのグラタン(あやかがいうにはグラタン風らしいが)を食べる白青を嗜める。
「少し遠慮せぇへんと、4人が食べられへんやろ?」
「俺は大丈夫だ。あやかの料理が美味しいのだしな」
「ほら、こう言ってくれている」
 智美が言ってくれたのをいいことにドヤする白青。
 菊花は「こっちも食わんとな?」と焼いて甘くなったパプリカを白青の皿へしっかり載せた。
「フードコートの利用券もありますから、大丈夫ですよ」
「それに、美味しく食べて貰えるのが1番です」
 薫とあやかが微笑む中、鶏の唐揚が食べられたりしている。
「……これは、食べたことがないものだ」
「柚子味噌じゃないかな?」
 揚げた茄子に味噌らしきものを塗り、グリルされたものを食べて不思議そうなシュヴェルトへ義乃も食べてみてそう言うと、薫が「正解です」と微笑を向ける。
(手が込んでるよな)
 凱も感心しつつ、豚肉の野菜巻を食べ、2人作成の弁当を満喫している。
 おやつにソフトクリームと飲み物を考えているが、少し後にしないとお腹に入らないかもしれない。
「これだけの量を作るのは大変だったんじゃないでしょうか?」
「2人で作ったから大丈夫ですよ」
 ポテトサラダを食べるマティアス(カレーは断念してアムブロシアへ託した)を見、千里が尋ねると、薫が大丈夫と笑う。
 皆の会話に加わりながらも、リーヴスラシルは激辛カレーを断念した由利菜に代わり、残った分を食べることにした。
 無料にはならないが、元々無料券のもの、問題はない。
(しかし、私達の誓約と皆の誓約はあまりにも差がある……)
 何気ない雑談をして思ったことは、そのことだった。
 助ける為だったとは言え、由利菜から全てを奪ってしまった、と。
「仕切り代わりにキャベツ……勉強になります」
 由利菜はあやかの弁当が勉強になると、彼女と料理談義をしている。
 差し出された梨を手に、話も弾んでいるようだ。
「7時から花火……こっちは集合しないでいいのよね?」
 大観覧車から花火を見たい者もいることを思い出した雨月が確認を取る。
 了承が返り、花火後合流という話となると、アムブロシアが幻想蝶の中へ返っていく。
(ゆっくり楽しめばいいわね)
 寝る場所はなくとも、疲れたら休憩する場所はあると雨月は心の中で呟いた。

 昼食も終わった、またそれぞれ楽しもう。

●光の華を見て
 昼食を終えた後も楽しんでいた4人は、そろそろ花火の時間だということで大観覧車へ移動した。
「4人乗れるみたいだな、良かった」
 いざという時は分かれて乗るかと思っていた凱はそのことに安堵する。
「今日の締め括りにはちょうどいい」
「意見が一致してビックリしたわね」
 智美の笑みにあやかも続く。
 傍目から見ると、あやかだけが女性に見えるが、実際は智美も女性、男女のバランスはいい。
 順番が巡り、ゴンドラへ4人で乗り込むと、ゆっくり上昇を始める。
「いい時間帯に上へ行けそうだね」
 楽しげな薫がそう言うと、あやかも智美も頷く。
(近い文明だったのに、服装は違ったよな)
 凱は忍び装束の智美とティアラを抱き、水を流したようなドレスを身に纏うあやかが近い文明の世界の者として自分達と出会って、今ここにいるのも不思議なものだと思った。
 そして、花火が始まる。

 大観覧車のゴンドラからレティシアがじっと花火を見つめていた。
『やっぱり、故郷が懐かしいですか?』
 レティシアの服の袖を引き、ゼノビアは書いた文字を彼に見せる。
『いつか、帰りたいです?』
 折角のおでかけとあり、お洒落でかけている伊達眼鏡の向こうの瞳には、今は不安そうな色が浮かんでおり、下調べで沢山調べたマップが落ちても気づいていない。
「戻っても仕方ねぇだろ」
 レティシアはそう言った。
 この景色は、おぼろげにしか憶えていない故郷と根本から違う場所であると改めて認識するに十分だ。
 だが、帰りたいかと聞かれれば、その気持ちは否定する。
「今はここで精一杯頑張るさ。お前とな」
 レティシアはゼノビアの足元に落ちているマップを拾い、彼女へ手渡した。
 お礼を記したゼノビアは、外の花火を見つめる。
 レティシアの世界にはないらしい花火は、彼の故郷への想像を呼び起こす。
 乗りたい物も乗った、ジェットコースターに乗る時、「チャンスは今回だけじゃねぇ」と案じてくれた、ちゃんと乗ったら労ってくれた……それが、レティシアという人。
 けれど、彼の故郷はどこなのだろう。
 ゼノビアは花火を見ながら、思いを馳せていた。

 ゴンドラが、ゆっくり上昇していく。
 花火を待ち望む由利菜の横顔を見ながら、リーヴスラシルは心の中で苦悩していた。
(ユリナは、余りにも重い代償を支払った……)
 まだ全ての能力者の誓約を知った訳ではないが、軽い誓約ではないことは確かだ。
「もしも……」
 リーヴスラシルが思わず漏らしてしまった言葉に由利菜が顔を向けた。
 昼以降の自分に気づいていたのだろう、彼女ははっきりと口にする。
「私は……ラシルに感謝しています」
 2年前、境界観測の際に愚神に襲撃され、瀕死となったこの身。
 あの時の自分を考えれば、代償は報いであると受け止める、と由利菜は言う。
「『もしも』なんて、ないですから。ラシルがいなければ今の私はいない、それが全て……」
 感謝していると由利菜は言う。
 けれど、リーヴスラシルは『誓約以前の人間関係を全て抹消する』という誓約は、彼女から故郷を奪った、彼女のルーツを彼女から消したと思う。
 昼食の時、凱と薫は馴染みの親友であると言っていた。
 英雄とは異なるその絆は、時を掛けなければ築かれない。
 それを、奪った。
「ラシル……」
 もうすぐ花火が始まる刻限なのに、由利菜の瞳には涙が浮かんでいく。
 ぽろぽろと零れる涙を受け止めるように、リーヴスラシルは手を伸ばす。
「ユリナ、お前に涙は似合わない」
 拭いてやる、とティッシュで由利菜の涙を拭こうとすると、由利菜がリーヴスラシルの胸に飛び込んだ。
 同時に、ゴンドラの向こうで光の華が咲く。
「ラシル……。好き……。大好き……」
 この素敵な瞬間を一緒に感じたい。
 そう願うかのような由利菜を抱き留め、リーヴスラシルは視線を外へ向ける。
 光の華がまた咲き、口に出さず、けれど、彼は心から強く誓った。
 この少女の全てを守ろう。
 未来が、似合わぬ涙に濡れないよう。

●見上げる先
「夜空に綺麗なのが見えるのさ」
 ティアに倣って夜空を見上げた灰司は「そういや花火の時間だったか」と『綺麗なの』の名を口にした。
「花火っていうんだぁ、キレーキレー!」
「こうして花火見るのなんて久々かもしれねぇな」
 ティアと違って珍しくはないが、久し振りに見たと灰司も花火を見る。
「今日は最後まで楽しめたし、いい1日だったわ」
「また皆で遊べるといいね、ハイジ」
 笑顔のティアへ、灰司は「まぁな」と笑う。
 無になってたり、恐ろしい量を食べてたりしたが、楽しめてたなら何よりだと思いながら。

「遊園地の花火も馬鹿に出来ないわね」
 雨月も空を見上げていた。
 ゆっくり羽を伸ばすことが出来た日だったと思う。
 皆と昼食を食べ、午後は遭遇した皆と乗り物を一緒に楽しんだりもした。
 時間は沢山あると思っていたが、過ぎてしまえばあっという間。
(もっとも……彼はカレーが食べられたからそれでいい感じなのだろうけど)
 雨月は、幻想蝶の中に篭っているアムブロシアへ想いを馳せた。
 自分のを制覇しただけでなく、食べきれなかったマティアスの残した分も引き受けていた。
 昼食が終わって以降、1度も出てこない。
(風情も何もあったものじゃないわね……)
 目立つかもしれないが、花火位見てもいいだろうに。

「遊園地とは恐ろしい場所だった」
 花火を見上げる白青は、2度とジェットコースターには乗らないと決意しているようだ。
「うちは結構楽しかったよー。来て良かったなあ、ビャク。あの職員さんに感謝やな」
「……ふ、ふん。菊花が楽しかったのなら、まあ、よしとしよう。花火は悪くないしな」
「素直に綺麗や言うたらええやん」
 笑う菊花は、研修の後皆でお茶を飲んだ幸運にも感謝した。
 そうでなかったら、今日ここにいないかもしれない。

「シュヴェルト、今日はどうだった?」
 義乃は隣で共に花火を見上げるシュヴェルトへ問いを投げる。
 シュヴェルトは花火を見ながら、こう呟いた。
「不思議なものだな……」
 シュヴェルトにとっては、全て不思議なものだったかもしれない。
 義乃がそう思っていると、シュヴェルトが言葉を続けた。
「戦闘でも火は使う。だが、アレとは程遠い。焼き尽くすもの、このような美しさはない。あの『じぇっとこーすたー』も、皆悲鳴を上げているのに楽しそうだった」
 悲鳴は味方なら救うべき報せ、敵なら緩めてはいけない報せ……戦闘に生きるシュヴェルトにとってはそういうものなのだろう。
「元々、娯楽の為、皆が楽しめるように造られたものだからね。それを利用する奴らが現れたら戦うのが私達の役目」
 とは言え、と義乃は言葉を続けた。
「戦ってばかりじゃ疲れるし、疲れたら見えるものも見えなくなっちゃう。こういう休息も必要だと思うよ」
「……休息か」
 何か考えるかのようなシュヴェルトの横顔を見、義乃は(今日楽しいと思ってくれたらいいな)と思った。

●初めての休日、終わり
「こんな感じなんですね……」
 今日ずっと楽しそうだったリオは、初めてが多かった。
 この花火もそうで、打ちあがるまでワクワクしていたのだ。
 そんなリオにレヴィも頬を緩める。 
(最後に大観覧車をリクエストして正解だったな)
 リオが乗りたいものを優先したレヴィの唯一リクエストは、最後は大観覧車に乗りたいというもの。
 夜景が綺麗だという話だったし、打ち上げられる花火も重なったら、きっとロマンティックだ。
 それを目当てに時間を調整して乗ろうという提案をして良かったとレヴィは思う。
「今の花火、少し大きかったです」
 リオはそう言ってから、子供っぽいと呆れられてないといいと思った。
 初めて尽くしだったとは言え、はしゃぎ過ぎかもしれない、と。
「花火はゆっくり見る機会がなかったから、僕も楽しんでいるよ」
 察したレヴィがそう言うと、リオはほっとした顔を浮かべた。

「中々綺麗なものだろう?」
 千里は夜景と花火に見入るマティアスへ声を掛けた。
 大観覧車から見た方がいいだろうと誘ったが、正解だったようだ。
「少しでもこの世界を気に入ってくれたら嬉しいよ」
 こちらへ振り向かないマティアスへ千里はそう言う。
「いつか帰ってしまっても、思い出せる程度でいいから……いたっ」
「そういうことはちゃんと働いてから言え」
 千里を叱ったマティアスは、こう続けた。
「悪くないと思ってるからな」
「ありがとう」
 お礼を言った千里も外を見る。

 休日の最後を彩る花火が、また、夜空に描かれた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 薔薇崩し
    柏崎 灰司aa0255
  • エージェント
    楠元 千里aa1042

重体一覧

参加者

  • エージェント
    染井 義乃aa0053
    人間|15才|女性|防御
  • エージェント
    シュヴェルトaa0053hero001
    英雄|20才|男性|ブレ
  • 薔薇崩し
    柏崎 灰司aa0255
    人間|25才|男性|攻撃
  • うーまーいーぞー!!
    ティア・ドロップaa0255hero001
    英雄|17才|女性|バト
  • エージェント
    門隠 菊花aa0293
    人間|28才|女性|生命
  • エージェント
    白青aa0293hero001
    英雄|10才|男性|バト
  • エージェント
    中城 凱aa0406
    人間|14才|男性|命中
  • エージェント
    礼野 智美aa0406hero001
    英雄|14才|男性|ドレ
  • 癒やし系男子
    離戸 薫aa0416
    人間|13才|男性|防御
  • 保母さん
    美森 あやかaa0416hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • エージェント
    レヴィ・クロフォードaa0442
    人間|24才|男性|命中
  • うーまーいーぞー!!
    リオ・メイフィールドaa0442hero001
    英雄|14才|?|ジャ
  • シャーウッドのスナイパー
    ゼノビア オルコットaa0626
    人間|19才|女性|命中
  • 妙策の兵
    レティシア ブランシェaa0626hero001
    英雄|27才|男性|ジャ
  • 語り得ぬ闇の使い手
    水瀬 雨月aa0801
    人間|18才|女性|生命
  • 難局を覆す者
    アムブロシアaa0801hero001
    英雄|34才|?|ソフィ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • エージェント
    楠元 千里aa1042
    人間|18才|男性|防御
  • うーまーいーぞー!!
    マティアスaa1042hero001
    英雄|10才|男性|バト
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