本部

華麗なる復讐鬼

霜村 雪菜

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
7人 / 4~7人
英雄
7人 / 0~7人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/10/29 19:50

掲示板

オープニング

 「復讐は何も生み出さない」
 この言葉は決して、復讐の対象となった人々を守るためだけにあるわけではないのだ。
「市内のF高校で、監禁事件が発生しました」
 夕方緊急の招集をかけられて集合したリンカー達は、スタッフから事件の説明を受けている。
「犯人は、当校の三年前の卒業生で、現在大学生の……一応未成年なので、ここではDとしておきます。実は今日、Dも含めた同クラスの卒業生が学校に集まって、同窓会を開いていたらしいです。公式の催しではなく、個人的に連絡を取り合って有志のみが集まるものだったそうですが、それで担任だった先生や学校側に連絡が行っていなかったのが裏目に出てしまいました。参加者が全員集まったとき、Dが突然豹変して、元クラスメート達を襲い始めたそうです」
 通報は、この時点で運良く学校の外へ逃げたDの元クラスメートの一人が行った。警察を経由してHOPE支部にまで通報が来たのは、Dが英雄と契約していることが判明したからだ。
「便宜上ヴィランということになりますね。Dは英雄の力を使って、クラスメート達に復讐するのだと言ったんだそうです。在学中、数名のクラスメートにいじめられていたそうで……Dの言い分では、傍観していた他の人達も同罪だから、一緒に罰を与えるのだとか」
 スタッフは、ここで一枚の見取り図をホワイトボードに貼った。
「クラスメート達は、同窓会を開いていた教室から逃げて、現在体育館に籠城中です。中から鍵がかかって、頑丈だから逃げ込んだのでしょう。リンカーの力を以てすれば破壊も可能ですが、Dは今のところ体育館の周囲をうろつき、時々軽い打撃を壁面などに加えるくらいのことしかしていません。じわじわいたぶっている、と言うところでしょうか」
 悪趣味な。
 何人かが眉を顰めた。
「事件発生から、五時間余り経過しています。警察が周囲を包囲して説得を行っていますが、まったく聞く様子はありません。体育館から離れる様子もないので、HOPEのエージェント達でこっそり近づいて速やかに取り押さえるというのがベストと思われます」
 スタッフは、そこで説明を終えた。
「人質になっている人達の体力と気力が心配です。万一戦闘になっても、なるべく彼らの安全を重視してください。よろしくおねがいします」
 そして、最後に独り言のようにこう言った。
 ――復讐で被害を被るのは、標的にされた方ばかりではない。と。

解説

●目的
 F高校に現れたヴィランを確保、人質を救出します。
●敵
 D(仮名)
 ヴィラン。強さはデクリオ級。現在元クラスメート達が逃げ込んだ体育館の近くを徘徊し、逃げないよう見張るのと同時にじわじわといたぶっている様子。逃げてきたクラスメートの話では、木刀とナイフを所持していたとのこと。「ライヴスブロー」は使えるのではないかと思われる。あまりライヴスを駆使した戦い方には慣れていない様子。

●場所
 F高校の体育館周辺。戦闘に入る場合は、人質の救出と安全な場所への避難が優先されるので、なるべくDを体育館から離すのがベスト。体育館の右手横にはグラウンドがあるので、戦うならそこがベストポジションか。

リプレイ

●誤算
 パトカーと機動隊が包囲する現場に、リンカー達が到着する。
「お勤めお疲れ様です。あとは任せてください。ええ、何が起きても絶対に介入しないように。人質を開放したら保護はお願いしますね」
 梶木 千尋(aa4353)は、近くにいた警官の一人にそう伝えてからひらりと身を翻し、学校の敷地へ駆け込んでいった。
「フフッ……得た力を使って復讐……実に低俗で薄汚い人間らしくて素敵♪ ……ただセンスがないわ。やるならもっと残虐なショーにして世間に見せつけてやらないと……。こんな吐き気を催す美しくないショーは見るに堪えないわ。止めるわよ鈴音」
 朔夜(aa0175hero002)のやる気はやや物騒な方向に向いているようだ。
 朔夜は元の世界で実の姉の輝夜に殺された、らしい。その恨みを晴らすためにこの世界でヴィランとなって輝夜への復讐を果たそうとした、そうだ。そんな自分とDを重ねているのかと、御門 鈴音(aa0175)は相方を案じる。
「リンカーになってやることが復讐。わかりやすいくらいつまらない奴ね。そのDというのが男なのか女なのか知らないけれど」
「女の子だったら容赦するの?」
 高野 香菜(aa4353hero001)の様子を見て、千尋は溜息をついた。
「……香菜なら容赦しそうね」
「可愛かったらするかもねー」
「女のくせに最悪よね、貴方」
 香菜は、あははと笑う。
「ま、正しさなんて一意に定義できないものさ。Dにとっては今こうすることが正しかったんだろう。でも社会にとっては迷惑な話さ。だから排除される」
「貴方はそれでいいわけ?」
「復讐にせよ誇りを感じられない相手はブチのめしても後悔しないね」
「ま、同意するわ。この程度で満足してるなら十分更正できそうではあるけど」
 体育館の傍で、二人は共鳴した。とりあえずは様子を見て、Dを体育館から引き離した上で戦闘に持ち込み、取り押さえるのが作戦だ。
「わ、私、ちゃんとできるでしょうか…」
 ヴィラン相手ということで、夕川 ひろき(aa4657)は緊張していた。加えて、正真正銘の初めての任務なのだ。
「ひろちゃんなら大丈夫やでー、リラックスリラックスー」
 ナヴェ(aa4657hero001)はそんなひろきの肩を揉んでやっている。しかしだんだん、スキンシップが過剰になっていく。とうとう全身でハグをしてきたナヴェに、ひろきは怒った。
「状況考えてください、状況!」
 だがおかげで、少し緊張は解けた。ナヴェがそこまで計算していたのかどうかは、定かではない。
 問題のヴィラン、Dは共鳴しているようだ。人の姿をしているが、見た目からは性別がわからない。だがかなり長身で、長い手足と木刀を使い、体育館の周りをうろついては時折強く壁を殴っている。中の人質を威嚇しているのだ。復讐を目的に掲げている以上、いつ本当の暴力で以て人質に襲いかかるかわからない。過去に同情すべき点はあるにしろ、それとこれとは別問題。とにかく人質の無事が優先される。
 藤林 栞(aa4548)と藤林みほ(aa4548hero001)が、共鳴したのち体育館へ潜入できないか試す手筈になっている。腕の立つ忍者なので隠密行動こそ真骨頂だ。昔の忍法「地蜘蛛穴蜘蛛」をまず試みると言っていたが、途中堅いところがあるとダメかもしれないとも話していた。その辺りは臨機応変だ。
 だが、体育館の周囲に散らばって各々準備を始めたリンカー達にとって、まさに誤算とも言うべきことが起きたのだ。
 今までのDの打撃とは比べものにならない、激しい激突音が響き渡る。何度も、何度も。
 見つからないように物陰から様子を窺ったリンカー達は、信じられない光景を目の当たりにする。
「……馬鹿みてえに殴ってるから、よっぽど楽しいのかと思ったが。別にそんなこともねえな」
 獅子ヶ谷 七海(aa1568)との共鳴を果たした五々六(aa1568hero001)が、何と体育館の壁を殴りつけていたのだ。
「俺? お前を捕まえに来た、ただのエージェントだよ。――だが気が変わった。その復讐、手伝ってやろう」
 狼狽えるDににやりと笑いかける五々六。普段から一筋縄ではいかない雰囲気を纏っていたが、まさかの行動にリンカー達に僅かな動揺が走ったのも無理はない。
「おい、おっさん!」
 佐藤 鷹輔(aa4173)が、たまらず飛び出した。
 共鳴時に於いて見た目は七海、主導権の大部分は五々六が握る。少女の顔が凶悪な笑みに歪むのを、鷹輔は認める。
 かなり予想外の状況だが、やるべきことは変わらない。鷹輔は語り屋(aa4173hero001)と共鳴し、五々六とDに向かって突進した。
「教えてやるよ。人間はどうすれば死んじまうのかを。どうすれば死なずに、長く苦しみ続けるのかを。復讐のやり方を教えてやる」
 鷹輔の攻撃を易々と受け止め、はじき返す五々六。凶悪な少女の笑顔が、立ち尽くしていたDにぎろりと向けられる。
「中の連中を殺した後はどうする? 満足して死ぬか? それとも理不尽な世界への復讐を夢見ながら死ぬか? 安心しろ。最期の最期、お前が惨たらしく死ぬそのときまで付き合ってやる」
「おっさんなら容赦なく殴れるが、チビスケの見た目だと調子狂うな」
 間合いを取った鷹輔は、体勢を立て直すとすぐに二度目の攻撃にうつる。最初からDは眼中にない。真に警戒すべきは、五々六だ。
 まったく手加減しない、共鳴したリンカー同士の攻防はすさまじい。体育館に土砂がぶつかり、嵐のような音を立てる。エージェント達は一旦、攻撃の余波が来ないところまで下がらざるを得なかった。
 そんな中で、ナラカ(aa0098hero001)と共鳴した八朔 カゲリ(aa0098)だけが、微動だにせずにその場の様子を眺めていた。
 彼は肯定者故に否定をしない。復讐然り、そして対等と認めればこそ対処は厳然である。
「己が成した事、ならば邪魔される事も覚悟の内だろう。抗えば良い。そうして復讐を完遂させてみろ。それさえ貫く意志も覚悟もないなら、お前は一体何をしている」
 今はカゲリの裡に潜むナラカにとって、今回の首謀者に対する認識は「詰まらない」の一言。それが己が真としての意志の輝きならば、彼女は色を問わず愛している。では此度のそれは輝きと呼べる物であっただろうか――。
 逆襲と呼べば聞こえは良いが、力を得なければ何もしなかったでは単なる無様でしかない。抗う事に、力の有無は関係ないのだから。
 ならばこそ、その目は仲間の側へと向けられる。皆は如何様な輝きを見せるのかと。
 すべてを肯定する者は、何が起きてもあるがままと受け入れるのだ。
 主導権を朔夜が持つ状態で共鳴した彼女は、五々六達の攻撃が止んだ瞬間飛び出した。手近な地面を、ライヴスで強く穿つ。すさまじい音がして、Dが注意を向けた。
『朔夜。相手を殺してはダメよ』
 鈴音が頭の中で話しかけてくるのに、不適に応える。
「わかっているわ。HOPEの連中がスイッチを入れれば私は頭に埋め込まれた爆弾で木っ端微塵。それに独りよがりな感情で駄々を捏ねている人間なんて殺すに値しないわ」
 今の行動も、Dを体育館から遠ざけて味方が人質を救出しやすくするための陽動だ。
(……口ではそう言ってても……本当は朔夜もわかってるのよね……。……信じてるから……)
 鈴音の祈りは、届いただろうか。
『あの暴れてるエージェントはどうするの?』
 千尋と香菜は、じりじりと体育館に近づき、Dが油断する隙を窺っていた。
「控えめに言って最悪よね。リンカーの評判が落ちる前になんとかしてくれるんじゃないかしら。佐藤さんが」
『わー、なげやり』
「こっちはDのほうをどうにかするわよ」
 ともかく今回の任務の最終目的がDの制圧なのだから、確保してしまえば事件は解決だ。不毛なリンカー同士の戦いも終わらせられるはず。

●人質救出
 一方ひろきは、共鳴したあと体育館の裏手に回り込んだ。うまくDの注意が逸れた隙を狙ったので、気づかれていないはずだ。
 入り口は中から施錠されているようだが、高いところにある窓や通気口は大丈夫そうだ。あとは、Dが体育館から離れた隙に、人質を逃がすよう誘導したいところだが……。
 その時、体育館正面入り口ががらっと開く音がした。あわてて見にいってみると、若い女性が外へ飛び出すところだった。
 あわてて駆け寄ろうとしてやめたのは、女性の顔が目に入ったから。
 栞にもみほにも見える顔立ち。共鳴した彼女達だ。
 Dが栞に気づいて、追いかける。五々六と鷹輔は戦闘中で、咄嗟にその行動を止められなかった。だが結果的にはそれでいい。彼女の狙いは、まさにそこにあるのだろうから。
 ひろきは、体育館の窓にむかって外壁をよじ登った。
「HOPEの者です! 今、犯人を引き離してますので、その間に避難を!」
 登録証を見せつつ、中に声をかける。憔悴しきった顔の人質達は、それでもやや元気を取り戻した様子で動き始めた。
 一旦共鳴を解き、ナヴェに外にいる警察への連絡を取ってもらう。可能な限り警察車両を近づけてもらい、ひろきは速やかに避難誘導を行った。途中でカゲリを見つけたので手伝いを要請すると協力してくれたので、かなり要領よく人質は救出された。
 あとは、Dの確保だけだ。
 ナヴェと協力したひろきは、戦闘が行われている様子の運動場へ向かったが、そこで見たのは驚くべき光景だった。
「……って、何が起こってるんですかこれ!?」
『なんやオモロイことになっとるなぁー』
 運動場は、相当酷いことになっていた。あちこち抉れているし、五々六と鷹輔の攻防の余波で、そこここから砂柱やライヴスの余波が襲ってくる。
 これが、本気のリンカーの戦い。まだエージェントになって日が浅いひろきは息を呑む。
 と、舞い上がる砂埃の向こうに、蠢く人影が目に入った。Dだ。へっぴり腰で四つん這いになり、よろよろと張っている。
 だが、不意に手を押さえて転がるD。何か突き刺さっている。ひろきに生憎知識はなかったが、それは栞がまいたまきびしだった。リンカー用の武器ではないのでほとんど弾かれているが、「何かが刺さった」という事実が心に及ぼしたダメージが大きかったようだ。Dは動かなくなる。
「目を逸らすな、そこで見てろ」
 鷹輔の声が、そのうずくまる背中に追い打ちをかけた。
「おとなしく気絶していたほうがシアワセだったと気付いても遅いわよ」
 だが本当の追い打ちは、ここからだった。ライヴスリッパーを発動させた千尋が、容赦なく殴りかかったのだ。
『うわ、エグっ』
「香菜のほうがよっぽど酷いことしそうよ」
『しないしない、僕は平和主義者だもの』
「……嘘ばっかり」
 Dがほとんど抵抗らしい抵抗をしないため、殴りながらも千尋と香菜の脳内会話はいつも通りの調子だ。その内、構えた盾で気持ち程度に攻撃するだけになる。
 戦闘意欲が低下した相手は、あまり追い詰めすぎても無意味だ。むしろ、逆上させてしまう危険もある。
 まさに今回が、そのケースだった。
 Dが突如、千尋に向かって突撃した。構えた木刀に、ライヴスの気配がある。ライヴスブローだろう。
 まともに食らえばダメージになる。千尋は一旦間合いを取って下がり、絶妙のタイミングでそこに朔夜が割り込んだ。選手交代と言ったところだ。
 口では悪ぶっているが、朔夜にも重い過去がある。姉への復讐のために多くの人間の命を奪ってまで姉と戦った結果、敗北したのは朔夜だった。人間の持つ絆の力に負けたことを重々承知しているため、独りよがりな感情で力を振るう道の先にあるのは自分のような破滅の道しかないということを戦闘しながら伝えているのだ。だから、その攻撃は鋭くありながらも、致命傷や重傷にならないよう配慮されたものだ。
 Dには、果たして伝わっていただろうか。
 朔夜はライヴスフィールドを使い、相手を弱らせながら近接攻撃でジワジワと体力を確実に奪う戦術をとっている。先ほどからの心身両方へのダメージが効き始め、Dの攻撃はまったく朔夜にかすりもしない。
 栞が援護に入った。
 いっきに間合いを詰め、Dの両耳を掴んで顎をあげさせ、投げ倒す。「吹き返し投げ」といって、本来は兜の吹き返しという部分を掴む技だ。
 普通の人間ならダメージを受けただろうが、相手は曲がりなりにもリンカー。この程度では怯まない。足下はかなりふらついているものの、まだ向かってこようとする。栞は柔術の投げ技を駆使して応戦する。たとえ実際のダメージはなくとも、攻撃を食らったという精神的な打撃は心に作用する。まして、まともな実戦経験が無いのであればなおさらだ。
 法を犯す者には、法が牙を剥く。剣を振るう者は、剣によって滅びる。復讐は餓鬼畜生の道である。安穏な生も死も望むべくもない。その程度の覚悟はできているのだろうと、「能力者同士の殺し合い」に巻き込んだきっかけである五々六は笑う。だが実際のところは、鷹輔との勝負がついてグラウンドに座っている状態だ。もう手出しする気はない。
 鷹輔は、攻撃を受けすぎて自失の態のDに対峙した。
「次はお前の番だ。武器を手にした以上、覚悟はできてるよな?」
 Dはぼんやりと鷹輔を眺めたあと、弾かれたように木刀を構えた。既に折れて、藻との半分の長さもない。
「あなたの復讐対象は全員避難しました、これ以上の戦いは無意味です!」
 今まで見守っていたひろきが、駄目元で投降を呼びかける。これ以上やっても、誰も何一つ得るものはない。喪うばかりだ。
 それがわからないわけではないだろうに、Dは木刀のなれの果てを降ろそうとしない。無残に折れたそれは、ぶるぶると震えているのに。
「――復讐は何も生み出さないと、人は言うが。それでも尚と求めるなら、それだけの価値は確かに宿る。少なくとも、行う者にとっては」
見守るカゲリとナラカ。共鳴は解いている。他のリンカー達も共鳴を解除し、遠巻きに見ているだけで誰も止めない。Dが意思を翻さない限り、無理矢理の仲裁は意味をなさない。
 鷹輔が、一気に間合いを詰める。Dは避けきれず、胸ぐらを掴まれ捕縛される。
「かつて俺もいじめに耐えきれず逃げた。転校先でもスクールカーストくそ最下位だ。俺はな、もう馬鹿にされたくねえんだよ。ちやほやされてえんだよ。馬鹿やれる友達も、可愛い彼女も欲しいんだよ。で、お前は何が欲しいの?」
 Dを容赦なく揺さぶり、鷹輔は怒鳴りつける。
「行動に中身がねえ。感情だけ。ガキの癇癪じゃねえか」
 Dは何も言わない。ただ鷹輔を睨むだけ。こういう場合に定番の『お前に何がわかる』という台詞が使えないからだろう。
 それは相手を糾弾すると同時に、高い位置から絶対的に拒絶する言葉だ。相手のいかなる言動も封じ、それによって救いの手を拒む言葉だ。だから、言ってしまえば優越感と引き替えに、負の連鎖から逃れる道も閉ざされる。
「俺は質問してんだろうが。答えろ。暴れんな。言いたいことがあんなら口で言え。吐き出さねえから鬱屈するんだよ」
 乱暴に胸ぐらを突き飛ばし、たたらを踏んだDを鷹輔は思い切り殴りつけた。
「魔法なんざ必要ねえ。拳で相手をしてやる。掛かってこいよ、くそ雑魚」
 へたり込んだDは、一拍の間を置いて立ち上がり、奇声を発しながら鷹輔に向かっていった。折れた木刀を振り下ろす。空いた手で拳を作り、殴りかかる。稀にライヴスが発動しているが、そもそも攻撃がまったく鷹輔にかすりもしない。先ほどからひどくやられ続けているため、もはや肉体的にも精神的にも限界を超えているはずだ。
 それでもこうして戦おうとするのは、ただの意地か。
 ある程度Dの攻撃を受け流してから、鷹輔は動いた。こぶしを避けられて大きくよろめいたDの背中を、容赦なく殴りつける。
 あとはもう、一方的だった。
 そもそもとっくの昔に、事件は収束していたのだから。

●その後
「……ほんとに、しんでもいい覚悟の復讐だったらどうするの」
 すべて終わったあと、HOPE支部の一室で七海と五々六は話していた。
 不安げな七海の言葉を、五々六は鼻で笑う。
 本当に後先考えないなら、たかだか数十人の人間に報復するのにリンカーである必要などない。英雄を得るまで実行に移せなかったのなら、結局は「その程度」の復讐心である。それを見抜いていたからこそ、あんな茶番ができたのだ。
「よく見ておけ、クソガキ。あれは、俺たちの写し身だ」
 借り物の力で増長し、強者を気取った負け犬の姿。ああなっては外道としてさえ下の下である。この茶番は全て、それを七海に見せつける為。畜生には畜生の生き方があると、この幼いパートナーに教えておかなければならない。五々六はそう思ったのだ。
 伝わっただろうか。ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて俯く少女の姿から、内心は窺えない。それでも今回は、これで良しとしよう。機会はいくらもあるのだろうから。なければ作るまで。
 だがまずは、差し当たって……。
「……また始末書かな」
「いい加減クビになりそうだね、トラ」
 七海は、黄色い猫のぬいぐるみに話しかける。
 一方鷹輔と語り屋は、支部スタッフと交渉の末Dとの面会許可を得ていた。
 一応の治療を受けたらしいDは、無言で二人の正面に置かれた椅子に座る。
 語り屋は、おもむろにラバーマスクに手をかけた。仮面とラバーマスクを外すと、鷹輔と同じ顔が現れる。素顔を晒した途端、おどおどする語り屋を、Dは多少の驚きを浮かべつつ黙って見つめている。
「僕は二人いるんだ。表に出てるのは理想の僕。僕はその陰で理想を語るだけ。騙してごめんね。君に偉そうなことは言えやしないんだ」
語り屋が語り屋となった経緯も、複雑なものだ。あまりに長いため、それがここで語られることはない。彼が語る言葉は、他にもあるのだから。
「でも今は理想に追いついてやろうとも思ってる」
 高すぎる理想は己を苛むが、目指す場所があることは励みにもなる。どんな過去があろうと、何者が邪魔をしてこようと一心にそこへ向かい進むことこそ、人生の忌まわしき邪魔者への最大の復讐になるのではないだろうか。 
「気が向いたら訪ねてきて。話し相手になるくらいで、大して何もできやしないけど」
 立ち上がった語り屋を、Dは小さな声で呼び止めた。名前を尋ねる。
 彼は答えた。語り屋とだけ。
 再びラバーマスクと仮面をつけ、静かに鷹輔と共に立ち上がる。退出の直前、扉に手をかけ振り返る。
「我は語り屋。語ることしかできぬ者。縁があれば、また会おう」
「悔しけりゃ挑みにこい。またボコボコにしてやるよ」
 そうして扉は静かに開いて、やはり音もなく閉まった。

 「復讐は何も生み出さない」
 この言葉は決して、復讐の対象となった人々を守るためだけにあるわけではないのだ。己を踏みにじった者への憎しみという名の執着は、そこにしがみついた分だけ、自分を幸せにするための時間と労力を無駄に費やすことに他ならない。
 事件は、こうしてここに幕を閉じたのだった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • エージェント
    獅子ヶ谷 七海aa1568
  • 葛藤をほぐし欠落を埋めて
    佐藤 鷹輔aa4173
  • サバイバルの達人
    藤林 栞aa4548

重体一覧

参加者

  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 遊興の一時
    御門 鈴音aa0175
    人間|15才|女性|生命
  • 残酷な微笑み
    朔夜aa0175hero002
    英雄|9才|女性|バト
  • エージェント
    獅子ヶ谷 七海aa1568
    人間|9才|女性|防御
  • エージェント
    五々六aa1568hero001
    英雄|42才|男性|ドレ
  • 葛藤をほぐし欠落を埋めて
    佐藤 鷹輔aa4173
    人間|20才|男性|防御
  • 秘めたる思いを映す影
    語り屋aa4173hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • 崩れぬ者
    梶木 千尋aa4353
    機械|18才|女性|防御
  • 誇り高き者
    高野 香菜aa4353hero001
    英雄|17才|女性|ブレ
  • サバイバルの達人
    藤林 栞aa4548
    人間|16才|女性|回避
  • エージェント
    藤林みほaa4548hero001
    英雄|19才|女性|シャド
  • 期待の星
    夕川 ひろきaa4657
    人間|19才|女性|命中
  • 癒し手
    ナヴェaa4657hero001
    英雄|28才|女性|ブレ
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