本部

そんなことが許されるとでも

ガンマ

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
4日
完成日
2016/10/22 18:58

掲示板

オープニング

●湯水のような悪意
 テーブルトークRPGというゲームを遊ぶ為に必要不可欠な本、ゲームのルールが記されたルールブック。
 それは卓上戦戯という一連の事件において、愚神のドロップゾーンの入り口の媒介となってしまった為、現在世界中の本屋やホビーショップから姿を消していた。H.O.P.E.の方で発売の一時中止や一時回収を呼びかけたためである。
 つまり愚神を倒すまでの一時的ではあるが、この世から一つの娯楽が姿を消したのだ。仕方ないとはいえ、安全のためだ。

 ――問題は、そこに目を付けた悪がいたということ。


●リアルって最高のゲームだよな!

「任務です」

 H.O.P.E.ブリーフィングルーム。オペレーターの綾羽 瑠歌がエージェント達を見渡し、そう告げた。
「現在、【卓戯】の作戦でテーブルトークRPGのルールブックがドロップゾーンのアクセス媒介となってしまっていることはご存知でしょうか?」
 冒頭の通りの解説。それから、瑠歌はよく通る声で言葉を続けた。
「発売中止になっているルールブックを違法に集め、『特殊な加工を施したから安全だ』と偽り、法外な値段でルールブックを密売しているヴィランがいます」
 ホログラムで四人の男の顔画像が浮かび上がった。彼らが件のヴィランだという。
「特殊な加工、というものは述べました通り真っ赤な嘘です。なにも施されていないルールブックですね。
 特に……グロリア社の新作テーブルトークRPGが【卓戯】事件の黎明に巻き込まれてしまったことはご存知でしょうか。件の新作はたいそう『楽しみに』されていたものだったそうで……」
 ヴィランの「安全だから」という嘘を信じてしまい、購入する者がいるのだ、と瑠歌は眉根を寄せた。
「エージェントの皆様には、このヴィラン達を捕縛して頂きます。いずれも戦力としては最低クラスですが、ゆえに真っ向から戦闘をすることはなく逃走を第一に行うものと予想されます」
 詳細は配布した資料をご確認下さい、とオペレーターは言葉を一度切った。それから、ふぅと困ったように溜息一つ。
「娯楽や好きなことを制限されると、もっとやりたくなる気持ちは分からないでもないです……小さな頃にゲームを厳しく制限されていた方が、成人してからゲーマーになる、なんて話もありますし。
 我々H.O.P.E.の勧告に背いてヴィランの甘言に乗ってしまった方については自己責任、とも言えるかもしれませんが……今、この場で一番『悪』なのはこのヴィラン達と、事件の元凶である愚神ですね」
 そしてその『悪』を『どうにかしなければならない』のが、H.O.P.E.なのである。

 ゲームの世界も、リアルの世界も、エージェントとは大忙しだ。


●因果応報って知ってるか

「ひーふーみー……ボロ儲けだな」
「存外に上手くいくもんだなぁ、H.O.P.E.の連中にバレないといいんだけど」
「奴等なら、今頃愚神退治で大忙しだって。こんなとこまでわざわざ来るわけねーだろ」
「テーブルトークRPGってそんな楽しいゲームなの?」
「おいおいカバー外すなよ、売れなくなるしドロップゾーン送りになったらどーすんだ」
「つか定価で3000クレジットぐらいするじゃん。ソシャゲのガチャ代に回した方がお得じゃね?」
「知らねーよ俺やったことねーし」
「お前一緒にやってくれる友達いねーもんなワハハハハ」
「うっせーカス殺すぞ」
「じゃあ発送いってくるわー。おいダラダラしてねーで行くぞ」

 天気は秋晴れ。
 悪事に終止符が打たれることを、彼らはまだ知らない。

解説

●目標
 ヴィラングループの捕縛(重罪人ではない為、過度の傷害や殺害禁止)
 ルールブックの回収

●状況
 二班に分かれて行動すること。
 時間帯は日中。晴れ。
 いずれも周囲の混乱なく事態収拾を目標としているため、避難勧告などはせずに処理すること。一般人の目撃なども最低限が理想。
 各ヴィランは違法AGWを所有しており戦闘もできるが、素人程度のザコである。
 いずれもH.O.P.E.の存在を察知すれば逃走を試みる。
 申請があれば捕縛用の手錠など支給可能。

▽状況A
 とある住宅街の中にある安アパートの一室。狭い。
 室内はヴィランが集めたルールブックや、梱包用のダンボールだらけ。かなりごちゃごちゃしている。長い得物を用いる際はペナルティが発生する可能性あり。
 住人は疎らにしか住んでいない。
 ヴィランが二名。ドレッドノート(メリケンサック装備)とシャドウルーカー(ナイフ装備)

▽状況B
 状況Aから離れた位置にある住宅街。
 ルールブックを積んだワゴン車が走行中。
 ヴィランが二名。ソフィスビショップ(魔道書装備)とジャックポット(拳銃装備)
 申請があれば車両支給可能。

リプレイ

●麗らかな秋晴れの下

「転売ヤー死すべし、慈悲は無い」

 ストゥルトゥス(aa1428hero001)は笑顔だった。だが目はマジだった。
「捕まえるってこと、分かってるよね……?」
 恐る恐るニウェウス・アーラ(aa1428)が声をかける。「分かってるさ」と英雄は答えるが、やっぱり目はマジだった。
「ヴィラン組織って言ってもホント、色々あるもんだな……ま、この程度の輩だったら、油断しねェ限り、何とかなんだろ」
 東海林聖(aa0203)が見やった先には安アパート。今回のヴィラン共のアジトにして、これから乗り込む場所だ。Le..(aa0203hero001)も聖の隣でそれを見上げている。尤もルゥの考えていることといえば、
(お腹空いた)
 なのだが。
「今回は、私と伊奈ちゃんが適任ね。犯人にH.O.P.E.だってバレないようにしないとね」
「連中も、私みたいなかわいこちゃんがまさかH.O.P.E.だとは思わないよな」
 そう大真面目な顔でやり取りするのは大宮 朝霞(aa0476)と春日部 伊奈(aa0476hero002)だ。美少女のぱぅわはむげんだいなのだ。(?)
 本日の作戦は正面突破――ではない。朝霞達A班はアパートに引っ越してきた住人として、まずヴィランと接触する作戦だった。

 それは、少し離れた位置で待機しているB班も同じような状況。

「……こう かな」
『フリでいいんだよエミヤ姉、郵便局員を観察する人ほとんどいないから』
 その近く、共鳴状態でオートバイに乗ってるのは依雅 志錬(aa4364)とS(aa4364hero002)だ。ライヴスの内でそうやり取りした通り、『一人』となった二人の姿もオートバイも郵便配達員のものだ。イメージプロジェクターの効果である。
『目標については把握OK?』
「……ん」
 事前にヴィラン達のワゴン車の種類や構造まで調査済みだ。それを今一度脳内で確認し、志錬は頷いた。
「金儲けは自分も好きッス。ただ、これは見過ごせねーッスね」
 H.O.P.E.から支給された車の運転席にて。ハンドルにもたれたDomino(aa0033)は漫然とナビ画面を見た。
「民草といえども悪は裁かねばならぬのだ」
 厳かに答えたのはペンギ……英雄のMasquerade(aa0033hero001)。後部座席からニュッと顔を出したが、ドミノに「車がスゲー揺れるので小さくなってるッス」と言われ「従者の助言は聞き届けねばな!」と言われた通りになった。実際は車にペンギンが乗っていて怪しまれないようにする為だ。
「向こうも配置に着いたようです」
 スマートホンから顔を上げた荒木 拓海(aa1049)が、B班の仲間達へ通信を行う。
「作戦開始、ね。サクッと終わらせましょ」
 拓海と共に仲間達の車両後方。メリッサ インガルズ(aa1049hero001)が秋風に靡く銀の髪を軽やかにかき上げた。

 かかる二つのエンジン音。
 一方の安アパート前では足音が。

 かくしてエージェントは、それぞれの状況を開始したのである。


●状況A:乗り込め! ヴィランのアジト
(……ルゥ……お腹空いた……)
(30分前に食ったよな……)
 聖とルゥはそんなやり取りを小声で交わした。アパートのベランダに潜んだ現状、ライヴスの気配を悟らせぬようルゥは幻想蝶の中だ。
(さて……)
 聖は窓から部屋の様子をそっと窺う。ごちゃごちゃとした部屋にヴィランの姿二つ。どうしてこんなにごちゃごちゃしているのかというと、ルールブックやらダンボールやらがそこかしこに無秩序に置いてあるからだ。他の場所にもルールブックがあるのか不明だが、部屋にボンと置かれていることを考慮すれば、至る所に置いてありそうだ。
 次の着目点……ドアの鍵が閉まっているかどうかは窓からは見えない。確認するにはドア付近の廊下まで行かなければならないだろうが、それはちょっとこの狭い部屋でスニーキングしつつ確認しに行くのは無理そうだ。
 が、窓自体は開け放たれていた。今日はキンモクセイも香るいい秋晴れだからか。ラッキー、と聖は脳内で呟く。まだヴィランにもバレていない。頭を引っ込め、スマホを操作する。すらすらと打ち込まれる文字は聖が見たとおりの情報。言葉はこう、締め括られた。

『作戦開始』

 ぴーんぽーん。

 かくして、場面はその一室のドアの前。インターホンが鳴った。まもなく「はい?」と返答が。
「今度このアパートに引っ越すことになりました者です、ご挨拶に参りました」
 朝霞がニコヤカに言う。すると「ああ、ご苦労様です」なんて言葉と足音の後、開かれるドア。まだチェーンは付いている。鎖越しにヴィランの目に映ったのは朝霞とニウェウス。
 いかにも人畜無害そうな笑みを浮かべる可憐な女性二人、「xxx号室で、ルームシェアなんですよ」とニウェウスの言葉。部屋番号はあらかじめ確認しておいた、『嘘に使えそうな空き部屋の番号』だ。
「はぁ、そうですか」
 それに、ヴィランは疑いのウの字もないようで。可愛い子が二人で若干嬉しそうでもあるようで。
「ほんの挨拶、なんですけど……受け取って、くれますか?」
 菓子折りを差し出すニウェウス。「お気遣いどうも」とやはり警戒心ゼロのヴィランがチェーンに手をかけ、そして――外した。

 瞬間である。

「伊奈ちゃん!」
「ストゥル!」

 二人が英雄の名を口にした。
「オッケー!」
「アイアイサー!」
 返事は、ヴィランからは死角――左右の壁から。伊奈、ストゥルトゥスは隠れていたのだ。飛び出してきた英雄は幻想的な蝶の光を散らし、それぞれの能力者と共鳴。
「んなッ、」
 目を剥いたヴィランが自らの幻想蝶に手を伸ばした――時にはもう、遅かった。
「こればっかりは、仕方ない、よねっ」
 ニウェウスが振るう銀杖ケリュケイオンより放たれる無数の霊力蝶。それがヴィランを包み込む。
「うわっ、!?」
 ヴィランの短い悲鳴、落ちる菓子折りの箱。空き箱であるそれは軽い落下音を響かせた。群がる蝶の翅はライヴスを奪い、強力に獲物を虚脱させる恐るべき羽ばたきだ。

 が。

「ひええぇぇえぇ――え あれ? 俺死んでない?」
 蹲ったヴィランが理解が追いついていない顔で、ソロッと頭を上げた。蝶が霧散する。ご覧の通りヴィランは無事である。
 幻影蝶は、従魔、愚神、邪英を攻撃するものだ。このヴィラン、どうやら契約先は愚神ではないようである。慌てて自らの英雄と共鳴をしてナイフを構えるヴィラン。
「しまった、――!」
 今度はニウェウスが目を見開く番だった。
 だが次の瞬間!
『ドラァ!』
 ストゥルトゥスが雄叫びと共にニウェウスの体を操作。それで何をしたかと言うと、右手で中頃を握っていたケリュケイオンを一閃! 無慈悲なる一撃!
「ごぶぉ!」
 ニウェウスの手に伝わる鈍い衝撃! 横っ面をマジカルにどつかれてヴィランの鼻血が飛ぶ! そのままノックアウトだ!
 これにはニウェウスもポカーンである。
「……ちょっ、ストゥル!?」
『峰打ちでござる』
「峰!? 杖に峰!?」
 ともあれサンキューケリュケイオン! なんかこれ前もあったような。なお一応、当て身程度の一撃なのでヴィランは死んでいない。失神しているが。
「ソフィスビショップって一体……」
『魔法も奇跡もあるんだよ』
「ストゥルのばか! エビフライぶつけるよ!」

 ともあれ、一名の無力化に成功。

「残念だけど、今回は変身ポーズはなしね」
『そうだな。迅速に共鳴しなくちゃいけないからな。いやぁ、残念だぜ』(あ~、はずかしい思いしなくて済んだぜ)
 朝霞はその間にアパート内に滑り込んでいた。今回は状況ゆえにいつものポーズは省略して、『聖霊紫帝闘士ウラワンダー』に変身だ。狭いアパート、もう一人のヴィランと遭遇するのに秒もない。
「動かないで! 貴方達を捕縛します!」
 幻影蝶は先ほどの通り効かない可能性が高い。ので魔法はまだ使わず、朝霞は声を張り上げた。バイザー越しの視界には、驚いた顔のヴィラン。驚いた顔のヴィランの視界には、歌劇団もかくやな豪奢なる衣装を身に纏った正義のヒロイン。窓から吹き込む風にマントがかっこよく靡く。
「ほ、H.O.P.E.か!? まさか!」
 共鳴をするヴィランだが、苦し紛れと言っていい。退路――玄関への道は朝霞に阻まれている。
 ならば、とベランダへの窓へ振り返った。が。

「行き止まりだ」

 ライトグリーンの風を纏う聖、その共鳴姿が窓の前に立ってヴィランの退路を断っている。高められたライヴスの出力は『全力』、聖はポルックスグローブで武装した拳同士をかち合わせる。
『ヒジリー、任せた……』
 今日は剣は出さないとのことなので。聖のライヴスの中でルゥが呟く。
 直後だ。やぶれかぶれか、メリケンサックを装備したヴィランが聖に殴りかかってくる。
 それを、聖は――その手で受け止めたではないか。素人の拳など止まって見えた。
「……この程度なら、抵抗したってオレ達には通じねェな……怪我したくなかったら、まず反省しろ」
 静かに説得の言葉、投降を促す。
(極端に実力差を感じれば、少しは丸くなるか……?)
 じっと見つめる聖の眼差しに、ヴィランは歯噛みし後ずさる。降伏とまではいかないが、戦意の大凡は喪失したようだ。必死に逃げ道を探して視界を巡らせるが――
「確保ーッ!」
 横合いから仕掛けられた朝霞のタックル。それはヴィランの両足を絡めとリ、大きく転倒させる。
「さぁ、観念しなさい!」
 朝霞の言葉と共に、ガションという金属音。慌てて身を起こしたヴィランはその音の正体にすぐ気が付いた。……手錠だ。自らの両手首に。
「貴方のもう一人の仲間も既に拘束済みです。抵抗しなければこちらも手荒な真似はしません」
 彼女の言う通りだ。ニウェウス(実際にはストゥルトゥス)がはっ倒したヴィランは、支給された手錠で両手足を拘束済みである。
「逃げ場もなく、仲間も貴方も拘束されたこの現状で、これ以上の抵抗は無駄なものだと思いますよ?」
 そう朝霞に投降を促され。二人目のヴィランも、降伏をしたのであった。



●状況B:捕らえろ! ヴィランの車

「目標を確認」

 平和そのものな住宅街。拓海の真剣な声がスマートホン越しに仲間達へ伝えられた。
「ドミノさん、地点Dへ先回りできますか。……ではそこで。オレは依雅さんと追跡を行います」
 さて。曲がり角の塀に身を隠し、拓海は遠くの目標――ワゴン車を窺い見る。
「穏便に終われば良いんだけれど」
「駄目ならその時はその時。それに、『荒事用』の作戦もちゃんと考えてるんでしょ?」
 拓海の傍らには同じように気配を殺したメリッサ。英雄の言葉に、彼は「まぁ、一応ね」と苦笑を一つ。

 一方で、共鳴状態の志錬が『郵便配達のバイト』を装い、それとなくワゴン者を追跡する。近付きすぎず、離れすぎず。
『なんだかドキドキするね。テレビで観た……スパイとか、そういうのみたい』
 Sの物言いは快活だ。そうかも、という意味を込めて志錬は小さく頷き一つ。それからバイクを止める。前方――停まった目標と、そのすぐ向こうにドミノの車。

「すみません、ちょっとエンジントラブルがあって……本当にごめんなさい! あの、私まだ免許取ったばかりで、あの……今何とかしますから、ちょっと待って下さい!」
 道のど真ん中で停まった車は、必然的に目標の車の行く手を塞いでいた。その車の傍ではドミノが、焦った早口で必死に謝罪を並べ立てる。今のドミノは『ウッカリ車が動かなくなって慌てている学生若葉ドライバーA』だ。
「あぁ? さっさとしろよッぜーな!! 迷惑なんだよ!」
「こっちは仕事してるんだよ、仕事! 分かってんの?」
 窓が開いて口々に雑言。「すいません、すいません」とドミノは何度も頭を下げる。慌てた手つきでああでもないこうでもないと車の点検の真似事をする。その手際の悪さや慌て振りはヴィランのイライラを煽るようで、ますます暴言がエスカレート。

 ――全てドミノの手の上だなんて思いもせずに。

(悪党っつーのは下手に出ればつけあがるモンッス)
 今にも泣き出しそうな『フリ』の奥、心中にてドミノはドライに溜息を。安いものだ、中身もない謝罪で時間稼ぎが出来るとは。タイムイズマネーが真ならば、この「すいません」で石油王もビックリのボロ儲けである。
 さて。
 スマホでトラブル解決方法を検索するフリをして、ドミノは仲間からの連絡を確認。準備OKとのこと。「なにスマホいじってんだよ」「これだからガキは」なんて言葉に幾度めかの「すいません」。

 そして状況が動き出す。

「……? あれ、エンジンが……」
 車内のヴィランが異変に気付いた。エンジンの不調。動かない。まさかこっちまで車のトラブルが?
 おいお前見て来い、運転手の言葉に、助手席のヴィランが渋々車から降りた。車体を一通り眺め――
「なんだこれ」
 気付いた。排気管に詰められたこれは、
「ティッシュ? なんで、一体いつのまに――」
 ギュウギュウに押し込まれた紙屑の束。

 彼らは知る由もない。
 ドミノが時間稼ぎをしている間に、拓海がコッソリとヴィランの車の排気管にティッシュを詰め込んだことなど。

「車の鏡に映りこまなかったでしょうね?」
「もちろん、しゃがみながらやったからね。その証拠に上手くいったみたいだよ」
 生垣の隙間から状況を見守るメリッサ、拓海。
「いよいよ大詰めね」
 メリッサが見やった先は、住宅の屋根の上――

『屋根の上では猫の足 ね』
「……ん、配置ついた。撃てる」

 そこにはイメージプロジェクターを解除した志錬。目標の後方、屋根に身を伏せ、英雄弓ガーンデーヴァを静かに引き絞る。暗殺者の鋭い眼光は、既に標的を捉えていた。
 事前に打ち合わせをしていた最良の狙撃スポットだ。仲間達の手で作り上げたこの機会、逃すわけにはいかない。
『ええっと。……我ら似姿にして現身、然して今生の禍を打ち払わんとす!』
 ちょいと慣れぬ物言いで、ライヴス内の英雄が言葉を放ち。同時に矢も、放たれた。

 一本は、排気管に詰められたティッシュを取っているあまりに無防備な男の足の甲を。
 もう一本は、運転席でイライラと注意散漫な男のハンドルを握った手の甲を。

 恐るべき的確さで、貫いた。

「ぎゃっ!?」
 ヴィランの悲鳴が重なる。
「ぐっ、襲撃だと!?」
 運転手のヴィランは外の仲間を見捨て、一気に車をバックさせて逃走を試みた。が、車が動かない。拓海の釣り竿「黒潮」のライヤーがタイヤの一つを絡め取り、機能停止に追い込んだからだ。
 だけでなく。ヴィランの逃走する気力を完全に圧し折るように、志錬の鋭い一射が別のタイヤも破壊する。
「……フラグアウト」
 これだけ精確な射撃を、いつでも撃ち込めるんだぞ。逃げるだけ無駄だ。――志錬の矢はそう語る。否が応でも理解させ、黙らせる。
「……車と足、抜いて……おしまい」
 志錬が弓を引き絞ったまま見据える視線の先、共鳴した拓海が車の後方から挟み撃ちのように姿を現す。ヴィラン達を見やっている。

「王様、そろそろ出番ッスよ」
 退路を立たれ歯噛みするヴィランを車内から見、ドミノはバックミラー越しにマスカレイドを見やった。
 いきなり余の威光にあてられては、流石の悪人と言えども気の毒というものだ――そういう理由で待機していたマスカレイドであったが、遂に出陣である。
「あ、自分は安全な所から見守ってるッスよ!」
「うむ、余の活躍をそこで見ているがいい」
 言うなり、マスカレイドが車内より躍り出て――声を張り上げる!

「そこまでだヴィランよ! 余の民と言えども、その積荷は見過ごせぬぞ!」

 張り上げられた声、その異彩を放つ姿にヴィラン達はすぐにマスカレイドが英雄であることを理解した。
「や、やはりH.O.P.E.なのか……?」
 畜生めと顔を顰める彼らに、王は言葉を続ける。
「既に灸は据えられたであろう。これ以上の抵抗は無意味だ。足と手をやられ、全力での手合いも最早できまい?」
 余自ら武器を振るうのは躊躇われる。マスカレイドは投降を促す。

 最早、ヴィランは「選択ができる」などという贅沢ができる状況ではなかった。

 両手を上げたヴィランが降参する。
 ここに状況は一件落着……いや。散歩か何かで偶然通りかかったおじいちゃんがポカーンとしているではないか。
「撮影打合せで……お騒がせし申し訳ない」
 咄嗟に拓海が平身低頭。マスカレイドに「格好いいポーズして!」と合図も送る。
「お騒がせして申し訳ありません! 『戦! クラッシャー皇帝・ペーンギン&蛇忍』は近日放送予定となっております! どうぞお楽しみに!」
 ドミノもすぐさまフォローに入る。そう、これは特撮的なああいう奴の撮影なので、危険はないのだと。
(王様は……あ、ちゃんとポーズ取ってるッスね。オッケーッスよ)
 一方、志錬は目撃されない内にそっと屋根から下りていたのであった。ポカーンとしていたおじいちゃんは「そうなのか……」と納得してくれた。よかったよかった。



●状況アフター
 互いの作戦が成功したことを連絡し合い――さて。

 状況A。
「これは……ここのルールブック回収に車両出動要請しないといけなさそうですね」
「うえー、ホコリっぽーい、マスクと軍手ほしーい」
 朝霞は伊奈と協力して、ルールブックを探し出してまとめていた。にしても随分な量だ、引越しもかくや。そんな作業をしながら、部屋の隅に仲良く捕縛されたヴィランへの見張りも忘れない。
 見張られているヴィランといえば、仁王立ちのストゥルトゥスに見下ろされていた。
「プレイヤーの確保が難しいジャンルで、値段の釣り上げを行ったらどうなるか……ふふ、怒りが込み上げてくるヨネ」
 英雄は笑顔だ。あくまでも笑顔だ。
「模倣犯が出て、テーブルトークRPGの転売が流行ったらどうする気だい? プレイヤー、確実に減るよ。コロスヨ?」
 英雄は笑顔のまま眼鏡をクイッと指で押し上げた。目はマジだった。ヴィランがヒエッと息を呑む。
「君達。ここで大人しく捕まっておかないと……プレイヤーに飢えた全能力者GMを、敵に回す事になるゾ」
 めがねが ギラリと ひかる! ヴィラン達は「もうやりません」を震えながら繰り返すだけとなった。
 ひと段落したところで聖が、彼らへ他に余罪はないか追求を。結論から言えばルールブック密売以外には特に目立った悪事はしていないようで――とはいえ。
「次やったら三発ずつぶん殴るぜ?」
 と、聖は笑顔で脅すのであった。再犯防止のためである。凍った彼らは青い顔で頷くのであった。


 状況B。
 こちらもルールブックの確保に成功。大きく戦闘することもなかったゆえに、全ての本が無傷だ。
「向こうの班のは、引越しレベルで車で運ばないと無理っぽいみたいッスねー」
 A班からの連絡が入ったスマホを見つつ、ドミノ。まぁまもなくH.O.P.E.が派遣したトラックなりで運搬されることだろう。今しがた、志錬がH.O.P.E.への任務完了連絡を入れてくれたところだ。

 なお道の真ん中でパンクさせたヴィランの車については、住民の邪魔にならぬよう共鳴したリンカーのパワーでちょっと持ち上げて道の脇に移動させておいた。

 さて、降参し捕縛されたヴィランに対し。こちらではメリッサが、仁王立ちで見下ろしていた。
「パッケージ、開けてあげる。一度体験すれば良いのよ。あなた達のしたことがどれほど、危険なことかをね」
 英雄は笑顔だ。その手には、ルールブック。彼女はなんの躊躇もなく梱包のビニールを剥いでページを開けようと――!
「ちょっ、リサ!」
 ギョッとした顔でそれを止めに入る拓海。
「なぁに、冗談に決まってるでしょ」
 そんな相棒に、メリッサは肩を竦めた。梱包も剥がれていない。「肝が冷えた」と拓海は溜息。
 だがその一瞬は、ヴィラン達には恐怖という効果で覿面だったようだ。彼らを見、しかし拓海は慰めるような真似はしない。
「誰かを犠牲にし欲を追う奴に同情の余地は無い」
 静かな怒りだ。先ほどドミノの演技に見せたような威勢はどこへやら、ヴィラン達は黙り込んだまましおしおと顔を俯ける。もう一度溜息を吐き、拓海は男達から視線を外した。
「早く解決して、誰もが安全に遊べるようにしなきゃな……」
「みんなで動いてるもの、すぐにそうなるわよ」
 相棒の呟きに、メリッサが微笑む。
 ここでない世界、ゲームの世界では戦局が大きく動き始めていた。だがH.O.P.E.は、負けるわけにはいかないだ。リアルでも、ゲームでも。


「こうして、テーブルトークRPG界を脅かす悪は去ったのである……」
 平和の戻った住宅街。ストゥルトゥスは目を細めて町を見つめる。そんな彼女の肩に、ニウェウスがポンと手を置き。
「プレイヤー、増えるといい、ね」
「ウン」
 ぶわっ。


 アナログゲームに光あれ……。



『了』

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 罠師
    Dominoaa0033
    人間|18才|?|防御
  • 第三舞踏帝国帝王
    Masqueradeaa0033hero001
    英雄|28才|?|バト
  • Run&斬
    東海林聖aa0203
    人間|19才|男性|攻撃
  • The Hunger
    Le..aa0203hero001
    英雄|23才|女性|ドレ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 私ってばちょ~イケてる!?
    春日部 伊奈aa0476hero002
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • カフカスの『知』
    ニウェウス・アーラaa1428
    人間|16才|女性|攻撃
  • ストゥえもん
    ストゥルトゥスaa1428hero001
    英雄|20才|女性|ソフィ
  • もっきゅ、もっきゅ
    依雅 志錬aa4364
    獣人|13才|女性|命中
  • 先生LOVE!
    aa4364hero002
    英雄|11才|女性|ジャ
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