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広告塔の少女~天晴れの章~
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最終発言2016/10/15 07:17:11 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/10/11 20:19:01
オープニング
● 世界再生の物語~赤原 光夜の場合~
「今回お前らに集まってもらったのは他でもねぇ。俺のOP曲、そのPVを作ってもらう必要があるからだ!」
ジャーンとギターをかき鳴らす『赤原 光夜』は高いテンションである。しかしこの狭い会議室でアンプに繋いでしまうのはどうだろう。
案の定遙華はあからさまに迷惑そうな顔をした。
「そのギター壊すわよ」
「そう言うパフォーマンスもありだな」
額を抑えて怒りを収める遙華、気を取り直して君たちへの説明を再開する。
「はい、みんなごめんね。こんなところに集まってもらって。たぶん光夜にまかせてると何も話が進まないから私が話しをするけど」
「なんだとこら!」
赤原は激怒した。
遙華はスルーした。
「今回は翼を使った、空での戦闘をテーマに、PV撮影をしてもらうわ」
そう言うと、頼んでもいないのに光夜は盛り上がるBGMを奏で始めた。
「企画書はこっちね。曲としてはわが社で発売するRPGの主題歌になるの。ファンタジックな世界観とアップテンポな曲調が特徴」
「俺としては熱いPVを期待してるぜ」
「いつものことじゃない」
「今回はお前らで戦う演技をしてもらう、熱く行こうぜ」
「今回はセリフありバージョンのPVは光夜のライブDVD特典。セリフなしのショートバージョンは光夜のCDに付属されるから」
「曲のタイトルは《真紅閃光》だ。カッコいいだろ」
「はいはい、じゃあ、さっそく役を振り分けていくわよ」
● 『世界の終りの物語』
グロリア社ゲーム部門。去年春に発足の宣言をされたゲーム業界に現れた新鋭。
そんな彼らが今年の冬さっそく初タイトルをリリースすることになっていた。
名前を『世界の終りの物語』
ジャンルはRPG、テーマは『君は世界を愛することができるか』
この物語はいわゆるハイファンタジー。現実の要素が全くない、多種族魔法、剣魔物。そして魔王がいるオーソドックスなファンタジーの世界。
一つだけ従来の世界観と違うとすれば。
シナリオ進行に当たって徐々に世界の真実が行進される点だろう。
このゲームは主人公の選択によって二つの世界の内容が変わる。
二つの世界とは現実世界とこのファンタジー世界の歴史や未来である。
主人公のもともと生きていた現実世界。
そして主人公が今生きているファンタジー世界。
このどちらの世界で生きるのか、またどちらの世界が本物なのか葛藤しながら主人公は物語を進めていき、最後にはファンタジー世界は何度も崩壊のすえ作り直されていることを知る。
それを阻止するには現実世界を犠牲にする必要があるが……
主人公ははたして何を選び、何を捨てるのか。
それがこの物語の大体のあらすじ。
● 企画書提出~遙華の場合~
《曲名》 フライハイ
《曲調》 アップテンポで拳を突き上げるような曲調。歌詞としては。
拳を打ち合わせたライバルが舞う空へ、折れた翼で駆けあがる。
その翼は熱量を纏い燃え盛ってライバルの元へ。
「やっと追いついたぜ」
そして命を賭した決戦が始まる。
ゲームのOP曲でありテーマソング。
主人公が逆境に幾度となく立ち向かっていく姿を描くほか。
重要敵対人物の視点から絵がかれる曲でもある。
その人物は劇中で《焦土の騎士》と呼ばれている。
彼はゲーム序盤では主人公の圧倒的壁。
中盤ではライバル。
終盤では彼を守るために命を落とすというキャラになっていて。
主人公の成長面を支える敵キャラである。
そのため、今回のPVでは誰かに《焦土の騎士》の役をやってもらうとともに。
その戦闘モーションをキャプチャーさせていただくことにもなる。
《舞台》 南国の島の上。抜けるような青空。下は青い海。
《ギミック》 翼
三種類の汎用翼。そして《焦土の騎士》専用の翼を用意した。使ってほしい。
焦土の騎士専用 『冥府灼翼<スルト>』
とても大きな翼が特徴、エネルギー質の翼が背中の大型ユニットから広がる。
太陽さえも覆ってしまえる翼で出力はけた違い。
また翼を別に動かすことで、ラウンドに一回追加行動が可能である。
これは自分の行動が終了していれば、好きなタイミングで宣言できる。
さらに、魔法物理両攻撃力に+200され、ダメージをつねに5カットする。また、スキルの使用回数が全てプラス1される。
エネルギーウィング(EW)・メギド
背中のユニットから広がる翼、形状は任意で変更可能。
安定した性能で空においてペナルティーがなくなる。さらに従来の壊れにくさを克服しており、攻撃を受ける際に多重にシールドをはれるようになった。
移動力に+2 さらに両防御力に+100される
EW・奏多(かなた)
こちらは音響設備と翼が一体になっている。
持ち前のAGWではない楽器と接続することによって、AGWとして扱えるようになる。
この楽器は
魔法攻撃 か 物理攻撃 70
命中 120
特殊抵抗 3
射程 1~17
イニシアチブ 8
のAGWとして機能する
EW・響枷(ひびかせ)
こちらはもともとあったグロリア社の《エンジェルスビット》が発展したもの。
多数のスピーカーユニットを飛行させつつ自身も空を飛べるのでよりアクロバティックな演奏が可能である。
自身のもつ楽器をAGWとして使用できる。
この楽器は
魔法攻撃 か 物理攻撃 120
命中 80
特殊抵抗 1
射程 1~25
イニシアチブ 1
として機能し。さらに任意のキャラクター一体の、奏多、響枷の攻撃力を+50することができる。
《役》 戦闘系なので共鳴前提。
『焦土の騎士』 モーションをキャプチャーするので派手な戦闘をお願いします
『騎士の配下』 主人公の仲間より数は少なめで、主人公の仲間より人数が増えると厳しいかもです。
『主人公』 主人公のポジションを募集します。主人公を中心にドラマティックな戦闘を期待します。
『主人公の仲間』数名
『赤原 光夜』 彼はリンカーではないので翼を使えません。なので空からパラシュート装備で自由落下しながら歌うらしいです。
彼の周辺での戦闘をお願いします。
* シナリオや役設定はスカスカなので、個人で設定を持ち込んでも可。
解説
目標 PVを作成する。
今回は光夜と遙華ペアでのPV撮影です。
設定を盛り込む余地があるのでRP重視かと思いきや戦闘系でもあるのでRP難易度は高めかもです。
このシナリオは赤原とのちょっと+した雑談から始めるので、彼に何か言いたいこと訊きたいこと、今後の仕事の要望など言ってくれると次の依頼に変化があるかもしれません。
● 後日談
このPV撮影はほぼ同時リリースされる広告塔の少女~月明かりの章~と同じ島でPVを撮影している設定です。
なので、このPV撮影が終わった後の打ち上げ。BBQは月明かりの章の人たちと一緒にやってる設定です。
リプレイ
プロローグ
「あれ? どこにいるんだろ、おかしいなぁ」
そこは南国の砂浜、スケジュールの関係でギリギリの合流となった『天城 稜(aa0314)』は『リリア フォーゲル(aa0314hero001)』に手を引かれて撮影場所の真下までやってくる。
そこで稜は光夜に出会った。
「こんにちわ、稜です、お久しぶり」
「おうステージで対決して以来か? そういや、こうやってゆっくり話をするのは初めてだな」
そう手を差し出す光夜。
「ちなみに僕は今回、ECCOさんのPVで使わせてもらったキャラの延長線上という形にするよ?」
「そいつは面白い、存分にやってくれ、あんたのアーティスト性、俺は信用してる」
「あ、赤原さん」
そんな仲良く語らう二人に声をかけたのは『雪ノ下・正太郎(aa0297)』
「753プロの雪ノ下・正太郎です宜しくお願いします」
「おう、よろしくな」
そう正太郎が握手を交わしていると、上空をヘリが通過した近くの即席ヘリポートに着陸するとそこから降りてきたのは銀髪の女性と芯の通った紳士。
「いつものモノプロダクションでございます。本日はよろしくお願いします」
『セバス=チャン(aa1420hero001)』と『クラリス・ミカ(aa0010hero001)』が慣れたように挨拶をかわすとその小脇を少女二人が駆け抜けていった。
「おはよう! 遙華!」
「また今回もお仕事ありがとね、頑張るから」
そう告げたのは『蔵李・澄香(aa0010)』、そして『小詩 いのり(aa1420)』いつもの花が咲くような笑顔で二人は今回の企画人遙華に声をかける、振り向く遙華。
「…………」
黙って二人を見つめる遙華その背中を。
「おい、嬉しそうな顔したまま呆けてんじゃねぇよ」
そんな遙華の背中を光夜が蹴った。
短い悲鳴、そしていのりと澄香が遙華に駆け寄った。
「うわ、赤原さん女の子に、そんなことしちゃだめだよ」
いのりが抗議の声を上げる。
「そうですよ、野蛮です」
澄香も抗議の声を上げる。
「いや、大丈夫よ」
しかしいつもなら真っ先に怒りはじめそうな遙華は笑ってる。
「それより翼の調整に行きましょう、ふふふ。いのり楽譜は頭に入ってる?」
そう言っていのりと澄香の手を取って走り出す彼女はとても楽しそうだった。
そんな二人を上空から見つめている少女がいた。すでに背中に翼を装備している。
「僕は観測者」
――何もこんな時まで観測していなくても……。それは役の中だけのことじゃないか。
『イリス・レイバルド(aa0124)』と『アイリス(aa0124hero001)』である、彼女たちはすでに何度も飛行実験を繰り返しているために自分たちで機器の調整ができるのだ。
「まさに世界の終わりで歌い続ける少女……!」
――新たな世界の始まりかもしれないけどねぇ。
《撮影開始》
稜は深い微睡の中にいた。
永遠に落ちていくような感覚、暗闇は鋭く心をえぐる。
「過ぎたる日々との決別を どう思えばいいか解らなくて……」
稜はかつてその世界を侵略しようとする魔王と戦った。
その時は世界で一番大切な物を犠牲に勝利して、そしてその後もずっと戦い続けている。
だが、稜はある日敗北した。背中に翼を広げる騎士の前に膝をついたのだ。
記憶がよみがえる、あの日、稜の世界の全てを焼いて現れた、あの鎧の人物を。
「……ふむ」
そう蹲る稜を見て、焦土の騎士『フィー(aa4205)』は頷いた。品定めするような視線を向けて大剣をその場に突き立てた。そして。
その鋼に包まれた手を広げ。クイクイと動かし挑発をするように動かすと。
告げた。
「その程度か? 向こうのあいつはもう少しできたぞ」
「くそおおおおお!」
稜は立ち上がった、その拳にすべての思いを乗せて叩きつけた。
しかしそれは軽々と止められて、そして。
「――ついて来れるか?」
瞬間に三連打。それほどの間での攻撃を受けて耐えきれるはずもなく。稜は焼けた土の上に横たわることになる。
「期待外れか」
そう告げて焦土の騎士は去った、しかしその騎士が元の世界に戻るためのゲートは開きっぱなし。
稜は目をあける、気だるい体を引きずってそのゲートの先を見る。
「僕は、まだ戦える……」
その向こうには鎧を身に纏った異世界の自分がいて。
「常に感じていたよ、どこか別の場所で戦い続ける僕の存在を」
その言葉に答えるように正太郎はゲートから身を乗り出して、兜を投げ捨て頷いた。
「彼女が愛した世界がそこにもあるんだね」
その言葉に正太郎は頷く。
二人は一つだ、その記憶も行いも、願いも一つである。
「本当に大切なのは、僕がこの世界を二度と忘れずに済んで、きっと皆と別れた後も大事にしていけると言うこと……」
「彼女とした約束の為に、僕は戦う」
「戦いとは、理屈ではなく信仰だ。相手も、他も、何もかも関係なく、己の信じる想いの為に!」
「さぁ、始めようか? 互いに譲れない物を守る為の戦いを……」
稜は最後の力を振り絞って立ち上がった、その背に翼を宿して正太郎へと手を差し出す。
「俺だけではあいつに勝てない、けれど、こっちの世界と、そっちの世界の俺たちなら!」
そして二人は世界の狭間を飛んだ。
直後様々な声が、歌が二人を包んだ。
「同じ……を……きる、……せの……な……の……界」
「今の所……界に……びはないよ。予……、いつ……り、……世界は……と始……を……ている」
「いったい何を」
「焦土の騎士と世界を司る女神三姉妹の長女、敵対する存在と分かりあい、そして離別する悲劇、それでも『君は世界を愛することができるか』」
澄香の声が高らかに響き、次いで暗闇をかき消すような鮮烈なギターサウンド。
次の瞬間、二人の主人公の眼下に広がるのは青い海。そして。
全身を武骨な鎧で固めた焦土の騎士。
「やっときたか……」
焦土の騎士が剣を抜くと同時に正太郎は赤い鎧をまとい、稜はメタリックな翼を顕現させた。
「ハッピーエンドを返してもらう……」
《決戦》
曲が始まると共に三つの光が戦場を目指して走った。
その光は途中で袂を別って、二つの光が稜と正太郎の周囲で形を成す。
「世界を司る三姉妹、次女イノリだよ、よろしくね」
「三姉妹……末妹のイリスです」
そう告げるとイリスはイノリの後ろに隠れてしまった。
目を瞬かせている稜に対してイノリが補足をする。
「ボクら姉妹は堕天した女神で、ボクは君たち、そしてスミカは敵側にそれぞれ加護を与えてる存在なんだ」
「な、なるほど」
「ねぇ、お姉ちゃん」
そんなイノリの袖を引っ張ってイリスが言った。
「……は確かにこの世界の特異点…」
ぼそりとつぶやくように話すイリス。
「うんそうだね……」
頷くイノリ。
「イノリお姉ちゃん……スミカお姉ちゃんは、なんで焦土の騎士の元へいったのかな?」
「わからない。スミカにはスミカの考えがあるんだと思う。でも、それが正しいとはボクには思えない!」
そうイノリは焦土の騎士の隣に佇むスミカに視線を送る。
二人の視線が交わって火花が散るのと同じタイミングで、主人公たちの翼が動いた。
先頭を務めるのは正太郎。
「もう、お前の好きにはさせない!」
その言葉を一笑にふすと焦土の騎士は剣を自身の翼、スルトに預け籠手だけの徒手空拳で主人公たちを挑発した。
「どれ程成長したか試してやろう」
「ボク達は確かに……に協力している……でも、真実は伝えていない」
イリスは思いつめたような顔をしてイノリの後ろにつき、そして女神二人はスミカの元へと走った。
「騎士殿、ここは私が……」
そんな一行を目にして澄香が前に出る。その翼は北極の氷を切りだしたように鋭利で冷たい。
さらにはその翼に染められるようにスミカは、イノリやイリスの知るカラーではなくなっていた。
全身真っ青な彼女が操るのは当然氷の魔法。
凍てつく音色が翼から生まれ、そしてそれが氷塊となって四人を飲み込んだ。
「貴方の選ばなかった世界は滅びるのです。世界を司るものとして、私はそれを良しとは出来ません」
突如空中に割いた氷の花、しかしそれを戦闘に立っておしこめているのはイノリ、彼女がいなければ即座にここでゲームオーバーだっただろう。
「ほう……」
驚く焦土の騎士。
「来なさい、戦士よ。そして妹たちよ。私を踏み越えて行きなさい」
「俺の闘志は爆発寸前!!」
そしてその氷を溶かしたのは正太郎の気合。
「最後の最後まで負けない!!」
次いで焦土の騎士へと迫るのは正太郎。接敵する直後に稜が弾丸を放つ。
それを騎士は翼の熱で焼いて防ぎ。次いで振るわれたライヴスツインセイバーの一撃を、騎士は、手首を抑えることで防いだ。
「な!」
「さて、――ついてこれるか?」
騎士は構える。稜が膝をついたあの攻撃だ。
「けど、二度も通じない!」
一撃目、それは正太郎が体をひねって最小限のダメージで抑え。
二撃目は稜の支援射撃のおかげでそれた。ダメージはほとんどない。
三撃目。それをもろに腹へと受けた正太郎だったが。
多少の血を吐いただけでその翼の輝きは失われていなかった。
「……成る程、少しは変わった様だな」
そしてついに焦土の騎士はスルトのから、神斬を抜く。
「さて、始めようか」
場を満たす、冥府の炎の威圧感。それが場を満たした瞬間。焦土の騎士は、その名に恥じない圧倒的な力を振るい始めた。
「なんで……なんで姉妹で争わないといけないの!?」
片や三姉妹の戦場では、イリスが叫びをあげていた。
その嵐のような氷雪攻撃に防戦一方の次女と三女。
「それもわからない……」
傷ついたイリスを癒しながら、イノリはその盾を真っ向から構えた
「でも、ボクは信じてるんだ。いつかまた、姉妹みんなで笑い会える日が来るんだって!!」
直後、流星のように三本氷の柱が打ち出される。それを二人の盾がはじいてかき消す。
イノリとイリスは二つの盾を合わせるようにお互いを守りつつ、主人公たちにその攻撃が及ばないように細心の注意を払う。
凍てつく盾は触れれば指が張り付いてしまうほどに冷たくなっている。
かといって盾を捨てるわけにはいかない。
「スミカ! お姉ちゃん!」
イノリは無意識のうちに昔の呼び方で彼女を呼んでいた。
飛来する氷の刃、それを弾き寒さに凍える体を押さえつけた。
「笑いあえる日? そんな日は……」
チャージ、スミカの指先に膨大な霊力が集中する。
あれは彼女が得意な広範囲殲滅魔法。
イノリはその時後ろを振り返った、射線上には二人の主人公。
「イリス! 彼らを!!」
頷くイリス。そして。
「もう、こないんだよ!!」
切なげに叫んだスミカの猛吹雪が四人を襲う。
「そんな……」
二人の防御のおかげで主人公たちは傷を負わなかった、しかし。
まるで盾を縫いつけられたように凍結してしまったイノリの腕。イリスの翼。
「女神さま、どうして」
それでもここで戦うことをあきらめるわけにいかなかった。
「ボクはみんなみたいに強くない。でも、戦わない訳にはいかないんだ――!」
イノリは氷を跳ねのけてスミカにタックルを食らわせる。
と言ってもあまりに力が弱く、それは抱き着いたようにしか見えなかった、けれど彼女の両腕の動きを止めることに成功する。
「この……」
「そうだ、俺たちは、ここで、諦められるわけがないんだ!」
正太郎は加速して、再度焦土の騎士に食らいつく。
「イリスさん、大丈夫?」
稜がその翼を温めようと手を伸ばす、しかしイリスはその手を取って止めさせた。
「ボクは……大丈夫です。行って。それが無駄なあがきでも……」
「無駄にはしない、僕は約束したんだ」
稜が噛みしめるようにつぶやくと、イリスは微笑んだ。
「世界をお願いします」
その時稜の動きが変わった。
回転するように空気をかき分け空へ。
スルトから放たれる火焔攻撃をもろともせずロール。体を翼になるべく密着させ、空気抵抗をなくしてターンそして、銃を構えた。
「誤差修正、計測完了、ファイヤ!」
放たれた弾丸はスルトで阻むことができず焦土の騎士の顔面に突き刺さる。その時兜が真っ二つに、割れた。
「そんな、あんた……」
正太郎が言葉を失う。中から現れたのは流れるような黒髪。
「女の子だったの!?」
稜が声を上げると焦土の騎士。フィーは笑った。
「成る程、面白い! 面白いぞ!」
そしてフィーの刃の苛烈さは増す。剣で攻撃を弾き翼で反撃、正太郎を嬲るように翼の熱で焼いていく。
「もっと楽しもうではないか! なあ!」
「くそ……」
歯噛みする正太郎。
「……貴様、手を抜いているな?」
稜の放つ銃弾を回避、あるいは壁のようにスルトを展開、銃弾をはじく。そのせいで正太郎をうまく援護できない。
「く……」
正太郎はツインセーバーの柄でその剣を押し返そうとする。ただ翼の揚力がすさまじく。正太郎は地面めがけて押し込まれてしまう。
「くそ!!」
稜は銃を構えて一直線に空を駆けた、引き金を何度も引くが、その翼に弾丸は飲み込まれるばかり。
「私は今まで女だからという理由だけで軽んじられ、不当な扱いを受けてきた」
「何を言っている?」
「貴様も、あいつらと変わらんと言うか!」
直後轟音地面に叩きつけられる正太郎、次いで稜が地面に降り立つ。
「そこをどけてもらう」
稜はその手に白鷺そして烏羽を握りしめ騎士と相対する。
しかし、その切なげな横顔が彼女と、重なる。
「貴女も、何かを背負ってる?」
その言葉に首を振って応えず、フィーは熱に浮かされた瞳で稜を見た。
「消えろ」
次の瞬間地面を踏み砕いてフィーは駆けた。
《決着》
「君は、何と戦ってるんだ?」
稜は焦土の騎士に尋ねた。
「さて、もう忘れてしまったよ、最初は様々な感情があった気がする。認めさせてやりたいだとか、護りたいだとか。だがもう」
焦土の騎士はマントのように翼を翻した。
「全て忘れてしまったよ、焼却の彼方だ、私は焦土の騎士だからね!」
「みんな!」
イノリは叫びをあげた、しかしスミカが駆けつけることを許してはくれない。
「早く行ってください。二人が!」
イリスがスミカの前に立つそして、イノリは頷き最大加速で二人の元まで飛んだ。
「なぜですか、イリス、知ってるでしょう? あなたならわかっているでしょう、私が何をしているのか、自分が何をしているのか」
「それでも僕は! 僕は!」
イリスが叫び、イノリの両手から光が溢れた、それは正太郎の傷を癒していく。
「立てる?」
「ああ。立てる」
「僕は君がどんな選択をするか知らない」
イノリは正太郎の双眸をまっすぐ見据えた。
「でも僕は君がどれだけ世界を愛してるか知ってる……」
正太郎は頷く、そして武器を手に取った。
「行って! キミの選択が世界の選択だよ!」
その瞬間、イノリの翼と正太郎の翼が共鳴した、歌が響き。そしてコーラスの厚みが変わった。
クライマックスだ。
「焦土の騎士!」
正太郎はツインセーバーを切り上げるように振るう。その衝撃を殺すためにフィーは空へ。
「あの状況でまだ息があったか」
「俺は死なない、この世界を救うまで」
「その選択が何を意味するか分かって言っているのか」
「知ってる、どちらかの世界の消滅だ!」
稜は目を見開く、それでも、気を散らしたりはしない。
まずは目の前の敵を倒す方が先決だ。
「はああああ!」
稜は最大加速でフィーに食らいつく、その両手の槍を叩きつけるように振るってはスルトの風圧ではじかれて正太郎が食らいつく。
正太郎は剣圧ではじかれ、その間に稜が刃を突き立てる。
息の合った連係で騎士を追いこんでいった。
「これがお前たちの本当の力か」
次の瞬間である、稜が槍を突き出した。その穂先に収束されていた霊力は爆ぜスルトを切り刻んでいく。
「なに!」
空中で焦土の騎士の体制が崩れた、次の瞬間。
「おお!」
ライブスツインセーバーが真紅の輝きを持ち閃いた。
回転しながらの切り下げ、そして切り上げ。それは騎士の鎧を打ち砕き、そして勝負を決するのには十分な威力があった。
焦土の騎士はぼろぼろの姿で微笑む。
「行けよ、貴様には果たさねばならぬ事があるのだろう?」
「そうはさせません」
次の瞬間二人を襲う冷たい閃光。しかしそれから二人を守るため。騎士は単身盾となる。
「そんな!」
「焦土の騎士!!」
「わかっているはずでしょう? その物は世界を消滅させようとしているのです、自分の采配で、この世界が砕けてしまう可能性があるのですよ、それなのに……、なぜ……」
「騎士さん!」
正太郎と稜はその凍てついた体を両手に抱え、そして問いかけた。
「なんで、こんな……」
「構わんさ、ここで果てるようならそれまでだったという事だ」
そう告げると、焦土の騎士はその翼を全力ではためかせた。
「ああ、そうだ、これが終わったらまた手合せでも頼もうか」
そう冗談めかして告げる騎士。ただ、その願いがかなわないことは誰の目にも明らかだ。
「見るがいい女神、これが世界を焦土とすることで、世界を守ろうとあがいた騎士の全力だ」
「……がっは。小癪な!!」
その後は一方的な試合だった、女神の攻撃をただ受けて耐える騎士。
そしてその翼の断片が一つの門を形成した。
「もう行くといい。時間もないのだろう?」
そう振り返らずにフィーは告げた。
「ありがとう、あんたは最高の騎士だったよ」
その言葉にフィーは笑みを浮かべると。剣を振りおろし女神の魔術を切って捨てた。
「――さて」
そして告げる。
「我は焦土の騎士!我を討ち取りたくばその命を賭して来るがいい!
《エピローグ》
「そうですか……。この結末も、世界の一部なんだね」
浜辺、波が寄せて返す音と、すすり泣く声だけ。
「先に逝っていて、私も直ぐに参ります」
そう熱に浮かされた表情のスミカは焦点の定まらない瞳で告げる。
「そんな、何で……」
「騎士を攻撃した時点で、女神失格、この体は解けるように緩やかな死を迎えようとしてる」
その手を握って滅びかけた世界を見るスミカ。
「ああ、最後に青い海が見たかった」
「ボクもいく。スミカとなら、何も怖くない」
「だ、だったら僕も!」
「イリス、キミは生きるんだ……」
「そんな……イノリお姉ちゃん、スミカお姉ちゃん?」
「君は観測者、この世界を最後まで見届けないといけないよ」
そう告げると二人は微笑みあって瞳を閉じた。
「いのりのバカ。イリス、ごめんね。さようなら」
光に包まれて消える姉妹。
「ボク一人で、これからどうすれば……それでも、世界の選択は、近い」
「この世界は、二つの背中合わせの世界で成り立っている……片方が片方を犠牲にしなければ成り立たない、危うい世界」
「彼等の選択をボクは語り伝えます。あなたの事を世界すら忘れてしまったとしても……あなたの選択が忘れ去られる事がないように」
《ラストステージ》
そこは世界の狭間、時の回廊。
その石畳を駆け抜ける青年が二人。
「同じ(時間)を(生)きる、(背中合わ)せの(よう)な(二つ)の(世)界」
「今の所(現実世)界に(ほころ)びはないよ。予(定通り)、いつ(も通)り、(この)世界は(終わり)と始(まり)を(迎えようとし)ている」
アイリス、そしてイリスの声が連鎖的にこだまする。
現実世界に続く回廊、その先に現実世界を葬り去ろうとする魔王がいると聞いた。
「気づいているんでしょう?」
そう告げると未知の途中で稜は振り返る。
「もう一人の僕」
そう稜は正太郎に刃を向けた。
「ああ、そちら側の俺」
正太郎も答えて見せる。
「互いの世界を守るため、互いの世界を否定する。魔王は勝った方が倒せばいい!」
そして物語はクライマックスへ。
《本当のエピローグ》
三日に及ぶ撮影は滞りなく終了した。
「バーベキューだー!」
いのりと澄香は私服に着替えていち早く外に出ると、セバスやロクトがすでに夕食の準備を済ませていた。
「オイオイ、ズイブン普段ト違ウ性格ノ役ダッタジャネェカ」
『ヒルフェ(aa4205hero001)』がフィーに串を差し出す。
「あ! みんなも撮影終わったんですね」
そう澄香は月明かりの面々に声をかける。
「ねぇ、みんな、遙華。私たいものがあるんだ、受け取ってくれますか?」
そう澄香が目を細め囁くと、ポシェットから取り出したのはオレンジ色に染まった水晶の欠片
「これにはね、彼方さんのライブスが宿ってるんだよ」
それを受け取ると遙華はそれを指ではじいた、とても軽やかな音色が鳴る。
「一緒にステージに立つって約束したからね」
「澄香……」
いのりがその背に手を当てた。彼女の表情から笑みが消えたからだ。
「綺麗な、音色だね……」
蘇るのはあの、優しい時間、病室で、誰も自分たちを傷つけるものがいなくて。
彼女は常に笑顔の中心にいた。
優しい時間それはまやかしだったけど、彼女が、傷ついた自分を気遣って、手を取ってくれたことを覚えてる。
「あの子が、笑ってるみたいだね……」
そう涙を流す澄香の肩をいのりと遙華は抱きしめた。