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【屍国】其が人ば愛しき君でなし
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依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/10/12 13:54:41 -
【相談卓】死者へ安らぎを
最終発言2016/10/16 11:45:56
オープニング
●君に会いたいのは本心
『ある―日、森の中―、クマさんにー、出会ーった』
『そこでなんで、オレに抱き着く』
『あら、だって、森家さんはクマさんじゃない』
そうじゃれ合いながら、木漏れ日の中歩くのは、まるで美女と野獣を体現したかのような男と女。男の名は熊王森家。女はのちに熊王の妻となる。ただ、そんな二人の穏やかな時間は熊王三十歳、妻二十歳の時に終わりを告げる
懐かしい夢を見た。そうぼんやりと思い、目を開けた熊王は痛む体をゆっくりと起こした。出会って四年、別れて十年。
熊王は暫く、ぼーっとした後、出かける準備をし始めた。
「クマ、そのからだでどこにいくのです?」
「嫁さんにくらい、会いに行ってもいいだろうが」
熊王は腰に手をあてぷりぷりと怒るビーを尻目に寝台横に置いた松葉杖を手に取る。
「そんなからだであいにこられても、むこうもこまるのですよ」
「……不安なんだよ。あいつはどんなに願っても夢にすら会いに来なかった。それなのに今日に限って、会えたなんておかしいだろうが」
胸騒ぎがするというと熊王はビーの隣を通り過ぎる。ビーははぁと一つ大きな溜息を落とすと「しょうがないのです。あちきもついていってあげるのです」と彼を支えるようにその横を歩き始めた。
とある山奥の寺院。痛む体を引き摺って訪れた熊王は併設されている墓地を見て、目を大きく見開いた。
「どういうことだ!?」
『……よめさんのおはかがあばかれているのです』
なぜ、暴かれたのか訳が分からない熊王はとにかく納骨棺を覗き込む。しかし、そこには何も残っていない。
「……湖(うみ)が、いない」
「よめさん、いなくなってるのです? でも、骨なんて盗ってどうするというのです?」
「知るかよ! そんなのオレが知りてぇ!」
「……それもそうなのです」
なぜなぜと首を傾げたビーに混乱と怒りからいつになく声を荒げ、拳を地面に叩きつけた熊王。それにビーはいつもの喧しさは消え、しゅんとする。
「ああ、クマさん、来てたんですか」
「住職、これはどういうことだ」
「それは私らにもわからんのですよ。突然のことで」
熊王の叫び声に気づいた住職。住職に気づいた熊王の問いかけに住職もよくわからないようで申し訳ないと首を振った。しかし、何が起こったのか知りたい熊王に「一先ず、あちらに行って話しましょう」と彼の体を支え、お堂へと移動する。
「本当に突然やったんですよ」
住職の話によれば、早朝に墓地の方から何かが壊れるような音が聞こえたらしい。そして、何かと訪れてみれば、そこには熊王の妻である湖をはじめとする死者たちが蘇っていたそうだ。青白いその肌の色はどこかのホラーを連想させるも、湖とは知り合いだったため、声をかけることにしたらしい。しかし、近づいた瞬間、右腕を力いっぱい噛まれ、その痛みから後ろに転がった。湖たちは痛みで転がる住職に興味はないようで、ぼーっとした後、ゆっくりとした足取りでどこかに歩き去ったとのことだった。
「まぁ、私はこの程度で済みましたがね。大事をとって、この後病院に行く予定なんですよ」
右腕をさすりながら、そういった住職の言葉は熊王には届いてなかった。
「……湖」
「クマ」
「……一瞬、また会えると思った自分が浅ましい」
「でも、それはひととしてとうぜんのことなのですよ。あいしたひとにあえるわけだし」
「住職、この件はオレが預からせてもらう」
「ええですけど、大丈夫なんで?」
「ああ」
力なくいう熊王にビーは心配の表情を変えることができない。それは住職も同じだったようでビーと同様に心配そうな顔をしている。
「ビー、帰るぞ。すぐにでも、連絡をせないかん」
「わかったのですよ」
力ない声。しかし、目はしっかりと意志を持っていた。それにビーは頷き、住職には「おだいじなのです」と告げ、寺院を後にした。
●ただ、死者は起こしてはならない
『……はい、風じゃ』
「おー、坊か」
熊王は自宅に戻り、すぐさま連絡を取る。それは、以前、知り合ったエージェントの風 寿神(az0036)。普通を装って電話する熊王の姿にビーは何かを言いかけては口を閉じる。
「実はな、湖――十年前に死んだオレの嫁さんが従魔になっちまったらしい」
『……っ』
「十年間の想いが積もったせいでそうなっちまったのかわからねぇが、一瞬喜んじまった。ただな、やっぱり、違うんだよな。死者は蘇ったりしねぇんだよな。蘇ったように見えて、それは違うものなんだな」
電話口では静かに寿神が話に耳を傾けている。それに段々と熊王の声が震える。
「だから、なんだって思うだろう。だが、頼む、湖をまた眠らせてくれ! 今のオレは情けねぇことに嫁さんを助けられる状態じゃねぇ。頼れるのは坊達くらいなんだ」
ゴツンと床に頭を打ち付け、そういう熊王。例え、寿神にその姿が見えないとしても、頭を下げざるを得なかった。
『……知り会っとった縁じゃ。協力しよう。勿論、俺だけじゃ不安しかないからの、他の連中にも声をかけさせてもらう』
「あぁ、構わねぇ。よろしく頼む」
後ほど、寿神の元には熊王から状況などがかかれたメールが届けられ、寿神は呼びかけに応じてくれた君たちにそれを提示した。
解説
死者たちに再び安らかな眠りを
●NPC
・くまんばち
熊王とビーは別の従魔との戦闘により負傷。更に今回のことで傷が開いたため、戦闘に参加不可。
・風 寿神&ソロ デラクルス
くまんばちに頼まれて、死者(主に湖)に再び眠りを与えるため、武器を手に取った。
●従魔
・湖(うみ)
突然、蘇った熊王の妻。病により二十歳という若さで亡くなった。ショートヘアが似合う可愛らしい女性。攻撃方法は悲鳴による超音波。
・その他無縁仏 ×?
湖同様に突然蘇った人々。かつてお遍路さんだったようで……。ひっかく、かみつくなどの攻撃を行ってくる。尚、湖を囲むようにして、移動している模様。
●その他
スタート地点は山奥の寺院。近くに45番札所があるらしく、間違ってお遍路さんが訪れることもあるという。目的地は不明。ただ、大きな町の方に向かって歩いている様子。町などに到達してしまうとパニックになることは必至である。大きな町までは約30km。
リプレイ
●
ギリィと荒れた墓地を眺め、歯を食いしばる虎噛 千颯(aa0123)。
「死者を冒涜しやがって……許せねぇ……」
「千颯……冷静になるでござる」
妻帯者である千颯。だからこそ、熊王の話を聞いてから怒りが抑えられない。愛する人が死ぬは辛い。例え、時が経ったとしても、その人が従魔となり、依頼を出さなければならないという人の心情は推し量ることなどできはしないだろう。拳を握りしめ、怒りを滲ませる千颯を諫めたのは相棒の白虎丸(aa0123hero001)だった。ただ、諫めた彼も死者を冒涜するようなこの件に怒っていることには変わりはなく、拳を固く握っていた。
そんな彼らの一方で御門 鈴音(aa0175)は不安げな表情できょろきょろとあたりを見渡していた。
「……何か……聞こえる」
彼女の耳だけに届いているらしいそれは鈴音に何かを訴えているようだった。怖い怖いと思うもそれを上回る「助けたい」と気持ちが真っ直ぐ墓地を彼女の瞳に映す。その様子を彼女の相棒を務める輝夜(aa0175hero001)は幼い少女の表情とは思えない真剣な顔つきで見つめていた。
(……この依頼を受けたときも鈴音は虚ろな目をしてサインしておったの)
エージェントとして、活動する中で昔に鈴音が無意識に封じてしまったものが少しずつ目覚め始めたのかもしれないと輝夜は心の内で思案する。
「ダレン、今回はボクに任せてくれないかい? 死者に眠りを。ボクの手で、ね?」
『静かに、眠らせてやれ』
「勿論だとも」
ところで、起きてしまった彼らの中には夫婦だった人たちもいるのかな? いるとしたら、一緒に埋めてあげないとねと楽しそう語るエリカ・トリフォリウム(aa4365)にダレン・クローバー(aa4365hero001)は静かにスマホに言葉を打ち込む。
『わたしたちに、区別がつくとは思わない』
「ああ、それもそうか」
対話が出来たら、確認しておかないといけないねというエリカにダレンは呆れたように溜息を零した。
「早めのハロウィンパレードって感じ? さっさと終わらせるわよ」
「死もまた生命の定め……あるべき姿へと還しましょう」
映画とかで見るゾンビみたいなのじゃないといいけどと零す霰屋 知春(aa4485)に墓地の様子を確認していた音野寄 朔(aa4485hero001)は薄く笑みを零す。
「きっと、大丈夫じゃないかしら。住職も近づいたらしいし」
「でも、死人は死人じゃない」
「えぇ、だから、私たちが眠らせてあげましょう」
彼らだって、きっと望んで蘇ったわけじゃないでしょうしと続けた朔の言葉に知春は「来たからにはやってやるわよ」とぶっきらぼうにやる気を見せた。
「死人と化した妻を再び眠らせてくれ、なんて。泣ける場面よねぇ」
「……」
「特に感想無し? ……残念だわぁ」
相棒の態度につれないわねと零す蒲牢(aa0290hero001)。ただ、そんな蒲牢に対しても鯨間 睦(aa0290)の態度は変わらなかった。
「それにしても、湖ちゃんだったかしら、彼女の行動はしっかり見ておかないといけないわね」
旦那に報告してあげないといけないしと蒲牢はそう言いつつ、それを報告した時の熊王の反応を想像し、笑みを浮かべる。
「……」
蒲牢のそんな様子を一瞥し、睦は暴かれた墓の数を数える。しかし、それをする必要はすぐになくなった。
「――ロロ」
「えぇ、そうですね。それにしても、蘇った者と蘇らなかった者の違いは一体なんでしょうか」
他のエージェント達よりも少し早めに寺院に訪れていた辺是 落児(aa0281)と構築の魔女(aa0281hero001)が既に調べていたからだ。更に彼女たちは住職へ病院ではなく、H.O.P.Eに行って診察をしてもらうよう話をしていた。それに住職は「大袈裟な」と言いつつも、身の安全は大事かとそちらに向かうこととなった。
「何かわかったことでもあったか?」
「わかったのは死者の数ぐらいですね。大本は、やはりというべきか、わかりませんでした。ただ、こちらに埋葬されているのは既に火葬された方々ということ」
つまり、と千颯の問いかけに構築の魔女は答え、自分が聞いてきた話を基に推測を立てる。
「えっと、そうすると、人間に見える姿は見せかけ、ということですか?」
「ええ、可能性としてですが。恐らく核となるモノーー今回であれば、墓からなくなっている骨壺でしょうか」
鈴音の言葉に構築の魔女は頷く。そして、なくなった骨壺は湖を含め、二十体。まとまって寺院を出ていったことだけは分かった。
「問題はどこに向かったかだよな」
「湖殿の意識があるのであれば、夫である熊王殿のところに向かう可能性もあるでござるな」
「あぁ、クマさんのところには向かってないですよ」
千颯と白虎丸が話しているとそこに既に共鳴した風 寿神(az0036)とソロ デラクルス(az0036hero001)が合流する。どうやら、寿神たちは先にそちらに当たっていたようだ。
「なるほど、じゃあ、どこに向かったかわからないね」
どうしようかと首を傾げるエレンにそれならばと声を上げたのは構築の魔女である。
「湖さん以外の死者はお遍路が身に着ける白衣を纏った姿だったそうです」
そう考えると札所の方面を見てみる方がいいなと闇雲に探すよりもと行先を予測し、絞る。
「このあたりの札所ってどこよ?」
「近くだったら、道を挟んだ向かいの山に一か所ありますよ。確か、四十五番の岩屋寺だったはずですけど」
「逆回りになれば、四十四番の大賢寺も近くにありますね」
「普通に回る感じだと四十六番か。んじゃ、俺はそっち方面に行ってみるぜ。あと、予備の骨壺も借りておくか」
知春の言葉にソロが地図を取り出しながら答え、それに続き構築の魔女も言葉を出す。そして、その輪に混ざった千颯が少し離れたところにある四十六番札所の浄瑠璃寺を目指すことを宣言した。
出ていった際は固まって出ていったというが、移動していく中で変わっているかもしれないということもあり、突発的な戦闘に備え、共鳴する。
「H.O.P.Eに連絡して、近隣住民の呼びかけもしておいた方がいいですね」
「あぁ、それは、ボクがやっておきますし、いつ死者たちが一般人に遭遇するかもわかりませんから、急ぎましょう」
「だな。とっとと終わらせるぞ」
二人一組となって、三か所の札所へと走り出す。ソロはH.O.P.Eへ近隣住民への呼びかけの要請を行い、エージェント達の後に続いた。
●
四十五番札所岩屋寺。
「うーん、変わったところはないかな。普通に上って行ってるし」
「なんで、こんな山の上に寺とか建てるわけ? わけわかんないんだけど」
エレンと知春は岩屋寺の入り口に立っていた。ただ、寺院まで行かずわかるのは、何の変哲もないということ。時間短縮に上まで行く必要はないかと思いつつ、様子を見ていると丁度下りてきたらしい数人のお遍路と出くわした。
「ちょっと、質問いいかな?」
「ん、どうかされましたか?」
「このあたりで、何か変わったこととかあった?」
「このあたりでかい? んー、いや、俺はなかったと思うが」
「あたしらもないよ」
「……はずれみたいね」
お遍路たちはないなぁと首を傾げ、それをみた知春がそういえば、エレンも「そうみたいだね」と頬を掻いた。
「あー、ただなぁ」
何かを思い出したようなお遍路にエレンと知春はどうしたかと尋ねる。
「いやね、このあたりの話じゃないんだけど、最近、変な話が出ることがあってねぇ」
「あぁ、死者が蘇っただの、ゾンビが出ただのなぁ」
あたしりゃ、休日に少しずつ回ってるから、あとから来た人と会うこともあるんだけど、その時にね、と苦笑いを浮かべる彼ら。
「他のところでも蘇ってるみたいだね」
「何それ、最悪すぎ」
「ただ、ここからは離れてそうだし、今回のとは関係ないかな」
エレンと知春は一先ず、お遍路に礼を告げ、大賢寺に足を向けた。
四十四番札所大賢寺。
遍路道を全力疾走し、辿り着くも、そこはエレンや知春が訪れた岩屋寺と同様、普通の日常が流れていた。
「ここは外れみたいですね」
「となると、次に目指しそうなのは虎噛さんたちが向かわれた四十六番ですね」
「ええ、そこに向かうとしたら、どこかしらに目撃情報とか上がってそうですね」
赤を纏う女たちに通りすがる人達はなんだなんだと目を向けていた。しかし、今は急ぐべきと彼女たちはそれを気にしない。
「いやー、それにしてもあれは記念の何かかね」
「どうだろうなぁ。あまりにも異様だったが」
そう話しながら、戻ってきた僧侶たち。その話に構築の魔女と鈴音はまさかと思い、彼らに声をかけた。
「すみません、H.O.P.Eです。先程、話されていた異様なものとは」
「あぁ、浄瑠璃寺に行った帰りに擦れ違ったんだが、お遍路さんの行列が歩いとってなぁ」
「そうそう、まるで死人みたいにしーろい顔をしとったけ、皆、避けちょったな」
その集団が一般人の目に触れていたようだが、あまりの異様さに一般人は避けていたということを聞き、ホッとする。しかし、一般人の目に触れてるなら、既にそのことが報告されていてもいい気がする。そう思っていると僧侶の口からこの近辺は出稼ぎに町の方まで行っている人が多く、昼間などは殆ど人がいないらしい。そのため、都会から来た人が仮装でもして遊んでいるのだろうと思い、避けるだけになっているらしい。
「今回はそれが救いでしたね」
「そうみたいですね。向かった先は浄瑠璃寺でしょうか」
「かもしれないですね」
構築の魔女は絞った最後の三か所目を挙げた鈴音の言葉に頷く。そして、彼女は僧侶たちにどのへんで見かけたのか尋ねれば、三坂の方だと告げられた。この辺の地理に詳しくない鈴音たちが首をかしげると、僧侶は自身のスマホの地図でこのあたりだと説明する。
「バックミラーで見た感じ、遍路道に入ってったな」
「地図で表示されない道ですか」
「あぁ、もう、古い道になるけんねぇ。あんまり人は使わんよ」
それでもよかったらとこのあたりから山道に入ってと説明をしてくれる。それに構築の魔女と鈴音は礼を告げ、すぐさま、全員に連絡を回した。そして、恐らく背後からになるだろう千颯たちのことを想定し、敢えて浄瑠璃寺の方から山道に入る旨も合わせて連絡。
「さ、急ぎましょう」
「はい」
三坂の山道。
「魔女ちゃんたちの報告通りってことだな」
「あぁ」
千颯、睦の目の前にはふらりふらりと揺れながらも足を止めず歩く列。大人数で歩いていることもあってか、山道からずり落ちる死者もいた。しかし、何事もなかったかのように這い上がり、その列へと戻る。
「土は土に、塵は塵に……死者は死者に返すぞ!!」
豪炎槍「イフリート」をきつく握り、千颯はそう叫ぶと列へと突撃。その後ろでは睦がA.R.E.S-SG550を構える。
武器を持ち、突撃する男を敵とみなしたのか、全員の目が千颯に向いた。それに千颯は「少しだけの辛抱くれ……もう一度俺らが眠らせてやるぜ!」と呟き、イフリートを振るう。程よく人の手が加えられていることもあって、行動に制限はない。
「……ッ!!」
言葉にならぬ言葉と共にイフリートの纏う炎虎に焼かれ、死者は崩れ落ちる。そして、炎が失せ、残ったのは骨。それは構築の魔女の推測通りだった。その証拠ともなったのは睦が撃ち抜き、取れた死者の腕。それは数秒ほどは人の腕としてあったが、数秒後には白骨の骨となり、地面へと落下した。
『あたし達の得物が銃でよかったわねぇ。あんなの近寄りたくもないわぁ』
生前のように綺麗であるとはいえ、その肌は青白く不気味。更に言ってしまえば、一発の銃弾で腕が取れてしまうほど脆い体。しかも、死ねば、白骨が残るわけで、近くでとても見たいものではない。
『千颯! もしや、あの女性が』
近くの死者をなぎ倒し、見えた先には他の死者とは服装が異なるショートヘアの女性。
「間違いなく、嫁さんだぜ」
熊王のためにも優先させるとばかりに近づけば、彼女の口から発せられたのは悲鳴。それに思わず、千颯は後ろに飛びずさり、耳を押える。
『……超音波でござるか』
「みてぇだな」
超音波によって細い枝は飛んだが、幹などはほぼほぼ動かなかった。つまり、それほどの攻撃力はない。
『旦那があの姿を見たら、どんな顔するだろうねぇ』
「……」
報告した時が楽しそうだと睦の内でほくそ笑む蒲牢。それに睦は答えず、銃を死者へと向け続ける。
「間に合ったみたいだね」
「ちょっと、すでに骨がゴロゴロ転がってるんだけど」
岩屋寺から合流したエレンと知春。「再び安らかな眠りを」とライトハルパーを握るエレンに知春も「さっさと終わらせるわよ」と仙境の弓を構える。
『住職に攻撃した後はスルーだったらしいけど、武器を持った人間は別みたいね』
「どっちにしてもやることは変わらないじゃない」
『それもそうね』
一方で、鈴音と構築の魔女、ソロも反対側から挟み撃ちをする形で合流を果たしていた。
「こちらにはまだ気づいていないようですね」
「はい、虎噛さんの方に意識がいっているみたいです」
『なら、こっちから仕掛けやすくて良い』
到着した旨を連絡すれば、既に湖を捕捉し、戦闘状態に入っているとの報告が返ってきた。更には体が非常に脆く、すぐに腕などが取れること、倒すと白骨に戻ることなど戦闘することによって得た情報が睦から伝えられた。
「どうして、火葬された遺体が人の形を成したのか」
それほどまでに大きな力が加わったということなのでしょうかと考える構築の魔女。しかし、すぐに考えを打ち消すと目の前にいる死者たちに目を向けた。
構築の魔女の援護を受ける形で、鈴音とソロは死者たちに突撃していった。
静かな山に響く、悲鳴、銃声、声なき声。それらが止むころには、そこに蘇った死者の姿はなかった。あるのはただ散らばった白骨ばかり。
「あるべきところに戻しましょう」
構築の魔女のその言葉に、頷き、白骨を回収する。そして、湖の骨に関しては千颯が拾い集めた。
「これで、全部でござろうか」
「多分、大丈夫なはずだぜ。嫁さんはここで眠らせたわけだし」
持ってきていた骨壺にそれを納め、千颯はふぅと一息。白虎丸も同様に一息ついていた。
「いやいや、ココで一息ついていても仕方ないでござる」
早々に墓に戻してやらねばと気合を入れる白虎丸に千颯もそうだなと言って気合を入れる。
「まずはお墓周りを綺麗にしないとだね」
あれだけ荒れたままだと眠れる気もしないだろうからというエレンにダレンは誰かに見せるわけでもないのにスマホに「確かにな」と打ち込む。そして、湖を含む全員の白骨を回収し終えると、寺院へと全員で戻った。
「ところでスーちゃん、連絡は」
「ん? あぁ、大丈夫じゃ。しておる」
千颯の言葉に寿神は頷き、「もう暫くしたら来るじゃろう」と付け加えた。その言葉通りに、皆で墓地を整備しているときに熊王がやってきた。
「坊、湖は」
「ちゃんと無事に眠った」
「……そうか」
ホッと胸を撫でおろす熊王のところに彼の到着を聞きつけてか蒲牢が近づく。
「眠る間際に助けを求めるような表情をしていたわよ。あなたを求めていたのかもしれないわねぇ」
そういう蒲牢に熊王は小さく笑みを浮かべ首を振った。
「湖は生きてる時にそんなことをしたことはねぇ。だから、もしかしたら、憑りついてたやつが親玉を求めたのかもな。ただ、湖の姿でやってほしくねぇことだったが」
そんな熊王の反応は期待外れだったのだろう「面白くないわね」と呟き、蒲牢は彼から興味をなくした。
そんな一方でエレンは丁寧に丁寧に墓に骨壺を戻していた。その近くではダレンが箒を片手に掃除をしている。
「ダレン。君はボクを眠らせた後どうするんだい?」
『墓穴に入りたければ埋めてやる。それとも、野ざらしが希望か?』
「はは……墓穴の方がいいなぁ。約束の日には掘っておこうかな」
『好きにしろ』
そういえばと誓約の話をすれば、ダレンはくだらないと溜息を零す。
「はい、終わり」
「知春はなんだかんだ、やってくれるわね」
「別にあんたの為じゃないわ!」
「わかってるわ」
ほんと、素直じゃないわねと思っていると信じてないと思った知春が「本当に、本当だからね」と強調してきた。それに朔は微笑む。
「今度はゆっくり、お休みください」
整えた墓の前で手を合わせる鈴音。そんな鈴音の頭を撫でるように何かが掠めた。それに鈴音は傍に誰かがいたような気がして、頭を触れる。
「気のせいよね?」
その姿に輝夜は鈴音がその正体に気づくのが楽しみだと目を細め、鈴音を見つめた。
「妻を、ありがとう」
「なぁに、俺ちゃんもこれにはイラッて来たからさ」
「奥方が安らかに眠れることを祈ってるでござる」
「だいじょうぶなのです。もうクマにしんぱいはかけないのです」
頭を下げる熊王に千颯と白虎丸はそれぞれ声をかけ、それに熊王が答えるより先にビーが胸を張る。
「嫁さんも大事だけどさ、クマちゃんは体を治さねぇとな」
「あぁ、それもそうだなぁ」
ボロボロな体をまず治すことだなと思い直す熊王に千颯は「ところで嫁さんってどんな感じだった? 写真とかあれば見たいなぁ」と絡み、白虎丸は「コラ、千颯、失礼でござる」と諫める。
「生憎だが、湖の写真はーー」
「いつもみにつけているおまもりのなかにあるのです」
「ちょ、なんで、お前知ってんだ」
お前、見たなとビーに突っかかろうとする熊王に千颯は「愛してるねぇ。ま、俺ちゃんの愛の方が勝ってるんだけどな」と嬉しそうに語り始めた。
「何もありませんでしたか」
弟子に届いた住職の血液検査以外の検査結果に構築の魔女はホッとするものの今回集まった情報にまだ謎が多いと首を捻る。
「ゾンビの襲来、死者の蘇り、四国八十八か所、これらが示すものとは一体?」