本部

牡丹鍋を食べよう

saki

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/10/14 21:18

掲示板

オープニング

●とある山にて
「くそっ、こっちもやられているぞ」
 収穫待ったなしの畑を始めとし、大事に大事に手間暇かけた果物、そして栗などといった実の類が根こそぎもっていかれている。
 荒らされ、傷つけられた木を見れば犯人は一目両全だ。
 猪だ。
 雑食である猪は、とにかく何でも食べる。
 普段は山の恵みを食べるのだが、それでも気まぐれに、または食べるものが無くなったら人間が育てている作物を遠慮も容赦なく食べ荒らして行くのである。勿論それに対して何も対策していないわけではない。それによってこれまでは守られてきたのだ。それなのに、今回に限っては電気柵も何もかもが滅茶苦茶にされ、まるで大軍で攻め寄せてきたような、または強大な力によって無理やりに捻じ曲げられてきたかのような有様なのだ。
「もう、我慢ならねェ!」
 元より村の者も明日は我が身が……という状態なのだから、いつも以上に気を引き締めているのだが、その中でも短気な一人が猟銃を片手に制止も聞かずに山へと入って行った。

 勝手知ってたる庭とばかりに男は山を進んで行くと、遠目に猪の姿を見かけた。そう、遠目にだ。
 しかし、頭に血が上っていた男はその矛盾に気が付かない。
 距離を詰めて近づいて、そこで漸くその猪がとても大きなことに気が付いた。それこそそう、通常じゃあり得ないサイズだ。
 それも、一体ではない。数体だ。
 その中でも、一際大きな猪がいる。その猪は矢張り巨大な猪という表現しか見当たらないのだが、とにかく異様であった。
 やばい、と男は本能的に思った。
 男の頭は警戒を鳴らし始めた。
 息を呑み、一歩足を引いたその時、男の足は枝を踏んだ。
 ぱきり、という音がやけに大きく響いた。
 猪たちの視線は全て男へと向かった。
 男は悲鳴を噛み殺しながら、一目に駆けだした。
 しかし、それを放置してくれる猪ではない。物凄い勢いで、木々をなぎ倒しながら追いかけてくる。これなら追いつかれるのは時間の問題だ。
 そこで男は考えた。否、本能的だろう。崖から身を躍らせた。
 下は木々があり、その先は見渡せない。崖の上から見れば、男が下に落ちたとしか思えないだろう。
 不届きものの姿が無くなったとばかりに猪は鼻を鳴らし、去っていく。
 猪の姿が完全に見えなくなったところで、男は崖から上がった。
 男は微かな足場を頼りに、崖に張り付いていたのである。これは、山を幼い頃から遊び場としていた男だから知っていた、少し飛び出た岩場に身を寄せていたのだ。
 緊張のあまり、大きく息を吐き出すと、男は参ったとばかりに宙を仰いだ。そして、助かったと。

 その後、男は注意深く山を下りた。
 山のすぐ手前では、男のことを案じた村の男衆達が猟銃を手に山に入ろうとしていたのだが、その前に男はその男衆と合流することができた。
 そして、あの傲慢不遜が形を潜め「これは俺らの手には負えねぇ。山に化け物がいるぞ」と、必死の形相で言った。

解説

●目的
→猪の従魔の殲滅

●補足
→元々は通常の猪でしたが、そこに現れたキャノンボアが影響を及ぼしたことにより、猪たちを憑代とした従魔へと成りました。
 一際大きい猪とは、キャノンボアのことです。
→キャノンボアはデクリオ級。5m近くの大柄で、デクリオ級。攻撃手段としては、体当たりと牙、それから射程が長めの砲撃があります。
 キャノンの名の通り、背中に大砲があり、離れた位置からの攻撃も可能です。また、突進して攻撃してくる場合は壁や建物なんかを用意に破壊する威力がある為、十分に注意が必要です。
→他の従魔化した猪はミーレス級ですが、普通の猪よりも大きく2m程のサイズです。しかし、攻撃手段は突進の一言に尽きます。
 正に猪突猛進。真っ直ぐ突き進んでくるしかありませんが、それでも木々をなぎ倒しながら進んでもスピードが落ちない程の威力がありますので注意が必要です。
→終わった後は、牡丹鍋など如何でしょうか?
 鍋の野菜程度でしたら、農家の方から提供してもらうことも可能です。

リプレイ

●山の麓にて
 依頼主は「化け物」と称したが、従魔の討伐である。猪の従魔であるし、終わったら牡丹鍋をしようということで一部の面々は非常にやる気を見せている。

 アンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)は、傍らに立つ八十島 文菜(aa0121hero002)に笑いかけながら「猪狩りは前にもした事あるけど、その時は牡丹鍋は食べなかったから今日は楽しみだな♪ 文菜さんと一緒に実戦するのはこれが初めてだし、張り切っていくよ!」と上機嫌である。それを見て、文菜は上品に『うちも楽しみやわ』と微笑んだ。

 旧 式(aa0545)が最近受けた依頼を思い出し、「戦闘依頼なんて久しぶりだな」と呟けば、その言葉を拾ってドナ・ドナ(aa0545hero001)は『猪食いてえだけだろ』と突っ込んだ。
「ただ戦うだけとか痛いだけだろ。ドナだってご褒美があった方がやる気でんだろ?」と、口角を上げて問えば『まあな。久しぶりにカレー以外のものが食えるぜ♪』と、これからありつけるであろうカレー以外の料理に思いを馳せるのであった。

 鶏冠井 玉子(aa0798)は、まるで謳うかのような口調で「暑い日が続いていたが、ようやく秋の気配も濃厚になってきたようだ。涼しくなってきたから今だからこそ、鍋だ。まずは水炊きか湯豆腐あたりから入ろうと思っていたが……ふふ、猪とは嬉しい誤算。やはり自分の食すものは自らの力で得てこそ、真に自身の血肉となるもの」と熱く語る。それをオーロックス(aa0798hero001)は言葉こそ発しないものの、相槌を打つ当たり聞いていないわけではないようだ。
「さあ狩猟の時間といこうじゃないか」と、玉子の声が響いた。

「今日は猪ね」と言う餅 望月(aa0843)に、百薬(aa0843hero001)はノリが良く『いえす、ぼたん鍋』と応える。
 化け物を見たと言う男に向き直ると、「村の人はよく帰ってきてくれたね。ここはHOPEに一旦預けてね。後で皆さんの出番はありますから」とフォローを入れる。そして地図――とは言っても、村人にとっては自分の庭状態の為に詳しいものはなく、手書きの物を受け取った。
 それを見て、「戦闘して良さそうな場所にあたりをつけよう」と目を走らせるのだった。

 既に肉を食べる気満々で『わーい! おっにくだー!』と声を上げるルフェ(aa1461hero001)を、想詞 結(aa1461)は「ルフェ君、お仕事です。はしゃぐのは終わってからにするです」と注意する。
 まだお肉食べるとは決まったわけじゃないということと、村の人には深刻な問題であるということを伝えるが、きょとんと首を傾げるルフェの姿に溜息を吐き、結は「私がしっかりしていれば大丈夫ですよね?」と気合を入れた。

 猪の従魔を倒した後には牡丹鍋を食べよう――と、盛り上がっている面々の姿を見てアリス(aa1651)とAlice(aa1651hero001)は顔を見合わせた。二人揃っていると双子のように似通った二人であるだけに、本人が自称するように鏡合わせというのが相応しい。
 そんな二人は淡々とした口調で「牡丹鍋…もうそんな時期なんだね、Alice」『最近は随分と冷え込んできたものね、アリス』と頷き合った。

「さて、ひと狩り行きましょうか」と、やる気満々の酒又 織歌(aa4300)に、ペンギン皇帝(aa4300hero001)は『妙にやる気であるな……そうか、また食が絡んでおるのだな』と、すぐに察した。
 すると「美味しい牡丹鍋を頂く為に、努力も協力も惜しみませんよ。愚神捕食委員会の名に掛けて!」と胸を張る織歌に向かって『……なんなのだ、一体。その謎の委員会は』と呟いた。

 牡丹鍋いう話を聞き、君建 布津(aa4611)は「はは、牡丹鍋ですか。いいですねえ、そろそろ肌寒くなる季節ですし」と嬉しげな声を上げた。それに切裂 棄棄(aa4611hero001)も頷き、『そうですねえ。山を駆け回った後なんてちょっと暑そうですけど…その前に材料を調達するのを忘れないでくださいね?』と言う。
 確りと釘を刺され、笑いながら「いやだなあ、わかってますって。さあ、いきましょう。お手柔らかにお願いしますよ」と言った。

●山の中へ
 山の中で従魔を見たという場所に向かう道すがら、従魔の討伐に関し、いろいろな意見が出た為、其々がやりやすい戦法を取り、必要なときは連携ということで方向性は落ち着いた。

 アンジェリカは文菜と一緒に罠を作る。そしてできたそれを仕掛けると、リンクして物陰に潜んで様子を伺う。

 式は悠々と歩いているものの、自身の中では既に戦いのプランはできあがっていて、『早く肉が食べたいぜ』と上機嫌のドナに、「たらふく食わせてやるよ」と余裕で返した。

 玉子は男から話を聞き、相手が好戦的であるのは却って好都合だとほくそ笑んだ。
 従魔であるとはいえ、元は猪なのだ。話からもその特性が色濃いことが推測出来る。ならば、その長所でもあって欠点でもあるところを上手く突けば良い。
 その為にも、自身が戦い易い場所を探しだし、誘き寄せる為の芋や茸といった餌を撒くのだった。

 望月と百薬は貰った地図から、戦闘して良さそうだと見当をつけた所で陣取る。そして、「相手の衝突を狙う際の合図決めておく?」という思い付きに対し、百薬は『ぼたんいくぞー。がいいよ』とある意味解り易いような、斜め上を行くような答えを出した。
 しかし、望月はそれに突っ込まず「まあなんでも、ともかくそれ聞いたら回避するから」と結論付け、「フラッシュパンとかも合図になるんじゃなかったっけ」と首を傾げた。

 結は動きやすい服装に着替えて山に入ると、従魔自体が大きいということもあり、大丈夫だと思うが、それでも突進などしてくる可能性を警戒したまま進んで行く。
 緊張している結に反し、ルフェは『お肉はどこだー!』とやけに楽しそうに声を上げた。

 共鳴したアリスは髪も瞳も赤い。互いの色が混じり合った色だ。
 その赤を靡かせ、アリスは苦も無く山道を歩く。
「通常の猪よりも大きいみたいだし、攻撃は当てやすそうね、Alice」
『そうね、相手は猪突猛進のようだから、戦い方を工夫すればどうにかなりそうだよ、アリス』
 そして猪、それから戦闘が行いやすそうな場所を探して周囲を見回すのだった。

 織歌の目的は牡丹鍋……ということで、楽しみに持って来た鍋セットは置いておいて、一先ずは件の従魔退治だ。
 まずは、目的の肉を手に入れなければ何もない。……ということで、織歌は鼻息荒く従魔の殲滅をし、美味しく頂く気満々で山道を進むのだった。それを見てペンギン皇帝が微妙な顔をしたのは言うまでもない。

 布津は出発前に、目撃者に従魔の数を尋ねた。焦りからか正確な数は判別できず、確実なのは一際大きな猪、それから十には満たない同程度の大きさの猪が居たということだ。
 正確な数は解らなかったものの、そんなことも踏まえ、布津は初めての共鳴をした。
「いやはやこれが共鳴するということですか? 随分体が軽くなるんですねえ」と、何とも木が抜けるような言葉が初共鳴の感想である。
「あ、能力…スキルでしたっけ。発動タイミングは棄棄さんにお任せします。何分まだよく分かっていないもので。お手数おかけしますが、よろしくお願いしますよ」と言う布津に、棄棄は頼もしく『お任せを。私はそのために在るようなものですので』と胸を叩いた。
 目的の場所に着くと、トラバサミの罠を仕掛けた。

●戦闘開始
 ライフルのスコープの先に、猪の姿を見つけて、アンジェリカは仲間へ連絡を入れた。
 一番大きな猪――キャノンボアの周りを囲うようにして、猪たちが陣取っている。情報通り、ミーレス級の従魔が守っているとみて間違いはないだろう。
 そうとなればミーレス級の従魔から倒すのがセオリーであるが、早速罠から外れた場所へと向かおうとしている。
 アンジェリカは回避予測を発動する。そして猪が動きそうな地点に一発銃弾を撃ち込むと、驚いた猪がその場から離れた。そして、更にもう一発と撃ち込み、罠に誘導する形で嵌めることに成功した。
 そして罠にかかった従魔とその近くに居る従魔に向かい、ストライクを放ち攻撃する。

 アンジェリカの攻撃が炸裂すると、従魔達は自身達を狙う存在に気が付いたようだ。警戒と興奮露わに鼻息を荒くし、今にも走り出そうとその場で土を蹴っている。
 式は、ぎりぎりキャノンボアが範囲内にならない位置で、守るべき誓いを発動する。それによって、注意が式へと集中した。
 距離の目測は予想道理で、キャノンボアの近くに居た従魔は式に向かって突っ込んでくる。
 それを式は側転でもするかのように横っ飛びで回避する。次に来る従魔は、ぎりぎりまで引きつけ、タイミングを見計らって転がるようにして避ければ、従魔同士がぶつかり大きな音を立てて吹き飛び、またはよろめいた。

 そんな風に多数の従魔と対峙している式に、「この猪の相手はワタシに任せてください」と望月が割って入る。
「突進攻撃の助走は取らせません」と言い、槍で従魔の足止めをする。
 そして式に向かって目配せをすると、察した式が他の従魔達を引き攣れて走ってくる。
 望月の背後から声がかかり、大き目に避ければ、望月が相手にしていた従魔と他の従魔が衝突した。
「壁や木々をなぎ倒すことは出来ても、お互いの身体だったらどうですか?」
 その言葉の通り、先程もそうだが、今回もまた凄い音がした。ぶつかった衝撃で怪我をして血を出すどころではなく、牙が折れたものもいる。
 即席であったものの、連携が上手くいった。その様を見ていた百薬が『せっかく合図きめたのにね』と、少し残念そうな声を上げた。

 結は自身で打たれ強くないと称していることもあって、従魔の正面から当たらないように、離れた位置から攻撃を仕掛ける。
 拒絶の風で回避能力を高め、ゴーストウィンドで相手の出足を鈍らせる。
 木が多いことから、それが邪魔にならないように注意しながら位置取りをし、既に従魔と接触している式と望月を援護するように魔砲銃を構える。
『結お姉ちゃん、お肉がいるよ! さっさと倒しちゃおう!』と、既に食べることしか頭にないルフェに「そんな風に考えてたらうっかりしちゃうかもですよ」と応えながら引き金を引き、次々に撃ち抜く。
 普通だったら、こんなに目立つことをすれば結が敵から攻撃されそうなものだが、敵の注意は守るべき誓いを発動した式に向いていて、攻撃は彼が優先的になっている。
『結お姉ちゃん、チャンスだよ!』とルフェに応援されながら、銀の魔弾を放った。

 従魔を見て、『むぅ……なかなかに大きい獣であるな』と呟くペンギン皇帝に「はい、食べ応えが有りそうですよね」と織歌は頷く。それが何処まで本気であるのかはわからないが、食べ気があるということだけは紛れもない事実である。それを解っているからこそ、ペンギン皇帝は『織歌、そなたはまた……いや、まぁ、それでやる気になるなら構わぬが』と言い辛そうに口ごもった。
 織歌は今回、回復をしてサポートへと回るつもりだったが、途中、自身に従魔の攻撃が当たりそうになると、その時は盾を持っている式の背後に「ごめんなさい」とちゃっかりと隠れる。すると、素早く展開された禁軍装甲に従魔は阻まれ、織歌は難を逃れる。勿論、織歌の行動に少し驚いた式に「有難うございます。怪我は私が治しますので」とケアレイで回復させるのだった。


 アリスは従魔と正面からやり合うことのないように、側面から攻撃できるよう誘導先にて待ち伏せる。
 来た、とアリスは音には出さず呟いた。
 そして初手――幻影蝶を発動する。
 複数いる従魔に対し、討伐しやすいように弱体化を狙ったのだ。
 そしてそこから、極獄宝典『アルスマギカ・リ・チューン』で攻撃を仕掛ける。
 アリスの意思によって自由に形成された魔術が従魔を襲う。
 その攻撃が当たったことで、従魔がアリスを認識し、攻撃をしようと突進してくる。しかし、アリスは冷静に拒絶の風で対処する。
 素早さが高まり、回避能力が上がったアリスはそれを難なく捌く。そして攻撃を避けて再び自身の戦闘に適した距離を取ると、一体ずつ確実に仕留め、数を減らす為に攻撃を繰り出すのであった。


 玉子は、餌にまんまとつられて来た従魔と対峙した。そして槍を構えながら、口角を上げた。
 自身が山に不慣れであるということから、今回が自分から向かってくるような好戦的な従魔で良かったとさえ思っている。
 突進してくる従魔に向かい、正面から真っ向勝負を仕掛ける。
「猪の突進力は侮れないが、その速度と猪の特性上、視野はさほど広くはないハズだ」
 一目散に駆けてきて、ただただ目の前の敵を攻撃しようと突っ込んでくるのを、玉子は槍で受け止める。
 普通であれば、巨体がぶつかってくるのを真っ向から受け止めようとはしないだろう。しかし、玉子はあくまでもそれを楽しんでいる節さえある。それがブラッディランスによるものなのか、玉子自身のものなのかは、本人のみぞ知っていることだろう。
「狩りはそうであってこそ、だ!」
 そして、玉子は力を更に籠めて相手の体勢を崩した。
 そこに、横から攻撃が入る。

 ストームエッジだ。
 布津である。
 玉子がある意味堂々過ぎる囮とでも言うべきか、敵の注意を全て引き受けていたからこそ出来た死角である。その死角から布津の一撃が入ったのだ。

「流石ですね、棄棄さん」と、布津はこれでもかというドンぴしゃなタイミングで発動し、従魔にスキルを当てた棄棄のことを褒めた。それに対し、棄棄は謙虚なまでに『いえ、これが私の役目ですから』と謙遜する。
 布津はまず、従魔を発見するとその数を確認し、情報よりもあの場所に現れた従魔の個体数が少ないことに気が付いた。
 そこからここに居るのが全てではないと判断し、他のメンバーから聞いていた其々の誘導予定地付近の茂みに潜み、期を窺って攻撃に転じたというわけだ。

 横から入った攻撃により、従魔がよろめいた。その隙を突き、玉子のブラッディランスが従魔の顔を抉り、槍を更に赤く彩らせる。
 従魔の側面に回った布津はシエンピエスで脚部を狙い、斬り裂いた。これにより、従魔はそのご自慢の突進力を活かすことができなくなる。
 玉子は槍の石突で従魔の体勢を崩すとストレートブロウで吹き飛ばし、そのままこれまで突進されてきたお返しだと言わんばかりに槍を構えたまま突っ込んで止めを刺した。
「お見事です」と、布津は感嘆の声を上げた。


 ミーレス級の従魔達を殲滅した後、一同は、今度はキャノンボアと向き合う。仲間と呼べるのかは不明だが、それでも取り巻いていた従魔達が倒されたというのに怒りも焦りも感じさせない。
 唐突に、キャノンボアの代名詞――背中の大砲からの砲撃があった。
 それは一同から逸れた場所へと撃ち込まれたが、木の幹に大きな穴を空けて薙ぎ倒した。
 この巨体だから、他の猪の従魔のように突進は元より、背の大砲で遠距離も得意とする従魔なのである。

 そこで、式は再び守るべき誓いを発動する。
「キャノンの攻撃もできる限り引き受けて、ほかの奴らの邪魔にならねーようにしてぇが……全てやるのはむりだろうな」と、式は呟いた。
 しかし、そこから更にハイカバーリングを使用すれば、完璧に従魔の攻撃は式に向いたことになる。このスキルを使用している以上、式に攻撃が集中することに決まったのも同然だ。
 キャノンボアの視線が式に向く。もう、他のものは目に入っていないというような状況だ。

 その頃、他のメンバーとは違って離れた場所に居たアンジェリカは銃を構えながら、こんなに大きい従魔を倒せるのかと不安になっていた。しかし『アンジェリカはん、スナイパーに大切なんは平常心どすえ』と、文菜が何時もと変わらぬ様子の声を聞くと、不思議とアンジェリカの心は落ち着いた。
 泰然自若とした態度で引き金を引く。
 前足の付け根をストライクで撃ち抜いた。

 攻撃を受け、キャノンボアの体勢が揺らぐ。そして、この瞬間を待っていたとばかりにメンバーが近づく隙が出来た瞬間であった。

 玉子はまたしても、槍一本でキャノンボアに突っ込んだ。
 ただ、先程とは違うのは身体を相手の下へ滑り込ませたことだ。
 自分よりも強大な相手の懐へと潜り込むのだ。並大抵の度胸でできることではない。しかし、玉子はそれを易々とやってのけた。
 接近し、ストレートブロウを顎下から上へと放った。

 宙に浮いたキャノンボアは、その不安定な体勢のまま、やけになったのか砲弾を撃つ。それは当然ながら式へと向かうことになるのだが、空中にてそれは撃ち落とされる。
 衝撃で爆風が巻き起こり、それは暴風としか言いようがない。
 ブルームフレアだ。
 アリスがブルームフレアを砲撃に当てて相殺したのだ。それによって、威力の高いものと高いもの同士がぶつかりあって大きな衝撃が巻き起こった。

 幾ら風とはいえ、至近距離でそれを喰らっては無事じゃ済まない。それは一同もそうだし、勿論、キャノンボアもだ。寧ろ、空中という不安定で防御不可能な体制だった分、キャノンボアの方が大きなダメージを負っている。
 そこですかさず望月が「もう一息です、がんばりましょう」と、織歌も「任せてください」とすぐさまスキルにて回復させた。

 重なるダメージにキャノンボアは立ち上がる力が上手くはいらないのか、まともに立つことが困難になっている。
 布津は仲間を巻き込まないように注意しながら、ストームエッジを放ちキャノンボアが立ち上がる時間を与えない。
 そして、この期を見逃すアンジェリカではない。
 ストライクを使用して「これでどうだ!」と、眉間を狙った一撃を撃ち込んだ。

 研ぎ澄まされた鋭い一撃である。それによって、キャノンボアは完全に倒れた。

●いざ、牡丹鍋
 キャノンボアを始めとし、周囲には討伐した猪の従魔が……。
 今日は討伐だけではなく、牡丹鍋を食べる目的もあるのだ。
 解体の心得があるメンバーが中心となってバラしていく。

 アンジェリカは、自身は解体したことはなかったものの、以前猪退治をした際の猟師の手際を思い出していた。
 血抜きの過程を回想し、思い出しながら文菜と一緒にナイフの刃を滑らせていく。
 それと同じく、猟師が奪った命に感謝を込めて祈っていたことも思い出し、猪達に祈りも捧げるのであった。

 玉子は流石料理人とばかりに、手早く解体を進めていく。尤も、料理人の全員が全員できることではなく、これは常日頃から自身で食材となる獲物を追い求めているからの手際の良さである。
 ジビエはハントの後の処理が命……これがある為に、玉子は戦闘さえも凌駕する迫力でこなすのだった。

 布津も率先して解体を買って出た一人だ。
「解体作業は手伝いますよ。ええ、こういうの、慣れてまして。バラすのってやっぱり基本ですよね」と、ある意味物騒なことを口にしながら、自分で言うように手際よくバラしていく。良い笑顔をしているのがまた何とも言えない。
 そして解体しながら、「調理はお任せします。いやあ楽しみだなあ」と歌でも歌いそうな口調で言うのであった。


 望月としては解体をするなら慣れた人が一番――ということで、森で解体をする以外のメンバーにもお願いして、残りの猪を麓まで運んで村の人に解体してもらう。それは同時に、従魔の殲滅を知らせるものにもなり、村の人たちは「任せろ」と引き受けてくれた。


 解体してきたメンバーも戻って来た。その間に、下山していたメンバーは一足先に調理へと取り掛かっていた。

 式は拘りの猪肉カレーを作る。色々な店でカレーを食べている分、カレーに関しての腕前はかなりのものである。
 しかしドナは少し不満があり、『なあ、せっかく料理人もいるしカレーはいらねーだろ? 
アタシはお前のカレーは食い飽きてんだよ』と言うが、式は取りつく島もなく「だが他の奴は食い飽きてねーだろ? それに臭みもあんだろうしカレーとは相性いいはずだ」とマイペースに調理し、それにドナは溜息を吐いた。

 望月と百薬は牡丹鍋だけではなく、栗ご飯もあれば最高なのに……ということで、只今せっせと皮むき中である。これは地味に疲れる作業だ。

 結は野菜を分けてもらい、下拵えをする。
「頑張って美味しく作りましょうです」とやる気を見せている傍で、特にできることのないルフェは『さぁ、それでは、お料理完成までの間、ルフェ君のマジックショーでもお楽しみください!』と、お得意のマジックショーを始めて村人達から拍手をもらうのであった。

 歌織は「さぁ、ここからが本番ですね」とやる気を見せ、『余は違うと思うのだが……戦闘時よりもやる気に満ちておるのぅ』とペンギン皇帝に突っ込まれるがまるで気にしない。
「美味しい牡丹鍋が頂ける……そんな幸せの為なら、私はどのような努力も協力も惜しみませんよ」
 一応料理はできるものも料理上手なメンバーにお任せして、サポートへと回る。お手伝いをしつつ、料理の勉強も出来る一石二鳥作戦だ。
 解体している時も血抜きくらいだったら……とブラッドオペレートをある意味有効活用し、その後は農家の方に挨拶をして野菜を分けてもらい、折り畳みテーブルチェアセットとコンパクト食器セットで食卓の準備をするなど、彼方此方へと奔走する。
 勿論ご飯も一緒に食べたい為、自衛隊四型飯盒と新型MM水筒で美味しいご飯を炊く徹底っぷりも見せるのであった。

 戻って来て、アンジェリカは文菜と肉のカットや野菜の下拵えをしていく。こうして並んでいると、姉と妹、母と娘……というような仲良し家族の台所のようである。

 本日のメイン――牡丹鍋を任された玉子は、猪従魔の肉という特殊な素材を使うからこそ、ベースの味付けに奇を衒う必要はないと考える。
「野菜、茸と共にガッと煮て、流し込むように食べる――それで良い、否、それが良い。勢いのままに食べ尽しての山の味覚だろう。
幸い肉は食べきれないほどある。腹がはちきれるまで存分に牡丹鍋パーティーといきたいところだな」と、溢れんばかりの情熱と共に調理をするのであった。


 料理が完成し、いよいよ実食である。みんな、次々に箸を伸ばしては舌鼓を打っている。


「やっぱり自分達で捕ったお肉は最高だね!」『ほんまどすなぁ』と、アンジェリカと文菜は笑い合った。

 カレーに文句を言っていたドナは『はあ、まあ、いつもとちょっと違うカレーだな』と言いつつ食べ、式は「だろ? うめえじゃねーか」と誇らしげだ。
『アタシは他の料理のほうが断然美味いぜ』「マリアにはカレー以外食ったこと黙ってろよ。俺が怒られる」『あいつアタシより食にはうるせーからなー…』

 玉子は今季初の鍋に、満足気で次々に箸を伸ばしている。否、箸が止まらない。その隣で、無言ながらもオーロックも鍋を突っつき続けているのだから美味しいのだろう。

『ここからが本番ね』と言う百薬に、望月は「あたしも全力でいただくよ。食べられるからには食べないとね」と頷く。
『牡丹鍋おいしー』「あんまり臭みないんだね」と、食べた感想を其々言った後、望月は「ご飯のためにエージェントやってるからね。これからもがんばろう」と気合を入れた。

 結はこのメンバーでは到底食べ切れない量の肉を前に、村の人たちも誘って一緒に食べる。
 ルフェのことで気を許されたのだろう。村の人がこの村ならではの料理も作ってくれ、それも食べたルフェが「おいしー!」と感嘆の声を上げる。
 結は礼を言った後、「後片付けもきちんとやりますので」と真面目さを発揮するのであった。

 調理よりも他のことを……と、いうことでセッティングをしていたアリス達であったが、出来上がった料理を見てやはりそれで正解だったと頷く。
「猪は久しぶりだよね、Alice」『そうだねアリス。前に食べた時はジンギスカンだったかな』

 人一倍食に対する執着がある織歌は「ムシャムシャしてやりました。愚神でも従魔でも美味しければ良かったです。今も特に反省はしていません!」と、何に対する宣言か不明なことを口走った。それを見てペンギン皇帝が『……何を言っておるのだ、そなたは』と呆れた声を上げた。

「いやー、美味しいですね」と布津はにこにこと笑いながら、鍋を食べる。その横で、棄棄も『はい。とても美味しいです』と頷き、この二人は始終マイペースのまま料理を食べるのであった。


 村人も巻き込んだ鍋パーティーはまだまだ続く。依頼はこれにて一見落着である。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 希望を胸に
    アンジェリカ・カノーヴァaa0121
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
  • 悪気はない。
    酒又 織歌aa4300

重体一覧

参加者

  • 希望を胸に
    アンジェリカ・カノーヴァaa0121
    人間|11才|女性|命中
  • ぼくの猟犬へ
    八十島 文菜aa0121hero002
    英雄|29才|女性|ジャ
  • 堕落せし者
    旧 式aa0545
    人間|24才|男性|防御
  • エージェント
    ドナ・ドナaa0545hero001
    英雄|22才|女性|ブレ
  • 炎の料理人
    鶏冠井 玉子aa0798
    人間|20才|女性|攻撃
  • 食の守護神
    オーロックスaa0798hero001
    英雄|36才|男性|ドレ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • ひとひらの想い
    想詞 結aa1461
    人間|15才|女性|攻撃
  • いたずらっ子
    ルフェaa1461hero001
    英雄|12才|男性|ソフィ
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • 悪気はない。
    酒又 織歌aa4300
    人間|16才|女性|生命
  • 愛しき国は彼方に
    ペンギン皇帝aa4300hero001
    英雄|7才|男性|バト
  • エージェント
    君建 布津aa4611
    人間|36才|男性|回避
  • エージェント
    切裂 棄棄aa4611hero001
    英雄|22才|女性|カオ
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