本部

昔話に隠れしモノ

真名木風由

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/10/14 16:07

掲示板

オープニング

 『あなた』達は、配布された資料を読み込んでいた。
 事が露見するまでに多少時間が掛かった為、被害が出ているという説明を受けたばかり。
 エージェントになって日が浅い身であるが、そんなことは言ってられない。
 改めて、『任務』の重さを実感している。

 資料には、集められた情報が纏められてある。
 曰く、マレーシアにあるその小さな街は、人々の間に伝わる昔話をよく信じる人が多いらしい。
 それは、昔から言われている女幽霊の存在を恐れているからとのこと。
 女幽霊に自らの場所を悟られない方法すら取るだけあり、最初、街の男性が夜な夜な殺される事件が発生すると、見知らぬ女を見たような気がしたという目撃情報もあり、その幽霊の仕業と人々は口にし、何の疑いもしなかった。
 が、その幽霊騒ぎはすぐさま話題になり、その話題に不審なものを感じたH.O.P.E.がすぐに幽霊騒ぎを調査した所、愚神または従魔が確実に関与していると判断、エージェント派遣の必要があるとして、すぐさまエージェントを招集したのだ。

 ドロップゾーン化になるまで、そこまで余裕がある訳ではない。
 急がねば、小さな街が───

「難があるとすれば」
 資料を配布した職員が『あなた』達が読み終えたと判断し、口を開く。
「住民達は幽霊であると信じている為に、避難に関する反応がまちまちです」
 職員の話によると、従魔や愚神の路線を昔ながらの話を信じ過ぎてしまっている為に除外している住民もいるらしい。
 一晩中洗濯物を干さなければ、女幽霊に居場所は知られないと言っている者もいるらしいが、正体は女幽霊ではない。
 たまたま、合致してしまった……それ故に、彼らには振舞い易く、そして、被害が広がってしまった。
「すぐに現地の街へ向かっていただくことになります。資料をよく読み、彼らの思惑を阻んでください」
 『あなた』達は職員に頷き、席を立つ。

 昔話に隠れるこの世界ではないモノには、退場していただこうじゃないか。

解説

●目的
・敵の全撃破
・住民に被害を出さないこと

●資料記載情報
・場所
マレーシアにある小さな街。人口はそこまで多くはない。
商店街と住宅街がほぼで、夜間になると人通りが減る。
人々に伝わる昔話をとても信じている人が多い。

・被害状況
成人男性が既に7人殺害されている。
年齢は20代から40代後半までと多岐に渡っている。
時間帯は、全て夜間。
前後に見慣れない女性が夜道を歩いている目撃情報が幾つかある。
いずれも後姿であった為長い黒髪と夜目にも分かる白い服以外は分からない。
被害者が全員男性であり、残忍な手口、時間帯、目撃情報より、住民は昔話に伝わる女幽霊であると思い込んでいるが、実際は愚神または従魔が関与していると推定される。

・見解
住民によっては愚神・従魔と頭にもないので、更なる聞き込み調査を行う場合(現地へは夕方近くに到着するので可能)はそのことを考慮する必要がある。
事件発生時間帯より、戦闘は夜間、市街地戦となる可能性大。
まだドロップゾーン化はしていないが、被害が更に大きくなれば近い未来発生する。
昔話の女幽霊とは、男性を狙う美しい女性の姿をしているそうだが、事件とは無関係である為、考慮の必要はない。

以下、PL情報
デクリオ級愚神メラーイブ
青白い肌、黒髪、血のように赤い唇を持つ細身の女性型愚神で純白の装飾も何もないワンピースを着用。
前髪に隠れているが、赤一色の眼をしている。
力はそこそこであるが、スピードが速く、回避能力高め。
接近して素早くその長い爪で切り裂いては離脱を繰り返す。
自身を中心に周囲30m(半円形)に強烈な向かい風を発生させる能力を持つ。
効果時間は6ラウンド程、空間内では移動力マイナス1、更に回避判定失敗すると、BS衝撃付与。

ミーレス級従魔ラムプ
異形の鳥の姿をした従魔で目が光って見える。
6体いる模様。目のお陰か夜間の影響はない。
力はさほどではないが、空を飛ぶ。
回避・命中能力がやや高め。

リプレイ

●真に憂うべきは
「いくら昔話を信じてるからってマジで人死んでんのに呑気に外出出来るもんかね」
「英雄のような虚ろな存在もいるんだ。色々な価値観があるんだろうさ。多少変わってるがね」
 事件が起きている街へ移動している最中の車内、ルキア・ルカータ(aa1013)が理解出来ないとばかりに言うと、モダンタイムス(aa1013hero001)は軽く諌めた。
「どう見ても、幽霊じゃなくて奴等の仕業に見えるな……。何にせよ、ぶん殴って倒せるなら何とかなるだろっ!!」
 東海林聖(aa0203)は資料を読みながら、自分がより強くなる為の討伐対象へ想いを馳せる。
 道中、お腹が空いたらしいLe..(aa0203hero001)へはココナッツパンを渡しており、彼女はココナッツパンを食べつつ、聖が読む資料を覗き込んだ。
「到着……どの位?」
「夕方らしいな。こっちも最短で移動しているけどさ」
 最寄の支部からの移動だが、事件が起こった街への到着は夕方となるらしい。
 ふぅん、とLe..は呟いて、ココナッツパンをもう1個食べ始める。
「彼らも幽霊も似たようなものだとは思いますが、住民の方がそちらを疑っていないなら、慎重さも必要そうですね」
 填島 真次(aa0047)が資料を捲る手を止めずに呟く。
 真次だけでなく、多くのエージェントが必要とした、被害者発見現場、女の目撃情報場所は資料に記載されてある。
 街で更に聞き込みする必要はあるが、早めに切り上げないと自分達自身が不審者になりかねない。
「有力者に接触してみてはどうかしら」
 蝶埜 月世(aa1384)が、ひとつ提案を出す。
「有力者へ、街の男達を噂で脅すなどして、夜までに大きな建物に避難して貰えば、愚神が襲撃したとしても警護するあたし達がすぐに対応出来ると思うんだけど」
 しかし、ここで問題が出た。
 街到着時点での、有力者の居場所である。自宅にいるとは限らないだろう。
 月世は捜し出す、と言ったが、根拠もなく捜し回ればその姿は自ずと人々の目に留まる。
 加え、その有力者に接触、交渉を成立させるまでの時間、避難させるまでの時間……全てが夕方から行うには遅過ぎる。
 避難の為に移動させれば目立ち、最悪、避難最中を狙われるだろう。
 何より、今までの被害者は男だった。
 だから人々も昔話の通りと信じているが、実際無関係の従魔、愚神の関与ということならば、そのターゲットが男以外に向かない保障もない。
 こうした意見より、聞き込み調査で更に範囲特定、索敵し被害を出さないよう立ち回った方がいいという話になった。
「とは言え、女性陣は現地の人達に襲われる可能性があるな」
 御神 恭也(aa0127)は、愚神や従魔ではなく、現地住民からの危害の可能性を指摘した。
 そうした考えから、彼も街へ到着し、車から降りる時には伊邪那美(aa0127hero001)と共鳴し、姿を見せない配慮を行うとのこと。
「そのユーレイとはどういうものなのでしょう? ユーレイと事件とは無関係のようですが」
 先程までガルー・A・A(aa0076hero001)と幽霊がいるかいないかの話から、「怖いとか?」とからかわれていた紫 征四郎(aa0076)は、一応知っておいた方がいいのではと口にする。
「普通、幽霊って言うと、個人基点だよね。裏切りとか悲恋とか。でも、資料に何もないみたいだし、そういう話ないってことなら、変だよね。無理矢理生贄にされた人の幽霊なんじゃ……」
 征四郎に続くように那美が考察していると、ここで、雇われの現地運転手が「違うよ」と笑った。
「おじさんが知ってる範囲になるが、その幽霊、ポンティアナックの話をしてあげよう」
 運転手は、簡潔に話してくれた。
 聞いた範囲の感想で言うなら、特定の男性に対する復讐を企てるようだが、殺戮方法はかなり惨い。
「何か怨みあるのかな?」
「どっかの作家先生は、夜道端で偶然綺麗な女性と出会っても、亭主がその女性と関係を持たないようにという奥さんの願いの具現って言ったらしいよ」
 質問を続けた那美へ運転手はそう言って笑う。
「霊を慰めたりとか出来ないの?」
「その場所が分からないなら、追えないぞ」
 那美へ恭也は頭を撫でて落ち着かせる。
「ですが、しんじているのですよね」
「昔話ってのは、得てして教訓なんかを込めて語り継がれるんだよ」
「……物語があいされているのとは違うかもしれないですが、それを悪用されるのはゆるせませんね」
 ガルーと話す征四郎は、事件解決を心に誓う。
「纏めて思ったんだけど……」
 今まで被害者発見現場と目撃情報地点を地図に書き込んでいたセレン・シュナイド(aa1012)が、その沈黙を破る。
「法則性があると思う。……一見すると場所がバラバラなんだけど、発見されてる場所、全部商店街に繋がってるし、民家と民家の合間で夜になったら人の目があまり届かない場所なんじゃないかな」
 明かりもなく、暗そうだ、とセレン。
 皆セレンが書き込んだ地図を回し読みし、それに気づく。
 それに、被害者の数は多いが、大勢で移動している所を襲われた訳ではなく、少人数で移動している可能性が高い。
 この辺りは聞き込み調査で確定させるものだろうが、場所が住宅街なら、帰宅途中が狙われているかもしれない。
 それならば、男性の被害者ばかりということもあるだろう。資料にはないが、働く女性が少ない街なら、単純に夜女性が出歩いていないだけかもしれない。
「男女問わず夜間外出は控えるよう願うべきだよね。信心深いみたいだけど、誠心誠意忠告すれば、きっと解ってくれる」
「ん、過度の期待は禁物」
 AT(aa1012hero001)がそう言うと、エコー(aa0047hero001)が呟いた。
 真次の「被害者が発見された場所が全て同じだったら、分かり易くて楽でしたのに」という呟きもそうして諌めたエコーは、『そうならなかった』可能性に重きを置くべきと唱えた。
 『理解されないかもしれない』ことを前提に動く場合、そうであった時の対応方法まで考えが及ぶが、『理解される』ことを前提に動いた場合、『理解されない』場合にまで考えが及ばない。そうなった時に出る被害は無視出来ない、と。
 そこで、全員気づいた。
 住民が『昔話を信じている』ことが問題なのではない、『自分達は大丈夫と信じている』ことが問題なのだと。
 さっき聞いた『ポンティアナック』は、あくまで『自分達は大丈夫』と思い込む『根拠』にしか過ぎない。
「自らの頭で考えることを止めればどんな哲理でも迷信と変わらなくなる。逆にそれが役に立つなら白木の杭だろうが鋼の剣だろうが使えるモノは使えばいいとはよく言ったものだ」
「当たり前過ぎて面白くないけど、賛成しとくわ」
 アイザック メイフィールド(aa1384hero001)の呟きに月世が応じつつ、セレンの情報の纏めを自身に活用出来るよう情報を落としこんでいる。
 もうすぐ、街へ到着する。
 皆、資料や連絡手段を再確認し、改めて任務に必要な灯りを点検した。
「聞き込みは早めに切り上げた方がいいね。刺激して、後つけられてた、なんてなった時に遭遇してしまったら、大変。適当に探す訳にはいかないから、目星つけられるように情報集めないと」
「セレンさんが法則性を見つけてくれたこともあるし、聞き込みし易さもあると思うわ」
 シルヴィア・ティリット(aa0184)の提案にヴァレリア(aa0184hero001)も頷く。
 聞き込み後の索敵を2手に分けるべく班分け完了した時には、車は商店街にある食料品店へ何気なさを装って停車した。

●慎重に迅速に
「じょうほうは足でかせぐ……ですよ!」
 征四郎はガルーと共にお菓子屋台へ足を運んだ。
 揚げバナナを頼みつつ、征四郎は年相応の子供装って幽霊騒ぎに話を向ける。
 屋台の主は幽霊の目撃者が話していた容姿の話や仕事から帰宅途中の客が子供の土産に購入し、被害に遭った話をしてくれた。
「あなたは女の子だから大丈夫かもしれないけど、お父さんは注意してね」
 征四郎はガルーを見たが、否定して怪しまれても仕方ないので、ガルーは調子よく娘に怒られるから注意すると笑って応じた。

「どこも洗濯物を急いで仕舞っているわね」
「不安だからこそ行っているだろうが、仕舞えば大丈夫という思い込みもあるだろう」
 月世が住宅街の洗濯物の取り込み状況を確認すると、アイザックはそう言った。
 洗濯物から居住者にある程度当たりをつけておき、不測の事態に備えているが、不測の事態が起きないのが1番いいだろうとは同じく住宅街で聞き込みをする恭也の言葉。
「夜になったら危ないから、ホテルに戻った方がいいと忠告された」
 那美が尚のこと霊を弔うべきではと言っている話を零した恭也は、大丈夫という思い込みの鉄壁を感じたらしい。
「私も心配されました。仕事は明日にした方がいいだろうと」
 エコーに幻想蝶内部で待機して貰っている真次は幽霊騒ぎを取材するビジネスマンと勘違いされたらしい。
「なら、お互い夜出歩くのは止めておきましょうと言っておきました」
 世間話の範囲でそれとなく促した真次へ、エコーもそれでいいと言ってくれたそうだ。

「俺なら意地でも引き篭もるんだがな。死にたくねーもん」
「……正しい選択肢かも知れないが、エージェントが胸を張って言うことではないな」
 ルキアが話を聞いた住民と十分離れてから声に出すと、モダンタイムスは呆れた声を出す。
 先程も「ほら、白い服着た幽霊だよ。幽霊。見たことあんだろー?」と住民へ話を聞こうとしたルキアへ、「Ms.ルキア、それではただのチンピラだ」と交渉術の勉強を勧めたばかりだ。
 モダンタイムスは警察から依頼を受けた、幽霊を追い払う為、幽霊を刺激しないよう夜間外出は控えてほしいと言ったのだ。
 当たらずとも遠からず、住民を刺激しないように言ったお陰で、外出遠慮の願いも上手くいき、ほっとする思いだ。
「被害者が発見された場所、全部回ってみたが、暗くなったら判り難い場所が多かったぜ。索敵する場所もそんな感じだから、灯り持ってきて正解だな」
「ヒジリー、ルゥ、お腹すいた」
 聖は難しいことや細かいことは解る奴または周囲に任せる方針とのことで、自身は現場を巡り、戦闘の想定を行っていたそうだ。
 細かいことは気にしないらしく、より強きを目指したい為強い敵を討ちたいか、単純な攻撃役としてのみと考えているとのこと。
 その分、Le..が痕跡を探してみたらしいが、気になるものはなかったそうで、今はカレーパフを空にしても尚空腹を訴えている状態とのこと。
「痕跡は、厳しいかも。最後の被害者が出た後、雨が降ってるらしくて」
「なくても出たらオレが倒せばいいだろ」
 資料を読み込んでいたセレンがそう言うと、聖はLe..へ揚げスイートポテトを渡しながら不敵に笑った。
「でも、助かりました」
「私達だけではどうにもならなかった」
 モダンタイムスにセレンが向き直ると、ATが続いた。
 彼らは索敵範囲付近の住宅を回って夜間外出を願ったが、愚神、従魔と信じていない住民への配慮からエージェントと名乗っていない為に見かけで逆に心配されてしまい、上手くいかなかったのだ。
「法則性を見つけてくれたセレンさんのお陰ですよ。根拠もなく信じさせることは出来ませんから」
 モダンタイムスは、セレンあっての成功と聞き込み、索敵の下地を整えたその手腕を褒めることを忘れなかった。

 やがて、エージェント達は一旦合流した。
「被害者の最後に目撃された時間だよ」
 シルヴィアは場所以外にも時間帯に着目し、最後に目撃した時間について聞いた情報を皆に見せた。
 結果、全員、時間はまちまちであるが、『仕事が終わって帰宅途中』であったと判明したのだ。
「昔話に似ているのは偶然なのか、意図していることなのかは知らないけど、この辺りで終わりにして貰わないと」
「だよね」
 ヴァレリアの言葉にシルヴィアも頷く。
 全員で聞き込みで得た情報や夜間外出の依頼状況を共有化し、2手に分かれて索敵開始。

●隠れていたモノ
 遠距離攻撃が出来るエージェントは偏らない方がいいという真次とルキアの意見や年齢や性別が偏り過ぎると目立つのではという懸念も踏まえての班編成と住民の目を考慮した形だ。
 何かあったらすぐに連絡を。
 互いに目視出来る範囲で索敵するとは言え、油断は出来ない。

「警邏は警官の基本スキルね。……でも、この年になるとちょっと疲れるわ」
 出向の身の上である月世は、そう漏らす。
「どんな奴でもこっちを狙って来てるなら都合がいい、纏めて掛かってきやがれってんだ」
「……ねむい……夜、苦手……」
「まだ寝る時間じゃねぇだろ!? 共鳴するまで寝るな!!」
 単独行動はしないが、敵は討つつもりの聖は不敵な笑みから一転、妹分のLe..が判り易くも眠そうな目をしていることに気づき慌てる。
「ヒジリー……あとでおこし……」
 言い終える前にLe..は寝ていた。
 仕方ない、後で起こすかと聖は彼女を背負う。
「あちらはどうだろう?」
「まだ動きはないようですね」
 アイザックが最新の連絡を受けた真次へ声を掛け、状況を確認する。
「シルヴィアさんの提案で両手が空くハンズフリーのネックライトもありますけど、索敵の主力はやっぱり懐中電灯になりますよね」
「ネックライトが役立つのは戦闘中になるかと。今は手が塞がっていても問題ないですが、戦闘中は難しいでしょうし、何かの拍子に固定が切れたら、それが隙になるでしょうからね」
「それはありますね」
 セレンへ真次が「エコーの受け売りですが」と前置きし、見解を口にすると、彼も納得する。
「夜間外出をしている者は今の所いない……今夜決着が理想だよ」
 ATは、毅然とした眼差しを夜の闇へ向けた。

「そろそろ次へ移動した方がいいかもしれない」
「一箇所に留まり過ぎても目立ちますからね」
 恭也の呟きに真次との連絡を終えたモダンタイムスが軽く肩を竦めた。
 男女比率はほぼ均等だが、年齢層はこちらの班の方が若い。
 目立ち過ぎるような程ではないが、考慮はするに越したことはないだろう。
「今の所男だけなら男連中がルアーになって、勝手に来そうな気はするけどな」
「血に飢えた物騒な幽霊を追い払う約束をしたから、来ていただかないと」
「『血に飢えた』で、俺見んな!」
「お互い様だ」
 モダンタイムスは、ルキアに涼しい態度を崩さずいけしゃあしゃあと言ってのける。
(『仲いいよね』……そういうもの、か? よく判らない)
 那美の評価に恭也が首を傾げていると、征四郎がふと、眉を顰めた。
「何か見つけたのか?」
 ガルーが征四郎が凝視していると気づき、征四郎はこの中で最も背が低い。
 目線が違うが故の異変を感じたのではないかとガルーは判断、征四郎に合わせるように身を屈めた、その時だ。
 幾つもの光が暗闇から急速に近づいてきた。
「来た!」
 シルヴィアが端的な連絡を入れ、ヴァレリアを見る。
「終わりにしましょう!」
 頷くヴァレリアとシルヴィアが共鳴すると、征四郎もガルーと共鳴し、青年の姿を取る。
 ルキアとモダンタイムスも共鳴したその時には、先に共鳴していた恭也が幾つもの光を見据えていた。
「従魔……いや、他にもいる」
 暗闇から近づいてきたのは、真っ白い服を着た何か。
 風が吹き、その正体を知る。
 そして、その正体こそが昔話に隠れていた愚神だろう。

●討て
「あら……今日は団体さんかしら」
 赤一色の眼を持つ愚神はある程度想定していたが女性型らしく、仕留める獲物の多さに喉を鳴らした。
「ラムプ、楽しみましょう」
 その一言と共に彼女から風が解き放たれる。
 エージェント達にとっては向かい風となる能力は思ったより強く、普段通りの機動を保てない。
 が、それに関係なく、彼女は滑るように向かってきた。
 思ったより速い!
 エージェントは攻撃をやり過ごすように飛び退くと、征四郎がトリオを扱うルキアを守るべく彼女の前に立つ。
「私は、あなたを倒します!」
「どうやって?」
 くつくつ笑いながらも彼女は駆けてくる。
(『背後にいるから確実に当たると踏んでるんだろうな』……たえれば、大丈夫です)
 こちらが意図を見抜いていると知られないよう注意しろとガルーが征四郎へ言うと、口に出さず、征四郎はガルーへ応じた。
(『幸いなことに我々は当てることは比較的得意だ。相性は悪くないだろう。到着まで舞台を整えておこう』)
「勿体ぶった言い回ししやがって!」
 モダンタイムスの内部指示に声を出して応じるルキアは接近するラムプと呼ばれた従魔へトリオ発動。
 銃弾は2体のラムプへ命中したが、回避能力はやや高いようだ。
「イテーのは嫌なんだけどな」
 共鳴するとタフになる、と漏らすルキアへラムプが襲い掛かってくる。
 が、ルキア到達の直前にラムプが悲鳴を上げた。
 真次が死角からラムプを狙ったと推測するのは難しいことではない。
「間に合ったね」
 目視出来る範囲にいたこともあり、駆けつけてきたセレンがシルフィードを構えている。
 ATからは『いつも通り戦うだけ、臆することはない』と言われた為か、落ち着いていた。
 その脇を、聖が駆け抜ける。
「こんなので防げるとでも思ってんのか!? オラァァァ!!」
 従魔など目に入っていないかのように愚神へ向かっていく聖。
 まだ止んでいない風もそれごとヘヴィアタックで砕かんばかりの勢いだが、強力な向かい風は思ったよりも移動に難が出ている。
(『……ヒジリーは、ルゥがいないとダメだね……。連係しないと厳しいよ』)
 負けないと気を吐くも、その前に到達出来ずに間合いを取られてしまうと、Le..は軽く溜め息を吐いた。
 この愚神の動きを活かしているのは機動力に優れるラムプだろう。
「光る目を狙わなくとも、目印にはなる……目が教えてくれる!」
 シルヴィアが真次、ルキアへ働きかけるように言い、自らもラムプを優先的に撃ちに掛かる。
「うざいわねぇ、あなた」
「それはどっちかしら。逃げないでよ」
 シルヴィアを狙って駆けてくる愚神の間合いに月世が入る。
 正確には、再度向かい風を発生させた愚神がシルヴィア狙いだろうと踏んでそこで待ち構えていただけだが。
「思ったより、きついっ」
 向かい風をまともに喰らう形になった月世が顔を歪めながらもシルフィードを突き出すが、風で集中が乱れているのか、いつも通りの太刀筋ではない。
 回避された月世へ愚神の爪が繰り出される。
 風の影響で上手く回避出来なかった月世に浅い傷が生まれるが、セレンがすぐさまフォローに入り、追撃を許さない。
「面倒ね」
 言いながらも横に飛び退く愚神、一撃離脱の戦法を取っているのだろう。
 恭也は真次の攻撃で弱りながらも降下して攻撃しようとしたラムプの1体を返り討ちながら冷静に観察する。
 征四郎も敵の動きを観察している段階なのか、愚神が聖の攻撃を飛び退いて避けて見逃している間にハンドサインを送ってきた。
 頷きひとつで恭也が応じていると、シルヴィアが同じようにハンドサインで遠距離攻撃を行うエージェント達へ合図を送る。
 ヴァレリアも賛成してくれたが、シルヴィアは愚神が速さを活かしているなら、その速さを封じなければ膠着すると考えた。
 動きが速いなら、確実に狙うのは基本だが、離脱出来ない状況を作った方がいい。
 ならば、遠距離攻撃を行う者が包囲するかのように位置取り、隙間なく撃てば、対応に追われて動けなくなる筈。
 そうすれば、後は強力な攻撃手段を持つ前衛が仕留めるだろう。
(それに、あの向かい風はあたし達の射程に影響はなかった。『きっと風が届かないのでしょう』)
 ヴァレリアと同意見のシルヴィアはそうした意図もあって、愚神の行動妨害の優先を考えたのだ。

(『隙を与えないようよく見て』)
 真次は移動するシルヴィアとルキアの位置取りを確認しながら、自身も別の遮蔽物へ移動する。
 タイミングはエコーも図ってくれる、出来ないのではと考えることはない。
「射程が違う分、気を遣いそうではありますが」
 真次は呟き、スナイパーライフルを構えた。

●昔話の最後はいつでも
 遠距離攻撃を行う者達の動きを知られる訳にはいかない。
 恭也、征四郎が彼らのバックアップするようにラムプ主体に攻撃を重ねる。
(『弱っているものも多いからなのかな、攻撃は逆に読み易いよね』)
 那美がそう評している通り、既に残り2体のラムプは少しでもダメージを与える攻撃に切り替えてきている。
 何とか生き残っている印象のラムプである為、そう感じてしまうのかもしれないが、その攻撃は単調になってきており、読み易い。
 ラムプ優先の恭也、遠距離攻撃を行う者を妨害させないという意味で守る征四郎が対応している間、愚神へ聖、セレン、月世が対応している。
「その爪ごと圧し折ってやんぜ!!」
「私に来なければ意味がないわよ?」
 愚神に指摘された通り、聖はまだ攻撃力の高さを活かせないでいる。
 端的に言うと、向かい風を発生させる能力自体はダメージなどない。
 が、移動速度が落ち、まともに喰らえば集中力の低下を招いて命中率や回避行動に支障が出、地味に面倒なのだ。
 衝撃を受けたような状態自体は征四郎のクリアレイでどうにかなるが、その間のタイムロスは大きい。
(『上手く連係して……自分以外の人の動きも見て』)
 Le..のアドバイスもあり、聖がセレンと月世を見る。
(『相手の間合いを許さぬのなら、呼吸を揃えるべきだ』……本当にその通りね)
 アイザックに応じながら、月世は聖へ頷きを返す。
 もう引き離される訳にはいかない。
 と、セレンが口を開いた。
「随分と好き勝手にやってくれたみたいじゃないか。……残念だけど、キミの舞台はここで終わり。亡くなった人達の無念、その身で受けろ!」
 同時にセレンが横へ飛び退いた。
 そこにいたのは、シルヴィア。
「もう逃す気はないよ!」
 その言葉と同時に銀の魔弾が放たれると、愚神へ命中した。
 直後、別の角度から愚神をその場に縫い止めるように銃弾が刺さる。
(『とにかく敵にとって邪魔な存在になることさ。耐久力があり、射程が長く、命中率が高い。適性は十分にある』)
「褒めてねぇ!!」
 モダンタイムスにツッコミしつつ、ルキアが征四郎の陰からストライク。
 つまり、先程の弾丸は真次ということになるが、今はそれを考えている場合ではない。
 射撃攻撃で足が留まった愚神は対応の為に向かい風を発生させる。
「あたしら関係ないけどね」
 シルヴィアが銀の弾丸をもう1回。
 命中した隙を狙ってセレンと月世が同時攻撃するのを必死に避けた先に恭也がいた。
 空いた場所に来ることを見越して待機した方がいいだろうと待ち構えていた形だ。
「く!」
「腕を犠牲にしたか」
 愚神が左腕でわざと攻撃を受けて致命傷を避けるが、その左腕は飛ばされる。
「もうそろそろ……行って」
 征四郎の言葉が夜の闇に響いた。
 その意味は、ひとつだけ。
 向かい風が止んだ、その瞬間を狙って聖が駆けていた。
「叩き潰す!!」
 本来の動きで接近した聖は、ヘヴィアタックで愚神を仕留めた。
 後に、識別名『メラーイブ』となったデクリオ級の愚神の最期である。
「まだまだだ、強くならなければ……!」
 征四郎が愚神の観察を行い、向かい風が発生している時間に気づかなかったら、絶好のタイミングで攻撃は出来なかった。
 そのタイミングもシルヴィア達の遠距離攻撃があってのもの。
 聖は、もっと強くなろうと改めて決意した。

「徹夜にならなくて助かったわ。肌に悪いし」
「以前も毎日徹夜で文章を打っていたような……」
 征四郎からケアレイを受けた月世の言葉に、共鳴を終えて姿を表したアイザックが呟いたが、月世は聞こえない振り。
「どんな昔話も最後に悪は滅びますが、この話の教訓は適者生存というものかもしれませんね」
「昔話の関連はともかく、これにて幽霊の偽者退治は終わりだよね」
 モダンタイムスの言葉を聞いてうへぁと言わんばかりのルキアを見つつ、シルヴィアがそう言う。
 真次が「無事に終わりましたね」とエコーと共に物陰から出てくるのを征四郎とガルーが出迎え、悪用された霊を案じる那美を恭也が宥めている。
 Le..が戦闘も終わったしとまた寝た為に聖が背負っているのを微笑ましく感じながら、エージェント達は街を立ち去ることにした。
「もう案ずることはないよ、セレン」
「うん。これでもう大丈夫」
 ATに答えたセレンは、シルヴィアが自分達を呼んでいることに気づいた。
 行こう、とATを促した後、セレンは少し離れた場所にある家々を見る。
 そこには、やっぱり洗濯物はなかった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • エージェント
    シルヴィア・ティリットaa0184
  • マグロうまうま
    セレン・シュナイドaa1012

重体一覧

参加者

  • 魔王の救い手
    填島 真次aa0047
    人間|32才|男性|命中
  • 肉食系女子
    エコーaa0047hero001
    英雄|8才|女性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • エージェント
    シルヴィア・ティリットaa0184
    人間|18才|女性|攻撃
  • エージェント
    ヴァレリアaa0184hero001
    英雄|19才|女性|ソフィ
  • Run&斬
    東海林聖aa0203
    人間|19才|男性|攻撃
  • The Hunger
    Le..aa0203hero001
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