本部

ド田舎アイドル。東京さ、来る

落花生

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
4人 / 4~6人
英雄
4人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/10/08 12:13

掲示板

オープニング

●アイドルは泣いています
「オラには、できねぇべ! わーん。田舎さ、返してけろ」
 テレビ局の控室に、少女の甲高い声が響いた。だが、少女の言葉は可愛らしい声に反して田舎くさいものだ。
 控室の椅子の影に隠れている少女は、戦隊モノのコスチュームと魔法少女を足して二で割ったような恰好をしていた。上は体の吸いつくようなぴっちりとしたデザインだが、下は上半身を裏切るような短い丈のスカートだった。そんな格好をした少女は「田舎に帰してけろ!」と言いながら泣いている。彼女の名前は、西川マリナ。
 マリナは、とある田舎のご当地ヒーロー兼アイドルであった。リンカーとしての経験は薄く、アイドルとしては自分の故郷の生産物をアピールしていた。そんなマリナに、大きなチャンスがやってきた。
 教育番組『おしえて! リンカー先生』の正義のリンカー役として、出演が決定したのだ。この番組は子供に対してリンカーの存在意義の説明と戦闘中は近づいていけません、というメッセージを込めた番組である。番組の内容は愚神役と正義のリンカー役に別れて模擬戦をし、最後に出演したリンカーたちが子供たちにメッセージを伝えるのである。マリナはその番組に、正義のリンカーとして参加することが決定した。
 HOPE所属のリンカーも出演する事もある番組であるため、大人にもそれなりに人気がある番組であった。なにより人気アイドル数名を輩出した番組であるから、最近では新人の登竜門的な存在と扱われている番組である。
 だが、マリナは……自分の故郷しか知らない少女は東京という大都会に完全に委縮してしまっていたのだ。番組の控室で、彼女は田舎の方言丸出しで泣きわめいていた。真昼間の廊下まで響きわたる泣き声は、彼女の楽屋の前を通る番組スタッフをぎょっとさせるほどだった。
「マリナ、しっかりして! 二人で皆に元気をとどける、って契約したでしょう」
 鼻水まで垂らして泣き続けるマリナを慰めているのは、彼女の英雄であるユリィカであった。大人しそうな外見とは裏腹に、力強くマリナを励まし続ける。若い女の姿をしたユリィカは、マリナと出会った日から彼女の一番の理解者であり一人だけの応援団でもあった。
「マリナは、私に言ってくれたよね。皆に元気をとどけて笑顔にしたいって、この番組はそのチャンスなんだよ」
 ユリイカの言うことは、その通りだった。
 だが、今のマリナにはその正論は痛かった。彼女はユリィカをこの世で一番信頼していただけに、ユリィカには自分の気持ちを分かって欲しかったのだ。だから、つい思ってもいないことが口からでた。
「オラは、リンカーになんかなりたくなかったっぺ。英雄なんて、いらなかったっぺ!」
 大きな声が、楽屋に響きわたる。
 その言葉に、ユリィカの目から涙がこぼれ落ちる。
 ユリィカはマリナの『皆に元気をとどけたる』という契約をしていた。マリナがアイドルの仕事を放棄したということは、その契約を放棄したことと同じであった。ユリィカの体が、うっすらと透け始める。
「マリナのばか! もう知らないからね!!」
 ユリィカは泣きながら、楽屋を飛び出した。人でにぎわうスタジオを通り抜け、従魔を模したキグルミなどが詰められた部屋に飛び込んだ。内側から鍵までかけて、ユリィカは膝を抱えて丸くなる。
 ――マリナが自分ともう一度夢を誓ってくれるまで絶対に出ない。
 ユリィカは泣きながら、そう誓った。

●英雄も泣いています
 ユリィカの様子から何かが起こったのかもしれないと思ったマリナのマネージャーが、楽屋のマリナを尋ねてきた。マネージャーの後ろには、本日の撮影に出演する予定のリンカーもいる。本当ならば、今頃は本番前の最後の打ち合わせをする予定だったのだ。
「マリナどうしたのよ?」
 女性マネージャーが、マリナに訪ねた。
 彼女は涙と鼻水で、顔面をぐちょぐちょにしながら
「ユリィカがいなくなっちまったー! オラ、ユリィカがいねぇとアイドルなんかになれねぇ!!」
 と鳴き叫んでいた。

解説

 ご当地ヒーロー兼アイドルのマリナとその英雄のユリィカを仲直りさせて、撮影に参加するシナリオです。先輩リンカーとしてマリナとユリィカの仲を取り持って、協力して撮影を成功させてください。
 マリナは現在、高校三年生。中学校の修学旅行の際に事務所にスカウトされて、ご当地アイドルになりました。ちなみに実家は農家で、将来の夢は皆に夢を届けるアイドルになること。ユリィカは二十代前半でマリナよりも年上で、マリナの保護者的な性格です。マリナの世界一のアイドルにしてみせる、と意気込んでいます。
 
 二人が仲直りしたあとは、撮影になります。マリナの仲間として正義のリンカー役になるか、愚神のキグルミを着て敵役になるか相談して撮影に挑んでください。撮影内容は模擬選となりますが、子供向けのテレビ番組なので緩い模擬戦になります。なお、スタジオで撮影するので、撮影に必要な衣装やメイク道具は一式そろっていますが、持ちこみもOKになります。撮影のあとには子供に向けてのメッセージも流れますので「戦闘中は近づかないでね」的な教育的なメッセージをお願いします。

リプレイ

●ユリィカの説得
 楽屋で、マリナは子供のように泣いていた。
 涙で両目ははれ上がり、鼻水で化粧が流れてもおかしくはないほどの大号泣であった。
 その様子でただ事ではないと感じ取ったマリナのマネージャーが、マリナに何があったのかを尋ねた。
「オラ、ユリィカのことなんていらねぇって言っちまったんだ! オラは、ユリィカがいねがったら、なんにもできねぇ!」
 その言葉から、撮影のために集まったリンカーたちはマリナとユリィカが喧嘩をしたのだと悟った。桂木 隼人(aa0120)は、仕方がないとばかりに息を吐いた。
「お互いに意思があるから、こういうこともありえるんやな」
 無条件で自分に従う英雄とでは、考えられないトラブルである。そう考えていた先から「私は隼人君の言うことを聞くから、隼人君とは喧嘩しないよ!」と有栖川 有栖(aa0120hero001)の場違いな言葉が響いた。
 その言葉に、マリナがさらに泣き叫ぶ。
「ユリィカが消えたら、オラのせいだ……!」
 泣きやむ気配のないマリナに、そっとお茶を差し出す少女たちがいた。九十九 サヤ(aa0057)とその英雄の一花 美鶴(aa0057hero001)である。ほのかに甘い香りのするお茶の湯気が、マリナの腫れて赤くなった目じりを優しく温めた。
「マリナさん、ですよね。お話を聞かせてもらっても、よろしいですか?」
 穏やかな声で語りかけるサヤに、マリナは思わずこくんと頷いた。
 少しばかり落ちついたらしい。
 あまり大人数でマリナ一人を取り囲むのはどうだろうかと思われたこともあり、桂木、有栖川、マルコ・マカーリオ(aa0121hero001)それに北里芽衣(aa1416)と夢喰らいのアリス(aa1416hero001)は、控室を飛び出していったというユリィカを探すことにする。
 撮影所は、様々な人間がバタバタと忙しく動きまわっていた。子供向けの番組ということもあって、ちらほらと子役の姿も見えた。
 マルコは、メイク道具を持った女性に声をかける。他のスタッフと違って走ってはおらず、話しかけても比較的迷惑にはならないだろうと思ったのである。
「すまないがお譲さん。ユリィカという女性を見なかっただろうか?」
「女性? ああ……たしか、今日来ていたアイドルの英雄だっけか。さっき、泣きながら撮影に使う道具が入った物置部屋に飛び込んでいったよ。そういえば、足のほうが透けていたような気もするけど、あの子も幽霊役か何かをやるのかい?」
 ちなみに物置部屋はあっち、とメイク道具を持った女性は指さした。そんな豪快な女性にマルコは「ありがとう、お嬢さん」と丁寧に礼を言う。
「消えかけているということは、マリナさんは契約を破棄してしまったのでしょうか?」
 人の多さに圧倒されながら、芽衣は尋ねた。
 契約を破棄された英雄は、新たな契約を結ばなければ消えるのを待つばかりのはずである。本当にマリナがユリィカとの契約を破棄してしまったというのならば、彼女たちは喧嘩別れをしたままで永遠の別離を味わうこととなる。
 それは、本当に苦しい。
 芽衣は心の底から「仲直りしてほしい」と思った。
「そうなのかもね。さっ、アリスは先にお着替えでもしてましょ!」
 一方でアリスはそんなことにはおかまいなしに、衣装や小物、それに次々と準備が整えられていくスタジオの様子に夢中になっていた。頭のなかは自分が『すごいあいどる』になることで、いっぱいだったのである。
「もーなに、もたもたしてるの。はやく準備して! アリスのめーれーよ!」
 おおいばりでスタッフに指示を出し始めたアリスを、芽衣は慌てて止めた。
「だ……だめ、アリス。お仕事のジャマをしないの、わかった?」
 だが、アリスはスタッフたちに好評だった。子供番組を撮影するスタジオだけに、スタッフたちも子供にはなれているのである。アリスに命令される振りをしつつも、着実に自分の仕事をしている。芽衣は、アリスをここで待たせておくことにした。アリスはマリナとユリィカの喧嘩のことになんて興味はないし、ここではスタッフたちも上手くアリスの我がままをやり過ごしている。
「それにしても、物置部屋ってどこなんや? ……おお、ここやな」
 桂木が発見した部屋には大きく『関係者以外立ち入り禁止・大道具小道具』と書かれていた。立ち入り禁止と書かれている上に、相手は英雄とはいえ泣いている女性だ。ドアを開けることははばかられたために、桂木はドアの外から声をかけた。
「ユリィカさん、ここにおるやな」
 部屋の奥から、がさりと物音が聞こえたような気がした。
 間違いなく、ユリィカはここにいるのだろう。
「自分らは、今日の撮影で一緒に仕事をさせてもらうリンカーや。あんたとマリナさんの事情は、おおむね分かっとるつもりや。ユリィカさん、あんたがここにいてもしゃーない。あんたが、消えるだけやで……。それは、マリナさんを悲しませるだけや。マリナさんは、あんたに消えて欲しくないって泣いてるで。腹を割って、話そうや。話さんと……言葉にせんと伝わらへんで」
 マリナは、ユリィカが消えてしまうと泣いていた。本当は離れたくはないからこそ、泣きわめいていた。ユリィカだって、本心では同じ気持ちなのだろう。
 しかし、彼らには互いに意思がある。
 だから、すれ違ってしまうのだ。
 桂木は年長者として、マリナとユリィカの間にすれ違いがあるということを分かっていた。若い当事者たちには分からないのかもしれないが、すれ違いというのは話しあうことでしか解決はしない。
「もし、わたしが消えて隼人君と離れ離れになったら……そんなことを考えたら気が狂いそうだよ。隼人君、『何時でも一緒』にいてね」
 有栖が隼人の隣で、しなを作って可憐に呟いていた。その姿は英雄ではなくて、相手にされない男を夢中にさせたい女そのものだ。ある意味では隼人はユリィカに夢中で、有栖は眼中にないとも言ってよい。隼人に命をかけている有栖は、きっと今の状況を打破しようと必死なのだろう。
 隼人にすっかり熱をあげている有栖の気配を振り払うかのように、こほんとマルコが咳払いをする。
「ユリィカ、うちの姫さんもマリナと同じ夢を見ているんだ。世界一の歌姫になるとか言っているのさ。あんたのマリナと違って、いつも自信満々で絶対なれると信じて疑わない」
 マルコは、少しだけ笑った。
 彼の目蓋には自信満々で立つ、少女の姿があった。お気に入りのゴスロリワンピースに身を包み、偉そうに喋る幼い少女の姿が。
「……と見せかけているだけなんだがな。表に出さないだけで、迷うときもぐらつきそうになる時もあるさ。でも、最後には夢のためにもう一度立ち上あがる。マリナだって、そうさ。そんとき、あんたがそばにいなくてどうする」
 アイドルや歌姫は、女の子の誰もが憧れる綺麗な夢だ。
 しかし、そういうものになれるのは一握りだけ。
 明日は、なれる。
 明後日は、なれる。
 そう信じて、何度でも立ち上る小さな姿をマルコは一番近くで見てきた。
 ユリィカだって、同じはずなのだ。
 だからユリィカが「マリナが世界一のアイドルになれる」と無条件で信じていることをマルコは知っている。
「その……マリナさんも本気で言ったわけじゃないと思うんです。わたしたちは部外者に過ぎないかもしれないけど……気持ちがすれ違ったままは悲しいから、もう一度マリナさんのお話を聞いていただけませんか? お願いしますっ」
 芽衣が、頭を下げる。
 『立ち入り禁止』と書かれていたドアが開き、そこから若い女性の英霊が現れた。すでに身体の半分が透けており、その姿は心もとなかった。
「こりゃあ、急いだ方がよさそうやな」
 桂木の言葉に、皆が無言で頷いた。
 
●マリナの説得
 楽屋では、サヤの入れた紅茶を皆で飲んでいた。甘い香りに、女性陣の心は自然と穏やかになっていった。マリナもさっきのように泣いてはおらず、鼻をすする程度に落ちついている。
「オラ……東京が恐くなっちまったんだ。こげな大きな街で、アイドルなんてもん本当にできるのかって。ユリィカはオラのことを励まそうとしてくれたけど、オラはそれが鬱陶しくなっちまって……つい、いらねぇって言っちまっただ」
 お茶の香りに包まれ、マリナが静かに告白した。
 そんななかで
「マリナさん、納豆たべられる?」
 とアンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)が尋ねた。あまりの突然の質問に、マリナだけではなくサヤや美鶴もきょとんとする。
「納豆は、子供のころから好きだべ」
「ボクは、なんで日本の人が腐れ豆を食べられるか不思議だよ。てっ……何が言いたいかと言うと外国人のボクには日本には理解できないことが沢山あるってこと。だけど、マリナさんが暮らしていた所も東京も、同じ日本でしょう?する事も考える事も大して変わらないよ。東京の人も納豆たべるんでしょう?」
 アンジェリカに尋ねられたサヤは、思わず頷いてしまった。
「マリナさんの故郷と東京、何の違いもありゃしないよ。ビビだけ損ってもんだよ」
 自信にあふれたアンジェリカの言葉に勢いづけられたように、サヤは立ち上った。
「マリナさんなら、できますよ! だって、マリナさんは今までこつこつ頑張ってアイドルをしてきたじゃないですか。地元の田舎から出てきて、知らない世界に入って、ユリィカさんと二人で手を繋いで、ここまで自分の足でちゃんと歩いて来たんです。……大丈夫、できます」
 サヤの隣にいた美鶴も頷いた。
 そんなとき、マリナのマネージャーが楽屋に飛び込んできた。
「大変よ、マリナ。ユリィカが消えかけているそうよ!」
 その言葉に、マリナの顔色が再び真っ青になる。
 だが、そんなマリナの肩を叩いたのは美鶴であった。
「あなたが、間違ったと思ったなら謝ればいいだけです。分かって欲しければ、そう言えばいいだけです。……あなたには「皆に元気をとどける」という夢があるのでしょう? ならば、あなたのパートナーに笑顔を届けましょう。……大丈夫、あなたもあなたのパートナーもわたくしたちと同じように互いの笑顔で元気になれます」
 美鶴の言葉に、マリナは頷く。
 やがて、桂木たちに連れられてきたユリィカが控室に入ってきた。亡霊と言っても通用しそうなほどに薄らいだ自分のパートナーと、マリナは向き合った。
「ユリィカ……。今のオラは泣き虫で、こんなにたくさんの人に慰められて……。やっぱり今のオラには『皆に元気をとどける』っていうえらく大きな契約なんてできねぇっぺ」
 マリナの言葉に、ユリィカは驚きのあまり呼吸を止めた。
 リンカーたちも、目を丸くする。
「オラは、ユリィカと『いつも一緒にいる人を笑顔にする』っていう契約を結び直すっぺ。ユリィカ、オラがいつか東京にもなれてデッカイ夢を叶えられたら改めて『皆に元気をとどける』っていう契約をしてけろ。アイドルになるのは、オラとユリィカの夢だ。でも、一番近くにいる人から、オラは笑顔にしたい。ユリィカ、こんなオラだけども、また一緒に夢を追いかけて欲しいべ」
「…………もちろんよ。もちろんよ、私のマリナ!」
 感激のあまりユリィカは、マリナを抱きしめた。マリナを抱いた腕や二人が触れ合う頬が、どんどんと色づいていく。もう、ユリィカは消えかけてなどいなかった。
 そんな二人を見ていた有栖が、ぴょんと飛び跳ねながら桂木の肩を叩いた。
「私たちも『いつも一緒』だよ。隼人君が、私にそう契約してくれたからね」
 有栖は嬉しそうに、隼人に笑いかけていた。
 他人のためではなく自分のための契約の内容が、きっと有栖には嬉しかったのだろう。
 控室のドアが、乱暴に開かれる。現れたのは黒を基調としたいかにも悪役っぽい服装に着替えた、アリスの姿であった。
「みんな。はやく、はやく! 撮影のじゅんびはできてるよ!!」

●『教えて! リンカー先生』本番
 夕方の公園で、子供たちがサッカーボールで遊んでいる。5時を知らせる鐘は鳴っているが、遊びに夢中で子供たちは家には帰ろうとしない。
 ――そのとき、四つの黒い影が現れた。
「きゃははは! みーんな壊しちゃうんだから!」
 愚神のキグルミを着ることを嫌がったアリスはいかにも悪役らしい服装を身につけて、玩具の斧を振り回していた。撮影のスタッフが玩具ならば被害は出ないだろうと思って持たせた斧だが、すでにスタジオのあちらこちらは壊れ始めている。子役たちにあたっていないのが、せめてもの救いであろう。
「いかんなぁ……。夕方になっても、家に帰らない子供のところにはごっつ恐い従魔がでるんやで。自分みたいな」
「従魔集人くんに仕える従魔は、わたしだけ! わたしたちは、いつでも一緒なんだからね!!」
 角がついた愚神のキグルミを着た桂木が、ぬっと登場する。その足元には、胸を強調するようなぴっちりした衣装に身を包んだ有栖川の姿があった。愚神桂木に仕える従魔という自分なりの設定を作って撮影に挑んだ彼女の衣装は、教育番組故の規制と有栖の欲望がギリギリまで拮抗した姿であった。
「こんな時間まで遊んでいるとは……俺たちと戦う覚悟はできているんだな?」
 桂木と同じような愚神のキグルミを着たマルコが、子供に睨みをきかせる。厳つい体格のせいだからなのだろう。子役からは、一番恐れられていた。
「待つっぺ!」
 画面が切り替わり、正義のリンカーたちが現れる。
 短いスカートを気にしながらもじもじするサヤの前で、美鶴が美しい足を惜しげもなくさらしてポーズを決める。
「わたくしたちは、美しき正義のリンカー。『むてきのびしょうじょ』ことサーヤと『ぜっせいのびじょ』こと美鶴が、あなたたちをやっつけてあげます」
「美鶴ちゃん!」
 サヤが赤面しながら、叫ぶ。
「そして! ボクは、正義のゴスロリプリンセス!!」
 煌めく剣を高く掲げたアンジェリカが、得意げに笑う。持ちこみのダイヤのティアラがきらめき、その姿にマルコはキグルミのなかで笑みをこぼした。アンジェリカが選んだ夢の道は、辛く険しい。それでも「夢をあきらめるなよ」と言いたかったのだ。
「その、わたしも正義のリンカーです。応援ありが……じゃなくて、悪の愚神は許しません!」
 芽衣も緊張しながら、なんとか登場シーンを終えた。
「今は芽衣もてきだよね、えーい!」
 アリスが芽衣に向かって、斧を振りまわす。無論、本気ではない。だが、すでにアリスの斧はスタジオ中の備品を壊している。破壊の実績だけは、十分にあった。
「ダメ、アリス!」
 芽衣が小声でアリスを止めようとするが、それで止まるアリスではない。むしろ、どんどんとエスカレートしていく。もう止められない、と判断した芽衣はアリスに向かって体当たりした。びっくりしたアリスは目を白黒させるが、その隙に芽衣はアリスを幻想蝶に入れてしまった。
 テレビの向こう側では、たぶん芽衣がアリスを倒したように見えているだろう。
 カメラにアップで映される芽衣は、緊張した面持ちで口を開く。
「あ、た、戦いは危ないものですから、近づかないでくださいね? リンカーさんたちとのお約束です」
 ――少し噛んだけど、言えた!
 芽衣は、緊張と嬉しさとがないまぜになった気持ちのままで息を吐いた。
「ゴスロリプリンセスさん、ケアレイ!」
「ゴスロリプリンセス様、援護します」
 サヤと美鶴は、二人でアンジェリカをサポートしていた。
 無論本気のサポートではなく、技名を叫んだりしてそれらしくしているだけである。アンジェリカと戦っていたマルコが、倒れた。
「ふふん、正義は勝つんだよ」
 アンジェリカが、得意げな顔で笑っていた。その得意げな顔からして、おそらく最後の台詞を忘れてしまっていることだろう。気をまわしたカメラが、サヤと美鶴をアップにする。サヤは、緊張で少し固い笑みを浮かべた。
「戦闘が始まったらみんなは安全な場所に避難してね……かならず、助けにいくから」
 その言葉は、本心からだった。
 今はまだまだだが、いつか助ける求める声に一番に駆け付けられるような存在になりたい。そんな思いを抱いて、サヤは美鶴に微笑みかけた。
「わたくし達がうつくしく愚神を退治する姿は『おしえて! リンカー先生』で、ごらんになってね」
 美鶴は、自分の魅力を存分に生かしたポーズを決めた。
 これで、エンドロールが流れるはずだった。
 だが、予想外の事がおこった。アンジェリカに倒されたはずの有栖が、立ち上ったのである。
「隼人くんと私は『何時でも一緒』なの。わたしが負けない限りは、隼人くんも負けないよね」
 誰もが「平時の戦闘ならともかくこれは撮影だ」とツッコミを入れたかった。だが、ツッコミを入れた瞬間にこの撮影は崩壊する。
 そのとき「とう!」という勢いのよい声が聞こえた。
 マリナであった。
 マリナは、有栖に飛び蹴りを入れた振りをした。無論、有栖も倒れたふりをする。正確には桂木が有栖の服を引っ張って、転ばせたのである。
「英雄が力をくれるのは、正義のリンカーだけだっぺ!」
 マリナの掛け声に、正義のリンカーたちがそれぞれの武器を高く掲げた。
 番組恒例の完全勝利のポーズだった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • いつも笑って
    九十九 サヤaa0057
    人間|17才|女性|防御
  • 『悪夢』の先へ共に
    一花 美鶴aa0057hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • ただのデブとちゃうんやで
    桂木 隼人aa0120
    人間|30才|男性|攻撃
  • エージェント
    有栖川 有栖aa0120hero001
    英雄|16才|女性|ブレ
  • 希望を胸に
    アンジェリカ・カノーヴァaa0121
    人間|11才|女性|命中
  • コンメディア・デラルテ
    マルコ・マカーリオaa0121hero001
    英雄|38才|男性|ドレ
  • 痛みをぬぐう少女
    北里芽衣aa1416
    人間|11才|女性|命中
  • 遊ぶの大好き
    アリス・ドリームイーターaa1416hero001
    英雄|11才|女性|ソフィ
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