本部

身体は剣で、背びれは機銃

昇竜

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
4人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/10/21 20:03

掲示板

オープニング

そこは、絶叫の渦だった。
この水族館は海に隣接し、海水を引いて館内の飼育用水を賄っていたのだが、その制御装置が破壊され敷地中に海水が溢れかえっているのである。しかし、パニックの原因はそれだけではない。
それは……

『ギャギャギャ!』

バラバラバラ!その背びれに付いた機関銃が火を噴き、彼らの行く手を阻む壁が大きく傾いだ。
体長2メートルほどの筋肉塊のような従魔がそこに体当たりすると、壁は麩菓子のように崩れ、濁流と共にシャチに似た3匹の怪物がエントランス・ホールに踊り出る。

「きゃあああ!」
「来ないでーッ!」

浸水したホールには、二階に取り残された一般人の親子がいた。
一匹の従魔がそれを見つけると、水面から顔を出し、にたぁ……と笑って見せる。

『ギギギギ……』
『キュイキュイ』

従魔は鳴き声のように怪音を発し、仲間同士でコミュニケーションを取ることができるようだ。
二匹の従魔が同時に二階を支える柱に体当たりすると、親子の足元は大きく揺れた。
二度、三度……揺れの度に二階は傾き、絶望が膨らむ。

「いやあああ」

泣いて崩れ落ちる娘を抱きしめ、母親は最早ここまでかとギュッと目を閉じた。
しかし、奇跡の担い手は、すぐそばまで迫っていたのである。
……数分前、水の牢獄と化した水族館の前では、出発直前のエージェントたちが3艘の突入用ボートに乗り込んでいた。

『頑丈なボートだから、従魔の攻撃でも2、3発は耐えられるはずだ』

無線から、本部にいる指令係の声が流れる。

『それから、そのボートは特別仕様のアンカー射出機を搭載している。こいつをぶっ刺せば、少しの間従魔を近接範囲に足止めすることができるだろう。君たちが溺れることはないが、転覆時すぐ浮けるようライフジャケットを着てくれ。それでは、健闘を祈る!』

解説

達成条件
従魔を全滅させ、一般人の親子を助けてください。

敵構成
・デクリオ級従魔『楽園の哨兵』(アクアリウムドラグーン)
3体出現する、背びれが機関銃のように変化したシャチ由来の従魔です。
ボートに対して、同乗PCの体重合計が200kg以下のときボートを転覆させる近接攻撃『体当たり』を使用します。
PCに対して、対象の近接範囲を攻撃する遠隔攻撃『掃射』を使用します。
また複数が同じボートを狙う場合、ボートの耐久を2回分減らす技『コンビネーション』を使用します。

状況
・水上、ボートに乗っての戦闘です。
・アンカーの射程は近接範囲で、装弾数や射出方向に制限はありません。
・ボートは敵の攻撃を2回耐えることができます。『掃射』で耐久が減ることはありません。
・ボートが転覆した場合、復帰に5ラウンドを消費します。
・20ラウンド経過しても決着しない場合、二階部分は崩落します。

リプレイ

●楽園の哨兵

 穂村 御園(aa1362)は身体部品を新調したばかり。気分上々でシーサイド・モールを遊び倒し、最後に併設の水族館へ足を向けたのだが、そこでは阿鼻叫喚が繰り広げられていた。ST-00342(aa1362hero001)はH.O.P.E.からの指令を受信する。

「せっかくの水族館なのに敷地中ビチョビチョで最低……うわー、悲鳴まで聞こえて来たよ」
「御園、非常召集だ。この原因を作った従魔の撃退の為にエージェントのチームが向かっている。支部の連中と出撃の準備を行った後にエージェントとして出撃だそうだ」
「げ……」

 貴重なオフを溶かした穂村が呻き声をあげた頃、エージェントチームはサイレンをかき鳴らす専用車両で水族館前に到着していた。オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)に導かれ、木霊・C・リュカ(aa0068)がふらりと地に降り立つ。連絡先交換のためスマホの字を追っていたせいか、少々乗り物酔いしているようだ。

「今度は船かー、足場が揺れて気持ち悪いね……酔いそう」
「……酔ってる暇は、ない、からな?」
「うん、わかってるよ。早く助けてあげないとね!」

 オリヴィエは明後日の方向を見る木霊の手を取り共鳴の意思を告げる。木霊が微笑み二人の意思が重なると英雄は光と消え、木霊の雪の肌は活きいきとした褐色に、金の髪は深い翠色に染まり、紅い瞳は金木犀の輝きを放ち色を取り戻した。
 船舶の操縦が不慣れな木霊は一足先にボートに乗り込み、2級小型船舶操縦士免許を持つカグヤ・アトラクア(aa0535)に簡単な操作方法を教わることになっていた。カグヤは手漕ぎボートじゃったらどうしてくれようと最悪の事態も想定していたが、これは杞憂に終わった。用意されたのは3艇のモーターボートである。

「そうじゃ、これで後進する……よいぞリュカ。しかし、オルキヌス・オルカか……海では一番相手にしたくないのを憑依先に選びおったものじゃな」

 見た目は可愛いが、シャチの学名は『冥界の悪魔』を意味する。カグヤは依代となった生物に畏怖の念を捧げつつも、この特殊な状況にその血を猛らせていた。日々の闘争こそが己の技術を高めてくれるのだ。
 作戦は衝突による転覆を防ぐため4人乗りの重量級を一艇作成し、これが接近戦を展開、残りを援護に回すというもの。運転席に座るカグヤに続き、赤城 龍哉(aa0090)、ヴァイオレット ケンドリック(aa0584)、雁間 恭一(aa1168)がボートに乗り込んだ。赤城は従魔の識別名が気に食わないといった様子で、傍らの英雄ヴァルトラウテ(aa0090hero001)に意見を述べた。

「海の殺し屋が『楽園の哨兵』とはまた気取ったもんだな……だが、海は向こうのホームグラウンド。簡単にはいかねぇか」
「銃は好みでないけれど、これからの事を考えるとそうも言っていられませんわね」

 接近すら難しい状況を鑑みて、ヴァルトラウテは手にした長柄の戦鎚を見やった。まさしく戦場の華と形容するのが相応しい銀髪碧眼の美女に重火器とはおよそ似つかわしくないが、今回のような場合に飛び道具は重宝されるものだ。
 同じ論拠から本作戦に対愚神ライフルを持ち込んでいた雁間も、普段は近接戦闘を得意としているためか意気揚々というわけにはいかないようだ。彼は仏頂面で海の方を眺め、英雄マリオン(aa1168hero001)に語りかける。

「海だぜ。水着の女とか……いる訳ねえな。まったく」
「お前の女の好みは単純で良いな」
「ああ、厄介な女に捕まって地獄を見るのはもうコリゴリだからな」
「水着を着ているから厄介で無い訳じゃ無いんだが……まあ、浜辺で水着を着ない女には厄介なのが多いな」
「それこっち側の話だよな…まあ見た目小学生のガキと厄介事抱えるんだから相当なのは間違いないな」

 ……海にあまりいい印象がないのだろうか。まあ確かに、砂浜で上着などを着込む女性にはがっかりさせられるものだ。
 一方、ヴァイオレットは冷ややかともとれる視線で海水を吐き出す水族館の入り口を眺め、それから一言だけ呟いた。

「アクアリウムか、ろくな思い出はないな」

●奇跡の担い手

 豪快な水音と共に3艇のボートがエントランス・ホールに突入する。驚いたのは内部に潜む3体の従魔だけではない。崩れかけた二階で抱き合っていた親子も、ハッとして入口を見やる。

「左から御園、わらわ、リュカじゃ! よいな!」
「「了解!」」

 カグヤの合図で、割り振られた従魔を引き付けるため遠隔攻撃が放たれる。カグヤが片手を掲げるとそこへライヴスが収束し、現れ出た重厚な魔法書がパララとひとりでにページを開いた。すると空中に輝く光の剣が浮かび上がり、敵に向け凄まじい速さで飛び去る! 穂村はティラーハンドルから手を離し、狙撃の構えを取った。するとST-00342が光と消え、鈍い輝きを放つライフルが穂村の手の中に収まった。スコープを覗くビー玉のような瞳に折り重なる光学機構が露わとなり、引き金を引いた瞬間ライヴスの弾丸が空気を切り裂く! 攻撃は見事命中し、従魔は招かれざる客人に興味の全てを移したようだ。
 一方一艇を専有する木霊は穂村が2体を引き付けている隙に、取り残された一般人の近くへボートを近づけていた。2着のライフジャケットを彼女らの方へ放ると、それを着るように親子にジェスチャーして見せる。二人は頷き、それらを身に付けた。すると母親はベストのポケットに緩やかな振動を感じ、スマートフォンが入っていることに気付く。安堵のあまり震える指先で通話ボタンを押すと、力強い木霊の声が聞こえた。

『大丈夫だよ、必ず助けるから。落ち着いて、そこで待っていて』

 母親は視線を上げ、木霊へ何度も深く頷いて見せた。木霊は通話を終了し、さてと。と従魔へ向き直る。シフトを入れ、ボートを急発進させる。木霊の空いている手には馴染むようにして拳銃が現れ、咥えてスライドを引くとジャコ、と小気味よい音がした。穂村が引き付けているうちの1体に狙いを定め、トリガーに掛けた指に力を込める。放たれた銃弾が従魔の左胴を貫き、驚いたのかばしゃん! と大きな水飛沫を上げて身体をのたうたせた。油断なくそれを見ていた木霊は銃口がきらりと光るのを見逃さなかった。バラバラバラ! 機銃が火を噴く前に木霊は伏射姿勢を取り、銃弾はバスバスと船体に吸い込まれていく。この調子で従魔を陽動していけば、本艦が駆逐に集中できるだろう。
 一方穂村は木霊が陽動に移行したのを確認し、自身の背後を付け狙う従魔をちらと見た。彼らの仲間は音波を利用して位置関係を速やかに把握でき、仲間同士で交信も可能だ。数百キロ離れていても交信できると言われており、耳がやたらいいのだろう。

「ふふふ、拷問で大音量の音を聞かせ続けるって言うのが有るけど……」
『御園、ST-00342はあの親子の収容を速やかに行う様提案する』
「分かってるよ! あーあ、ソナー持ってきたかったなー」

 依頼にあたり穂村は本機にアクティブソナーの搭載を申請していたのだが、いかにH.O.P.E.といえどすぐ用意できるものではなかったらしい。ソナーがあればエコロケーションの妨害、あるいは低周波の軍用ソナーなら言葉通り嬲り殺しも叶ったかもしれないが、事件とはえてして火急の用件であるから仕方ない。しかし、彼女のもう一つの要望は無事に受理されていた。穂村は積み込まれた塗料の缶を振り返る。これの出番は、もう少し先だ。

「背後から、アンカー接続を狙う」
「近付くまでがわらわのお仕事じゃ!」
「俺たちが相手をしてやる。来やがれ!」
「イルカ野郎のケツのXXを試そうぜ!」

 赤城とヴァルトラウテ、雁間とマリオンが共鳴を開始する。これがヴァイオレット擁する物理職を乗せた本艦である。従魔を孤立させ、一体ずつ処理していくのだ。カグヤが船を接近させると、従魔はスピードを乗せて船の側面に回り込んでくる。広い面に体当たりされたら危険なうえ、追走姿勢でのアンカー接続が好ましいと提案していた雁間は、素早くライフルを具現化するとその背びれを狙った。長く光り輝く茶髪が潮風を孕み、成長したマリオンを思わせる涼やかな翠眼がスコープを覗く。

「変態イルカの求愛行動に付き合う積りはねえんだよ!」

 放たれた弾丸は命中し従魔はその軌道を逸らしたが、体勢を立て直し再び体当たりを試みる。カグヤはそれに対し弧を描くようにして横っ面への直撃を回避するも、小回りすぎて避けきれず船尾に衝撃が走った。しかしすれ違いざまに発射されたアンカーが従魔の尾びれを捉え、ワイヤーがくん! としなって船底を通り過ぎる従魔の方へ勢いよく船が引っ張られた。勝機とばかりに青灰の重鎧を鳴らし、赤城が船首へ走り出る。

「ウチの流派の技とはちと違うんだがな、ぶっ飛ばすぜ!」

 間合いを詰めればこちらのステージだ。赤城がライヴスを込めた戦鎚を振り上げると、黒髪の中でひと房の銀糸が浮かび上がり、英雄と同じ青色の左目に従魔の側頭部を捉えた。舞い散る火の粉が紅い光の尾を描き、怒涛のフルスイングが狙い通りの部位を直撃する! 衝撃で前後不覚に陥った従魔は暴れ辛くもアンカーから脱出したが、やはり頭の中身は撹拌されていたらしく海中へ消えた従魔は間もなくぷか……と海中に浮かび上がってきた。これで残敵は2体となった。

「まずは1匹! この流れで残り2体も速攻叩き潰すぜ!」

 ヴァイオレットは従魔たちに同属嫌悪に近い感情を抱きつつも、親子を救うため己の放った水中スピーカ内蔵のドローンを遠隔操作し音波を発信して交信妨害を試みていた。彼女の指揮は強要も強制も無く、全体を見るという役割を越えたことはしない。一人で動いたところで成功はなく、自分だけで成すことはごく一部。他者の得意とすることは任せるのが彼女のやり方だ。
 カグヤは次に狙う標的を引き付けている穂村のボートを追走し、従魔の背後を取った。アンカーを射出するが、惜しくも体表を滑り不発に終わる。従魔は逃げ回る穂村からカグヤのボートに狙いを切り替え、背びれに備わった機関銃を掃射した! 銃弾が船体を跳ねる音が一斉に響き渡る。雁間はライヴスで作り出した透明な盾を展開し、その銃弾をことごとく弾き返す。一方操縦桿を握るカグヤは防御姿勢を取ることもなく真っ直ぐに従魔へ突撃しアンカーを放つ! 碇は従魔の背面を捉え、雁間は船首へ躍り出ると、盾を大剣に換装し勢いよく振りかぶった。

『その似合わない装飾を削り取ってやろう』
「ああ、この機銃もどきは早く刈り取らなきゃな!」

 英雄マリオンとより深く意識を同調すると、雁間を覆うライヴスが膨れ上がる。それを刃に集積し、凄烈な一撃が従魔を襲う! 背中を大きく切り裂かれ大きなダメージを負った従魔は力尽きる直前に最後の力を振り絞ってボートに体当たりを繰り出したが、カグヤは銃弾に貫かれた痛みに気を取られ回避行動が遅れ、船は直撃の衝撃に揺れた。ボートは衝突方向に傾ぎ、あと一回でも攻撃を受けたら破損しかねない状況だ。しかしこの船以外に十分な火力を出せるボートはない。カグヤは再びハンドルを握り木霊が引き付けている最後の従魔の捕捉に取り掛かった。
 木霊は従魔の接近を避けつつ拳銃での牽制を続けていたが、本艦の接近に伴ってグリップを持つ手を緩めた。素早く退避すると、カグヤの放った魔法の剣が水上に炸裂し従魔の注意が本艦へ向く。従魔は妨害音波の影響で活動に支障をきたしており、その苛立ちを一撃に込めて本艦に体当たりを繰り出した! 傷ついた船は思うように言うことを聞かず、避けきれずかすめた攻撃が船外機のプロペラを破損して船は完全に動かなくなってしまった。

「おっと、この船はここまでか! みんな木霊のボートに乗り換えだ!」

 その様子を確認した木霊が船を寄せ移乗を行うが、その間も従魔は苛立ちのままに雁間が残された本艦をひっくり返そうと付け狙う。そこを穂村のボートが颯爽と通り過ぎ、行きざまにブラウンのペンキの入った一斗缶を放り投げた。水性塗料は瞬く間に海水に拡散し従魔の視界を遮る。聴覚と視覚を封じられ、従魔は方向感覚を失ってボートを狙うことができない。この隙にヴァイオレットたちは移乗を完了し、残す1体を機動的に追い詰めるため雁間と木霊を本艦に残して従魔の討伐を再開する。

『ふむ……戦いのさなかにこの静寂、贅沢では無いか?』
「……」

 マリオンの言うように、船のエンジンは止まり、波の音と遠くに敵味方の銃声を聞くのみの戦場は映画のワンシーンのような情緒があった。しかし、そうしてばかりもいられない。雁間は傍らの木霊に倣って再びライフルに持ち替える。従魔が十分新しい本艦に引き付けられると、役目を終えた穂村の陽動艇が彼らを迎えに船端を近づけた。

「あと少しだ。気合い入れて行くぜ!!」
『楽園ではなく、喜びの野に……いえ、煉獄に送ってあげますわ』

 赤城が戦鎚を握りしめると、心を重ねたヴァルトラウテが熱く語りかけた。見れば二階部分は今にも崩落しそうな具合で、取り残された親子は固唾を呑んでエージェントたちの戦いを見守っている。可及的速やかに救助されたい。水面に睨みを利かせるヴァイオレットがいち早く従魔の襲撃を察知する。

「カグヤ、目標を捕捉した。左前方約5メートル、狙いはこの船だろう」

 それを受けカグヤは素早く舵を切り、蛇行して体当たりを回避する。同時に射出したアンカーは見事背びれ付近に突き刺さった。迅速に攻撃に移った赤城の戦鎚が従魔に叩き込まれ、ワイヤーで接続された船体が揺れる。もうほんの一手だ。ヴァイオレットが幻想蝶にライヴスを込めると、機械化された両手に巨大な鎌が現れた。彼女は船首に乗り上げ、最後の一撃を閃かせる。

『……火薬の匂いは、お前らには似合わないな』

 穂村の船から援護射撃を行いながらその光景を見ていた木霊の心の中で、オリヴィエは静かにそう呟いた。ヴァイオレットの斬撃の一部は背びれの重火器を切断し、海面は血の色に染まりゆく。……沈め、海の王者。

●ミッションコンプリート

 従魔の殲滅が完了し、安全が確保された。エージェントたちは二階部分へ接岸、親子の救出にも成功する。
 赤城は率先して彼女たちを迎えに出るとおもむろに自分のライフジャケットを脱いで、既に同じものを身に付けている娘にもう一枚着させた。着膨れた娘があの……と泣き腫らした目を向けると、赤城は屈託なく笑う。

「使ってくれ。敵は片付けたが、万が一があったら困るからな。俺なら大丈夫だ、伊達に鍛えてないぜ」

 その笑顔にようやっと自分が奇跡の救出劇を経たのだと実感した娘は、嬉しそうに笑って二枚目のライフジャケットをきゅ、と握った。

「ありがとう」
「ありがとう、皆さんも」
「礼は、私でなくて皆にしてくれ」

 娘と母親は同じように安否確認に駆けつけたヴァイオレットと木霊に礼を述べたが、ヴァイオレットは無感動にそう言うだけだった。木霊は小さく笑ってすみれ色の後ろ姿を見送ると、きょとんとする二人に『どういたしまして』と告げた。
 その頃、船の上では共鳴を解いた雁間が静寂を取り戻した館内へ吹き込む空気に清々しい気持ちになっていた。それに対し、マリオンは何やら思いつめたような表情をしている。

「いやー、潮風ってのは気持ちが良いな。水族館が半壊してなきゃもっといい眺め何だろうが……」
「……」
「……どうした?」
「いや……予想以上に船の揺れと言うのが……リンクしている時は大した事は無かったのだが……」
「なんと、異界の王子様は船が苦手だったと? いやー気の毒だな。海は広い! 遠慮しなくたって良いんだぜ?」
「……狭い船の上、貴様だけが無事で済むとは思うなよ]

 マリオンの恐ろしい脅し文句に、雁間は仰々しい手振りと笑顔のままピタリと静止した。
 その後親子は念のため救護担当に預けられ、地上へ戻った穂村は海水のためにあちこちべたつく身体部品を確かめて煩わしそうな声をあげた。

「潮水嫌い! 折角のニューアライバルが……」
「ST-00342はあの残った展望スペースに向かう事を提案する。精神の安定効果が望めると思われる」

 穂村がST-00342に言われて海を臨む水族館のテラスに目を向けると、そこは確かに気持ちの良い秋風が吹きそうな安らぎの場所に思えた。早速そちらへ向かおうとして、穂村は傍を通り過ぎようとしたカグヤを誘うことを思いついた。

「あ、カグヤ様! 一緒にテラス行きませんか?」
「うん、悪くないの。じゃが……」

 カグヤは艶やかな黒髪を揺らし、穂村の示す方を見て灼眼を微笑ませたが、それから後ろの方を振り返る。そこでは何人かのエージェントが銃創の手当てを受けているところだった。堂々と歩いてはいるが、カグヤ自身の傷も浅くはない。

「御園、ちょっと待ってくれんか? 治療が終わったら付き合ってやるからの」
「もちろんです~!」

 穂村はカグヤの後について、エージェントたちの元へ向かった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命



  • LinkBrave
    ヴァイオレット メタボリックaa0584
    機械|65才|女性|命中



  • ヴィランズ・チェイサー
    雁間 恭一aa1168
    機械|32才|男性|生命
  • 桜の花弁に触れし者
    マリオンaa1168hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
  • 真実を見抜く者
    穂村 御園aa1362
    機械|23才|女性|命中
  • スナイパー
    ST-00342aa1362hero001
    英雄|18才|?|ジャ
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