本部

サメ型従魔からビーチを守れ!

桜淵 トオル

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 6~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/10/04 23:47

掲示板

オープニング

●楽園のビーチを乱す影
 ここはハワイのオアフ島でも人気のある、とある観光ビーチ。
 午後に差し掛かり、色とりどりの水着で開放的になった観光客でごった返している。
 その中でひとりの監視員が、沖合いに不審な影を発見した。
 すぐに携帯していたアナウンス用のマイクで、海水浴を楽しむ人々に念のため浜に上がるようにと呼び掛けた。
 しかし、不審な影は想像よりもはるかに速く、沖に出ていた海水浴客を襲って、透き通る海の水を血の色に染める。

「きゃああああ!!」
 運悪く沖に出ていた人々は悲鳴をあげて逃げ惑うが、水中でのその影の動きは速く、人間の動きでは逃げようもない。
 ヨットやサーフィンを楽しんでいた人々も次々と乗り物を転覆させられ、水中へと消えて行った。
 時折、特徴ある三角形の背びれが波を掻き分けるのも見え、闖入者の巨大さを目にした人々は、圧倒的な力の差の前に竦むしかない。

 浅瀬で泳いでいた人々は、狂乱をきたしてわれ先にと浜へ急いだ。
「サメか?!」
 監視員室では、サメ出現時に備えられたライフルがあり、ライセンスを持つスナイパーが常駐していた。
 不審な影は、空に向けた威嚇射撃には何の反応も見せず、それどころか近くに着弾させた威嚇にも怯まなかった。
 狙いすましてようやく命中……させたかに見えたが、ライフルの弾はあきらかに弾かれてしまう。

「サメじゃない! あれは従魔だ!」
 双眼鏡で見ていた監視員が叫んだ。
 確かに形状はサメに似ているが、目は濁った赤で、灰色の体には不思議な文様なものが赤く浮き上がっていた。

●敵は海中より
「プリセンサーより従魔出現の情報が入った。場所はこのハワイ、オアフ島のビーチだ。正確な地点はこちらの地図を見てくれ」
 H.O.P.E.ハワイ支部のブリーフィングルームに、能力者が緊急招集された。
 ホログラムで地図が映し出され、ビーチ海域が赤い点線で囲んである。
「事件が起こるのは午後になって間もなく、観光客の多い時間帯だ」
 緊張をはらんだ声で職員は続ける。
「出現したのはデクリオ級従魔で形状はサメ型、全長はおよそ6メートル。最大遊泳速度は時速60kmにも達する。人間のライヴスを求めて、観光客の多いビーチに出現するらしい」
 プリセンサーの視た場面は、これから起こる事項である。
 すぐに現場へ向かえば、従魔による犠牲者が出る前に到着できるはずだ。
「プリセンサー情報によれば、従魔は噛みつき攻撃とともに、体内に溜めたエネルギーを喉の奥から砲弾状に射出できるとのこと。敵が口を大きく開いたら気をつけろ」
 そう言うとH.O.P.E.職員は、ホログラムを切り替えた。
 白い中型のモーターボートが映し出される。
「君達の任務は、遊泳中の一般人を安全に退避させること、そして従魔の撃破だ。11人乗りのモーターボートを2艘用意した。これは動力がライヴスで、能力者か英雄なら誰でも操縦が可能だ。二手に分かれて戦闘と救出に当たって欲しい」
 それから地元警察には支援を要請中だ、と彼は語った。
「警察もそう遅れずに現場に到着するだろう。救出した一般人は後方のボートに乗り換えて貰っても大丈夫だ」
 加えて浜辺に逃げた人々の誘導も、地元警察に任せていいらしい。 
「現場にいる観光客は、地上の楽園とも呼ばれるこの島に、束の間の夢を見に来た人々だ。その夢を血で染めるわけにはいかない」
 職員は能力者たちに向き直って言った。
「従魔に近づけるのは、能力者である君達だけだ。是非とも、犠牲者を最小限にとどめて欲しい」
 力のこもった声で、彼は能力者達を精一杯激励した。

解説

●目標
サメ型従魔の撃破と遊泳中一般人の退避。

●登場
デクリオ級サメ型従魔
 全長およそ6メートル、最大遊泳速度は時速60kmほど。
 灰色の体に赤い文様を持つ。
 知能はあまりないが、野生のサメ並みの戦闘センスはあなどれない。
 本能的に『食べる』ことで他者のライヴスを取り入れようと、人間の多いビーチにやってきた。
・噛みつき
 牙に宿ったライヴスによる攻撃なので、能力者でもまともに喰らえば重症は避けられないので注意。
 サメ型なので牙を狙っても換えの牙が内側に常にスタンバイしている。
・エナジーシュート
 遠距離・単体攻撃
 喉の奥に溜めたエネルギーで砲撃する。
 口を大きく開いてから砲撃が来るまでに2~3秒のタイムラグがある。
 「ボートのエンジンを狙う」ような知能はない。あくまで自分を攻撃してくる敵を直接攻撃する。

遊泳客/観光客
 シナリオ開始時には避難が済んでいない。
 サーフィンや遠泳、ヨットセイリングで沖側に出ている人から狙われる。
 この日は20人程度が沖に出ている。ボートで回収するのはこの人たちを中心に。
 ヨットやサーフィンなどの乗り物はここでは回収しません。
 一気に全員回収しきれなくても、味方が闘っている間に後方の警察ボートに移ってもらえば大丈夫。
 浜辺の人々の誘導も地元警察に任せてOK。

地元警察
 連絡済み。
 シナリオ開始に一歩遅れて現場に到着する。
 浜辺の観光客や浅瀬の遊泳客、能力者が沖で救出した人々の後方引継ぎなどを担当してくれる。

●状況
 ハワイでも有数の人気ビーチ、正午を過ぎて最も賑わっている。
 天候は晴れ、風は穏やかで、波も高くない。

リプレイ

●リゾートビーチに緊急出動!
 抜けるように青い南国の空からは太陽が照りつけ、白い砂浜には穏やかな風が吹き、絵に書いたようなリゾートの風景がH.O.P.E.ハワイ支部の目の前に広がっていた。
 同じオアフ島のビーチだけでも数え切れないほどの観光客が、この陽気の下でバカンスを楽しんでいるだろう。
 そこにこれから、巨大なサメの姿をした従魔が現われる、という報せに、エージェント達が緊急招集された。

「終わったら、約束は守ってもらうぞ」
 ゼム ロバート(aa0342hero002)は他には聞こえないような声で、相棒の笹山平介(aa0342)に耳打ちした。
「えぇ、帰ったら必ず……まずは救助が第一、ですね。力をお借りします♪」
 平介もそつのない笑みを浮かべ、頷く。
 専用の船着場から二艘のボートに分乗し、問題のビーチへと向かう。
 攻撃メインと救助メインに分かれることになるが、すでにメンバー分けは済んでいる。
「鹿島さん達と呉さん達が救助仲間なら、何とかなりそうです」
 そう平介が話し掛けると、鹿島 和馬(aa3414)と呉 琳(aa3404)は明るい顔で挨拶を返した。
 彼らは元々知り合いであり、第二英雄となったゼムや藤堂 茂守(aa3404hero002)に会えることを楽しみにしていたのだ。
 琳はゼムの予想外の予想外の目つきの悪さにビビリ気味だが、ゼムのほうは普通にしているだけなので心外である。
 だからといって優しく接してくる相手も苦手だ。どう接していいか分からなくなる。
 茂守とかいう男が笑顔で「初めましてですね♪」などとわざとらしい挨拶をしてくるが、こいつは放っておこう。 
「海風は鹿皮がベタベタしちゃうから苦手なんだよね」
 白い(自称)鹿皮ローブを被った俺氏(aa3414hero001)は、そう宣言すると早々に和馬と共鳴してしまう。
「ちょ、おま、勝手に共鳴すんなよ……ったく」
 和馬は戸惑うが、共鳴によって目の下のくまは消え、ジト目はぱっちりと開いて髪も伸び、印象はほぼ反転する。
「ま、ダチの英雄なら俺のダチも同然ってな。宜しく頼むぜ、にひひ♪」
 共鳴した姿で茂守とゼムにそう話しかけて、さっとボートに乗り込んだ。

「サメはこう……噛まれそうになった時は、鼻を殴るといいぞ!」
 シュシュッ、とスパーリングの真似をしつつ琳は攻撃班の面々にアドバイスをおくる。
「ふええ、怖いですー……。海は普通に遊びに来るだけで十分だったんだけどっ。と、とりあえず参加した以上はちゃんとやらないとっ」
「サメー♪ おっきな鮫、見たいのだ♪」
 アドバイスにさえ怯える狼谷・優牙(aa0131)を引っ張るようにしてプレシア・レイニーフォード(aa0131hero001)は意気揚々とボートに乗り込む。おっきなサメを見られるのが、楽しみで仕方ないらしい。
「サメ、即ちフカヒレ。高級食材だよマスター!」
 珍しい食材に胸を膨らませているのは、英雄のストゥルトゥス(aa1428hero001)である。
「従魔だよ、食べられないよ……? いいから急ごう、ストゥル!」
 相棒のニウェウス・アーラ(aa1428)に急き立てられるように共鳴し、攻撃班のボートの操縦桿を握る。
 もうひとつのボートの操縦を担当するのは、共鳴した平介である。
 目の前には、どこまでも続く水平線と、青く澄んだ空。
 この空の下のどこかで、従魔に人の命が奪われることがあってはならないと、エージェント達は決意を新たに出発した。


●サメ型従魔との遭遇
 問題のビーチは、海の上をしばらくボートで飛ばせば見えてきた。
 穏やかな波の向こうには真っ白な砂浜、海岸沿いに植えられたヤシの木、その向こうには高層ホテルの群れ。
 どこかの旅行パンフレットで見たような風景だが、すでに連絡は入っているらしく、海水浴客は浜辺へと避難を始めている。
「こんな場所に、従魔が出るなんて…」
 楠葉 悠登(aa1592)はきりっと歯噛みする。
 御門 鈴音(aa0175)と輝夜(aa0175hero001)は鈴音メインで共鳴し、いっちに、いっちにと準備運動中である。
「……私、泳げないからね……? 落ちたら終わりだからね……?」
(その時は、わらわと体の主導権を変えれば大丈夫じゃ!)
 泳げないことにびくつく鈴音を、内側から輝夜が力強く励ます。
 そのとき、ターン、ターン……と二発、立てつづけに銃声が鳴り響いた。
 監視員室から沖に現れた従魔へと、ライフルで射撃が行われたようだ。 
 海水浴客にも動揺が走り、途切れ途切れに悲鳴が聞こえる。
「急がなければならないな」
 ナイン(aa1592hero001)はそう言うと、悠登と共鳴し、臨戦態勢に入る。
 鴉守 暁(aa0306)は、拡声器で呼びかけて逃げる人々を励ます。
「まーかせなー。サメは肝油にしてやんよー。安心して避難しなー!」
 その声はゆるめで平坦ではあるが余裕があり、助けが来たのだと人々は自然に理解する。
 その隣で、キャス・ライジングサン(aa0306hero001)も、根性ー! などと叫んでいる。
 二人とも、動きやすさ重視のビキニを着用だ。
 その間にも、共鳴した優牙はALブーツで素早くボートから海面に滑り出していた。
 優牙のほうはサメが怖くて仕方ないのだが、プレシアのほうはやる気満々で、濡れ対策にスク水を着用している。
(いたああああ! サメー♪)
 銃声を頼りに探すと、いつか映画で見たような三角形の背びれが波間に見えた。
 幸い、標的の近くに遊泳客はいない。
 命中は度外視して、まずはより沖合いにいる自分らの方へ注意を向けるため、『火竜』で威嚇射撃を行う。
 ショットガンが炸裂し、あたりに海水が巻き上げられる。
「サメさんこちら、弓の鳴るほうへ!」
 続いてALブーツを使い海上に出た鈴音からも、強力なライヴスの弓が放たれた。
 こちらもやはり威嚇で直撃はしなかったが、従魔は攻撃によって敵の存在を悟ったのか、すいっと背びれの向きを変え、優牙達の方向へまっすぐ向かってくる。
「引きつけ成功……したけど、怖い?!」
 一応、遊泳客とは反対の沖方向へ向かわせることには成功した。
 優牙は向かってくるサメに涙目になりつつも、スマートフォンで救出班に状況を伝える。
 そこへボートがモーター音を響かせながら近づいて来た。
「航路を空けてください……! 『おっきい敵にはおっきい乗り物だよー!』……って、ストゥルが」
 ニウェウスは言いながらサメと正面から向き合う形に舵を切る。
(向かってきてくれるなら、蹴散らすまでだよ!)
 と、内側からストゥルトゥスが叫ぶ。
 運転席の前面には防護ガラスがあるが、がばぁっと大きな口で船ごと食べられたらどうしよう……! と心臓をバクバクさせつつも、真っ直ぐに進路を保つ。
 正面からぶつかるかに見えたヒレはしかし、直前ですっと海面下へと消える。
 海の生物にとっては、水の中すべてがテリトリーなのだ。 
 しかしニウェウスのほうも、ただでは済まさない。
 海の中の従魔に向かって『幻影蝶』を叩き込む。
 無数のライヴスの蝶が海上に舞い、きらめきを残しながら消えた。


 一方救出班は、沖に出ていて逃げ遅れた人々を中心に、必死に救出活動を続けていた。
「サメは離れたところにいますー! 落ち着いてー! 自力で泳げる人はこちらに来てくださーい!」
 茂守と共鳴し、ALブーツを装着したが琳が拡声器で呼びかけて回る。
 遊泳客のほとんどは警告アナウンスと銃声に怯えて、近くのヨットやサーフボードの縁につかまっていた。
 自力で泳げそうな人には、ボートに積んであった救護浮輪を輪投げの要領で投げて渡してゆく。
(茂守を連れての初仕事だからな……成功させてやりたいぜ……!)
 琳はそう思って張り切っている。
「あっちは引きつけ成功って言ってるぜ」
 スマートフォンで優牙からの連絡を受け取った和馬は、ALBセイレーンの機動力を生かして怪我人や動けなくなった遊泳客をひとりずつボートに運んでいた。
 幸いなことにサメに直接噛まれた人はおらず、混乱の最中ボードの縁ですりむいた程度だったが、サメは血の匂いに敏感だから気を抜けない。
「これは救助活動、これは救助活動……」
 ぶつぶつと口の中で呟きながら、要救助者を運ぶ。
 太ったおじさんとかならばむしろ平気なのだが、若くてきれいなビキニ女性だったりすると、途端に挙動不審になってしまう。
(和馬氏、動揺し過ぎ……娑己氏に言うよ?)
「やめてっ!?」
 俺氏が内側から和馬に話しかける。娑己というのは和馬の彼女だ。
 ビクッとした和馬に抱きかかえられた女性も連鎖的にビクッとしていたが、なんとか海に落とさずにボート上の平介に引き継いだ。
 平介はボートを停泊させ、和馬から怪我人を受け取ったり、自力で泳ぎ着いた人を引き上げていたが、乗ってきたボート定員の11人はすぐにいっぱいになる。
 やや遅れてやってきた警察のボートに無線で連絡を取ると、彼らが怪我人の搬送を引き継いでくれるという。
 遠い浜辺では立ち入り禁止の黄色いテープが張られ、警察官が避難誘導をしているようだ。
「一旦怪我人を警察の方々にお願いしてきます。サメはあちらの方々が引きつけて下さっているようですし、ここはお二人がいるから、大丈夫ですね」
 平介がそう申し出ると、琳と和馬からは「おうっ!」「任せとけ!」などと元気な返事が返ってくる。
 この二人が引き受けてくれるならば安心だと、平介はボートを旋回させた。


●海の上の闘い
「幻影蝶の手ごたえは、あった気がしたけど……」
 従魔が海の底深くに潜ってしまうと、目視で探すのは難しい。
 ボートを停めて、ニウェウスは海の中を覗き込む。
「どこに行ったか……」
 悠登も必死に水面の下へと目を凝らしていたが、しばらくの間はボートエンジンのアイドリング音が虚しく波間に響いていた。
 しかしキャスとリンクして海上に出ていた暁が、ふとかすかな気配を感じた。 
 ぽかり、と水平線上に小さな山形の影が出現する。
 それはみるみる大きくなって……いや、口を開いている。
 狙っているのは、ニウェウスの運転するボートだ。
 大きく開いた喉の奥に、光源が見える。
「サメ、いた!」
 短く皆に注意を喚起し、展開して構えていた『ハストゥル』から、風を纏う矢を放つ。
 真っ直ぐ敵に放った矢は『テレポートショット』により途中で瞬間移動し、サメの下部から喉元を貫く。
 発射寸前で強制的に軌道を変えられたエネルギー砲は、空を一瞬白く裂いて消えた。 

「どかーん! と来たねえ。サメさんの口、おっきいー♪」
 共鳴した優牙は、興奮したプレシアの声ではしゃぐ。
「避難客のいる方を狙われたら困るな……。分散して注意を引きつけようぞ」
 鈴音も海面が揺れたショックのためか、輝夜に主導権が移り、姿もそのように変わっている。
「攻撃に反応しているのは確かだな。このまま沖のほうへ誘導しよう」
 悠登もALブーツで海面を滑り出す。
「おのれ、フカヒレの癖に生意気な。お前の軟骨抜き取ってコンドロイチンにしてやろうか!」
(そういうのを、わざわざ表に出て言わないでよ!?)
 ニウェウスもストゥルトゥスが喋っているらしい。
 ノリノリでエンジンをふかし、水平線目指してボートを軽快に操作する。
 エージェント達もALブーツを使ってそれぞれに海上を滑り、分散しつつ一人に注意が集中しないよう従魔に遠離攻撃を断続的に加える。
 悠登の紫電の矢がサメの尾を貫き、優牙の火竜がヒレをかすめ、ボート上からはケリュケイオンによる銀の魔弾が放たれた。


 平介が怪我人の搬送を警察に引き継いで貰っている間、琳と和馬は協力し、残った要救助者をヨットやサーフボードごと一箇所に集めていた。
 こうすることで、次の救助がスムーズになると同時に、サメに狙われにくくなる。
 沖に誘い出し成功、との連絡は受け取ったが、敵は高速移動が可能とのこと、まだ油断は禁物だ。
「そういや俺、へーすけからいいもの預かってるんだぜ」
 嬉しそうに琳は幻想蝶から円筒状のものを取り出す。
「じゃーん。ウレタン噴射器。サメががばーっと口を開けてきたら、中にこれを思いっきり撒いてだな」
 琳はサメのワイルドブラッドの割にサメが苦手らしいが、平介のことを話す時は楽しそうだ。
 こういう風にアイテムをわざわざ琳に預けていくところも、細かいとこまでよく気遣いのできる奴だと思う。
「じゃあ俺は、いざというときは囮役を買って出るぜ。その隙に頼むな」
 周囲への警戒を緩めないようにしながら、和馬も琳に笑ってみせる。
 そうこうしているうちに、小回りの効くボートが戻ってきた。
 運転席から平介が声を掛ける。
「異常はありませんでしたか?」
「途中で空に向けて光線がどーん! ってなってたけどな! こっちには来なかったぜ!」
 元気に琳が応える。
「そういやそうだな。まあ話は救助が済んでからゆっくりしようぜ」
 残っていた要救助者達は比較的自力で動けたため、後半の救助活動にはそれほど時間はかからなかった。
 余ったスペースにサーフボードや畳んだヨットもなんとか括りつけて、取り残された人々の救助は完了した。


 サメ従魔を沖に誘い出すことに成功したエージェント達は、次は囲い込む布陣を取る。
 ここまで来る間の攻撃で、従魔は既に血を流し始めていた。
 血の目印があれば、水の底に潜られても追える。
 ライヴスによる攻撃は水による減衰効果がほとんど無いので、従魔は事実上逃げ場を失った形だ。
 ボートを追う動きを見せた従魔に、鈴音と暁がそれぞれ両側の、斜め前方から近づく。
「わらわの剣、受けてみよ!」
 鈴音はすでに『トップギア』でライヴスを溜めており、大剣『フルンディング』にその力を込めて敵を横凪ぎに裂く。
「この剣で、勝利を刻むのだー!」
 それにあわせて暁は、反対側から『干将莫耶』で横真一文字に斬りつける。
 両側から切りつけられ、大きな傷を負って暴れる従魔からは大量の血液が流れて海を赤く染めるが、まだ致命傷には至らない。
「もう、このまま海の底に沈め……!」
 悠登が『ブラッドオペレート』で瀕死の敵の全身を切り刻む。
「ねこねこなっくるー♪」
 優牙が格闘武器に持ち替えて、サメの急所である鼻先に重い一撃をぶち込む。 
「サメよ、お前は食われる側だ!」
 最後にボートの上から従魔の脳天へ向けて、ニウェウスの魔導銃の弾丸が数発打ち込まれた。
 強い生命力を誇るサメ型の従魔は、ようやくそこで動きを止める。
 6メートルにも及ぶ巨体は11人乗りの船よりひとまわり小さい程度で、あたりにはおびただしい血が流れていた。


●闘いすんで
 戦闘が終わったあと、まず悠登のケアレイとリジェネレーションでエージェント達の手当てがひととおり行われた。
 幸いなことに、観光客や市民も含め重傷者はいなかった。
 その後、警察の装備も借りて従魔の死体をようやく浜に引き上げた頃には、日も暮れかかっていた。
 従魔の体に浮かんでいた不思議な赤い文様は消え、いまはただの死んだ大型のサメのようにも見える。
 それでも、きわめて大型で危険な種類のサメには違いないが。
「これだけ大きければ、フカヒレ食べ放題……!」
 熱い視線を送るストゥルトゥスに、輝夜も反応する。
「なに、この魚、美味いのか!?」
「高級食材よ」
 鈴音は答えるが、膨らみきった期待はニウェウスによって無残に打ち砕かれた。
「フカヒレは基本乾物だから、時間と手間がかかるよ? すぐには食べられないよ?」
 従魔を倒せばフカヒレとコンドロイチンにもれなくありつけると信じていたストゥルトゥスは、その場にくずおれる。
「嗚呼、いますぐ食べられないなんて……!? ストゥルトゥス、空腹で死す!」
 芝居がかった感じで目を閉じようとしたストゥルトゥスだったが、和馬の「あっちで焼きもろこし売ってたぞー」の声に、かっと目を見開く。
「焼きとうもろこしか……食べたいなー」
 琳も目を輝かせて反応している。
 その隣で茂守は、じゃあ食べに行きますか? などと相談を始める。
 ハワイでは、BBQコンロで焼いてしょうゆバターを塗った焼きとうもろこしが人気であり、和馬はいつのまにかそれを見つけてきたらしい。
 海辺から離れている間に彼は共鳴を解いたようで、後ろから白いローブを纏った俺氏が、地元の猫数匹ににつきまとわれつつやってくる。
 当然和馬の目の下のくまとジト目も復活しており、茂守が寝不足か疲労か、と変に気を回す。
「よかったら皆で行きませんか? 奢りますよ」
 にこやかな平介の言葉に、全員の顔が一斉に振り返った。
 ストゥルトゥスと輝夜などは完全に、「ついてゆきます!」の顔になっている。
「よいのか? わらわも一緒に食べて、よいのか?」
 実際の年齢はともかくとして、目をきらきらさせた輝夜の見かけはわずか9歳である。
 平介は小さい子には、特に甘いのだった。
「ストゥル、あんまりがっついちゃ駄目よ? 後でロコモコとフリフリチキン、食べさせてあげるから……」
 ニウェウスは空腹に我を忘れたストゥルトゥスが暴走しないか、ハラハラしながら見守っている。
 我も我も、の混乱の中、暁がおずおずと手を挙げた。
「あのー……、レインボーかき氷とかは……」
「順に回りましょう。こういうのは人数が多いほうが楽しいですから♪」
 もともと平介はそのつもりで、多少の予算は取ってある。
 ちなみに人との距離の取りかたに慣れていないゼムは、幻想蝶にさっさと避難してしまった。
 ナインは最後尾について歩きつつも、ビーチに未練ありげな目線を送っている。
「せっかくビーチに来たのに、泳げなかったな……」
「いやいや、警察の立ち入り禁止措置、まだ解かれてないから。また今度にしようね!?」
 従魔の死体はあとは警察にまかせればいいが、ともかくビーチへの立ち入り禁止の黄色いテープは張られたままだ。
 その後他のエージェント達から、ハワイ支部に泊まって明日泳げばいいとか、支部の目の前にもビーチがあるなどと教えられ、あれよあれよという間に有志でハワイの海を泳ぎまくるという約束まで纏まっていた。

 その後一同は、揃ってハワイの街と食べ物、そしてなにより仲間との楽しい時間を存分に満喫したのだった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ショタっぱい
    狼谷・優牙aa0131
    人間|10才|男性|攻撃
  • 元気なモデル見習い
    プレシア・レイニーフォードaa0131hero001
    英雄|10才|男性|ジャ
  • 遊興の一時
    御門 鈴音aa0175
    人間|15才|女性|生命
  • 守護の決意
    輝夜aa0175hero001
    英雄|9才|女性|ドレ
  • ようへいだもの
    鴉守 暁aa0306
    人間|14才|女性|命中
  • 無音の撹乱者
    キャス・ライジングサンaa0306hero001
    英雄|20才|女性|ジャ
  • 分かち合う幸せ
    笹山平介aa0342
    人間|25才|男性|命中
  • どの世界にいようとも
    ゼム ロバートaa0342hero002
    英雄|26才|男性|カオ
  • カフカスの『知』
    ニウェウス・アーラaa1428
    人間|16才|女性|攻撃
  • ストゥえもん
    ストゥルトゥスaa1428hero001
    英雄|20才|女性|ソフィ
  • 薩摩芋を堪能する者
    楠葉 悠登aa1592
    人間|16才|男性|防御
  • もふりすたー
    ナインaa1592hero001
    英雄|25才|男性|バト
  • やるときはやる。
    呉 琳aa3404
    獣人|17才|男性|生命
  • 見守る視線
    藤堂 茂守aa3404hero002
    英雄|28才|男性|シャド
  • 初心者彼氏
    鹿島 和馬aa3414
    獣人|22才|男性|回避
  • 巡らす純白の策士
    俺氏aa3414hero001
    英雄|22才|男性|シャド
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