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WE ARE ROGUES!
最終発言2016/09/16 00:32:16 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/09/12 21:34:37
オープニング
●君たち、ヴィランですけど何か
仔鹿(こじか)銀行。それがターゲットの名前だった。繁華街のど真ん中にある支店を選んだのは早々に警察に囲まれるリスクを避けるよりも、たくさんの金が集まることを優先したからだ。今回の仕事もうまくやれる自信があった――。
「何、首を傾げてるのさ。君たちが何をすべきかわかっただろ?」
少年の声が笑う。
「正義のエージェント様たちの犯罪者ロールなんて、ワクワクしちゃうわ」
少女の笑い声が重なる。
腹をくくろうか。所詮はゲームだと。やらなきゃここから出られないのだから。それにしても、ヴィランに堕ちるなんて悪趣味な冗談だ!
●ハンドアウト配布
「クライム系テーブルトークRPG」の世界へようこそ!
君たちは今から、薄汚い犯罪者です。せいぜいスマートに事を運んでください。
ルール
・殺しはnotスマート。ペナルティとして、チームから追放され無条件で警察に捕まるブタ箱ENDが待っている。
・君たちはビジネスライクな犯罪者集団。各々の設定はバラバラでOK。元からチームを組んでいるというメンバーもいてOK。
(特に言及がなければ、普段の犯罪は能力者と英雄2人のチームで行っていることとする)
・銀行強盗をする理由は持っておくこと。生活のため、刺激を求めて、など何でもOK。
行内にいる人物
銀行員20名、警備員2名(非リンカー)、一般客50名
軽微な障害
・赤ん坊が泣く。
・幼児がトイレに行きたがる。つまらないから出たいと駄々をこねる奴も。
・無駄に強気で反抗的なおばちゃん「殺せるものなら殺してみな!」
・情に訴えて犯罪をやめさせようとする老紳士「お母さんが悲しんでるぞ」
・カップルがピンチに乗じていちゃつく「怖い!」「君は僕が守るよ」
重大な障害
・銀行員の行動が遅い。
1ひどく怯えてスムーズに動けない窓口の女たち
2正義感が強く、女性と子どもの解放を要求したり、命令にいちいち口答えしたりする支店長
・一般客の中にたまたま居合わせたエージェントが2組いる。とっさに共鳴しており、非リンカーのフリをして大人しく従っているが、スキを見て奇襲を狙うつもり。ジャックポット1名、ドレッドノート1名。
・開始10分ほどで警察(非リンカー)に包囲される。
・30分経つとHOPEエージェントに包囲される。
・1時間居座ると共鳴済リンカーが15人突入してくる。まともに戦うと負ける。
解説
ミッションタイプ:【エリア探索】
このシナリオはクリアと成功度に応じて様々なボーナスが発生します。
詳細は特設ページから「ミッションについて」をご確認ください。
――――――――――
・アジトでの顔見せ、作戦会議から始めます。その際、顔見知りがいても構いません。あとは、好きなように格好つけて下さい。
・過去に犯した犯罪の設定、懸賞金、二つ名などは自由に決めてOK。
・ハンドアウトの『障害』の他にも障害を演出してもOK。ただし、格好良く収拾を付けること。
・銀行の出入り口は正面と裏口の2つ。
・銀行強盗の行き帰り、ついでに何か悪いことをしたかったら、各々どうぞ。ただし、15分以上かかるものや大規模なワルはなしとします。食品や衣服などの盗みや強奪あたりが限界でしょう。
※ここでも殺人は禁止です。過度の暴力はマスタリングの対象となります。
・ピンポンダッシュ、スカートめくり、子供から遊具を奪うなど、常識が邪魔して普段できないことも今なら可能です。
・最後は隠れ家で宴会です。パーっと呑んで騒ぐのが、明日をも知れぬ犯罪者の礼儀です。でも、ふとした瞬間にカッコつけても良いです。
・このゾーンに捕らわれている人間はいないようです。
リプレイ
●暗転中、舞台袖にて
「まったく、俺達が強盗など……悪い冗談だ。しかし、やるからには手は抜かないぞ」
「悪役ならショーで慣れたもんだぜ!」
「ゲームっぽいドロップゾーンは経験したけど、犯罪者ロールを強制させられるなんてね……」
「犯罪者ロールとは言え、仕事はスマートでパーフェクトに、だ」
「兄さん! 海神会の出番ですよ!」
「……またその設定か?ま、羽目を外していこうか」
「クロ……ねむい……」
「クロちゃん、今回はBWって言うのよ」
「何か言うことある?」
「いや、特に」
――Ready? 3、2、1、Action!
●悪人、邂逅
某月某日。街はずれの廃墟では、きな臭い集会が開かれていた。
「全員揃ったみたいだね。作戦会議の前に自己紹介と行こうか」
シウ ベルアート(aa0722hero001)が食えない笑顔で言うと、海神 藍(aa2518)が「そうだな」と応じた。
『海神会』――違法物品の売買やその入手を生業とする団体。裏社会に浸透したその名を姓に持つにもかかわらず、彼はためらうことなく名乗ろうとする。
「申し遅れた。俺は……」
「待て、本名は伏せておけ。基本的には仕事の間だけの付き合い、明日は寝首をかかれるかもしれん相手だ。互いを識別する呼び名があればいい」
遮ったのは高橋 直房(aa4286)。藍は軽く息を吐く。
「隠す必要もないんだがな。では『ご厚意』に報いて……俺は『青紫』、こっちのは『黒鱗』とでも呼んでくれ」
禮(aa2518hero001)が軽く頭を下げる。藍を兄貴と慕う構成員だ。ぱっちりとした漆黒の瞳を、まるで猟犬のように油断なく巡らせる。
「僕は『灰色』。よろしくね」
シウが言うと桜木 黒絵(aa0722)も「『マオ』だよ」と続く。一見無害な少女だが堅気ではないらしい。落ち着き払った様子だ。
「で、こっちの2人が私たちとチームを組んでる……」
「『ケーブル』だ」
言葉を引き継いだのは飛岡 豪(aa4056)。青いレザースーツの上にボディジャケットを着込み、中に多数のワイヤーロープを仕込んでいる。
「俺は『クリッパー』」
ガイ・フィールグッド(aa4056hero001)も同様の服装だが、カラーリングは燃えるような赤。切断用具やピッキングツールを隠し持っている。彼ら4人が小鹿銀行を狙ったのは、ヴィラン等の反社会組織のマネーロンダリングを支援している銀行だからだ。奪った金は借金のカタに潰されそうになっている孤児院に寄付する。つまりは義賊である。
「俺は『脚本家』と名乗っておこう」
直房が流れを引き継ぐ。自己紹介は時計回りに進むようだ。隣のレイキ(aa4286hero001)はまるで緊張感のない顔で言う。
「なんだっけ? あ、そだ、『ニート』だよー」
隣の男が噴き出した。
「ひっでー名前! ま、人のこと言えねぇけど」
彼の名は『トラッシュ』――意味はチリ屑。本名は火臥壬 塵(aa3523)という。フリーのワルで『楽しい事』に手を貸すというのが唯一の信条だ。
「あ、あたしは」
「そっちのキレイなおねーさんは名前なんてーの?」
順番を飛ばされた灯燈 陽壬佳(aa3523hero001)が涙目になる。塵に弱みを握られ絶対服従を誓わされた悲運の英雄だ。
「私? 『怪盗SR』って言えばわかるかしら?」
文殊四郎 幻朔(aa4487)が言うと、塵が短く口笛を吹いた。昼は町の喫茶店の美人店主、夜はレオタードに身を包み刺激を求める怪盗SR(spicy rabbit)――どこかで見た設定というツッコミはナシだ。
「……びーだぶりゅ」
黒狼(aa4487hero001)の舌足らずな声。正確にはBW(black wolf)だ。言うだけ言うと、とろとろとまどろみ始める。
「生憎と洒落た名は持ち合わせていません。顔見知りには『メディック』『ドクター』と呼ぶ者もいるようですが」
背筋の伸びた長身の女の隣には柔和な笑顔の女。
「皆様のお噂は聞き及んでいます。ご一緒出来て光栄です」
クレア・マクミラン(aa1631)とリリアン・レッドフォード(aa1631hero001)――リリアンは先のように言ったが、彼女らも裏社会では有名人。であるのに元軍人と医者のコンビということ以外は素性の一切が不明である。
「私たちが最後ねぇ? コードネームは『Amadeus』」
『神に愛された』という意味の名だけを告げ、榊原・沙耶(aa1188)は沈黙する。
「そちらの彼女は?」
シウが小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)を見て言う。
「突入時は共鳴するのよねぇ? だったら必要ないじゃなぁい?」
沙羅がこくりと頷く。こちらのコンビは同意の上でのスルーだったらしい。
「では具体的な話に移ろうか」
シウの言葉に即反応したのは直房だ。客に紛れて偵察役を務めるという。彼は仔鹿銀行の信用失墜を目的に、海外資本のメガバンクから雇われている。曰く、「雇い主の意図はわからんが、貸金庫に何かあるらしいな。ま、俺が知る必要はねえことだ」と。――彼らの仕事は銀行強盗を成功させること。犯人役を演じて危ない橋を渡る必要はないのだ。そんな本音はおくびにも出さないが。
同じく客に紛れての前乗りを名乗り出たのは藍と幻朔だ。後発組とアドレスを交換し合う。新しいツテができたわけだ。使い道は『利用する』か『ハメる』の2択だろうが。直房だけは用意しておいたプリペイド携帯を今日限りで使い捨てるつもりだ。
「内部設計図は入手済みです」
クレアが言う。事前に金庫の位置を把握するため、彼女らがあらゆる方面に金と人脈を駆使して仕入れたものだが、出し惜しみなどは有り得ない。プロフェッショナルが求めるのは『成功』の二文字のみ。
「立地から考えると警察による包囲は免れません。10分かかるかどうかですね」
リリアンが続けると、クレアが頷く。
「東京湾上に支部を持つHOPEはこれより動きが鈍くなります。通報から30分前後……あくまで私たち二人の経験則ですが」
「30分以内の撤退を目指したいところだな。無駄な戦いは面倒だ」
善良なガイは建前で守りながら、意見を発する。彼らのチームは基本的に殺傷を避けたいという考えだ。
「もし手こずるようなことがあれば、地下から下水道に出ましょう。ここの壁を破壊すればなんとかなるわよねぇ」
沙耶が入手して置いた下水道の配管図を取り出し、見取り図の対応部分をなぞる。
「問題なさそうです。そのための『器具』なら所持していますし」
クレアが同意した。
「突入は……私たちは正面からにしよう」
「俺たちは裏口だな」
「ああ、ピッキングが必要かもしれないからな」
黒絵、豪、ガイがテンポよく言う。ストッパーとして暗躍するため、あえてチームを分けるのだ。
「私も裏に回るわぁ」
沙耶がさりげなく続く。クレアと塵は黒絵と共に正面から突入することになった。
●悪事を始めよう
銀行近くの脇道。車を止めて中で待機するクレアが言う。
「時間をかけると、それはそれで楽しいことになりそうですね」
「早く終わらせましょうね」
リリアンがため息を吐く。後部座席には塵と陽壬佳。
「ど、どどどどうしよう……失敗したら、失敗したら、失敗したら…」
「失敗したら無駄肉、おめー見捨ててくからシクヨロ」
「えぇええ酷いよ塵くん!?」
共鳴すると塵はフェイスペイントで入れ墨を消し、カラースプレーで髪の色も変える。まもなく幻朔と藍からカメラの位置情報が届く。続いて直房からもメールが来た。内容はこうだ。
『裏口は警備システムこそあるが、人員の配置は無し。行内には2名の警備員、リンカーかどうかは見かけからは判別不能。ただし、足運びなどの様子から言って戦闘の玄人ではいない模様。客もまた然りだが、HOPE所属者には素人同然の振る舞いをするものもいるため警戒は必要』
幕開けはいやに静かだった。扉を蹴破るなど、道行く者に異変を感じさせる行動はナンセンス。ケブラーマスクをしていても見とがめられないくらい、自然に店舗に近付いたクレアが扉を開けて中に入る。そして天井に向けて魔導銃を数発撃つ。
「it's payday. ご静粛に。あまり無駄弾を撃つのは主義に反する」
ライヴスゴーグル越しに見た警備員は一般人と一目でわかった。黒絵が首筋に軽く手刀を当てる。一丁上がり。
「少しだけ眠っていてね?」
悪戯っぽく言って屈むと、息があるのを確認してから縛り上げる。入ってしまえば無礼講、監視カメラを派手に射撃し破壊するのは塵だ。
「っしゃァ! 動くんじゃぁネェぜオラァッ!」
クレアは他のメンバーを残し金庫に向かって一直線。『理由を探すために』――彼らに犯行動機を尋ねたら、そんな答えが返って来るだろう。『初めてこの凶行に及んだ時、その潜在的な理由は何だったのか』。衝動の原点を探すため、彼女らは修羅場を渡り歩く。それは今回も例外ではない。――正直、金はいくら手元に在ろうとどうでもいい。
(鍵探す? 時間はもったいないけれど、確実よ?)
(なに、マスターキーなら持ち歩いている。それも世界共通のマスターキーだ)
もう一人の警備員をあっという間に昏倒させた藍も破壊活動に参加する。偵察のお陰で仕事はごくごく早い。撃ち漏らしがないことを確認した藍は銀行員に銃を突きつけ、客と共に一か所に固める。
「おーし其処に固まれよぉ~、『立場』分かってんよなぁ~あ?」
武器を朱里双釵に持ち替えた塵は切っ先を客たちに向け、中空を一薙ぎする。
「ってなワケで! 皆さん俺ちゃんら銀行強盗の人質になっちゃいました! 妙な事したら首が飛ぶからそのツモリで頼むぜぇ?」
ざわめきが広がる。
「怖いわ……私どうなっちゃうのかしら……?」
幻朔も身を震わせ、そう呟く。
「大丈夫、しばらく我慢していてください」
正面を向いたまま銀髪の男は言った。正義の味方さながらに。
(あらあら、敵ってどこに潜んでいるかわからないモノなのよ?)
男は幻想蝶からナイフを取り出し、尻ポケットに入れた。一旦従って油断させる作戦のようだ。強盗の指示で客や行員はお互いを縛り合っている。
(HOPEエージェントさんかしら? だとしたら不運っていうのかもしれないけれど……)
幻朔は細い指で、きゅっと男の袖を掴む。
「お願い。私、死にたくないわ」
(駆け引きの「か」の字も知らない坊や、ってところね。遊び甲斐がないわ)
白い指を武骨な指がそっと包む。嗚呼、退屈。
裏口。厳重なカメラの監視を無に帰しながら、沙耶を主体に共鳴を行った『Amadeus』、そして豪を主体に共鳴した『キャプテン・ワイヤー』が進む。顔にライヴスゴーグルを付けた豪が先導している。
「呆気ないな。この扉の向こうが窓口か」
扉を開けようとする豪は異変に気付いた。沙耶がついてこない。
「どうした?」
「支店長室に行ってみようかしら。金庫の鍵があったら持って合流するわぁ」
建物の破壊も減らすに越したことはない。『時間短縮』や『労力削減』という観点からも支持できる。一瞬考えて、豪は沙耶の言い分を認めた。沙耶の真の思惑には思い至らない。なんといっても彼の本質は善人だ。
「ここにリンカーがいるわよ。邪魔されないうちに何とかしましょ?」
ホールではバタフライマスクの麗人が男の首筋に刃を当てていた。彼のポケットから拝借したものだ。
「き、君は……」
「抵抗してもだーめ。私もリンカーなの」
耳に唇を寄せて。
「ただし悪い方のね」
幻朔が客としての仕事を終え、怪盗SRとしての姿を現したのだ。
「うん、大当たり。その人、抑えててもらえますか?」
黒絵がゴーグルで男から立ち上るライブスを確認し――。
「もう一匹いるから」
首を回した先に居たのは強気そうな少女。舌打ちと同時に銃を取り出す。だが、黒絵の方が速い。放つは『リーサルダーク』。少女の体が崩れ落ちる。
「お見事ね」
幻朔と男の方にもう一度向き直る。
「共鳴を解いて」
『支配者の言葉』に逆らえず、能力者と英雄が無防備な姿をさらす。
「残念だったな。俺たちの目は誤魔化せないぞ、エージェントさん」
豪が歩いて来る。ゴーグル越しの視線は油断なく客たちを見回していたが、見つかったのは整った顔立ちの若い男――直房のみだ。豪は彼から目をそらし、リンカーたちをワイヤーで厳重に拘束する。
「おとなしくしていてくれ。殺し合いはしたくないんだ」
「どの口が言うのよ、犯罪者!」
豪は無言のまま眉を下げて彼女らに猿ぐつわを噛ませた。そのとき。
「うわあああん」
甲高い声が沈黙を切り裂く。塵のこめかみがピクリと動く。
「トモヤ、泣き止んで!」
母親や周囲の者たちが泡を食って宥める。
「……キミらさぁ……『妙な事したら首飛ぶ』っつったよね?」
それは本当に怒りなのだろうか。彼の声には明らかに喜色がにじんでいる。
「よーぅし! 決めた! 其処のガキ! テメーから殺す!」
子供を母親の腕から無理やり奪うと、客たちの方を向かせて羽交い絞めにする。
「やめて!」
「ハッハー! テメーら大人が黙らねぇし黙らせねーからだろ!」
嗤い交じりの声は興奮度を上げるばかり。
「だから『お前らがコイツを殺した』んだぜ? 分かるゥ大人ぁ? ガキぃ~テメーも自分が『安全圏』って思ってんじゃねーぜェ?」
豪が声を荒らげる。
「トラッシュ、やりすぎだ!」
「許してください! わ、私が代わりに」
「もうだぁ~め♪ こいつは見せしめ♪ はいサヨーナラ!」
飛び散る赤い液体。幼児の体が地に転がる。母親は金切り声を上げ、気を失う。長い長い沈黙。誰も動けずにいた。
「……なーんてね、ビビった? ギャハハッ!」
その声に応えるように、幼児のすすり泣きが聞こえた。血に見えたのは塵が服の袖に仕込んだトマトジュースだったのだ。幼児は乱暴に床に転がされて痛かったらしいがもう大声では泣かない。
「……次はマジで殺すぜ。ガキが死ぬトコ見たくなきゃ、どいつもこいつも黙ってな」
赤く汚れた手を舐めると塵は視線を感じて振り向いた。
「悪趣味だな」
「マジになんなよ」
豪が低い声で子供の解放を提案する。
「人質はまだ何十人もいる。子供の相手も面倒だ。少し減っても問題はない」
異議を唱える者はいなかった。
支店長室の隅ではデスクを奪われた主人が悔し気な表情を浮かべていた。その口にはガムテープ。
「う~んと、これかしらぁ」
沙耶は手早く社内PCにアクセスすると、顧客データを根こそぎUSBに移す。ついでに取引データのCD-ROMも奪っていくことにする。
「さ、行きましょうか?」
笑みを浮かべたまま、支店長の腕を容赦ない力で掴む。立ち上がらされた男は廊下をひきずられて行った。口の中で何か言ったが、誰にも聞こえることはなかった。
●去り際までスマートに
遠くで工事現場のような音が聞こえだした。それまでにも数発、爆発音が轟いている。しかし本日の人質は威勢が良い。血しぶき事件にも爆音にもめげない奴らがいたのだ。
「あんたたち、いい加減にしな!」
「ご両親が悲しんでるぞ」
壮年の女と老紳士。黒絵は息を吐く。孤児院育ちの黒絵とシウには家族がいない。響かない言葉だ。
「入口見張ってるから、あとよろしくね」
黒絵を引き留めきれなかったシウが残された。幻朔がくすりと笑い紳士の顎を持ち上げた。
「素敵なおじ様。ごめんなさいね、うちは代々怪盗一家なのよ」
紳士は面食らう。
「き、君たちにだって人の心はあるだろう?」
「僕らを挑発して殺されたら子供や孫が泣くんじゃないの、おじいさん?」
シウは紳士を黙らせ、婦人に近付く。
「あなたもちょっと黙ろうか」
『支配者の言葉』ではない。――『惚れ薬』である。女難の男シウにどんな悲劇が待ち受けていたかはご想像にお任せしよう。ともあれ婦人は『黙った』のだし。
「子供を解放できるなら、客全員を逃がしたって良いでしょう! 従業員たちにも罪はない。私だけ居れば良いはずだ」
「うるせぇな」
部屋の隅、藍は支店長の首を掴んで壁に押し付け、耳の近くの壁を撃つ。
「次は耳、その次は頭だ……嫌なら静かにしろや……なぁ?」
煙の上がるオートマチックを押し付けられ、男は声なき悲鳴を上げる。藍は紳士的な口調で人質たちを振り返る。
「……おっと、驚かせたね。みなさん……別に邪魔をしなければ殺しはしない。……邪魔を、しなければな。」
「テープを剥がしてあげたのは無駄なおしゃべりをするためじゃないのよぉ。まぁ後は金庫の鍵さえ開けばお仕舞いみたいだけれど」
金庫への道はクレアの『マスターキー』――軍用爆弾によって開かれていた。扉が吹っ飛んで壁が黒く焦げている。最奥部ではクレアがドリルによる作業を続けているが、最後の砦は流石に厄介なようで金庫内には至っていない。
「お前が大人しく従えば俺達は誰も始末せずに済む。……お前のせいでやるはめになるかも知れんがな」
『支配者の言葉』が一般人にもたらすのは『好感度の上昇』。それでも今一歩足りない。人命を重んじたいと思いながら、職務への責任も捨てきれない。そういう偽善者のせいで被害が広がることは往々にしてある。
「ちょっといいかな、支店長。……いや、金井 吉光さん?」
温度のない声に呼ばれ、男が身をすくませる。――声の主は意外にも『優しい犯人』キャプテン・ケーブル。真っ赤なロングコートのフードから覗いた口元が笑っている。
「あ……」
支店長は膝を震わせて座り込んだ。豪が広げたのは仲睦まじく歩く家族の写真。金井支店長とその愛妻と一人娘。そこに藍が甘さすら含む優しい声で言う。
「ちょーっと探し物させてくれたら、ここも、家族もぶっ壊したりしねぇよ。な、悪い話じゃない」
それは悪魔の囁きそのものだった。支店長に銃を突きつけたまま貸金庫へ案内させる。適当な金庫を幾つか開けさせ、お目当てと思われるものの候補を幾つか奪う。そう、彼らの目的もまた金ではなく、ある貸金庫の中身。『会』の取引に使用するブツだった。
「額面通りの価値じゃねぇのさ。銀行員には解らんだろうがな」
その間にクレアは黙々と金を詰める。他の者が何に欲を出そうが彼女の知ったことではないのだ。
再び表側。妙につやつやした婦人の隣で膝を抱えるシウ。カップルはいちゃいちゃを再開していた。
「ねぇ、そんな女より私と楽しい事しない?」
幻朔は胸を腕に押し当て、男にすり寄る。塵がニヤリと笑う。姿については緩いルールが敷かれているゾーンのようで、容易に陽壬佳を主体とした姿に変化できた。つまり、爆乳裸ジャケット。陽壬佳の抗議はやはり完全スルー。
「お兄サーン、あたしとも遊んで?」
「そんな女捨ててくれたらサービスするわよ?」
生気を失っていたシウが顔を上げた。
「何してるの?」
「暇潰し? でもそうね、刺激には欠けるし、静かになるどころか彼女さんは騒ぐし……」
幻朔が取り出したのは銃。バカップルは死ななきゃ治らない。
(……なーんて、ちょっぴり強引な『脚本』だけれど、これでいいのよね?)
その退屈しのぎは直房から持ち掛けられたものだった。
『俺を撃て』――シナリオ通りに、肩を撃たれ呻いたのは直房自身。
「く……大丈夫かい?」
「ごめんなさい、私のせいで……!」
女は自分を庇った直房相手に悲劇のヒロインごっこを始める。表に居る者たちに藍より『まもなく回収完了』というメールが届いた。手負いの直房は解放されることになった。幻朔に見張られながら直房は扉に手をかける。
「ご協力感謝するよ。俺の分け前は君の取り分にしてくれていい」
「安く見られたものね。でも意外。あなたみたいな人に横取りされないよう、山分けしたお金の管理は気を付けなきゃって思っていたのに」
「もう少し間抜けな集団ならそれもいいがね、君たち相手じゃ分が悪いよ。それでは」
戻ってきた幻朔が時計を確認する。
「まだ25分ってところね」
塵の『鷹の目』によればHOPEは未到着。
「今のうちに例の作戦、はじめましょうか」
皆は幻想蝶から麻袋を取り出す。一人残らず人質に被せた後は、共鳴を解き後ろ手で縛られたフリをして人質たちと同時に外に飛び出すのだ。
「回収しきったな、逃げるとするか」
「そうしましょう。いつも通りなら、そろそろ精鋭が到着する時間よ」
クレアから皆へ再度の連絡。
狭い正面入り口から人質があふれ出す。助けに入ろうとした警察官が煙に巻かれる。消火器を撃ったのは塵だ。
「おーっとコイツで終幕ってネェ!」
同じように藍が裏口に煙幕を張る。煙をかき分けて進んだ警官たちが見たのは、もぬけの殻となったロビーだった。
「ん?」
そして床に散らばるのは大量の財布。人質たちのものだ。無論、中身はなくなっていた。
●宴の後の宴
「うふふ、とっても刺激的だったわ~」
「ねむい……」
奪った金の山分けの後、別の札を数えているのは幻朔である。スった財布を残してきたのは温情ではなく処分が面倒だったからだ。強盗には怪盗とは違った刺激があった。紹介してくれた怪盗仲間に感謝しなければ。
「……えしゅあーる、たのしかった?」
「ええ! 刺激ある所に私有りよ! これからもspicyでecstasyな刺激を求めるわ」
秘蔵の酒を持ち込んで美味そうに飲むのは藍だ。禮が酒を注ぎながら言う。
「アニキ、今回は派手な仕事でしたね!」
「ああ、そうだな。これさえあれば今回の話もうまく行く……」
金庫に隠されていた取引相手の『秘密』は良い効果をもたらすだろう。
(全て終わったら金は『ケーブル』に渡しておけ、俺達には不要だ)
藍が小声で指示を出すと禮は眼だけで頷いて、ケーキを頬張る。
「うーん、仕事の後のケーキは格別ですね!」
「黒鱗」
藍は舎弟のケーキに乱暴にフォークを突き立てる。
「裏稼業を甘く見んじゃねぇ。周り見て勉強しとけ」
そのまま半分ほど残っていたケーキをぱくり。禮はショックを受けながら観察を始める。
ウイスキー党の藍は、特にスコッチを愛飲するというクレアの話を興味深そうに聞いている。しかし――黒狼が倒したグラスの音に全員の鋭い視線が向けられたり、素性に関する質問をさりげなく挟む者がいたり、それを巧みに躱したり。シウなどは楽しそうに会話を振っているが、飲食物には全く手を付けていない。皆、気は抜いていないのだ。金は幻想蝶に収納済みだ。
豪には直房からのメールが届く。『資金洗浄しないと金は使えん。寄付しておけ』という短いメッセージと慈善団体の連絡先が書かれている。真実を言うと慈善団体を隠れ蓑にした反社会組織の資金源だ。仲間との相談の上、直房の指示に従った豪の元に、救おうとしていた孤児院のスポンサーになりたいという人物から電話が掛かるのは少し後の話だ。
酷い恐慌状態を装い警察の聴取を逃れた直房は、病院でも至って軽傷と判断され、早くも帰途に就いていた。証言能力のない一般人。都合のいい立場に収まれた。
「全く要領が悪いやつだ。銀行強盗なんざしなくとも、世の中には偽善者ぶりたい成金どもがいくらでもいる」
レイキが思いついたように言う。
「直房もギゼンシャ?」
「馬鹿言え、俺のはビジネスだぜ。仲介手数料をいただいてる」
依頼者からの成功報酬も近々頂けることだろう。小鹿銀行失墜の一片(ピース)は金庫に行った元軍人か『青紫』、あるいは『Amadeus』あたりが持ち出しているだろう。役目を終えたプリペイド携帯をコンビニのゴミ箱へ投げ捨てる。ゆるりと歩き出す男の口元から紫煙がたなびいた。
「どこでその情報を?」
数日後、バーのカウンターで沙耶と男が密会していた。
「企業秘密よぉ。それに質問をしているのはこっち。私の提案に乗ってくださるのかしらぁ?」
間には一人分の空席。両者の視線が絡むこともない。随分楽しいデートのようだ。
「金なら払う。こ、公表は勘弁してくれ」
沙耶の笑い声に注意を向ける者はいない。男は中堅の政治家なのだが、この店ではありふれた存在で特に注目もされない。
「悪い人ねぇ。でも悪のお陰で回る経済もあるもの。私、あなたたちの存在自体は否定しないわよぉ」
「き、金額は――でどうだ?」
ゆっくり首を傾げると桁数が変わった。
「いいわ。これからもお仕事頑張って。ね?」
男は深い深いため息を吐く。悪人の名簿はまだまだ山積み。忙しくなりそうだと思いながら青い水面を模したカクテルを飲み干す。
「一段落したら南の島に行くのもいいわねぇ」
幻想蝶内に待機する沙羅に言う。
「銀行強盗の後は『高飛び』って相場が決まってるのよ」
沙羅が怪訝な顔をしているのが想像できて、沙耶はまた軽やかに笑った。
――GAME CLEAR!!