本部

強制! 8月31日!

星くもゆき

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2016/09/14 17:31

掲示板

オープニング

●奴、再臨

 夏休み最終日の8月31日、人によって天国と地獄がはっきりと分かれる日である。
 原因は言わずもがな、大量の宿題とかいうアレ。
 きっちり計画を立て、己を律して過ごせる人は、夏休みの宿題なんてとっくに終わらせて悠々と過ごしていることだろう。
 逆にそうでないダメ野郎どもは、自堕落に過ごした日々のツケを払うハメになる。彼らの目の前には山ほどの試練と苦難がそびえ立つのだ。
 しかし、それも学生の青春というやつではなかろうか。

 とある愚神――通称『銀八先生』は、そう認識したらしい。

(※説明しよう! 銀八先生とは、なんか学校行事とか教師と生徒の熱いドラマとか青春のにほひとか、そういうのがとっても好きなスーパーアホ愚神さんなのだ! しかも優れた洗脳能力を駆使し、自分の理想のシチュエーションをエージェントたちに再現させる迷惑さんでもある! クッソ弱いけど逃げ足だけは速いので未だに健在なんだよ!)

●じごくのじごくのなつやすみ

 プリセンサーが愚神の出現を予知したという一軒家に、エージェントたちは急行した。
 突入すると1体の愚神が立っていた。普通にいた。ちなみにそこは売り家らしく中は無人だった。愚神はそれを知らなかったようで「いないんですけど! 宿題やってないんですけど!」と言っている。どうやら夏休みの宿題に追われて絶望している少年少女の姿を見たかったようで、それがこの場にないことがショックだったようだ。

 間抜けではあるが愚神は愚神。覚悟しろ、と一行が彼に迫った時である。
 小物っぽかった愚神が急に何らかのスキルを発動し、一行は意識を失った。

 そして目が覚めると、彼らは大きなローテーブルを囲んで床に座っていた。卓上にはコースターに乗った冷たい麦茶やジュースが並ぶ。
 それと、大量の、宿題。
 何故ここにいるのだったか。
 そうだ、今日は8月31日じゃないか。
 自分たちは今から、完璧に手付かずだった夏休みの宿題を終わらせるんだ。
 普通の教科の宿題に、絵日記やら自由研究やら山のようだぜ。
 ……っつか無理じゃね? 最終日に1つも手をつけてないって詰みじゃね?

 ぶっちゃけ終わらねえ。そんな絶望感を多少抱きながらも、一行は最後の抵抗を試みることにした。
 よくよく見たら卓上には小中高レベルの宿題がごっちゃり入り混じってて完全なるカオス状態だったが、今の彼らはそれに気づくことはできない。
 洗脳されてるからね。愚神にね。銀八先生にね。
 そんなこんなで、エージェントたちはどこかから銀八先生に見守られながら、過酷な8月31日に挑むことになったのだった。

解説

■概要
 とある愚神(銀八先生)に洗脳っぽいことをされ、皆で夏休みの最終日を過ごすことになりました。
 1日を過ごせば銀八先生は満足して帰っていくことでしょう。
 真面目に宿題するもよし、無の境地に至りだらーっと過ごすもよし。
 学生の身となって、8月31日を過ごして下さい。

■洗脳
 銀八先生の力により、PCたちは『愛☆青春学園』(愛学)の生徒という設定になります。
 性格や経歴とかも完全自由です。洗脳されてるので大丈夫! 完全に別人でも大丈夫!

■場所
 空き家の一軒家。広い。2階建て。庭付き。
 1階にはリビング(現在位置)やキッチン、和室。
 2階には寝室や開放的バルコニー。寝室の本棚には銀八先生が用意した罠『コミック』が多種存在。
 冷たい飲み物、お菓子、昼食や夕食の食材は冷蔵庫に揃っています。

■状況
 時刻は午前10時からスタート。日付が変わった時点で先生は帰り、そうすると洗脳は解けます。
 PCたちは共鳴が解け、能力者も英雄も自分が学生身分だと思いこんでいます。どんな外見、どんな状態でも不思議に思うことはありません。
 洗脳されてから先生が去るまではもはや運命の流れなのでどうにもなりません。
 愚神はくだらない洗脳っぽいことをする力はありますが、戦闘能力は皆無に等しいです。
 洗脳状態なので何をやっても大丈夫です多分。恥じることはありません。

リプレイ

●試練の始まり

 卓上には所狭しと並べられた宿題の山。そのどえらい量を目の当たりにして、中城 凱(aa0406)は隣の礼野 智美(aa0406hero001)と言葉を交わす。
「すっかり忘れてた……夏休みだったんだっけ」
「……病院に宿題持って来てもらうべきだったな」
 智美の答えに、凱はその手があったかと手を打った。凱と智美、それに凱の親友の離戸 薫(aa0416)と智美の親友の美森 あやか(aa0416hero001)は4人揃って夏休み初日に事故に巻きこまれて入院を強いられていた。普段は宿題などは早めに片付けるタイプなのに大量の宿題が残っているのはそのためなのだ。
 という設定なのだ。
「この量は大変だね……」
「効率を求めるなら、各々得意分野をやるのがいいのかしら……」
「宿題は自分でやるべき、とは思うけどさすがに今回は眼を瞑るよ」
 薫とあやかがそう言うと、凱たちも力強く頷いた。夏休みの宿題を1日で終わらせるには、各自の連携が肝要なのは言うまでもないことだ。
 凱たちがローテーブル上にスペースを取り、問題集やら原稿用紙を広げる。それを横目に見つつ、篠ノ井 一花(aa4428)は自分の真っ白な原稿用紙やドリルを前に悲鳴を上げていた。
「やばい。本当にやばい。おいクラウリー! お前何してんだよ!」
 焦りながらも行動計画を練っていた一花が、相方のクラウリー・ペインバック(aa4428hero001)が瀬戸際の学生とは思えぬほどのんびりしているのを見て声を荒らげた。
「あー? 宿題なんざ適当にすりゃいいだろカズ。サボろうぜ」
「ッんでテメェはサボる気満々なんだよクラウリー!」
「当たり前だろォ。今更取り返しつかないモンを取り返そうなんざ思わねェよ」
 一花が喰いかかるもクラウリーは取り合う様子もない。彼は中2である一花と違い最高学年の高3だ。ゆえに一花は彼の卒業のことを心配しているのだが、当のクラウリーはサボりまくる気満々だった。
 だってもう何回留年してるかわからんもの。在籍何年目かももはや覚えていない。つまりまた留年しようが痛くも痒くもないのだ。
 だからアイス食いながらアセアセしてる可哀想な一花を眺めることにした。
「まァ、頑張れよ」
「勝手にしろ! 後で泣き見んなよ!」
 宿題を少しでも進めるため、一花は凱たちとできる限り情報交換などを行っていくことにした。ちょうど同学年だし。
「留年を繰り返してる俺に今更夏休みの宿題をやる気なんてある訳ないだろ」
「マルコさん、何年留年してるの!?」
 クラウリー同様、一線を越えているマルコ・マカーリオ(aa0121hero001)はスキットルを取り出して酒を飲み始める。それにツッコみつつアンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)はのろのろとした手つきで目の前の宿題を漁る。
(おかしい。イタリアではこんな事なかったのに。日本はおかしいですよカテ○ナさん……)
 目前の試練の数々に、アンジェリカは理不尽を感じながらも、何から手をつけようか悩み始めた。
 卓の隅っこでは、宇津木 明珠(aa0086)がカリカリと宿題を処理。普段は病弱ゆえの不登校生活であり、こうして(写真でしか見たことのない)クラスメイトと一緒に時間を過ごせるのは楽しみだった。明珠が参加しやすいように名前入りのテキストを置いていってくれた銀八先生には感謝の念しかない。
 だが、すぐ近くでは札付きのワルである金獅(aa0086hero001)がどっかりと余裕こいて胡坐かいてる。明珠はそれが怖くて仕方がなかった。引っ込み思案の人見知り生徒ポジだから。
「そんなのガリガリ解くなんてご苦労なことだぜ」
 一部の者たちが宿題をやり始めていても、金獅は宿題に向かい合う素振りすらも見せない。ありがちな不良ポジ。
 頑なに宿題をやろうとしないのは、そうすれば1歩留年に近づけるからだ。問題を起こせば銀八先生にぶつかってきてもらえるのではないか、というなかなか可愛い思考の持ち主。設定だけど。
「お前の7つ子の姉妹の……七海だっけ? もう卒業したんだって? やっぱ持ってる奴ぁ違ぇよな。なあ六海(むつみ)」
「五々々(ごごご)の666つ子の兄弟も、とうとう卒業したらしいね。ね、ドラ。ところで五々々のお母さんは魚類かなんかなのかな」
 慌てる素振りもなく泰然とお喋りしているのは、絶賛人格変異中の五々六(aa1568hero001)と獅子ヶ谷 七海(aa1568)だ。前回卒業した2人の弟妹という設定らしい。ところで六海のお母さんも猫かなんかなのかな。
「んなことよりさ、それさっきからなに描いてんの?」
「……絵日記。クズの成長記録」
「へえ。クズなんてどうせ成長しねえんだし、楽そうでいいな」
「そうだね」
 ハハハ、と笑い飛ばす五々々。お前の記録だ。
 皆が宿題に手をつけ始めると、天都 娑己(aa2459)は早々に「プールに行こう!」と言って逃走を試みたが、半ばお目付け役な龍ノ紫刀(aa2459hero001)によって阻止。首根っこを捕まれてズルズルと卓に強制送還の刑。
「だって、みて! あの青い空! 白い雲っ! わたしたちの夏はまだ終わってない……!!」
「はいはい、さっさとやるよー」
 じたばたしつつも、最終的には着座する娑己。卒業取り消しで再び高1からやり直すほどの逸材である娑己が果たして宿題を完遂などできるだろうかいや無理だ。すべては同じく1年からやり直しとなった紫刀の手腕にかかっている!

●各々すべきことを

「俺もう飽きたわ~。宿題は来年提出しよ」
 開始早々、虎噛 千颯(aa0123)が飽きた。真面目に取り組むつもりだったがその意気は2分で潰え、すぐに周りの面々にちょっかいを出し始める。高3設定のはずだが……小3と間違えたのかもしれん。
「白虎丸~暇~遊ぼうぜ~!」
「千颯、遊んでいないでおまえも宿題をやれ!」
 白虎丸(aa0123hero001)は絡んできた千颯を振り払うと一喝。くどくどと説教を始める。
 彼は武士を夢見る高校3年生、部活は剣道を嗜み生徒会にも籍を置く。スーパー生真面目ボーイである。素顔を見られるのが恥ずかしくて着用する被り物と、武士になりたくて始めたござる口調(千颯にはタメ口)と、届け出た名前が仮名であることを除けば素晴らしい生徒なのだ。
 チャラい千颯とは水と油のようだが、その実2人は幼稚園からの幼馴染。被り物をしている白虎丸を千颯がいっつもからかってきたので、こんなやりとりも日常茶飯事なのだった。被り物してる幼児とかこわい。
「何真面目に宿題とかやっちゃってるわけ? 人生損してるぜ~?」
「勉学は学生の本分だぞ! 何を言ってる!」
「そんなんじゃ面白く生きられないぜ白虎丸。ってわけで俺は旅立つ!」
「こら! 千颯!」
 白虎丸の制止を聞きもせず、千颯は退屈しのぎの家宅捜索に着手した。
 やれやれ、と呆れた白虎丸は卓に向かい直し、とてつもなく美しい正座で作業再開。
 元気だなぁ、と千颯たちを見ていたアンジェリカはふとマルコの動向を確認した。
 やる気はないと豪語したマルコ、酒を飲みながら漫画読破中だった。
 マジでやる気ないなこいつ! とアンジェリカはピコピコハンマーで頭をポカリ、卓の前まで引きずってきて教科の宿題をやらせることにした。ついでに自分の分も差し出す。
「留年してる俺に答えが解る訳ないだろう!」
「適当に何か書いとけばいいんだよ!」
 悪あがきするマルコにそう言い残し、アンジェリカ自身は自由研究に取りかかる。やはり分担作業は鉄板なのだ。
 連携作戦に先んじて取り組んでいた凱は、ひたすらカリカリとペンを走らせ、課題を順調にこなしていた。
「俺も数学の方が……全然やらないより少しでもやっていた方が良いだろ。内申にも響くだろうし」
 凱の作業を見ていた智美も、卓について問題集を拡げる。
「あ、そっか」
 智美が隣で真剣に問題を解いているのをちらりと見て、凱は気づく。そういえば智美は自分の姉を手伝うため、ということで経済学部への進学を希望しているのだ。(という設定)
「高3だし、しっかりやらないとってとこか」
「まぁな。事故に遭ったってことで大目に見てはくれるだろうが」
 互いに範囲はまるで違うが、隣に並んでひたすらペンを走らせる。
 理数系が得意な凱はそちらを担い、薫はそれを後で写させてもらうことにしてその他の宿題を終わらせることに。
「課題図書を1冊読んで、凱と自分の分の読書感想文、後美術で幾つかあるポスターの一つ……読書感想画にしようか……ここまでかな」
「大変そうね」
 卓上に課題を分けて整理している薫を覗きこんで、あやかがぽつりと漏らした。
「あやかさんは?」
「自由研究。あたしがボレロ、智ちゃんので半袖ブラウス、薫さんがパスタのファルファレを流用したブローチ……妹さん達がいるから作ってもおかしくないでしょ……凱さんの分が……間に合うかわからないけど……1週間に1回の割合で『夏の朝と昼と夜の献立と、その料理と祖父母両親の品評』。家庭科中心になって申し訳ないんだけど……」
 英雄ながら家事なども高いレベルでこなすあやかのことだ、きっと素晴らしい出来栄えになるだろう。しかし当人の自由研究として出すだけあり、凱の分をあやかが普通にやってしまっては後々問題になること必至である。なので凱のものは控えめにしなければ。
「自由研究は時間かけてやるもんだから……仕方ないよね。 やってもらえるだけでも助かるかと思う」
「あぁ、薫の言うとおり、やってくれるだけですごく助かる」
 薫とあやかの会話を耳に入れた凱が、真面目な顔でそう言った。感想文にしろ自由研究にしろ、そっち系が不得手な凱としては担当してもらえるだけで非常にありがたいものなのだ。
 問題ないということであやかは安堵して微笑み、次いでこの場にいる皆の食事について思案。頭を使うだろうしさすがに飲まず食わずではやっていられないだろう。
「後は皆のお昼と夜かしら。凱さんの自由研究にも流用出来るし」
 皆のお腹の具合を考慮。あやかは作業を中断して、昼食に勉強しながら食べられそうなサンドイッチとおにぎりを振る舞った。

●愚者たち

 真面目に宿題に取り組む者がいる一方、五々々と六海はやる気なさげにテーブルに顎をつき、宿題を取る手ももそもそノロい。
「とりあえず数学からやるか。えーと、これは対抗判定の確率計算か。このステのときの命中対回避の期待値は……」
「MSの弱みを握れば100%でクリティカルだよね、ドラ」
「お前頭いいな」
 その代わりMSに看破されたら100%ファンブルだよね、ドラ。
 っつーか何の宿題やってんのかわからんし問答は噛み合ってないし、やっぱまともになってなかったです。
「あ、あの、対抗判定でお困りですか……?」
 会話内容から難問に行き詰まっているのかと推測した明珠が、勇気を出して六海たちに話しかけた。せっかく銀八先生が用意してくれた交流の場なのだから、という思いもあるようだ。勘違いだけど。なぜ判定ルールに精通していそうなのかは気にしてはいけない。
 だが、生粋の病弱っ娘の明珠はある欠点を持っていた。
「ん? お前なんか言ったか六海?」
「何も……そろそろ体にガタが来てるんじゃないかな。ね、ドラ」
「そうか、確かに最近職質してくる警官も専ら年下だしな」
 普通に笑えない会話をする2人。明珠が声をかけてきたのに気づいていない。
「あの、あの……」
 何度明珠が声をかけても届かない。彼女の声が小さすぎるのだ。まさに蚊の鳴くような声しか出せない明珠は、もっと踏みこむような気概もないのでとぼとぼと引き下がった。

 家宅捜索に向かっていた千颯は、30分ほど経ってから戻ってきた。
 どこかから調達したスナック菓子をバリバリ食いながら足音荒く入室する千颯。白虎丸がギラリと目を光らせたが、彼はそのまま後輩である娑己までをもサボりの道へ引きずりこもうとした。(1度卒業した娑己を後輩と呼べるのかは気にしない)
「娑己! あっちに漫画があったぜ! 読みに行かねぇ?」
「わぁ! 漫画! いいですね!」
 ちょうど宿題に集中できていなかった娑己、目を輝かせて千颯と一緒にささーっと退室……。
 できません。
「宿題終わってからねー」
「他人を巻き込むな!」
 娑己は再び紫刀に首根っこを掴まれて猫のように運ばれ、千颯は白虎丸に顔面を鷲掴みにされて連行。
 でもやっぱり集中できない千颯は、ちょくちょく娑己に声をかける。
「そういや、娑己。彼氏出来たって聞いたんだけどマジ~?」
「えっ、か、彼氏さんですか? ……えへへ、はいっ、すごく大切にしてくれて、とってもしあわせですっ」
 彼氏の話を持ち出されるや否や、頭にお花を咲かせる感じで元々足りない集中力を更に低下させる娑己。
「どんなん? 彼氏って誰似? 写メねぇの? ちょい見せろよ~」
 チャラい先輩のテキストブックとも呼ぶべき態度で、娑己にからかい半分で詰め寄る千颯。
「写メ? ちょ、ちょっとだけですよー?」
 照れつつも、彼氏の画像を披露する手が止まらない娑己。「これは一緒に○○行った時ので――」とか惚気が終わりません。隣で宿題と向き合う紫刀が「またか」と言わんばかりにため息をついた。
 なおも「声聞けねぇの?」としつこい千颯に、とうとう白虎丸さんお怒りになる。
「千颯! いい加減にしろ! 少しは宿題に手をつけたらどうなんだ!!」
 荒ぶる被り物が立ち上がると、いくつもの視線が集まった。被り物ゆえ白虎丸は愛学内でもそこそこ人気を獲得する存在なのだ。
 ゆるキャラとしてだけど。
「怒るなよ白虎丸~。これはアレだぜ、恋愛調査という俺のれっきとした自由研究!」
「口だけはぺらぺらと動かしおって! 信じられるわけがあるか!」
 取り付く島のない白虎丸さん、千颯の言い訳も聞き入れず。
 その結構気合入った怒りように「自分も怒られる!?」と感じた娑己は、今日一番の機敏な動きでスケッチブックを取り出し、千颯と挟むようにして白虎丸の隣に座った。
「白虎せんぱいー! 私も美術の宿題残ってるんです! 可愛いポーズしてくださぁい!」
「! か……可愛いポーズと言われてもでござる……」
 女性慣れしていないシャイなゆるキャラ、先ほどまでの昂ぶりが嘘のように消沈。
 その隙に千颯はゆっくりと後ずさって、ゆるキャラの怒りが再燃する前にその場からの退避を実行する。
「ゆるキャラグッズはいつ出るんですか!? 待ってる女子生徒多いですよ!?」
「俺はゆるキャラでは無いでござるよ……」
 千颯に対する剛毅な態度はどこへやら、もじもじとして俯くゆるキャラ。きゃわいい。
 このままではゆるキャラが恥ずかしくて死んでしまいそうなので、紫刀は重い腰を上げて、またも娑己の首根っこをむんずと掴んだ。
「さー宿題宿題ー」
「せ、せんぱいをスケッチするチャンスがー!」
「た……助かったでござる」
 天敵『女子』のプレッシャーから解放された白虎丸は、心底ホッとしたという。
 しぶしぶ宿題に向き合う娑己。だが色々喋り足りなかったらしく、ちらちらを紫刀の横顔をうかがうと――。
「ねぇねぇ、きいてー、ふたりが最初に出会ったのはがおぅ堂で……」
「出会いから!? ってか、それ、毎日聞いてるし! 宿題させてぇぇっ!」
 娑己を放っておけば娑己の宿題が進まず、娑己を連れ戻せば自分の宿題が進まない。紫刀はなんか泣きたい気分になってきた。

「いやマジで助かったぜ。ありがとな」
「まぁピンチはお互い様ですから」
 一花は凱に色々聞いたりしたおかげで、問題集をある程度まで片付けることができた。やりかけでも無理を通せば提出ぐらいは可能だろうと踏み、彼は次に白紙の原稿用紙に挑む。最悪問題集を突っ返されても中2だし何とかなる!
 本を読むのはどちらかと言えば好きなほうだが、しかし感想文を書くことはそれとは別だ。
「面白かった、じゃだめなのかよ! それ以上なんかあんのか!?」
 がーっと頭をかきむしった後、一花はとりあえず書き始めた。ブロックごとに分けて書けば何とか形にはなるだろうと。
 だがそこへ、すでに諦めの境地……いや悟りに至ったクラウリーが面白半分に邪魔してくる。目の前の現実は元々ハリボテとかのたまって最後の休日を満喫するためにぐーたら過ごしており、アイスちらつかせたり、つんつん脇腹を突いてきたりしてくる。子供か。
「おーい、一休みしようやァ。上に漫画あったぜ漫画ー」
「いーから邪魔すんなああ!!」
 学生の魂の叫びが家中に響く。もしかしたら実際にこんな感じで英雄に学業を邪魔される能力者は結構いるのではなかろうか……。

 アンジェリカは自由研究と称して、お菓子やジュースの食べ比べをしていた。味わいを比較検証するということらしい。
「うん、これこそ立派な自由研究だよ!」
 そうほざいて嬉々として食べて飲むアンジェリカ。
 彼女の背後には、それを冷たい目で見下ろすマルコがいつの間にか立っていた。
「人に宿題をやらせておいていい身分だな」
「失礼な! ちゃんと研究してるんだから!」
 驚いて少しジュースを吹き出しつつも、アンジェリカは開き直って抗弁。
「そっちは宿題出来たの?」
「やったぞ」
 スッとマルコが宿題の問題集を差し出す。


問:太郎君は100円を持って一つ10円のガムを8個買いました。御釣りは幾らでしょう?

答:残った金で連れの花子ちゃんにもガムを奢りそのままデートに連れ出すので0円


 思わずアンジェリカもジュースのコップを取り落とす、衝撃アンサー。
「女の事しか考えてないのか! 大体花子ちゃんて誰!? いやそれ以前に何年生の問題なのこれ!」
「留年してる俺に解る訳ないと言ったはずだ」
「何で自信満々なのさ!」
 アンジェリカの怒り収まらず、ぎゃーぎゃー喚きながら取っ組み合い勃発。不毛すぎる。
 しかし、問題は解けないけれど現状の不毛さは理解できたマルコが暴れるアンジェリカをなだめた。
「落ち着け、兎に角終わらせよう」
「終わらせるってどれから?」
「そうだな、絵のモデルになれ」
「しょうがないなぁ」
 モデルと言われて悪い気はせず、アンジェリカはふふんと胸を張ってポーズ。
 でも。
「いや、これを着ろ」
「?」
 マルコが取り出したのはシルクインナーだったが、パッとアンジェリカにあてがってみると彼はすぐにハッと気づいたように目を開く。
「あ、ぺたん娘には似合わんか」
 ぶちっ。
 アンジェリカ、再びきれる。
 そのまま取っ組み合い第2ラウンドに突入! 超不毛な戦いは、あやかが「小さな子もいるし」と用意した西瓜がテーブルに並ぶまで続いた。

 皆があくせく作業する中、金獅は暇を持て余し、菓子やジュースを飲み食いしながら漫画を読み、それに飽きればゲームアプリをやりながらこれ見よがしにゴロゴロしていた。それを見かねた誰かに文句を言われたら、しこたま悪態をつきまくってやろうと考えているのだ。そうして諍いを起こせば銀八先生がぶつかってきてくれるんじゃないかっつーもはやツンデレ。
(銀八先生……いねーな)
 室内を見回し、金獅は残念がる。そもそも最初から先生がいません。
 しかも宿題をやらない者に声をかけるほど余裕のある者もこの場におらず、金獅は完全にこの場においてぼっちだった。
 ゴロゴロ。
 ゴロゴロ。
 ……なんか虚しくなってきたので、金獅はもうそのまま寝た。不貞寝。

 あやかが作った夕食・冷製パスタ&トマトと夏野菜と鶏肉の煮込みを平らげると、いよいよ宿題もラストスパートに向かう。
「数学だけなら終わらせそうだけど……」
「1日だけなら貫徹出来るだろ、どうせ明日は宿題提出とHR位だ」
 ひたすら数学問題集と向き合った凱と智美、作業は完遂の見込みが立ってきた。
 意外なのは、五々々と六海がその数学の問題を少し手伝ったりしたことだ。素行はクソだがやる気を出せばできる子な2人はなんだかんだ言いつつも山のような宿題を片付けていき、少し余裕ができた辺りで他の人の宿題を手伝い始めていた。
「いやこれは助かったでござるよ、五々々殿、獅子ヶ谷殿」
「あたしも助かったー。ここよくわかんなくってねー」
「なに、同じ試練に挑む者の誼みってやつよ」
「8月31日、クズが人を手伝うという奇跡が……」
 白虎丸や紫刀と爽やかに笑っちゃってる五々々の傍らでは、自由研究にいそしむ六海がカキカキ。
 五々々は(洗脳の影響もあり)かつてないほどに温かな光を己の胸中に感じている。どれほど困難な道程も、力を合わせれば必ず踏破できるはずと思い始めている。
 友情+努力=勝利。
 青臭い方程式、くだらない理想主義と思っていたそれは、今はとても尊く、輝いている。
(腐りすぎたミカン666人衆も、もう卒業のときなのかも知れない。ああ、今ならなんだか、真人間になれそうな気が……)
 おっさん、浸る。
 でも大丈夫、あと1時間もしないうちに元に戻るよ☆


 ちなみに脱走犯(娑己)と看守(紫刀)の熾烈な戦いはその日ずーっと続いていた。
 紫刀に強制連行されるたびに、娑己は気を取り直して宿題に向き合ったのだが。

「きゃー! 宿題やらなきゃ!」
「しゅ、宿題やらないと……」
「しゅ、宿題……」
「しゅ……」

 そーんな繰り返しでまったく宿題は終わらず。
 時刻は0時を迎えようとしていた。

「じ、地獄……!」
「毎年同じパターンだよね……」
 青ざめた顔でカリカリと問題集に取りかかる娑己に、紫刀は苦笑いを浮かべた。

 と、娑己が絶望を味わったところで、日付が変わって皆の洗脳は解けた。

●終演

「……ってまたか!! またこの、なんか……ア゙ぁ゙ー!!」
 洗脳が解けた瞬間、五々六は自分の行動とか思考とかを悔いて何とも言えないモヤモヤ感に包まれた。やり遂げた宿題の山をテーブルから払い落とすほどに荒れ狂っている。もう真人間にはなれそうもないです。
「殺す! 今度こそ殺す! 七海ぃ! 絵日記の最終日は、忌々しいクソ愚神を殺せてよかったです、だ!」
「えっ、でも、絵日記は五々六の成長きろ」
「行くぞオラァ!」
 戸惑う七海と強引に共鳴しようとする五々六。
 しかしそこで明珠に(辞書の角による攻撃で)頭部を殴られ、五々六はその場に顔からぶっ倒れた。
「目の前の問題集から逃げるのは敵前逃亡も同じ。それは万死に値します」
「お、おい、ガキ……」
(成長記録じゃなくて、死亡報告書にしなきゃ……)
 洗脳の余韻で変なスイッチが入ってしまった明珠、銀八を追おうとする五々六を宿題からの逃亡者と認識してそれを阻止せんと襲ったらしい。軽く目がイってて、金獅も七海もちょっと怖い。
 その後スイッチをオフにするのにだいぶ苦労したらしい。
「疲れたよマルコさん……。日本の夏はおかしい」
「時間を無駄にした気分だ……」
 散々取っ組み合いを繰り広げたアンジェリカとマルコは、力なく床に寝転がっていた。帰るにはしばらくの体力回復が必要のようだ。
「んーすげー楽しかった! 宿題とか超懐かしいっての!」
「酷く疲れたでござる……夏休みの宿題はこりごりでござるよ……」
 ひたすらサボっていて体力有り余る千颯と対照的に、長時間正座で宿題をこなしていた白虎丸は疲弊しきっていた。横になって凝り固まった体を伸ばしたい気分。
「なんだかんだ楽しかった~!」
「娑己様、銀八先生と相性いいよね……」
 ほぼ千颯と一緒にサボっていた娑己は満足顔、対して真面目に過ごしていた紫刀はやはりぐったりと疲れていた。ところで娑己はガチの宿題終わってるのだろうかいやそんなはずない。
「……智美、お前あちらの世界では高3だったんじゃないのか?」
「ん? どうだろうな」
 凱の言葉に、元の世界の記憶を欠いている智美は適当に返した。彼女の世界はこちらの世界と酷似しているらしく、凱は智美の見た目から判断して年齢も自分と同程度と考えていたが、学力などを見てもどうも年上に感じられるのだった。
「ほんと、この夏はエージェントやっているからって宿題早期におわらしといて良かった、本当に……」
「計画的にやるのが一番ね」
 深く深~く薫が息をつくと、あやかがポンと背中に手を置いてくれた。まかり間違って宿題を後回しにしていたらこの土壇場でひどい目に遭うところだった。
 何事もなく一件落着!
 と思ったら。
「あれ? カズの奴、もう帰ったかァ?」
 クラウリーは相方がいち早く空き家を去っているのに気づいた。
 一花はいずこへ。

「マジの宿題終わらせてあったよな! あったよな俺!」
 全速力で帰宅中の一花は、そう口走った。
 彼は知らなかった。
 必死に向かう自宅では、真に戦うべき原稿用紙が真っ白な状態で彼を待ち構えていることを。

 頑張ろう、一花。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • Analyst
    宇津木 明珠aa0086
    機械|20才|女性|防御
  • ワイルドファイター
    金獅aa0086hero001
    英雄|19才|男性|ドレ
  • 希望を胸に
    アンジェリカ・カノーヴァaa0121
    人間|11才|女性|命中
  • コンメディア・デラルテ
    マルコ・マカーリオaa0121hero001
    英雄|38才|男性|ドレ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • エージェント
    中城 凱aa0406
    人間|14才|男性|命中
  • エージェント
    礼野 智美aa0406hero001
    英雄|14才|男性|ドレ
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