本部

ヴィランズの抗争ではありません

落合 陽子

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/09/15 19:41

掲示板

オープニング

●また会いましたね。私の玩具さん。
 ヴィラン、戸田伊吹を乗せた護送車が検察庁へと向かう。すれ違う人々が一瞬だけ好機の視線を投げてすぐに元へと戻す。その中で一対の眼だけがいつまでもその護送車を追っていた。そして護送車が裏路地へ続く道を通り過ぎようとした瞬間。

 指を鳴らした。
 
 護送車のタイヤが爆発したのはそれとほぼ同時だった。
「Hello again. My Mr.TOY」
 騒ぎの中、その原因はにっこり笑った。

●いいから大人しくしてろ。
 ようやく最後の従魔が倒れた。エージェントたちに1人のリンカーが駆け寄る。
「皆、無事か?」
「「「いや、こっちの台詞」」」
 真っ先に現場に着き、エージェントたちが来るまで、従魔をけん制しつつ避難誘導して見事包帯だらけになったロンドン警視庁のジェンナ・ユキ・タカネ(az0051)に総ツッコミが入った。

●船内で刃物を振り回すのはやめましょう。
「たまにはこういうこともなくちゃね」
 レター・インレット(az0051hero001)はうっとりとした顔で言った。
「美しい音楽。最高の料理。はあ、幸せ」
 取り皿には豪華料理が器用に盛られている。
「確かに料理は最高ね。赤魚のポワレなんてとろけるよう!」
 パートナーのジェンナ・ユキ・タカネが感嘆のため息を漏らしながら同意する。
 従魔発生の事件を解決したエージェントたちにとある金持ち「ほんのお礼」と客船の旅へと招いた。現在、エージェントたちは美しい音楽と共に豪
華な料理に舌鼓を打ちつつ談笑中だ。
「私、そろそろ客室に戻るわ」
「え、もう? やっぱり体辛い?」
「それほどじゃないけど、やっぱり疲れたみたい。レタはもう少し楽しみなさ いよ。仕事仕事で休暇潰れちゃったし」
「怪我人放っておいて楽しむほどドライじゃないです」
「はいはい。ありがとう」
 通路を通って部屋へと向かう。ドアに手をかけたその時、背後の殺気が膨れ上がった。

●頼むから話を聞け。
 2人は迷わず海へと飛び込んだ。飛び込みざま、素早くリンクする。 もし、振り向いていたら確実に斬られたいただろう。武器を出す間もなく、二
撃目が来る。縫止を放って殺気の主から距離を取る。そして珍しく驚愕の声を上げた。
「戸田!?」
 ヴィランズ、さしも草のリーダーである。剣術のとある流派に伝わる門外不出の剣技を巡る事件で関わりあった男だ。逮捕・起訴されたはずだが……。
「秘剣について聞きたいことがある」
 童子切で斬りかかりながら戸田が言う。ユキは武器を抜くこともなく、ひたすらかわしている。
「しつこい奴だ。あれはお前には関係のない代物。なぜならお前は伝授されなかったからだ。いい加減諦めろ」
「選ぶ側が腐っていただけのこと。伝授されなければ力づくでもらうのみ。お前から聞き出す」
「私?」
 ユキは剣撃をかわしながら眉をひそめた。先の戦闘のせいで体がうまく動かない。
「私は門外の人間だ。秘剣の詳細など知るわけがない」
「ごまかしても無駄だ」
 ごまかすも何も事実なのだが、こうも思い込んだ人間に何言ったって無駄である。なんでこういう時にこんなのと戦わなきゃならないのか。ユキは運
のなさを嘆いた。

●いや、ヴィランじゃないから。刑事だから。
 船内では未だパーティが催されていた。誰もが料理に酔いしれる中、銃声が響く。
「!」
 一斉に手を止め音源へと走るエージェントたち。目にしたのは海上で戦う刀持ちの男性と銃使いの女性。男性は黒づくめで肩から血を流し、女性はサ
ングラスに真っ白なアオザイを着て満身創痍。どう見てもこれは。
「ヴィランズの抗争かなんか?」

 その直後、爆音と共に船が大きく揺れ―そして止まった。

解説

●事件背景
・従魔発生の事件を解決した(倒したのは巨大なウサギ型4体)エージェントたちに「ほんのお礼」ととある金持ちが客船の旅へと招いた。エージェントたちは快諾。美しい音楽と共に豪華な料理に舌鼓を打っていたが、突如、銃声が聞こえる。

●目的
・ヴィランの拘束
・従魔の殲滅
・客船の安全確保(場合により現場近くを通る船舶の安全確保)

●現場
 海上。エージェントたちが乗った客船があるのみ(何者かの爆破により完全停止状態)

●客船について
・客室10室、救命ボート3つ。船員と持ち主以外はエージェントたちのみ。

●敵情報
 戸田 伊吹(とだ いぶき)ヴィラン
・25歳、男性。剣術のとある流派に伝わる門外不出の剣技(秘剣)巡る事件でジェンナ・ユキ・タカネと関わる。彼女がHOPEに依頼をかけたことにより逮捕。現在は協力者により護送車から逃亡。剣技の詳細を聞くために(+逆恨みで)ジェンナ・ユキ・タカネに攻撃を仕掛ける。
 腕は非常に立つ。武器は童子切。ALB「セイレーン」を使用中。

 シャヴィー
・浮遊性のある球体型従魔。召還者に指定された者の回復をする(PL情報:ドーピングに近いものであり、短時間で何度も”回復”するのは危険)自身は攻撃できないが、防御力が非常に高く、辛抱強く攻撃する必要がある。

 ???(PL情報)
・戸田の協力者。爆撃を使う。詳細不明。

●その他人物
 ジェンナ・ユキ・タカネ/レター・インレット
・ロンドン警視庁刑事。エージェントたちと共に従魔事件に貢献。とある金持ちの招待を受け乗船する。
 現在は戸田に襲われ、満身創痍で海上にて戦闘中。ALB「セイレーン」を使用。様々な悪条件の中、戸田に傷を負わせるが……。エージェントたちに戦闘を任せた後、船内の捜査へ。
 格好がアジアン・マフィアみたいな上に、化粧が整形型なので誰だか気づけない可能性も(従魔事件の際はぼろぼろのローブにハンチング帽、ゴーグルという姿)

リプレイ

●再会と誤解
「あれは……戸田か?」
 真っ先に通路へ出た霧島 侠(aa0782) が声を上げた。戸田とはとある事件で敵対した。こんなところで再会するとは。
「戸田!?」
 一拍遅れて飛び出してきた赤城 龍哉(aa0090) とヴァルトラウテ(aa0090hero001)が黒ずくめに視線を送った。2人も侠と同じくとある事件で戸田と戦っている。
「戸田って?」
 榊原・沙耶(aa1188)が問う。
「戸田伊吹。ヴィランだ。もうとっくに逮捕されたはずだが、どうやら脱走したらしい。全く世話の焼けるやつだ」
 侠が答えた。
「じゃあ、もう1人は」
 小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)が言いかけたとき、爆発音が響いた。
「船橋へ連絡だ」
 侠の言葉を聞いて飛影(aa0782hero001)が船員の1人を捕まえた。
「無線貸して」
「え、しかし」
「爆破の状況を知りたい。この爆破は既知のヴィラン絡みだ」
「わかりました」
 船員が侠に無線を渡す。
「操舵室に向かうわ。船員たちの様子も見たいし、直接指示したいこともあるから。何かわ かったら無線に連絡するわ」
 沙耶と沙羅が操舵室へと向かう。
「俺らは戸田を」
 リンクし、飛び出しかけた龍哉を八朔 カゲリ(aa0098)が止めた。
「来る」
 ナラカ(aa0098hero001)の呟きと共に戸田のすぐ近くに白い何かが現れた。淡く光る。同時に戸田の傷が塞がっていく。
「今度は従魔連れか」
「これはもう確実に黒幕付きですわね」
 ヴァルトラウテが言う。
「戸田が共鳴してるのとはまた別口か? まあ、いい」
 水面を大きく蹴り、戸田とユキの間に割り込む。
「覚えてないかもしれねぇが、久し振りだな」
 龍哉の獅子王と戸田の童子切が火花を散らす。
「思い出せねぇか? 俺はすぐに思い出したぜ」
「……」
「いやなに、怪我人の気合に思わ ず足を止める三流がまた暴れてるとなりゃ、こちとら嫌でも思い出すってもんだ」
「お前は」
 獅子王を跳ね上げ飛びのく。かつて対峙した時、確かに龍哉は重傷だった。それでも龍哉の腕は充分理解していた。
「とりあえずこっちは任せろ。あんたは船の方を頼む」
「礼を言う。頼んだぞ」
「それと、何かヴィランと誤解されてるから気をつけてな」
 水面を蹴って戸田へ向かう。ユキは首を傾げ―
「食事時の来客とは迷惑だな」
「よーし、迷惑な客は拳でお引き取りを願おうよ、ヨウちゃん!」
「珍しい事もあるもんだ。オレも今日は同じ気分だ」
 赤嶺 謡(aa4187)とジャスリン(aa4187hero001)がリンクする。
「場所をわきまえろ。騒ぎを続けるならば海の藻屑にしてやろう。包 帯野郎」
「!?」
 謡の童子切が一閃する。誤解ってこれか!

「……どういう状況だ?」
 脱獄した戸田を情報のみで追いかけ、客船に乗り込んだChris McLain(aa3881)が唖然とした顔で言う。敵は戸田のはずなのだが、従魔と怪しい外見の女性もいる。
「あの女のひとも敵?」
「刑事。勘違いされてるだけで味方」
 シャロ(aa3881hero001)の言葉に状況を淡々と見ていたナラカが返す。
「敵は黒ずくめと従魔」
 タイミングよく(?)龍哉の獅子王が戸田を捉えた。従魔が光る。同時に戸田の傷も塞がった。
「ヒーラーか。ええい鬱陶しい!」
 リンクしてSMGリアールを構える。その一撃は違わず従魔に当たるが。
「全然効いてないのですぅ!」
 その体には傷1つついていない。
「厄介だな。俺はここから従魔を潰す。あれを 早く潰すのが得策だろう」
「了解。必 要があ れば援護する」
 カ ゲリは言い残すとリンクして船を離れる。向かうは謡とユキ。
「満身創意の割りになかなかの体捌きだな。だけど」
「あー、ヨウちゃん? 多分きっと相手が違うかな」
 ジャスリンのフォローは間に合わず、童子切がユキに迫る。だが、童子切はユキに届かなかった。代わりに届いたのはカゲリの無形の影刃<<レプリカ>>。
「怪しいがそいつは敵じゃない」
「へ?」
 取り出したIDには”ロンドン警視庁、ジェンナ・ユキ・タカネ”
「えっ!」

●調査開始
  時やや遡り。操舵室へと向かう沙耶と沙羅。
「脱走、か。超法規的措置なんてあり得ないし、誰かが手引きして逃げ出したって事よねぇ」
「仲間かな」
「というより黒幕かしら」
 沙耶は操舵室のドアを開けた。
「失礼するわね。榊原・沙耶です」
「小鳥遊・沙羅よ」
「無線で話は聞いています」
「じゃあ話は早いわね」
 船長は快く命令権を沙耶に譲ってくれた。沙耶は早速HOPEへ連絡を取る。
「こちら榊原・沙耶。事件発生。場所は」
 船長に場所や状況を教えてもらいながら簡潔に報告していく。
「以上です。海上保安庁に近海の封鎖、及び近海を航行中の客船、漁船に港への帰還をお願いします」
『了解。救護船を派遣します』
「さて」
 沙耶は船長に向き直った 。
「お願いがあります」
 ユキが何とか1人で帰還すると侠が待っていた。
「大丈夫か。こっちに」
「ああ。内臓も骨もやられていない。傷が多いだけだ」
 侠はユキを支えながら食堂へと入る。
「座れ。手当てする」
 リンクしすると侠が言う。
「その前に状況を教えてください。爆発で怪我人等はいましたか」
 ユキが尋ねる。リンクを解いたので口調が丁寧なそれに変わった。
「乗客・乗員に怪我人なし。敢えて言うならお前が怪我人だ。座れ」
 反論できず座ってケアレイを受ける。
「警部。国家のらぶりーわんわん、レター・インレットでっす」
 すごい電話である。ユキは聞かなかったことにした。
「榊原さんと小鳥遊さんは?」
「船橋で指揮を執っている。HOPEに は連絡済み。救援船と近海の封鎖、及び近海を航行中の客船、漁船に港への帰還を要請中だ」
「玄人はだしですね。霧島さんはこれからどうします?」
「爆発現場を探す」
「戸田、どうやって逃げたと思う?」
 電話を終えたレターが言う。
「わかるわけないでしょ」
「護送車が何者かに爆破されたって」
『爆破?』
 侠とユキ、それから無線を通して沙羅の声が重なる。また爆破か。
「ちなみに前の戸田の事件の爆破と脱走時の爆破、痕跡一致率73%。同一人物のものと考えられるって」
「霧島さん。報告書作成の為、爆破現場の探索、インレット捜査官を同行させていただけませんか?」
「構わん。タカネは?」
「私は操舵室に。榊原さんたちから話を聞きたいので」
「わかっ た。榊原。タカネがそちらへ向かう。手当ては済んでいる」

●武器は連携
「お前らに用はない。タカネを出せ」
「タカネ?」
 戸田の言葉に龍哉は呆れた声を出した。
「前の事件の逆恨みか?」
「秘剣をもらい受けに来た」
「何だ、まだ未練たらしく奥義に固執してるのかよ」
「未練たらしい? もらうべきものをもらいに来ただけだ。伝授されなければ力づくでもらうのみ」
「その割に何だってこんな関係ないとこに来てるんだ、お前」
「タカネから聞き出す。誤魔化したが、多少切り刻めば言いたくなるだろう」
「なるほど。相当酷いな、お前。最後、お前の後輩に何をされたか忘れたのか」
 リンカーでもない相手に一杯食わされたことを。
「誰にでも奇跡はある」
 いらないところでポジティブである。それはともかく普通に考えて門外のユキが秘剣など伝授されているはずがない。彼女が前回の事件でHOPEに依頼をかけたのは友人としてだ。戸田にわからないはずがない。誰かが戸田を操っている。
「いいぜ。なら手前の繰り糸、叩き斬ってやる」
 戸田は青眼から刀を振り下ろした。避けられない程のスピードではない。龍哉は避けた。避けざまに一気呵成で仕掛ける。だが、戸田は手首を返し、一撃目よりむしろ鋭い剣撃でそれを阻む。龍哉は逆らわずに下がった。一瞬の間を置いてカゲリのラジエルの書からカード状の刃が放たれる。刀で叩き落すには体勢が悪い。戸田は従魔を掴んでカードの前に投げ出した。同時にクリスの弾丸が従魔へと突き進む。だが、三つ巴の攻撃にも従魔は耐える。
「傷1つないのですぅ!」
 クリスは落ち着いて再び従魔に焦点を合わせた。ダメージは与えられているはずだ。
 今度は龍哉が仕掛けた。獅子王は一気呵成を帯びている。戸田は何とか童子切で受けたものの体勢が崩れる。
「童子切、か。良い刀だ。オレも好きだよ」
 そこを狙って謡も踏み込んだ。龍哉の二撃目で戸田の童子切が砕けた。
「キミはダンスのステップは知ってる?海の上で踊るキミを見てみたいな」
 軽口と共に一瞬の間を置いて謡の童子切が戸田へと伸びた。狙うは刀を持っている手―ではない。先ほど戸田が使った技と同じ。手首を素早く返し足元のALB「 セイレーン」
を狙う 。避けられるタイミングではない。戸田はわずかに後退し、二撃目を腿で受け、そのまま謡の童子切を素手で掴み、固定する。血が飛ぶ。完全な回復ができてこその行動だ。もう片方の手で2本目の童子切を出し、龍哉の喉へと走らせる。体勢的に獅子王で受けるのは不可能。仕方なく龍哉は後退する。
「お前、童子切何本持ってんだよ!」
 思わず突っ込む龍哉(ちなみに前の事件でも3本持っていた)戸田はすぐに手首を返し謡の童子切を固定したまま謡へと刀を振るう。だが、謡の童子切から手を離したのは戸田の方だった。カゲリの放つ刃が戸田を捉えた。戸田から苦痛の声が上がると同時に従魔が淡く光る。回復させる気だ。
「させるか」
 間髪入れず、クリスが魔導銃50AEに持ち替えトリガーを引く。狙い違わず従魔に当たったが、戸田の傷は塞がる。
「自分がダメージを受けてでも仲間を完治。健気なことだ」
 クリスが眉をしかめる。
「これは多少の持久戦は覚悟しねえとな」
「いや」
 龍哉の言葉にカゲリは短く言った。

●爆撃犯に迫れ
 ユキが操舵室に行くと船長と沙耶がなにやら話し合っていた。
「失礼します。タカネです。状況は?」
「今のところ他の船舶も来ていないし、問題ないわ。まあ、今の状況が問題ないかは微妙だけど。ところで、あのヴィラン、戸田と言ったかしら。逮捕されたのよね」
「ええ。HOPEのエージェントたちが拘束し、逮捕に至りました 。ご覧の通り、脱走しましたが」
「手引きしたのが愚神って可能性が高いんじゃないかしら。従魔も出てきたし」
「私もそう思います」
「しかし、愚神が絡むとなると面倒だわぁ」
「実に同感です」
 その手引き者が戸田をそそのかしてユキを襲わせたのだろう。どういう思惑かは知らないが迷惑至極である。
「私達以外の船員には、身分証の提示とクルーのリストを照合したうえで1ヶ所に纏まって貰い、安全が確保できるまで護衛をしようと思ったのだけれど……」
 沙耶は船長を始めとする船員達を見回した。
「歓迎されてないみたい」
「いえ、その」
「榊さんは何も言わなかったようですね」
 ユキはIDを見せた。”ロンドン警視庁 ジェンナ・ユキ・タカネ”
「ご協力を 。あなた方の安全の為です」
「わかりました」
 船長がリストを沙耶に渡す。
「国家権力って怖いわぁ」

「どこから行く?」
 飛影の問いに侠が「機関室」と即答した。レターは黙ってうなずく。
「船が止まったことを考えると爆破場所の可能性が高い」
「あの流派の理念、『弱さを知る』と聞いて何を思った?」
 あの理念、というの は戸田が学んだ剣術の流派のそれである。もっとも、本人はその理念を鼻で笑っていたが。
「弱さ、ってよくわかんない言葉だなあ。弱点、かなあ。相手のでも、自分のでも」
「フン、同じ事を考えたか。弱さも強さも、解釈の余地がある言葉だな。正義や愛と似て、時と場合により異なる意味合いで主観的に使われる。弱点といったほうが少しは客観性がある。弱さを知れば相対的に強さが見えてくるから、強さを求めた戸田が弱さに着目した流派にたどり着いたのは、おそらく正解なのだが……はたして、本人はそういう見方をしていないのか。だから世話が焼けるというのだ」
弱さを知れば強さが見えるが、強さを求めれば弱さから目を逸らす、ということか。
『こちら榊原』
 沙耶から連絡が入る。
「どうした」
『パニッシュメントも使ったけれど全員シロ』
「了解」
「着いたよ。機関室」
 3人は足を止めた。侠と飛影はリンクする。レターは銃を構えた。ゆっくりドアノブに手をかける。ぱっと開ける。すぐにわかる異常はない。中は薄暗いがライトアイを使うこともない。
「焦げ臭いな」
「いきなりビンゴみたい」
「黒幕がうろうろしていなければいいが。この狭い中で長柄武器を振り回したくない」
 海月屋は武器は大きければカッコいいと考えているからたちが悪い。
「狭い場所で大きい武器というのも、隙間が狭くなるので悪くはないのだが……並の相手ならな」
 室内を回りながら言う。
「インレット。爆破跡だ」
 侠が爆破跡を示す。レターが来てスマートフォンで写真を撮った。後で改めて捜査するが、取り急ぎ。
「本当に必要最低限の爆破だったようだな」
『どうしてこの船を沈没させなかったのかしら。そうすれば私達、もっと不利だったわ』
 無線から沙耶が言う。
『不思議なことはまだ。最初の事件で拘束 された 時、逃亡させなかったのか。あの時は誰も協力者の存在を知らない。簡単にできたはず。もっと言えば』
 ユキが言う。
『なぜ最初の事件であの従魔を召喚しなかったのか?』
 沙耶が言葉を引き継ぐ。
『その事件と今との違いを考えればいいじゃない』
 沙羅が言う。
「手下の有無」
 侠が即答する。
『つまり今回は手下がいないから代わりに従魔で補った?』
『力を拮抗させてどうするの? そりゃ、スポーツ観戦なら同じ実力の方が見てて楽しいけど』
 沙羅の言葉に沙耶が言う。
『それ、多分正解よねぇ』
「つまり黒幕は」
 侠が引き継いだ。

 どこかでこの戦いを見て楽しんでいる。

●決着
「戦いが一番見えるのは操舵室。でもここにはいないわ」
「海の上にもいない」
「狙撃手がいるところも除外だ」
「後は」
『操舵室の上』
 侠とレターが操舵室の上へと走る。沙耶たちは乗員保護の為、操舵室にて待機している。
「思ったより早くかったな」
 果たして奴はそこにいた。ローブのようなものを頭から被り、こちらに背を向けているため風貌はわからない。声は男性のそれだ。柔らかく深い声。風でローブが翻り、腕に刻まれたタトゥーが一瞬見える。
「楽しんでいるようでなによりだ。ついでにパーティにも参加しないか? 料理がうまいぞ」
 バンカーメイスを油断なく構えながら侠が言う。相手は遠距離で爆破ができる。下手に攻撃すれば船が危ない。
「せっかくのお誘いだが、時間だ。最後まで見たかったのに残念だ。伊吹に伝えておいてくれ。『Good Bye my Mr.Toy』」
 さよなら。私の玩具さん。
 ローブがくたりと沈む。レターが駆け寄った時にはすでにそこにはローブしかなかった。
「愚神は消えた」
『深追いは禁物よ。それでいいと思う』
 侠は海を見つめた。戦いも佳境に入ったようだ。
「玩具、か」

「単なる回復じゃなさそうだ」
 カゲリが静かに言う。
「あの汗。尋常の量じゃない」
 確かに戸田の顔からは汗が滴り落ちている。傷は回復するものの、その分ライヴスは消耗するのか。或いは。
「なんにしろ」
 龍哉は獅子王を構え直した。
「そろそろ決着をつけてえな」
「同感だ」
 返事をしたのは謡ではなく戸田。
(あいつも察しているのか)
 海上にいる全員が武器を構え直したその時。
「南東より一般船舶確認」
 客船放送が響いた。沙耶の声だ。一斉に南東へと視線が降り注ぐ。確かに小型の船がこちらへと近づいている。
「こんな時に交通規制無視か」
 謡がエージェントたちの思いを代弁する。放送 で沙耶と沙羅が何度も引き返すように促すが、本気にしていないらしく指示に従う気配はない。
「何で言うこと聞かないのよ! お馬鹿!」
 沙耶が叫ぶが船は平然と進んでいく。戸田にとっては絶好の人質だ。船へと走る。一番近くにいた謡が立ちふさがった。童子切同士がぶつかり合う。その間にカゲリと龍哉が一般船と戸田の間に入る。戸田の目的はユキだ。人質を取られたらユキは立場上、戸田に従う。戸田は刀から手を離した。一瞬だけ、刀に目を奪われる。その一瞬をついて戸田は両手を向かい合わせた。
「!」
 相手を一瞬だけ怯ませる技。猫騙。刀を拾い謡の脇をすり抜け船へと走る。龍哉に縫止を放って足止めし、カゲリ放つカードを素手で叩き落とす。血がほとばしった。
「I'm here, son of a bitch!」
 俺はここにいるぜ。クソ野郎。
 クリスのつぶやきとともにフラッシュバンが戸田の目を灼く。ノーマークだっただけにこれはモロにヒットした。だが、そのまま船へと走っていく。回復を考慮の外における故の行動だ。
「従魔に頼りきりだな。他に力を頼れば刀に迷いが出る。キミは未熟だな」
 皮肉なことに謡のその言葉で戸田に迷いが生じた。船が去っていく。視力が回復した時には目の前に謡。ストレートブロウをまともに食らい吹っ飛ぶ。
「アハッ、ボクのアタックでクラクラしちゃった?」
「クソっ」
「仕掛ける。合わせてくれっ」
 謡が再び大きく踏み込む。戸田に疲労が見えた。仕掛けるのは今。童子切が風怒濤を帯びる。 狙いは手首や指先。最初に足元を狙った事が効いているのだろう。下段からの
攻撃を警戒するあまり、謡が本来狙っている場所が疎かになる。
「ぐっ」
 手の甲から血がほとばしる。刀を逆の手に持ち替え後退する。
「こんなにアプローチしてるのにつれないんだね。でもボクはそんな事じゃ諦めないよ」
 更に追いすがる。手の甲が回復しかけたところでカゲリによる書の刃が再び戸田を襲った。刀を構え直す間もなく、 謡によって2本目の童子切がついに戸田の手を離れた。
それを龍哉が叩き斬る。戸田は三本目の刀を抜いた。間髪入れず龍哉は戸田へとジャンプする。既に従魔によって戸田の傷は塞がっていた。謡は従魔に視線を送る。
「こっちが先、だな。全力で行くぞ」
「ボク達の手が必要なら声を掛けて。いつでもどこでも駆けつけるのが紳士だからね」
「おう!」
 切り結びながら返事をする龍哉。従魔が悲鳴をあげた。クリスの銃撃が初めて従魔に傷をつけたのだ。謡は従魔へと刀を一閃させる。狙いは唯一の傷。従魔が再び悲鳴を上げた。そこに次々と弾丸を打ち込むクリス。
「回復が遅れだしたな」
 カゲリが呟く。カゲリがつけた戸田の傷は塞がっていない。
「もう諦めろ。お前の負けだ」
  まるでその言葉を待っていたかのようにクリスの弾丸がついに従魔を貫いた。ダメ出して謡が従魔を真っ二つにする。従魔は悲鳴も上げずに霧散した。戸田の闘志は衰えない。刀を構え直し、龍哉へと走る。龍哉も走った。2つの刀が交わる。砕け散ったのは―童子切。それでも龍哉へ走る。だが。
「赤嶺!」
 謡の一撃で戸田の体が吹っ飛んだ。体勢を整える暇もなく龍哉の黒潮から伸びたワイヤーが戸田にからみ付いた。同時にその首筋にカゲリが無形の影刃<<レプリカ>>を当てる。
「流派の理念を鼻で笑うような奴が本当の意味で修められるほど奥義ってのは軽くねぇ」
 龍哉の言葉に戸田は無言だ。今の戸田に言っても耳に入らないのかもしれない。
「ヨウちゃん、剣の達人みたいなことを言ってたけど、昔やってたの?」
「ん? あれか。本で読んだだけだ」
 謡は平然と答えた。戸田は龍哉に連れられて客船入りした。
「どこまでも世話の焼ける」
 侠が戸田にケアレイをかけつつ呆れた声を出した。
「さて。今度は確実に逃げられないようにしねぇとなぁ? 脱獄の罪は重いぞ」
 手当てが終わるとクリスは戸田の足に手をかける。
「ひえぇ!? クリスさんグキって言いましたよぉ!?」
「このぐらい当然だ」
「おー見事な脱臼。うまいなー」
 レターが感心した声を出す。
「あ、そうだ。戸田。参加するか? パーティ」
「姐さん、世話焼く気満々でしょ」

●宴再開
「ごめんね。ヨウちゃんが思い込んじゃって」
 侠と沙耶から黒幕について聞かされた後(戸田は始終無言だった)、宴が再開された。
「いいっていいって。こっちが悪かったんだし」
 レターはが笑い飛ばす。
「いや、でも」
「じゃあ」
 にこっと笑って手を差し出す。
「これでチャラにしましょ。Shall we dance?」

「その、悪かったな」
「いえ、こちらに不備がありましたから。今は料理を楽しみましょう。このフライ、絶品ですよ」
「ああそうみたいだな」
 山盛りあったフライはいつの間にか1つしかない。食べつくされる前にフォークを伸ばした。

「あら、今日はよく食べるのね」
 沙羅は答えずコンポートを口に運ぶ。瑞々しい香りが口いっぱいに広がって目を細めた。沙耶がそんな沙羅をにこにこ笑って見ている。

「姐さん。それ全部食べるの? 山盛りだけど」
「戸田分も入っているに決まっているだろう」
「俺の分は?」
「自分で取りに行け」

「行くぞ。目的は達成した」
「えー! まだあれを食べてないのですぅ!」
 クリスの言葉にシャロが言う。視線の先では「なかなかじゃない」とナラカが満足げにレアケーキを堪能している。カゲリも隣でローストビーフを口に運ぶ。
「わかったわかった」
「クリスさん最高ですう!」

「朽名さんはお元気ですの?」
 一曲終えたレターにヴァルトラウテが尋ねる。朽名はユキとレターの友人で戸田の師だ。前の戸田の事件で面識がある。
「元気、元気。しかも強い強い」
「一度手合わせ願いたいな」
「もしかしたら機会があるかもね」
 龍哉の言葉にレターが言う。

 救護船が来るまで宴は続く。

●エピローグ
 ロンドン郊外、カンタベリー。男性がアパレル店へと入る。
「ディブ。遅刻」
「すみません。店長」
 奥に鞄を置き、腕まくりをして店へ戻る。その腕にはタトゥーが。
「またスポーツ観戦?」
「ええ。つい夢中になって時間を忘れてました。すみません」
 柔らかく深い声でディブは答えた。その目には狂気が宿っていたが、店長は気づかなかった。

 ロンドン警視庁。
「戸田が倒れた?」
 ユキはレターの顔を見た。
「だってパーティじゃ普通に」
「それがあの従魔の本当の怖さみたいね。治療が早くて命に別状ないけど」
 戸田に情の余地はない。だが。
「……レタ」
(何がMr.Toyだ)
「本腰入れようか」
 見くびるなよ。愚神。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
  • 指導教官
    Chris McLainaa3881

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • エージェント
    霧島 侠aa0782
    機械|18才|女性|防御
  • エージェント
    飛影aa0782hero001
    英雄|16才|男性|バト
  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
    機械|27才|?|生命
  • 今、流行のアイドル
    小鳥遊・沙羅aa1188hero001
    英雄|15才|女性|バト
  • 指導教官
    Chris McLainaa3881
    人間|17才|男性|生命
  • チョコラ完全攻略!
    シャロaa3881hero001
    英雄|11才|女性|ジャ
  • Gate Keeper
    赤嶺 謡aa4187
    獣人|24才|?|命中
  • Gate Keeper
    ジャスリンaa4187hero001
    英雄|23才|?|ドレ
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