本部

【神月】連動シナリオ

【神月】次元崩壊跡地を調査せよ!

時鳥

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/09/07 19:33

掲示板

オープニング

●跡地は 
 灼熱の砂漠の真ん中、クレーターと化した遺跡群の残骸。アル=イスカンダリーヤ遺跡群。
 『赤き月の伝承』が再現された夜、現れた異界への門がセラエノの手によって崩壊を起こし、黒い半球形と化したそれは辺りを呑み込んだ。
 今はサラサラと砂が流れ、まるで何も初めからなかったかのような雰囲気を湛えている。
 次元崩壊の跡地、あの黒い半球形の痕跡など一つも見当たらない。見渡す限りでは。

 その砂漠に八人の人影が立つ。全員がロングスカートにエプロンというヴィクトリアンメイド服を着用している。
「さあ、始めますわよ。我らがリヴィア様の為に」
 リーダーと思しき女性が胸を張り砂漠を見下ろす。張られた胸はストンッ、と垂直、所謂まな板、というやつだ。
 彼女達はリヴィア・ナイの命により、この地の全てを徹底的に調べる為に訪れた。
 次元崩壊を起こした後に何が残るか、どのような変化が起こるのか、それはセラエノにとっても興味深いことだった。
 『真理の解明』に近づく何かを見つけることが出来るかもしれない。
 その重要な任を受けられた幸運を彼女達はただ喜び、完遂する決意を胸に炎天下の中、作業を始めた。

●コラードとグーリル
 H.O.P.E.アレクサンドリア支部で特殊金属「フリギア」の開発に携わっていたコラードだったが、今回の次元崩壊を受け、すぐに跡地の調査行う必要性を訴えた。
 だが、セラエノに属していた彼の言葉にH.O.P.E.は渋りを見せる。
 もちろんH.O.P.E.も跡地の調査をする予定は立てていた。しかし騒動直後は皆後処理に忙しく人員を割くのも容易ではない。次元崩壊時にエージェント達が観測していたデータの解析も行わなければならない。
 今すぐに、となると手の空いている者に声を掛け、少人数で向かう他ない。
「セラエノもすぐに跡地の調査を始めるでしょう。もし何か次元崩壊に関わる手掛かりが跡地に残っていたなら、セラエノは迷わず持ち去るはずです。ですから……」
 そういうコラードの言葉も逆に困難さを極める要因になっていた。セラエノが関わってくるとなると、もしものことを考え一般人の研究者を連れていくわけにもいかない。
「ワタシ達が研究者として参りましょう、坊や」
 コラードの隣に座っていた銀色の長い髪をした16歳くらいの少女が口を開く。コラードの英雄グーリルだった。
「しかし……」
「ワタシ達がセラエノと未だ繋がりを持ちこれを機会に情報を手渡す、その可能性を懸念しているのですね」
 言い淀むH.O.P.E.の職員にグーリルは感情の篭らない声で指摘する。沈黙が訪れる。
「ですが、セラエノが求めそうな手掛かりを発見しやすい、という利点もありますし、何より世界蝕や亜空間の研究には長年携わってきているのです」
 監視をつけてもらって構わない。こうやってごたごたとしている間に、セラエノが全ての手掛かりを持ち去るだろう、とグーリルは続ける。
「……分りました。手の空いているエージェントは居ないか、募集を掛けるようにします」
「早急にお願いします」
 H.O.P.E.職員が調査隊の手配を請け負い部屋を出ていく。
「グーリル……ありがとう」
「……坊やは約束を守り一人でセラエノを抜けました。ですからワタシも約束通り坊やに力を貸すだけです。それに……」
 隣のコラードへとグーリルはその蒼い瞳を向ける。
「もし承諾を得られなければ一人で向かっていたでしょう? セラエノの方達と蜂合わせでもしたらどうするつもりだったのですか?」
「……まぁ、まだ脱退がばれていなければ適当に誤魔化すことも出来るよ。それにH.O.P.E.とセラエノは今、一応一時停戦をしてるだろう? だから、言い訳には事欠かないさ」
 苦々しい笑みを零しながらも問いかけに答えるコラード。それに対しグーリルはため息を逃がした。
 短剣を二本引き抜き次元崩壊を起こしたセラエノに対し、まだ停戦協定が有効かどうかは分からない。上層部は後処理の会議や諸所今は混沌としていて協定を破棄するかどうか、そこまで手が回っていないのだろう。
 ただセラエノから協定を破棄する、という宣言がないのもまた事実だった。

●調査をするにあたって
「今回は次元崩壊跡地の調査です。次元崩壊を起こした後に何が残るか、どのような変化が起こるのか、を調べに行きます」
 グーリルが募集に集まったエージェント達に今回の依頼の内容を説明している。
「本来であれば専門家を集め行うのですが、セラエノが同じ目的で跡地に向かっている恐れがある為、エージェントの皆様にご協力をお願いしました」
 セラエノとの一時停戦に触れ、必ずしも戦う必要性はないものの、可能性は頭の隅に残しておいて欲しい、とグーリルは言う。
「すみません、またご一緒してもらうことになって」
「せっかくのご縁ですし! わたし、調査とかできないから、護衛、頑張りますね!」
 グーリルが説明を行っている最中、コラードは再会したタオ・レーレ (az0020)に声を掛ける。するとタオは笑顔で拳をシュッと唸らせながら答えた。
「また、調査の仕方についてですが……」
 最初の世界蝕の折、オーパーツに影響があったことを考え、ライヴスの流れや磁場の変化、機器が必要な観測を行う旨、他、クレーターの砂の中にもしかしたら何かの残骸が残っている可能性も示唆する。
 門の向こうに見えた異世界から何かこの世界への遺留物も、もしかしたらあるのかもしれない。
「出発の前に必要なもの、並びに調査内容の要望があればおっしゃってください」
 淡々と全員に向かい必要事項でグーリルは話を終えた。
 出発まで大した時間はないが、出来うる限り手配できるものはする予定だった。

解説

●目的
 次元崩壊跡地の調査、もしくは調査班の護衛

●跡地について
 クレーターと化している。クレーターは大きく、埋まる気配はない。
 見渡した限りでは目につくものが無い。

●セラエノメイド部隊
 リヴィア・ナイを崇拝する共鳴済みの8人の部隊です。全員メイド服を着ています。全員女性で胸のサイズはB以下。
 跡地の調査を行っていますが、エージェント側が邪魔をする、と判断されれば戦闘となります。交渉は主にリーダーのメアリーが行います。
 戦闘を目的としている部隊ではありませんが、訓練はしっかりとされており、見た目で油断していると痛い目をみます。
 【構成】
 ・メアリー……リーダーと思われし女性。まな板もとい胸のサイズはAA。金髪のボブ。身長も胸も八人の中では一番小さい。ソフィスビショップ。範囲魔法攻撃を主に使用。使用武器は本。
 ・ソフィスビショップ×1……メアリーと同じく範囲魔法攻撃を主に使用。使用武器は本。
 ・バトルメディック×2……使用武器は一人が盾、一人が杖。一人が前衛に立ち盾になり、もう一人が回復を担当。
 ・ジャックポット×2……使用武器は一人が二丁拳銃。一人がロケット砲。後方から連射してくる。
 ・シャドウルーカー×2……敵の動きを封じるように動く。

●NPCについて
 コラードとグーリル、タオと会話をすることは可能です。
 コラードとグーリルがセラエノに所属していたことは事前に伝えられます。(監視の意味を含めている為)
 現場ではコラード達は機器の必要な観測を主に担当します。
 セラエノと戦闘の際はコラードが低レベルの為、足手まといになります。タオは何も指示がなければコラードを護衛する形で対応します。

リプレイ


「救出メンバーが異世界で俺達を見つけたのは敵との接触後だから、色々調べられるのは仕方ないけどそろそろ一段落したよな」
 研究施設にて様々な検査を受けていたGーYA(aa2289)は自身の英雄、まほらま(aa2289hero001)に話しかける。
 ジーヤ(GーYA)はもう一度門があったあの場所へ向かう気でいた。
「一人で門へ行く気ね? あれだけ心配と迷惑かけたのに」
「まほらま……やっぱとめるか?」
「ジーヤが魂で感じ行動するならとめないわ、とりあえずあの研究員やっちゃいましょ!」
「わ、ちょ、待て! まほらま!?」
 唐突に駆け出すまほらまを慌てジーヤが止めようとする。そんな二人に前方の研究員が気がついた。異界へ侵入した者達の検査にも関わっている研究員だ。二人の顔をよく知っていた。
「あぁ、ちょうど良かった」
 研究員が二人に声をかけてくる。実は、と、門の跡地、次元崩壊後のその地へ調査へ向かう依頼があるのだという。
 次元崩壊が起こって以来、あの地へはまだ誰も踏み込んでいない。
 救出されてから初めてジーヤもあの場所へ戻る絶好のチャンスだった。
(誰がこの機会を逃すかよ!)
 と、ジーヤは強く思う。異界の影響が色濃く残る今だからこそ自分の目で確かめたいのだ。場に残る異世界の残滓、遺物に触れた時どうなるかを。
 そうして着々と跡地の調査依頼を請け負うエージェント達が集まっていった。
 佐藤 鷹輔(aa4173)は煙草に火を点ける。随分と前、大英図書館で行った調査を彼は思い出していた。
(宣誓の書に描かれていた挿絵。亀裂からこちらを覗く瞳。あの絵が示唆していたものこそ、エレン・シュキガルだったのか)
 何か得体のしれない生き物がこちらを見ている、と思われる挿絵を脳裏に浮かべた。その生き物こそがあの予知されたレガトゥス級の愚神なのではないか、と。
「その真実に辿り着く術はねえが、だからこそ面白い。探究心は人間の原動力だ」
 ふっ、と煙を吐き出し口端を釣り上げる。彼の推測はあながち間違いではないだろう。そんな鷹輔の隣には、ただただ黙って語り屋(aa4173hero001)が立っていた。

 事前の打ち合わせでは、ほぼ全員がセラエノと交渉し争いの回避を望んでいた。
「ま、調査については正直興味がないからその辺は任せるよ。ボク個人としちゃ、自身を維持出来るだけの金のほうが大事なのさ。曖昧に過ぎる正義や、予測不能な未来よりかよっぽどね」
 と、一人、Arcard Flawless(aa1024)だけはセラエノや調査に興味なさそうにしていた。「がぅ?」と彼女の隣でIria Hunter(aa1024hero001)が首を傾げる。アイリア(Iria)は一般的な言語をしゃべることは出来ない。それでもジェスチャーなどで意思疎通を図ることは可能だ。難しい皆の話は彼女には理解しづらいのだろう。
 そしてアークェイド(Arcard)は傭兵だ。今回は基本的に『護衛担当の傭兵』という立ち位置で依頼に参加している。特にカグヤ・アトラクア(aa0535)と構築の魔女(aa0281hero001)を優先的に護衛する予定だった。


 アル=イスカンダリーヤ遺跡群、現地。太陽が燦々と降り注いでいる。この跡地に先に踏み入れていたのはセラエノの方だった。眼前のクレーターには機器を設置している八つの人影が見える。
「楽しい楽しい調査の時間じゃ。情報を技術に昇華させる手伝いをするかの」
「狙いはそれだけじゃないとバレバレだよね。まあいつものことか」
 セラエノの影を認めるとカグヤは楽しそうに笑う。隣に立ったクー・ナンナ(aa0535hero001)がやる気のなさそうな半目でカグヤを見遣った。
「ここが門のあった場所なのか?」
「実際にみると壮絶ねぇ」
 と、ジーヤとまほらまが初めて見る次元崩壊の衝撃に晒された跡地の感想を零す。
「……メイド服暑くないんでしょうか?」
「ローブまで羽織ってる蕾菜には言われたくないでしょうね」
「それなりには涼しいんですよ? これ」
 遠くに見えるメイド達の服装を見て零月 蕾菜(aa0058)が口にした疑問に、十三月 風架(aa0058hero001)が彼女の服装をじっと見る。蕾菜は黒いローブの端を持ち小さく笑った。
「萌え、などというものに媚びていない、古式ゆかしいヴィクトリアンメイド。実にわかっておいでだ」
「何だよ、今日は饒舌だな。気持ちはわからんでもないが」
 普段は黙って立っている語り屋が珍しく口を開く。鷹輔がやや驚いたように語り屋を見やるもすぐ納得したように軽く頷いた。
(メイドはHOPE内でも度々見掛けるが、部隊として組織されていると壮観だな。そして美人揃い、眼福だ)
 と、鷹輔はメイド達の姿を見つめながら心の中で付け足した。
「セラエノか……ま、誰が居ようと俺達のやることは変わらん」
「うほほーい♪ メイドさーんじゃ~♪ おねーちゃんと同じ格好じゃ~♪」
 防人 正護(aa2336)も人影を認め、古賀 菖蒲(旧姓:サキモリ(aa2336hero001)がすぐに駆け寄って行こうとするのを腕を掴んで止める。
 そんなやり取りを繰り広げていれば向こうもこちらに気がついたようだ。炎天下の中、砂漠に沈黙が訪れる。
 空気がピリピリと張り詰めた。
 警護を担当している共鳴したアークェイドとタオが先頭で構える。ジーヤもその緊迫した空気を感じ取り素早くまほらまと共鳴した。
 だが、どちらも動く気配は、ない。
 向こうもすぐに戦う意思はないのだろうか。
 最初に足を踏み出したのはカグヤだった。警戒を解いていないアークェイドが接近戦用バンカーをすぐにでも叩き込めるようにしつつその後ろに続く。
「奇遇じゃな、停戦中のセラエノの諸君。共に真理を知る為に協力して調査せぬか?」
 にこやかに八人の影に近づきながら声を掛けるカグヤ。もちろん彼女もクーとの共鳴は済ませていた。何が起きても、いいように。
 近づいてくるカグヤにセラエノのバトルメディックが一人は盾を構え、それぞれがすぐにでも攻撃を開始できるように構えている。後方からメアリーが全員を制するように片手を上げ、前へと出てきた。
「貴女達は……H.O.P.E.の方達ですわね」
 ざっと居並ぶH.O.P.E.の面々を鋭い視線で見渡しながらメアリーが口を開く。その中にコラードの姿を認め怪訝そうに眉を跳ね上げた。
「とりあえずこちらには戦う意思はありません。一応聞きますがリヴィアさんから私たちが来た時の対応をどうするかは聞いていますか?」
 今度は蕾菜が口を開く。先方が警戒しているのがよく伝わってきていた。
「まぁ簡単に言えば両方の上の人間が停戦解除といってないなら調査に戦闘は必要ない、というか戦って勝ったとして味方に被害が出た状況でどこまでまともに調査できるかって話です」
 風架が蕾菜の言葉を隣から補足する。
「リヴィア様からは此所の調査を仰せつかっているのみでございます。そしてこの場での行動すべての責任においてワタクシ、メアリーが一任されております」
 つまり、この場でのH.O.P.E.への対応はメアリーが判断する、ということだろう。
「リヴィアさんとはお茶しながら異世界談義した仲だよ、聞いてない?」
 共鳴を解除したジーヤが真実を含めたハッタリを口にする。リヴィアは詳しい話をメアリーにしていないだろう、と推察し、更にはメアリーの言動からリヴィアを崇拝しているのが見て取れた為、リヴィアと親しいふりをした。
 しかし、その一言で前方から殺気がぶわっと巻き起こる。
「リヴィア様とお茶などとはまた戯れ言を。しかし、そのような嘘を口になさった以上、覚悟をなさった方がよろしいですわよ」
 ふんっと鼻で笑いながらも手にした魔法書を開く。ハッタリが逆に彼女達の逆鱗に触れてしまったようだ。
「待ってください」
 そこに辺是 落児(aa0281)と共鳴をしている構築の魔女が横から口を挟む。アークェイドがすぐに庇えるように彼女のすぐ近くで構えている。
「私たちは『何』を調べるべきかもわかっていません。現状を乱す行為は極力さけるべきだと思いますがどうでしょう?」
 戦闘行為の次元崩壊跡地への影響が不明な為、ここで戦うのはどうか、というのが構築の魔女の意見だった。調査機材にも影響を与える可能性や、今まだ協定の行方も定まっていない旨もゆっくりと伝える。
 その合間に桜木 黒絵(aa0722)と共鳴したシウ ベルアート(aa0722hero001)がジーヤとまほらまの腕を引きセラエノ達から遠ざける。メアリーの視界から外れさせることで怒りを静めようとした。
 構築の魔女の説得にメアリーはすっ、と本を閉じる。
「確かに……攻撃でライヴスの流れに乱れが生じれば何かしらの影響を与える可能性はございます。最初に協力して調査、等と申しておりましたが、それが果たしてワタクシ達の益になると証明できるのですか?」
 メアリーが最初に声をかけてきたカグヤを一瞥し、それから構築の魔女、他のエージェント達へと視線を動かしていく。そこでシウが小さな機器を一つ、取り出した。
「これは異世界へ行った時に得られた情報が詰まっているんだ」
 シウの手にしている機器にはジーヤ救出の際、『異世界探査用の小さな金属ボール型端末』で得られた情報だ。停戦を受け入れてくれるのであれば、これをセラエノに渡しても構わない、とシウは続ける。
「あの門の中に貴方達は入りましたのね」
 興味深げにシウを見つめ、救出された、と言われるジーヤへと視線を滑らすメアリー。
「また、この跡地での取得物は折半するのはどうでしょうか? この時間すら貴重なものかもしれません。調査場所の取り合いも不毛かと。不利益の少ない形で一時的に妥協しませんか?」
 そこに構築の魔女が調査取得物に関する妥協案を提示する。奇数の場合などは保有ライヴス量などで折半を、との一言も付け加える。
「観測データは共有し、必要であればそちらをこちら側も手伝う……というのはどうだ?」
 更に正護も交渉に加わる。メアリーは代わる代わる提示される内容に口元を抑え考え込んでいた。
「……仰るとおり、貴重な時間を潰しておりますわね。いいでしょう。その条件であればワタクシも文句はございませんわ。ですが一つ……」
 言葉を切り、怪訝そうにコラードの方を見遣る。何故、彼がそこにいるのか、問いたげな視線だった。
 そこでシウは共鳴を解き、黒絵をメアリーの前に押し出す。
「彼はH.O.P.E.に協力しているんだ。でも、それで不安ならこちらも人質を差し出すよ」
 黒絵が不安そうな顔をしているが、口を閉じたまま文句は言わない。事前にシウと話し合っていたからだ。
「女の子を人質に捧げるなんて何を考えてるの!? 信じられない!」
「セラエノは何もしないよ。それに黒絵は人質でもあり、スパイでもある。僕の策を信じてくれ」
 と、いうやりとりの元、黒絵はシウを信じることにしたのだ。
 メアリーがじっと黒絵を見つめる。
「まぁ、彼は一時停戦の件を利用してどこかの誰かが紛れ込ませた、といったところでしょうね。別に構いませんわ。先の条件で問題はありませんし、調査の邪魔をしないのであれば好きになさってください」
 つまり、人質は特に不要、とメアリーは見なしたようだ。気になるのであれば人質という名目で傍にいても構わない、と言う。
「あぁ、待ってくれ。調査結果は持ち帰った後に出るだろう? それなら連絡先を交換しておくことが必要じゃないか?」
 黙って見守っていた鷹輔が口を開く。
「いえ、必要ありませんわ。そこの彼に送ればよろしいでしょう?」
 メアリーは首を横に振ったのち視線でコラードを示し、鷹輔の申し出を断った。
「そろそろ調査を始めませんこと?」
 そう言ってメアリーは後方へ振り返り、メイド達に指示をし始めた。エージェント達も顔を見合わせそれぞれの調査へと向かうことにする。その中で一人、正護がメアリーの横に並んだ。そして、グロリア特製の饅頭やジャムの詰め合わせセットのお中元を手渡す。
「調査をするにあたって……挨拶代わりだ」
「まぁ! 気が利きますわね」
 受け取ると素直に喜んだ様子を見せるメアリー。尽くされた礼儀に礼儀で返すように「ありがとうございます」と深く礼をするところはメイドらしいと言える。正護はそのまま調査のすり合わせなどにも言及し、協力体制を整えていった。


 ライヴスゴーグルをつけうろうろとクレーターの上を歩く蕾菜。同じようにジーヤも辺りを見回しながらおかしなところ、また自身がこの場所に何か感じないか、と注意しながら調査をしている。
 構築の魔女はまず、機器を使いライヴス濃度と種類を検査していく。
「現状、影響が強そうなのは次元崩壊面に接触していた表面部分でしょうか……?」
 と、零しながら特に次元崩壊に面し接触していた表部分を重点的に観測することにした。すると僅かではあるがライヴスの流れが違うことが分かる。この世界とは異なるライヴス、つまり異世界から流れ込んできたライヴスが発生しているのだろう。なるべく詳細に記録付けをしていく。
 一方、正護は構築の魔女と同じくライヴスの測定を行っていた。特に土壌に残留したライヴスの計測をするためにいくつかのサンプルを採取。計測器に入れて濃度や時間経過などを計測し、クレーター内外で比較をする。するとクレーター内と外ではライヴス濃度、一部種類が違うことが分かり、異世界からライヴスの流入があったことを更に裏付けていた。
 ここで一人、カグヤが測定を行っているメアリーの元へ足を向ける。測定したいことはグーリルへと事前に通達してある。集められたデータの分析は後程行うつもりだった。それよりもセラエノとの積極的な交友が一番の目的だ。
 カグヤは知識と技術を持つセラエノを自分のものにしたい、と企んでいたからだ。
 そんなカグヤに一応アークェイドがすぐに守れる距離をとってついてきている。何かあればすぐに護衛として動けるようにしていた。ちなみにアークェイドはメイド達に興味がない。
(ボク女の子は大好きなんだけどねえ……ここのメイドさん方、どいつもこいつもボクの好みじゃないわァ。最低限"ある"と思わせてもくれないんじゃ、さすがに何の魅力も見出せないよ)
 メイド達の存在感の無い胸元に視線を向けながら密かにアークェイドはそんなことを思っていた。口にしていれば先程の交渉関係なくセラエノは襲いかかってくるだろう。だが、その真意は決して小さい胸の話ではなく内側、彼女達の心の話だった。
「メアリー、調査は順調かのう? お近づきの印にこんなものを持ってきたのじゃ」
 そう言ってカグヤはメアリーの手にリヴィアのかっこいい戦闘時の隠し撮り写真を握らせた。リヴィアとの戦闘時に義眼による隠しカメラで映像を記録。データ化と写真化をしていたのだ。
「こ、これは!」
 歓喜の悲鳴に近い声を上げ、写真をがっちり握りしめワナワナとするメアリー。
「お互いリヴィアのファンとして、【個人的に】仲良くしようではないか」
 更にカグヤは個人所有の門稼動時の超接近した調査データと異界映像のデータチップをアークェイドの死角になる位置を確認しながらメアリーへと渡す。はた、とメアリーはカグヤの言わんとするところを理解し写真に隠してそれを受け取りしまい込んだ。
「よろしいですわ。貴女の……ま、まぁ、多少なら仲良くして差し上げますわ」
 メアリーはちらっとカグヤの豊満な胸を一瞥し言葉を濁してから頷く。カグヤはこれが利敵行為ということは理解しているが信頼を得られるのであれば安いモノだと思っている。好感度を上げる、という意味では成功しているだろう。ただし、カグヤの存在感のある胸が多少好感度を下げていた。
 構築の魔女が次に門の中心点からクレーター半径及び砂化範囲の確認に入る。クレーターは官庁舎街、円形闘技上後、目抜き通り手前、塩湖後手前、あたりまで大きな円を描き広がっていた。境界面に遺跡や石などが部分的に切り取られ残留してないかの捜査は、鷹輔が行く、と話していたため、彼に任すことにし、別の調査へ意識を向ける。
「中心部が気になりますが急いで重大なミスに繋がるとよくありませんし段階的に……ひとまず表面は砂化していますが深い部分はどうなのでしょう?」
 持ち込んでいた非破壊性の測定器である超音波方式、レーザー方式、放射線方式の三つを駆使し表面及び、内部の情報を走査した。
「砂漠とはいえもともと石さえないということはないでしょうし……」
 そして走査した情報でクレーターの状況を3Dに落とし込み表面の乱れや内部の異常などを確認する。これで門の中心からの影響範囲も分かるだろう。
「それと、基本的に忠実に砂も採取しておきましょうか」
 ついでにもう一つ、ボーリング調査を同時に行い、各地点の柱状図を取得を試みる。
 走査の結果、砂の中に何かが埋まっているようだ。ボーリング調査の方は一部から断層が変わっており、それを繋ぐと円形になっていることから、次元崩壊の影響範囲が下にも円形に影響していることが分かる。
 着々と構築の魔女が調査を進めている最中、鷹輔は抉り取られた外周部の断面がどうなっているのか、と確認をしに行っていた。崩壊の余波で大半は粉々と予測を立て、可能な限り形を残しているものを探す。官庁舎街、円形闘技上後辺りに痕跡が残留していた。その断面を観測機器で調べる。門から放たれたライヴスがこびり付いているのか、僅かに変化を観測できた。
 その頃、黒絵は一人、せわしなく動き回るセラエノのメイド達を眺めていた。結局人質、のようなものとして彼女達と行動をともにすることになったのだ。
 一通り指示を終えたメアリーが黒絵の隣に立つ。
「貴女も、異世界へ行ったのですか? でしたらお話を聞かせて頂けませんこと?」
 メアリーが黒絵に声をかけた。振り返る黒絵。そうして黒絵はシウの愚痴を交えながらメアリーの質問に答えたり、と会話を重ねていく。黒絵のシウの話を聞きながらメアリーは
「万が一黒絵を殺したらライヴスの制御が崩れ、自分が邪英か愚神になってセラエノを潰す」
 と、真剣な眼差しではっきりと告げた彼女の英雄を思い浮かべていた。誰かを大切に思う気持ちは分からないでもない。
「メイドさーん~♪」
 そこへ突如菖蒲がメアリーに抱きついてくる。正護が目を離した隙に遊びに来たようだ。天然チャームをばらまきながら明るく他のメイドへも抱きつきに行く。その際ナチュラルに胸を揉んだりしていた。
「ちょ、ちょっと! 胸はいけませんわ!」
 メイド達から悲痛な声が上がる。菖蒲は楽しげにメイド達に話しかけていたが、その騒動に正護はすぐに気がついた。そして菖蒲に拳骨が振る。悪意なく単純に仲良くお喋りしたい、という菖蒲の気持ちは正護も分からなくはないものの迷惑なのでそのまま回収していっった。
 無い胸を揉まれたメアリーがずーんと落ち込んでいる。黒絵はそっと彼女の背中を叩いて慰める。メアリーはちらり、と黒絵の胸に視線を送ると、がしっと彼女の肩を掴み。
「貴女は同志ですわっ」
 と、黒絵に向かって言い切った。好感度はうなぎ登りのようだ。
 その頃、ライヴスゴーグルにより、乱れを察知した蕾菜とジーヤ達は砂をかき分けライヴスの乱れを発する何かを掘り続けていた。蕾菜は掘りながらもメイド達の様子をちらちらと観察している。警戒してのことだが、珍騒動もしっかり見ていた。
「このスプーン意外に使えるな」
「見た目は笑えるけどねぇ」
 と、まほらまと会話しながらスプーンで砂をかき分けていくジーヤ。スプーンの先がかちんっ、と何かに当たった。掘り続けると剣の刃が出てくる。ライヴスの流れはこの剣から流れ出ていた。それはジーヤが一度見た異世界で墓標に突き付けられていた武器の一部。
 ジーヤの鼓動が早くなる。手を伸ばして銀色の刃に触れてみた。ざわりと鳥肌が立ち僅かな恐怖を感じる。あの気を失う前に味わった、それと同じような気がした。
 一方、蕾菜もやっと何かを掘り当てる。こちらも刀の刃、であった。しかし、ジーヤが見つけたものと蕾菜が見つけたものを比べて検査すれば分かることだが、二つは多少違うものだった。蕾菜が見つけたのは神無月にライヴスをささげ変質した元カオティックブレイド。
 その二つは構築の魔女が走査した結果にも反映されていた。まだ、中心部に小さい異物が残っている。一帯を吸い込み破裂した経緯から異世界の残留物が中心近くに落ちている、という構築の魔女の考えは当たっていた。異世界の石や砂が僅かに中心部分に交じっており、小さな異物として走査結果に映っていたのだ。
 徐々に日が傾く中、調査は進んでいく。コラードとグーリルは観測や諸処の手助けを行っていた。
 一人、退屈そうにアークェイドは欠伸を噛み殺す。セラエノとの協力関係が維持できている今、彼女がすることはあまりない。かといって途中でメイド達の気が変わらない、とも限らないため、気だけは抜いていないが。それでもやはり退屈ではあった。まぁ、これだけ簡単な任務で金が貰えるのは傭兵としては御の字だろう。
 その頃、正護は温度と湿度をクレーター内外を比較しながら測定していた。両方ともクレーター外より内側の方が僅かに低いことが分かる。酸素濃度も、内側は低かった。これは異世界の方がこの砂漠より低温度低湿度、低酸素濃度だった為の影響だろう。体積図は構築の魔女と情報を総合した。正護はそれらのデータを常に手書きとパソコンに一つ、それとバックアップも作っておく。
「せっかくじゃから、一つくらいは自分でやるかのう」
 そう言って借り出し持ち込んだ生命の樹の短剣、ビナーの封をカグヤは解く。何かの反応がないか、と短剣を手にしたままゆっくりと歩を進める。すると異世界から零れたライヴスに触れたのか鞘、刃、柄、全てに使用された金が赤みを帯び始めた。まるで月が赤く染まるかのように。オーパーツへの影響はやはりあるようだった。
 赤い夕陽が沈み、夜が訪れ黄色い月と星々が顔を出す。正護が空を見上げた。そして天体状況の観測を始める。空は何の異変もなかったかのようにただ静かに歴に合った表情を見せている。
「……門の先……か、俺は科学者じゃねーから分からんが……ま、俺達の世界にとってとても近くで、でも限りなく遠い世界なんだろうな……きっと」
 あの赤い月の下、現れていた門を思い出し正護は小さく呟いた。
 そして、夜の温度や湿度の変化、ライヴスにも変化はないか、と調査を続けていった。


 空が白んだ頃、休息も挟んだ後、一通りの調査が終わった。継続的にデータ観測が必要な機器の設置も終えている。取得できたデータは互いに共有し、発見したものは二分する。同じ、と思われるものが幾つか発見できており、問題はなかった。
「ご協力いただきまして感謝致します」
 丁寧に向き合うエージェント達にメアリーとメイド達が一斉にお辞儀をする。その姿は優雅であった。
「一つ、お願いがあります」
 そこへ構築の魔女が一つの手紙をメアリーへと差し出す。中身はリヴィアへの手紙だった。四季の挨拶とダァトの所在確認、コステロの回復を伺う内容である。停戦中を前提とした知人への手紙だ。
「リヴィア様に、でございますか。畏まりました。リヴィア様が受け取ってくださる保証はございませんが、お受け致しましょう」
 メアリーは大人しく構築の魔女から手紙を受け取る。
「この度は利害の一致により、ご協力致しましたが、次ぎ会う時はきっと……。リヴィア様の御心のままに。ご機嫌よう」
 エージェント達をじっくりと一人一人見回してからくるり、と背を向けるメアリー。一時停戦、というのは多分、ここまで、という含みのある言い方だった。
「あの、ジーヤさん。よろしいですか?」
 メアリーが去り、エージェント達も撤収の準備をしている頃、コラードがジーヤへと声をかける。最初にジーヤが頼んでいた自身のこの場所でのライヴスの変化の件だった。
「特に変化は認められませんでした」
 と、コラードが告げる。何もない、と聞いてジーヤは少しがっかりと肩を落とした。
「この結果は、能力者と英雄は異世界へ突入しても受ける影響が限定的であることを示している、と考えることも出来るんですよ」
 だから調査をすることに意味がなかったわけではないのだ、とジーヤにコラードは自身の考えを口にした。
 こうして無事に調査を終え、エージェント達は帰路につく。全ては一段落したのだ。そして流れは次の運命へと向かっていく。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
  • ハートを君に
    GーYAaa2289

重体一覧

参加者

  • ひとひらの想い
    零月 蕾菜aa0058
    人間|18才|女性|防御
  • 堕落せし者
    十三月 風架aa0058hero001
    英雄|19才|?|ソフィ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • 病院送りにしてやるぜ
    桜木 黒絵aa0722
    人間|18才|女性|攻撃
  • 魂のボケ
    シウ ベルアートaa0722hero001
    英雄|28才|男性|ソフィ
  • 神鳥射落す《狂気》
    Arcard Flawlessaa1024
    機械|22才|女性|防御
  • 赤い瞳のハンター
    Iria Hunteraa1024hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • グロリア社名誉社員
    防人 正護aa2336
    人間|20才|男性|回避
  • 家を護る狐
    古賀 菖蒲(旧姓:サキモリaa2336hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 葛藤をほぐし欠落を埋めて
    佐藤 鷹輔aa4173
    人間|20才|男性|防御
  • 秘めたる思いを映す影
    語り屋aa4173hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
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