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BEAT The REAPER
最終発言2016/08/29 17:34:12 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/08/26 01:53:36
オープニング
●執行官
レガリス・エニアは考える。
罪深い罪人達は自らの罪を認めず、我らの裁きを拒絶した。あまつさえ既に処刑の決まった罪人を奪い取り、その逃亡を手助けした。
「――」
レガリス・エニアは厳かに唱える。
――ギルティ、ギルティ、ギルティ。
審判の時は終わった。これから罪人たちに降りかかるのは処刑。
「――」
レガリス・エニアは罪人に告げる。
罪深き罪人達よ。自らの罪の重さに押しつぶされ、頭を垂れるが良い。差し出されたその首を断罪せん。
我は執行官。
――死刑執行開始。
●スミェールチ
「あれは……」
軍用ジープの上で双眼鏡を覗いていた連合軍の兵士がぽつりと呟く。
「どうした、何か見つけたか!」
その隣で逆方向を確認していた指揮官が兵士に声をかける。
「あれは……レガリス・エニアです! こっちに突っ込んできます!」
宙を飛行し、こちらに高速で迫りつつある従魔の姿を仲間たちに大声で伝える。
「レガリス・エニアだと!? まだ生き残りがいたのか……!」
ケントゥリオ級従魔レガリス・エニア。今回の戦場の至る所に出現し多くの被害を出した恐るべき従魔である。
それがこちらに向かって迫ってきているという。
「撤退だ! 我々では相手にならん! すぐに本部に連絡しろ!」
「は、はい!」
即撤退を決断し、ジープのアクセルを全開に噴かす。
今、この隊にリンカーは存在しない。ミーレス級程度ならまだしもケントゥリオ級など相手にできるはずがなかった。
「だ、駄目です! は、速い!」
しかし、その背後に徐々にレガリス・エニアが距離を詰めていく。
レガリス・エニアは先の戦いで知っている。だが、この個体の速度は今までのそれとは一線を画す速度だった。
「――」
レガリス・エニアが指をさし、魔力をジープに放つ。
魔力は一直線にタイヤを直撃し、ジープはその場での停車を余儀なくされた。
「――」
「な、なんだ、こいつは……?」
鉄のオブジェと化したジープから抜け出してきた兵士たちをレガリス・エニアが見下ろす。
そのレガリス・エニアの姿は異質だった。
黒いローブに身を包み、左手に分厚い本を掲げているのは他のレガリス・エニアと同じだ。
しかし、今まで影を落としていた顔は木製らしき梟を模した仮面で隠され、そして右手には身長を超えるほどの巨大な鎌。
その姿はあまりにも禍々しく、またどこか厳かだった。
「死神(スミェールチ)……」
思わず母国語のロシア語でそう呟く。
「――」
レガリス・エニアが鎌を高く掲げ、そして振り下ろす。
それと同時にレガリス・エニアと部隊の間に大きな壁が突如現れた。
「な、なんだ!」
さらに、左右。部隊を取り囲むように壁が現れ取り囲まれる。
「隊長! か、壁が! 囲まれてる!」
「いや、違う。これは……」
石の壁の向こうから上半身だけを覗かせるレガリス・エニアを見ながら部隊長が呟く。
正面に高く長く、そして左右には対照に若干低く短い壁。
――否、これは壁ではない。机だ。
その光景に彼らは見覚えがあった。
「裁判所……さしずめ我々は被告といったところか……」
意識が薄くなりつつあるのを自覚しながら、通信機のスイッチを付ける。
「本部、気を付けろ。ドロップゾーンを……つか……」
ドロップゾーン内部では基本的に一般人は意識を保つことはできない。
その通信機に一筋の希望を託して、兵士たちは気を失った。
●南部戦線異常あり
「レガリス・エニアの特異個体が西部サガル山地付近に出現! 偵察隊の一つが壊滅!」
通信兵の言葉に現場に緊張感が走った。
「現在状況は!」
「偵察隊を叩いた後、南へ移動。おそらく撤退中の部隊を襲撃するつもりではないかと……」
「いかんな……」
現在南方向へ撤退中の部隊は重度の負傷を負った者たちの輸送を目的とした先行輸送部隊である。
ここをレガリス・エニアに襲われては一たまりもない。
「H.O.P.E.に待機戦力の投入を要請しろ。直ちにだ」
「はい!」
指揮官の言葉に通信兵が答える。今現在H.O.P.E.のエージェント達で無事な者は東側の大量の従魔達の抑えに回っている。
今自由に動かせる戦力はほんの一部だった。
「南側を警戒する部隊に告ぐ、現在レガリス・エニアが輸送部隊を追走中。H.O.P.E.のエージェント達が到着するまでの足止めをしなければならない」
直接回線のマイクを手に取り指揮官が告げる。
「いいか、決して戦おうと思うな。一瞬気を引くだけでいい。すぐにエージェント達が追いつく。頼むぞ!」
そこまで言ってマイクを通信兵に返し、振り返り用意された卓上の地図を睨み付ける様に見る。
命を預かる身として決して間違いの許されぬ戦いだ。地図を指でなぞりながら、必死で作戦を組み立てる。
(頼むぞ、H.O.P.E.……)
祈るように呟く声は彼の心の中で繰り返された。
解説
●敵 ※PL情報
ケントゥリオ級従魔『レガリス・エニア・モルス』一体
近接に特化したと思しきレガリス・エニアの特異個体。
大鎌を持ち速度や物理攻防、生命力が上昇し、よりタフになった。代わりに魔法攻撃力が下がり魔法障壁≪レギ・スクトゥム≫も使わなくなったようである。
その代わり、鎌を遠隔操作するスキル≪レギ・ファルクス≫を持っているようだ
知能:人
戦域:空陸
ステータス: 物攻B 物防C 魔攻D 魔防C 命中B 回避B 移動B 生命B 抵抗C INT C
特殊能力:
《飛行》:空中を移動する能力
《ユディティウム》:指差した対象に雷撃や光線を放つ。
《レギ・グラディウム》:魔法剣を作り攻撃する(魔攻)。
《レギ・ファルクス》:大鎌を遠隔操作し攻撃する(物攻)。
《レグラ・レギス》:単体の対象に[BS封印][BS拘束]を付与する。
●状況 ※PC情報
戦場は砂漠の一帯。
辺りに大きな建物はないが、時たま身を隠せる程度の岩や遺跡の壁などが点在している。
また、連合軍が近くにいるため彼らの助けを借りる事も可能である。
特に指示が無ければ彼らはレガリス・エニアが他地域へと移動しないよう足止め行動に専念する。(上手くいくかどうかは状況次第である)
今現在、連合軍はレガリス・エニアを足止めとまではいかないが多少の減速をさせる事には成功している。
君達はその後ろからジープで接近していく事になる。
●ドロップゾーン ※PL情報
レガリス・エニアは近接戦闘が始まると同時に自身を中心として半径50mほどにドロップゾーンを展開する。
地面は石畳となり『コ』の字に巨大な机が配置され、さながら裁判所のような風景になる。
この内部では《レグラ・レギス》が強化され、範囲攻撃化する。
リプレイ
●死神来たりて
軍用ジープに乗り心地が悪い。しかし、代わりに手に入れた悪路走破性を如何なく発揮し、エージェント達を乗せたジープがレガリス・エニアの元へ向けて走る。
「動ける者が少ないこの時に……!」
これから向かう方向――レガリス・エニアがいるはずの方角を睨みながら飛岡 豪(aa4056)がきつく拳を握る。
「つうか、こんな時だからだろうな。このタイミングで偶然てこたねぇだろうよ」
豪の言葉に五々六(aa1568hero001)が返す。
今、H.O.P.E.の戦力大半は砂漠の東側で発生した大量の従魔達の進軍の対処に追われている。このレガリス・エニアが出現したのは丁度そんなタイミングだった。まるで、H.O.P.E.の裏をかくかのような行動である。
「……降ろして」
その五々六の方で獅子ヶ谷 七海(aa1568)が小さく呻く。激しく揺れるジープの車上で巨漢である五々六の肩に担がれ、絶叫マシーンもかくやという大迫力である。有り体に言うと無茶苦茶怖い。
「お前もちっとは戦場の空気を感じやがれ。今回の戦いはマジで俺ばっかりボロボロにされたんだからよ」
『……佐千子』
「はいはい。五々六さん、そろそろ戦場に着くし共鳴しといたほうがいいんじゃないですか?」
顔を青ざめる七海を見て若干狼狽えた声で訴えるリタ(aa2526hero001)の様子に、鬼灯 佐千子(aa2526)が五々六に話しかける。
「……おうよ」
五々六にとっては単なる気まぐれである。わざわざ突っぱねるのも面倒だったのか、素直に共鳴し五々六の姿が小さい少年になる。狭いジープに若干の余裕が生まれた。
「――っ」
と、そこで横転した同車種のジープの横を通り過ぎる。
最初にレガリス・エニアと接触し全滅した部隊のジープだ。その周りには武器や装備や――『色んなもの』が散らばっている。
「許さねぇ……」
東海林聖(aa0203)が静かな口調で呟く。
レガリス・エニア達が『門』の前で起こした惨劇がフラッシュバックする。
「コレ以上は絶対、やらせねェ」
『それは同感。ルゥも久々にイラっとしたし。でも熱くなりすぎ無いようね。ヒジリーはムラが多くなるから……』
「おぅ、気を付ける」
覚えてる内は、と内心思いながらLe..(aa0203hero001)の忠告に頷く。ルゥもその聖の心情には気付いているようではあるが。
『あの死神ヤロー……守れなかった仲間達の仇、取ってやるぜ!』
「ああ、今のは効いた……。だが、まだ間に合う! 輸送部隊は必ず助けるぞ!」
『おう!』
熱くなるガイ・フィールグッド(aa4056hero001)の言葉に豪も熱い闘志を胸の内で燃やす。
「うん、連合軍の人達にこれ以上被害を出しちゃいけない……!」
『ええ、私達で止めましょう、稜』
「うん……! ――あ、あれ!」
天城 稜(aa0314)とリリア フォーゲル(aa0314hero001)が気合を入れ直したところで、前方に浮かぶ影を発見し指を指す。
それはレガリス・エニア・モルス。巨大な鎌を持ち死神の名を抱く従魔である。
●罪を謳う死神
「あれに会うのもこれで四度目だね、Alice」
『何度も何度も鬱陶しいね、アリス』
宙を滑空するレガリス・エニアを望みながらアリス(aa1651)とAlice(aa1651hero001)が会話を交わす。
門を巡る攻防で何度も巡り合ったレガリス・エニア。しかし、今目の前にいるそれは今までの元とは少し異なっていた。
「しかし、おっかない雰囲気醸し出してるね」
目にライヴスを集めその動きに注目しながら志賀谷 京子(aa0150)が呟いた。
ぼろ布を纏い、鎌を掲げ飛ぶその姿はまさしく死神だった。
『何事も形から入るタイプなのでは?』
アリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)のちょっとずれた意見に京子が首を傾げ少し考える。鏡を見ながら仮面を取り換え、悩みながら布の破れ具合をチェックするレガリス・エニア。
「なるほど、そう思うとちょっと可愛く思えてきた」
『いや、可愛くはないと思いますが』
アリッサが呆れた声を出すのと同時に稜が速射砲を構えジープのボンネットに台座を固定する。
「先端開きます! 撃ったらこのままUターンして逃げて下さい!」
「わ、分かった!」
ジープの運転手がそう答えるよりも早く稜が弾丸を発射する。
一直線に敵に向かって伸びた鉛の弾がレガリス・エニアに突き刺さる。
中空で制止したレガリス・エニアがゆっくりとエージェント達の方を振り返る。
「行くよ、輝夜!」
『乞われるまでもない。存分に暴れるがよい』
いち早く反応した御門 鈴音(aa0175)の声に輝夜(aa0175hero001)が答える。そして、ジープを勢いよく飛び降り、レガリス・エニアの元へと駆けていく。
「断罪者気取りのボロ頭巾野郎、テメェはオレが、オレ達が全力で……ぶっ倒すッ!!」
「これ以上の狼藉は俺達が許さん!」
近接戦闘をメインとする者達が次々とそれに続き、レガリス・エニアへの接近を図る。
「足止めしてる部隊の人達への撤退の連絡もお願いね! あとはわたしたちに任せてくれればいいよ!」
運転手にそう告げながら、地面に降り立って即京子がレガリス・エニアへ牽制の一発を放つ。まずは近接組が近づくまでの間を稼がなくてはならない。
「私達は散るよ!」
『二時の方角に廃墟の高台がある。まずはそこに陣取ろう』
「OK!」
ライブスラスターを全力で噴かし、佐千子が高速で狙撃ポイントへ向かう。
「早く終わらせたいね、Alice」
『早く終わらせよう、アリス』
アリスがレガリス・エニアを射程に捕らえ矢を放った。
「――」
それを鎌で弾き飛ばし、そこでようやく障害と判断したのかレガリス・エニアがこちらへ向かって飛来する。
「ふ、奴さんやる気だ。来るぜ!」
レガリス・エニアが標的を前方の連合軍からこちらへ切り替えたのを確認して五々六が叫ぶ。
「俺と鈴音で牽制する! 聖と五々六は突っ込め!」
「おう!」
豪と鈴音がそれぞれロケット砲と弓を構え、レガリス・エニアへ向けた。
「俺は闇を祓う赤色巨星! 爆炎竜装ゴーガイン! 吼えろ、爆炎竜咆《ドラゴンハウル》!」
「破魔の矢よ、貫け!」
若干、豪のノリに巻き込まれながら鈴音も同時に矢を放つ。
「――」
攻撃を意識したレガリス・エニアはその場で停止し、鎌を振るう。両方ともレガリス・エニアの体には届かなかったが足止めという目的は果たしたと言えよう。
(……? 妙だな)
その様子に五々六が違和感を覚える。この砂漠ではレガリス・エニアとは飽きるほど――飽きて嫌になるほど戦ってきた。今までレガリス・エニアはあのような時は魔力障壁で防いできたはずだ。
「様子がおかしい。気を付けろ!」
「何が来ようとぶっ潰す!」
五々六の忠告を聞いているのか聞いていないのか分からない返事を返して、聖がレガリス・エニアの元へと駆けていく。
「――」
聖が辿りつくよりも早く、レガリス・エニアが謎の文言を発しながら鎌を掲げ、そして振り下ろす。
「――っ!」
同時に展開されたドロップゾーンに気付き、二人が足を止める。
「これは……」
五々六の頬に冷汗が垂れる。
床は石畳に、そして目前に巨大な机。横に取り囲むように一対の机。どこか荘厳な雰囲気を感じさせるそれは裁判所を彷彿とさせた。
「――」
目前の机からレガリス・エニアが上半身を覗かせる。
「死神風情が裁判官気取りか! 俺達を罪人に見立てようと無駄だ!」
豪が朗々と叫ぶが、レガリス・エニアは意に介した様子はなく聖を指し、文言を述べる。
「――」
「ちっ、邪魔だな、あの机!」
防壁と化した机の向こうからレガリス・エニアが放ってくる魔力弾を避けつつ聖が吐き捨てる。
「聖、五々六、『乗れ』!」
そこへ駆け付けた豪が盾を掲げ叫ぶ。
「――おう!」
その意図を一瞬で理解し二人が豪に向かって跳びかかり、その盾に足を乗せる。
「連携必殺! 名付けて、聖天竜星《ドラゴニックメテオ》!」
即席で必殺技名を叫びながら豪が盾に付属したジェット噴射を起動し、二人の体を射出する。
「来てやったぜ! 叩き落すッ! 千照流……双撃・紅時雨ッ!」
「俺を害するモノは、神であろうと死ね」
微妙にタイミングをずらしながらレガリス・エニアに斬りかかる。
「……」
無言のままレガリス・エニアが巧みに鎌を操り、聖の剣を刃で五々六の剣を柄で受け止める。
「……野郎っ!」
宙では立て直しも効かない。返す刀で振るったレガリス・エニアの大鎌の横薙ぎの一撃に二人は共に吹き飛ばされた。
「まずはそのシンボルっぽいの壊させてもらおうか!」
レガリス・エニアが振り切った瞬間を狙い、京子の放った神速の矢が大鎌の刃部分に激突する。
『あれだけ大きければ狙いには困りませんね』
「どれだけ小さい的でも、わたしたちなら当てて見せるけどね!」
さすがに一撃で目に見えてダメージは無いが、蓄積はしているはず。そう信じて次弾の装填に移る。
「――」
鎌を攻撃されたレガリス・エニアが片手を離し、その右手に本を召喚し、再び何事かを呟き始める。
それは風景も相まって判決を言い渡す裁判官の姿に見えた。
「重くなる攻撃、くるよ」
通信機越しにアリスの小さな声が届く。
次の瞬間、レガリス・エニアが手に持った本をパタンと閉じる。
「――ぐっ!」
最前線へ出ていた三人の体に凄まじい『重さ』が圧し掛かった。動くことはおろか、立っている事すらままならない。ただただ膝を付き、頭を垂れ、首を差し出す事を強要させられる。
その首を狩り取らんとレガリス・エニアが迫る。
「なめんじゃ……ねぇぞ!」
しかし、ただ一人五々六が立ち上がり、肩にフリーガーファウストを構えてレガリス・エニアに向ける。
「相手が悪かったな、死神。俺は、死なない死刑囚なんだよ」
放った砲弾は避けられるが、その爆発の余波で接近の阻止には成功した。
「このレガリス・エニア強い……。時間を稼ぐから立て直して下さい!」
退いたレガリス・エニアにオプティカルサイトを覗き込んだ稜の放った弾丸が突き刺さる。
「そろそろ死んで」
続けてアリスの矢が刺さるが、共に決定打には足りない。
「……」
――レガリス・エニアは考える。
この罪人はしぶとい。殺すのには時間が掛かるだろう。で、あれば狙いは変えるべきであろう。より刈り取り易い奴が良い。
レガリス・エニアが急に加速し。凄まじい速度でその場を離れ砂漠の空を駆ける。
「……!」
その先にいるのはアリス。
射程の関係で後衛の中で彼女だけがドロップゾーン内部に足を踏み入れていた。
『寄らせてはまずいぞ!』
「分かってる……! 当たって!」
佐千子の放った弾丸が途中で軌道を変え、レガリス・エニアの死角からその体を貫く。
「――」
しかし、若干高度は下げたものの、レガリス・エニアは勢いを落とさずそのまま突っ込む。
「その高さなら、届く!」
そこへ大剣を担いだ鈴音が廃墟を足場にして空中のレガリス・エニアに斬りかかった。
「――!」
その方向の攻撃は予測していなかったらしく、その剣はレガリス・エニアの体に届いた。
「――」
「あうっ!」
鎌の柄頭で腹を強烈に突かれ、地面に叩きつかれる。だが、手応えはあった。
「てめぇの相手はこっちだろうが、余所見してんじゃねぇぞ!」
動きの止まったレガリス・エニアの背中に五々六が迫る。
「――」
と、レガリス・エニアが手に持っていた大鎌を五々六に投げつけた。
「なに!」
「――」
レガリス・エニアの呟きに応じて大鎌が空中で軌道を変え、五々六の体を刺し貫かんと刃を突き立てる。
「くそが!」
何とか受け止めるが、遠隔操作とは思えないほど重い攻撃。防御で手一杯だ。
「――」
フリーになったレガリス・エニアが再び本を手に取った。
――拙い。
その場の誰もそう思うが咄嗟に対応の間に合う者はいなかった。
「――」
再度の判決。今度は鈴音とアリスの身に『重さ』が降りかかる。
『私達に裁判は意味がないわ。ねぇ、アリス』
「ええ、Alice。本物の魔女は裁判では裁かれないものね……」
しかし、アリスは倒れない。
直立不動の態勢のまま、形成したライヴスの魔弾をレガリス・エニアへと放つ。
「――!」
咄嗟に避けようとするも間に合わない。魔弾はレガリス・エニアに直撃、その高度が地上近辺まで下がってくる。
「待たせたな!」
「やっと降りてきたな……!」
そこへ拘束を何とか解いた豪と聖の二人が駆け付ける。
「――」
レガリス・エニアがよろけながらも二人に向け指先を向け、展開した魔法陣から魔力弾を放つ。
「む」
この距離では牽制以上の意味はなさない。豪はその攻撃を横に跳んで避ける。
「構わねぇ! 突っ切る!」
一方聖は躱さない。魔力弾に真っ向から突撃し、正面から受けきってそのまま走った。
――研ぎ澄ませ。
極限の状況が聖の集中力を跳ね上げる。
「――」
レガリス・エニアが魔力剣を形成し、聖を迎え撃つ。
激しい衝突音と共に魔力剣が砕け散る。
「ちっ、浅ぇ!」
しかし、割るので精一杯。レガリス・エニア本体へは浅く裂くに留まった。
「――」
その隙にレガリス・エニアが再び高度を取り戻す。
「ちょっと、いつまでその玩具と遊んでいるつもり!?」
京子が悪態と共に放った矢が、五々六を攻撃していた鎌を弾き飛ばす、一度あらぬ方向に飛んだそれは回転しながらレガリス・エニアの手元へと戻っていく。
「わりぃな、結構楽しかったもんでよ!」
「五々六! もう一度やるぞ!」
「おう!」
上空へ逃げたレガリス・エニアを追う為に再び豪が盾を構える。五々六はすぐさまそれに乗り、レガリス・エニアの元へ迫る。
「……」
レガリス・エニアが戻ってきた鎌を構える。
「だろうな!」
五々六は一切躊躇う事無く全力で、その防御しようとしている鎌そのものを叩いた。
激しい金属音と共に大鎌が軋む。
「――」
「最初からそれ狙いだよ、間抜け!」
中指を立ててレガリス・エニアを煽りながら五々六が落下していく。
自分を狙ってくるだろうか。五々六は考える。空中で身動きが取れない自分は格好の的だ。防御に優れる五々六は敵の攻撃を受けるのも仕事の一つだ。それが勝つための策。
「――」
そう、勝つ為には策がある。
――レガリス・エニアは考える。
潰すべきは誰か。邪魔なのは誰だ。奴らの攻撃の要は……
「――」
「うぉ!」
レガリス・エニアが文言と共に豪を指さし魔力弾を放つ。
それを後ろに退いて避ける豪。
「飛岡、避けろ!」
「――っ!」
聖の叫びに上を見上げると、レガリス・エニアの投擲した鎌が回転しながら迫ってくるのが視界に入った。
それだけではない。その後ろから真っすぐ急降下してくるレガリス・エニア本体。
「まだだ! まだ諦めん!」
咄嗟に爆炎逆鱗《ドラゴンスケイル》を鎌へぶつけて弾き飛ばす。
だが――
「――」
弾いた鎌をレガリス・エニアが掴んだ。体勢を立て直すような隙は無い。鎌が振り下ろされる。
「おの、れ……!」
「飛岡!」
鎌の直撃を受け、豪が崩れ落ちる。
「ち、足を狙いに来やがったか……!」
「飛岡さん! 今行きます!」
回復をするにも距離が遠い。稜が急ぎ前線へ駆け出す。
「――」
「……っ!」
その動き出しを狙ってレガリス・エニアが魔力弾を放つ。直撃は避けるが、焦っていた為に避けきれない。
そして、レガリス・エニアが再び上昇を始める。
「そう何度も飛ばしてたまるか!」
その上昇を妨害するように佐千子が弾丸を次々放つ。全て避けられるが、目的は果たした。レガリス・エニアの位置はまだ地表近く。
近接の距離だ。
「よくも飛岡を……!」
「ここを逃すわけには!」
「――」
聖と鈴音が接近するがレガリス・エニアが素早く本を召喚し、文言を唱えて『重み』で拘束する。
「ちぃ!」
「うぐ……」
レガリス・エニアが鎌を構える。
そして、聖の差し出された首に向かって鎌を振るい――
「……墜ちて」
唐突にレガリス・エニアがその場に崩れ落ちる。
アリスが呪力を込めて放ったリーサルダークがレガリス・エニアの意識を一瞬奪った。
「クリア・レイ!」
ダメージを受けながらも接近していた稜が聖の封印を一つ解く。
――体が動く。
まだ足は地面に張り付いたままだ。だが、上半身は動く。
そして目前には無防備に崩れ落ちた死神。
「今度はテメェが『裁かれる』側だ……! 斬ッ塵やがれ!」
聖の振り下ろした渾身の一撃がレガリス・エニアの大鎌ごとその体を切り裂く。
「――」
しかし、まだ死神未だ倒れず。
その一撃で意識を取り戻したレガリス・エニアは鎌を失った事を悟り、魔力剣を生み出し聖を弾き飛ばす。
「ぐぁ!」
弾き飛ばされるが、大鎌の一撃程のダメージは無い。
「――」
体勢の立て直しを図ろうとレガリス・エニアが本を取り出す。
「いい加減それ、邪魔なのよね!」
その瞬間を狙い打って京子の矢が本を撃ち貫き、弾き飛ばした。
「さあ……私刑の時間だ」
背後から接近した五々六がその背に重みのある一撃を加えレガリス・エニアの体勢を崩す。
「俺達はH.O.P.E……人々の希望だ……」
「次の一撃で決める……。輝夜! 私に力を貸して!」
ゆらりと立ち上がる人影二つ。
一人は仲間の回復を受け、満身創痍で立つヒーロー。
一人は罪の重みを振り切り、剣を支えに立つ金色の鬼。
両者とも全身の全ての力を、次の一撃へ賭けるべく己が武器に集中させていく。
『良かろう! 鬼としてのわらわの力の全てを貸そう……一撃で滅せぃ!』
「死神よ、正義の炎の前に燃え尽きろ!」
鈴音が深紅の大剣を、豪が太陽のエンブレムの入った盾を振りかぶる。
「これが最後の一撃!」
「爆炎鬼砕《ブレイジングオーガ》!」
左右から渾身の一撃を喰らい、死神はついに塵芥となってこの世から消滅した。
●激闘の果て
「おーおー、二人とも倒れちまった」
最後の一撃を放った両人ともが、その場で意識を失い倒れ伏したのを見て五々六が呆れ顔で言う。
全身全霊の激闘の結果である。
「わらわの力をここまで使えるようになるとは成長したものじゃな……」
共鳴が解かれ気を失った鈴音の傍らで、輝夜が嬉しそうに笑う。鈴音が起きていれば決して言わない本心からの褒め言葉。
「飛岡は大丈夫か!?」
「大丈夫そうです。しばらくは休養が必須でしょうけど……」
急ぎ駆け寄ってきた聖に、豪の体を診断していたリリアが返す。
「そうか、良かった……」
「本当よ。飛岡さんが倒れたとき心底びっくりしたんだから」
はぁー、と深いため息をつきながら佐千子が呟く。
「でも、これで新たな被害を防ぐことが出来たな……。それは本当に良かった……」
「そうですね。救えなかった命もありましたが……」
リタの言葉に稜が同意して南の方を望む。今頃怪我人を運ぶ輸送部隊がこの砂漠を脱出している頃のはずだ。その襲撃を防げた。それは確かな収穫である。
「ようやく終わったね、Alice」
「そうね、とってもしつこい奴だったね、アリス」
二人のアリスが手を合わせながらお互いに声を掛け合う。その足元にはレガリス・エニアの落とした本があったが、手を伸ばすと塵になって消えた。
「やっぱり駄目ね」
「特別な奴だからもしかしたらって思ったのにね」
「こっちも消えたわ。やっぱりあくまで従魔の一部って事かしら」
アリスと同じように鎌の方を拾おうとした京子がきょとんとした顔で言う。
「せっかくいい思い出の品になりそうだったのにね」
「どこに飾るんですか、あんな大きな鎌……」
「んー、玄関とか?」
京子の答えにアリッサが頭を抱える。扉を開けて早々に出迎える死神の鎌。何だその禍々しい玄関は。
「冗談よ、本気にした?」
「京子のそれは冗談に聞こえないんですよ……」
「……」
「ヒジリー、どったの?」
豪の横に膝を付いて座ったまま何も喋らない聖にルゥが話しかける。
「あ、いや。別になんでもねぇ」
「……別にヒジリーのせいじゃないよ。ゴーは必死に戦って、敵もそうだった。それだけ」
「分かってるよ。オレのせいだなんて思ったら飛岡にだって失礼な話だしな」
聖はそう言って、豪を肩に担ぎ立ち上がる。
だが、それでも――
(もっと強く……ならねェとな)
そう胸に誓い、聖は迎えに来た軍用ジープの方へと歩いて行った。