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【幻島】夏島サクサク!
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最終発言2016/08/22 00:35:36
オープニング
●幻島へ行こう!
ロンドン支部長、キュリス・F・アルトリルゼイン(az0056)は季節島をH.O.P.E.関係者の憩いの場と決めた。一般の観光客も受け入れるものの、これに関してはそれなりの監査を経ての許可制となる。
ここはロンドンの大英図書館・館長室。
「世界中のセレブがオカンムリみたいねぇ。季節島をH.O.P.E.が独り占めしたって、話題独占中よ」
ソファに座る英雄ヴォルフガング・ファウスト(az0056hero001)はなまめかしい指先で蒲萄の一粒を自らの口の中へ放り込む。
「人聞きが悪いですね。それらの方々も手続きさえ踏めば利用できますよ。……以前よりもチェックが厳しくなっているので大変だとは思いますが」
デスクに着いているキュリスが手にした書類に目を通しながら、ヴォルフガングに答えた。
「キュリスって真面目そうなのに、中身は悪人なんだから」
「ファウスト、誤解されるような物言いはやめてもらえますか?」
「いいじゃない。蒲萄、食べる? おいしいわよ」
「後で頂きますので」
俯き気味のキュリスが顔をあげるとヴォルフガングが愉快に笑う。そして館長室を立ち去っていく。ドアが閉まったとき、キュリスは小さくため息をついた。
「誰にでも休息は必要です。H.O.P.E.職員、リンカーのみなさんにも……」
キュリスは振り返る。そして窓の外に広がる青空を眺めるのだった。
●トンネルさくさく!
唐突にH.O.P.E.主催の慰労ツアーのメンバーに選ばれたミュシャ・ラインハルト (az0004)とエルナー・ノヴァ(az0004hero001)は夏島のイベントに招待された。
「夏島…………」
つい先日、そこへ行ったばかりのふたりだったが、そこでのわだかまりもこの間の結婚式のイベントで払ったばかりだったので、ミュシャたちは喜んで参加することにした。
船の個室で着替えてから、サーフパンツを履いたエルナーとラッシュガードを羽織り白の二段フリルスカートの水着を履いたミュシャは夏島の女性スタッフに先導されてイベント会場へ向かった。
そして、なぜか。
キラキラと輝く氷のトンネルを歩くことになった。
「寒い……」
ミュシャは買ったばかりのラッシュガードの襟元を掻き合わせる。フードが揺れた。
案内する女性スタッフは慣れたもので、ホルタービキニとサロートパレオ姿にも関わらず背筋をピンと伸ばし笑顔だ。
「ここは、天然の特別な氷で出来ていて、不思議なオーパーツによって溶けないようになっているんですよー」
「ふ、不思議なオーパーツ?」
「ふふ、この島にはそういうオーパーツがたくさんありますので。さあ、どうぞ」
銀色のスプーンとプラスティックの器を渡されたミュシャは首を傾げる。
女性スタッフは白く輝くトンネルの壁のあちこちを指す。
「こちらはこだわりの天然氷、あちらは雪状、あちらはふわふわの綿状、あっちは氷に直接味が付いたかき氷です」
「えっ!?」
驚くふたりに、スタッフは氷壁の一部を持参のスプーンですくって見せた。よく見れば、氷のトンネルのあちこちにかき氷状の氷を詰めたの部分がある。
「オーパーツで形を保っているので崩れることはありません。この間は新しいトンネルを掘削しているお子様たちが居ましたよ」
「────お腹、壊さなかったのか……」
そう言いながらミュシャはかき氷をすくって口に運んだ。
────サク。
「ふわふわです! これは、シロップがほしいですね!」
「もちろん、シロップも各種貸し出してますよー」
「ミュシャも段々ご友人たちの影響受けてきているよね」
思わず素の口調でスタッフとはしゃいでいるミュシャを見てエルナーは少し呆れて笑った。
●スライムざくざく!
氷のトンネルを抜けると、そこは敷地一杯にぐねぐねと水の流れるプールゾーンだった。
「凄いですね、エルナー!」
ボディでそのまま滑るものとビニールボートに乗って滑る、ぐねぐねとしたウォータースライダーがひとつずつ。
クジラのような丘の天辺から噴水のように水がふりそそぐエリア。
流れるプール自体もゆるやかなものから急流エリアまで。
小さな噴水がある浅いプールには水棲生物の可愛らしいビニール人形があちこちに浮かんでいる。
プールサイドには東屋やパラソル、シェード、チェアなどが置かれ、所々芝生や白い砂が敷き詰められていた。
「すごいね、あれもなの?」
驚いた顔のエルナーがミュシャに指し示したのは、砂浜の上に置かれた木製の巨大なテーブルだった。その上には、マンゴー、スイカ、プラム、桃、葡萄、マスカット、メロン、ドラゴンフルーツ、ライチ……あらゆる果物が所狭しと並んでおり、近くにはアイスクリームワゴンまであった。
「タコライスなんかの屋台もありますね!」
そう言って、楽しそうに色々な屋台を見て歩くミュシャ。エルナーは足元に流れるプールに足を浸そうとした。
「────やめろ」
殺気に満ちたミュシャの声にエルナーは素早く振り返る。
「なあ、きみもエージェントなんだろ?」
見事な筋肉を見せつけるような男性エージェントの二人組がミュシャの周りでにやついていた。
「一緒に遊ぼうぜ?」
駆け付けようとしたエルナーは、ふと足元に転がるそれを見つけ、動きを止めた。
「言いたいことはそれだけか?」
ミュシャの殺気が膨らむ。けれども、同じエージェントであるはずの二人組はそれに気付いた様子もない。むしろ、背の低いミュシャを舐めきっていた。
「ねえ、こんなの脱いで泳ごうぜ」
一人が、迂闊にもミュシャのラッシュガードのフードに手をかけた。その手を振り払ったミュシャ
が────。
「悪いけど連れがいるから」
ミュシャと男たちの間に無理矢理身を滑り込ませたエルナーが困ったように彼らの腕を叩いた。
「なんだ、お……ま……あーっ!」
男たちは悲鳴を上げた。さっきまで愚神ですら素手で挑みそうな筋肉質だった男たちは、細く、または少しふくよかな姿に変わっていた。
「二千Gもしたのに!」
「それで済んで感謝して欲しいな。僕の能力者に撲殺されないうちに退散した方がいいよ」
エルナーの言葉に二人組はエルナーの後ろでライヴスメモリーから引き抜いた剣を構えたミュシャに、その殺気にようやく気付く。
「おそらく、君たちじゃ僕らには敵わない」
退散した男たちを見送ってからエルナーはため息を吐いた。
「エルナー?」
「────ミュシャ、これ、見覚えないかい?」
エルナーが手に持ったジェル状のスライムにミュシャは顔を強張らせた。
「プールのあちこちに落ちてるんだけど」
ふたりはしばらく無言で顔を見合わせた後、頷き合って。
見なかったことにした。
解説
目的:夏島リゾートを楽しむ
ステージ:夏島プール特設スイーツイベント
色々なアイテムをレンタルできる。ただし、一部有料。
持ち込み可。
「いらっしゃいませ、夏島特設プールステージへようこそ!
各アイテムは1日限定のレンタル商品です。
何をレンタルされますか? お名前と人数をお願い致します」
・『夏島の葉』タグ付バンド 2000G
木の葉のタグが縫い付けられたゴムバンド。
付けると水着姿になり下記のような体型へと変化します。
とてもリアルで強力な幻ですが幻使用時はリンクしてもAGWは使えません。
女性:理想とされる均整の取れたバランスの良いスタイル
※ただし、胸は大きすぎず小さすぎずになるので、元々大きい方は相対的に小さくなります。
男性:筋肉ムキムキのマッチョ
スライム・ブロークントイにぶつかると水着はそのままですが、現実の体型で同じ水着を着た姿(リンク後AGW使用可)に戻ります。解除されるとその日一日は元の幻のスタイルには戻れません。
・リンブレ・ゴー! 300G
スイムウォッチ。泳いだ距離によって小さな画面の中に何かのキャラクターが何体かゲットできるオマケ機能付。ただし、商品等も何も貰えない。
・冷たくないスプーン、フォーク 無料
アルミニウム製スプーン。体温を伝えて氷を溶かしてすくいやすくする上、それ自体は冷たくならない。
「レジャーシート、シェード、パラソル、ビーチボール、浮輪、水鉄砲各種、各種ドリンク・スイーツ、そして、水着類(着用義務有)、防水ケース各種(カメラ・スマートフォン等)等々は無料です。
それでは、皆さま、楽しい一日を!」
・ナンパエージェント
男女各種居ます。HOPE管理下の現在、いざこざでの軽傷くらいなら見逃されます。
・スライム・ブロークントイ
ジェル状玩具、モンスターのスライムに似た物体。
ベタベタ絡まり付き、幻の効果の一部を奪う。
使用したい方は、見つけた状況をプレイングにお願いします。
リプレイ
●ようこそ、夏島へ!
「夏島、再び!!」
砂浜に降り立った今宮 真琴(aa0573)は、スタイルの良い身体を誇るように背筋を伸ばした。
「まさか再度訪れるとはのぅ……」
真琴の隣でそう呟いた奈良 ハル(aa0573hero001)は相棒の身体をまじまじと見た。
「これはまたぼいんぼいんに……」
パンツタイプのキャンディ柄の水着を着た真琴は嬉しそうに己の身体を見る。彼女の手首には『夏島の葉』タグ付バンドが巻いてあった。レンタル代金が一日二千Gもするこのアイテムは夏島のオーパーツをコントロールし、身に着けた女性を均整の取れたモデル体型に、男性を筋肉質な体型へと変化させるものだ。ただし、とてもリアルではあるが幻である。
「ワタシはやめとくかの」
「ハルちゃん、減るもんね」
ホルターネックの赤いビキニにパレオをプラスして着けた英雄の、特に豊かな胸の辺りを見て真琴は答えた。
「今宮さんー!」
「あっ、九繰さん!」
それぞれ白とブラウンのパーカータイプのラッシュガードを羽織りながら駆けて来たのは唐沢 九繰(aa1379)とエミナ・トライアルフォー(aa1379hero001)だ。
「折角だから違った季節がいいかなって思いましたが、やっぱり夏は泳ぎたいですよね!」
布面積多めの黄色いバンドゥビキニを着た元気いっぱいの九繰と白いホルターネックのビキニを着たエミナ。
「あれ、バンド……なんでもない」
「なんでしょうか?」
九繰の細身の上半身を見て、なにか言いかけた真琴は口を閉ざした。
「あっ、サヤさんたちです!」
以前、依頼で一緒になった九十九 サヤ(aa0057)と一花 美鶴(aa0057hero001)を見つけた九繰はそちらへも元気よくぶんぶんと手を振る。
「真琴は気にしすぎじゃ」
ポンポンと背中を叩くナイスバディな英雄を、真琴は少しだけ恨めしげに見た。
●かき氷トンネル
一行が女性スタッフに案内されて氷のトンネルに着くと、そこには先客が居た。
「みて! 武之! かき氷すごいんだよ! これ全部食べてもいいのかな!」
「食べれるもんなら、食べてもいいんだろうけど、食べ過ぎるとお腹を壊すから適度にかな……いや、ここは誰かに看病して貰ってそのまま養って貰うって考えもありかな?」
「鵜鬱鷹さん、ルゥルゥさん、こんにちは!」
「あっ、お久しぶりなんだよ!」
「鵜鬱鷹様、ルゥルゥ様、お久しぶりです」
「おや、偶然だね」
鵜鬱鷹 武之(aa3506)はトンネルの向こうからやってきた九繰とエミナ、サヤと美鶴を見て目を丸くした。
「このシロップ青いんだよ! かき氷真っ青だよ! 楽しいね!」
武之と一緒に冷たくないスプーンでサクサクと食べていたザフル・アル・ルゥルゥ(aa3506hero001)が輝くような笑顔で器の氷を見せる。
「……これはカキ氷……?」
真琴の顔がすっとプロの顔つきへと変わる。
「これまた壮観じゃなぁ」
「食べる……食べなきゃ……」
「ほどほどになー」
ハルが見守る中、フラフラと氷の壁へ歩み寄る真琴の手には既にスプーンが握られていた。女性スタッフがさっとかき氷用の器とシロップを差し出す。
「練乳かけてーイチゴ味でしょー? あとはメロンとレモンのハーフにー……あ、すごいハルちゃん小豆金時とかできるよ!」
「む、それはもらうとするか……白玉と抹茶はないのかのぅ」
「ありますよ」
「あるんですね……」
サヤと美鶴の器のかき氷にも、いつの間にかフルーツが盛り付けられていた。
「美味しいね!」
「そうですね」
美味しそうにむぐむぐと食べるエミナの器にはふわふわとろっとした台湾風かき氷まで盛られていた。
「ふぅ……、このくらいでいいかな」
一同がちょうど満足した頃、真琴が一仕事終えた笑顔でスプーンを器に置いた。
その目の前にはちょっとした洞穴が開いている。
「なんでこの量食べて平気なんじゃ……体積おかしいよな……? あとスピード……」
一番身近なパートナーであるハルですら言葉を失う。
しかし、小柄な真琴は嬉しそうに笑った。
「むふふ……次は何かなー」
「まだ食うのか!?」
ルゥルゥを除く一同は、ハルの的確なツッコミのお陰で、より清々しい気持ちでかき氷の洞窟を通り抜けた。
●流れるプールと
トンネルを抜けて外に出ると、そこは陽光降り注ぐ夏のプールゾーンだった。
氷のトンネルに囲まれているせいだろうか、ぎらぎらとした夏の日差しも不思議と暑すぎずに心地よく感じる。目の前に広がる流れるプールの水面はキラキラと輝いており。
真琴とハルは思わず感嘆の声を上げた。
「果物いっぱい!」
「そこか!?」
プールサイドには屋台が、テーブルには様々な果物が溢れんばかりに並べられていた。
「いやー、やっぱりちょっと冷えたかな」
「プール! 武之、プールなんだよー!! 武之も行くんだよー!」
「おい……ちょっ」
元気いっぱいのルゥルゥに腕をひかれた武之だったが、なんとかそこへ踏みとどまる。
「ほら。ひとりで遊んで来ればいいんじゃないか」
近くに転がっていた浮輪をルゥルゥに押し付けると、武之はパラソルの下に潜り込み、チェアに身体を横たえた。
一応、狸柄のハープパンツの水着を着けてはいるものの、武之は水に入るつもりは全くなかった。もちろん、怠いというのもある。だが、それより────。
「武之さんの尻尾は濡れたら重そうですから、仕方ありませんわ」
ぷうっとむくれたルゥルゥを慰めようとした美鶴の言葉が真相を突く。そう、狸のワイルドブラッドである武之にはふさふさとした尻尾があり、水分を含むと大変なことになる。下手すれば溺れることになりかねない。
「一緒に入りましょう!」
フリル付きのピンクの水着を着て、しょぼんと落ち込みかけたルゥルゥの手を九繰が引く。
すぐにきゃっきゃっと楽しそうな声が響く。
「ミュシャさんだ!! こんにちはなんだよー!!」
H.O.P.E.で何度か顔を合わせたことのあるミュシャに気付いてルゥルゥが張り切って手を振る。
「ミュシャちゃん、こんにちは!」
「偶然だね!」
「皆さんも避暑ですか?」
予想外に友人と会えて喜ぶミュシャに、エルナーが「遊んで来たら?」と背中を押す。
「ありがとう、エルナー!」
女性陣はそのままビーチボールで遊び、プールを散々探検を始めた。
「意外と激しいですよね」
スライダーを終えて、一見、表情の変わらないエミナの感情表現用のディスプレイにぐったりした顔文字が表示される。
「まったく、何度乗る気なんじゃ」
スライダーの繰り返し乗車にうんざりしたようにハルが呟き、全員がぐっしょり濡れた髪で顔を見合わせて笑い合った。
●ナンパとナンパ(駆除)ハンター
一旦、他の女性陣とスライダーの前で解散した後。
九繰は流れの緩やかな場所でエミナに泳ぎを教えることにした。
「以前教わった内容はちゃんと覚えていますよ」
「じゃあ、あとはいっぱい泳いで慣れちゃいましょう!」
九繰はエミナの手を引いたり自力で泳ぎに慣れるよう手伝う。それにエミナも真剣に応える。
「ありがとう、九繰。あとは九繰も思いっきり泳ぎたいでしょう」
練習が一段落すると、エミナはそう言った。
相棒が自分に気を遣ってくれたのだとすぐに理解した九繰は、その厚意をありがたく受け取って水中を魚のように自在に泳ぎ回った。冷たい水が優しく体の周りを流れる。
エミナ自身は九繰に膨らませてもらった好物のカニと同じカニ型浮き輪に乗ってぷかぷかと浮かんでそれを見る。ピピッとレンタルしたスイムウォッチのゲーム部分が音を鳴らした。
「やっぱり気持ちいいですね!」
水中からぷかりと顔を出した九繰は満足な様子でカニの浮き輪でぷかぷか浮かぶエミナに笑いかけた。
一方、サヤと美鶴は期間限定のアイスを食べていた。
「美味しいですわね」
「う、ん」
水着姿のサヤは、そわそわとビキニの上に羽織ったパーカーの襟元を掻き合わせる。実はサヤも『夏島の葉』タグ付バンドをレンタルしてみたのだ。
大人っぽいパレオ姿の美鶴をちらりと見る。
────美鶴ちゃんみたいなスタイルになれるかと思って、こっそりレンタルしてみたけど……。
コンプレックスである子供っぽい本来の体型とは明らかに違う今の自分の身体つき。特に胸の大きさには慣れなくて複雑な気持ちがないまぜになってどぎまぎする。
そんなサヤの様子に、もちろん美鶴は気付いていたが素知らぬふりをしていた。
「スライダーはちょっと怖かったですわね」
「うん、でも、みんなと一緒だったから楽し────」
パーカーの襟元を気にし過ぎたせいで、アイスがコーンからダイブした。
「サーヤ、大丈夫ですの!?」
汚れたパーカーを拭おうと美鶴が慌ててハンカチを探すが、さっきまでプールで遊んでいたためそんなものは携帯していなかった。
「わたくし、なにか借りて来ますわね」
サヤが止める前に美鶴はアイスを買ったワゴンへと駆けだしていた。
慌てて後を追おうとしたサヤの前に手が伸びた。否、いわゆる壁ドンをかました。
「遊ばない?」
「あの、友人と来ているので……」
突然現れた男に怯みながらサヤがその手を避けようとすると、やたらと逞しい筋肉質な男性が三人ばかり現れて彼女を囲む。
────あ、美鶴ちゃんが来てくれた! よかっ……よくない、ものすごく怒ってる。
男の筋肉越しに美鶴が駆け戻るのが見えた。一瞬、安堵しかけたサヤだったが彼女の表情に血の気が引く。
「大丈夫、ちょっと声かけられただけだから」
「サーヤをナンパするとはお目が高いですが、なれなれしく声をかけるなど百年早いですわ!」
慌てて制するサヤだったが、美鶴の肩にかかった多連装ロケット砲のインパクトたるや。一緒に振り返った男性たちの顔が強張る。
「えっ、ちょっ!?」
「美鶴ちゃん、さすがにAGWはダメ!」
「共鳴しないと使えませんものね。ちょっとリンクしましょうか。大丈夫ですわ、軽く、かーるーくお仕置きするだけですから」
「そういう意味じゃなくて!」
本気で止めるサヤの姿に、仕方なく美鶴は幻想蝶から取り出したフリーガーファウストG3(強化済)をしまい、さっきから足元に転がっているゼリー状の殺傷能力は無いが不快感はありそうな物体を拾い上げた。それから、怒りに任せてそれを叩きつけた。
ぺちゃっ。
はたして、それは正答であり、はからずも、そのアイテムは適切なものであった。
「ああっ二千Gもしたのに!」
スライム並みにふわふわとした体格の男性たちが泣きそうな声を上げる。セラエノの作ったアイテム『スライム・ブロークントイ』は定められた効果の通りに幻の効果の一部を奪ったのだ。
「……戻っちゃった」
サヤの幻も一緒に。
────しまった……。
知らなかったとは言え、美鶴は自分の手でサヤの幻を奪ってしまったこと、そして、何よりそれによって自信を失ったような彼女の表情が美鶴の胸を抉る。
「やっぱり幻は幻よね……美鶴ちゃん? どうしたの急に?」
ぐいぐいと美鶴に手を引かれて、サヤは再びウォータースライダーへ押し込まれる。二人用のボートに仲良く乗り込めば。
「美鶴ちゃん、乗り出すとスピード────ゆ、揺らさないでっ!!」
盛大に悲鳴を上げ、フラフラとスライダーから降りたサヤに美鶴はトンネルやフルーツの並んだコーナーを指差した。
「楽しみましょう! 折角なので食べ比べもしませんとね」
「打ち上げねぇ……打ち上げなら養ってくれないかな?」
パラソルの作る影の下で思わずぼやく武之。
寝そべりながら、今回は先の大規模作戦での慰労でもあるということを思い出していた。
「こんにちは、一緒に遊びませんか?」
色っぽい声に思考を中断されてそちらを見上げると、フルメイクをした水着の女性がしなを作って武之を覗き込んでいた。
「ナンパかい? 養ってくれるなら吝かでもないよ?」
「は?」
いつものノリで返したその言葉に、女性の眉が顰められ、迫力のある低音ボイスに変わる。
「別に養ってくれるなら同性異性俺は問わないよ?」
「私が同性──ッ、ゴメンナサイ、人違いでしたわ!」
蔑むようなその眼差し、それも意外に嫌いではない。だが。
「少しは確りしなさいな、オトウサン」
去り際の女の意地悪い口ぶりに、思わず身体を起す。
武之の狸の水着の横にウサギ柄の水着がちょこんと並んでいる。チェアの端に腰かけているのは、いつの間にか戻って来たルゥルゥだ。髪も水着も程よく濡れているのに、取り外し可能なウサギの尻尾はそんなに濡れていなかったので、水の中では外していたのだろう。
「ルゥルゥ」
必死に見慣れない腕時計のようなものをカチカチしていたルゥルゥに声をかけると、「あれ?」みたいな顔で見上げられた。集中していて一連のやり取りにも気づいていなかったらしい。
「どうしたの、それは」
「お小遣いで借りて来たんだよー!」
そう言えばゲーム付きスイムウォッチがあったな、と思いながら、必死なルゥルゥにつられてそれを覗き込む。
「これ面白いよ! 武之! みて! 虎さんだよ! 白い虎さん! あの人に似てるんだよ!」
画面に現れたのは精巧なドットで描かれたキャラクターだ。
「それから、この狸のキャラ、武之みたーい! やる気ないんだよー!」
ルゥルゥが指したのは、少し崩れた間の抜けた狸のキャラクターだった。それが────そればかりが、画面内で大量にモサモサ蠢いている。
「……じゃあこのうさぎみたいのはルゥルゥ、おまえに似てるな……ピョンピョン飛び跳ねて面倒臭い……」
「似てる!? このうさぎ似てる!? 嬉しいんだよー! 武之、ルゥの事見てくれるんだね!」
「……ちッ」
揶揄うつもりだった武之の言葉に、ルゥルゥは満面の笑顔を浮かべて抱き着いて来た。
「あ、ルゥルゥさん……武之さん?」
ふたりが顔を上げるとミュシャが居た。
「やぁミュシャくん。楽しんでるかい?」
「とても楽しいです。武之さんは?」
「俺はね……それなりにかな?」
そう答えた武之の腕をルゥルゥが掴む。
「武之も楽しむんだよ!! 海なんだよ!!」
「海じゃなくてプールだ。何でそんなやる気なんだよ……」
そんなふたりの様子にミュシャと後から来たエルナーは顔を見合わせてに微笑んだ。
けれども、その笑顔はルゥルゥが元気にスライムを取り出すと強張った。
「あのね! さっき泳いでたらこんなの見つけたんだよ! ぷにぷにして可愛いんだよ!」
「ん? まあ、ただでくれるものは貰おうか。タダより安いものは無いからね」
「……ルゥルゥさん」とミュシャはそっとそれをぷにぷに触って楽しむ少女の掌を自分のそれで包んで真剣なまなざしで言った。
「間違っても、それは人にぶつけては駄目です」
「? それは────」
しかし、それに答える前に、ミュシャは何かを見つけて慌てて別れを告げてそこを去っていった。
「…………何か、食べてくるか」
「武之と一緒ならルゥ行くんだよー!」
もさもさとした狸キャラクターを画面上から仕舞いながら、ルゥルゥは嬉しそうに顔を輝かせた。
「本当にどこに入るのか……まだ食うか」
「ちょっと食休みに遊んでからね!」
テーブルにたくさん並んでいたはずのフルーツをスタッフたちが慌てて補充している。その様を後目に真琴は爽やかな笑顔で軽く伸びをして、プールに足を向けた。
「あ、食べてすぐに運動は」
戦闘中におせちを食べるエージェントとは思えない台詞を吐く真琴の前にやたらと眩しいイケメン二人が現れた。
「お、おねーさん? ぼくたちと遊ぼうよ……っでいいのかなっ」
「お前の心、俺が奪うぜ」
「え、何言ってんの、頭沸いてる? ぶん殴るよ?」
「お前にじゃねーよっ!」
ちょっとおかしいナンパに、見知らぬ相手には臆病な真琴を気遣ったハルだったが。
「……ハルちゃん」
「ん?」
「あの人たちってどっちが右だと思う?」
「真琴」
軽く小突き合うナンパエージェントたちを映す真琴の瞳に欲望の焔が灯った。手にはいつの間にか防水カメラが。
「真琴、プールへ行くぞ」
「待てよ!」
軽くため息をついて真琴とプールへ向かおうとしたハルの隣で小さな悲鳴が上がる。無視された男が真琴の腕を無遠慮に掴んだのだ。
瞬時に宙へ舞う俺様イケメン。地面に叩きつけられるのと同時に鳩尾にハルの踵が沈み込み、額にピタリと魔導銃50AEの銃口が押し付けられた。
「……退けよ小童……裂くぞ……?」
カクカクと頷く俺様。それを冷ややかな眼差しで一瞥すると、ハルは引き摺るように真琴の肩を掴んでその場を後にした。
「ありがとう、ハルちゃ」
「オイ、お前、大丈っ……あっ」
カシャカシャ! ハルの背後でシャッターが切れる軽い音がした。
●夕べ
打ち合わせた訳でもないのにデザートが並んだテーブルゾーンで再会した一行は、のんびりとフルーツや屋台の食事を食べていた。
「猫さんとカニさんがいっぱいなんだよー!」
九繰とエミナのリンブレ・ゴーのキャラクターを見ながら、ルゥルゥが楽しそうに自分のそれと照らし合わせている。
「好きなので、つい」
「これはレア、でしょうか」
「日本人形、騎士、モヒカン……うっ、何故か頭痛が」
「だ、大丈夫でしたか?」
どこか慌てた風のミュシャが声をかけて来た。
「あ、ミュシャさん! だいじょうぶ、とは」
「いえ、ちょっと羽目を外したエージェントが居るので」
「そう言えば、そんな人がいましたよね」
淡々と答えるエミナの言葉に九繰が首を傾げる。九繰も声をかけられていたのだが、泳ぎに夢中で思いっきりスルーしていた。
「フルーツも美味しいですが、やっぱりアイスやジュースは欠かせませんよね!」
「そうですね!」
「わかります!」
急に盛り上がる女子たちの会話に、少し疲れたような武之とエルナーが同時にドリンクを啜った。
果物を溶かすかのようなスピードで食べる真琴ごしに、ハルの目が一瞬険しくなる。そこには、女性多めの華やかなテーブルを遠巻きに見るさっきのナンパエージェントたちの姿があった……のだが。
「スイーツハンターだ……、無理だよ。あれは叶わない」
ひそひそと交わされる声が一瞬の静寂を縫ってハルの耳に届いた。
「ん、どうしたの、ハルちゃん」
「……いや。────今も悪くないがやはり元がいいのぅ」
少し考えたハルの手には真琴も見覚えのあるジェル状の。
「あ、やめ、まだ写真とってないの! 自慢、自慢できなくなるー!」
「さっきミュシャ殿と撮ったのがあるじゃろうに」
「体型一緒じゃん! ばれちゃうじゃん!」
「あ、あたしは今日は使ってませんよっ!?」
焦るミュシャを他所に、幻を解かれた真琴の悲痛な声が響いた。
「──美鶴ちゃん、写真撮ってたの?」
そろそろ帰り支度を、と荷物をまとめていたサヤは美鶴のカメラに気付く。液晶を操作すると夏島の風景とサヤの写真が並んだ。その中の、口を開けて笑ったり悲鳴をあげる自然な自分の姿に、サヤの中でストンと納得するものがあった。
「それで、いいのかしら……ありがとう美鶴ちゃん。でも────」
当たり前だが、そのカメラには撮影者は写っていない。
「今度は美鶴ちゃんも撮ってあげるね」
対して、美鶴はにこりと笑った。
「クリスマスの時にサーヤは言ってくれたわよね。『ありのままの美鶴ちゃんといいなって思うから』って。
今、その言葉を返しますわ。私もありのままのサーヤがいいと思いますわ」
「……ありがとう」
体型に戻った真琴はハルに笑顔を向けた。
「楽しかったねー」
「良い休暇じゃったな」
「ちょっと冷たいものばかりだったから、温かいの食べたいね!」
「……まだ食うのか……?」
砂浜へ着くと、船の外で出迎えた女性スタッフに九繰は、そして一行の誰もが笑顔で答えた。
「皆さま、夏島は楽しめましたか~?」
「とっても楽しかったです!」
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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