本部

【神月?】結婚式+豪雨=プール遊び?

岩岡志摩

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
4人 / 4~6人
英雄
4人 / 0~6人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2016/09/02 15:00

掲示板

オープニング

●混ぜるな『インシィ』とオーパーツ
 インターネット上に確認される存在の中に『インシィ』という集団がある。
 国籍や所属人数はもちろんのこと、構成メンバーの素性も一切不明。
 わかっていることはネットに飛び交う様々な情報を監視しており、何気ない事件から怪しげな事件まで、誰かが集めようとすれば『必要以上に』集めてくれる、ありがたいのかそうでないのかわからない集団だ。
 そんなインシィメンバーらがたむろしていると噂されるのがライヴスネットと呼ばれるSNSツール上で、今日もまた暇を持て余しているらしいメンバーの書き込みらしきものが、画面上の各スレッドに並ぶ文字列を更新していく。
 その文字の羅列の中に、たまたまネット内へ潜っていたジョセフ・イトウ(az0028)は気になる『犯行予告文』を発見した。
「結婚式をオーパーツでぶち壊す?」
 興味をもったジョセフはさっそく実情を調べる為『様々な手段』を使い始めた。

●八つ当たりです
 『インシィ』が構築したパスワードなどを密かに全てこじ開けて、関連情報を根こそぎ強奪したジョセフが、手に入れた情報を、部屋にいるリンカー達に機械を通じて提供していく。
「『犯行予告』の内容は、この時期に行われる結婚式に集中豪雨を振らせて台無しにする、というものだよ。なんでも『結婚式のライスシャワーを、俺の血の涙である豪雨に変えてやる』とかなんとか。経緯は不明だけど可能になる手段をインシィメンバーが手に入れちゃったみたいなんだよね」
 それは『レインバースト』と呼ばれるオーパーツだ。
 一般人も使うことが可能で、使用すれば半径500m以内に突如として集中豪雨を2時間程度振らせることができるものらしい。
「ただし1度使い切ると、再び使えるようにするにはライヴスの充填が数日間必要だから、災害と呼ぶには規模が小さいけど、屋外で行う結婚式にとっては十分迷惑な機能かな」
 またこのオーパーツについてもジョセフが調べた結果、豪雨の源となる水は、その地域の空気に含まれる水蒸気であり、それを強引に雨に変えているに過ぎず、もともと雨の少ない地域や砂漠等の乾燥地帯でも豪雨が降るかはまだわかっていない。
 仮に降らせることができたとしても、今後の気候に何らかの影響を及ぼす可能性は否定できない。
 さらにジョセフがオーパーツを手に入れたインシィメンバーについて調べた結果、2か月前に行われた結婚式で、その当日、誓いの儀式をあげる前に花嫁に逃げられてしまった男だそうだ。
 また会場に保管されていた出席者からの祝儀袋の束と、『結婚式が終わったら私が役所に提出するから』と花嫁に言われて渡した婚姻届も、会場のゴミ箱の中からお金を抜き取られた祝儀袋と一緒に見つかった事もジョセフの調べで判明している。 
 なお件の花嫁だが、会場での祝儀袋など金銭や貴重品の窃盗容疑で既に警察に逮捕されており、取り調べの中で男と結婚する気など最初からなかったと自供している。
 男の嘆きは凄まじく、その感情が怨念に変わってもなんら不思議ではない。
 だがこの男の面白いところは、その憤りが自分を騙した元花嫁ではなく、世の中の幸せなカップル全体に向いてしまったことだろうか。
「それ以来、幸せなカップルが憎らしいから結婚式をぶち壊しにしたいと、会場と時間帯を指定した犯行声明を出して、既に何件か豪雨で結婚式を台無しにしている。律儀なのか不真面目なのかわからない奴だよ」
 そう言いながらもジョセフの操作で、スクリーンにとある場所にある教会型の結婚式場が映される。
「ここは高地にあるから涼しいので、夏でも結婚式が挙げられる会場として有名な所だ。『ここで近々結婚式が行われるらしい、詳細は後で報告する』という情報をインシィメンバーに向けてばら撒いておいた」
 ジョセフの物言いにひっかかるものを感じた部屋のリンカーがジョセフに尋ねる。
「もしかして、その結婚式は罠か?」
「そういうことだよ。この男がネットでたむろしてるライヴスネット周辺のパスワードは全部破れるから、どんな結婚式が行われるかの情報は、この男がいるネット上に限定して自由に流す事ができる」
 現在までに判明している男の行動は、レインバーストを大きな旅行カバンの中に詰め込んで結婚式場の近くに出没し、まさに結婚式が最大に盛り上がっているだろうタイミングでレインバーストを起動して大雨を降らせる、というものだ。
 今回はそのタイミングからメンバーが身を潜めそうな場所まで全てこちらで設定できる強みがある。
「オーパーツを持った男をおびき出すにはどうしても花嫁役と花婿役が必要だけど、雨に濡れる可能性もあるので無理に男女の組み合わせである必要はないし、どうせ濡れるから水着とかの持参も大丈夫。後ろにプールもあるから」
 このあたりからジョセフの話が妙な方向に動き出した。

●捕り物はカオスと娯楽付き
 スクリーンに映された結婚式会場の後ろには、大人数が遊べるプールも広がっており、ジョセフがこの場をカオスと化す発言を投下した。
「上層部の話だと『花嫁役は男性でもいいし、1対複数とか数が違っても大丈夫』だって。衣裳や化粧道具やメイク担当の人達はしっかり用意するからそこは心配ないよ。遠目で花嫁に見えれば問題ないから」
 いや問題なのは違うところだろ、と部屋にいたリンカーの男性陣が内心ツッコミを入れたが構わずジョセフは告げた。
「今回オーパーツの回収さえしっかりやってくれれば、花嫁花婿役とかは男性陣とかにおしつけ……じゃなかった。有志がやって、遊びたい人……じゃない、不測の事態に備える人達は、会場の後ろにあるプールで遊ぶなり、料理を好きなだけ頼んだりとか、自由に動いてくれていいよ。ただ犯人は一般人だからそこは手加減する必要があるかな」
 なおプールは周囲からの覗き対策の為、高台に設置されているので、式場利用者以外の人に覗かれる心配はないとの事だ。
 その後ジョセフの手助けでインシィメンバーになりすましたリンカー達の情報操作にひっかかった男は、リンカー達の指定した場所と時間帯で犯行を行うとライヴスネットに声明を出した。
 ここにプール遊び……もといオーパーツを巡った大がかりな捕り物劇が始まる。

解説

●目標
 表:オーパーツ「レインバースト」の回収
 裏:プール遊び

●登場
 インシィメンバーの男。略称【非リア】。
 オーパーツ「レインバースト」を所持。大きな旅行バッグにオーパーツを入れ、抱えた姿で動いているので、場所によってはよく目立つ。結婚式の間、どこかに身を潜めている。一般人。
 
 オーパーツ「レインバースト」
 使用すれば半径500m以内に突如として集中豪雨を振らせることができる。最大2時間程度。
 一般人も使うことが可能だが1度使用すると、次に使える様にする為にはライヴスの充填が数日間必要。
 
 インシィ
 ネット上に存在する正体不明の集団。「あなたたち」はインシィメンバーになりすまし、上記の男を誘導するような書き込みなどを自由に実行できる。「インシィ」に成りすました時の名前設定なども自由。

●状況
 高所にある教会型結婚式場、夏でも涼しい環境の中、結婚式が挙げられる会場として有名な所。
 出される料理や飲み物は全て無料。罠、もとい式の段取りなどは『あなたたち』の手で自由に変えられる。
 参加者、花嫁、花婿を偽装する為に必要な衣装や化粧道具一式、罠用の道具は全て用意される。
 プール遊びの為の水着などの遊具、もとい豪雨対策道具も持参可能。
 花嫁役は殿方でも大丈夫(花婿、花嫁役共に複数、1対1でなくても大丈夫)とのこと。
 教会のおよその見取り図は下記の通り。
 1マスあたり縦横100m。

   123456
 A林□水水水水□林
 B林□水水水水□林
 C林□□聖堂□□林
 D林□□聖堂□□林
 E林□□教会□□林
 F林□□■■□□林
 G林□□■■□□林

 聖堂:大人数を収容可能で雨の時にはここで式を続行できる。
 教会:結婚式の儀式を一通り行える場所。
 水:プール施設。高台にある。水深は平均1.3m程度。
 □:芝生
 ■:結婚式で一番盛り上がるときに新郎新婦・参列者達が集まる場所
 林:見晴らしのいい木々。

リプレイ

●インシィの罠
 オーパーツ「レインバースト」を使って結婚式を台無しにする男を捕獲し、オーパーツを確保する作戦は、H.O.P.E.エージェント達の手でさらに着実かつ巧妙なものへ変化した。
 まずは笹山平介(aa0342)がインシィメンバーに扮してSNSに書き込んだ内容から始まる。
 ――彼女に全財産を持ち逃げされました。その彼女が私の親友だった男と結婚する事になったので何とかして仕返しをしたい。
 ――ただ私には仕返しをする程の力が無い。誰か力を貸してください。
「こんな感じでいかがでしょうか?」
 すっかりインシィメンバーになりきった平介が、該当する男が喰いつきそうな単語を散りばめた文章をSNSに書き込みながら、傍らで同じくインシィメンバーに扮して『工作』をしている柳京香(aa0342hero001)に確認を求める。
「問題の男がうまく喰いついてくれるといいんだけど……。惨事になる前に男とオーパーツはおさえてね」
 相談の結果、オーパーツを持つ男を釣りだすための偽装結婚式の花嫁役を京香が、花婿役はカミユ(aa2548hero001)が務める形になったので、京香としてはそのあたりも気がかりだった。
「そのあたりは抜かりなく行いたいと思ってます。……あ、早速反応がありましたね」
 平介が自身の書き込みに反応した相手とやりとりをする中、他のインシィメンバーになりきったカミユや賢木 守凪(aa2548)、榊原・沙耶(aa1188)と小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)、赤城 龍哉(aa0090)とヴァルトラウテ(aa0090hero001)ヴァルトラウテが手分けしてSNS上に『罠』を張り巡らせる。
「しかし……何ともはた迷惑だな……」
 平介が『応対』しているのと同じSNS内スレッドへ『工作』を続けていた守凪が、男の起こす『豪雨』についてそう感想を漏らすと、隣で『結婚式の内容はこうだと聞いた』『誓いのキスをわざわざ屋外でやるらしい』などと、男が仕掛けてきそうな、一番盛り上がるイベント情報を書き込んでいたカミユも頷いた。
「でもそのオーパーツ、回収しないわけにはいかないよねぇ」
 カミユの言葉に別の方面からオーパーツを持つ男の行動範囲を制限できそうな『情報』をインシィに扮してばら撒いていた龍哉やヴァルトラウテも、このオーパーツを回収する必要性に賛意を示す一方、多少男に同情していた。
「しかし、本当にあるんだな。こういう結婚詐欺ってのが」
「詐欺にあった事自体はお気の毒としか言いようがありませんわね。ただ」
 同情を示すヴァルトラウテの言葉を引き継ぐ形で、龍哉は男の所業への見解を口にする。
「ああ、今やってる事はアウトだな」
 自分が被害に遭ったからといって、それが無関係の人達に嫌がらせをする理由にはならないが、それ以前に。
「そもそも、そいつどこでそんなオーパーツ拾って来たんだよ?」
 そのあたりは男やオーパーツを回収できれば、いずれわかる話になるだろう。
「雨を降らせるオーパーツ……。天候を操れるとか、神の所業だわ」
 沙耶は沙羅と共に書き込みに反応を示した複数の反応のうち、オーパーツを持つ男ではない相手を巻き込まぬよう、ジョセフ・イトウ(az0028)の助力も得ながら選別と違う相手をブロックする作業を行いつつも、オーパーツの性能に興味を示していたが、『何でこんなつまらないことに使うのかしら』と男の間違った使い方に内心不満だった。
 この世界には雨を切望する地域は無数にあり、使い方次第では人々に感謝される筈なのに、嫌がらせにしか使っていない男の手元にオーパーツがある状況は沙耶からすれば、物騒でならない。
「皆さん、獲物が釣れました。この人物がそのオーパーツを持っているみたいですよ」
 そんな中、平介の嬉しそうな声が聞こえてきたので、沙耶、沙羅、守凪、カミユ、龍哉、ヴァルトラウテが平介と京香のもとに集まる。
 平介と京香が向かい合っている機器の画面では、引き続き『インシィ』になりきった平介と相手とのやりとりがスレッド内容を更新し続けているが、同時にどこから入手したのか、男の外見がわかる映像が次々と画面の端々に表示されていく。無論これらはジョセフがあちこち『探った』結果だ。
 これといって何の特徴もない、いたって普通の男の姿がどの映像にも映っていたが、やたら大きなリュックサックを背負っている部分が特徴といえば特徴だった。
 平介はどうにか事が始まる前に男と接触をとろうとしたが、画面の向こうにいる男の方は未だ警戒しているのか、最後まで平介との事前接触に応じようとはしなかった。
 それでも平介演じるインシィの熱意(?)に押されたのか、男から『現地で合流しよう』と回答があった。
 平介も『では識別の為、合言葉を作りませんか?』と応じ、男から『それはいいアイデアだ』と返ってきたので、平介が『合言葉』をスレッド内に書き込んでいく。
 それを横で見ていた京香はその内容に若干顔をひきつらせ、沙耶とカミユは忍び笑いを漏らし、守凪と沙羅は無反応。龍哉とヴァルトラウテは呆れと困惑と懸念を足して3で割ったような名状しがたい表情を作った。
 こうしてSNS上での下準備は終わり、エージェント達は現場となる教会施設での結婚式の偽装のため、現地に向かう。

●確保
 澄んだ青空の下にある教会の鐘楼から、これから行われる行事を祝福する鐘の音が響き渡る。
 今日はここで結婚式(ただし偽装)が行われる。
 既に教会前の広場には平介からの依頼により正装した複数の人達がコの字の形で右側には女性の参列者、左側には男性の参列者が整列している。
 もちろんこれはH.O.P.E.別働隊員達の変装した姿であり、受付役に扮した沙耶と沙羅の事前チェックを受け、全員身元は保証されている。
 スケジュール通りであれば、その中央の開いたスペースで誓いのキスが行われ、それが最も盛り上がるイベントになるとSNS上でばら撒いているので、オーパーツを持つ男はほぼ間違いなくその瞬間を狙う筈だ。
「今回は……よろしく……頼む」
 そして教会の中ではこれから問題の男に接触する平介に向け、守凪がなぜか視線をあわせない状態で頭を下げ、囮役の片方であるカミユは白の礼服に着替え、緋色のピアスが映える装飾を纏った姿で京香に『よろしくね、花嫁さん』とうきうきした様子で笑顔を送っていた。
 そして京香は結婚式場でもある会場から借りた純白のドレスに身を包み、頭にベールを被り、全身を白一色で包み込んだ、普段身につけるピアスやネックレス、口紅に加えて化粧も施され、気合いを入れて着飾った花嫁姿だったが、カミユの笑顔と垣間見える紳士的な振る舞いに一瞬胸の高鳴りを覚え、辛うじてこうカミユに応じる。
「……私でいいなら……がんばるわ」
 そんなやり取りの中、平介は『ではオーパーツを持つ男のところへ行ってきますので後はお願いします』と言い残し、教会から外に出て、後を守凪やカミユ、京香に託し、お願いされた守凪は自分でもよくわからない感情を抱えつつも、参列者に混じる為同じく外に出て不測の事態に備える。
 そんな中、ヴァルトラウテと共鳴し前髪の一房を銀色に染め、左目の瞳に蒼色を、ヴァルトラウテの鎧を己の体に合う形で纏った龍哉は、イメージプロジェクターを使って教会施設スタッフの姿に変装し、清掃など数々の作業をこなしながら、問題の男がどこにいるか探る為、敷地周辺を巡回していた。
「可能であれば、オーパーツ発動前に犯人の身柄を確保したいところだが……」
(オーパーツを壊すのは駄目ですわ。それと相手は一般人だという事をお忘れなく)
 内よりヴァルトラウテからの的確な助言を受け、龍哉はできるだけ手加減して犯人である男を抑えこむ形に思考を切り替えた。
 共鳴状態の能力者は一般人よりはるかに優れた身体能力を有しており、一般人の身柄を抑えるなど造作もない。
 そして龍哉が一通り施設の敷地を見渡す限り、周囲には見通しのいい林があるばかりで、大きなリュックサックを抱えた男がいればすぐに目立つ。
 それは受付を終え、今は式場で用意してくれた水着に着替えて、高台にあるプールに場所を移した沙耶と沙羅の視界からもはっきりとわかる事だった。
 ちなみに沙耶は借りた浮き輪を使ってプールの水面上に浮かびながら、同じく水面に浮かべたトレイに並ぶ、たこ焼きやトロピカルジュースを嗜みながら周囲を監視するという優雅な形で警戒活動を続けている。
「潜水してる可能性もあるから沙羅は水中を調べるよ」
「さすがにそこにはいないと思うわよ?」
 沙耶は沙羅の予測に疑問を呈したが、沙羅は構わず水中に飛び込むと、不審な点がないか泳ぎ回って調べる。
 英雄は呼吸を必要としないので、その気になれば何時間でも水中にいることができるのが沙羅の強みだ。
 そんな中、どこからともなく狼の遠吠えのような音と、フクロウが鳴くような音が響き、それらを共鳴で身体能力が強化された龍哉の鼓膜が捉えた。
 そして龍哉、沙耶、守凪の持つスマホに平介から『犯人と思しき男との接触に成功しました』とのメールが届き、沙耶からもライヴス通信機を介し龍哉に向け連絡が入る。
『林の中にリュックサックを背負った男がいたわ。礼服着てないから目立つわよ』
「場所はわかった。これから向かう」
 平介と沙耶からの連絡にそう応じた龍哉が、音のあった方角へと動く。
(私、思うのですが。犯人の方、あまり頭はよろしくないのでは)
「そう言うな、ヴァル。俺もまさか犯人が平介の『合言葉』を本当にやるとは思ってなかった」
 龍哉がげんなりとした口調で、内にいるヴァルトラウテにそう応じつつ、判明した場所へと急ぐ。
 合言葉として『SNS上で指定した動物の鳴きまね』を使い、男と合流を果たした平介は男に『結婚式を台無しにする方法』を伺い、その手段を自分にやらせてくれないかと頼み込んだが、色よい返事がもらえなかったので、スマホのメール機能で隠密性を高め、自分達の居場所の他、どう動くつもりかを仲間達に伝達していた。
 やがて花婿役のカミユと花嫁役の京香が教会から参列者たちの待つ広場に登場し、歓声と拍手が巻き起こる。
 もちろんH.O.P.E.別働隊員達の演技だが、その中で守凪は何か考え事をしつつも演技をこなしていた。
「……結婚式、か……。結婚式……」
 そう呟きつつ守凪が考え事を続ける間にも式が進行し、カミユは京香に爽やかな笑顔を見せる。
「うん、やっぱり京香さんは綺麗だね。京香さんが相手役じゃなかったら、ボクもやりたくなかったし」
 京香が返答に窮する中、いよいよ式は誓いのキス(演技)の段階に至る。
「ベール上げてもいい?」
 嫌がりそうならここで止めるつもりだったが、嫌がる様子はなかったので、カミユは京香のベールを上げる。
 そしていよいよ、というところで周囲が迅速に動き出す。
 礼服姿でない男が、林の中から平介と共に広場に近づき、リュックサックからオーパーツ「レインバースト」を取り出したところで、芝を蹴りたてて疾走してきた龍哉が男に飛びかかり、かなり加減した力で男の腕を捻り上げて芝の上に抑えこんだ。
 その横ではいつの間にか参列者の中から抜け出ていた守凪が、男に同行していた平介を抑えこむ姿があった。無論これは平介の演技に守凪が協力した形だ。
「騙された事には同情するが、それが無関係の人達に迷惑をかける免罪符にはならねえぜ」
 龍哉は男を手加減して抑えこむ中、そう諭すが男にそれが通じるかは龍哉もわからず、内にいるヴァルトラウテは何故か無言だった。
 そんな犯人が捕まったとわかった京香は恥ずかしさで顔を背けつつ、動揺した様子でカミユに謝罪する。
「ご、ごめんなさい……。もう着替えないと」
 そう言い残し、逃げるように花嫁姿の京香は教会の中へと消えていく。
 そして参列者役だったH.O.P.E.別働隊が龍哉と守凪から男やオーパーツ、平介を引き取り、無事オーパーツを悪用する男とオーパーツの回収に成功した。
 やがて平介と男が別の車にそれぞれ乗せられる間際、平介は男に感謝の言葉を送った。
「貴方は私の訴えに同情し、こうして同行を認めてくれる優しさを見せてくれました。それが私には嬉しかったです」
 演技であっても男がこれ以上裏切られた事でみじめな思いをしないようとした、平介なりの配慮だった。
 その言葉に男は抵抗を止め、大人しくなった。

●プール遊び
 元の姿に戻ったH.O.P.E.別働隊員達が、手配した車に確保した男やオーパーツ、そして平介を乗せ会場を後にしていくが、数分後1台の車が戻ってきた。
 中から出てきたのはもちろん平介で、後を追いかけてきた守凪に頭を下げる。
「ご心配をおかけしました。もう大丈夫です」
「……遊ぶ相手が減るのは……困る……から、な」
 そう守凪が平介に応じる中、戻ってきた車のもとへ、水着姿から元の服装に戻った沙羅が駆けつけるなり、自分を犯人のところへ連れて行くよう要請する。
「また同じ被害が出ない様、あの犯人の腐った性根は叩き直す必要があるのよね」
 沙羅の熱意におされる形で運転手は頷き、やがて沙羅を乗せた車は式場から駆け去って行き、平介と守凪は教会施設を抜けてプールに向かう。 
 既にプールには沙耶の他に龍哉とヴァルトラウテ、そしてカミユと、カミユから『プール、入る?』と誘われて、心なしかぎごちなく応じつつもやってきた京香の姿があった。
「せっかくの機会だ。ありがたく料理を堪能させてもらおう」
「目で食す、というのはこのことだよねぇ」
 龍哉とカミユ達の前に顔を出したのは、様々な具の入ったサンドイッチの群れだ。
 トーストのこげ茶色は白い皿に映え、そこから覗く色とりどりの具が陽を浴びてきらめいており、まず龍哉やヴァルトラウテ、遅れて平介と守凪、沙耶、カミユと京香も手を伸ばしていく。
 スモークサーモンはレモンとコショウのアクセントがきいており、7人の口の中で素材の味と香りを広げていく。 
 ズッキーニとベーコン、ハムのサンドイッチは基本中の基本だが、だからこそ味が出る、と口に運んだ龍哉は思う。
 マスタードを混合したバターとハム、ベーコンの相性は当然として、ズッキーニの歯ごたえが素晴らしい。
 調理者が丁寧にズッキーニに塩をふって水気をとってあるので、べちゃべちゃにならず、噛めばこりこりとして、さっぱりとした後味を残す。
 メイン料理には、牛肉のココア煮が現れた。
 信じがたいほど柔らかく煮込まれた牛肉は、7人の唇で噛み切れるほどで、平介や守凪がスプーンでニンジンやブロッコリーをつつくと、抵抗なく裂け、すみずみまで味の沁みた牛肉は、肉の旨味というものを7人の口の中で表現していた。
 別に用意されていた手作りと思しき白パンは薫り高く、沙耶がパンを手に取りココア煮に残ったソースと絡めれば、サンドイッチとは異なる美味を沙耶の舌にもたらし、いつしか用意された料理の皿が空になっている事に7人は気付く。
「私、大食漢という自覚はなかったんだけど……」
「美味しかったんだから、別にいいんじゃない?」
 困ったような笑顔を見せる京香に、しっかり料理を堪能できたカミユが満足そうな笑顔を向け、そんな2人を平介は微笑ましく、守凪は穏やかに見守っていた。
 食後の腹ごなしも兼ねたプール内での遊びは、教会が用意してくれた遊具によって、ハイレベルなものに変化する。
 『スポーツみたいな遊びは遠慮するわ』と早々に表明した沙耶と、何故かプールサイドで心あらずな状態の守凪、そんな状態の守凪にさりげなく寄り添う平介を除き、龍哉とヴァルトラウテ、カミユと京香が、教会施設から借りた水着姿で水上と水面下を『飛翔』していた。
 共鳴状態でなくても能力者や英雄には一般人よりも優れた身体能力を残しており、今は龍哉とヴァルトラウテ、カミユと京香の2組に分かれ、1個の重りをついたボールを相手側が決めたプールの壁に当てれば勝ちという簡単なルールのもと動き回っているが、4人とも目まぐるしく水中を駆けているので、ハイレベルな水中競技にしか見えない。
 そしてこの簡単な水中、水上ゲームは決着がつかなかったが、呼吸の必要が全くなかったカミユと京香チームの方がやや優勢であったことは記載させて頂く。
「皆さんお疲れ様でした。またご一緒できましたら幸いです。それじゃぁ守凪さん帰りましょうか」
 それぞれの形で『プール遊び』に興じた仲間達を労いつつ、平介は守凪に声をかけると、守凪はようやく少しだけ笑みを浮かべて頷いた。
「……ああ。帰るか」
 そして平介と守凪は何やら陰でこそこそと話し合った末、カミユと京香には2人で帰ってくるよう頼んだり、あるいは言い渡し、先に教会を後にする。
「腹ごなしにしてはハードなプール遊びだったな」
「でも、楽しかったのは事実ですわよね?」
 元の姿に着替え終わり、合流した龍哉とヴァルトラウテはそんな感想をかわしながら、教会施設から帰宅の途につく。
 沙耶は沙羅を迎えに行くため、H.O.P.E.別働隊に連絡して用意された車に乗り、連行された男のもとへと向かう。
「さて。沙羅の説教の結果、あの男はどんな感じになったのかしら?」
 この時沙羅は身柄を確保された男に向け、自分の胸が大平原な状態でも強く生きている事も主張に加えつつも、男が並べ立てた自己弁護の壁をことごとく粉砕し、なお説教を続けていた。

●その後
 こうしてH.O.P.E.エージェント達の様々な工作により、オーパーツ「レインバースト」の更なる悪用は未然に防がれ、悪用していた男と共にオーパーツは無事H.O.P.E.のもとへと確保する事に成功した。
 H.O.P.E.に身柄を確保された男が沙羅よりみっちり説教を受け続けた結果、取り調べの為やってきた担当官が呆れるほど素直に男は数々の犯行を自供して裏付けがとれたのだが、男がひどく憔悴していたことが謎といえば謎だった。
 これについては、沙羅を迎えにきた沙耶が『世の中には知らない方がいいって事もあるわよぉ』と意味深な言葉を残し帰って行ったので、詮索しない方がよさそうだ。
 なお平介と守凪の計らいで英雄同士の時間を過ごしたカミユと京香が、帰宅するまでの時間をどう過ごしたかについては、記録が残っていないので詳細は不明だ。
 そして今回の一件については、龍哉の言葉が最も的確だった。
「やっぱり八つ当たりはよくないぜ」
 確かに。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 分かち合う幸せ
    笹山平介aa0342
    人間|25才|男性|命中
  • 薫風ゆらめく花の色
    柳京香aa0342hero001
    英雄|24才|女性|ドレ
  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
    機械|27才|?|生命
  • 今、流行のアイドル
    小鳥遊・沙羅aa1188hero001
    英雄|15才|女性|バト
  • コードブレイカー
    賢木 守凪aa2548
    機械|19才|男性|生命
  • 真心の味わい
    カミユaa2548hero001
    英雄|17才|男性|ドレ
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