本部

夏祭りハザード~非リアの夏、俺たちの夏~

星くもゆき

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2016/08/29 20:42

掲示板

オープニング

●亡者は死なず

「モテたい……モテたい……」
「死すべし……カップル死すべし……」
「あんず飴……うま……」
「かゆい……○○○……」

 漂う臭気、汚らしい肌。見るもおぞましい亡者の群れ。石でならされた道は何か気持ち悪いぬめぬめで覆われていて、女子や潔癖症の人は鳥肌立ててソッコー走り去ってしまうことだろう。
 その様は、スクリーンの向こうにあるはずのゾンビホラー(orコメディ)を髣髴とさせる。
 そこは夏祭りを催していた神社。大きな参道を集団で闊歩し、脇に設えられた出店の売り物を貪り、またゲームに興じ。一個の軍勢かのように、夏祭り会場を蹂躙する亡者たちの正体は従魔である。
 奴らはバレンタインの頃にリア充を滅ぼすためだけに生み出された、非リアの怨念の塊ともいうべき獣。その背景にはとある愚神の盛大な誤解があったのだが、それはここでは省こう。
 亡者たちは発生した当時に大部分が抹殺された。バレンタインが終わると特に大きな騒ぎも起きなかったため、H.O.P.E.も駆逐完了という認識でいた。(しち面倒くさい)悪夢は終わったのだと。

 しかし、夏というリア充の季節も盛りに入った頃に、奴らは再びその姿を現したのだ。
 リア充ども(普通の一般市民)で賑わっていた平和な夏祭り会場は、どえりゃあ地獄絵図に変わり果てていたのだ。

 奴らの行動原理は至極単純。

 リア充滅却。汚物は消毒。


「楽しく夏祭りを過ごしてるんじゃねえ」
「俺たちのような日陰者だってエンジョイしちゃっていいはずだ! ……いや、エンジョイさせて下さい!」


 泣きながら行進する亡者たちの背中が、そんなことを言っているような気がした。


●駆逐班出動!

 現場の惨状を映し出していたプロジェクターのスイッチが切られると、エージェントたちは白い壁を見つめながらため息をついた。
「夏祭り中の神社を、例の亡者たちが襲撃しています。もうとっくに消え去ったと思っていましたが、隠れ潜んでやり過ごしていたようですね。ちなみに山地や下水道に潜伏していたのでしょう、とっても『くっせえしきったねえ』状態になっています。レベルアップです」
 オペレーターさんの淡々とした説明が続く。眉一つ動かさずにこんな説明できるなんて。
「データとかは端末に送っておきます。口頭で伝えるの面倒なので。皆さんは一刻も早く輸送機でゴーしてファイヤーしてきて下さい。仕事きつそうなので報酬は弾みますよ。ファイト☆」
 もう事件が事件だし、自分は行かねえしで職務放棄に近いほど仕事が雑です。何なの、さっさと汚物処理に走ってこいやってことなの。人遣い荒すぎるんじゃないの!?
「幸い、予知ができていたので一般客の避難はギリギリ間に合っています。犠牲者はいませんし、取り残された人もいません。なので、現場では好きなだけストレス発散ができることでしょう」
 ぐっと握り拳を作り、オペレーターさんがニヤリと笑う。H.O.P.E.ってストレス溜まる職場なんだろうか。
 とたわいないことを考えていても、どの道くっせえしきったねえ現場に行かなくてはいけないことに変わりはない。エージェントたちは気が重くなりながらも待機室を出ていく。
 皆がいよいよ扉を過ぎ去ろうとしたところで、オペレーターがぽつりと付け加える。
「あ、亡者たちは何故か全員、全裸です。まぁ……色々気をつけて下さいね」


 HAHAHA、こやつめ。

 HAHAHA……。

解説

■概要
 バレンタインの頃にリア充滅却のために生み出された従魔『亡者』の生き残りが現れた!
 奴らは半年近い潜伏生活によりパワーアップし、『くっせえしきったねえ』状態になっていた。
 リア充どもが楽しむ夏祭り会場が奴らに襲撃される予知を受け、エージェントたちは駆逐任務に臨むのだった。
 敵は雑魚なので苦戦することはないだろう。だが現場は『くっせえしきったねえ』ので注意されたし。

■敵
・亡者(♂)
 頭部以外への攻撃では絶命しないゾンビ風従魔。
 素早いフットワークを誇る雑魚。
 リア充な雰囲気と出店の食い物に惹かれる習性あり。
 特にリア充には鬼の形相で襲いかかって来る。(威圧感がデクリオ級ぐらいになる)
 潜伏生活を経て肉体が汚れ、とっても臭く、とっても汚くなっている。
 半年で衣服も風化したのか、全員全裸である。

 大別して3種類のグループに分かて、順々に現れる。

・フェーズ1→出店で遊んでいるが、虚しさに涙が止まらない普通亡者×200

・フェーズ2→神輿をワッショイしてエンジョイ感を装うも、虚しさに涙が止まらないムキムキ神輿亡者×100

・フェーズ3→虚しさに自暴自棄になって花火玉よろしく空中に射出され、エージェントたち目がけて降ってくる『きたねえ花火』亡者×100
 空中で撃ちぬいて『きたねえ花火』にする射的をお楽しみ下さい。
 落とせなかった場合は全裸の亡者が降りかかってくることでしょう。(

■場所
 森の中に本殿を構える、割と大きな神社。
 参道の両脇に多くの出店が並んでいるが、緊急避難により一般人の姿なし。
 代わりに全裸亡者が闊歩し、物悲しい夏祭り状態。
 くっせえしきったねえ。地面が謎の液体でぬめっている。

■状況
 夜。快晴。そこそこ涼やか。
 駆除チームとしてH.O.P.E.から派遣される。
 参道に空中輸送機から降下してミッションスタート。
 ジェットパックでどうぞ。

リプレイ

●因縁断つべし

 広い参道に、亡者らが蠢く。
 そして上空、それらを駆除する精鋭たちを乗せた輸送機が滞空。
 どうしてこんなことに。GーYA(aa2289)はそう思った。直下の亡者たちを見て盛大にため息。
 今朝、彼は英雄のまほらま(aa2289hero001)に強くなりたいと直訴した。シャーム共和国で色々経験した彼は、自分も誰かを助けられるほど強くなりたい、とガチな決意をしたのだ。
 まほらまは彼の願いを受け入れて依頼を吟味、1時間ぐらい前に清々しき笑顔で「良さそうな依頼受けてきたわ」とジーヤをここに連行した。
「確かにそう言いました、言いましたがッ」
 どう見ても毛色違うよね。強化されるのメンタル方面だよねこれ。
「何で亡者退治!? しかも全裸!! あぁ思い出したくもない記憶が……」
 以前にも亡者と交戦経験のあるジーヤ。今回はお持ち帰りされないぞ、と心に誓った。
 ジーヤと同様に亡者とは因縁のあるシウ ベルアート(aa0722hero001)は、ひとり静かに着座して集中力を高めていた。近寄りがたい雰囲気だ。ちなみに現在、相方の桜木 黒絵(aa0722)はテレビ収録でとんでもない事故に遭って入院中。
「黒絵が入院中の今、共鳴は出来ない……だけど、共鳴無しの戦い方、勝ち方があるはずだ!」(※ありません)
 シウの目はぎらぎらと焦げつくような光を帯びていた。足元には大量のアニメグッズが詰まった紙袋と、何かポスターが飛び出たリュック。これあかんやつや。
 輸送機の扉が開くと、我先にと降りた一色 綾香(aa4051)だった。彼女は英雄・サイコロ(aa4051hero001)と目を合わせる。
「いくよコロちゃん!」
「OK、綾香」
「リンク、エーレクトロン!!」
「Ver.バスター」
 かけ声とともに共鳴。コスプレじみた外装、背から青く輝く薄羽が開く。
「綾香機、出る! このまま、突っ込めぇっ!」
 そう勢いよく輸送機から飛び出したところで、サイコロの音声が響く。
(「綾香、ジェットパックはいいのか?」)
「あ……コロちゃんウイングモード!!」
(「昔ならともかく今は存在しない。衝撃には対応できるから心配はない」)
「そーゆー問題じゃなくて気持ちの問題ぃぃぃぃ」
 絶叫しつつ落ちていった綾香だが、無事に着地はできたようだ。
 後続、しっかりジェットパックを装着した桜茂 まみ(aa1155)が16式60mm携行型速射砲を携えて飛び降りる。
「そんだけ集まってんならあんたらでカップルになりんよー!! 親にはよ結婚して孫の顔みせんか?って実家に帰る度に言われるうちの気持ちがあんたらにわかるだらかー!! こんドあほ共がー!」
 高速で降下しつつ、亡者たちにとにかく乱射するまみ。銃口から出るは亡者撃滅のライヴス、当人の口から出るはアラサー女子魂の叫び。悲しいのはあんたらだけじゃない、という切ない意志がこもっているぜ。
(「姐さん必死すぎて発言おかしすぎwwウケるんですけどwww」)
 頭の中に松田 拓海(aa1155hero001)の爆笑が響くが、まみは取り合わずに速射砲を撃つ、撃つ、撃つ。
 更に続々、エージェントたちは素早く降下した。
 最後に輸送機に残った獅子ヶ谷 七海(aa1568)と五々六(aa1568hero001)は、戦場に蠢く醜悪な亡者どもを見下ろす。
 胸に渦巻くのは、業火のごとき復讐心。かつて商業ビルで奴らに味わわされた屈辱は今でも忘れてはいない。
 だから、全力で殺す。
 数多の亡者を葬ってきたチェーンソーを駆動。
 共鳴すると、ゆっくりと、体を空中に放った。降下装備もつけていないが、それがどうしたというのだ。
 にぃっ、と顔が歪む。むき出しの犬歯。そこに潜むは怒りか笑みか。
「party's over!」
 人までをも喰い散らす獅子が、亡者の海に解き放たれた。

●ぐっちゃぐっちゃ

 待ち受けていた亡者の群れは、降下したエージェントらに一斉に襲いかかった。目に涙を浮かべた全裸の非リア野郎どもがわんさか。
「ちょっと足場が不安定ですけど……スナイパーの腕の見せどころですね」
 足場のぬるぬるに足を取られぬよう気を払い、卸 蘿蔔(aa0405)は大木を背に構える。
 身を低めて狙いすまし、15式自動歩槍『小龍』の引き金を引くと、 次々と亡者たちの頭が吹き飛んだ。
(「しかしまぁ……こんなになるまでどこに隠れてたんだか」)
「さぁ……」
 亡者のしぶとさに呆れるレオンハルト(aa0405hero001)に小さく返事をして。蘿蔔は黙々と亡者をあの世に送り返していく。
 蘿蔔が撃ちつづける反対側の参道では、綾香が屠剣『神斬』を豪快に横薙ぎ。群がる亡者を寄せつけない。
「涙ながらにお祭りとかキモイ!!」
(「問題はそこなのか」)
「そこだよ! 楽しめないなら、消えて無くなれぇっ!!」
(「ブースト、開始」)
「どっせぇぇぇいっ!!!」
 綾香の怒涛乱舞が、亡者5体の首をまとめて斬り飛ばした。飛んだ頭から涙が弾けたけどキモいから仕方ないよね。
 降下で生じた砂煙が収まると、やる気満々のシウお兄さんがゆっくりと姿を現す。
「仲間と群れているのに非リア充を名乗るのは片腹痛し! 真の非リア充は非現実(妄想)の中で生きる孤高の者なんだよ!」
 声高に主張したシウは、何故か萌えキャラTシャツを着ていた。背中には既出のポスターの入ったリュック、左手にはアニメグッズの紙袋、そして右手には魔法少女ステッキ(非売品の玩具)を握る。
 非リアといえば2次元萌えor3次元アイドルにハマるもの、という偏見をもとに萌え装備ならば亡者が手を出せるはずがないと推測し、有り金はたいて買いこんだらしい。怒られろ。
「さぁ! 君たちを救済して――」
「こいつ……バカだ……」
「殺そ……」
「え? ちょっとー!!」
 挑発してヘイト集めたので、もみくちゃのボッコボコにされた。プレミア萌え装備はクソの役にも立たなかった。

 重傷で戦えない志々 紅夏(aa4282)は、木陰でこっそり戦闘の撮影に終始。エージェントと思われないように浴衣『月下美人』を着ているが、臭気対策の防護マスクという変人スタイル。
「まだ、ロケの傷が癒えていないわ……でも、祭りがくっせえしきったねえとかは良くないわよ」
 子供たちの夏祭りにそんな思い出があってはいけない、と思いやってきたそうな。
「今後ハロウィンやクリスマスに残党がまた出てきましたやっほーとかなったら困るし、記録を取っておかなくちゃ……戦闘や現場、上半身でいいわよね……し、下は知らないっ!」
 木に隠れて何か呟いてる浴衣ガスマスクのツンデレ女。戦場じゃなかったら通報モン。

「……ヒィエェェェ!? 全裸……!? 全裸ナンデッ……!?」
(落ち着け鈴音!! あの股に聳える五重塔はタケノコじゃ!! そう思うのじゃ!!)
 亡者たちの股にある丸出しのタケノコを目撃した御門 鈴音(aa0175)はぐるぐる目を回して慌てふためく。そんな鈴音を落ち着かせるべく、輝夜(aa0175hero001)はタケノコと思えと言う。
「そ、そうか、タケノコタケノコ……」
 ぶつぶつと念仏のように自分に言い聞かせ、鈴音は平静を取り戻す。
 そして自分がここに来た理由を思い出す。
 友達もいない恋人もいない喪女人生街道驀進中の私。それでも私生活ではその悲しみを胸に押し隠して生きている。
 だというのに、だというのに。
 亡者風情が私を差し置いて暴れている? ならもう殺っちゃうしかないよね☆
「モウコロス」
 己の使命を再確認した鈴音の目は、血に飢えた戦士。
 出店で何体かで遊んでいた亡者たちに目をつけると、鈴音は鬼帝の剣をぶん投げて出店ごとぶっ潰した。
「み……店が……」
「一人で遊ぶことの楽しさがわからない? そこに楽しみが見いだせない時点であんた達の嘆きなんて小さすぎるわよ! 地獄に行きなさい!」
 地面に突き立った鬼帝の剣を掴んで振り上げ、亡者の首を跳ねる鈴音。豪傑系女子。
「こ……この女……」
「私だって! 彼氏とか! 欲しいのにーー!!」
「それ八つ当たりぶごぅふ!?」
 大剣を右に左に振り回し、触れれば粉々にされるような嵐と化して、鈴音は参道を激走する。
(「姐さんと同じタイプの人がいるんですけどwwwワロスwwww」)
「夏は! 残酷な季節なんよーーー!!」
(「だwかwらw何言ってるかわかんないっすwww」)
 鈴音の暴走を受けて、さらにまみの乱射にも拍車がかかる。怨念じみた慟哭。モテねえ奴しかいねえのかここは。
 この現場においてそこそこまともな精神でいるジーヤは、鈴音の怒りっぷりに若干引いたものの、彼女の戦い方を己の参考にしようとなるべく近くで動いていた。
「あんな勢いで亡者を抹殺できるなんてすごい……よし、俺もあれを見習って」
(「スプーンの出番ね」)
「スプーンでどうしろと!?」
 サバイバルスプーンを構えてまほらまにツッコむジーヤ。常用する武器を忘れてきたらしく今回はスプーンで戦わねばならないそうだ。
(「ジーヤ、あなたの不幸体質は強力ねぇ」)
「今回は絶対! まほらまの呪いだろー!!」
 相変わらずの不幸ぶりに叫ばずにいられないが、しかし今は嘆く暇はない。気づけば何体もの亡者に包囲されている。
「仕方ない……さぁ来い!」
 槍のようにスプーンを振るって大喝するジーヤ。
 亡者たちはぴたりと足を止めた。しかし怯んだという様子もない。
「……男?」
 ジーヤが主導する共鳴時の姿は、長いツインテールの髪が鮮やかに映えて、男か女かようわからんくなるのだった。それが亡者たちは気になるのだ。
「いや、男装女子……に1票……」
「でも……ツインテ……」
「……男の娘も……ある……」
「オールラウンダー……」
 ぎらりと亡者たちの目が光った。
「つまり……どんな相手ともヨロシクできる可能性……!」
「俺らが虚しくやってる間に……男も女もいただいてウハウハだと……!」
「ええええ!?」
 亡者たちが至った結論。ジーヤの驚きの声。頭おかしくなりすぎて奴らの妄想力がすごい。
「許せねえ……!」
「た、助けてーー!!」
 亡者がジーヤにロックオン。悲鳴をあげてジーヤは逃げ出すも、何十体という亡者に執拗に追い回されることになった。

 阿鼻叫喚、ぐっちゃぐちゃ、汚液とか舞い散る惨状。汚れっぷりは亡者を倒すごとに増していく。
 その只中で、五々六は平然としていた。平然とチェーンソーでドタマをカチ割り、返り血ならぬ返り液を浴びる。この程度の臭さや汚さでは、彼にとっては汚れ仕事とも呼べないものだった。
 しかし汚れはどうでもいいとはいえ、亡者の数は厄介と考えていた。商業ビルでは背後からやられた。今回は無理をして背中を空けるような事態は避けたい。
 そこで彼の頭に浮かんだのが『毒を以って毒を制す』。亡者には亡者をあてがえば良いのではないか。
 五々六は魔書を開く――オボン・マニュアル。
 オセンゾサマ・ゴーストとかいう霊体を召喚して使役できるとかいう、クッソしょーもない武器だ。安心のグロリア社製です。
 けど今はこれ使えるんじゃねえかな、という軽い気持ちで五々六はライヴスを込めた。
 姿を現したのは――。
 小汚い全裸のちっさいおっさん。頭が禿げ散らかしてバーコードになってる。
 五々六、数十秒の沈黙。遠くでどかーんばこーんと仲間たちの戦闘音が響く。
「……これ、お前の先祖?」
(「えっ……やだ」)
 心中で五々六が尋ねると、七海は答えになってない答え。
「いや、好き嫌いじゃなくて先祖かどうかを聞いてんだけど」
(「……やだ」)
 七海が答えてくれないので、五々六は視線をオセンゾサマに戻す。
「殺ス……リア充殺ス……」
 何か口走ってた。怒りに震え、目元からは涙が伝う。
「これ完全にあいつらの仲間だよな。っつかなんで全裸なの」
(「やだ……もうやだ」)
「オレヲ貶メルクソドモ……殺ス……!」
 怨嗟の呟きを漏らして、オセンゾサマはどこかへ走り去っていった。グロリア社の説明では敵を1発だけ殴って還って逝くとかそんな感じだったが、この場合はどうなるんだろう。っつーかまず敵を殴ってくれてないし、もうこれ不良品だよねそうだよね。問い合わせ案件だよね。
 とりあえず帰ったらグロリア社に電凸だな。そう五々六は決心して。
「……続き、やるか」
(「やだ……やだ……」)
 オボン・マニュアルをそっと懐に戻し、チェーンソーを再稼動。けたたましい音が参道に響き渡る。
「蔵倫はお呼びじゃねえ。ここからはR18だぜ!」
 以後、血まみれの幼女がチェーンソーを高笑いして振り回すという、モザイクまみれのショッキングな映像が続きます。ずっと。

●ワーッショイ

 参道の全裸たちをあらかた処理すると、本殿のほうから何やら野太い声が聞こえてきた。上下左右にぐいぐい揺れる大きな物体も近づいてくる。
「ワーッショイ! ワーッショイ!」
 見えてきたのは、神輿。そしてそれを支える、あるいはその上に立つ、号泣する筋肉亡者たち。
(「あれはなんだ」)
「お神輿だねー」
 サイコロの質問に、とても遠い目で応じる綾香。あたしここで何してるんだろう、とか思ってるのかもしれない。
(「あれも問題はあるのか」)
「そうだね、ねじり鉢巻きをつけなきゃね」
(「涙を流しているのは」)
「寒いんじゃないかな」
(「で、どうする」)
「もちろん、確実に消すよ。コロちゃん、換装」
 にっこり綾香が微笑むと、イエスマン・サイコロは淡々と換装実行。ライヴスツインセイバーを駆動させ、神輿に突っこんだ。
 鉄砲玉のような綾香の突貫を喰らってフォーメーションが崩れたところに、鈴音も畳みかける。鬼帝の剣を再びぶん投げて神輿にパックリ亀裂を入れると、全力の飛び蹴りでムキムキたちの輪の中へ。
「神輿って時点で女の子寄り付かない行動してるのにない物ねだりしてる時点で無様ね! 死んで詫びるがいいわ!」
 あはは、と恍惚の笑みを浮かべて、鬼帝の剣で斬る――でなく拳を亡者に叩きこむ。
「ふぉぐっしゅ!?」
 顔面殴打され怯む亡者に、鈴音は構うことなく乱打。
(「荒れとるのぉ……まだあの先輩とやらに振られた事引きずっとるのかぇ?」)
「……振られたから八つ当たりしてるんじゃないわよ! 消毒! 滅菌!」
 輝夜に抗弁しつつも、流れるようなパンチ→サマーソルトキックのコンビネーション。どう見てもサンドバッグに八つ当たりです。
 一方、もう1人の喪女のまみさんはサバイバルスプーンでガッスガス亡者たちの頭を抉りつつ、女子としてやったらアカン思案をしていた。
「ムキムキ……? ソフトマッチョ位ならうち……ええかなって思うんよ? あと年収500万以上でイケメンなら!!」
(「相手がいなさ過ぎてとうとうゾンビすらストライクゾーンに入れるとか末期過ぎてヤバスwwwってかイケメンがこの中にいるわけねえっしょwww」)
「拓海くんあとで覚えておきなさいよ……でも亡者って言っても洗えば臭いの取れるでしょ! 皮膚が腐って無くてまともそうならこの際亡者でも可! マッチョうち好きやし!!」
(「姐さんちょっと落ち着こwww俺の腹筋が死ぬwww」)
 大爆笑する拓海を無視し、まみさんはイケメン亡者がいやしないかと、ありもしない物を探しつづけた。
 神輿の周辺も早々に死屍累々となったが、参道の向こうから追加のムキムキたちが次々やってくる。
「さっきは良いところがなかったが、これはどうかな!」
 目の前のムキムキ亡者たちに対し、シウはサイン付き限定版の萌えアニメDVD&アイドルの握手券付き限定DVDを投げこんだ。プレミアグッズを投げ捨てるという行為に、非リアの亡者たちが反応を示さないはずがない、と思っての行動だった。
 シウの目論見どおり、奴らは反応はしてくれた。してくれたけど。
「物を参道に……ポイ捨て……」
「人として……クズ……ッ!」
「あれ? おかしいな」
 軽率な行動が亡者たちの怒りを買い、シウは無数のおいなりさんアタックを喰らって、もみくちゃのリンチに処された。ジーヤが気にかけてくれていなかったら、そのまま死んどったかもしれん。
 シウはともかくとしてエージェントたちは奮戦、好ペースで敵の数を減らしていた。出ばなに蘿蔔が神輿の上に乗っかって調子こいてる亡者を葬ったのが有効だった。それで士気はガタ落ち。
 しかし敵は多いし現場はくっせえし、ってことで蘿蔔の脳はクレイジーな領域に踏みこんでいた。
「これだけ戦う仲間がいるのだから、この中からカップルができたっていいじゃないですか。半年間も何してたんですかね? 本当に何もなかったんです?」
(「あるわけないだろう。モテない人をモデルに作った従魔なわけだし……それにこいつら全員男だぞ」)
「愛に性別は関係ありません! 異性に愛してもらえないなら同性に愛してもらえばいいじゃないですか。でもそうですね。そこまで言うなら私が一肌脱いであげましょう」
 にやりと口角を歪ませ、蘿蔔はスーッと銃口をいけないところに向けた。
(「ちょっと待て何を考えている? 頭を狙わないと死なないからな? というか逃げて! ゾンビさん逃げて! 走って!!」)
「無駄ですよ。あなたの声は届かない」
 堂に入った悪役顔で、蘿蔔はアソコを撃ちぬいた。
「……ほら、女の子になった」
(「なってねぇ! 男として終わっただけだ!! ちくしょうなんてことしやがる! お前の心が一番腐ってんじゃねーか!」)
 普段からお腐り気味のマインドを誇る蘿蔔さん、大いに満足。
 去勢という大事件に亡者らは圧倒的戦意喪失。あとはもう虐殺だったそうな。

●きったねえ花火

 仲間たちの活躍を陰から見守りながら、紅夏はぶつぶつと独りごちていた。
「リア充ってそんなにいいものかしらねぇ……目的もなくリア充羨ましいって言ったってねぇ……大体従魔でリア充ってなれんのかしらねぇ……はー、翼は反応しないから独り言の寂しい子状態よね」
 うなだれるガスマスク女。寂しい子とかいうレベルじゃなかった。
 紅夏がそうやって落ちこんでいると、どぉん、と重低音が鳴った。
「え、花火?」
 どこから……と思って確認のために空を見上げる紅夏。
 数メートル先に、大の字に体を開いて飛びこんでくる全裸亡者がいた。
 視線上に、ぞうさん。
「いっやああああああああああああこないで、こないでええええええ!!!」
 脱兎。降りそそぐ全裸亡者の雨から全力で、紅夏は逃げる。とにかく逃げる。
 異変は、他の仲間たちも察知した。
(「飛来物多数、接近警告」)
「とんでくるの!?」
 サイコロの声に綾香が訊き返す。仲間たちも一斉に空を見上げた。
 天空から惜しげもなく色々披露して舞い降りる、亡者の大群。
(「迎撃推奨」)
「OK! 換装、いくよっ!」
 Ver.ガンスリンガーに換装する綾香。仲間たちも一斉に射撃体勢に入る。
(「カウントダウン、射程内まで3……2……1……」)
 ずらりと並んだAGWが、ライヴスの砲火を灯した。
「夜空に散れ!」
 号砲のように綾香が叫ぶと、一斉射撃が空を埋め尽くす。
 ジーヤのロケット砲が1体の亡者に命中すると、夜空をきったねえ花火が彩った。何かボトボト落ちてくるんですがこれは一体。
「うえっ……吐きそう……」
(「玉や~」)
「その掛け声ヤメテ」
 まほらまは楽しそうに言うが、ジーヤにとって玉とかは今は禁句。
「聞け! 亡者たち! この世界には、妄想という超パワーが存在するんだ! それを極めれば、リアル彼女などいなくても生きていける! 見ろ、これが僕の脳内彼女だ!」
 魔導書のように中二病ノートを掲げるシウ。そこにはロリ顔、内気で巨乳なメガネっ子というシウの脳内彼女の設定が羅列してあった。亡者を殺すのに武器などいらぬ、妄想という希望を与えれば無力化もできるはずと考えてのことだった。
 ドヤ顔で、妄想に生きよ、と語るシウ。
 仁王像のごとき顔で、上向きに中指を立てる亡者たち。
 無力化とか無理です。
 怒りの全裸ボディプレス×20がシウを襲った。その後どうなったかは知る由もない。

「今夏初めての花火がこれだなんて。そういえば私も夏休みはどこにも行けなかった。お仕事に補習に。彼らも私たちと同じなのに……どうして戦わなきゃいけないのでしょう。すごく悲しいです。こんなに大きいのに、線香花火を見ている気分……」
「え、花火大会、この前行ったよな?」
「なんですかそれ……私知りませんよ」
 この夏もいつの間にかハブられていた蘿蔔。
 やるせない気持ちを胸に蘿蔔は『小龍』を構えなおす。銃口が自然と亡者のアソコに向かうのは何故だろう。
 その時、狙っていたアソコが急に吹き飛んだ。
 ふと横を見ると、オプティカルサイトを覗くまみが満足気な顔をしていた。そこまでして狙う執念はどこから。
「桜茂さんも、彼らを女の子に……?」
(「だから女になってねぇからな!?」)
「うち思うんよ。粗チ●なのに全裸になるとかって罪だら? それで貧弱な体してたら死罪もんじゃんな?」
(「いやいやいやwwwもう死んでるからwww姐さんさっきから女捨ててる発言多すぎwwwウケるんですけどーwww」)
 英雄たちの声など耳には入らない。2人はグッと拳を付き合わせた。
 股間ハンターズ誕生の瞬間だった。
「ふふ、もうタケノコ狩りの季節だったんですね。私もご一緒しますよ……?」
 まみと蘿蔔が振り返ると、タケノコの見すぎでもはや頭がショートしてしまった鈴音が悪魔的微笑を湛えて立っていた。きっと破魔弓が冴え渡ったんでしょうなぁ。
「よーし、撃ちまくるんよー!!」
「「おー!」」
 ハンターズが3人になった。
 バスバス股間を撃ちつづける彼女らに、もはや女子としての恥じらいとかはなかった。
「そもそも粗●ンとか見せられても今更恥じらう年でも無いしね……」
(「恥じらうwww枯れ果ててるのに今更恥じらうとかww」)
「拓海くん本当にこのあと覚えてないよ」
 その後拓海が何をされたかは知らないが、亡者たちは命も尊厳も失って、全員黄泉送りになったそうだ。

 駆逐を終えると、エージェントたちはぼちぼち神社を後にする。
 綾香は共鳴を解いて思いきり体を伸ばした。体中べたべた、においは……言うまでもなし。
「ふぅー終わったねー。んー帰ったらシャワー浴びたいぃ」
「そういえば綾香、綾香位の年代では全裸の男性というのは羞恥たるものではないのか? まったく平気だったようだが」
 家に帰ろうとする綾香に、サイコロが尋ねると、綾香は曇りない笑顔を返す。
「あは、それは全然大丈夫! たかが人の全裸でしょ?」
「慣れているのか?」
「ううん、ほら私ロボ専だから!」
「ロボ専」
「メカ専とも言う!!」
「メカ専……登録した」
「だからコロちゃん! 帰ったら一緒にお風呂はいろーね!」
「接続詞に疑問はあるが了解した」
 仲良く2人が帰っていく参道。その脇にある木陰では、紅夏が独りぐすぐす。
「知らない間に終わってた……でも、でも、ぞうさんが……ぞうさんが……くさいしきたないしぞうさんぱおーんだし……もういや……」
 ひとしきり涙を流した後、紅夏はある決意をしてすっくと立ち上がった。
「今度はちゃんとぶちのめせるように強くなるわ」
 ところで参道のぬるぬるはというと、ジーヤが居残りで消毒中。持参したイグニスを使って、汚物は消毒です。
「ちゃんとしたお祭り行きたあぁ~い!!」
 果てのない消毒作業にいそしみながら、ジーヤが疲れ果てた声でそう言った。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 遊興の一時
    御門 鈴音aa0175
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
  • (自称)恋愛マスター
    桜茂 まみaa1155

重体一覧

参加者

  • 遊興の一時
    御門 鈴音aa0175
    人間|15才|女性|生命
  • 守護の決意
    輝夜aa0175hero001
    英雄|9才|女性|ドレ
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
  • 病院送りにしてやるぜ
    桜木 黒絵aa0722
    人間|18才|女性|攻撃
  • 魂のボケ
    シウ ベルアートaa0722hero001
    英雄|28才|男性|ソフィ
  • (自称)恋愛マスター
    桜茂 まみaa1155
    人間|30才|女性|命中
  • エージェント
    松田 拓海aa1155hero001
    英雄|26才|男性|ジャ
  • エージェント
    獅子ヶ谷 七海aa1568
    人間|9才|女性|防御
  • エージェント
    五々六aa1568hero001
    英雄|42才|男性|ドレ
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 爆裂爆闘爆装少女
    一色 綾香aa4051
    機械|17才|女性|生命
  • エージェント
    サイコロaa4051hero001
    英雄|6才|?|ドレ
  • 断罪乙女
    志々 紅夏aa4282
    人間|23才|女性|攻撃



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