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質問
最終発言2016/08/02 09:12:53 -
楽しい夏祭りのために(相談)
最終発言2016/08/01 23:13:27 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/08/01 23:09:00
オープニング
●お手伝い
「ここに、おくといいの…?」
「おう嬢ちゃん、そこに置いてくれや」
竜見玉兎(az0044)が危なっかしく荷物を運ぶのを、彼女の英雄であるユウ(az0044hero001)は後ろから眉を顰めて見つめていた。
玉兎が手伝いをしているもの……射的の屋台だけではない。まだ幕が被せられているが、射的の正面にはたこ焼き、その隣にはお好み焼き、さらにその隣には綿あめ……と様々な屋台が立ち並んでいる。
「そこの兄ちゃん!」
ユウが突っ立っていると別の屋台から声が掛かる。やれやれと溜息をつきつつ、ユウは自分まで駆り出される原因となった依頼のことを思い出していた。
●お祭り好きな従魔
「実はこの依頼なのですが……」
玉兎とユウの前に出された依頼書には『従魔退治のお願い』と書かれていた。
「なんでも……毎年祭りの時期になると従魔が騒いで、屋台をしっちゃかめっちゃかにしてしまうらしいんです」
しっちゃかめっちゃか、とは。ユウは首を傾げたが、隣の玉兎はキラキラと目を輝かせている。
「おまつり……」
「……で、依頼の内容は?」
従魔退治よりも祭りに興味が移ってしまった能力者の代わりにユウが聞けば、オペレーターはかいつまんで説明を始めた。
まず、何故毎年なのかという点。実は以前HOPEに従魔退治として正式に依頼が来ていたのだが、実際赴いてみると従魔が現れなかった。しかし次の年になるとまた現れ、エージェントが現れるとぱったりと現れなくなったのだそうだ。
「つまり……エージェントを見かけるといなくなると」
「そういうことですね。しかし毎年毎年エージェントにお願いするのは忍びないとのことで」
だから今年こそ退治を、ということらしい。
次に、退治の仕方について。従魔は小さな子供の姿をしているらしく、普段のようにスキルを使用してとなると一般人の目にも触れる形になるから出来るだけ避けて欲しいとのことで。
「なんでも従魔は遊び好きだそうです。射的で勝負を仕掛ければまず乗ってくるという話で、その勝負に勝利すれば大人しく消えてくれるらしいですよ」
「はぁ……」
「……がんばる、の」
ようやく祭りの誘惑を振り切ったらしい玉兎がこくりと頷き、ユウはさらに深く溜息をつくのだった。
●依頼書
・従魔の退治をお願いします
・エージェントだと知られると現れないので、浴衣もしくはエージェントらしくないお祭りスタイルでお越しください
・従魔は白いお面をつけた子供の姿をしています
・従魔を見つけたら勝負を仕掛けてください。射的の勝負には興味を示したと屋台のおっちゃんが証言しています
・他にも勝負できそうなものがあれば仕掛けてみてもいいかもしれません
・従魔退治が終わったら祭りを思う存分楽しんでいってください
解説
■目的
従魔の退治
お祭りを楽しむ
■従魔
・数は3体(それぞれ【小面】【中面】【大面】と略
・白いお面をつけた子供の姿をしており、悪戯好き。恐らくイマーゴ級
・一般人に攻撃をしたことは一度も無いが、屋台に悪戯するので困っている
・勝負ごとが好きらしく、射的の勝負に乗ってくることは確認済み
・勝負に持ち込む前にエージェントだとばれると逃走するが、勝負が始まってしまえば共鳴しても逃げない
■勝負
・射的
一発勝負。より小さい景品を落とした方の勝利
大きさは以下の順
指輪>キャラメル>ゲームソフト>ロボット>ぬいぐるみ
※(PL情報)各景品には命中値が設定されており、命中判定で命中値に達成した場合は景品を撃ち落とせます
どの景品を狙うかなどの指定があるとより狙いやすくなるかもしれません
※(PL情報)【小面】は慎重・【中面】は勝負師・【大面】は熱くなりやすいという性格です
※(PL情報)他にもこういった勝負はどうかというものがあれば、質問いただければおっちゃんに確認した玉兎が答えます
■NPC
・竜見玉兎
・ユウ
どちらも指示が無ければ周辺警戒をしています
リプレイ
●
たくさんの屋台が並ぶ場所から少し離れ、秋津 隼人(aa0034)は恋人を待っていた。
何しろ初めてのデートである。ちらちらと入口の方を見ながら緊張気味な彼の服装は、涼し気な青を基調とした浴衣姿。今回お留守番の相棒が浴衣を選ぶ隼人を微笑ましく見ていたことを、彼は知る由も無い。
「ごきげんよう」
待ち人来たり。彼の恋人であるセリカ・ルナロザリオ(aa1081)は、白百合柄の黒い浴衣姿で更に後ろ髪をアップにし、いつも以上におめかしをして到着。歩くたび紫の花の髪飾りが静かに揺れる。そんな彼女の姿に、ほんの少し呆ける隼人。
「初めて浴衣でございます♪」
いかがでして?とセリカは顔を近づける。もちろん彼が狼狽えるのをセリカは知っているし、隼人もまた彼女のそういう面が好きでもあり。
「……素敵、です」
絞り出すような、けれどしっかりセリカを見て告げた彼の言葉に彼女は微笑み、二人並んで祭りの中へ。
恋人達が合流したその頃、別の入口では旧 式(aa0545)とドナ・ドナ(aa0545hero001)が言い争いをしていた。式が着用しているのは子供用の浴衣であり、ドナが身に着けているのも同じく子供用の浴衣である。それを揶揄してロリババアと呼びかけた式にドナが食ってかかったようだ。テメエだって子供用浴衣だろうがと唸るドナを式はふっと鼻で笑う。男はそこまで気にしないが。
「女児用は柄がな」
ぷぷぷ、と口元を抑えつつも声が出ているのでドナには丸わかりだ。完全にカチンと来たドナ。従魔と戦闘になろうが知ったことじゃない。誰が手伝ってやるものか。
『あと旧式の財布殺す』
「テメエなにさらっと俺の財布標的にしてんだ」
ぎゃいぎゃい言いつつも二人揃ってお祭りへ。一方、わいわいと賑やかな人の波の中、ぐぎゅるると音が鳴る。
『……空腹でどうにかなりそうです』
腹を撫でつつ、ぼそりと呟いたのはウィンクルム(aa1575hero001)だ。鈍色の浴衣を着た彼は朝から断食状態。なお、彼の隣を歩く藍色の浴衣を纏った榛名 縁(aa1575)も同じく朝から断食中。
「腹が減っては戦ができぬ、っていうし。まずは腹ごしらえ、しよ?」
そう言って縁は焼き物系の屋台へ。断食の狙いはそれだったかと呆れていいやら微笑めばいいやらのウィンクルムである。依頼を受ける時も、従魔退治より祭りに惹かれたようであったし。出来たてが美味しいとたこ焼きをもごもご頬張る彼の代わりに、自分がしっかりせねば。縁に差し出された物を同じく頬張りつつ射的の様子を窺うウィンクルムだが。
「言葉が出ない位おいしい?」
『あちらの様子を見ていたのですよ』
言えば、ウィンは真面目だよねと次の狙いを定め始める縁。
『…ユカリ。これは、依頼、ですから、ね?』
しっかり区切って告げようと、能力者にはどこ吹く風だ。じゃあ今度は甘味巡りと英雄の手を引き、綿あめの屋台へ。一応射的の屋台は見えるが。
『ま、待っ……』
待たないのだろうと思いながらも、言うのをやめられないウィンクルムであった。
「月日が巡るのは早いねぇ」
木霊・C・リュカ(aa0068)がそう呟くと、隣に並ぶオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)もそうだなと同意した。リュカは藍色の浴衣でオリヴィエは濃緑の浴衣だ。夏祭りに依頼という形で参加するのは大体一年ぶりだろうか。あの時は隣の英雄が手を引いて歩いてくれた。そして今は。
「リュカ!」
聞き慣れた声と共に、優しく左手が握られる。声の主は白梅柄の赤い着物を身に着けた紫 征四郎(aa0076)。彼女の少し後ろには黒い絣の甚平を着たガルー・A・A(aa0076hero001)の姿がある。共に戦い共に遊んだ、大切な友人で大切な仲間だ。
「やぁ、せーちゃん」
声に応えれば嬉しそうに笑った気配を感じられる。そっと手を引かれて、人通りの多い道から外れた脇に移動し……たのはいいものの。そんな四人を陰からこっそり眺めている姿があった。
「あんな隅っこで何話しているんだろうねぇ……」
同じく隅っこから、薄い赤紫色の浴衣を身に着けて覗き見る今宮 真琴(aa0573)の言葉を程々に聞き流しつつ、酒をぐびぐび飲んでいるのは花魁風に黒の浴衣を身に着けた奈良 ハル(aa0573hero001)だ。真琴もリュカや征四郎達と交流はあるのだが、遠いことや普段と違う服装であることからまだ気付いていないようだ。真琴の目に映っているのは陰でこっそり話をする男性二人の姿のみである。なお、征四郎とオリヴィエの姿は二人に隠れて見えていないようだ。
『やれやれじゃの』
今度は串焼きを食べるハルだが、真琴はどうやら二人組の動向確認から甘味探索へと移行したらしい。様々な味の金平糖を見つけたと喜びハルの手を掴んでずんずん歩いて行く。
『……やれやれじゃの』
再び溜息混じりにぼやき、真琴の甘味巡りへ同行するハルの少し後ろ。サンダルを履いて紺地に朝顔柄の浴衣を着た浅水 優乃(aa3983)と、下駄を履いて水色地に金魚柄の浴衣を着たベルリオーズ・V・R(aa3983hero001)の姿があった。
「ベルはお祭り初めてだよね? 何か気になるのある?」
問われた言葉にベルリオーズは屋台をぐるっと見渡して、あれ、と指差した。
『あのふわふわなのは、何?』
「あ、あれは綿飴だよ。折角だし買おうか」
優乃と共にキャラクター物の袋に入った真っ白な綿あめを買い、早速少しだけ食べてみる。ふわふわで、口の中で溶けていくような。
「どう?」
『わたあめ…甘くて美味しいね』
ベルリオーズの言葉にうんうんと頷いて、次はどこに行こうかと悩む優乃。従魔退治が第一だけれど、大切な親友に見せたい物はまだまだたくさんあるのだ。
●
神社から商店街へと屋台が細長く伸びるこの祭りは、人も屋台も多いが何せ一本道。つまり。
「あ、秋津さん!」
『隣にいるのは……誰じゃ?』
同じ部隊に所属する仲間が偶然発見してしまうこともあれば。
「俺、得物が盾しかねーからイマイチ応用が利かねーんだよなあ」
「僕は回復がメインですから、ここで――」
と祭りの最中、戦闘時について話すこともあり。それぞれが思い思いの祭りを楽しむ中、事前に渡されていたトランシーバーが振動した。何かあればこのトランシーバーで連絡するからと渡されたそれが振動したということは。
『ユカリ』
「ハルちゃん!」
ウィンクルムと真琴が自分の相棒を連れ、密かに移動を開始する。この祭りを楽しむべく、今は仕事の時間だ。
●いざ、尋常に
【小面】が金魚に餌をばら撒こうとしたその時。
「その元気、余所に向けてみませんか?」
言いながら、隼人は金魚掬いに使用するポイを従魔に差し出した。首を傾げる従魔に勝負をしませんかと誘う隼人とは別の場所で、別の従魔相手に既に勝負が始まっていた。
積み上げられていくのは皿。周囲には大勢のギャラリーとお好み焼きを両手に構えた店主。そして椅子に座っているのは既に口の中がいっぱいの式と、まだまだ余裕そうな【大面】である。
『情けねーな!』
そんな式を押し退けるようにドナが椅子へ割りこみ、『酒をくれ』と言い放った。先程まで式の財布が空になるほど飲んでいたのだが止める者はいない。申し出通り酒が大量に用意され、注がれるだけじゃ遅いと一升瓶をラッパ飲みするドナと【大面】。何しろ英雄と従魔だ。このままでは決着がつく前に酒がなくなる……とその時。
「とうとう見つけました!」
左右の手に飴。口にはハッカ棒で頭に狐のお面を付けた真琴がびしっと【大面】に勝負を申し込む。指を突き付けられた従魔はドナを見るが、何しろ勝負するための物が無くなるのだ。それに何と言ってもこの酒、無料と書いてタダ。
『あとは任せたぜー』
割とご機嫌なドナを残し、真琴と従魔が射的の屋台へ向かった頃、金魚掬い対決はというと。
「もう一回、ですか」
困り顔の隼人に【小面】は頷く。これで五度目の『もう一回』だ。全て隼人が勝利を収めている(途中セリカに抱擁される場面もあった)が、そろそろ金魚も危ないだろう。さてどうしたものかと思考を巡らせる隼人の肩がとんとんと叩かれた。振り返ればそこにいたのはウィンクルムで、縁の方は【小面】へ話しかけている最中だ。
『ここは私たちに任せて下さい』
「良かったら、僕たちとも勝負してみない?」
あっちの屋台でと縁が示すのは射的。金魚掬いに惹かれる【小面】だったが射的にも惹かれたのか、隼人とセリカに手を振りウィンクルムと共に屋台へ向かっていく。
「あとは僕たちに任せて」
ほわっと微笑む縁は隼人にこっそりと、「この先にある神社へ二人で行くと御守りが貰えるよ」と伝え、後を追って人波の中へ。
「二人で……」
「隼人様?」
「ああいえ。……行きましょうか」
そう言って、隼人はセリカに手を差し出す。はぐれると大変だからという分かりやすい口実に微笑みながら、彼女は彼の手を握った。二人仲睦まじく――手を繋いで、歩いて行く。
「キャラメル……!」
屋台に到着した真琴の瞳がきらりと輝く。勝利の為には指輪を落とすのが一番の近道であるし、真琴ならばそれは容易だろう。だが、甘味を愛する彼女にとってキャラメルを逃すのは惜しい。ならば。
「……よし」
銃のチェックを終え、ハルと共鳴した真琴の真剣な眼差しがキャラメルに注がれる。狙うのは二つ。まずはキャラメルに当て、その後に隣の指輪を落とす。イメージは、出来た。
「……!」
タンッ。軽い音と共に発射された弾は狙い通りにキャラメルへ、そして――指輪へ。勢いを殺されながらも寸分違わず二つを落とし、その光景にギャラリーから喝采と惜しみない拍手が送られる。屋台の主からキャラメルや指輪やお菓子が詰まった袋を受け取りご満悦の真琴を見つつ、また幻想蝶の中が窮屈になりそうだと内心ぼやくハルであった。
と、真琴が勝利した頃。別の屋台では征四郎と【中面】の対決が始まっていた。
「勝負とあらば、負けるわけにはいかないのです!」
「せーちゃん頑張ってー!」
きりっと宣言し共鳴した征四郎から少し離れ、声援を送るリュカである。一方征四郎はイメージプロジェクターで浴衣を身に着け、ぬいぐるみを狙う。既に従魔はロボットを落としているが、いつも通りにやれば問題ない。姿勢を安定させ、狙いを絞り――銃声が一つ。傾いだぬいぐるみがキャラメルを巻き込んで……落ちる。
「きゃー!」
いつの間にか増えていたギャラリーの中から黄色い歓声が上がる。しかし、共鳴を解除してぬいぐるみを受け取る征四郎には少し届かない。何しろこのぬいぐるみ、もふもふなのだ。
「あ……お疲れ様……!」
ぬいぐるみをもふもふする征四郎に、ギャラリーの間から抜け出てきた優乃が声を掛ける。騒ぎを聞いて駆けつけ、征四郎がぬいぐるみとキャラメルを落とすのを見ていたようだ。いつもなら引っ込み思案な性格の優乃から話しかけるなんてことは出来なかったかもしれないが、今日は特別。
「ふふ、ありがとうございます」
征四郎も嬉しそうに応じ、その傍らで同じジャックポットであるオリヴィエとベルリオーズが何やら話をしている。
『リュカ』
「ん?」
『優乃』
「うん?」
オリヴィエがリュカを、ベルリオーズが優乃を呼ぶ。どうやらジャックポット同士、せっかくだから射的で対戦をという話になったらしい。互いに共鳴し、英雄側が主導を握る。
『…………』
一瞬の静寂。先攻のオリヴィエが中段にあった指輪を軽々と撃ち落とす。正面から狙い撃ったから傷がついていないかと思ったが、紫色の宝石はどうやら無事なようだ。後攻のベルリオーズも指輪に狙いを定めて意識を集中させ、下段に置かれた瑠璃色の指輪を危なげなく撃ち落とした。どちらもどこか嬉しそうに指輪を受け取り、ベルリオーズが落とした指輪は優乃に手渡された。
「せっかくですから、一緒に回りませんか?」
征四郎が提案し、酒を買ってくると言うガルーとそれに連れられたオリヴィエの二人を除いての四人で、まだまだこれからの祭りの中へ、いざ。
「わ。景品色々あるねえ」
【小面】と共に射的の屋台にやってきた縁。扱う銃は大人の手には軽い物で、使い慣れていない自分でも問題なく扱えるだろう。
「ウィンはどれ当てたい?」
『私はユカリが欲しい物を当てたいですね』
「じゃあ、僕キャラメル食べたいー狙お?」
通常運転のウィンクルムと共鳴し、真剣な眼差しで銃口をキャラメルへと向ける。それを見ていた【小面】もどうにか銃を構える。先に弾を放ったのは縁で、狙い通りキャラメルの上部へヒット。揺れた箱の重さも手伝い、カタンと床に落ちる。続く【小面】もキャラメルの箱には当てるが、あと少しの所で落ちない。しかし、従魔は嬉しそうに銃を置いた。
「勝負、楽しかった?」
優しく問う縁の言葉に頷く【小面】。二人が、隼人が真剣に勝負をしてくれたから。
『アリ、ガトー』
感謝を告げ消えそうな従魔に、縁は慌ててちょっと待ってと言ってどこかへ。数秒で戻ってきたその手に握られているのは苺の飴。
「お祭りの醍醐味。味わって?」
渡せば、消えかけの手にしっかりと飴が握られる。光が散るように消えていく従魔を、縁とウィンクルムは見えなくなるまで見守っていた。
●鎮魂の花
従魔による悪戯騒ぎも治まり、リュカと征四郎、優乃とベルリオーズ、そして途中で征四郎が誘った玉兎とユウも混ざり、一行は祭りを存分に満喫していた。
「りんご飴かうのです! わたあめもかうのです! えーと、あとはもんじゃ串も……!」
年相応にはしゃぐ征四郎だが、右手はしっかりリュカと繋いで互いに歩きやすい速度で歩く。ちなみに左手はガルーから受け取った巾着の紐を握りしめている。中は今日のお小遣いだ。
「せっかくの夏祭りだからね、遠慮なくどうぞマドモアゼル?」
気取って言うリュカだが、財布の中は祭りに備えて千円札と小銭多めと抜かりが無い。そんな一行の様子を見ていた飴屋台の店主から「嬢ちゃん達がエージェントかい」と声を掛けられ各々が頷くと、店主はそうかと一つ頷いた。
「ここから何でも好きなの一本持っていきな」
『……いいの?』
「この祭りの恩人だからな。それぐれぇはさせてくれよ」
むしろお願いされては受け取らないわけにもいかない。征四郎はリンゴ、リュカはブドウを受け取り、優乃はモモでベルリオーズはミカンを受け取った。やっぱりイチゴもいいというベルリオーズに微笑し、お金を払ってイチゴ飴を購入する優乃。玉兎とユウはどちらもリンゴ飴を袋に入れてもらう。
「そうだ、それからこれだな」
店主が六人に手渡したのは『安全御守』と刺繍された御守りだ。相棒の分も合わせて受け取った六人だが、玉兎とユウが帰らなければならないこと、ベルリオーズが金魚掬いに惹かれていることから一度ここで解散という形になった。
「改めて、エスコートよろしくお願いします、だねv」
「はい! 征四郎に任せて下さい」
言って、彼女はリュカと共に歩く。征四郎にとってリュカは優しい憧れの人だ。たくさんでいるのも好きだけれど、リュカと共にいる時間も、信頼して預けてくれるこの手も大切にしたい。
「あ!」
征四郎が見上げた夜空に大輪の花が咲く。まずは黄色の花。次に緑の花。光り輝くたびに征四郎はリュカへ伝える。
「今上がったのは赤色でしたよ、大きな菊の花のようなのです!」
「黄色に緑に赤かー。盛大だね!」
「はい! あ、次は……」
征四郎の声に耳を傾けながら、リュカは世界を想像する。暗い夜空に菊の花のような花火がぱっと広がる、色鮮やかな世界。隣には紫色の髪の少女。
二人は今、同じ世界に一緒にいる。もっとたくさんのことを、もっともっと楽しもう。二人で、一緒に。
「……なんと可愛らしく、いい香りなのでしょうか」
神社に向かう途中でセリカが見つけたのはリンゴ飴。赤い物もあれば緑色の物もある。折角なら自分の分と恋人の分を、同じく赤い色で。そう思って購入するセリカから離れて隣の屋台へ向かった隼人は、彼女に隠れて何やら購入したようだ。しかし物珍しさにリンゴ飴を見つめていたセリカはそれに気付かない。そんなセリカと同じように、すぐ近くの金魚掬いの屋台では色とりどりの金魚が泳ぎまわる様子をベルリオーズと優乃が真剣に見つめていた。
「今度は私もやろうかな」
『負けないよ』
優乃と共にベルリオーズもポイを受け取り、優乃がやるのを見様見真似で水に濡らす。
「よいしょ……っ」
『固い所に引っ掛ければ入るかな』
優乃が一匹一匹を椀の中に掬っている間に、数度で慣れた英雄がひょいひょいと金魚を掬う。終わってみればまさしく大量。ベルリオーズの椀の中が金魚でいっぱいになっていた。
「わ! 凄い、いっぱい取ったね」
黒や赤、白に斑点模様とぴちぴち跳ねる金魚だが、こんなにたくさんは飼えない。せめて二匹ならと優乃が提示すれば、彼女はじぃっと金魚を見つめ。
『じゃあ赤いひらひらのと黒いひらひらのがいい』
「うん、分かった」
他の金魚を店主に返して二匹の金魚だけを透明な袋に入れてもらい、水槽が何処にあったかと思い返す優乃。そんな二人の上で、花火が光る。
『可愛い』
水面にきらきら反射する光と、赤と黒のひらひら。大切な今日の思い出に、ベルリオーズは微かに微笑んだ。
男二人、ガルーとオリヴィエもまた祭りを楽しんでいた。
『なかなか美味い。食う?』
差し出された食べかけのホタテ焼きを受け取りながら、自分に構わずナンパでもしてきたらどうだと呟くオリヴィエだが、なんだかんだで祭りを楽しんでいた。ガルーが惹かれた金魚掬いに彼も挑戦するが、ポイが破られ逃げられ水しぶきがかけられ渋面顔だ。そんなオリヴィエを盗み見て、ガルーはひっそりと微笑む。不器用ながらも挑戦する姿勢。そして何より普段の仏頂面が少しでも変わる時、何故だかとても幸せな気持ちになるのだ。胸の奥に花が咲いたように。
『とれた……!』
オリヴィエが持った椀には真っ黒な小さい金魚。どことなく達成感に満ち溢れた顔の少年を見ながら、そういえばとガルーは思う。彼の所で金魚は飼えるのだろうか。店主から金魚を受け取った彼の姿がどことなく困っているように見えるのは、気のせいだろうか。
『うちで一緒に育てるか、その金魚』
何かと世話の難しい魚だ。すぐに死なせてしまっては可哀想だろう。
『うちならいつでも見にこれるだろうし』
言ってこちらを見るガルーに他意はないと知っている。だからオリヴィエは、金魚と一緒に指輪を差し出した。
『やる、女にやるでも質に入れるでも好きにすればいい』
優しい、甘い毒のような男の手に指輪と金魚の袋の紐が握られたのを見て、内心胸を撫で下ろす。
『……金魚は捨てないで飼ってくれ』
言ったオリヴィエの背後で花火が上がる。振り返ろうとするが着慣れない浴衣に動きが制限され、躓きかけた所でガルーに支えられた。
『気を付けろよ』
幾つも上がる花火を見て、オリヴィエはありがとうと小さく頷いた。
大食い対決から数十分。ようやく復活したものの寝転がったままの式の隣でドナは未だに酒を飲んでいた。
「ほどほどにしとけよ」
『うっせー。お子様はオレンジジュースでも飲んでろ』
式の財布は既にすっからかんだ。しかし有り金全部を持ってきているわけではない。故に大した痛手ではないが……それよりも周囲の酒瓶の処理の方が面倒そうだ。まぁ、後でドナがやるかと特大のリンゴ飴に齧りつきながら式が見上げた空。そこにちょうど大輪の花が咲く。
「おー、すげぇな」
揺さぶられるような音と色。最後の酒を飲み終えたドナも式の隣で寝転がり、リンゴ飴の飴だけを齧り取っていく。
『たしかに、こりゃ壮観だな』
二人空を見上げるその姿は、傍から見れば仲睦まじい兄弟か恋人同士のようにも見える。実際全く欠片もそんなことは無いのだが――仲良きことは美しきかな、である。
「次はチョコバナナ!!」
無事に従魔を退治し、いつも通りに甘味を探して食べまくる真琴とそれに付き合いつつも串焼きや酒を楽しむハルの二人。
「わたあめってさーちょっと量少ないよねー」
そう言いながら何袋も買い込んでいる真琴。あの袋潰せないだろうか。ぺしゃんこに。
「りんご飴じゃんけんで勝つと2本……」
きらりと光る真琴の眼。店主は男性二人のようで、そこにも理由があるのではないかと思わなくもない。
『あまり素人さんに本気出すなよー』
ビールを飲みつつ適度に応援するハルだが、追加を頼もうとすると今日は完売だと言われてしまった。……完売?首を傾げたハルだったが、両手に三本ずつ、計六本のリンゴ飴を握りしめて嬉しそうに歩いてくる真琴の姿を見て疑問が吹っ飛んだ。何度やったのかと問えば二回負けて二回勝ったらしい。つまり四回。このリンゴ飴も全て蝶行きだ。
『この蝶の中のもん……どーすんじゃ?』
「そのくらいならすぐなくなります!」
『まぁそうか……』
確かにすぐに無くなるのだろうと納得するハル、クレープを頬張る真琴の頭上がぱっと明るくなる。
『あ、花火』
「ふーふーふー」
たまやと言いたかったらしい真琴に、食ってからにしろとハルが笑う。彼女達から少し離れた場所で花火を見上げる縁に、ウィンクルムはぼそりと。
『従魔相手とはいえ、やや大人気なかった気も致しますが』
対決を思い出しての言葉に、縁はちらりとウィンクルムを見て再び空を見上げる。
「お祭りの場ではみんな童心に返るんだよ」
幾つも打ち上げられる花火と、その奥で瞬く星々。
「生まれ変わったらまた、遊ぼうね」
鎮魂の花に願いを籠め、縁は静かに呟いた。
隼人とセリカは境内の近くで二人横に並んで花火を見上げていた。
「……これを」
隼人がセリカに渡したのは黄緑色の宝石が嵌まった指輪だ。彼女に隠れて購入していたのはこれだったらしい。
「今は、安物ですけど。今日は……ありがとうございました」
『先』の話を含みながら、隼人は笑顔で感謝を告げる。その表情に言葉にセリカも微笑み、手を差し出した。
「嵌めていただけませんか?」
少し意地悪で、試すような言葉。それに隼人は応えるが、彼がどの指に指輪を嵌めたのかは――彼と彼女だけが知る秘密だ。
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結果
シナリオ成功度 | 大成功 |
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