本部

秋の晩餐

五葉楓

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 6~15人
英雄
4人 / 0~15人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/10/15 19:42

掲示板

オープニング

●池のほとりで
「ごちそうさま……」
 とある郊外の森の奥に迷い込んだ私は池の畔(ほとり)で空腹に任せてたまたま持ち合わせていた一つのお団子を食べ終えると立ち上がって空に浮かぶ月を仰いだ。
(私にはもう何もない。帰る家が無い。頼る人もいない……こんな私みたいな子供一人でどう暮らせば良いの?)
 このまま行き倒れてしまうくらいならいっそ――……。
 靴を脱いで命を絶とうと池の水に素足を浸したところで脳裏に声が響いた。
――寂しくない?
「……え?」
 驚いて進める足を止めて辺りを見回すも、声の主に当たりそうな人影は見当たらない。
 暫くキョロキョロしていると再び声が聞こえた。
――こんなところで一人だなんて、寂しくなぁい?
 今度は何かの気配を感じて振り向くと、赤みがった黒い靄の塊が揺らめいていた。
――ひとりじゃ生きてはいけない? そうよね、じゃあ私が一緒にいてあげる。
「あ、あなたは……?」
 思わず上ずった声で尋ねると人の姿をしていないはずの“それ”がふと微笑んだ気がした。

●神隠しの池
 最近こんな噂が流れている。
“夜遊びして家に帰らない子は森の池に食われる。”
 昔、飢饉解消の人柱として入水(じゅすい)させられた娘が居たが、近年池にお参りに来る人が減ったのが寂しくて人を呼ぶようになったらしい。
 一人で食べるご飯は寂しいと遊び相手を呼ぼうとするも、優しい娘は何のいわれも無い子供に声はかけずに家に帰らない子供を選んでいるそうだ。
 寂しいもの同士仲良くしよう、と手を引くのだとまことしやかに囁かれていた。
 この噂が流れているのは開発されてない自然に囲まれた小さな町で、地域のあちこちに伝承が色濃く残っている事で有名な地域だった。
 そのせいかこの地域には幽霊や妖怪といった本来目に見えないものを信じている人が多いようだ。
 最近この町では神隠しが頻発しており、警察の必死の捜査無虚しくほとんどが見つからず軽くパニックに陥っていた。
 噂の出どころはくだんの池がある森の入口で少女が一人通りがかりの農夫に保護されたのがキッカケだった。
 保護された少女は町の子供で、本来は4人ほどの複数人で行動していたらしい。
 しかし見つかった時は彼女一人で他の子供達とは森の中ではぐれてしまったという。
 そしてはぐれた時の状況を良く覚えておらず、唯一覚えていたのが池の景色だった。
 遊ぶ場所が少ないこの地域においてこの森は少ない遊び場所だったのだが、この一件を境に森に近づく人間は居なくなった。
 いなくなるのはいずれも10代前半以下の子供達。信心深い地域の人間がこの森にある同じ年頃の少女が祀られた池の存在を思い出さないはずがなかった。
 間も無くこの森や池の周辺で謎の光の玉が複数目撃されたのもこの憶測に拍車をかけたのだった。

 この事態を重く見た警察はHOPE東京海上支部に調査を要請した。
 これだけ多くの子供達がいなくなっているにも関わらず、一人として見つけられないのはもう普通の人間の手には負えない事件なのでは? と判断したためだ。
「報告書を見る限り子供達の失踪はヴィランズというより愚神の仕業である可能性が高いと我々も判断した。子供達はライヴスを奪うために集められているのだろう。消えた子供達が見つからないのは形成されたドロップゾーンの効果で見えなくなっているのだろう。子供達の命が危ない……一刻も早い救出が求められる。すぐに向かって欲しい。現場の詳細なデータは資料を参照して欲しい」
 支部の男性が集まったリンカー達を見回して言った。

●月夜の晩餐?
 子供達の賑やかな笑い声が月明かりがそそぐ森にいくつも響き渡っている。
 よく見れば少し開けた雑草混じりの地面に色とりどりのレジャーシートが敷かれており、少年少女達が楽しそうに広げられたお弁当をつついていた。
 パーティだろうか?
 でも何かおかしかった。
 いや、こんな夜の森で子供だけが集っていること事態がおかしいのだが――特に目立っておかしいのは……。
 月明かりしかないのに妙に視界が明るいし、こんなに沢山の子供たちが集って笑い声も聞こえるのに誰も会話している様子がなかった。
 ただ無邪気にお弁当をつついてるだけ。
 そこに新たな気配が現れる。
 また子供が数人やってきたのだ。
 フラフラとやってきた子供達の表情は誰もがボンヤリとしている。
 新しく来た彼等は周囲を飛び交ういくつもの光の玉と一緒に池の淵まで進むと足を止めた。
 すると池の水面が盛り上がって人影が現れ、髪の長い薄青いワンピースの少女がニコリと笑って言った。
「ようこそ。こんな暗い時間外に居るなんてきっと辛い事があったのね……おウチへ帰りたくないのならここに居ましょうよ。ずっと私と、私達と一緒にいましょう? きっともう寂しくないから」
 光の無い黒い瞳が微笑みかけた。

解説

“神隠し”に遭った子供達と、愚神に憑り付かれた少女の救出が目的です。
 愚神に憑り付かれたのは親を亡くして行き場に困った少女です。
 親戚もおらず人間不信のため行政に頼る気にもなれずに命を絶とうと考えました。
 そんな少女の絶望に漬け込んだ愚神は彼女を依代にドロップゾーンを形成してライヴスを集めるべく従魔を使って子供達をさらい始めました。

 愚神はケントゥリオ級です。
 この愚神は明るい時間にはあまり活動が出来ないため夜に動いており、子供ばかり襲っているのは愚神の依代が若くて波長を合わせやすいのは同年代の人間だったため。
 従魔はミーレス級が無数に存在している。
 ドロップゾーンの特殊効果で一般人にさらわれた子供達は見えません。

 子供達から離れている時の従魔は黄色から白の光の形ををしていて、ちょうどウィル・オー・ウィプスみたいな感じです。
 子供達に食事をさせているのは少しでも多くのライヴスを得るため。
 子供は10人くらい集められている。

 愚神の少女は池の水と長い髪の毛を操って攻撃してきます。
 ドロップゾーンは愚神を倒せば消滅し、従魔の力は急速に弱まります。
 従魔は数も多いし子供達の身体を乗っ取って攻撃してくるため子供達への攻撃は避けられないが、出来るだけ無傷で保護する事。

リプレイ

●子供たちはどこ?
 森の入口に人影が一人。
 苛立たしげに腕を組む暁 珪(aa0292)と一緒になってむすくれる相棒のシグルドリーヴァ・暁(aa0292hero001)の姿があった。
 森への調査は現地集合という事で来たものの自分以外のメンバーの姿が見当たらず待たされていた。
 そこに浪風悠姫(aa1121)とその相棒である須佐之男(aa1121hero001)、が現れる。
「やっと来ましたか……。 仕事は時間前行動が基本だと思うんですけど?」
 怒鳴りつけたい気持ちを抑えて引き攣った笑顔で咎める珪。
「本当。一体何やっていたんですか?」
 シグルドリーヴァもプリプリしている。
「あ、すみません。新しい調査書が出来たって連絡があったので急遽受け取りに行ってました。はい、どうぞ」
 悠姫は手にしていた紙の束を珪に渡すと須佐之男と共に。
「む、それでは仕方ありませんね……」
 別に時間に遅れたわけでもなく調査書まで用意されていては、珪はもう何も言えず鼻白んだ。
 そこに続いてカグヤ・アトラクア(aa0535)がやって来る。
「お月見にはよい日じゃのぉ」
 明るい月が浮かぶ夜空を歩きながら感慨深げに見上げる。
「待ってよカグヤ……」
 カグヤの後ろから大きなバスケットを抱えたカグヤの相棒クー・ナンナ(aa0535hero001)が小走りに追ってくる。
「お疲れ様じゃ、クー。これから仕事じゃからバスケットは一旦そこに置いておいておくれ。仕事が終わったらお月見するからのぉ」
 クーはカグヤの言葉に頷くと、茂みで目立たない場所にバスケットを隠す。
「それじゃ、ボクは芽衣の方に行くね」
「行ってまいれ」
 森の中に消えるクーをカグヤが手をヒラヒラと振って見送る。
「全く酷い話ですね。寂しい子供達の心につけ込むなんて」
 調査書を読みながら英雄の泥眼(ディタ/aa1165hero001)が溜息を吐く。
「ディタ、それは愚神も同じよ。拐(かどわ)かす方も拐かされる方も……その場に引き込まれる心の寂しさはみんな同じだと思う。それをわたし達が、何が正しくて正しくないかを分けるんです」
 泥眼の相棒であり能力者のエステル バルヴィノヴァ(aa1165)
「そうでした……それを探すのが私達の目的でしたね」
「ええ、それが私の役目なんでしょうね……」
 そう言ってエステルと泥眼は微笑み合って手を繋いだ。
「よし、それでは森に入るぞ!」
 骸 麟(aa1166)がエステルの肩を叩く。
「「はい!」」
 エステルと泥眼は元気良く返事して麟と連れ立って森の中に入っていき、その後ろから麟の相棒である宍影(aa1166hero001)も着いて行く。

 森の中。どっぷりと夜に沈んだ闇に浮かび上がる白い影。
 それは噂の鬼火か人魂……というわけではなく、北里芽衣(aa1416)の真っ白い髪だった。
 彼女は調査書を元に囮を申し出たのだ。
「ふええ……真っ暗で少し怖いです……」
 生い茂った枝に空を覆われた森は月明かりひとつ通さないので、気を付けて歩かないとすぐに転んでしまいそうだ。
「大丈夫?」
 芽衣と一緒に囮役に立候補して合流したクーがハラハラしながら身体を支える。
 そんな二人の姿を少し離れた場所で様子を見守る眼があった。
 石井 菊次郎(aa0866)と都呂々 俊介(aa1364)だ。
 黒い絵の具の入ったコップの底のような視界を前に、菊次郎は暗視スコープを持ってきておいて良かったと思った。
 加えて懐中電灯も用意してあるが、光源を増幅する暗視スコープの使用中に強い光を使うのは危険だし見張りの意味が無くなってしまうので今のところ使ってはいない。
「今のところ異変は見当たりませんね」
 俊介が菊次郎にボソリと話しかける。
「そうですねえ……敵に勘付かれたりしてなければ良いんですが……」
「もし勘付かれていたら手間ですね……最悪手当たり次第に探す感じでしょうか? 能力者である僕達なら愚神が作ったドロップゾーンに気付きやすいかもですが……」
「まあ、そのために手分けをしている訳ですが……」
 菊次郎はそう溜息吐いて再び囮達の方に向き直った。

●腕を引かれて
「灯りがあっても照らした部分しか見えないわね……みんな、はぐれないようにね! 一応返事してくれる?」
 蝶埜 月世(aa1384)はライトを掲げたまま声を上げる。
「はーい、御園です~。ここで迷ったら死ですよ。だから連絡は密にです……」
 穂村 御園(aa1362)が持参の無線機を握り締めたまま返事をする。
「これだけ暗いと光の玉? とか出てきても直ぐに気付ない気がするよ」
「はは、違いないでござる。月の光もこの闇に吸い込まれて見えないのかも知れませぬな!」
 麟の言葉に宍影が笑う。
「あ、そういえば囮班はどうなったのか連絡してみますねー」
 御園ががそう言って無線機で囮捜査をしている菊次郎と俊介達に連絡を入れようとした時、無線機がコールした。
「ほえ?!」
『ああ御園? 僕だけど……』
「都呂々さん? 何かありましたか?」
『芽衣が連れて行かれたんですよ。菊次郎と珪が急いでそれを追ってて……』
「今行きます! 皆さん、芽衣さんが火の玉に攫われたそうです!」
 御園が無線機を手にしたまま慌てて皆にそう叫んだ。

 その頃攫われた2人は――。
「芽衣、芽衣……」
(声……? 頭がボーっとする……ここは、何処……)
 誰かに呼ばれていうのをなんとなく感じるも意識がはっきりしない芽衣。
 覚えているのは光の玉を見たと思ったところまで。
 そのまま誘われる感覚に身を任せて歩いていたが、身体に流れ込む“力”の感触を感じてハッとすると、開けた夜空に少し欠けた月が雲を棚引かせて浮かんでいた。
 そこでやっと正気を取り戻す。
 意識が戻ったのは相方がライヴス送り込んでくれたお陰のようだ。
「ここは……あっ……!」
「やっと目が覚めたね」
「クーさん?」
 直ぐにハッとして周囲を見回すとお弁当を一心不乱に突く子供達の姿があった。
 きっとこの子達が攫われた子供達なのだろう。
 子供達の周りにはいくつもの光の玉が浮かんでいて、時々撫でるように子供達の頭を掠めている。
 再び辺りを見回すと池が目に付いてジッと眺めていると水面が盛り上がって人の形を象った。
「ようこそ……あなた達も淋しいのね……。でも大丈夫これからは私と一緒よ。お腹空いたでしょう……さあ、食事を……」
 そう言って寂しげに微笑む彼女が愚神なのだと芽衣は悟った。
「目を覚ましてください。あなたは愚神に騙されています。みんなを解放してあげてください!」
 芽衣が叫ぶと愚神の少女はきょとんとした顔で芽衣を見詰めた。
「解放? 何の話をしているの? 一緒にご飯食べましょう……楽しいわ。さあ、みんな彼女を連れて行ってあげて」
 子供達が食事を止めて一斉に立ち上がって芽衣の方に向かって行く。
「!!」
 共鳴(リンク)すれば子供も従魔も相手出来なくはないが、確実に傷つけてしまうので戸惑ってしまう。
(どうしよう……できるだけ傷つけたくないのに……でもこのままじゃ私がやられてしまいます……!)
「芽衣!」
 茂みから俊介がリンク状態で姿を現す。
「都呂々さん!」
 芽衣がホッとしたように叫ぶ。
 続くように他のメンバーも続々姿を現す。
「アレが愚神だな!」
「御園も援護するね」
 悠姫・御園が共鳴した状態で愚神の少女の方に真っ直ぐ向かって行く。
「オレが前衛に出る!」
 麟と宍影は共鳴するとそう言って二人の前に進み出る。
「待って、その子はきっと操られてる……私にやらせて!」
 三人を引き止めるようにエステルが叫んだ。
 各自が戦闘に移行する中、菊次郎は愚神と思われる少女をキツイ視線で見据えた。
(違いますね、あの子ではありません……)
 少女の瞳に探し求めるものは見付けられず、菊次郎は溜息を吐いてから行動に移った。
「あたし達はあっちね。今行くわ芽衣ちゃん!」
 月世・俊介が芽衣を取り囲む従魔と子供達の方に向かう。
 一歩後から珪も動く。
「リーヴァ、君は従魔を引き剥がした後の子供達を頼みます」
「わかりました」
 一気に人が増えて芽衣を囲んでいた従魔が人数の多い方に子供達を操って襲いかかる。
「わっ……」
 普通の人間とは思えない跳躍力でやって来る子供の拳を咄嗟に避ける俊介。
「これは……思ったより厄介、ね!」
 月世も蹴りを避けながら厳しい表情をする。
 出来る限り子供達を傷つけず従魔を引き剥がしたいが、ちょこまかと動かれては加減が難しい。
 誰もが避け続けるだけの状態が続く。
「すべて子供達に憑依してるのですか? やりにくい……」
 子供達を出来るだけ傷つけないようにとは考えているが従魔によって肉体強化されている子供達の攻撃はなかなか強力で、反撃しないで避けるのは難しくて菊次郎は毒突く。
「この力の強さは……やはりドロップゾーンの影響でしょうか?」
「かもしれないわね」
 同じく子供達の対応に戸惑う俊介と月世。
「これはやはり……愚神の方を先に片付けないと話にならないかもしれませんね。愚神が居なくなれば多分、従魔の動きも鈍るはずです。俺、ちょっとあっちに加勢してきますのでもう少し頑張っていてください」
「あっ石井さん」
「菊次郎!」
 愚神の方に向かう菊次郎の背中を見送って二人は覚悟を決める。
「仕方ないですね、いっちょ踏ん張りますか」
「そうね」
 二人は改めて武器を握り直した。

●心の水底
 一方愚神の少女と向かい合う一同。
 少女のは向かい合うエステル達に悲しげに話しかける。
「何で、あの子達を虐めるの? 私達、家族なのに……」
「家族?」
 その言葉に芽衣が敏感に反応する。
「そう、家族……私達はここでずっと暮らすの……」
「あなたには家族が居ないの? だからあの子達を?」
「……ずっとここに居るの。一人はもう嫌……奪わないで……」
「!!」
 少女の長い黒髪がうねりしなってエステルに襲いかかった。
「おやおや愚神ちゃん、そんな暴れないでお友達になろうぞ。子供も良いけれど、大人の女はどうじゃ?」
 カグヤが髪の毛をトリアイナで薙ぎ払いながら不敵にニッコリ微笑んだ。
「………」
 別の髪の毛の先端がカグヤを抉ろうと迫るが、それも退けてしまうと少女の足元の水面が盛り上がった。
「何か来るぞ、構えろ!」
 麟の号令で一斉に後ろに飛び退くと、無数の水の礫が地面に打ち込まれた。
「うわ! 水も使うんだ? それにあの髪の毛……ぬるっと引き摺り込んだりするかも?」
 御園が縦横無尽に暴れまわる鞭のような髪の毛に眉をひそめる。
「あのままあそこに居たらミンチ……」
 グチャグチャになった地面を見て悠姫が青ざめた。
「まだまだ来るみたいです!」
「マビノギオン!」
 カグヤが魔書から射出した剣が少女の身体を掠める。
「……!」
 攻撃に目を見開いて驚く素振りを見せる少女の様子に攻撃の手が止まってしまう。
「愚神に憑依されてるとはいえ子供をあまり傷つける訳にはいかないですが、正直すごくやりにくいですね……」 
 クリスタルファンを構えた石井があまりの戦いにくさに唸った。
「何とか気絶させられないかのう?」
「ですね……」
 腕を組むカグヤの言葉に石井も嘆息する。
「あなたずっと此処に居たいの? こんなところに居ても良い事何もないよ……もっと広い世界を知りたくないの?」
 攻撃を避けつつエステルが少女の前にやってきて訴えかける。
「……外は怖い。助けてくれる人は居ない。だから……ここでみんなと暮らすの……」
「あうっ!」
 攻撃を避けきれなかったエステルに髪の毛が絡みついて締め上げる。
「エステルちゃん!」
 月世が駆けつけて慌ててエステルを締め付ける髪の毛を切り落として助けると、すかさず麟が少女を拘束する。
「骸止水影!」
 麟の術に動きを奪われた少女は狂ったように暴れて逃れようとするも叶わず能力を爆発させるばかりだ。
「でも後少しだねえ!」
 少女の輪郭がブレて愚神の本体が攻撃のために直接姿を覗かせ始めたのを確認し、カグヤが再びマビノギオンから剣を放って打ち込んだ。
『ォオオオオオオオオ……』
 機械でフィルターをかけられた女の声のような叫び声が上がり、髪の毛と水礫を操って必死の反撃を試みる。
「早く討て! オレの術はあと少ししか……っ!」
 術を使っているせいで身動きが取れない麟はさっきから攻撃を避ける事が出来ず何度も被弾して消耗していた。
「一気に畳み掛けましょ!」
 そう言って月世と悠姫が同時に斬りかかり、カグヤもそれに続いて釣る気を打ち込み続けた。
「くっ……!」
 ついに力が持たずに術が解け、それ同時に愚神が持ち直して麟の方に向かう。
「麟!」
「麟さん!」
 愚神が麟に攻撃が迫るもそれが届く事は無かった。
 ギリギリのところで石井のグレートボウの矢ががトドメを刺したのだ。
『ワタシノ……家族ゥ……』
 そんな言葉を最後に愚神は消滅し、解放された少女は池の中に落ちてしまった。
「水上歩行のスキルとか誰か持って無い? ああっもう!」
 咄嗟に御園が少女を助けに池の中に飛び込んだ。
「後は私達が何とかしますので、従魔の処理をお願いします」
 芽衣の言葉にみんなは頷くと従魔と戦う仲間達の元へと走った。

●お月様が見てる
 愚神の消滅と共に従魔の動きに変化が現れた。
 ドロップゾーンの消滅でライヴスの供給が減ったせいで一気に動きが鈍ったのだ。
「今のうちだ……早く正気に戻ってよ! みんな!」
 攻撃を避けきれず子供達に身体にまとわりつかれてしまっていた俊介だったが動きが鈍ったうちに抜け出すと、トリアイナで子供達を殴って従魔を強制的に引き剥がしていく。
 そこに他のメンバー達が駆けつけて分離した従魔を一気に片付けていく。
 あんなに手こずったのが嘘のようだ。
「骸分身術二分撃!」
「とりゃ!」
「……っ」
 麟・悠姫・珪がトドメを刺して終わった。
 リーヴァが先に倒れた子供達の介抱にあたっていたが、従魔を倒し終えたので他のメンバーも子供達のケアに回った。
「終わりましたね……」
「そうですね」
 俊介とリーヴァは大きく溜息を吐いた。

「しっかりして」
 御園が池から引き上げた少女に芽衣が声をかけると、ゆっくりと瞼が開いた。
「ここは……あっ……」
「良かった!」
 目を覚ました少女に御園が抱き付く。
 状況が把握できていない少女は抱き起こされて首を傾げた。
「あなた達は……あれ、私何でずぶ濡れなの?」
「もう大丈夫ですよ。ちょっと悪い夢を見ていただけです」
「悪い……夢……私は行き場が無くてここに来て、あの人に抱きしめられて……あれ? あの人は?」
「あの人?」
 誰かを探してる様子の少女に二人は戸惑う。
「自分も家族が居ないから一緒に居るって言ったのに、どうしよう……」
 そこでやっと二人はピンと来て顔を見合わせる。
 愚神の漏らした今際の際の言葉を。
「私、一緒に居てあげるって約束したのに」
 そう言って顔を覆う少女。
 そう、あの愚神も寂しくてこの少女に近づいただけだったのだ。
 でも沢山の子供達の命を危険に晒した事実は変わらない。
 芽衣は少女の肩に手を置いて語りかけた。
「わたしもね、お父さんやお母さん、死んじゃったんだ。乗り越えるのって、すごく難しいけど、わたしや、わたしの英雄が力になるから……絶望なんてしないで」
「あなたも?」
「そうよ、独りじゃないわ」
 そう言ってニコリと笑ってみせる。
「そうだぜ、俺も父親とか死んてしまって居ないけど、こうやってピンピン生きてる!」
 悠姫もやってきてニッと笑った。
「さあ、帰りましょう?」
 エステルが少女の肩に自分の上着を掛けた。

 そんな様子をカグヤとクーがお弁当を摘みながら眺めていた。
「ふふ、良い月じゃのう……」
 そう言って見上げた空には少し欠けた明るい月が浮かんでいる。
 その月がすっかり静かになった池の水面に映りこみ、まるで二つの月が闇夜に浮かんでいるようだった。
 そんな景色を子供達の介抱を終えた麟と宍影も眺めていた。
「湖綺麗だね。明鏡止水の心持ちになったよ!」
 周りを景色を吸い込まんばかりの池の美しさに麟が興奮する。
「麟殿、カグヤ殿達を見ていて気が付いた事があるのでござる」
「何だ?」
「それがし弁当を忘れていた事に気が付いたでござる」
「そ、それは……ひ、ひもじい……」
 動いた事もあって急にお腹が空いてきた麟は項垂れた。
 こうして事件は無事幕を閉じ、子供達は無事家に帰った。
 愚神と一緒にいた少女は施設に保護される事になるだろうと警察の人間は言っていた。
 親を失くした子供の歩む道は厳しいが、その多くは誰よりも強く生きている人間が多い。
 きっと彼女も強く美しく成長し、誰よりも幸せになる事を誰もが願ってやまなかった。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
  • 真実を見抜く者
    穂村 御園aa1362
  • 痛みをぬぐう少女
    北里芽衣aa1416

重体一覧

参加者

  • エージェント
    暁 珪aa0292
    人間|28才|男性|攻撃
  • エージェント
    シグルドリーヴァ・暁aa0292hero001
    英雄|17才|女性|ドレ
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中



  • ヒーロー見参
    浪風悠姫aa1121
    人間|20才|男性|攻撃



  • 悠久を探究する会相談役
    エステル バルヴィノヴァaa1165
    機械|17才|女性|防御
  • 鉄壁のブロッカー
    泥眼aa1165hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • 捕獲せし者
    骸 麟aa1166
    人間|19才|女性|回避
  • 迷名マスター
    宍影aa1166hero001
    英雄|40才|男性|シャド
  • 真実を見抜く者
    穂村 御園aa1362
    機械|23才|女性|命中



  • 真仮のリンカー
    都呂々 俊介aa1364
    人間|16才|男性|攻撃



  • 正体不明の仮面ダンサー
    蝶埜 月世aa1384
    人間|28才|女性|攻撃



  • 痛みをぬぐう少女
    北里芽衣aa1416
    人間|11才|女性|命中



前に戻る
ページトップへ戻る